● 「聞いた話によると、この先のボロっちい神社にあるらしいですぜ」 都会の凄まじい暑さを感じさせない、自然の涼しさを肌で感じながら1人の男が進んでいる道の先を指差した。 人数は男ばかり、4人。 地図を片手に山道を進んではいるものの、とてもハイキングをしているような連中には見えない。 「そうか、ならば行くぞ。冷凍庫に入ってもいないのに凍ったままのタチウオ……御神体として奉納されている事を考えると、さながら霊刀タチウオってか?」 「兄貴、冷凍と霊刀をかけた洒落ですかい」 ゲラゲラと笑いながら歩くこの男達は、寺にあると情報を伝え聞いたお宝を狙っているようだった。 「まぁそう言う事だ。……にしてもそのタチウオ、十中八九アーティファクトと見て間違いないな」 しかもアーティファクトという単語が口から飛び出す辺り、フィクサードの一団であることは間違いない。 もし神社の神主が彼等と出くわせば、何らかの被害が出る可能性もあるだろう。 「あぁ、ハイキングですか。良い風が吹いていますね」 「こりゃどうも、この先の神社の人ですか?」 「ええ、ちょっと買出しに。参拝も良ければしてくださいね……私が出かけると無人ですが、ははは」 しかしフィクサード集団と今すれ違った相手がその神社の神主であり、彼がいなくなれば神社には誰もいないと言う点だけは幸運だったのだろうか。 ――否。 「やっぱり自然の涼しさって良いわね……」 フィクサード達と先んじて入れ違った神主と挨拶を交わし、神社をお参りしていた少女がいた。 「さて、少し休憩したら頂上を目指してみましょうか」 持参してきたミネラルウォーターで口を潤し、少女の目指すは視線の先にある山の頂上。 だが、少女がその目指す先へ辿り着ける可能性に僅かに暗雲が立ち込めていく。 「さぁとっとと御神体を頂くとするか!」 「アーティファクトだったら暴れるのに使えるのだと良いですね、兄貴」 後からやってきたフィクサード達が神社へと辿り着いてしまったのだ。 あまりにも悪人らしい会話を耳に挟み、少女は荷物を手に御神木の陰へと身を隠して様子を伺いにかかる。 (……泥棒? アーティファクトとか言ってるところを聞くと、フィクサードかしら) 4人の望まれない来訪者の姿を確認すると、幻想纏いから弓を取り出し戦闘態勢を取る少女。 (まったく……この前の洋館と言い今日と言い、出先で敵と遭遇するなんて運が無いわね) 彼女の名は、千鶴。 先日も洋館で肝試しの最中にE・ゴーレムと遭遇し、一般人を伴っていたために逃げる事を優先した記憶が脳裏に蘇る。 そのE・ゴーレムは後にアークのリベリスタ達によって退治されたが、当の彼女もアークに所属せずに単独行動を取るリベリスタだったらしい。 (相手は4人、勝てないと思うけど……見過ごすわけにはいかないわよね) 例え勝てなくても、目の前の悪を見過ごすわけにはいかない。 千鶴は不退転の覚悟を胸に、その矢を射る――。 ● 「神社の御神体として祀られているアーティファクトを狙い、フィクサードが神社を襲撃しようとしています」 カレイドスコープを通して覗き見た未来を伝え、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は情況を説明しやすいように紙にペンを走らせていく。 4人のフィクサードは大して強くはないが、戦闘になればアーティファクトを手に入れてさっさと逃げるという目的を最優先にして動くため、動きを捉え攻撃を仕掛けるのは中々難しいかもしれない。 「今から急いで向かったとしても、フィクサード達が境内へと辿り着いたところへ追いつくのが精一杯でしょうね……でも」 そしてそこで、和泉はこの戦場にいるもう1人のリベリスタの存在を口にした。 「千鶴さんというリベリスタが、御神木の陰に隠れて攻撃する機会を伺っています。恐らく挟撃の形になると思います」 後ろからは今から出立するリベリスタ諸氏。そして前からは千鶴がいる。急ごしらえの連携では上手くいかないかもしれないが、上手く千鶴をフォロー出来ればフィクサード達を一網打尽にする事も不可能ではない。 しかし千鶴はフィクサード集団のそれぞれよりも実力で劣るため、狙われれば早々に戦線離脱する事も十分にありえる。 いかに彼女を援護する事が出来るか――作戦の成否はそこにかかっていると言っても過言ではないだろう。 もちろん、腕に自信があるのならば千鶴を放っておいて力技でどうにかしても問題はない。 「境内は戦闘をするには十分な立地と言えるでしょう。ただ、あまり無茶な戦い方をすると、戦闘の傷痕は色濃く残ってしまうでしょうね」 元々がボロボロであるためか、多少の傷はごまかしが利く。だがあまりにも大暴れしてしまえば……その先は和泉が説明するまでもなく、想像する事は容易と言えよう。 「情況を上手く利用する事が出来れば……と言ったところでしょうか。皆さんならばきっと上手く成し遂げられると、信じてますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月20日(火)22:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●前門の千鶴、後門のリベリスタ 「兄貴、神主が帰ってきたら面倒だ、とっとと奪うもの奪って帰りましょうぜ」 目指すは御神体の収められている社殿。そこから霊刀タチウオを奪ってしまえば、こんな所に用などない。 「あぁそうだな、まさか神主が出かけて無人になるとは、思わぬ幸運だったものだが」 さっさと頂く物を頂いて帰ろうと促す子分にニヤリと笑って返す兄貴だが、彼等は気付いてはいなかった。 (……やらせないわ) 彼等の進む道の少し先に存在する御神木の陰から、千鶴が攻撃する機会を伺っている事を。 そして――。 「なるほど、確かに見た方が早かったですね」 事前に和泉から戦場の詳しい情報を得ようと質問を投げかけた『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は、その和泉が『見た方が早いですよ』と答えた意味を今ここで知る。 フィクサードに追いついたアークのリベリスタが鳥居の陰に身を潜めた先に見えたのは、境内の中央を我が物顔で歩くフィクサード達。 「境内の先に社殿、んで御神木はあそこか。千鶴には気付いてないようだ。皆、千鶴の存在をヤツ等に気取られるなよ」 さらに『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)が指差した先には、霊刀タチウオの納められている社殿と、千鶴が隠れている御神木の姿が見て取れた。 まだ、前にも後ろにも敵がいる事はフィクサード達に察知されてはいない。千鶴が先走って攻撃を仕掛けない事を祈りつつ、仲間に注意を促した翔太の判断は正しいと言えよう。 相手が油断しきっている今なら、アーティファクトの強奪阻止も決して難しい話ではないはずだ。 「じゃあ最後の確認だ。インヤンマスターにはアタシとイスタルテ。で――」 「兄貴には俺だな。しっかり止めて見せよう」 ならば万が一のミスがないようにと『リスキー・ギャンブラー』織原・葉月(BNE002190)が最後の確認を取れば、自身の役割を口にした『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が目標である兄貴へと目を向ける。 「最も警戒しなければならないのは、ソードミラージュですから――」 「残りのデュランダルは私が抑えます。その間にソードミラージュに頑張って追いついてくださいね」 恐らくアーティファクトを手にする役目を担うであろうソードミラージュを止める事が大事だと言う逢乃 雫(BNE002602)と『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)に頷き返す翔太。 「それにしても、千鶴さん、ですか」 その一方では『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)がそっと千鶴が隠れている御神木へと目を向けていた。 敵は4人。 多勢に無勢な状態では、勝ちの目などありはしないだろう。 (少々迂闊ですわね。気概は大切ですが、それだけで結果を残せないようではプロ失格です) 自分達が来なければ、彼女が戦いを仕掛けても結果は既に見えているようなもの。気持ちは認めるものの、それではダメだと彼女は思っているようだ。 だが彼女の存在が目の前のフィクサード達との戦いで重要である事も事実。 「援護は任せてよ、やる気の無さを演出するのにペルソナも使うからさ」 唯一の回復役である『欠落』小坂 紫安(BNE002818)はペルソナを上手く使って相手の警戒を解く事も考えつつ仲間達の援護を買って出る。 ……とはいえフィクサード達は別にリーディングの能力を持っているわけではないのだが、観察眼は欺けるかもしれない。あくまで、かもしれない。 「兄貴、俺が取ってきて良いですか?」 「あぁ構わないぜ、俺等はここでまったりしてるからよ」 誰もいない。 周囲を見渡しても人影が見えない(実際にはいるのだが)情況に、フィクサード達は完全に無警戒だった。 恐らくソードミラージュだと思われる子分が社殿へと歩き始めると、残るフィクサードは誰もがその場に座り込んで休憩をとりにかかる。 (今がチャンスね――え!?) その情況に不意打ちを食らわせられると判断した千鶴が弓を構えると同時に見たのは、鳥居から静かにフィクサード達へと突っ込んでいく別の集団の姿。 「フィクサード、そこまでだ!」 「なっ……妨害かよ!?」 デュランダルへと斬り込むと同時に吼えた疾風の姿に、休もうと考えていたフィクサード達が驚き不意打ちを喰らったのは言うまでも無い話だった。 だが彼等の目的はリベリスタと戦う事では決してない。 「とっととブツを取って来い、ずらかるぞ!」 霊刀タチウオを奪わんとする者、それを阻止せんとする者。 果たして軍配はどちらに上がるのだろうか。 ●霊刀タチウオ争奪戦! 「これはまずい、相手が8人も!」 「うろたえるんじゃねぇ、ヤツがブツを取ってきたらとっととずらかりゃ良いんだよ!」 倍の数を有するリベリスタ達を目にうろたえるインヤンマスターを一喝し、兄貴は目の前の相手である優希目掛けて燃える拳を振り抜いていく。 まともに相手をする必要は無い、ソードミラージュが目的の物を奪いさえすれば、後は逃げれば良いのだ――と。 「そう上手くいくかな……?」 だがその拳を受け止めた優希が浮かべた笑みには、そんなフィクサード達の思惑をぶち壊す余裕が浮かんでいた。 「どういうことだ?」 「兄貴、2人抜かれました!」 それもそのはず、翔太と彩花の2人は仲間達が張り付いたフィクサードには目もくれず、ソードミラージュへと一直線に突き進んでいったのだから。 「タチウオは諦めて冷凍マグロで我慢してくださいよ。盗まれたらボク達怒られちゃうんですよー」 「霊刀マグロは情報が出れば、いずれ取りに行くつもりなんだよ!」 そこへ間髪を入れずに『諦めろ』と呼びかける紫安。 彼の呼びかけは、タイミング的には確かに有効なものだと言えるだろう――が、ここで気になる事実が浮かび上がる。 (霊刀マグロ……存在するのか!) これはもしかしたら、『霊刀カツオ』だの『霊刀ブリ』だの、他にも色々あるのかもしれない。 最も近くで兄貴の言葉を聞いていた優希が、その霊刀シリーズがどれほど存在するのだろうと軽く考えたのは言うまでもない話だった。 「こりゃまずいな……急ぐか」 それはさておき、慌てたソードミラージュが後ろの様子に自身のギアを上げて道程を急ぐものの、彼等の敵は後ろにいるだけではない。 「俺はアークのリベリスタ、上沢翔太だ。そこのリベリスタ、援護を頼む! そいつの道を塞いでくれ!」 「私がいたと知ってる? アーク? ……敵じゃないなら今はどうでも良いわね、わかったわ!」 数が多いとは言え、翔太の戦い慣れているであろう雰囲気は、千鶴にその要請を受諾させるのに十分だった。 「悪いけど、悪事は見過ごせないの。覚悟してもらうわよ!」 ソードミラージュの眼前に躍り出た千鶴の射た矢が相手を貫きその足を止めた事で、合計9人ものリベリスタに囲まれる形となったフィクサード達。 「援護はする、強引にでも突破し……ごはっ!?」 こうなれば強行突破でもしなければ、彼等に活路はないだろう。だがインヤンマスターがソードミラージュへと指示を出しかけた矢先、その頭部を襲った黒いオーラが彼に次の言葉を紡がせはしない。 「悪いな、早々取らせてやるわけにはいかないのさ」 「残念ですけど、それをさせないのが私達のお仕事なんですよね」 そのオーラの主は赤い髪をなびかせながら不敵な笑みを浮かべる葉月だ。彼女に続いたイスタルテの言葉にハッと振り向いたインヤンマスターは、向けられたイスタルテの視線に込められた凶悪に軽く恐怖を覚えた――かもしれない。 (この女達、なんか怖ぇ! 他の連中の援護をもらわないと……!) 慌てて周囲を見渡したインヤンマスターではあったが、仲間の情況も自身の置かれたソレと大して変わりはしないものだった。 「くそ、当たらねぇ!」 「そんな動きでは捉えられませんよ?」 否、流れる水のような構えを取って激しい斬撃を避ける疾風の姿を見れば、デュランダルの苦戦は必死だろう。 むしろ、そのまま倒されてしまう可能性のほうが高い。 「逃げるのも難しいらしいな。目の前の敵をなんとか潰せ!」 霊刀タチウオ強奪を必死に遂行しようとするフィクサードと、それを阻止せんとするリベリスタ。 しかしリベリスタ達は誰もが確信していた。逃走を図って戦いだけに集中できていないならば、止められると――。 「霊刀タチウオ、あなた達に渡すわけにはまいりませんわ!」 それを現実のものだと感じさせる動きを見せたのは、彩花だ。 戦手と名付け愛用するガントレットから放つ光弾はソードミラージュのみならず、近くにいた残りのフィクサードまでをも撃ち抜くその姿に、近くで見ていた千鶴はその実力を感じて息を呑む。 (この人は強いわね……それに、この人も) さらに彼女が軽く視線をずらせば、綾香に続いて素早い動きから跳躍して一撃を加える翔太の姿が見えた。 「お前も続いてくれ、一気に押し切るぞ!」 「え、えぇ、わかったわ」 言われるがままに弓を射る千鶴の胸に湧き上がるのは、戦況を優勢に進めるリベリスタ達に対するほんの僅かな興味。 「やるじゃないか! よし踊ろうぜ、楽しいダンスタイムだ!」 対峙したインヤンマスターの陰陽・氷雨に体が軽く凍りつきながらも、果敢に攻め立てる葉月。 「これくらいでは、負けられないですからね!」 そして葉月とタイミングを合わせて同時攻撃を仕掛けるイスタルテの姿を見れば、例え力量が及ばない相手でも力を合わせる事で立ち向かう事が出来るのだと、千鶴は知る。 2人とも受けた傷はそれほど軽いわけではない。 だが、それを補って余りある気迫が2人を劣勢には立たせないでいた。 (仲間と助け合い立ち向かう気迫……その点では、私は負けているかもね) 葉月もイスタルテも、実力では千鶴が僅かに上回っているだろう。それでも彼女達の戦いぶりはそんな事を感じさせないほどに勇猛で、凄まじさを感じるのも事実。 「さぁ、援護するよ! 皆頑張って!」 さらにはその傷すらも、紫安の天使の歌によって癒されていくのだ。 ある意味では鉄壁と言える布陣で臨むリベリスタに、驚きを隠せないのは千鶴だけではなく、フィクサード達も同様の反応を示している。 「くそ、このままじゃお宝を奪うどころか、やられかねねぇ……! 撤退するぞ、テメェ等!」 余りにも不利といえる情況に、そのフィクサード達が取ったのは完全なる撤退の道である。 「逃げるのか? 覇界闘士。自らを格下と認めるか。道を開けたくば俺を倒してからにしろ。おとなしく捕まるならば、話は別だがな」 しかし兄貴の行く手を阻む優希は、そう簡単に通してくれるような男ではない。 「そういう事ですよ……こちらが済み次第すぐに私もそちらに混ざりますので、判断は早めにお願いしますね」 加えて振り降ろされた大剣を軽く捌いた疾風がデュランダルを倒し、優希に合流するのも時間の問題だ。 否、もはや兄貴に考える時間など残されてはいなかった。 「こっちは終わったぞっと」 「さぁ、次はあなたの番ですわ!」 気がつけば、翔太と彩花によってソードミラージュはすでに崩れ落ちている。 「もう諦めましょうよ、これ以上疲れると山道がまた大変なんですよ」 すかさず再度の投降を気だるそうに言う紫安に視線を向けると、兄貴はゆっくりと構えを解き、体から力を抜いていく。 「……わかったよ、俺達の負けだ」 ●その少女、千鶴 「終わったか、ちゃんと縛ったな?」 全てのフィクサードを捕縛した事を確認すると、翔太は静かに武装を解除して戦闘態勢を解く。終わってみれば、リベリスタ側の圧勝で戦いは終わっていた。 もちろん彼等も傷付いていないわけではないのだが、何しろ倍の数で押したのだ。 「これが数の暴力ってヤツかよ、チクショウ!」 と兄貴が不満を漏らすのも仕方の無い話かもしれない。 「まぁ仕事ですからね、こちらも。悪事などするなという事ですよ」 だが突き詰めてしまえば、疾風が言ったその一言が全てである。 悪い事をしたら懲らしめられる――フィクサード達はその事を、身を持って知ったことだろう。 「しかしなんだ、やろうと思えばやれるもんだな」 「ですね、1人では敵わなくても力を合わせれば……という事でしょう」 一方では、初実戦を無事に終えた葉月が勝利の高揚感を感じているのだろうか。拳を握り締めて軽く笑みを浮かべる辺り、今後の自信はついた様子だ。 それもこれも、肩を並べて戦ったイスタルテの存在があったからこそ得られた物。 もしも1人で戦っていたならば――そう考えた葉月は、静かに視線を『1人で戦おうとしていた』千鶴へと向ける。 「わかるか? 単騎行動は身軽ではあるが、今回のように数の利を持ち出されれば簡単に殺られるぞ」 「確かにそうね……あなた達が来なかったらやられていたわ」 その視線を察したのか、千鶴に語りかけ始めたのは優希だ。 信頼できる仲間がいれば、力をあわせて強敵に立ち向かうことも出来る。1人で戦う事も構わないが、勇気と無謀とは違う。 彼の言葉は、千鶴のその気概を認めるがゆえに出た厳しい一言だと言えよう。 「わたくし達自身も含め、リベリスタは決して超人などではありませんもの」 続いた彩花が言うように、決してリベリスタは1人でなんでも出来る存在ではない。 「お前のような命知らずな正義漢は、アークにでも所属して力を生かす算段を取る方がいい。強くなって今とは逆の立場になった時、今度はお前が誰かの助けになればいい」 だからこそ、千鶴にはアークに来てほしい。 誘いかける優希の瞳には、その言葉が嘘偽りでないと感じさせるほどの力強さが宿っているようにも見えた。 「そうね……そうしてみようかしら。でも……」 しかし千鶴は首を縦に振ると同時に、そのままくるりと視線を少し離れた先へと向ける。 その先には――。 「喉が渇いたから、千鶴ちゃんの持ってるミネラルウォーターが欲しいです!」 間接キス狙いですか、紫安さん! 「ボク、千鶴ちゃんのミネラルウォーターを飲むのが夢だったんだー!」 「「「え、あの、おーい……?」」」 その時、千鶴と紫安以外のリベリスタの誰もがそう突っ込んだのは間違いない。 「これ、飲みかけしかなかったら、ものすごく間接キス狙いよね……」 「あぁいや、放っておいて良いと思いますよ」 苦笑いを浮かべながら答える疾風の表情に、『すみませんね』と言う気持ちがありありと浮かんでいたのは誰が見ても良くわかった事だろう。 「まぁ良いけど、新品があるからね」 「し、新品……がくり」 そしてまさかの新品の登場に、紫安の夢、破れる。 「とりあえず、こいつ等引っ張ってさっさと帰ろうぜ。人が来たら面倒だろ」 だがそんなやり取りの間にも、誰かがここへ訪れる可能性はあるはずだ。 その時に縛られた4人のフィクサードを見れば、訝しがられる可能性も高い。それを見越した葉月の提案は、誰も否定するはずがなかった。 「それじゃあ、行きましょうか。その――アーク、だったかしら」 どうやらアークに興味津々らしい千鶴を伴い、リベリスタ達は神社を後にする。 守るべき御神体『霊刀タチウオ』を守り、かつ千鶴を仲間にする事ができた達成感があるせいだろう。 彼等の帰路は、とても足取りの軽いものだった――。 「そうだ、1つ言い忘れていたことがあったわ」 と思いきや、帰り道でふと振り返り口を開く千鶴。 「自己紹介がまだだったわね。私は千鶴。これから、よろしくお願いするわね!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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