● 世界に愛された自分。ただそれだけが生きる意味だった。 彼女も世界を愛していたから。 ――どうしてなの? 家族も恋人も、何もかもがエリューションに、フィクサードに奪われた。 だから私は全てを投げ捨てた。 私みたいな不幸な人がいなくなるように、ただひたすらに――リベリスタとして、世界のために戦ってきた。 なのに、その仕打ちがフェイトを失うですって? ふざけないで!! フェイトを持つ者が妬ましい。 幸せに暮らす者が羨ましい。 私はこの世界を壊してやる。こんな世界、いらないわ!! 全部全部全部全部、消してやる!!!! それは虚空に叫んだ破滅への誓い。 手には剣を。目には血の涙を。心には憎しみと悲しみを。 それが今を生きる彼女の糧。 セミの鳴き声が騒々しい、そんな夏の名残りを残したある日の大通り。 忙しく動いていた人々が、血と肉辺と化し、絶叫と泣き声が響き渡る。 その中心にいる彼女の世界は赤く、紅く染まる。 ● 「この世界は理不尽と不公平。そう、思わないかい?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達にそう切り出した。 「天秤はいつも平行じゃあない。一方が傾けばもう一方は落ちる。幸があれば不幸がある。それでこの世界は成り立って……おっと話が外れたな。」 まあそんな感じ。と最後に付けたしつつ、今回の依頼の話を始める。 「ノーフェイスの討伐だ。名前は神谷要っていう女性。他人思いの心優しい人だったんだが・・・・・・俺が見た未来で無差別大量虐殺を始めるんだ。」 依頼内容は至極簡単。 一般人に手を出そうとするノーフェイスを、その前に倒せ。ただそれだけである。 リベリスタ達は伸暁から手渡された資料を見る。 「元、リベリスタ?」 リベリスタの一人が問う。 「そう。優秀なリベリスタだったんだがフェイトを無くし、発狂。俺等もいつそうなるか分からないな」 一瞬にして場の空気が重くなる。 リベリスタは誰も言葉を紡がない。 「場所は殺戮現場のすぐ横にある路地裏。そこから彼女はやってくるから、路地裏で抑えてくれ」 話はそれで終わり。 だが、最後に―― 「彼女にリベリスタであったときの心が残っていると信じよう」 伸暁の言葉を背に受け、リベリスタはその場を後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月13日(火)21:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●出会い 人が行き交う華やかな大通りの裏手。 飾り気の無い狭い裏路地をリベリスタは歩く。雰囲気は暗く見えた。 しかし、それは視界の意味で暗い訳ではない。 むしろ、コンクリートの壁の僅かな隙間から太陽の光が零れており、視界は良好である。 暗いのは今回の依頼のターゲットの成りゆきがどういうものか、知っているからだろう。 「フェイトを失ったリベリスタ……『明日は我が身』ですね」 漆黒の髪をなびかせた蘭堂・かるた(BNE001675)は胸の内を語った。 けして人事ではない、リベリスタのノーフェイス化。それは一種の悲劇だろう。 (リベリスタの成れの果て……未来のオレの姿かもしれないんだな……) 言葉には出さないが、『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)も似たことを思う。 だが、これも依頼。 受けたからには最後までやらなければいけないのは暗黙の了解だ。 それをリベリスタ達はきちんと分かっている。 だから、それぞれがそれぞれの役目を果たすのだろう。 『ヴォーパル・バニーメイド』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)と『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は裏路地に結界を張った。 一人でも十分だが、二人寄れば距離が稼げる。これで一般人に見られることは絶対に無い。 『右手に聖書、左手に剣』マイスター・バーゼル・ツヴィングリ(BNE001979)は、AFに入れて持ってきたバス停にワイヤーを繋ぎ、リベリスタの背後。つまり、大通りへの道を塞ぐ。 リベリスタは今回の敵への対策をきちんと考えてきた。戦う準備はできている。 もちろん、心の準備も。 「せめて、その手を血で汚す前に俺等でなんとかしてやろーぜ!」 『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)は持ち前の明るさで、仲間に呼びかけた。 壁から零れる光が、少し明るさを増した。 ――音が聞こえる。この場所に似合わない、金属が地面に擦れる嫌な音が。 それが段々と大きくなる。つまり、近づいて来ている。 音のする方向に顔を向けるリベリスタ達、その直線上に影が見える。 ノーフェイスの襲来だ。 長い髪をしたらせ、その間から見える病んだ両の目が、こちらをぎろりと睨んだ。 体勢はやや前屈み。 剣を引いているからそうなっているのかもしれないが、どこか疲れたような、そんな雰囲気だ。 ついでに言うと、その体勢だから大きな胸の谷間がよく見える。 俊介が思わず彼女から目をそらした。 「……フェイト持ち? 殺ス。妬ましい、そのフェイトが妬ましいの」 あちらもどうやら、リベリスタ達を認識した様だ。 「阿野弐升。今日、貴女を殺しに来た者の名前です」 『消失者』阿野 弐升(BNE001158)は自身の名を教えた。それは彼女への敬意だろうか。 ノーフェイスは片手で引きずっていた大剣を両手に持ち変える。 まさに、戦闘態勢。 「神谷要、だな。アークのリベリスタとして、ノーフェイスたるお前を討たせてもらう」 風斗の言葉で戦火は切られた。 ●反抗願望 家族をエリューションに殺され、恋人がフィクサードに殺された。 最後は、フェイト無き私にリベリスタが殺しに来た。 悲劇もここまできたら、笑っちゃうわ。 でも、もう何も失いたくない。この命でさえ、あげる訳にはいかない。 ――その想いは言葉では紡がない。 同情を誘える相手では無いことを、要自身が一番よく知っている。 何より、同情を誘って何になるという? 見逃してくれる訳など毛頭無いだろう。 口から「殺す。妬ましい」と出し続ける要。 その手に握る大剣に力を込め、走り出す。彼女の細い両腕に見合わない力量で、振る。 威力のある、縦振り――切っ先は、ミルフィへと一直線に向かった。 「説得……は到底通じそうにありませんわね。こうなっては、わたくし達にできる事は……!」 その差わずか数センチ。 あらかじめ自身にかけたハイスピードが役に立ち、振り落とされた剣から出た風だけを肌に受けた。 向かってきた要と入れ替わりのように、羽を広げた雪白 音羽(BNE000194)とマイスターが、要の背後へと飛び立つ。 その際、音羽は空中で半回転し、人差し指を要へと向け、 「元がデュランダルって事は、神攻が効き易いといいんだが」 同時に自身の練り上げた魔力を指先に集中。マジックミサイルを放ち、要へ見事に当てた。 風斗と弐升は要の後ろに回り込み、己の力を高め、次の一手の準備を万全へと成る。 その光景を見ていたジョンはコンセントレーションを行っていた。 だが、彼はそれだけでは終わらなかった。 「今は目の前の貴女を討伐するのみです」 白き、純たる神の光が要を貫いた。 要は辺りを見回した。 横はコンクリートの壁に挟まれ、前後はリベリスタ四人に挟まれていた。 「なぁに? 大丈夫よ? まだ、逃げたりなんかしないわ」 顔を少し斜めに傾け、あざ笑う。 神気閃光の後遺症は既に打ち破っていた。 「逃げようとしても、逃がさねぇけどな!」 そこに俊介の威力のあるマジックアローが飛ぶ。 それは要の肌をかすめた程度だが、それでもダメージは残った。回復手にしては、なかなか恐ろしい威力だ。 その俊介の手前。 ミルフィが一対の刀、牙兎と杵鈷羅を抜き、要の懐に素早く入る。 刀に力を込め、ヘビースマッシュを仕掛けるが、彼女の大剣に阻まれ、惜しくも止まる。 要は受け止めた刀を弾き、ぐるりと半回転。 その回転の勢いに任せ、大剣を振る。今度は――横斬りだ。 狭い路地の壁に剣先が擦れ火花が散った。そして、大剣は風斗の体を一閃する。 その時、光の鎧が風斗を守護し本来の威力をいくらか抑えた。かつ、その光が要を貫く。 先程、俊介が浄化の鎧を風斗に施していたのだが、その風斗を要が狙ったのは幸運だ。 今度は、風斗が己の武器、デュランダルを握りしめる。 「あんた、本当にそれでいいのか?」 今だ回転の余韻で無防備な要に、オーララッシュを―― 「思い出してくれ、かつての誓いを!」 ――二連の斬撃が、要の体を切り裂く。 ●自覚の前触れ リベリスタであった頃の私? 忘れたなんて言わないよ。ちゃんと覚えているわ。 でも、思い返したくなんか、ない。 だって、あの頃の私。 ノーフェイスなんて無我夢中に……世界のためってだけで、無情に斬っていたのよ。 そのときの私を認めたら、今の私の存在は、私に殺された彼等(ノーフェイス)と同じになる。 なんて、ザマ?認めない、認めない。 何も譲らない、何も渡さない! 私は世界を壊すんだから! リベリスタの猛攻は続く。 近接特化である要は、前後のリベリスタに猛威を振るうが、傷を受けた者は下がり、俊介がその傷を完全に癒す。 なおかつ、負傷していない者が前に出て、要の攻撃から仲間を守る。 更に、後衛からの神秘攻撃が要にとっては一番の痛手となっていた。 だが、未だ要の表情は怪しく笑っている。 「殺す、リベリスタ。絶対、殺されない」 持ち前の体力は半分を切ったが、負けた訳ではない。 しかし、その心には何か変化が起き始めている。 リベリスタの言葉には耳も貸さないはずの要であったが、いくら聞かないよう意識しても耳に入るリベリスタ達の声。 「あんたが今やろうとしてるのは、かつてあんたが憎んだことそのものなんだぞ!!」 「この力で戦っていくことを、私は誇りに思う。……あなたも、そうだったでしょう?」 「要サン! 多くの人を救ってきたその手を血で染めちゃ駄目だ!」 「あんたが救って来た命もあっただろう、それは誇るべきことだと思うんだが、それすらももう思いだせないのかい?」 リベリスタは信じていた。 伸暁の言った、彼女のリベリスタの心を。 想いは届く、そう信じて。 ●逃避願望 「こうして、あり得るかもしれない自分の未来を目の当たりにすると……複雑な気持ちです」 弐升は要にアデプトアクションを放ち、要の脆い方の防御を貫通させた。 それに続き、弐升の対角線上に居るジョンが気糸を放ち、要の体を雁字搦めに巻き上げ、捕縛に成功した。 「く、っそおおお!」 思わず要は吼える。 気糸の中で思い切り抵抗するが、解けない。 「今です!」 ジョンは仲間に呼びかけた。 音羽が魔方陣を展開する。四色に輝く陣を。 集中に集中を重ねて織り成す、精密な四重奏は要に直撃した。 四重奏の呪いで、更に身体に枷を足された要に焦りの表情が見え始める。 と、そこに。 「いいおっぱいですね~♪」 「は……っ!?」 元々豊麗な体つきをしていた要は気糸で巻かれ、女性のしなやかな線が綺麗に見えている。 マイスターの率直な感想に要も僅かながら、つい反応してしまった。 一瞬だけ雰囲気が和らいだが、気を抜けばすぐに要が気糸を抜け出してしまう。 マイスターは更に、要の足へと自身の気糸を張り巡らす。 そして正面からかるたが、煌くオーラを纏い、打刀を振るった。 「世界を護る。身を削ってでも、私はその正義を貫きます!」 同年代で、同じデュランダル同士。 その二撃は要には少し劣るが、今の要には重たい二撃となる。 「頼りにしてるから、負けんなよ!」 と言いつつ前衛に浄化の鎧を届け続ける俊介も、その魔力に限界が見え始める。 八人が立っていられる鍵となる俊介に目をつける要だったが、要自身も危ない。 ――逃げないと、殺されるかもしれない。 俊介の回復が乏しくなるのが先か、要の体力が尽きるのが先か。 だか、要に賭けをしている余裕など無い。 ――逃げなければ。 そう、決めた。 要は大剣を握り締め、正面前衛を張っていたかるたに素早く近づく。 「逃げる気か!!」 要の背後にいた風斗が叫んだが、もう遅い。 大剣を回転させ、重い烈風を作り、それを叩きつける。 デュランダルであった彼女が最後の手として残した切り札――戦鬼烈風陣が俊介、かるた、ジョン、ミルフィを襲った。 「ふふ、ごめんなさいね、また今度会いましょう」 身体が思うように動かない前方組みの四人。 その間をすり抜け、要は大通り側へと向かった。 後方組みが逃すまいと追撃に出る者、走り出す者がいる。 だが、もし、追撃が当たらなかったら? 走って追いつかなかったら? 一貫の終わりだ。 ――が、その逃亡は失敗に終わる。 「な、なにこれ!?」 あったのは、予めマイスターが作っておいた逃亡阻止用のバス停とバス停の間に張られたワイヤー。 ワイヤーというものは案外丈夫で、きちんと張って人を通す穴を無くせば壁になるらしい。 もちろん、切れば切れるし、バス停を倒せば壁はすぐに壊れる。 だが、そういう行動を取るということは、足が止まるということだ。 弐升のピンポイントが要の足に当たる。 不意をつかれ、その場に崩れる要はリベリスタ達が居るの方向を見て、呟く。 「お終い、って訳ね……」 握る手を無くした要の大剣が地面のコンクリートに倒れる。 戦鬼烈風陣の麻痺からいち早く抜け出したミルフィが、もう一度牙兎と杵鈷羅を握り締める。 お嬢様と慕う、金髪の少女の顔が脳裏を過ぎった。 失いたくないものがある気持ちは痛いほどわかっていた。だが、ミルフィは刀を振るい、己の力を爆発させた一撃を舞う。 要は最後の力を振り絞り、俊介を斬りつける。 「人一倍、世界が好きだった。そうだろ?」 だから、世界に裏切られたショックは大きかった。 答えが、ひとつ出たような気がした。 「ええ。そうかも、しれない……」 応えた要。 身体に傷を負う俊介。しかし一瞬だったが、会話ができた。 その後ろで、麻痺から逃れたかるたが再びオーララッシュを放つ。 「リベリスタの名の下に、あなたを止めます。あなたの守ってきた世界、失わせはしない」 「……そうね。私ももっと、リベリスタで居たかったわ」 ――輝くオーラが、打刀の軌跡を描いた。 ●最期の時 かるたの一撃をまともに受けた要は、力無く地面に倒れた。 大剣を握る力も無い。既に限界だ。 虚ろな瞳がリベリスタを見上げるが、焦点は定まらない。 荒い吐息混じりの声が、一生懸命に言葉を繋いだ。 「アーク……リベリスタ、知ってるよ……。でも、想像以上ね、舐めてたわ……」 リベリスタの剣を交えながらの説得により、元々の心を取り戻した要は精一杯に笑って見せた。 風斗は要に問う。 「何か、言い残すことはあるか?」 要は静かに、縦に頷いた。 「私の好きな、この世界は脆く、儚い……。だから守ってあげて、私の分まで」 そう言い残し、要は静かに目を閉じる。 最後にその唇はもうひとつだけ言葉を紡いだ。 ――もう、休んでもいいのね。ありがとう。 リベリスタの耳にしっかり聞こえた、最後の声は感謝の言葉。 それは何かが吹っ切れた、彼女の安心した想いの結晶。 「願わくば、哀れな存在が天に召されますよう」 ジョンの声が元の静けさを取り戻した裏路地に響いた。 世界は理不尽で不平等。 だからこそ、人は精一杯生きるのかもしれない。 不運に満ちた彼女の一生は、けして無駄ではなかったはず。 要のおかげで救われた人もきっといただろう。 八人のリベリスタは、今回一体のノーフェイスと一人の女性の心を救った。 託された思いはきっと――リベリスタの名の下にある。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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