●我此処に在り 威風堂々。また一歩。 夜の街に真っ黒い長着が靡く。 それは歩みを止めない。 もしそれの道を阻もうものなら――容赦なく捩じ伏せられるだろう。 殴り伏せられ肉塊となったE・ビーストの成れの果てが、路地の暗がりに転がっていた。 ●喧嘩上等 「……クリミナルスタア。 クリミナルスタアは格闘と射撃をこなす複合型ジョブです。 癖のあるスキルが多く、クリティカル値やドラマ値を底上げしつつ殺傷力の極めて高いスキルで攻撃するというトリッキーな特徴を持ちます。 前衛でも後衛でも十分な力を発揮する様は戦場や状況を選ばない優秀さを持っていると言えるでしょう」 書類に書かれた文字を口にして――『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は顔を上げた。 「クリミナルスタアに酷似した能力を持つノーフェイスが現れたよ。その名も『CN』……クリミナルスタアモドキノーフェイス、の略ね」 イヴがモニターを操作する。映し出されたのは真っ黒な長着に臙脂の羽織を纏った異形の姿――体躯は巨大で、風貌はさながら鬼の様だ。袖から覗く腕はフィンガーバレッドの様になっている。おそらくこれがこのノーフェイスの武器なのだろう。鈍く光るそれは良く見たら傷塗れで、『CN』が百戦錬磨の手練れである事が想像できた。 「皆の中にもクリミナルスタアの人がいると思うから良く分かると思うけど、『CN』の一撃はどれも強力。一対一だと無類の強さを発揮するから、チームワークを活かして。くれぐれもワンマンプレイだとか、無策のまま真っ正面から突っ込むとかやらない様に。 それと厄介な事に『CN』には状態異常系が効かないよ。 『CN』の攻撃方法はクリミナルスタアのそれとほぼ一緒。でも自己強化術は持ってなくって、代わりに独自の強力な技があるの。殺気と覚悟を練り込んだ闘気を周囲へ桜吹雪みたいに吹き散らす攻撃で、業火と凍結を伴う場合があるよ。でもこの技を使った後、『CN』は一定時間スキル使用が出来なくなる。この時間をきちんと活かしてね」 言い終わると、一応渡しておくねと手にしていた書類から一枚を抜き出し卓上に置いた。クリミナルスタアのスキル説明が記載されている――後でしっかり読むとしよう、必要があれば仲間のクリミナルスタアに色々訊いてみるのも良いかもしれない。リベリスタ達は顔をあげてフォーチュナへ意識を向けた。 「次に場所についての説明」 リベリスタ達の顔が自分の方を向いた所で、イヴが説明を再開した。モニターには夜闇に聳える廃ビルとその一室が映っていた。 中々広いそこにはゴミや割れたガラスが散らばっているぐらいで、オブジェクトは見当たらない。逃げも隠れも出来ない、正にがらんどうとした空間であった。 「今回の戦場となる場所はこの廃ビル。この最上階に『CN』がいるよ。天井が低めだから、飛べる人には少しハンディキャップかも。 暗いから光源が必要だと思う。一般人が来る事は無いと思うから安心してね。 ――説明はこれでおしまい。それじゃ、皆」 イヴのオッドアイが真っ直ぐにリベリスタ達を射抜く。そして一間の後に、静かな声がブリーフィングルームに響いた。 「頑張ってね。くれぐれも気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月13日(火)22:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●我道邁進喧嘩上等仁義之鬼神 ――暗いビルの階段を上る、8つの足音。 暗視や光源のお陰で視界は良好。結界も張り不安要素は無い。 最上階を目指し、リベリスタ達は彼方を見据える。 「ノーフェイス、しかも僕たちリベリスタのジョブと酷似した能力の持ち主ですか。 先日の報告書にはソードミラージュと酷似した能力だったようで、これは偶然の産物なのでしょうか。 流石に二度三度も同じようなものが続けば何らかの作為の結果に思えます」 最上階の敵――此方を待ち構えているのだろうか。『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)はそんな疑問を胸に抱く。 「最近、モドキノーフェイスが増えてるみたいね…… 何かあるのか気になるけど……」 孝平の言葉に『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が頷く。気になる、が、今回は目の前の敵を倒すだけ。 (あひるは皆を癒して、癒して、力になるよう、頑張らないと……!) どれだけ強いと言えども所詮はモドキ。負ける訳にはいかない。 それは『サイレントフラワー』カトレア・ブルーム(BNE002590)にとっても同じであった。 「……厄介な敵ですね。 ですが、たとえどんなに強力な敵であっても私達は負ける訳にはいきませんけどね。 放っておいたら更なる被害が出るでしょうし」 凛然と構える彼女らの一方、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は震えそうな手を握り締める。 (ノーフェイスの人と戦うのってどうしても気が引けちゃう……) それでも頑張らねばならない。世界を守るとか大きな話は良く分からないが――大切な人を守る為にも。 「頑張らなくちゃ。あの時アークに生かされた命だもの」 そして辿り着いたのは最上階。 錆び付いた扉を前に『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は息をのむ。 ――予知で見た相手の風貌は正に鬼。 「人に仇なすなら、世界に仇なすなら。それは生きていても鬼神と呼べるのかもしれない」 なんて。あたしに小難しいのは似合わないか。 「今回はちぃと真面目にやるとするか。 紛いもンに、本物の無頼ってもンを教えてやるぜ!」 武器を手に意気揚々と『下衆㌧』オーク(BNE002740)は黄ばんだ歯を剥いて笑う。しかし出発前日にバーで酒浸り、この意気も酒のお陰で実は結構ビビっていている事は内緒の秘密だ。 「くわ……まだ姿が見えないけど、威圧感も、感じる気がする……」 この建物は天井が低く圧迫感を感じる。今回あひるは飛ぶ事が出来ない。それに……怖い。でも、負けられないのだ。 「フン……強いヤツとヤんのは嫌いじゃねぇ。弱いモンイジメは嫌いなんでな」 煙草を咥えた桐生 武臣(BNE002824)も臨戦態勢で扉を、その先に待つ強敵を鋭く睨んだ。 その傍で刺突ナイフ『迅雷』『疾風』を手の中で回し『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)は口角を吊り上げる。 「無頼、ねえ。かははっ、悪くねェ。ああ、悪くねェよ。 お互い依る辺も頼る物も無ェ外れ者同士。賭すは手前ェの腕っ節だけってな」 言いながら脚を擡げる。 「――良いぜェ、なら余計な御託はいらねェ。喧嘩を、始めようじゃねェか!」 言い切りと同時、アッシュは思いきり扉を蹴って強引に開いた! 「戦火の村に即参上、正義の為ならどんな悪い事だって平気でするぜ!」 真っ先に啖呵を切ったオークを始め、リベリスタは自己強化を済ませた状態で一点を見据えた。 暗く広い部屋の中、硝子の無い窓の前。 臙脂の羽織を夜風に靡かせ丸い月を見上げる無頼を――CNを。 「来ょったか」 ふー。喫煙中のCNが煙を吐き出す。低い声。 「……ソドミラの阿呆ぉをヤりょったんやてな、ワァら? アイツは何考えとるか良ぉ分からんチャランポランやけど可愛げのある奴やってんけどなァ……ま、エェわ。ここ葬式場ちゃうしな、死人に口無し言うやろ?」 煙草を捨てつつ振り返る。闇夜の中、鋭い歯を剥いて薄ら笑うその風貌は――鬼。 「ワシCN言いますねや。クロスイージスのダァホと被っとるけど気にすな。 ほんでワァら何ちゅーねん」 まさか話しかけられるとは思っていなかった……たじろぐリベリスタであったが、其々が名乗りを上げる。同じくとアッシュも声を張り上げた。 「渡世の仁義に背を向けて、背負うは雷一文字。 無理も道理もぶち抜いて、貫き通すぜ己の路を。 眼に写さず音に聞け、『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング――最速にて参る!」 「おーおー。カッコエェやないの。……ほんでワァは?」 CNの鋭い眼光の先には武臣。彼は吸っていた煙草を火ごと握り潰すと、鬼を睨みつけ言い放つ。 「……姓は桐生、名は武臣。今日てめぇに引導を渡してやるよ」 「ほぉか。ま――落とし前はキッチシ、つけさしてもらいまひょっか。 ホナぼちぼち始めまひょ。……先謝っとっけど、ワァら皆殺しにしたるさかいに。 まっ、あんじょぉ頼んますわぁ」 笑った。 その目には、体には、オーラには、殺意。 それ以外は無い。ただただ純粋な殺意のみ。 ある種の狂気か。 それは――鬼。 正に、鬼神。 (あ……やだッ――!) 慄然とする。怖い。怖い。ルアの脳裏に過去の恐怖――かつて命を狙われていた記憶が過ぎる。 自分を殺そうとするあの眼。眼が。 「だァいじょぶ、おじさンが護ったげるからね」 震えるルアの方をオークがポンと叩いた。 そう――今、自分には仲間が居る。 「負けないもん! 皆がいるから、絶対負けない!」 「ははァ、麗しいのぉ~ブッ潰したなるわハハハハハ」 CNが愉快気に笑いつつ拳を慣らす。 ――そこへアッシュが高速で飛び掛かる! 「こいつァ世界の趨勢を決める戦いなんかじゃねェ、我を張り合う単なる喧嘩だ。手前ェだってそれで異存ねェンだろ?」 加速を力にトップスピード。澱みなき剣閃が光る! 「切り刻むのみ!」 「皆の道は私が切り開く!」 更に孝平とルアも超速を武器に連撃を放つ。鮮やかな攻撃にCNの血潮が散る。 しかし鬼の脚は一寸たりとも揺らぐ事は無い。 「なんやなんや速いだけかいな根性出せやオラァ!」 轟――武骨な鉄拳がアッシュを殴り飛ばした。彼の体が壁に容赦なく叩き付けられる。 CNはそのまま左右の手それぞれで孝平とルアを捉えた、かと思った瞬間には二人の脚を弾丸が穿つ。なんて凄まじい、それでいて的確な早撃ち。 更にCNがよろめく二人へ連撃を加えようとしたところで純白の騎士鎧『瑕疵・聖雪夢想』を身に付けたレイチェルが庇いに入り、重い拳をラージシールドで受け止めた。 (重いッ……!) CNはただ力任せに殴っているだけ、なのに楯から伝わる衝撃に圧し負けてしまいそうだ。 レイチェルは仲間達へと視線を遣った――丁度カトレアが詠唱をしている。 「大丈夫ですか……?今治してあげますから……」 清らかな福音。その傍ら、『絵本 みにくいアヒルの子』を開いたあひるがキッと敵を見据えた。 「皆を攻撃したぶん……お返し、させてもらうわ……!」 「同ぃ事言うたるわ――SNの分、お返しさして貰うで!」 CNがレイチェルを楯ごと蹴っ飛ばしフィンガーバレッドを構える。発砲。マジックアローとバウンティショットが空中でぶつかり弾け飛ぶ。 その隙、高速でCNの背後を取った武臣がその咽を掻き切ろうと――した手を掴まれた。 CNの肘鉄が武臣の胴にめり込む。 「がハッ――」 ぐしゃ、嫌な音が内臓に響く。しかしこれで退く武臣でもない。お返しにその側頭部を得物で殴打し、そこへCNの視界に極力入らないようにとその横や背後を姑息に立ち回っていたオークがバウンティショットを放った。命中。 「ハハッ! エェわァ体ぬくなってきたわァ!!」 笑う。笑って真っ直ぐオークの頭を狙う。回復を済ませ躍り掛かるアッシュ、孝平、ルアの斬撃を受けつつも、狙いはぶれない。 「ヒィイお助け……な~ンて言うと思ったか、ぁあン!?」 狙われたからにゃこっちだって覚悟を決める。己とて無頼――オークの邪悪な眼光がCNを射抜いた。 同時に執拗なる不可視の殺意が、 「――ぐッ ……!」 頭部を狙撃し破壊した。血潮、血、赤、倒れたのは――庇いに入ったレイチェル。 衝撃に表情を凍り付かせたリベリスタ達が倒れた彼女の名を叫ぶ。広がる血溜まり。 「負けるもんかぁっ……!」 それでも彼女は立ち上がる。血に塗れながら。 フェイトがレイチェルの魂を肉体から離さなかった。仲間がすぐに飛ばした回復の風に包まれながら、彼女の目から闘気が失せる事は無い。 「ほぉ~。オモロイのぉ、ドタマ半分ブッ飛ばしてんけどなァ。 ククッ……ほな、死ぬまで殺したるわ!」 「残念ながら、まだ死ぬ予定はありません!」 CNと孝平が同時に地を蹴る。交差――否、孝平が素早く横に跳躍した。 代わりに真っ直ぐCNへ刃を振りかざすのはルア、更にその左右から孝平とアッシュが狙う。退路はオークのフィンガーバレッドが狙い、阻む。 「今度はテメェの頭が弾ける番でっせ!」 豚が言葉を吐き捨てた瞬間、三つの閃光がSNを鋭く斬り裂いた。更にバウンティショット。流石に重なって来たダメージの所為か、CNがくぐもった呻きと共に一歩よろめく。 眼光が追撃に及ぶ前衛陣を捉えた。同時、ルアを殴り飛ばすと孝平の顔面をその巨大な手で引っ掴む。そのまま強引に振り回してアッシュを転倒させると、援護射撃をしようとしていたリベリスタ達に孝平の体を楯にする様に見せ付け――人質のつもりか? ……違う! 「――~ッ!」 ナイアガラバックスタブ。 首を、掻き切られる。 ごぼり。鮮血 だらん。孝平の腕が垂れる。 どさり。手を離され地面に崩れる。 瞬間だった。 燃え盛る殺気と凍てつく覚悟。 桜吹雪の姿となった闘気が戦場に吹き荒れる。 燃やし尽くし、凍て付かせる。 そして桜吹雪が止んだ頃、新たにアッシュと武臣が血溜まりの中に沈んでいた。 何とか踏み止まったリベリスタ達も血みどろで――それでもチームの生命線たる回復役のあひるとカトレアは護りきった。 「ごめんね、ありがと……すぐに、癒すから……っ」 あひるはすぐさま自分を庇ったオークへ天使の息を飛ばした。カトレアもレイチェルへ目配せすると、二人同時に天使の歌を奏でる。 (さすがに強い……) けれど。レイチェルはCNを鋭く見据えた。福音の輝きの中、マジックロッドを突き付ける。 「――あなたをフォローしてくれる人はいない。 あたしたちは即席のチームだけど、チームワークを見せてあげる!」 仲間達の傷が癒えてゆく。 それでも未だ体勢は立て直っていない――早く。早く。CNが攻撃を再開する前に。 「……リベリスタは不屈、倒れても尚立ち上がる。 それが世界の祝福を受けたものの意思であり、選択」 踏み出そうとしたCNの脚をフェイトで意識を取り戻した孝平が掴んで阻んだ。 逆境に有ってこそ、宿る力の真髄を発揮する事が出来る。 立ち上がる事が出来る! 「遅ェ……遅ェ遅ェ! 遅ェ!! 遅ェ――!! 100年、遅ェってンだ! そんな速度で、雷が殺せるかァ――ッ!!」 血塗れでも五体満足で有る限り、駆け抜け奔り貫く一迅の雷光で在れ。 願わくばただ、誰より速く、何より速く、時間よりも、速く。 雷刃無双――光速の雷帝は沈黙しない。 フェイトで立ち上がったアッシュの渾身のソニックエッジが動けないCNへ炸裂する。 「立ちあがれなくなるまで、何回だってヤってやるぜ。 敵を打ち砕く、やすやすと屠り去る……それも確かに『強さ』だ。 そして、アンタは強い、圧倒的にな」 けどな。咥内の血を吐き捨て、運命を消費した武臣の眼光がふらつくCNを射抜いた。 「仲間を信じて、あがき続ける。そういう『強さ』ってのも、ある。 わからねぇだろうな……強すぎるアンタには。 だから……オレ『達』が、勝つ。 絶対に、なッ……!」 何故なら。自分達は。 「「「諦めが悪い方でね」」」 孝平、アッシュ、武臣の不敵な笑みが重なった。 (男? 知るか! 名誉の戦死しろ! こちとら慈善事業じゃねぇンだよ!) ……なんて思っていたが。オークがフゴッと鼻を鳴らした。まぁいい、自分はヤる事をヤるだけ。 「切り札も出しきったんだ、潔く往生しなっせ!」 オークの無頼の拳がCNに決まる。 その間にもリベリスタ達は体勢を立て直し、攻撃を再開した。 CNもスキルこそ使えないが、その豪力と喧嘩技能で応戦する。 「すこしでも、みんなの役に立てるなら……あひる、なんでも頑張るっ……!」 どれだけ傷を負っても、仲間が癒してくれる。 「通すか……! オレらをツブしてから、だろ……?」 どれだけ敵が襲いかかってきても、仲間が護ってくれる。 激戦。それでも、一歩も譲らない! 「――上等やァ」 満身創痍のCNが口角を吊り上げた。 伝う血を拳で取っ払い、見据える――覚悟の瞳。 「これで最後。この一撃が。クククッ……」 いざ。 尋常に。 ――勝負。 桜吹雪が吹き荒れる。 血飛沫が舞う。 互いの誇りを掛けて。 ――誰も倒れない。譲らない。負けない。 「クックックッ……!」 鬼が笑った。 その背後には、武臣。 「ハッ。……ワァらの、勝っちゃ。おめでとさん」 刹那、CNの咽から血潮が迸った。 ●その身消えども心は消えず 「ごふ」 大量の血が垂れる。 それでも膝を突かないCNへ武臣は追撃しようとしたが――その視界が臙脂に染まった。 CNが彼の顔面に己が羽織を投げつけたのだ。 「ハハッ。ハッハッハッハッハッ!! はぁ~ぁ……あー、悔しいのぉ。勝ったかったわぁ」 血だらけで、ふらつきながら。 しかし無頼は倒れず、笑い、歩き出す。 リベリスタが見守る中、懐から取り出した煙草を咥え、火を点けて。 鬼はもう戦えないようだ。 おそらく、立っているだけでも精一杯なのだろう。 「ゴホゴホッ……クク。確かにワシはワァらに負けた。 けどな、残念――ワシはワァらにゃ殺されへん」 噎せて血反吐を吐きつつ、歩いて行ったCNが立ち止ったのは――硝子の無い窓の前。 「! 待てッ……」 武臣が手を伸ばした瞬間。 「ほな、さいなら」 それは窓から外へ、空へ、――地面へ、……落ちる。 直後に肉が重力に潰される音。無情な音。死の音。 静寂。 「……てめぇとの喧嘩、忘れねぇぜ」 武臣が受け取った羽織を握り締めた。 そこからヒラリ、何かが落ちる。 「あら?」 あひるがそれを拾い上げた。周りのリベリスタも覗きこむ。 「家族の、写真……?」 それは古ぼけた写真。 11人――仲良さそうに、集まって、笑って。 これが『彼らのかつての姿』なのか――真相を知る者は、誰も居ない。 ●いざ往かん、御手を拝借 レイチェルがアークに連絡を付けた。直にやって来る処理班がこの現場を奇麗に片付けてくれるだろう。 それでも、とカトレアは自分に片付けられる範囲で清掃を行った。来る前くらいまで綺麗に出来たら良いかな、と思いつつ徐に口を開いた。 「恐ろしい形相をした強敵でしたね……。 まだ他にもこの様な敵が数多くいるのでしょうか?」 「さぁな……いやしかし、おっかねぇ野郎だったぜ。 とーころでお嬢ちゃンたち、怪我は平気かい? 服が破けちゃったりしてないかい?」 チラッチラッ。オークのテラーテロール顔負けな邪視線。しかしそれはニコニコ笑顔の孝平が後ろから豚の眼を隠した事で強制終了。 その間に女性陣はとっとと退却、頃合いを見計らって孝平は豚を解放するとアッシュと共に部屋を後にした。 「……ま、やっぱ『楽して甘い汁』が一番だな、ブヒヒッ!」 (下衆……) 彼らが居なくなるやそんな事を吐かしたオークに武臣は溜息を吐く。 彼のその手には臙脂の羽織が夜風に赤く靡いていた。 そして誰も居なくなった部屋に、静かな風が吹き抜ける。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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