● 「宝石店で強盗が発生しました。急いで向かって下さい」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の言葉に、リベリスタは顔を見合わせた。 リベリスタが呼び出される任務とは、往々にしてエリューションが絡んでいる。 それが、宝石強盗とは。 首を傾げるリベリスタに、和泉は言葉を続ける。 「その宝石の中に、アーティファクトが含まれていたんです」 なるほど、それなら納得できると頷いた顔を見て、和泉は書類を確認しながら説明を始めた。 「呪いのブルーダイヤの話は有名ですが――こちらはイエローダイヤです。 元々はある国の高級娼婦の胸元にペンダントとして飾られていた、大きな石だったとのことですが。 その……魅了のほかに……」 何故か突然顔を赤らめ、和泉は困った顔で咳払いをひとつ。 「…………持ち主の性欲、増強の効果があるそうで…………」 誰だこんなシモネタ任務を和泉に担当させたのは。 大雑把に資料を読み解けば、そのダイヤの持つ魔性の魅力には異能を持つものでも耐えられず、ひれ伏して彼女の愛を乞うたという。そのダイヤの力で、高級娼婦はスパイとしても名を馳せたのだとか。 鉄の意志を持つ者でさえ魅了するその宝石はしかし、誰も身につけていなければ問題を起こさない。 アークがその宝石の存在に気がついたのは、ここ最近のこと。 「展示されていた宝石を、アークが買い上げようとしていたところだったそうなのですが……」 和泉は少しだけ言葉を濁す。 「……それだけの価値があるなら、当然、保険もかかっていたわけです。 その保険金と、アークが提示した相場以上の額と。 両方手に入れられないかと、宝石店が考えてしまったみたいです。 宝石強盗は、このダイヤをアークが提示した額より高値をふっかけてくるようです」 真相がわかったのは、カレイドシステムという最大の切り札のおかげというわけだ。 「そこで、みなさんの仕事になります」 つまり、今回の仕事は。 ・アーティファクトを回収すること ・宝石強盗を拿捕すること(悪事の口を割らせるため、必ず生きて捕まえること) 「アークの財布だって、無限じゃありません。 抑えられるところは抑えておかないといけませんからね。 ……あ、捕まえてきた後の交渉は、アークの方でやりますので」 何人かのリベリスタには、和泉がわるーい笑顔を浮かべたように見えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月18日(日)07:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「信じらんない! ホント信じらんない! 何なのアイツら!?」 「……」 妹・のばらはバイクのアクセルをふかしながら絶叫しつつ、やはりバイクで並走する姉・つばきが無言で指さした方角を一瞥し、その真逆へと機首を曲げる。 つばきも慣れたもので、示した先には袋小路があるのだから――お互いの仲の悪さたるやいかなるものか。ひっくり返って息があってしまっている。 茶番の強盗なんて楽な仕事だと思って引き受けたのに。 この方法なら、宝石店に交渉に来たとかいうリベリスタも振り切れるだろうって思ったのに! わざわざ交渉に来るんだから、属性ライトロウかなーとか思うじゃん!! なんなのあいつら、本当に! 「いくらなんでも、街中でなにやってくれちゃってんのよー!!!」 そうこうわめいている間に、つばきのタイヤに、また魔力の矢が射ち込まれる。 次いでつばきを絡め取ろうとする気糸に、ごうん、とぶつけられる、スクーター。突如として繰り広げられた派手なチェイス。明らかに衆目を浴びている状況にのばらはまたもや絶叫する。 「やーめーてー!! そんなにしたら、目立つじゃないのよー!!」 「のばら、五月蝿い」 パーツが飛び散りタイヤがぐらつくバイクを操るつばき。しかし、その前方から更に2台のバイクが飛び出してきたのを避けきれず、遂につばきはバイクから放り出され道路へと転がる。ぎゃりり、とアスファルトを削り滑っていくバイクが、やがてどぉん、と派手な音を立てて電柱にぶつかり、ガソリンが引火したのか爆発、炎上する。前後を遮られたことを悟り、のばらはバイクにまたがったまま表情を歪めた。 遙か遠方からは、白と黒の二色に塗り分けられた車特有のサイレン音が鳴り響いている。 「――切り札」 つばきは一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべると、そう呟いて宝石を握りしめた。 ――時間はいくらか遡る。 ● 「アークを騙そうとは怖いもの知らずだな。 まあ、神秘は秘匿されるべきものだからそう考える人間が出るのも仕方ないか」 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)の言葉に、『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が少し考えるような表情を見せる。 「てか、今回実は強盗なんて起きてないに等しいんだよね? 人騒がせすぎるよ……」 「泥棒はしちゃいけません!」 強く頷いた『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)。 確かに実際には、宝石強盗というよりも詐欺。偽装強盗といった方が似合いの状況である。しかし。 「和泉さんの貴重なサービスシーンを見た……ではなく! そんな暴利を許すわけにはいかない。アークの財政は俺が守る!」 逼迫しているわけではないにしろ、詐欺に従ういわれもない。バイト先の経営状態なんてものは安定しているに越したことがないと『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が気合を入れる。 ところで前半の言葉はいったい、何を思い返してるんでしょうこの人。 「破界器の効果は……魔性の魅力に耐えられず、ひれ伏して愛を乞う? 所持者が性欲を持て余す……?」 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が資料を再確認しているのを聞いて、瞳が遠い目(?)をした。 「性欲を増強する、か。とっくに枯れてしまったよ、そんなものはな」 がんばれ今回の最年長。 「指差した人を魅了する宝石かあ……ちょっと欲しいかも?」 ウェスティアが少し楽しげに言う横で、雷慈慟の、むっつりスイッチが入った。 (――結構だ。元より魅力的な女性には子を宿して欲しいと、常々そう思っている。 しかし、情け無い事に女性に対し積極的になれない自分にとって、コレは…… 又と無いチャンスと判断する!) くわっと目を見開き、声を張り上げる雷慈慟。 「さあ行くぞ!信念を差込み、猟犬(バイク)に火を入れろ! 崩界を進めるような行為……食い止めるのみ!」 ――それ絶対本音じゃないよね。 とかいうツッコミは、しかし誰の口からも出てこなかった。 一方、宝石店の近く。『億千万の棘茨荊』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)はその長髪を掻き上げて薄く笑う。 「アークに喧嘩を討ったのだから覚悟することね」 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)がまたがるスクータの後ろに座って、『ロード・オブ・ザ・スカイ』ウルザ・イース(BNE002218)が羽をばさりとたたみながらぶつぶつ言っている。 ウルザはどれだけ遠く暗い場所に逃げられても見失わないことを優先したのだろうか、その一際大きな羽を隠していない。 「そのくびれた腰に抱きついて、たわわに実ったおっぱいを頭で持ち上げたい。 そのくびれた腰に抱きついて、たわわに実ったおっぱいを頭で持ち上げたい。 そのくびれた腰に抱きついて、たわわに実ったおっぱいを頭で持ち上げたい」 その言葉を心に刻みこむように精神統一。 「ウルザ、さん……?」 微妙に怯えるような空気で呼びかけた舞姫の声に、何故か無駄に覚悟の据わった数学者のような表情を向ける、ウルザ。 「この文言を心に刻んでおけば魅了されたとき、実行に移せるはず。 ――味方を傷つけてしまうよりはましさ」 実行した日には次の瞬間ボッコボコにされることまで折り込み済みである。 フッ。とか笑うウルザに、『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は若干引き気味だったりする。 地図を確認していた『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)はその様子に感心した様子で頷く。 「なるほどなァ。ま、俺みたいな主人公なら大丈夫だろうけどな。 ――誰がアイツらみてぇなババァに欲情するか! 俺が愛せるのは高校生未満限定だ! この俺に牙を剥いた事を後悔させてやるッ!!」 その宣言に、他のリベリスタの視線が一斉に零六に刺さる。 「……ロリコンじゃねーよ? ロリコンってのは幼い子が好きな奴の事だろ? 俺は若い子を一人のレディとしてみてるからさ!」 ひと、それをロリコンと言う。 ● 強盗が押し入ったように見せるには、店内が綺麗である訳にはいかない。 売買交渉が進んでいた宝石だけが盗まれたのでは、目立ちすぎる。それは計画として杜撰だ。 もちろん、身内が荒らしたのでは話にもならない。 だからこそ、宝石店は偽装強盗を泥棒に依頼したのだ。 何も知らない従業員の首にナイフを突きつけて、のばらはニヤリと笑う。 「死にたくないなら、おかしな真似はしないことね」 従業員数名を威圧している横で、つばきは強化ガラスを割って回る。 そして数々の宝石と『黄昏の雲』を無造作にポケットに詰めこみ、二人はバイクで逃げ出した。 従業員達がいまさら警察の助力を願おうとも、彼女らに影響はでないはずだ。 何しろ、宝石店の防犯設備は完璧な『下調べ』によって対処されているのだから。 「あー超楽勝だし♪」 楽しそうな声を上げるのばらに、つばきが物言いたげな顔を向ける。 「何よ? あたしに汚れ仕事を押し付けたお姉さま?」 わざとねちっこく尋ねるのばらに対し、姉は後方を指し示した。 「――何、あれ」 「リベリスタ」 ミラー越しに見える、追ってくるスクーターの数は3台。 その内の一台を見てのばらは呻き声を上げる。 「げ。あれって……『戦姫』と、『ロード・オブ・ザ・スカイ』?」 「……アーク」 妹の言葉を一言で肯定し、姉は眉をしかめた。 リベリスタたちの取った作戦は、大雑把に言えば、『追い込み』であった。 人数を半分にわけて、宝石店から逃げる姉妹を追う追跡班と、待ちぶせて逃さないための待機班。 待ち伏せに回った快たちと、追跡を行うエーデルワイスたち。 追跡班は和泉に逃走経路の予想まで頼んでおり、連絡も密に取り合う算段が付いている。 それは完璧な布陣――の、はずだった。 「タイヤを狙って……!」 エーデルワイスの運転するスクーターに同情したレイチェル。 「……よしッ、許容範囲!」 舞姫のスクーターの後ろで、姉妹が美人じゃなかったら嘆こうとさえ思っていたウルザ。 「この主人公様のことも、忘れてもらっちゃ困るぜ!」 両手で持たなければならない武器での攻撃を諦め、突進してバイクを破壊しようとする零六。 彼らの攻撃の狙いはつばき、またはその移動手段(バイク)。 「きゃああ! 壁に穴が!」 「バイクとスクーターの暴走族!?」 「何あのでかい羽コスプレ?」 「もしもし、警察ですか――」 街中で突如として繰り広げられた騒ぎは耳目を集め、通行人が騒ぐのを横目にしながら―― そして、冒頭へと戻るのである。 ● 「生まれる前から愛してましたー!!」 魅了とは言いなりになることでなく、恋に落ちること。 ――ならば、相手から命令される前に熱く迫ってしまおう。 快もまた、精神統一が完了していた。 追跡していた顔触れの中にのばらの好みはおらず、逃走の途中からその宝石はつばきの手にあった。移動手段を壊され前後を囲まれ、もう逃げられぬとなれば、黄昏の雲を使用しない理由などなかった。 「……助けて」 仲の悪さもなんのその。抱きしめられたことにさすがに動転したつばきが妹に助けを求める。 男に対して好意を抱けないのばらは、今にも唾棄しそうな表情でどん引きしつつも手にしたナイフを構えた。光が飛び散るような芸術的な刺突を受け、決して浅くない傷を追いながら快は宣言する。 「貴女とならば地獄に堕ちても構わない!」 「……『デイアフタートゥモロー』……まさかこんな……色狂いだったなんて……!」 つばきを見つめたまま腕の力を緩めない快を見て、のばらが呻く。 ――いや、魅了する能力を持った宝石のせいなんですけどね? 翼の加護でいくらか中空に浮かびつつ、瞳が咳払いする。 「あー、不要かとは思うが。宝石を持っているのは、姉のほうだ」 その瞳を見つけ、悲壮な顔を浮かべたのは何故かのばらだった。 「ああっ、そんな! 最初からステキなお姉さまがいるってわかってたら!!」 「……アークの女子の年齢低すぎるんじゃないか? 敵味方含めて一番年上というのは、なんだ、すこし納得いかないぞ」 呻く、瞳。 リベリスタたちの中では、妹を先に集中して無力化しようという話ができていた。 「私だってやるときはやるよ!」 そう気合の入った声を上げて、快のバイクから降りたウェスティアが四色の魔光を打ち込む。 「貴方達がもう泥棒しないなら、友達になる機会はあるかもしれません」 懐に飛び込んで道路へと叩きつけるように投げ飛ばしながらそんな事を言う、慧架。 そこに零六が高速回転する歯車の付いた武器を、全身の力で叩きつける。 「本番は、こっからだッ!」 更にウルザのトラップネストがつばきを再び絡め取ろうとする。 舞姫はウルザとつばきの間にかばうように立ちはだかり、レイチェルは快を正気に返そうとする。 「少々思考を読ませて貰った……」 目を細め、まるで思考を読んだかのような事を言う雷慈慟。ちなみにはったりである。 「いいのか? あちらの方は魅了した者を引き連れ貴女を捨石に逃げる気だぞ。 悪いようにはしない どうだ、こちらへ降ってみては」 「そんなの読まなくってもわかるわよ、逃げ場もないのに逃げられるわけ無いし」 ナイフを油断なく構え、のばらが歯を向く。 ――たしかにその通りである。10人(-1人)で包囲しておいて、逃げられるものでもない。 「目障りな能力……」 突然そうつぶやいたエーデルワイスが、フィンガーバレットを早撃ちして見せる。 狙いはつばきの、指。 「!?」 「それなら、要りませんよね? あなたの指」 「あ、あんたたち……仲間ごと撃ち殺すつもり?」 魅了が解けず抱きついたままの快とにっこり笑うエーデルワイスを見比べ、少し青ざめるのばら。 ――どちらが悪人なのか、傍目には段々わからなくなってきていたから。 「全員、手をあげなさい!」 パトカーから降りてきた警官が、羽生えてる人やら飛んでる人やらに涙目になって足をがくがく震わせつつもそう宣言したのは、仕方ないことだったのかも知れなかった。 すっかりと野次馬に囲まれ、割と状況は一方的で。 更には仲間もろとも攻撃するのも躊躇しない相手とことを構えるのは不利に過ぎると判断して、姉妹は抵抗せず両手を挙げたのだった。 宝石強盗事件はこうして、幕を下ろしたのである。 警察や世間の人まで巻き込んだこの騒動の後始末に和泉が泣きそうになっていたことは―― ま、それはまた別の話。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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