●怪しげなビデオメール やぁコンニチハ。いつもお勤めゴクローサマ。 俺の名前はクロエだ。色の『黒』に、江戸の『江』って書く。即席にしちゃ良い名前だろ? まぁ匿名でも良かったんだけどさ、親しみを持って欲しいんだよね。 あんたらアークは、アレだろ? 狩ってるんだろ? 俺らみたいな好き勝手やってる奴とか、生まれちまったバケモノとかを、さ。 いや、まーそれは良いんだよ。俺もその方が面白いし、大いにやっておくれ。応援してる。 そういうわけで、あんたらに俺から一個耳寄りな情報をプレゼントだ。ほら、俺も人助けが趣味みたいなもんだからさー。 じゃ、よく聞いてよ? ○○市、△△の××。そこにエリューションが居るんだ! ……ああ、知ってる? そりゃ知ってるよね、あんたらもう戦闘員を派遣済みだもんね。今丁度ドンパチ始めたとこみたいよ、ははは。 で、あれさ。もうちょっと様子見たら俺らそこに踏み込むつもりだから。 目的? やだなー分かってるでしょ? ……分かってるよね? まー信じる信じないは好きにしていいけどさ、心当たりがあったら、はやく次のを送っておいで。 待ちきれなかったら食べちゃうよー。 ●先発隊を救出せよ 「お集まり頂きありがとうございます。このような内容で召集をかけるのは極めて不本意なのですが……」 緊急に呼び出された一同に、天原和泉(nBNE000024)は固い表情でそう告げる。 それもそのはず、今回の情報源は、カレイドではなく敵側からのリークという全く信用ならないものだ。普通ならば調査班に回し、人員を数人調査に回す程度なのだが。 「今回のこれはタイミングが良すぎる上に、確認を取っている暇がありません」 情報を送ってきたと思しき人物の言う通り、カレイドはある地点でのエリューション発生を捉えており、四名のリベリスタがそこに向けて出動済みだ。そして、彼等は丁度その付近で連絡を絶っている。 「先発のチームとは連絡が取れぬままです。単にエリューションと交戦中というのなら良いのですが、アークとしては事態を甘く見ることはできません」 そこで、この召集ということか。 「リーク情報の通りだった場合、一戦交えた後の先発隊が生還できる可能性は低いでしょう。あなた方には今すぐ、先発隊の元に向かって頂きます」 現地にはカレイドの捉えていたエリューション、そしてそれを討伐に向かったリベリスタ、そして情報が正しければ別の勢力が居るはずだ。 「全て杞憂ならば良いのですが……どうか、無事仲間を連れ帰ってください。健闘を祈ります」 ●アークより補足情報 ・廃工場におけるエリューション発生事案 某市の外れの廃工場にて、野犬がエリューション化するのをカレイドが捕捉した。エリューション化は小さな群れを作っていた野犬に伝播、8匹程の集団となっている。 金属を喰えるだけの顎を持ち、身体の各所に金属化が見られる。だが全てフェーズ1にすぎず、個体としての能力はさして高くない。 群としての連携と仲間意識には注意が必要か。 現場は道路に面した方向に元駐車場らしき場所があり、他の面は茂みか林に覆われている。工場内部は広いものの、遮蔽物となるものが多く見通しが悪い。元事務室等小さな部屋も多数存在。二階建て。 ・対処に向かったリベリスタ カレイドによる早期発見のおかげで脅威は小さいと判断。新人一名を含めたリベリスタ四名を派遣。 現在連絡が取れないことから通信妨害、または危機的状況のどちらかにある事が予想される。 ・第三勢力 情報を送ってきた『クロエ』なる人物の他に、彼が『俺ら』と称する集団が存在すると思われる。 言動からするとフィクサードの集団か。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ハニィ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月11日(日)21:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●グリィズ・チャーム 廃工場に現れたエリューションを退治する。ありふれた、いつも通りのミッションを、リベリスタ達は懸命にこなしていた。戦う理由や動機はそれぞれだろう。だが彼等には共通した使命感が、「この戦いは世界を救うのに繋がっている」という自負がある。 たとえ表で評価はされなくとも、泥臭く血生臭い仕事であろうとも、それはきっと尊いもの。 だがこの場所では、そんなもの毛ほども認識されていなかった。戦場となった廃工場を取り囲み、彼等……フィクサードであるグリィズ・チャームの面々は思い思いの表情で食事の時を待っていた。それは布陣と呼ぶにはあまりにも無造作で。 「おーおー必死だねぇ」 「早く死んじゃえばいいのに」 「バァカ。死んじまったら何しに来たのかわかんねーだろ」 リベリスタの戦いを映し出すモニターの前で、人だかりを作った若者達が賑やかな声援を送る。工場から有線で引っ張ってきているのだろう、束ねたコードはモニターから工場の壁面へと伸びていた。 若者と一口に言っても特徴は様々。しかし、彼等にはどこか共通した粗暴さと幼さが窺える。 無邪気に騒ぐ彼等の目的は分かっている。彼等はモニターの向こうのリベリスタ達が勝利を確信するのを待ち、凱旋のその時に横から噛み付き、何もかも台無しにしようとしているのだ。 そんなもの、許すわけにはいかない。 工場の正面側、大きくまばらな輪の端で、肩を叩かれた男が振り返る。 「ああ? 何だおま」 言葉は途中で断ち切られた。フルスイングされたバールのような何かが男の頭部を綺麗に捉え、彼を人だかりの方へと吹っ飛ばす。 「――痛ってぇ!?」 「……ちっ」 上がった悲鳴に、バールを手にした桐生 武臣(BNE002824)が舌打ちする。手応えは悪くなかったのだが、叩き割る事ができたのは敵の頭ではなく、その上のヘルメットだけだ。 突然の敵襲に、フィクサード達の目が廃工場から彼へ、そしてその後ろのリベリスタ達へと移る。 「ねえ、ルカたち呼んだ、クロエってこいる?」 この場誰よりも早く動いたのは、『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)だった。倒れた男がわめき出す手前で、鼻先に凶器を突きつけ、問う。 「ちゃんときたよ、遊んでよ」 「……はぁ?」 だが周りの反応は、どこか鈍い。 「どういうこったよ。またお前?」 「うん、また俺。驚いたぁ?」 そんな間の抜けたやり取りが人だかりの方で起き、人ごみを割って黒ずくめの男が進み出る。にやけた表情は見間違えようも無い、今回アークにビデオメールを送ってきたクロエと名乗る男。 「この度はこのような趣向のパーティーにご招待いただきましてありがとうございます」 「やー、来ていただいて光栄至極にぞんじます?」 小鳥遊・茉莉(BNE002647)の、この場に不似合いなくらい丁寧な言葉に応じ、クロエは大げさに一礼する。 「おい、どうすんだよこいつら?」 「増援が来るとか話と違うじゃん」 その背後ではフィクサード達が面倒くさそうに言葉を交わしている。どうやら、アークへの通報自体は彼等の総意というわけではないらしい。 「やりたい奴だけやればいいって、いつも通りにさ」 「玩具が増えたんだ。喜ぼうぜ?」 だが勿論、乗り気の者も少なくは無い。だらだらと、極自然に、好戦的なフィクサードが前面に残る形になる。 「ふざけたヤロウ共だ」 「……ゲームでもやってるつもりなのかい」 敵の大多数をライフルの射程に入れつつ、武臣の言葉に合わせて『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)がため息を吐く。 「遊びたいならゲームソフトでも買ってやってりゃいいのにな」 体内の魔力を活性化させた『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)もそれに首肯。向かってくるフィクサード達を迎撃するべく構える。 「中の犬共の前に、てめえらと先にジャれてやるよ」 「わおーん」 口先だけの犬真似で武臣に応え、クロエは笑って牙を剥いた。 数の多寡は歴然。一騎当千の活躍でもしなければ、勝敗が覆ることは無いだろう。リベリスタ達は何故こんな挑発めいた真似をしたのか。その理由は簡単だ。 通信妨害のため連絡が取れないにしろ、工場を包囲していた連中は戦いの音色に徐々に引きずられていく。 手薄な箇所は、自然と生まれた。 ●二種の野良犬 鉄すら噛み切る顎を避け、集中攻撃でエリューションの一匹を落とす。リベリスタの先発隊一行は入り組んだ地形に苦しみつつも、着実に敵の数を減らしていた。しかし、深手を負っている者が一人。 新入りのピンチをカバーしたソードミラージュが足を引きずっている。回復に、そして警戒に手は尽くしているが、膠着にも似た状況はしばらく動かないだろう。 「上を見ないように聞いて」 そう考えていた彼らに、頭上から声が落ちてくる。面接着で天井にくっついた『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は、彼等に現在の状況を手短に告げる。気配を完全に消し、木々と茂みの合間を縫ってきた彼女は一足速くこの場所へと潜入していたのだ。 「だが、まだエリューションは……」 「それでも、ひとまずは外に。足止めも多分、長くはもたない……」 使命を口にする彼等を説き伏せ、部屋一帯を確認する。手薄になった包囲を抜け、侵入に成功した『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)と『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が部屋の出口を確保している。そこまで、彼等を導ければ――。 「てめぇ、さっきはよくも!」 ヘルメットを吹っ飛ばされたフィクサードが鉄パイプを手に立ち上がる。当然のことながら、彼はギャラリーとしてさがることなく武臣へと挑むつもりだ。 前へと出てきたのは彼も含めて六人ほど。一度に押しかけず、こちらの頭数に合わせてきたのは偶然か、それとも本当にゲームか何かのつもりなのか。 だが瀬恋にその辺りを推し量る気はさらさら無いらしい。銃声とともに飛び出した弾は、武臣に食って掛かろうとした男の股間を正確に射抜く。 「遊び半分で出てくるからだよ」 言葉も無く悶絶する男を、瀬恋が冷ややかに見下ろす。 「うわー。流石の俺もそれはひくわ」 革醒し、力を得ているフィクサードのそれがどうなったのかは定かでないが、そのインパクトはやはり大きい。クロエをはじめとする数名が引きつった表情を浮かべ、それ以外の大多数がげらげらと笑い出す。 「大した趣向ですね」 「まったく」 呆れたような茉莉の言葉に、辟易した様子で瀬恋が応じる。そうする間にも照準は別の、ナイフを手に近寄ってくるフィクサードへ。 「俺のターン!」 戦意の萎えない集団を、ラヴィアンが描いた魔法陣が包む。吹き上がった炎は彼等を包み、ギャラリーと戦う者の境界線を明確にした。 炎を突っ切って向かってくるのは二人。その片方を武臣が体を張ってブロックし、残った一人に茉莉が四色の魔弾を撃ち込む。そして炎を目くらましに前に出たルカルカがクロエに肉薄、速度を乗せた連続攻撃を仕掛けた。 「あはは、ようこそ!」 音速の刃が敵を捉える。だが当たりは決定的とは言い難い。 「ね、こういうのどうして、送ってきたの?」 攻撃に耐えたクロエに向けて、足を休めぬままにルカルカが問う。 何故こんな、アークを挑発するような真似をしたのか。昨今の情勢を鑑みれば、浮かんでくるのは一つの疑惑だ。 「アークに送れって誰かにいわれたの? たとえば、海外からきた、魔女とか」 「あ、そうそう。何で知ってんのぉ?」 大当たりか。ルカルカの目が細められ、一瞬思考がそちらに逸れる。アークの者なら、少なくとも噂程度には聞いているだろう。周りを歪ませ、触れれば墜ちる、そんな魔性の女の事を。 真偽の判断を下すべく、ルカルカの注意はすぐにクロエへと向けられる。しかしその目の前には既に拳が迫っていた。 「……ッ!」 もはや防御も間に合わず、クロエの拳をまともに喰らって彼女は後ろに倒れ込む。ギャラリーの歓声が上がり、すぐにそれはどよめきに変わった。見切ることすら敵わぬ動きで武臣がクロエの背後を取ったのだ。 だが表情の変化は状況とは真逆に。渋面を浮かべた武臣の言葉に、クロエの顔は歓喜に染まった。 「嘘だな?」 「ばれたか」 ぱっと盛大に赤が散り、クロエの首元が血に濡れる。喉から溢れるそれで口元を汚しながらも、彼は真っ赤な舌を悪戯っぽく出してみせた。 勿論武臣に確証は無い。だが魔女以外にも可能性は無数にある。それより何よりここに居るのは末端の兵と野次馬が半々くらいの連中だ。情報源を知っているかという事自体が怪しい。 結局結論はでないままに、武臣の頭部を鉄パイプが襲う。 「どいつもこいつも、俺を舐めやがって……」 そこには、股間の苦痛から解放されたらしきフィクサードが復讐心を露に立っていた。 一方、怪我人を抱えていることもあり、工場内での移動も順調とは言いがたい状況にあった。なるべく敵と遭遇しないルートをアンジェリカが指示するものの、戦闘のために足が止まれば別のエリューションが迫ってきてしまう。 「ショウガネェナー」 挟撃状態になればさらに時間を食うだろう。外の連中に発見されるのも覚悟の上で、リュミエールが天井を蹴って敵の一匹を強襲する。後ろに回りつつあった個体の注意を引いて足止めし、先発隊を進ませる。 どこにあるか分からない監視装置を思えば危険な賭けではあるのだが……結局のところどちらでも変わらないということは、出入り口付近を確保していた星龍がすぐに知る事となる。 彼の感情探査が捉えたのは、言うなれば『空腹』。待ち切れなかったのであろう二人のフィクサードが、裏口からこちらに侵入してきている。 通路もそう広くはないため、発見されるのは時間の問題だろう。それを見て取った彼は二人に同時に光弾を放って先制の一撃を叩き込む。 「ちっ」 新たな敵の存在を知らせるためだろう、犬のビーストハーフであるフィクサードの遠吠えが、長く尾を引いた。 ●野良犬は未来を見ない 遠吠えは工場の表まで届き、気づいた数人は工場の方へと入っていった。まとめて敵を焼くラヴィアンのフレアバーストも、去り行く彼等には届かない。 「おいおいどうしたぁ? さっきまでの威勢はどこいったんだよ!」 鉄パイプのフィクサードが勝ち誇ったように笑い、ルカルカを正面から叩き伏せる。ナイフを手にした別の一人が武臣を刻み、肉薄したクロエが追撃の無頼の拳を見舞う。蓄積したダメージに、ついに武臣が膝をついた。 個人の実力において、リベリスタ達は決して劣ってはいない。戦況を決しているのは言うまでも無く別の要因だ。 茉莉の放った魔光が武臣の前のフィクサードを撃ち、顔面狙いの瀬恋の弾丸が追い討ちをかける。ナイフを手にした女フィクサードは体勢を崩して引っくり返り、ただでさえうるさいギャラリーが沸く。……ここまでは良い。だが問題はこの周りの連中だ。 「ザコが、もうそこで見てろ!」 観戦していた内の一人が嘲笑を浮かべ、ふらつく女フィクサードを足蹴にして前に出る。癒しの術を使う男も、全体攻撃を持つ女も、リベリスタ達は攻撃を重ねて追い詰めてきた。だが、待っていたのは今のと変わらぬ事態。 一度に戦う人数を絞っているとは言え、こう入れ替わりながら攻めてこられてはいずれ嬲り殺しになるだけだ。 いっそまとめて焼いてしまえればとラヴィアンが歯噛みするが、やりすぎれば周りの全てが一度に向かって来かねない。 だがそれらの事実は、両者が相対した時点でわかりきっていたこと。それでもなおリベリスタ達がこの戦いを続けるのは、仲間の救助と、それを示す合図を待っているからだ。 「健気だねぇ、飼い犬ってのは」 布切れで応急処置された喉からくぐもった笑い声を出しつつ、揶揄するようにクロエが言う。 黙れと言わんばかりの弾丸をかろうじて避け、クロエは逆に瀬恋の首へと飛び掛った。獲物に喰いつく顎の如く、喉元を狙った右手が開いて、閉じる。 「……あるぇ?」 だが、その手が裂いたのは首の皮一枚のみ。ふらふらとおぼつかないステップで瀬恋の脇を通り抜け、彼は地面に倒れこんだ。 「はっ、だっせぇなクロエ!」 「何よその顔色。ウケるわー」 今の今まで出血の量に無自覚だったというのか、吐きそうな顔でクロエがもがく。 止めを刺す好機ではあるのだが―― 「よそ見しないでよぉ」 後衛まで肉薄していた覇界闘士が拳を振るい、ラヴィアンを地に這わせる。クロエに追い討ちをかける余裕は、彼らには無い。 「仲間ぁ、やらせっかよッ……!」 同じく後衛に向かおうとしていた鉄パイプのフィクサードは、その声に足を止める。フェイトを削り、持ち堪えた武臣がそこには居た。 「あー、飽きてきたわ。お前もう死ねよ」 ひとしきり甚振って満足したのか、鉄パイプのフィクサードは余裕の表情で得物を振り上げる。エネルギーを武器に集中させ、破壊力を増したそれを思い切り叩きつける。 廊下の床を、壁を、天井をも足場としてリュミエールがフィクサードに肉薄する。銃器を手にした彼等の懐に入り、リュミエールは流れる斬撃で敵を刻んだ。 応射する二人にこちらも銃弾を撃ち込みつつ、星龍は隣の部屋を窺う。そちらではアンジェリカが先発のリベリスタ達を誘導しているはずだ。早いところ合流したいというのが正直な所だが、その願いはここでようやく叶った。 吹き飛んできたエリューションが星龍の頭上を越え、通路の壁へと叩きつけられる。それがもう動かないのを確認し、振り返れば天井から降りてきたアンジェリカと、導かれてきた先発隊の姿があった。 「遅くなったな」 「長居は無用」 彼等の後ろから迫る犬の吠え声を聞き、星龍が工場の出口を指し示す。そこではリュミエールとフィクサードが戦闘状態に入っているが、別のエリューションに追われている以上そこを突っ切る以外に道は無い。 「行きましょう……」 幸いというべきか、アンジェリカの誘導のおかげで先発隊の面々にもまだ戦力的な余裕がある。できれば、敵の援軍が来る前に…… ●両者の差 再度天井から飛来し、アンジェリカが気糸を紡いでフィクサードの片方を拘束する。一時的な麻痺だが、この場では値千金と言っていいだろう。先発隊のデュランダルがメガクラッシュを放ち、拘束されたフィクサードを吹き飛ばす。残りの一人をブロックするリュミエールの脇を抜け、彼等は外へと飛び出していった。 「待て、てめぇら――」 しんがりの星龍を追おうとしたフィクサードに、先発隊を追ってきていたエリューションが飛び掛る。 追っ手が足止めされているのを確認して頷き、アンジェリカは楽器を取り出した。 合図となったのは、トランペットの音色だった。 これまで防御を固め、耐えていたルカルカが鉄パイプのフィクサードに残像すら生じる一撃を入れる。余裕とともに、油断を抱いていた男にはその一撃は強烈な目覚ましになったことだろう。 そして、動じた男の首に武臣の牙が食らいつく。吸血などという生易しい表現で足りるのか。食い千切られたそこから噴水のように血が流れ、男は為すすべも無く地べたに沈んだ。 「あーあ」 命を落とした仲間を前に、グリィズ・チャームが上げた第一声はそれだった。残念そう、といえばそうだろう。弱った蝉が目の前で落ちたら、きっとそんな声が出るに違いない。 「君達余裕ぶってるけど、アークがルカたちだけここにこさせたとおもうの?」 そんな一同に向けたルカルカの言葉は、軽く鼻で笑われた。だが彼等は敏感に、耳と鼻で周囲を探り出す。 注意の逸れたそのタイミングで、茉莉の生み出した炎が一帯を赤く染め上げる。 「それでは、私達はこのあたりで中座させていただきます。悪しからず」 トランペットの音色は、作戦の成功を指す。彼らが耐え忍び、時間を稼いだ成果は実ったのだ。 「給料分は相手をしてやったからね。あばよ、バカガキ共」 残されたのは瀬恋の一声。炎が掻き消えた後には、背を向けて撤退するリベリスタ達の姿があった。 これは敗走ではない。厳しい戦闘の末、彼等は勝利を手にしたのだ。……けれど。 「やられたなぁ、ははは」 座り込んだまま笑うクロエの声に、振り向いてしまう。 「じゃ、またね」 「いつか必ず、纏めてぶっ殺してやるよ!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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