●燃え尽きぬは祟り 「鬼だ。あいつらは鬼だ」 村の広場、掲げられた木に縛られた者を見て、村人たちは口々に言う。 「鬼だ」「穢れだ」「バケモノ、バケモノ」 詰る。石を投げる。蔑みの目、目、視線。睨む。怨む。 「この女は鬼だ」 群衆が指を差す。その先、掲げられた女の頭部には大きな角が生えていた。 「鬼と交わったこの男も穢れている」 群衆が怒鳴る。罵声の先、掲げられた男は潰された目玉から血交じりの涙を流した。 「鬼は災厄をもたらす」 群衆の真ん中、村長が厳かに言い放つ。視線が集まる。 「その前に退治せねばならない」 村長の手には赤々と燃える松明が在った。 「私達が鬼ですって」 暴力を受け、血を流す角の女が不敵に笑う。近付いてくる炎を、群衆の期待の表情、どこまでも冷たく見下す。 「笑わせるわ、どいつもこいつも……みんな鬼よ」 女が笑った。ケタケタ笑った。村人は不気味がった。殺せ殺せと囃して沸き立つ。 「そう、この村は、鬼の住む村」 火が点いた。 パッと燃え上がった。 ワッと声が上がった 二人が炎に包まれる。 村人が嬉々と囃す。 「みんなが私達を鬼だと言って殺すなら 私達だってみんなを、鬼を、 ――殺す。」 女は笑っていた。最期まで笑っていた。 そして、二人が真っ黒に燃え尽きた頃。 女の腹を突き破って現れたのは、黒く巨大な――鬼。 ●灰となる前に 「信仰とか、風習とか、文化とか――他人のそれを否定するのは間違ってると思う。でも」 リベリスタ達に背を向けてモニターを注視している『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が静かな声で言葉を紡いだ。 「――そういう訳にはいかない場合だってあるの」 純白の髪を靡かせて振り返る。二色の瞳が真っ直ぐにリベリスタ達を捉えた。 「『白束村』……今尚、古い風習が深く深く根付いている閉鎖的で保守的な村。 『木月・真弓』と『木月・雅臣』はそこの村人で、何処にでもいる様な新婚夫婦。身寄りがいない同士、惹かれ合ったみたいね。 二人は幸せに過ごしていた、でも――」 言葉と共にイヴがモニターへ視線を移す。そこには真弓の姿――頭部に大きな角がある彼女の姿があった。 「木月・真弓が覚醒してしまった。おそらくビーストハーフだろうね。 頭部に角を生やした彼女の姿を見て、村人たちは彼女を『鬼』と呼んで、……迫害した」 モニターに悲痛な表情を浮かべたイヴの顔が朧気に反射してリベリスタ達の目に映る。 『普通』と『異常』。 人々は己達の平穏を是が非でも守りたいが故に、『異常』を嫌う。排除しようとする。 それは遥か昔から続く、生き物の悲しき本能なのであろうか。 「迫害されたのは彼女だけじゃない。その夫である木月・雅臣もまた『鬼と交わった忌むべき者』として迫害の対象となり、そして――」 この先は言わなくても分かるであろう。モニターに燃え盛る炎が映っている。 「問題は、ここから」 振り返ったイヴがキッパリと言い放つ。その白い指がモニター上の真弓を指差していた。 「真弓のお腹の中には雅臣との子供がいるの。 その子がね、真弓が死んだ後――つまりその子も死んだ後、E・アンデッド化するの。 それも覚醒後に一気にフェーズが上がって……おそらくフェーズ2の状態になるだろうね。 怒り狂った状態のそれは村人たちを皆殺しにする。それだけじゃない、放っておけばどんどん被害が広がってゆくだろうね」 そうなる前に食い止めねばならない――それは誰の目にも明らかであった。 「真弓と雅臣は村の広場にいて、丈夫な丸太にロープで縛り付けられている。 貴方達には二人を救出して貰うわ。 二人の周りには『白束村』の村人のほとんどがいる。誰にも見られずに二人の救出をするのは物凄く難しい。時間帯も昼だから、夜陰に乗じて、っていうのも出来ないよ。 村人は高齢者が多くて、数もそんなに多くはないけど――貴方達が二人を救出するのを全力で阻止しようとするでしょうね。当たり前だけど彼らは一般人だからエリューションにするような攻撃をしちゃだめだよ。ちゃんと村人たちをどうするか考えておいて。 木月夫妻だけど、二人は村人たちからリンチを受けて傷だらけだよ。特に雅臣は……目を潰されて、意識も朦朧としている。一緒に行動するときはちゃんとフォローしてあげてね。真弓も怪我をしているし身重だから、雅臣と同様に慎重にね。 それから真弓だけど、彼女はひどく人間不信になってる。何もかも憎んでいる。ちゃんと自分達は味方だって理解して貰わないと何をするか分からないよ。でも、雅臣の言葉になら耳を貸すかもしれない。しっかり策を考えておいて。くれぐれも力づくで荒っぽい事はしないように。 二人を村の外の安全な場所に連れ出したら連絡を頂戴。アークの所属員がすぐに迎えに行くから」 そう言い終えるとイヴはリベリスタ達を見据えた。これで説明は終わりか――と思ったが、そうではないらしい。「それから」真剣な色を滲ませた声がブリーフィングルームに響く。 「もし、真弓とお腹の子が死んでしまった場合。彼女のお腹からE・アンデッドフェーズ2『黒鬼』が現れるわ。 その場合は作戦目標を『黒鬼の討伐』に切り替えて。……そういう事が起こらないのを祈るばかりだけどね。 一応『黒鬼』の説明をするね。これは見ての通りパワータイプで、力任せに戦うわ。殴られたら吹っ飛ばされるし、爪に割かれたら出血する。その重い一撃にはショックの効果もあるから十分気を付けて。 特に、噛みつき攻撃は圧倒的だよ。致命と必殺が伴う場合があるから注意してね。 ――これで説明は終わり」 言い切りの言葉と共にイヴが目を閉じた。ややあってそのオッドアイを開くと、凛とした声で告げる。 「それじゃあ、頑張ってね皆。くれぐれも気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月03日(土)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●静寂 白束村。 人の姿は無く、緑ばかりでシンと静かだった。 「『村の住人だった人達を殺す』って事、本当の意味で理解出来てる村人ってどれだけいるんだろうね。 恐怖心だとかそういうのを差っ引いてもさ、『人の心』って時折どうしようもないよね」 人々は広場に居るのだろう――辺りを見渡す『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314) は静かな眼差しで呟いた。 「正直怒ってるぜ。怖いのかもしれないけど、姿が変わったからって殺そうとするなんて信じられないぜ。 しかも真弓さんは妊婦さんなんだ……子供も絶対助けなきゃ」 それに村人達を改心させてやりたい。決意を胸に『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915) が彼方を見据える。その先には小高い山があって――聞こえてくる。確かに人々のざわめきが。 「……迷信というのも怖いものです」 沈痛な色を滲ませた紫目を閉じ『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511) は思う。もし巡り合わせがなければ、自分達だって同じような末路になっていたのだから。 必ず二人とその子供を救い、視えた運命は否定してみせる。開いた瞳に躊躇は無かった。 「幸せになるべき家族……絶対に助ける!」 目的地をしかと見据える『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434) の言葉にリベリスタ達は頷いた。 絶対に、悲劇を、止めてみせる。 ●降り立つ者は 「鬼だ」 「鬼だ」 掲げられた異形を睨む村人達。 (……何が鬼か) 『第14代目』涼羽・ライコウ(BNE002867)は目を細めた。 (隣に立っている人の顔を見てみよ。あなたたちが苛んでいる目の前の女性より、よほど鬼ではないか) 自分達と違うものに恐怖し、排除しようとする姿勢は、人としておかしくはない。しかし、彼女たちが夫婦として寄り添うと決めた時、子供を身ごもった時。それを祝福したのではないだろうか? ライコウもまた、この理不尽に不快感を覚えずにはいられなかった。 「本当に恐ろしいモノって、ヒトだよな」 群衆に対する嫌気を声に滲ませ『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082) は呟きを漏らすと、一歩踏み出しつつ凛と声を張り上げた。 「同類を掻っ攫いに来た――そこ、通してくんない?」 「!?」 突如割って入って来た声に村人達が一斉に振り返った。 そこには――鬼が。 頭部には角、荘厳な白装束を纏った異形の一団だった。 「火急の用にて御免、我等の同胞を迎えに来た」 更に羽音が響いたかと思えば、風斗と共に『歌う子烏』宮代・紅葉(BNE002726) が真弓と雅臣の前に降り立った。着陸した風斗は夫妻を守る壁の様に仁王立ちで村人達を睨み据える。彼らもまた幻視によって角を見せ、白装束を身に着けていた。 「アタシ達はそこの――木月夫妻の仲間」 突然の出来事に驚愕している村人たちが行動を起こす前に前へ出たのは『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)。彼女が前へ出た分一歩後ずさった群衆を見渡せば、超直感によって話を聞いてくれそうな者を見付けるとその者をじっと見つめて言葉を続けた。 「だから二人を我々の住む所に連れて帰りたい。そうすれば今後、アタシ達は村に一切関わらない。 災厄をもたらす鬼が消えるのは悪くないはず――でしょ?」 自分達は『鬼』なんかじゃない……だからこそ暴力は用いず、誠意を持って平和的に。 「荒事ですが緊急を要しましたので、突然このような不躾な申し出をする事をお許し下さい」 嵐子と同じく一歩出たミカサが魔眼によって村人達へ『落ち着いて』と宥めつつ丁寧に言葉を掛ける。その視界の端には夫妻へ天使の歌を飛ばして傷を癒している俊介がいた。 ミカサの魔眼の効果か、村人の多くがが未だ状況が掴めていない所為か――まだ群衆が行動を起こすのは見受けられない。だったら今こそ説得の好機とライコウも声を発した。 「異形は排除する。それはおかしい事ではない。けれど、共に暮らしてきたのでしょう? あなたたちがその手を隣人の血で濡らす事は悲しい事だ。 彼女たちは仲間だ。引き渡して頂きたいのです」 村人達が自分達の話を聞いてくれる事を心から祈って。その青目は真っ直ぐに村人たちを射抜いた――しかし。 「……だまれ化物! 化物ーッ!!」 響いたのは子供の声――少年が投げた石礫が嵐子の蟀谷にぶつかった。鈍い痛みが嵐子の脳に走る。真っ赤な血が頬を、顎を伝う。 だが彼女は平然としていた。ここで我慢しなくてはならない。自分達に敵意が無い事を示す為にも。 「化物め、騙されるものか」 「化物に屈するものか」 少年の投石を皮切りに、村人達が殺気立ってきた。矢張り村人達の説得は出来ないのだろうか……村人達の心に深く深く根ざしたそれを取り払う事は出来ないのだろうか。怒りを堪えて、大きく前に出た静が殴りかからんとしていた者の前に立ちはだかった。 「異形を恐れるか? 我に触れたら異形となるぞ」 腕を広げて村人達に脅しをかける。冷静に、それでも静の表情にはまるで自嘲の様な冷笑の様なモノが浮かんでいた。そこへ再び石が飛んでくる。それは彼の帽子を弾いて大きな耳を外気に晒させた。再び化物、と声が上がった。 「落ち着いて聞いて欲しい。貴女たち夫婦を助けにきた。貴女と旦那の傷は仲間が少し癒してくれた筈だ、安心してくれ」 「どうかこの場だけでもわたくし達を信じて下さい。 お二人さえ宜しければわたくし達の様な者でも普通に暮らせる場所を紹介できます。 どうかお二人とお腹の子の為にも……」 村人達を煽らないよう小さな声で、風斗と紅葉は夫妻に話しかけていた。 「ふ、ふ」 返事はすぐに返って来た。真弓が血濡れた唇で朧に笑う。 「とうとう幻覚? あっは、は、私、頭までオカシくなったんだァ、鬼の所為で、私が鬼だから……鬼が出た」 中空を見詰めてボンヤリ嘯く。その顔は絶望していて、失望していて、諦めていた。 「そんな都合のいい話、あるわけないじゃない。嘘ばっかり、どいつもこいつも――どいつもこいつも!! 私達が何をしたって言うの、殺してやるッ、祟ってやる、復讐してやる……!」 真弓の憎しみに満ちた声が響く。彼女の気持ちは良く分かる。今まで信じていた隣人達に殺されそうになっているのだから。風斗は拳を握り締める。それでも話を聞いてほしい――家族を喪う事がどういう事か、悲しいぐらい知っているからこそ。 「……どうか憎しみに囚われないでくれ。貴女の腹の中にいる子に、母親の憎悪に満ちた顔を見せないでやってほしい……。 貴女と貴女の夫は必ず救い出す。迫害されない土地に連れて行く。どうかそこで、産まれてくる子供に『愛』を与えてやってほしい。オレも手伝うから。頼む……っ」 「――~ッ……」 風斗の言葉に真弓が固く目を閉ざした。唇を噛み締める。聞きたくない、そう言っているかの様に。 その時だった。殺気立ってきた群衆の中から一人――石を振り上げる者が。 しかしそれは高速で村人達を突破したリセリアが立ち塞がった事で防がれる。 「これ以上彼らを傷付ける事、許しません」 凛然。鞘に収めた『セインディール』を地面に立て、村人達を静かに睥睨して威圧する。 (リセリアさんが来たって事は……) 紅葉が表情に不安を滲ませ仲間達の方を見た。そこには――村人達からの投石や罵詈雑言を一身に受ける仲間達の姿。 リセリア来たという事は、嵐子が超直感によって『これ以上の交渉は不可』と見なし合図を送ったという事。彼女は1$シュートによって夫妻へ飛ぶ石を片っ端からスナイプしていた。 「忌み嫌う鬼を討ち、血で土壌を穢すのをお望みですか。そうでは無く安寧を望んでいる筈です。今迄通りの平穏を保つには、ただ頷いて下されば良い。 ――『木月夫妻の事は我々に任せてくれますよね』」 魔眼で村人達をいなしていたミカサが赤々と燃える松明を持った村長を鋭く見据えて言い放つ。その言葉と魔眼の力で村長の動きが止まった刹那、その目の前に静がずいと現れる。その手は松明を炎ごと握り潰していた。肌が焼ける痛みに表情一つ変えず、彼は冷然とした怒りを瞳に孕ませ静かに告げる。 「鬼の心が鬼を生むんだぜ。自分が異形になったらどうするんだとか、そんなことも想像できないのか? 大人の癖に……助けあって守りあうのが人間なんじゃないのか。 姿が変わったからって同士討ちしてるあんたらの方がよほど鬼に見えるぜ。 ……次はきっとこの村は滅ぶぜ、反省して同じ過ちを繰り返すなよ」 言い終えるなり、静は返事を待たず村長を村人の方へ押し遣った。そのまま昆を握り、大勢を抑えられるよう立回る。 そんな中、村人達を押し遣り俊介が夫妻の下に辿り着いた。雅臣を視認するなり声を張り上げる。 「なぁ、雅臣サン! 俺等あんたら助けに来た! だけど、横にいる嫁サンが俺等の事信じてくんねぇんだ! 雅臣サンの口から言ってくれ! 俺等は敵じゃない。二人、いや、お腹の子供含めた三人を助けに来たって!!」 天使の歌を再び放つ。彼は自分が護る。こんな所で死んではいけない。勿論、怪我人にこんな事をさせるなんてどれだけ酷いか分かってる。それでもやってもらうしかないのだ。 (信じてくれ、頼む……!) かくして、彼の祈りが通じたのか。 「……真弓……」 意識を定かにした雅臣の口から、彼の最愛の人へ。 潰された目は真弓を捕らえる事は出来ないが、それでも彼女の方を向いた。 雅臣は今の状況を知らない。しかし霞む意識の中で聞いた声が、彼に言葉を発させたのだ。 「生きてくれ。」 掠れそうな、消え入りそうな。 だがその声は、真弓の閉ざされた心を――風斗らによって開きそうなその心を完全に開くには充分であった。 真弓が閉じていた目を見開く。夫の方を見る。それからリベリスタ達を見て、俯いて、 涙を流した。 「……ごめんなさい――」 それは『助けて』と言っている様に聞こえた。それを確認した紅葉が素早く二人の拘束を解く。 「楠神さん、奥さんの方をっ!」 雅臣を抱えつつ黒い翼を広げて紅葉が声を張る。頷いた風斗が真弓を抱えようとしたところで、 「死ねぇ化物!」 角材を振り上げた男が迫る。それからは一瞬であった。風斗が彼を容赦なく蹴っ飛ばして真弓を抱え跳び下がると村人らを睨みつけ、一喝。 「身重の女を! 子供ごと殺そうとするのが! 歳経た大人のすることかぁぁぁッ!!!」 その激しい怒気に村人達が凍り付く。そんな村人の肩に手をポンと置き、ミカサが横目に睨む。 「ねえ、覚悟の上で人を傷つけてるんだよね? ……違うなら、下がってよ」 言葉を返せぬその人を押し退け、仲間と共に夫妻の元へ向かう。 そしてリベリスタ一同が夫妻と共に揃った。それを確認した嵐子が手を出しあぐねている村人達の方へ愛用銃『Tempest』を向けるや蜂の襲撃のような連続射撃を放つ。 しかしそれは一発も村人達を掠める事は無く、全弾が地面を撃ち爆ぜさせた。それによって巻き起こったのは辺りを覆い隠す砂煙で――それが晴れた頃、もう『鬼』の姿は、そこになかった。 「くそっ……」 村人は熱り立ち、すぐ鬼達を探そうと一歩踏み出す。だが、その肩を掴む者があった。 「……もう止めよう」 悲痛な表情を浮かべた村人が仲間の肩を離さない。その傍の数人も顔を撃つ向け、あるいは首を振る。 「もう止めよう。あれを殺して、それで一体どうなるって言うんだ」 「私達のやっている事は、本当に正しい事なのだろうか?」 「――もう止めよう。止めよう」 その声は静まり返った広場に響き――振り上げられていた石が、棒きれが、地面に落ちる。 「鬼は『居た』。 でも、我々より……『人間』だった。」 俯いた村長が呟く。 どこまでも静かな風がそよいでいった。 ●これから、それから 白束村の外、山間の道路付近。 アークに連絡を付け、到着を待つ間。傷の酷い雅臣はリベリスタ達が応急処置を施し、真弓はその様子を心配げに見守っている。 そんな中、嵐子は真弓へと声をかけた。 「真弓さんに変化あったのって突然でしょ? アタシ達も突然同じ境遇になった集まりなの。 三高平市って言ってね……そこでは仲間とそれに理解のある人ばかりがいるんだよ」 「真弓さんの身に起きた事、詳しくお話しできると思います。共に来ていただけませんか?」 そこにリセリアも加わった。二人を順に見、真弓は村の方へと顔を向けた。 「そうね……私達はもう戻れないもの。その――三高平市に、私達はいても良いの?」 当たり前じゃない、勿論です、二人の声が重なった。 「あなたたちは鬼なんかじゃない。わたしたちと同じ、人なのですから」 ライコウが精悍な表情を薄く笑ませた。 「そうだ……一段落ついたら、花でも育ててみたらどうでしょう? これからは本当に新しい生き方です。価値観も何もかも変わってくる」 それはライコウなりの気遣いであった。気が詰まらないように、花を育てるくらいの余裕を持てれば、と思ったのである。そうね、とつられるように微笑んで真弓が答えた。答えながら子供を宿したお腹を摩る。 それを見た風斗が声をかける。雅臣の応急処置は済んだらしい。 「お腹の子、元気に生まれてくるといいな」 「ありがとう。……触ってみる?」 優しく微笑み言われた言葉に風斗は一瞬躊躇ったが、そろりと真弓の腹部に手を触れる。それは温かくって――命の胎動を、確かに感じた。 「あっ俺も! 俺もお腹触っていいですか?」 「勿論よ。……そこのお嬢ちゃんも遠慮しなくていいのよ?」 真弓の言葉に俊介と、遠巻きに眺めていた紅葉とがお腹に手を重ねる。 「――貴方達が護ってくれた命よ」 ありがとう。その言葉を耳に、紅葉は静かに目を伏せた。そして祈る。 (このご家族に、幸せが訪れますように) それはリベリスタ達全員の願いであった。 彼方の村を見据える静が呟く。 「もうあんな事が起こらないといいな」 「……そうだな」 ミカサの声は、森を抜ける風が吹き散らして行った。 じきにアークの迎えが来る事だろう。 ●それから、そして この日以降、白束村に『鬼』が現れる事は無くなったという。 平和な風が、収穫期を待つ青い稲穂を揺らした。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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