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絵本ナイトメア

●幻想ノンフィクション
 くすくす。うふふ。
 そこは、へいわなせかいです。
 だれもきずつきませんし、だれもきずつけません。
 どうぶつも、おはなも、おひさまも、みんなにこにこ。
 ここはえほんのせかいです。
 ここはへいわなせかいです。

 きみもおいでよ。
 こっちへおいで。
 いっしょにあそぼう。

 このせかいはへいわです。
 だれもきずつきませんし、だれもきずつけません。
 くすくす。うふふ、あはははは。

●虚実フィクション
「絵本……ほとんどの方が読んだ事があるかと思います」
 言葉と共に『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が事務椅子を回してリベリスタ達の方を向いた。その膝の上には一冊の絵本が置かれている。
「今回は皆々様に絵本のE・ゴーレムを討伐して頂きますぞ」
 コツコツ――メルクリィの機械の指が絵本の表紙を叩く音がブリーフィングルームに響く。「耳かっぽじってお聴き下さい」リベリスタ達の顔を見渡したフォーチュナはそう言うなり、静かな眼差しで説明を始めた。
「E・ゴーレムフェーズ2『不思議の夢』。先程申し上げた通り、絵本のエリューションです。
 これの最大の特徴――そして唯一の能力は『対象を異空間に引きずり込む』事です。今から詳細を説明しますぞ。
 この異空間は……言わば『不思議の夢』が次元の狭間に作り出した独壇場の領域です。
 一旦この異空間に入ったが最後、出る方法は三つ――『異空間を作り出したエリューションを倒す』『フェイトを消費してムリヤリ脱出する』『死ぬ』。
 まぁ当然ですが、皆々様には『異空間を作り出したエリューションを倒す』という選択肢を選んで頂きたく思いますぞ」
 メルクリィの言葉に『何を今更』といった表情をリベリスタ達が浮かべると、フォーチュナは苦笑を漏らして一寸肩を竦めてみせた。それから慣れた手付きでモニターを操作し、とある映像を映し出す。
 それはクレヨンと色鉛筆で子供が描いた様な、柔らかく可愛らしいデフォルメタッチのメルヘン世界。
 明るい色合いで描かれた草原には笑顔のお花が咲き乱れ、笑顔の動物達が楽しげに戯れ、木には真っ赤な実がたわわに実り、煌めく小川が流れ、空にはフワフワの雲が、にこにこ笑顔の太陽が。
 それはなんて平和で、不思議で、楽しげな世界。
「これが『不思議の夢』の異空間で、そして『不思議の夢』そのものです。
 この空間に入った者は、必ずこの様なメルヘンタッチな外見になってしまうみたいですぞ。
 ――サテ。先に申し上げた通り、皆々様には異空間を作り出したエリューション=『不思議の夢』を討伐して頂きます。
 その討伐法ですが、ズバリ空間を攻撃して下さい。この動物や、原っぱや、空や、太陽を。片っ端から攻撃してぶち壊して下さい。それこそが『不思議の夢』なのですから。
 『不思議の夢』は直接的な攻撃方法を持ってないので、防御よりも攻撃を重視した装備で行くのをオススメ致しますぞ。攻撃あるのみです。
 この空間は物凄く広く見えますが、実際はそこそこ広い部屋程度です。空間の隅に行けば『壁』や『天井』に触れる事も出来るでしょうな。
 ある程度空間を破壊したら『不思議の夢』も討伐できますぞ。討伐出来たら自動的に元の空間に戻れますんで、その辺はご安心を」
 そしてここからが由々しき大問題なのです。低い声と共にメルクリィが手を組み、真っ直ぐにリベリスタ達を見詰めた。
「『不思議の夢』を攻撃するとその個所から血の様な赤いヘドロが噴き出し、子供の絶叫が迸る……というエフェクトと共に、皆々様自身も傷ついてしまうのですよ。斬れば肌が裂け、叩けば衝撃が体を襲い、燃やせば火傷を負うって具合に。
 そして心も――『不思議の夢』を攻撃してゆくほどに皆々様の精神もズタズタになってゆきます。どうしようもなく悲しくなる、不安になる、寂しくなる、疑心暗鬼になる、恐怖を感じるetc。ヘタをしたらパニックになって混乱状態になりかねません。
 いいですか必ず対策を考えておいて下さい。お互いに励まし合う、元気や勇気が出る物を持っていくってのも良いかもしれませんな。
 ……次に場所について説明致しますぞ、あとちょっとなんで集中して聴いて下さいね」
 メルクリィがモニターを操作した。モニター上に映し出されるのは二つの画像――廃屋とその書斎らしき部屋だ。埃が積って薄暗い。
「『不思議の夢』はこの廃屋の書斎の中にあります。書斎に近付いただけで異空間内に引きずり込まれるでしょうな。なので完全に安全な場所から一方的に『不思議の夢』を破壊する事は無理と言って良いでしょう。
 『不思議の夢』が異空間内にいる間は、当然ですが通常次元の空間にはいません。つまり外部から直接本を燃やすなどの戦法はとれませんのでその辺注意しといて下さいね。
 時間帯は夜ですが異空間内は明るいです。一般人がやって来る事は当然ないでしょうな。それとこの廃屋、鍵がかかっていますんでその辺の対策も考えておいて下さいね。まぁ窓をカチ割るぐらいなら大丈夫でしょうけど……後で間取りのコピーも渡しておくんでご活用下さい。
 ――以上で説明はおしまいです。……無茶は禁物ですぞ、皆々様」
 そう言った瞬間、メルクリィの膝から絵本が落ちた。
 あ。集まる視線。
 バサリ。広がるのは最後のページ。

 『めでたしめでたし。』

 そんな文字の列。たった8文字。
 それをゆっくり拾い上げたメルクリィは絵本を手にしたまま、リベリスタ達の顔をもう一度しっかりと見渡した。
「『めでたしめでたし』――その言葉が世界で一番相応しいのは、皆々様リベリスタです。
 ……頑張って下さいね! 応援しとりますぞ。」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月26日(土)23:25
●目標
E・ゴーレムフェーズ2『不思議の夢』の討伐

●登場
E・ゴーレムフェーズ2『不思議の夢』
 『対象を異空間に引きずり込む』という能力を持つ絵本のE・ゴーレム
 直接的な攻撃方法は持たない
 異空間=『不思議の夢』を攻撃すると、その個所から血の様なヘドロと子供の絶叫が噴き出す。また、攻撃した者も心身共に傷つく(混乱してしまう可能性あり)
 異空間からは『不思議の夢』を倒すか、フェイトを使用する事で脱出可能

●場所
1:閑静な住宅街にある廃屋。そんなに老朽化していないので床が抜けたりする事は無い
  出入り口のドアや窓には鍵がかかっている
  時間帯は夜、暗い

2:『不思議の夢』の異空間
  メルヘンタッチで可愛らしい絵本の世界。草原には動物(犬や猫や馬など)、花、木、小川がある
  青空には雲と太陽。広さはそこそこ広い部屋程度
  この空間内では、全員鉛筆やクレヨンで描かれた様な可愛いデフォルメ姿になる(能力値に変化は無し)

●その他
 外部から直接『不思議の夢』を破壊する事は不可能
 書斎に近付くと異空間内に引きずり込まれる
 一般人は来ない
 メルクリィから廃屋の間取りは手渡されている

●STより
 こんにちは、ガンマです。
 メルヘン臭。
 皆様のご参加を楽しみにしております!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)
ホーリーメイガス
リサリサ・J・丸田(BNE002558)
デュランダル
有馬 守羅(BNE002974)
プロアデプト
宵咲 刹姫(BNE003089)
ソードミラージュ
マク・アヌ(BNE003173)

●みんなでいこう
 静かな夜の街。静まり返った住宅街。
 雑草だらけの廃屋、リベリスタの目の前には扉が一つ。

「絵本が目覚めてしまうなんて……。
 きっと持ち主はとても……とてもこの本を大事にしていたのではないでしょうか……」
 主を無くした家を見上げ、『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)は静かに呟いた。
 周囲はシンと静まり返っている。人の気配も全く感じられない。『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の張った強結界がやって来る有象無象を許さない。
 当の本人は廃屋の間取りのコピーを懐中電灯で照らして目的地の再確認を行っていた。それが一通り済んだ所で顔を上げれば『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)の薄氷色の双眸と視線が合う。アウラールが頷く。その手が廃屋のドアノブを掴む。

 その手は静かに、音も無く、ドアノブを捻じ切った。

「廃屋つっても、まだ十分住めそうだよなー」
 手にした懐中電灯で辺りを照らしながら宵咲 刹姫(BNE003089)は埃だらけの廃屋を見渡す。
 一歩の毎に古びた床はギシリギシリ、久方ぶりの来訪者を快く迎えてくれる気は無いらしい。
「子供の絵本が書斎――親の部屋に置いてあるって事は、だ。
 この家の住人はめでたしめでたしで終わらなかったのかねぇ?」
 なんて、探偵気取りな言葉を吐いて、仲間と共に照らしたのは書斎への扉。この先に不思議の夢が居るのであろう。
「絵本食べる美味しいれすか?」
 引き摺る髪の毛を埃まみれに『髪の毛お化け』マク・アヌ(BNE003173)は涎を拭う。
「………。」
 その一歩後ろ、『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)は手にした愛銃Tempestをくるくると手の中で弄んでいた。
(小さい頃から色々見てきたし生半可なことじゃ動じないけど……)
 幼少期からリベリスタとして生きてきた嵐子はくぐり抜けてきた戦場の数だけ経験を積んでいるが……こういったものは非常に珍しい。正直、少し楽しみでもある。
「絵本読んだのって何時が最後だっけ、小さい頃は読んでいたけど」
 昔の記憶は朧気で、成長の自覚は曖昧。いつから自分は絵本を読まなくなったのだろう、と『定めず黙さず』有馬 守羅(BNE002974)は思い返す。
「ほのぼのテクスチャを一枚めくるとドロドロ、よくあること。
 だけど、基本的にメルヘンに停滞とか言う言葉ってないよね。
 平和になったら物語は終わってしまうし。だから夢ね」
 夢。そう、不思議な、不思議な不思議な――

  ――意識が景色が視界が世界が、全てが揺らいだ。

●えほんのせかい
 人の心の根本にある欲求の一つとして破壊衝動というものがある。
 これは人間が生まれた時から持っているもので、例を挙げるとするならばよく子供が積み立てた積木や砂場のトンネルを壊して喜ぶようなものである。
「――私には幼少の記憶などありませんがその気持ちはよく解ります」
 ヒラリと揺れるホワイトブリム、棘付き機動装甲のメイド服。
 超強化超改造を施された対戦車ライフル九七式自動砲・改式「虎殺し」を構える『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の姿は――

 まるで子供がクレヨンで描いたかの様な、メルヘンタッチ。

「え……ええっ!? 皆さんその姿は…… ワタシもっ!?」
 リサリサは信じられない光景に狼狽している。自分の体を触ったり、小川を覗きこんで確認してみたり、慌てっぱなしだ。
 そんなリサリサを余所にモニカは。
「要は私が今回参加した理由はこのメルヘン世界を思いっきりぶっ壊したいからなんですね」
 何故だなんて訊かないでくださいね。本来ならばゴッツイ虎殺しまでもがオモチャの様で、『じゃきーん』と効果音が聞こえてきそうな。
 ……というのも意に介さず、モニカは驚異的な集中により射手の感覚を研ぎ澄ます。オモチャみたいな虎殺しをメルヘンな世界へ『じゃきーん』と向ける。
 自分自身の砲撃が形を変えてでも自身へ返って来る事に少し関心がある。滅多にない機会。自分の攻撃が実際どれだけ痛いか参考にしたい。そんな自分は大御堂重工三高平支部代表取締役補佐兼局地戦闘兵器試作開発室室長。
「我々はこのメルヘン世界を破壊し尽くすことを……強いられているんだ!」

  キリッ!

「いや、特に意味はありません。ただのネタです」
「ネタなのかよ」
 同じくメルヘンタッチなアウラールは可愛らしくデフォルメされた表情で苦笑した。モニカにオートキュアを施すと――エフェクトまできらきらメルヘンチックで感心する。
「なんだかイヴの絵みたいだな」
 見渡す世界。
 明るい色合いで描かれた草原には笑顔のお花、楽しげな笑顔の動物達、真っ赤な実を付けた木に、清らかな小川、見上げれば晴れた空にフワフワの雲、にこにこ笑顔の太陽。
 楽しげで、不思議で、平和。正に絵本の世界。

「誰も泣かないでいい世界か……それを人類が手に入れる日なんて……。いや、いつか来るといいな」

 取り敢えずはこの『嘘』を壊してしまわないと。
 今はそれが必要な事なのだから。
 ライフルを取り出し、構える。
 そんなアウラールを、仲間達を、この不思議な世界を携帯電話で暢気にパシャパシャ撮影しまくっているのは刹姫であった。
「おおぅ、ちょーメルヘン」
 撮りまくる撮りまくる。カメラを向ければ可愛い動物達が「ボクも写して」とはしゃぎ寄って来る。お花は「かわいく撮ってね」とウインクしてくる。なので遠慮なく撮りまくった。
「絵本かー……あんま内容覚えてねぇや。こう、本を開くと目が閉じる不治の病的な?
 ぐっすり眠れてスッキリ目が覚めるんだよねー……うん、何の話だっけ? まぁ、良いか」
 一頻り撮った所で最後にメルヘン姿な自分を映し、刹姫は携帯電話を仕舞いこむ。
 焦る必要はない。のんびりやるか。
 刹姫の視界の果てでは、嵐子が動物の背に乗って走ったり、お花畑でごろごろ転がったりと不思議な夢を思いっ切り満喫している。
「折角の機会だしすぐに壊しちゃうのももったいないよね」
 クレヨンで描かれた様な原っぱに大の字に寝転んで、深呼吸。
 それぞれがメルヘン世界を満喫する中、ファンシータッチな守羅は溜息を吐いていた。
 超幻影でこのメルヘン姿を何とかしようと思ったのだが、逆に違和感しか感じないだろう。周りは書割りなんだろうか、なんて思いつつ大太刀を構えた。

 サテ、そろそろ満喫タイムも良いだろう。
 モニカは足元にラジカセ(勿論メルヘンタッチ)を置き、スイッチを入れる。
 始まったのは『ドスケベ魔法少女めいでん☆モニカのテーマソング』。因みに自作。
 ふんわかぱっぱー、ふんわかぱっぱー。その音量を調節し、右手の兵器を構える。
 虎殺しがファンシーに火を噴いた。メルヘンな銃声が響いた。銃弾の豪雨、連続射撃。
 それは動物達を、お花畑を、木々を、小川を、空を、雲を、有象無象を悉く穿ち穿ち穿つ。
 瞬間、皆の鼓膜を劈いたのは凄まじい悲鳴――あちらこちらから噴き上がり降り注ぐ血の様なヘドロ。
「うわッ!?」
 アウラールは咄嗟に跳んでヘドロを躱した。べちゃりべちゃり、鉄臭い。血の臭い。
 自分の手を汚すのは厭わない……が、服だけは極力避けたい。取り敢えず服が汚れずにすんだので一息を、モニカの方へ「大丈夫か」と目を遣った。
「……。」
 ふんわかぱっぱー、ふんわかぱっぱー。自作曲の中、モニカは黙って俯いている。虎殺しから色鉛筆で描いた様な硝煙が立ち上っている。
 瞬間だった。
「…… ――ごほ、」
 血の塊を吐く。見ればその全身がみるみる真っ赤に染まってゆく。
 まるで『全身に銃弾を浴びた』かの様な。
「モニカさん、しっかり……!」
 よろめくモニカにリサリサは励ましの言葉と共に詠唱を、癒しの微風を。
 成程フォーチュナが言っていた事は本当らしい。
 そして、高い火力・広い攻撃範囲ほど返って来るダメージも大きいようだ。
 自分は回復に専念しないと、と思いつつリサリサは不思議の夢を見渡した。ライフルの引き金を引いたアウラールも噛み締めた歯列から苦痛の声を漏らし、メガクラッシュを放ち身体から鮮血を迸らせた守羅へは守護結界を張り終えたフツが傷癒術を施す。
「懐かしいようなそれでいて初めてのようなこの感覚……ここは一体……」
 拭えぬ疑問を胸に、仲間の為に碧眼の大和撫子は再度詠唱を開始した。

 一方、その隅、奥の方。
 クレヨンで描いた様な髪を引き摺り、マクはひたすら不思議な夢に喰らい付いていた。

 ばりばりびちゃびちゃ。
 せかいをたべる。
 びりびりびちゃびちゃ。
 なくこえがする。

 噛めば噛まれた様な痛みが、血が、ヘドロが悲鳴が。
 咀嚼の度に痛い、痛い、痛い。

 自分が食べるのは世界か子供かはたまた自分か何か何だわからないからわからない。
 分かるのは『美味しい』『もっと食べたい』『痛い』

 悲鳴。悲鳴。いたいいたい。痛い。脳が蕩ける。満たされてゆく胃袋の恍惚と身体を食い千切り貪る激痛と。

 がりがりびちゃびちゃ。
 ごりごりびちゃびちゃ。

「おなか すいた もっとたべる」

 骨が砕けた。ハラワタが捩れた。皮膚が破けた。血反吐を吐いた。
 それでも食べたい。もっと食べたい。何を食べたい?何を食べているんだった?自分は何だ?『何』ってなんだ?
 赤いヘドロと自分の血潮の中で、自我と理性と意識すら飛んだ恍惚の中で、運命すら食欲に捧げて、少女は世界と自分を貪り続ける。

(一気に壊しすぎると反動大……か)
 急ぐ必要も無い。無理をする必要も無い。ならばマイペースにやるのみだ――嵐子はTempestを構え、守羅がメガクラッシュで斬った瞬間のヘドロが出た個所を狙い、撃つ。
「つッ――!」
 普通に攻撃した時と変わらぬ痛み。ズキンと痛むのは傷口だけでなく、心。足元から這い上がって来る様な不安を押し殺し、超直感で用心深く辺りを観察する。
(攻撃すると異空間がアタシ達を拒絶しようとする感じなのかな?)
 メルヘンチックな言動と共に攻撃すればよかったりして。深呼吸をしてから、ファンシータッチの表情をニッコリ笑ませてメルヘンTempestを木へ構えた。

「そうだ! この川のほとりにおうちを建てよう!」

 ばきゅぅーん。音までファンシー。しかし打って変って絶叫と共にへし折れる木。吹き上がるヘドロ。焼けるように痛む身体、トラウマを目の前に突き付けられた様な嫌悪感。鳥肌が立つ。意識がクラリ。フツの傷癒術で傷は大丈夫だが――心が。
「……はぁ、気分転換しよっと」
 ファンシーフォルムな愛銃を下ろし一息。傍にいたファンシー僧侶フツも「そうだな」と頷き、皆へと振り返った。
「皆、お疲れさん! ちょっくら休憩にしようぜ」

●らんちたいむ
「悲鳴はやめてー! うわあー! ぬこを攻撃するなんてぇえええーーッ!!」
 なんて、着々とお茶の準備をしていたフツへ、メルヘンアウラールがずどーん突進。「ぐわぁ」と悲鳴を上げたメルヘン僧侶をお花畑に押し倒してしがみつく。
 どうやら攻撃によって精神がやられたらしい。「俺はお兄さんだから泣かないけどなっ!」と言っていたさっきのアウラールは何処へやら。
 フツはそんな彼をしっかり受け止め――引っ叩く!
「バカヤロウ!」
 2HIT!
「バカヤロウ!!」
 3HIT!
「バカヤロウ!!!」
 4HIT!

「オレが、オレ達がついてるだろ!」

 5HIT! CRITICAL!!
「…… っっ!」
 アウラールは漸く正気に戻ったらしい。ハッとして立ち上がり、それから……後から後からジンジンくる両頬を抑えて、その痛みにフルフル震えて涙がポロリ。
 そんな一部始終を刹姫はガン見しつつ携帯のムービーでしっかり収めた。見た目なんざ想像力でカバー!ゴチんなります。携帯を仕舞い、ビニールシートを敷いてお弁当を広げてピクニックムード全開!
「頑張って早起きしてお弁当も作って来たんだ!」
 ただ問題は皆が真っ赤っ赤でシュールなのだが――問題無い、「拭うのにどうぞ」とアウラールが小川で水を汲みヤカンでお湯を沸かしている。
「凹んでいる時こそ甘味、甘味は別腹、甘味は友達!」
 更に刹姫は饅頭も用意。
「つぶ餡、こし餡、白餡、鶯餡、ろし餡! あたいも見分けが付かない、味も見た目も自信作だぜ」
 ろし餡。ロシアンルーレットと掛けているなんてオシャレスギル。
 お弁当は守羅も準備して来たようだ。いつもよりおかず多目――野菜炒めとか卵焼きとか定番になっちゃったけども。
「ワタシはまだまだ経験が浅く、正直なところお役に立てる事も限られています。
 でも得意の料理でお役に立てればと腕をふるってみました……」
 リサリサもジャジャンと見事なお弁当を。守羅がちょっと目を逸らしたのは内緒。
 フツが準備したお茶はモニカがメイドらしく配膳し、また後片付けもテキパキと行ってゆく。
(皆と同じ席で食事、というのはメイドとしてどうかと思うので)
 適当なカロリー食品を頬張りつつ、見遣る方向には楽しげに盛り上がる仲間達。
「あ、それウマイな。おかわり」
「ほい。……砂糖入り麦茶、なかなか美味いな」
「だろ?」
 アウラールが用意した味噌カツサンドを頬張り、フツは自らのAFに視線を。愛する彼女や下宿に居る猫の写真。和む心。
 そこへ聞こえてくるのは守羅のベース、嵐子がラジカセで流すパンクロック……ではなく落ち着いた曲、悲鳴――悲鳴!?
「大好きなゲームで気分転換……って間違ってホラーゲーム持ってきちゃった」
 てへ。肩を竦める。でも、と発想。この異空間もゲームだと思えばいいじゃん!
 一通り満腹になった所でアウラールも歌い出す。ここは絵本の世界だ、稀には童心に返るのもいいだろう。

 フィンランド民謡:こねこの病気

  かわいいこねこは 病気です
  一日やすんで ねていたら
  あしたは病気が よくなって
  楽しくみんなで あそぼうね

 暗い曲調。
「はうっ……逆に鬱!?」
「これはげーむだよ、げーむ」
 割って入った嵐子の棒読み。ドスケベ魔法少女めいでん☆モニカのテーマソングの音量を大にするモニカ。

 ふんわかぱっぱー、ふんわかぱっぱー。

●ばいばいめるへん
 任務を再開する。
 励まし合う。お陰で混乱し暴れ出す者もいない。
 身体が傷付けば癒す。心が傷付けば皆で歌を、楽しく歌を。

 めでたしめでたしで終われる事を願って。

「えぇ、きっとそれで終わらせてみせる」
 リサリサは何度でも詠唱する。失った精神力は刹姫が供給する。
 守羅も痛覚遮断で気を研ぎ澄まし、大太刀を思い切り振り上げた。
 全エネルギーを込めて、一閃――

 その、瞬間。

  意識が景色が視界が世界が、全てが揺らいで。

 気が付いたら埃だらけの書斎に居た。
 もう自分達の身体も、景色も、メルヘンタッチなそれではない。
 どうやら異空間から戻ったらしい。勝利したようだ――リベリスタ達の目の前で、開かれた絵本がボロボロに朽ちてゆく。
「終わったみたいね」
「そのようですね」
 嵐子とモニカは銃をAFへ、守羅はヤレヤレと息を吐き、フツはお疲れさんと仲間を労った。
 倒した絵本を読むつもりだった刹姫はちょっと残念そうだ。マクは食べ物を探して廃屋内の何処へやら。
「やさしい嘘で出来た世界は偽りだけれど。
 でもせめて、子供達にはそれを掬い上げてやりたいと思うよ」
 朽ち果て無くなった絵本が合った場所を静かに見下ろし、アウラールは呟く。
 そうそう、それから。
「……サンド余っちゃったな」
 メルクリィに持って行くか。

 皆が去って行く、静かになってゆく、廃屋、書斎。
 最後にリサリサは主人の無い部屋を見渡した。

 読まれることない本ほど悲しいものはない。
 この本の伝えたかった事、今回の体験、不思議な不思議な夢物語を残らず一人でも多くの人に伝えよう。

「そう、この素敵で不思議な絵本のお話が本当に絵本になるように。」




『めでたしめでたし』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ:
「お疲れ様です皆々様、ご無事で何よりですぞ!
 あ、それと味噌カツサンドごちそうさまです。美味しかったですぞー!
 ではでは、ゆっくり休んで体の疲れを取って下さいね。」

 だそうです。お疲れ様でした。
 如何だったでしょうか。
 これからの依頼も頑張って下さいね。
 お疲れ様でした、ご参加ありがとうございました!