●雷 曇天は不気味な音を轟かせ、雷光が瞬く。 人の手が窓を叩くように大きな雨粒が窓を、戸を、叩きつけていた。 外には誰も居ない。 部屋の一室。分厚いカーテンの隙間から、幼い二つの瞳が不穏な空を見ていた。 怖いもの見たさの好奇心の前で、鈍色の雲が幾重にも重なった空が――歪む。 幼い瞳は魅入られたように天空を見つめる。 母親の諫める声の一つも届かず、雷鳴と心音ばかりが耳に響く。 不意に。それは迸る光を纏い、落ちる。 黒い異物が、墜ちた。 酷い落雷のような轟音。 雷獣が咆える。唸る。 硬質な尖爪を突き立てて身を起こす。 脈に合わせてとめどなく血が滴り、雨が混じって窪みを満たしていく。 不快な雨は熱を保つ濡らし、鎧皮の剥がれ落ちた肉に沁み込む。 ついと、瞬く電光を吸収する。明かりは爆ぜ、微かに身を癒した。 乾きを満たすには足りず、本能のままに雷鳴を響かせる。 獣の身から強い光を放った瞬間、いくつものカーテンから漏れていた光が消えた。 きゃあきゃあと混乱したような悲鳴を聞きながら、雷獣は身に満ちる力を感じ――天を睨んでいた。 ●雷の獣身 「この中で、雷好きはいるかい?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がコンピュータを操る手を止め、リベリスタと視線を交わす。 素直に首を縦や横に震わせる者、まさかと予感した者――およそ二通りの反応を横目に、青年の指先がコンソールを叩く。 「ああ、今回の任務の相手は……雷。異世界からの『雷獣』さ」 モニターに映し出されるのは平坦な屋上。 生憎の豪雨によって屋上は暗く、出入り口の蛍光灯が点滅するだけ。全貌は判然としない。 「アザーバイドは一体、しかも手負いでね。 どうも上位世界のルーザーらしいが、知っているだろ? 手負いの獣は獰猛だ」 つと、伸暁が目を伏せた次の瞬間。 バックグラウンドと化していたモニターがまばゆい光を放ち、同時に鳴り響く落雷音。 誰かが轟音に耳を塞いだ。 誰かが、闇夜の黒よりも深い黒に目を凝らす。 点滅する光を頼りに見る姿に小さく息を飲んだ。 形だけを見れば狼、大きさだけを見れば大熊よりも一回り大きく4~5M程度。 伸暁の『手負いの獣』のフレーズを肯定するように、所々に赤く、抉られた傷が見える。 足元に目を落とせば、落ちた衝撃で浅く凹みができているようだった。コンクリートも罅割れているかもしれない。 ぱしり、ぱちり、音を立てて雷獣のその身の上で細い稲光が踊る。 「この巨体だ、辛うじて開いてる程度のホールに押しこむ選択肢は無いに等しい。 現地であてもなく探すような余裕も無いだろう?」 伸暁が後ろ手に画面を小突く。 そこは暗い雲の中、どこに虫食い穴があるかの判別も出来ない。 ――ぱしん! 注視していた先、音を立て、蛍光灯が爆ぜた。 「そうそう。自分が傷を負ったらどうする?」 リベリスタが目を瞬かせた。 そのままじっと蹲って死を待つ? 生きようと手を尽くし足掻く? それとも――? 伸暁の背後で雷鳴が唸る。 「このアザーバイドも同じらしい。 ここで取り逃がすと……ここ、近くの病院に向かう。 本能的にその傷を癒すのに最適な場所を知っているらしくてね。 それで向かう途中の電力、病院の緊急用電源も全て喰らい尽くして傷を癒すってわけだ。 さっき、そこのライトが爆ぜたのも雷獣の仕業さ」 夜とはいえ、もしも、それを許したらどうなるのか? 冗談を含ませた口振りを止め、口には出さずに伸暁は椅子を引いて立ち上がる。 モニターに浮かんだ簡易地図の上でバツ印が二つ、一定のリズムを刻む。 ……手負いの獣を仕留める理由はそこにあるようだった。 「出現ポイントはあるマンションの屋上、およそ0時頃。 その屋上は普段誰かが出入りするようなことはなくてね、遮蔽物も無ければフェンスも無い」 戦場は雷を伴う豪雨、何の光も高所。 渋面を覗かせたリベリスタに青年は口角を上げる。 それは決して任せる事の次第を楽観したものでも、匙を投げたものでもなかった。 白い会議用テーブルに手をつき、前に身体を傾けた彼は笑みを深める。 「ここは一つ、クールにキメてきてくれ。 ……何と言っても、出来ると思ったからこそ任せるんだ。頼んだよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:彦葉 庵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月13日(火)21:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雷鳴 駆け上がる。腰に手にと備えた人工の光が足元を照らす。 雷鳴が響く。停電騒ぎの声を悲鳴に変える主は異世界の獣か、自然の代物か。 身体から滴る水でコンクリートの階段が濡れる。水が跳ねた。 暗闇の中、鍵を捻じ込んでノブに手をかけた。開け放つ。 扉の先。互いに来訪者を睨めつけ――金色が閃いた。 余りの熱量に懐中電灯が手を離れた。破片が階段を転げ落ちていく。 迸る雷光に雨粒と、それから蛍光灯の硝子片がキラキラと光を乱反射する。 妙に、プラスチックの焦げた臭いが鼻をついた。 ● 光焔 「前に出る!」 「気を付けろよ!」 先陣を切って『月刃』架凪 殊子(BNE002468)が雨中に躍り出る。用を成さなくなった懐中電灯は打ち捨てた。ゴーグルで目元の雨を凌ぐ。 一段スピードを上げれば、雨を孕み始めた白の髪が翻った。――目指すは雷獣。 袖で目元を拭い『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194)が叫ぶ。うるさい雨音に呑まれそうだ。 続く『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439) 、『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654) の手にも懐中電灯の灯りはない。 (ボクも予期していたこととはいえ、これほどとは) 天候、足場、戦いの舞台は不利だ。リベリスタに共通して認識された事実である。 「それでも……雷の申し子の如しと言えど、勝たねばならぬ闘いです」 互いに手の中で爆ぜた痛みを露も見せず、剣を、アーチェリーを、強く握る。 「雷の化身、必ず捉えて見せます」 「恨みがあるわけではないが、世界を蹂躙されるのを見過ごすわけにはいかなくてな」 真琴が一歩前に出たところへ『#21:The World』八雲 蒼夜(BNE002384) が並ぶ。 赤と黒。両者両眼で暗闇の中の雷獣に目を凝らす。頭が冷え、読み取り得る情報を脳で構築していく。プロアデプトの格段の集中領域に至れば、ゴーグルに付いては流れ落ちる雫も、張り付く黒髪も気にならない。 それでも――深夜、雷雨のもと、光なく得られる情報は限られる。不定期に弾ける雷光を身にまとう雷獣の捕捉は、現時点では出来なくもない。しかし、戦場となる屋上の把握は困難だ。 腕が空を切り、赤い光が暗闇を裂いた。 『シャーマニックプリンセス』緋袴 雅(BNE001966)が振り被り、勢い良く光焔を投げた。 発炎筒が煌々と光り、赤く周囲を照らす。 「……贅沢は言えませんね」 「それでも、格段に違うよ」 発炎筒は水中でも消えない代わり、持続時間と準備できた数、そして補給の手間のネックはある。それでも、視界は開かれた。 雨合羽を纏った四条・理央(BNE000319)が雨避けのサンバイザーを抑える。屋上の広さと敵と味方の位置ならば十分に把握できる。 印を結び守護の結界を展開する。散らばったリベリスタの足元で薄く円陣が浮かび、即座に燐光となり身に吸いこまれた。 「戦闘レベル、ターゲットロック完了」 『億千万の棘茨荊』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)も並び立ちフィンガーバレットの照準を合わせる。狙う先は雷獣の足。 「エクスターミネート、スタート」 ● 化身 世界に落ちた雷獣は、一つの世界の敗者である。 ゆえに手負いでゆえに命を長らえ、リベリスタと対峙した。 リベリスタはペントハウスを背に構え、殊子とレンが先陣を切った。 「この程度のビリビリでっ……!」 獣の臭いを感じた瞬間、前列、殊子が歯を食いしばる。間合いに踏み込んだほんの一瞬、末端の痺れに反応が遅れた。 抉られた脇腹を抑える。速い身のこなしと、間近でかち合った獰猛な瞳に背筋が震えて、笑った。 その瞳は鋭く、敗者の心は持ち合わせていないと雄弁に物語る。 「悪いが、この先には行かせない」 「私達もまたお前が倒すべき敵だ。私達に勝てるか? 雷獣」 発炎筒の光に逆らった影を従え、レンが黒条で頭部を打った。雷獣は新たに溢れる血に牙を剥く。 雷獣はその身で円を描き、突き立ったナイフを振り払う。ぱちりと奔った電光に指先が痛んだ。 着地した靴が水膜の上を滑った。光源から少し距離が出来て、影は暗闇に紛れて揺れる。 二尾を揺らめかせた雷獣に真琴が真っ向からぶつかった。彼女は淡く輝き光る鎧を身に纏って、両腕で押す。 (自分の後ろにいる人を守り抜くことこそ、クロスイージスたる由縁……!) 額と盾が押し合い競る。長靴でもその重みに押されながら、がんとして踏みとどまった。 獣の血混じりの吐息が真琴の頬を撫でていく。 (雷の化身にも関わらず、電撃や衝撃への耐性が無いのは意外でしたが) 漆黒のアーチェリーがひたと狙いを据える。 異世界でのランクは分からないが、雷獣の能力は高い。ならば耐性を持たないからこそ、こうして手負いとなったか――それとも。 「それとも、持つ必要が無かったのですか」 雷撃を吸収する獣の肢体は丸のまま雷を呑みこむ。傷を癒す。効率次第では衝撃に対する耐性も必要性を失する? 雷の化身ははたして進化過程の中途の存在か? それとも、戦いを好み痛みを残すためにあえて進化を止めたのか? レイチェルの唇がほんのりと薄く歪む。黒猫の耳がぴっと雨の雫を弾いた。 ――神気閃光。 一瞬、神秘の力が一帯を焼き払う。 避けきれぬ力に当てられた雷獣が頭を振った。 「戦闘システム、オールグリーン……狙撃します」 レイチェルの閃光に続き蒼夜、エーデルワイスが続く。蒼夜のバレルから蒼い糸が放たれ、エーデルワイスのバウンティショットが唸る。 「っ、逸れました」 「……当たりだ。中央に誘導する」 レイチェルの狙い通り、命中率の底上げは叶った。エーデルワイスの仁義の誓いも運命を引き寄せた。 それでも相手は回避と速度に長けた獣。同一の足を狙った攻撃は片や逸れ、片やピンポイントに肉を抉る。 蒼夜は敵意の込められた、憎々しげな瞳に苦く笑う。 世界は命あって成り立つ、ゆえに命を護れずして世界を護ること足りえない。しかし、護ろうとすれば武器を手に取り目の前の命を奪う他ない。 「皮肉だな」 呟きは、跳ねた水音に消えた。 雅に抱えられ、九六式軽機関銃が火を噴いた。細身の体で重い衝撃を堪える。 「蜂の巣にしてやります」 発炎筒を放ったものの対峙した形で、さらに後衛の位置から右後ろ足は狙い難い。蒼夜目掛けて降ろされた前肢の片方を撃った。 「残り時間は――」 守護結界を展開してからぎりぎり、残り一分。前衛三名の位置へ目を戻す。 手負いとはいえ一定の素早さを保つ雷獣を相手取り、動きが激しい。数歩前に出て、印を組む。 サンバイザーの隙間から伝ってくる雨粒も拭わず、青い双眸で見据える。 呪印が幾重にも雷獣を囲む。迸る青白い雷が呪印を弾き、砕く。理央の柳眉が歪み、笑みの代わりに息を吐き出す。 「はっ……雷獣、大人しく縛られるんだね」 呪縛が雷獣の足を阻んだ。 殊子が面接着で均衡を保っていた足を踏み切る。雷獣が立て直すよりも先に、淀みなく刃が傷口を撫でる。 レンが続く。暗闇に溶けた影の一筋が穿つ。 「俺たちじゃ返してやれないから。……ごめんな」 レンが呟く。小さな言葉は雨に啄ばまれ、血の混じった水と流れていく。 唯一、暗闇に関わらず色付きの風景を捉える少年の目には、薄黒い床の上、生々しく赤が栄えていた。 「お前が悪いわけじゃない。誰にも罪はない」 ここに落ちたのも、手負いになったことも、雷獣という危険な身であったことも。何が不幸だったなんて誰にもわからない。 神々しい光を纏って真琴が、蒼夜に向かった牙を受け止める。 硬質な金属音の下で、両腕を血が濡らしていた。 空が重々しく唸り稲光が瞬く。雨は絶え間なく肌を伝い水溜りに同化する。 (ただ、運が悪かったんだ。) ● 雷霆 屋上では自然界のもたらす落雷の比にならない光が閃き、命をしのぎをと削りあっていた。 準備に程度の差は生みながら、豪雨にさらされた身は冷えていく。重くなる髪や衣が疲労を誘った。 前衛が後衛に向かう攻撃を庇うほど、幾度も癒せどじわじわと前衛の傷は増える。 簡単に仕留められない、手負いの獣の雷撃は次第に苛烈になる。 「くそ、まだ……っ」 真琴が堪えられてもレン、殊子は雷獣の攻勢を一手に引き受けるには脆かった。 理央の歌が響く。神秘が傷を癒し、奮い立たせていく。 ―――雷獣が、天が咆える。 瞬間、膨大な光量が眼前で爆ぜた。 リベリスタの身に降りかかった熱と痛みに、広域を巻き込んだ落雷と判断するのは容易かった。 真白に、まばゆ過ぎる光に目が眩んだ。咄嗟に目を庇った者の瞼の裏にも光の残像が残る。 標的となったのはレン。巨体に潰されるような圧力を一身に受け、足が地を離れた。 一瞬の隙に陣形が崩れた。 乱れればそれは必然、隙になる。 蒼夜がレンに腕を伸ばした。指先を掠める。 だが、中途で腕を掴む事は困難を極める。最悪の視界に、まして濡れ手ではグローブも滑り擦り抜ける。庇いに身を乗り出した殊子を巻きこみ、段差になった縁で踏みとどまった。 「下がれ!」 「構えて下さい!」 雷に紛れた雷遁の獣を留めようとレイチェル、蒼夜が進めた脚を急ぎ下げる。 両サイドにステップで分かれた。止まる様子の無い、ある種隙の多い雷獣にアデプトションをしかける。 射程内に捉えたとき、強烈な痺れが身体に奔る。 腕の痺れを耐えて繰り出せば、一段、雷獣のスピードが落ちる。 「雷や電気で回復するんでしたね」 身構えた雅が呟いた。猛進する雷獣を相手に振りかえる猶予は無い。 「その雷を誘導する伝導体を与える訳にはいきません」 「はい。敵に有利そうです……デストロイです」 フィンガーバレットを避雷針に向けた。初の実戦、全力を尽くすのだと息を詰め、虹彩が雷雲の光を捉えた。 「攻撃システム、セットアップ。……バウンティショット、ファイア!!」 強力な銃弾に避雷針の芯がひしゃげる。導雷針としての役割はもう担わないだろう。 同時、雅の身体に獣身がぶち当たる。 体の前で組んだ腕を物ともせず、突進によって分厚い鉄の扉に全身を強打。当たりが悪かった、骨の鈍い音が響く。 頭がぐらつく中、まるで何でも無いという風に彼は微笑んで立ち上がる。 「……避雷針の代わりに、うちから、これをあげます」 競り上がる血の塊を無視して、全身の力を注いだ。 胸に銃弾が食い込む。巨体が弾かれ、爪がコンクリートを削る。 跳ね付けられた勢いを削ぎ、息をつかず猛攻をかける。 雷獣は天に咆える。 雷鳴に理央の天使の歌が重なる。 神秘に呼び込まれた光が溢れ瞬き、鈍く銀の光が閃く。 怒り狂ったかのような猛攻の前に、レイチェル達後衛を真琴が身を盾に防ぐ。 神気閃光の合間を縫って、黒と青の一筋が身を――特別足を狙って穿つ。ナイフと銃弾が傷口を抉る。 雷獣はリベリスタ達に向けて幾重にも雷撃を迸らせる。細かく目を配る理央が尽きかける命を蘇生し底を支える。 膝をついてなお、リベリスタは命数を糧に身を起こす。運命を呼び起こし、剣を振る。 真琴――戦巫女は唇を引き結び、赤過ぎた紅を拭って荒い息を押し殺す。 「ボクを食らえたと思ったら、大間違いです」 コンクリートに大剣を突き立てる。銅鐘を叩く硬質な音がした。 光輪が波紋を広げ、災厄を打ち払う。痺れと度重なる感電の痛手を払しょくしていく。 飛躍的に観える目を駆使しても、重い突進に殊子の軽い身体は吹き飛ぶ。 「落下の浮遊感は嫌いではないが、今はそれよりも心湧き立たせるものがあるんだ。雷獣」 己の足を滑り止めにブレーキ、ギアを捻り押し上げる。 前のめりになって、血溜まりを跳ねて。挫けかけた脚を運命で立たせて駆ける。 スピード狂の殊子が、雷獣のスピードを前に大人しく黙っていられるはずが無い。 死力を尽くした巨体を三つ足で支えられるはずもなく――雷獣の身が揺らぐ。揺らいだ先は奈落。 それも、雷獣にとって奈落となる保証は予知でも得られていない。 「逃がすか!」 立ち塞がった殊子の肩に歯牙が食い込む。 「ショット、ファイア!!」 エーデルワイスのバウンティショットが横っ面を殴りつけた。血濡れた刃が抜ける。 浅い息を吐いて腕をだらりと垂れた。フィンガーバレットすら今の腕には重かった。 尚も凶暴な瞳を爛々と輝かせたまま、屋上の縁から不意と消えた。雷獣は落ちた。 ただ統制を失くしたのか、獣の矜持ゆえか。誰知らぬ心中に雷獣の口は歪んですら見えた。 「やり……ましたか?」 「……落ちた……よな」 血に汚れたさらしを押さえて、痛む肺で呼気を吐く。 蒼夜、理央がレンに手を貸し、肩を貸して引き上げる。生きているのなら追いつく内に、追わなければならない。 人命を救う一心で、足を引き摺りペントハウスに両腕をつく。 ざざ。ノイズが雨音に混じる。 レイチェルのアクセスファンタズムから、ざらざらとした音で告げられる。 「地に落ちた雷は、二度と天へは戻れません。……サヨナラです」 ―――対象『雷獣』墜落後、生命反応消滅を確認。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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