●オカシな御人 それは麗らかな昼下がり。 「~~♪ ~♪ ♪」 森に陽気な歌声が響く。 森に不思議なモノがある。 開けた場所に白いクロスの大きなテーブル、ズラリと並んだお菓子。 「♪」 肌の色、指の形、顔付き、尻尾、歌っている言葉――どれを取ってもそれは『この世界の存在』ではなかった。 それは上品な椅子に2m以上はある巨体を座させて、テーブルに並んだお菓子を機嫌良くニコニコと食べている。 ある程度お菓子が減れば、三本だけの指を器用にパチンと鳴らして魔法の様にお菓子を生み出し、再びニコニコと食べ始める。 時々香ばしい香りのする液体――おそらく『この世界』では紅茶とか呼ばれている代物――を飲む。 それはなんとも環境の良い『この世界』にすっかりご機嫌のようだった。 『誰か来ないかなぁ、是非とも語らいつつお菓子パーティとシャレこみたいものです』 穏やかな木漏れ日の中、にこやかな声でそれは呟いた。 果たして―― その背後に、忍び寄る不穏な影一つ。 ●オカシい 「皆々様、お菓子は好きですか?」 くりんと事務椅子を回してリベリスタ達に向いた『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は板チョコを齧りながら問うた。 急な質問にお互い顔を合わせる彼らの反応に機械仕掛けの男はくつくつと咽奥で笑うと、残りの板チョコをぽんと口に放ってあっという間に飲み込むなり説明を始めた。 「アザーバイドが我々のチャンネルにやって来ましたぞ。 その名も『オカシな公爵』……我々より圧倒的上位のチャンネルからやって来たアバーザイドで、その世界でも中々に高い位の方の様です」 そう言う彼の背後モニターには巨体の異形――アザーバイド。だがその雰囲気は『凶悪』という言葉とは対極にいる様な感じに思える。平和に、のほほんと、木漏れ日の中でお菓子を食べているだけだ。 「御覧の通り、『オカシな公爵』は物凄くフランクで優しい性格をしていらっしゃるそうで、楽しい事とお菓子を心から愛する御仁です。異文化に興味津々だそうですぞ。 カタコトですがこっちの世界の言語で喋って下さいます。会話の際は、ゆっくりハッキリ喋ってあげると良いでしょうな。多分早口だと聞き返されます。 公爵は指を鳴らす事で自在にお菓子を生み出す能力を持っています。あのテーブルも椅子もお茶……っぽいのが入っているカップも全てお菓子なんで、美味しく頂けますぞ。 基本的に公爵は知っているお菓子しか作れないんで――まぁ『知らないモノ』を作れないのは当たり前ですが、こっちの世界のお菓子を食べさせる事で教えてあげればそれも作って下さるかもしれませんな」 そう言うメルクリィの視線の先にはモニターに映ったお菓子がある。 何と言うか……アレだ。結構アレだ。あのお菓子達は果たして食べれるのだろうか。なにやらモコモコムニムニとしたショッキングピンクの球体、ポコポコと気泡が立つドドメ色のクリームらしき物体が乗ったメタリックな銀色の板、鮮やかなブルーのテカテカヌルヌルした立方体にハラワタの様なぐちゃっとしたモノがかかっているブツ――アレが公爵の世界のお菓子なのだろうか。 「カルチャーショックですか?」 リベリスタ達の表情を見遣ったメルクリィが楽しげに笑う。 「異文化交流において大切なのはお互いの文化を尊重しあう事ですぞ……っと、うふふ失礼。 大丈夫ですよ、公爵が作り出すお菓子は見た目こそちょっぴりアレで色合いも結構アレですが、物凄くいい香りで味も死ぬほどベリーグッドです。マジです。名古屋ウソツカナイ。 そんな訳でして一緒に楽しくお菓子パーティとシャレ込んじゃって下さい。一通り楽しんだらお帰りになられると思いますんで。 ……ま、アレです! わっかりやすぅーく言っちゃえばアレです! 『接待』です、今回の皆々様の任務は!!」 ハッハッハッ。メルクリィの笑い声がブリーフィングルームに響く。 やれやれ、コイツは……リベリスタ達が僅かに肩を竦めたところで「失礼しました」とフォーチュナは説明を再開した。 「公爵は自在に異世界同士を渡る力を持ちます。凄いですな。何でもアリですな。アザーバイトマジチートですな。 彼の作り出したバグホールは自動的に閉じるんで、ブレイクゲートは必要ないでしょう」 サテ。メルクリィが理由もなく事務椅子をくるーんと回す。回りながら言う。 「ここまで聞いたらきっと皆々様はこう思った事でしょうな。 『アザーバイドと一緒にお菓子パーティして、満足させて帰らせるだけか、ンだよ接待かよコンチキ』……って。 実はそうはいかないんですよね、これが」 言い終わりと共にメルクリィが回転を止めた。モニターを操作して画面をズームアウトすると――公爵のすぐ背後の草藪に、胡乱な影が一つ。 それは犬型のE・ビーストであった。 「E・ビーストフェーズ1『野良犬』。公爵のお菓子の匂いにつられたのか、彼を狙っています。 一体だけで戦法は噛み付くだけなんで、まぁ、苦戦する事ァ無いでしょうな。 ところで――公爵の住んでいる所は『争う』とか『死ぬ』とかいう概念がないっていう、嘘みたいにドドド平和な世界だそうです。 なんと素晴らしい……のですが、だからこそ攻撃されると吃驚仰天してパニック状態になってしまいます。 貴方達は迅速にE・ビーストを駆逐して公爵を落ち着かせ安心させる必要があります。 公爵は自ら戦おうとは……そもそも『戦う』という事がどういう事かご存知でないので戦いに参加してくれる事は無いでしょう。ですが……説得次第では、どうなるかわかりませんけどね。 ちなみに公爵のお菓子には心身の傷を癒す不思議な力があります。つくづく凄いですな、アザーバイドって……ウゥム……」 メルクリィが頬に片手を遣りつつしみじみと溜息を吐いた。その手を肘掛に預けると、 「そうそう、補足ですが公爵がお帰りになる時はちゃんと『後片付け』なさるようなのでご安心を。 それと、お菓子は手で食べるのがマナーだそうです。お手拭きはちゃんとあるみたいですぞ。サービス良いですな。 ……さーて、私からの説明はこんなモンです。もう一回聴きますか? ん? もう結構? 了解ですぞ」 変わらぬ調子で説明を終えると、メルクリィはリベリスタ達を見渡した後に苦笑交じりでこう言った。 「ところで、公爵のお菓子をちょこっと持って帰ってきて下さったら嬉しいです。 ……あ、いやその、別にアレな意味ではなくってアークで研究を――ですな、……、………。 ハイ。食べたいだけです。私が。すいません。 それじゃあ、頑張ってきて下さいね。くれぐれもお気を付けて!」 全くこのお気楽フォーチュナ野郎は。イヴを見習え――と思ったのは、リベリスタ達だけの内緒。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月22日(木)18:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●準備now 麗らかな昼下がり。 木漏れ日に満ちた森の奥は静かで、まるで時が止まっている様な錯覚を覚えてしまう穏やかさ。 その一角。 青い草にはゴザが敷かれ、その上には奇麗なテーブルクロスの大きなテーブル。 花々や風船、色紙で飾り付けられたそこは――パーティ会場。 「さてと」 メイド服を揺らして『ジキル&ハイド』蒼月 空(BNE002938)は会場を見渡した。 「公爵が満足して下さるように頑張らなくっちゃね!」 意気込み準備を進める空の傍ら、ミーシャ・レガート・ワイズマン(BNE002999)はテーブルの上に使い捨てフォークやペットボトル飲料を並べつつ眼鏡の奥から仲間を見遣る。 「接待……で、いいんですよね?」 ゴミ袋も完備、テーブルの上には紙コップ、紙皿、紅茶や皆が各自用意したお菓子。それにしても和洋折衷……お煎餅や緑茶を鼻歌交じりに並べている神谷 小夜(BNE001462)の姿が見える。 公爵が体験したことのないパーティを経験して貰うのも一興かと。 なんて小夜は言っていたが、公爵どころか誰も見た事のない和洋折衷具合だ。 「楽しんで頂けるといいですねぇ」 「そうですね。……あの、火薬の匂いしませんよね、私?」 小夜の言葉に応えたミーシャが心配げに訊ねる。念入りに体もネジ一本に至るまで洗ってきたのだが、念の為に確認。 ミーシャの体に鼻を寄せたのは飾り付けの確認を行っていた空、そうねーと一言の後に明るく笑いかける。 「大丈夫大丈夫~! あっそれと、飾り付けの方は完璧ですよ!」 「良かったぁ……」 「こっちもお菓子の準備は万端ですよ」 安堵の息を吐くミーシャの傍ら、小夜はニッコリと微笑む。空はもう一度会場を見渡すと――満足気に頷いた。 「よ~し、後は公爵が来るだけですねっ」 ●ようこそいらっしゃいませ 立ち並ぶのは異世界のお菓子、座っているのは異世界の住人、オカシな公爵。 藪の中、E・ビーストの獰猛な瞳はそれらを睨み付けていた。 グルル……唸り、牙を剥き、飛び掛かる――姿勢の儘、固まりつく。 「ようこそ、異界からの客人」 異変に気付いた公爵が振り返ったそこにはハイディ・アレンス(BNE000603)と『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)の姿、急な出来事に肩を跳ねさせる。 「わぁビックリしたー……キミら、このチャンネルの生命体かネ?」 なんて平和に、暢気に。二人のお陰で公爵の視界に野犬は映っていない。 その通りとルカは友好的に微笑んだ。 「近くにパーティ会場を設けましたので、お連れしても宜しいでしょうか。我々の世界流でのおもてなしをさせて下さい」 「なんと! ホントかネ? そりゃー嬉しいネ! 実は吾輩も誰かとお茶会がしたくってネェ」 「きっとお気に召して頂けるかと」 ルカが公爵に手を差し出した。微笑みと共に立ち上がった公爵が指をパチンと鳴らすと魔法の様にテーブルやお菓子が消えてしまい――しかし驚いている場合ではない、公爵が三本指の手を重ねた所でルカは自分達の会場へと歩き出す。 「我々は後で、すぐに参上いたします」 ハイディはルカにエスコートされていった公爵にそう一言呼びかけて――視線を鋭く、野犬へ。 「……ふっ、ワシの布団は重たかろう。なんせ、ワシの愛情がたっぷり籠っておるからな!」 野犬をトラップネストで拘束していた『布団妖怪』御布団 翁(BNE002526)は颯爽と、木漏れ日に纏った布団を輝かせてドヤ顔で言い放つ。 「茶会の邪魔はさせぬ」 悠然と立ちはだかるのは『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)、フィンガーバレットで武装した拳をゴキリと鳴らした。 「異文化コミュニケーションていうか異世界コミュニケーションだね。 初めて会うアザーバイトがこんな友好的だなんて幸先がいいね~、見た目は少し怖いけど」 魔術を高速で構築してゆきながら『R.I.P』バーン・ウィンクル(BNE003001)は公爵が去って行った方向を見遣る。 「さて。動物を躾るには圧倒的な力を見せつけるのが一番手っ取り早いて上官の誰かが言ってたよ。 良いエリューションビーストは死んだエリューションビーストだけだよね?」 言いつつ視線を戻す。魔導構築は完了。バーンをはじめ動けぬ野犬を取り囲むのは指先に式符の鴉を止まらせたハイディ、脳を素晴らしい集中領域に高めた翁。 次の瞬間、バーンの魔曲・四重奏が、ハイディの式符・鴉が、翁のピンポイントが野犬を強力に吹っ飛ばした! 「逃しはせぬ」 吹き飛ばされた野犬の背後には源一郎。言葉の刹那にはその首を掻き切っていた――返り血すら付かぬ神速の技。 頽れたそれがもう二度と動かないであろう事は、誰の目にも明らかであった。 「……うむっ、後はオカシな公爵さんを接待するのみじゃよ!」 「然様。客人を待たせるのも失礼故、参ろうか」 翁と源一郎の言葉に頷いたリベリスタ達が歩き出す。幸い負傷者や身形が汚れた者もいない。 「公爵殿を歓迎しよう、盛大に!」 ハイディの言葉の通り。 後は派手に楽しむだけだ! ●パーティタイム! 「おかりなさいませ、ご主人様」 ルカに連れられやって来た公爵を一番に迎えたのは空の可憐な一礼。 「いらっしゃいませ」 「ごゆっくりどうぞ!」 小夜は恭しくお辞儀をし、ミーシャは椅子を引いて公爵を迎える。 「やぁコンニチハ! こちらこそ宜しくネ」 上質そうな帽子を持ち上げ一礼し、すっかりご機嫌な公爵は会場を見渡すなり感嘆の声を上げた。どうやら気に入って貰えたようだ。 「へぇ~、凄いネェ! ココのチャンネルのお菓子カネ? 美味しそデスー」 席に着いた公爵はテーブルに並んだ様々なお菓子に興味津々らしい。それじゃこちらも、と指を鳴らせばポンと爆ぜる様な音、テーブルにどっさりと異世界のお菓子。ちょっと見た目がアレだけれどもふわりと漂う香りは素晴らしい。お腹が減ってきた。 かくして。キミらも座りタマエ、公爵がそう言ったのとE・ビーストを始末していた面々がやって来たのは同時であった。 「菓子を愛する異界の公爵か……菓子は我も嫌いでは無い。 先ずは我らの世界にようこそ、と言わせて貰おう」 公爵も温厚だというのでこちらも気楽に相対出来る。口元に薄笑みを浮かべて会場を一望する源一郎の傍ら、ハイディは異界の者が作り出す童話的な雰囲気に感心しながらも意気込んでいた。 「うむ、異世界間交流のため和菓子の素晴らしさを伝えるべきだな……!」 「この際じゃ、折角だから素敵な布団の話も広めてみようかのう」 同じく翁も意気込んでいる。 そんな彼らを通り過ぎてバーンは浮き浮きと着席し、他の面々も席に着いた。それを確認した所でルカが飲み物が注がれた紙コップを手にする。 「それじゃ……始めようか!」 皆で乾杯。公爵も察したのか知っていたのか乗ってくれた。 楽しいパーティの幕開けである。 「紅茶はいかがですか? 緑茶もございますよ♪」 空の役目はメイド。ルカの用意したポテチを興味津々と観察していた公爵はニコヤカに「両方!」と答えると、お返しに指を鳴らして彼女にカップを一杯。 「ありがとうございます、ご主人様♪」 なんて言ったは良いものの。 (…… !?) えっ、水銀?そう思わざるを得ない、メタリックな不思議飲料。気付けば他の皆の前にもある。 香りは素晴らしく、ホッコリ柔らかな湯気を立てているのだが…… 「美味い」 空になったカップを置きつつ、源一郎の一言。 それにつられて皆もそれを一口、その信じられない美味しさに表情が緩んでしまう。 (ええ、何でもどんとこいですよ……!) 半ば自棄、異世界のお菓子に手を伸ばしルカはニヤリと笑う。 (菓子の形状はとても残念なようだが……) 奇怪な風貌をしたお菓子を手にハイディが、皆が思う。 『死ぬほど美味しい』ってこういう事なのか、と。 見た目に慣れてしまえば何て事はない、次々と食が進む。その様子に公爵も満足そうだ、用意したお菓子を楽しそうに食べている。 「ところで、様々な世界を渡って来たと思うが……他の世界のお菓子とはどんなものなのかのう? 興味があるのじゃ」 異界のお茶やお菓子を楽しむ翁が公爵に話しかけると、お煎餅を齧っていたアザーバイドはニッコリ笑った。 「よしゃ、任せタマエ!」 揚々と指を鳴らす。実に様々なお菓子が現れる。何処か見覚えのあるモノや、絵本に出てきそうなモノや、不思議なモノ、見るからに美味しそうなモノ、ピクピク動いているモノetc。 「凄い……」 世界の広さに呆然とする小夜を余所に「所で公爵殿。布団に興味はないかの? いや、これが中々の一品で……」と翁はお布団プロパガンダに入っている。 「フトン? 食べられるのかネ?」 「いやいや、食べるのではなく……」 なんだか楽しそうだ。 そんな公爵に大量のお手製クッキーを差し出すのはバーン。得意気に微笑む。 「クッキー、たっくさん作ってきたんだ。マーブル、バター、ココア、チョコチップ。ナッツが入ったのも良いかな?」 「ヘェ、随分と可愛らしいお菓子デスネ!」 鋭い爪で器用にバーンお手製クッキーを挟み、それから美味しそうに頬張ってゆく。それにしても美味しそうに食べるなぁ、なんて思いつつも彼は更に公爵へバナナを勧めた。 「これはおやつに入りますか?」 日本じゃ『バナナはおやつに入りますか?』て確認するのがワビ&サビなんだとか。 「……果実だネ!」 バッサリ。 「……そうですか!」 ガックリ。見事なボケ殺し。 「私はケーキクッキーを手作りしてきました!」 「あ、私も……パティシエの父にお願いしてクッキーを作ってもらいました。お口に合えばいいんですけど」 空とミーシャも用意した物を公爵に勧める。その傍ら、源一郎は黙々と異界のお菓子を食べ進めている。 「ホッホゥ……クッキーにもしこたま種類があるのだネ! 興味深いったらありゃしないヨ」 バーン、空、ミーシャの用意した物を見比べて、食べて。 感想は訊くまでもない。一口するなり幸せな表情。 洋菓子の次は和菓子のターン。 「甘い物だけを食べるより、たまに塩味のものや渋いお茶なども一緒に飲食するほうが味が引き締まってよい、と思います」 お煎餅と緑茶を手に小夜、 「羊羹と緑茶の組み合わせは絶妙故公爵にも味わって貰いたく思う」 羊羹片手に頷く源一郎、 「老舗の和菓子を準備したのだが」 奮発して購入した高級和菓子を手にハイディ。べ、別に公爵殿の能力で増やしてもらいたいわけではないぞ! 「ホォ、こりゃさっきのクッキーとはまた趣きが違うお菓子だネ。……とっても美味しいヨ!」 気に入って貰えたようだ。公爵曰く「このチャンネルはお菓子が豊富だネ!」だとか。 一段落ついた所で、ゆっくりお菓子を齧りつつもおもてなし。 ルカが歌を披露したり、お礼にと公爵も自チャンネルの歌を歌ってくれたり。 クッキーにチョコペンで色々なものを空が描いてみせると、流石はお菓子の世界のアザーバイド。指パッチンでチョコペンを操り、空中に様々なものを描いてくれた。 「母から教えてもらったのですが神秘の国日本には独特のもてなし方法があるようです」 そんな中、そう言って席を立ったミーシャが準備した果物を傍の翁に託して距離を取った。なんでも投げてくれとの事。 「それは独特のリズムと振り付けで踊りながら遠くから投げた果物を見事に突き刺すという芸だそうで……私、動画サイトからダウンロードしてインストールして一生懸命練習してきました!」 そして装着するのは付け髭。独特のリズムと振り付けでわきわきと踊り始めるのは……昔懐かし、髭舞踏。 え? 日本のもてなしにこんなんあったっけ? え? 日本国籍勢が脳内にありったけハテナを浮かべる中、ミーシャは投げられた果物を見事に包丁で突き刺して行く。公爵の拍手、得意気に父譲りの包丁捌きで果物の皮を剥いていく。 紙皿に取り分けてゆく中、苦笑交じりの指摘に彼女は目を丸くした。 「え? 違うのですか? 父に後で確認してみましょう」 日本はとても難しい文化を持つ国なんですね……眉根を寄せるミーシャであった。 宴は楽しく、愉快に続いてゆく。 楽しげな皆を微笑ましく眺めつつ、ルカは公爵へと話しかけた。 「公爵、争いも死も無い世界とはどのようなものなのですか?」 それは真剣な質問。返事は直ぐだった。 「アラソイ? シヌ? お菓子の名前かネ?」 「……、いえ。何でもないです」 忘れて下さい、笑顔と共に異界のお菓子を頬張った。 争う事も死ぬ事も無い。きっとこのアザーバイドは憎しみや怒りも知らない。 きっと天国の様な世界なのだろう。 天国。でもそれは精一杯生きた後のご褒美でいいかな、なんて思うのであった。 日が暮れてゆく。 そして御開きの時間となった。 ●さよなら公爵またいつか 「ありがとう。とっても楽しかったヨ」 ルカが渡したお土産(日本の普通のお菓子や玉羊羹、炭酸飲料)を手に別れの挨拶を告げる公爵の背後にはお菓子で出来た大きな扉。なんでもこれで異世界同士を移動するのだとか。 「こちらこそ、楽しんで頂けたようで何よりです」 小夜がお辞儀をし、空もメイド服を摘まんで礼をする。 「おいしかったです♪ 公爵の世界にはおいしい物がたくさんあっていいですね」 「だろウ? でも、このチャンネルのお菓子も素晴らしかったヨ!」 「お菓子も良いが布団も良いのじゃぞ! 折角じゃからワシの予備布団を土産に持って行くと良いのじゃよ」 そう言う翁が渡すのはフカフカお布団、同じく源一郎も土産を渡さんと一歩出た。 「我らの世界と交流した証に、受け取って貰おう。公爵の世界で材料が有るかは解らぬが、美味い菓子の礼だ」 「おぉ、ありがとう! ありがたく頂くヨ」 源一郎から菓子作りの本を受け取り、そのまま彼と握手をして公爵は嬉しそうに微笑んだ。 最後にルカが用意したポラロイドカメラで記念撮影。 撮った写真は公爵に渡し、それぞれハグや握手をして。 「それじゃ、皆またネ!」 アザーバイドは帰って行った。 『さよなら』ではなく『またね』と言って。 「また平穏な彼と会う機会があれば善哉」 閉じたお菓子のドアは煙の様に消えてゆく。それを見澄ましつつ源一郎は頷いた。 「接待のつもりが、何か僕が楽しんでしまったような……」 そう言うルカの表情は満更でもない。源一郎の言う通り、また会いたいものだ。 「……何か忘れている気がするが気のせいだろうか……」 ハイディは首を傾げ――ハッとした。しまった、あの老舗の和菓子、増やして貰えば良かった! 一方、空、ミーシャ、バーンはテーブルに残った異界のお菓子の前に居た。 後片付けとして出したお菓子を指パッチンで消そうとした公爵を、お土産と交換という理由で引き止めたのだ。 タッパーにお土産として詰めてゆく。 「父に分析してもらいます。そうすればいつでも食べられますから」 なんてミーシャは言うが、原材料の問題をすっかり忘れている様だ。 そして片付けも一段落した頃。 すっかり空は夕暮れだった。 森の外、紅に染まるそこを振り返って翁が呟く。 「……一番聞きたかった事については、聞けんかったのう」 けど、まぁ。 それで良いか、なんて思うのだ。 確かに公爵の世界は素晴らしいのだろう。 天国と呼ぶに相応しい場所なのだろう。 平和で。憎しみ合う事も悲しむ事も無い。 しかし自分達はこの世界で生きて、この世界で死んで逝く。 例え未来にどの様な結末が待ち受けていようとも。 (大切な者達が居たこの世界を、愛しておるから) 一陣の風に暮れ泥む。 やがて夜がやって来て、また朝が来て、 そうやって自分達の世界はまた一日と巡ってゆく。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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