●はじまりはナイフ 「待ってたわ。早速説明するわね…時間が無いの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はブリーフィングルームにリベリスタ達が入ってくるなり少し慌てたように話し始める。本当に時間が惜しいようだ。 「実は【ナイフ】にアーティファクトが紛れ込んだの」 随分と平凡な物に紛れ込んだものだとも取れる表情を少ししてから、イヴはまた話し始める。 「ナイフはどこにでも売っているものじゃなくて、日本に何件か店舗を構える専門店のものなの。【獅子堂】(ししくら)という店よ。刃渡りは20センチぐらい……アーミーナイフね。良く切れるから何でも切りたくなってしまったんだと思うの」 事の次第はこうだ。 三高平市郊外の野菜切り工場は新卒者を採用し、新しい包丁を専門店に注文した。 その専門店はアーミーナイフなどでも有名な店で、工場長は趣味がナイフ集めなのもあって、ついでにと注文したのだった。もちろん、代金は自分持ちだ。 現時点での持ち主は、工場長。探すのならこの人物だろう。野菜も芋も、今はこのアーミーナイフで切っているらしい。 会社からは仕事に集中していると思われているようで、今の段階では問題は無い。しかし、就業間際の時間帯から野菜は枯渇してくるので、狙うなら就業間際が良いかもしれない。 工場は三高平市を支える工場なので、破壊は禁物である。 「工場長は栗田一、38歳。独身で……趣味は歌とサバイバルゲーム。仲間同士の間では歴戦の勇士だから、ある意味場慣れしてる相手ね。甘く見たら危険かも」 イヴは困ったような顔をした。相手は筋骨隆々のサバゲー趣味の相手。しかも独身とあっては、女性に好かれるタイプではないようだ。 歌も上手ではないようで、イヴは珍しくはっきりと眉を顰めた。 「もうすぐ切る野菜がなくなるわ。無くなったら人を襲うから止めて欲しいのは当然なのだけど。最初の犠牲者候補は、渡し忘れた伝票を届けに行く途中の高校生なの。家の手伝いみたいね……男子一人、女子三人の四人組よ」 少年の名前は獅子堂・緋彩(ししくら・ひいろ)。ナイフ屋の長男である。イヴは「他の子達は幼馴染で、千紗、魅月、此月(しづき)という名前よ」と続けた。 「襲われる理由は……嫉妬ね。彼はとても綺麗な顔をしているわ。女の子を三人も連れているし、彼はリア充だと感じて許せないのね。ナイフの回収をお願いね」 イヴはそう言うと、静かに皆を見つめた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒織肖 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月18日(月)00:02 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●時は静かに糸を紡ぎ ここはリベリスタたちの集うブリーフィングルームの外。皆はすぐに出立せず、少し話し合っていた。 神音・武雷(ID BNE002221)は 顎をさすった。姿は牛ゆえ、人の持つ者ではないが、立派な顎である。 「今回はナイフかぁ」 ラキ・レヴィナス(BNE000216)は言った。 つい先ほど、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)にこれから起こる事件の内容を伝えられたばかりである。 「そうじゃのう。わしゃぁ、ナイフ屋に興味があるんじゃが」 『元特殊部隊教官/特殊部隊隊員』サイド・ウッドホッグ(BNE000067)は答えた。 「爺さんは店に行くべきだな」 『一人鳥人間コンテスト』鳳 天斗(ID BNE000789)も横から口を挟む。 鳳は鳥形のビーストハーフである。 初めての依頼と実戦。これが自分の試金石――力量を測るものになろうと思っていた。 「じゃあ、誰がその店に行く? 獅子堂(ししくら)だっけ?」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は話を纏めようと口を挟んだ。時間は無い。 「そうじゃ。わしゃぁ、ナイフ屋に行くぞい。見たいもンもあるしのう」 「オレも行く!」 神音、ウッドホッグ爺さん、ラキの三人は、獅子堂店へ向かうことに決めた。 新田は終業時間を見計らって工場に潜入し、鳳が学生達を足止めしている間に工場長に接触しようと思っていると告げる。 鳳は新田と共に先回りし、工場に忍び込む予定であると告げた。 こうして、五人は事件を解決するために行動を開始した。 ●獅子堂包丁店 「いらっしゃいませ」 少年は言った。 店先には、長めのウルフカットの黒髪に黒い瞳の純和風な少年が立っていた。獅子堂緋彩(ししくら・ひいろ)というのは彼のことであろう。彼の美少年ぶりよりも、彼の妙な眼光の鋭さの方が際立つ。 「エナメル製の特注ナイフが欲しいんじゃが」 ウッドホッグは自分の欲しかったものを言いつつ、少年をなんとなしに眺めた。 ラキも緋彩少年をじっと見た。 「俺に……何か?」 「い、いや。別に」 「そうか」 ふと、緋彩は溜息を吐いた。 神音は幻視で普通の人間のふりをし、超直感で気を配った。 (「異常はないな」) 神音は思った。 緋彩はカタログをウッドホッグに差出し、希望に近いものを探し出す。 「これじゃよ、これ。わしゃぁ、こういうやつが欲しかったんじゃ」 「そうか。よかった。これなら土台から作る必要も無いし、手頃だ。届いたら連絡す……」 「ちょっとォ、緋彩!」 いきなり声が聞こえ、皆は振り返った。そこには女の子たちが立っていた。ゴスロリ服とパンク服を着た可愛い女の子二人と、それを従えた元気な女の子。活発そうな少女は腰に手を当て、つんと胸を張って立っている。 (「お、取り巻き登場!? こいつらにもスキャン~☆」) しかし、何の反応もなかった。彼女らでもないらしい。 「千紗か」 「お客様にどんな態度よ、アンタ」 「別に……いつもどおり」 「そこ、問題。あ、お爺ちゃんごめんなさいね。コイツ、こーゆーやつなの」 そんな遣り取りを聞きつつ、神音は店員と間違えたふりをして「とにかく切れ味の良いナイフはないかな?」とゴスロリ少女、此月(しづき)に向かって言った。 此月の方は、「わ、私……わからないし。彼に聞いてください。詳しいから」と控えめに答えた。 「どんな目的で使うのか教えてもらえば、包丁がいいのか、携帯したいのかで値段も形状も変わるし」 やや無表情だが、仕事に関してはきちんとするらしく、真面目な態度だ。緋彩は神音の方を見た。そして、じっと見つめている。 「い、いや……料理とか。好きだしな」 「料理用じゃなくて手軽に使うなら、ファーマーズナイフで十分だ。持ってきてくれれば、俺がいつでも研ぐから」 「そうか。他にも何かあるかなーと」 そんなことを言いながら、神音は視線を反らした。緋彩が澄んだ目でじっと見るので居心地が悪い。 「ねェ、緋彩~」 「なんの用だ。千紗」 「なによ、その言い方。あたしねぇ、これからカラオケ行くの。アンタも暇なら付き合いなさいよ」 「嫌だ」 「……」 「状況考えろよ。お客さんいるのに」 「おーい、緋彩君。伝票持っててくれないかなあ。田中が忘れてってな」 後ろから声が聞こえた。古くから働いている店員らしい。二人のケンカがはじまる前に仲裁に入る。 「すみませんねぇ、お客さん。うちの大将とお嬢さんたちは幼馴染でね。いつもあんな調子で、注文なら俺が……」 「ほいほい」 ウッドホッグは言った。 追跡ターゲットをこっそりと眺め、リベリスタ三人は少年たちの後を追うことにした。 ●工場では 鳳は工場長以外の従業員が上がる時間を見計らっていた。実は作業着を盗むためである。 工場は古いもので、盗むのには苦労しなかった。同じ敷地内にある他の工場は新しかったため、もしも、そちらの工場であったなら内部構造もわかりにくく、見つかっていたかもしれない。 鳳は物陰に隠れて高校生たちを待った。 「っと、その前に結界、結界。……お? 来た来た」 緋彩たちがやってきたのを確認した。遠くには神音たちの姿が見えた。高校生たちは気が付いてない。 少年の背後では幼馴染の少女が早くしてだのと喋っている。鳳は何食わぬ顔で、工場に入ろうとする高校生たちに接触を図った。 「どうかしましたか?」 「伝票を。店の者が渡し忘れたようなので」 「ああ、獅子堂のおぼっちゃんですね? 工場長は仕事中なんで、僕の方から渡しておきます」 「……あ、はい」 間を置いた後、緋彩は言った。このような人物が居たかどうか、記憶を遡る。いたような、いないような。緋彩は鳳に伝票を渡し、背を向けた。そして、何度か振り返り、最後には千紗にせっつかれて去っていった。 それを見届けると、鳳はハイスピードを使って工場長のいるであろう工場へと全力ダッシュした。背後に神音たちの気配を感じていた。 「そのナイフは大変危険なものだ。俺が預かるから渡してもらおうか」 新田は工場長に言った。 新田は終業時間を見計らって工場に潜入し、鳳が学生達を足止めしている間に工場長に接触していたのだ。 鳳が来るタイミングが気になるが、敢えて高圧的に接し、自分たちと工場長が戦闘になるように仕向けるつもりであった。学生達を巻き込みたくない。 「冗談じゃねえぞ! こーいうなぁ、キレるのは滅多にねぇ」 工場の中を逃げ回る工場長を追いかける展開を想定していたが、自分が逃げ回るハメになりそうだ。もう、彼は変化を遂げていた。 元々の鍛え方の所為もあるが、体はゴリラのように筋肉が膨れ上がっている。いや、それ以上だ。 (「接近戦しかないか」) 「誰だぁ? ぐあっ!」 工場長は不意に仰け反った。 後ろからやってきた鳳は、ダッシュのまま不意打ちで背中を蹴り、ナイフを投げ捨てて叫び挑発する。「待たせたな!来いよゴリラーマン、武器なんか捨ててかかってこい!」 鳳の声だ。 「はは……助かったぜ」 「ぬあぬあんんんだあ! ごるあああああ!」 「わしもいるんじゃぞ」 「オレも忘れないでくれよな」 「すまん。遅くなったけん」 神音、ウッドホッグ、ラキの三人が駆けつけてくる。 味方への防御を考えて、新田は最初にハイディフェンサーを発動させる。 「なんじゃ、工場のおえらいサンはサバイバルゲームが好きらしいのう。だが、まだまだ若造じゃぁい。 ワシが本物の軍人としての動きを教えてやるわい!」 「おおおおおおう!!」 工場長は吠えて物陰に隠れこんだ。先ほどとは危険を感じたのだろう。打って変わって工場内は静かになった。 相手の不意打ち覚悟で、皆は一体となり、工場内を捜索する。 物音に耳を澄ませた。そこへ……。 「ぼう"え"え"え"~~~~☆」 「ぐはぁっ!」 新田は相手の不意打ちによろめきそうになった。しかし、からくも堪える。 スピーカーから聞こえる相手の声に陣形が崩れた。周囲に気を張っていたラキも同様だ。 新田はブレイクフィアーでラキを回復した。 「この仕事が終わったら、金髪の美人さんと花見の約束があるんだ。さっさと倒れてくれないか?」 勇敢な新田は工場長の『リア充死ね』な感情を刺激し、自分に攻撃が向くように仕向ける。メンバーの主砲的存在であり、盾でもある頼もしい姿だ。 (「ごめん。花見の予定は本当だけど、俺はその他大勢の一人に過ぎない。別にリア充でもなんでもないんだ……」) ……という新田の本心に関しては突っ込んではいけない。 「き、金髪ぅ!? ナイフ屋のちょっと顔のイイあの餓鬼もォ、許せねえ! り、り、"あ"じゅ"う"ば、じね"え"-----!」 工場長は新田に突撃すると、新田を弾き飛ばし、ダンボールの山へと身を隠す。そして、攻撃のタインニングを狙った。 「くそお……」 新田は立ち上がり、周囲を見回す。 ウッドホッグもブラックコードを手に持ち、周囲に意識を向けた。 「うおおっ!!」 咆哮と共に、工場長が突進してくる。 防御力を攻撃力に変え、新田はヘビースマッシュで工場長に応戦した。無論手加減し、死亡や重傷をもたらさない様に注意している。 「ぐがあ!!」 ラキは新田の攻撃がヒットしたのを確認し、全ての脳処理と意識を集中させる。 (「まだだ!」) 「強さとは修練と練習じゃ!」 ラキが集中している間、ウッドホッグが歴戦の勇士の気迫か、気糸で敵を締め付けを縛り上げる。 「ちいッ!」 鳳は相手に攻撃をさせまいと一陣の風のようにダッシュする。相手の懐に飛び込むと、ナイフを持つ手の内側を自分の対角の手で掴み、反対の手をナイフを持つ手の肘に添え関節を極め投げた。 「ちょっと前まで出来た事だ、体が変化しても出来るか」 「うごごッ! 放ぜえ"-!」 「おりゃー!」 ラキは工場長のナイフを持ってる指を狙い、ピンポイントで部位攻撃をした。新田たちに攻撃され、動きを封じられては避けることもできない。 工場長は指を狙われ、ナイフを取り落とした。しかし、執念か、執着か。工場長は鳳の顎に頭突きを食らわす。 「べふっ!」 鳳はもんどりうった。 その隙を狙って、工場長がナイフを持って立ち上がり駆け出す。不意のことと、俊足の鳳が動けず、皆は行動が遅れた。 「俺"の"ナ"イ"フ"ぅ!!!!」 工場長はまたも吠えた。 「容赦はいらんようじゃな」 ウッドホッグは相手に向き直り、ブラックコードを構えた。 「特殊工作部隊の隊員。そして、教官としてもやっていたワシを舐めるでないぞ!」 「このこのこの、俺にいいい! 負け戦はねええええ」 フェイズ2に移行する予兆か。 それを危惧したホッグウッドは勇猛果敢に走り出す。新田、神音も続いた。階段を駆け下り、自動芋剥き機の並んだ半地下の作業場へと走った。 「そげん刃物ばこだわっとるけん、女の子にばもてんとね」 「う"る"ぜええ! ぢねぢねリア充ー!」 神音と新田は同時にヘヴィースマッシュを仕掛けた。神音は峰打ちで手加減するつもりだったが無理のようだ。変化が早すぎる。 「「いけェ!!」」 「ぐぎゃああああ!!」 「ワシとご機嫌なダンスでもどうじゃな!」 ウッドホッグ爺は踊りかかる。 鋼糸は工場長を絡め取った。だが、それだけに留まろうはずも無い。鋼糸は工場長を切り刻む。小さな部位は切られ、それらは芋剥き機の中へと落ちた。 「ゆ”、ゆ”、びいいいいいいいい!」 指が離れてナイフが滑り落ち、床の上で硬い音を立てた。 「俺俺おれのおおお、たのしみがああ!」 赤色の液体を撒き散らしながら工場長はウッドホッグに突進したが、避けられ体制を崩す。なんとか留まって、ピンポイント攻撃を狙っていたラキを餌食に突進した。 「うそお!?」 「ぅおまえェーーーー!飛んでけェ!」 「うぎゃあ!」 細身のラキを狙った攻撃はヒットし、ラキは血反吐吐きながらもんどりうって転がっていく。 「げぶぅッ!」 「お、おいッ! くそお!」 「負けなかー!」 新田と神音は突撃し、再度、ヘビースマッシュを工場長にブチ当てた。 「うお? お、おお! 助け……」 工場長は体勢を崩し、階段を転げ落ちて行く。鈍い音を立てて転がった先は、自動芋剥き機。野太い悲鳴はどこまでも響いた。 しかし、仕事の終わった工場には、彼を心配する工場の人間は帰宅しており、誰一人いなかった。 「うあ……ミンt……」 「それ以上言わなか方がよか」 「そうだぜ」 新田はラキを起こしながら言った。鳳もウッドホッグ爺に助けられ、やっと立ち上がったようだ。 「仕事疲れで不幸な事故。野菜工場にはよくある事故さ。そう思おう」 現実から視線を逸らしてまた言う。 「そうか。さて、ナイフは回収するかのう」 ウッドホッグ爺は自分好みのナイフを堪能してからアクセスファンタズムを使い、破界器を亜空間に格納しながら言った。 「さて、アップルパイでも買って帰りますか」 新田がそう言うと、皆はケーキ屋のある商店街の方へと歩いていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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