●気が付けば異世界 「――む、此処は何処だ?」 その軍人は目を眇めて立ち尽くした。 辺りには見慣れぬ風景。ヤケに静かな緑溢れる一帯。 (ここは第974地区だった筈だが……、ハテ) 彼がしきりに首を傾げるのも無理は無い。 真っ黒い軍服、武器となった両腕、機械化した顔の半分――彼は異形であり、異世界の存在『アザーバイド』なのだから。 (おかしい……さっきまで部下達と密林の中を進軍していた筈だったのに。 敵軍の策にまんまと嵌ってしまったのか、私は? だとしたら、何という事だ) 機械の軍人は視界をサーチモードに切り替え、鋭く警戒しつつ辺りを見渡した。 ここは山間の小広い草原……トラップの類は検出されず、敵影無し。ついでに味方も見当たらない。通信も繋がらない。体に異常は無い。精神も正常。 「一体全体、どういう事だ!!?」 問いかけても答える存在は無い。うぐ……と歯を剥いた所で、大きな存在を3つ察知する。振り返った。同時に右手のガトリング砲を向けた。 「……出て来い」 黒い軍帽の暗い影から鋭く睨み付け、言い放つ。 かくして草藪から現れたのは、白い装甲を身に纏った巨大バッタ達で。 それを視認した途端、軍人の目に憤怒に近い殺意が宿った。 「貴様等ァア差し詰め白軍の新兵器だな!!? ――我が前の敵は破壊あるのみ!!!」 声を張り上げ終えたのと同時、容赦も慈悲もなく軍人のガトリング砲が火を噴いた。 ●作戦会議であります 「厄介なアザーバイドが迷い込んでしまったわ」 モニターからリベリスタ達へと視線を移すなり、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜息の様に言い放った。 「アザーバイド『大佐』……『白軍』『黒軍』と呼ばれる二大勢力が延々と戦争をし続けている世界からやって来たの。さっきの映像を見て分かっただろうけど、『大佐』は黒軍の人。 『大佐』の世界は私達の想像がつかないほど科学が発達してるみたい。尤も、そのほとんどが軍事利用されているみたいなんだけど。でも逆に、神秘的な事には疎いみたい。 だから、『大佐』は異世界だとかエリューションだとか、そんな事を全く知らないと思う。『よく分からんが差し詰め白軍の罠に違いない』って思ってる。 大分と警戒している状態で……このまま放っておいたら大変な事になる。 見ての通り全身兵器だから、その火力は正に圧倒的だよ」 リベリスタ達の表情に緊張が走った。確かに、こんな戦う事がアイデンティティな存在が野放し状態だなんて危ないったらありゃしない。 見る限り上位の兵士で相当戦い慣れている。たった一人とはいえ彼の戦闘力は計り知れないだろう。 ……いや、寧ろ、知らない方が良いかもしれない。 「でも、まだ希望はある」 静寂を破る様に、イヴがキッパリと言う。 言葉と共に指し示すのはズームアウトした山の一点。 「『大佐』の近く……この山の中のここにね、バグホールがあるの。 『大佐』は根っからの悪者じゃない、寧ろ正義を愛する熱血漢で愛国者だから、話は出来る筈。言語に関しては、ありがたい事に普通に通じるみたいだよ。何とか彼を説得して、味方だと思わせるなりして、ここから元の世界に帰してあげて。 黒い軍服を着たり……一緒にこのE・ビーストを倒して『私達は味方だ』って事をアピールするのも良いかもしれない。 このE・ビースト『バッタ』はフェーズ2で、3体いる。飛び掛かってノックバックが伴う突進攻撃をしたり、口から麻痺の状態異常を伴う液を吐いてきたりする。でも、もう『大佐』の攻撃で一体は既に瀕死状態だけど……『窮鼠猫を噛む』って言うし、絶対に油断はしない事」 説明を終えると、イヴはリベリスタ達へと向き直った。 「それじゃ、宜しく頼むね。――くれぐれも気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月29日(月)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●作戦開始! 日本時間1800、アーク史でも類をみない未曾有の救出作戦が開始された―― 敵地にたった一人で残された大佐を救助し、敵を殲滅するという危険な任務だ。 「大佐、生きていて下さいよ、必ず助けに行きますからね……!」 敵地での強行軍。汗で滑る武器を握り直し、俺は過去の死地を思い出した…… あれは12年前、静岡での出来以下略な脳内軍人プレイをしつつ、ツァイン・ウォーレス(BNE001520) は士気満々と目的地への進行を続けていた。 「世界を超えてまで敵と戦う戦士って、すごいなぁと思う。 あたしは異次元に行ってまでフィクサードと戦うなんて、まだ想像できないよ」 『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545) が呟く。そのすぐ後「それにしても」と苦笑交じりに自らの衣服を見て言った。 「軍服ってけっこう暑いね……」 凪沙が身に着けているのはアークが用意した黒い軍服。頷いた『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787) の額にも汗が浮かんでいる。彼女もまた子供サイズの黒軍服を身に着けていた。彼女だけではない、8人のリベリスタ達全員が黒い衣装を身に纏っている。 「私も軍人の端くれだ。たとえ所属する軍が違ったとしても、タイサの軍人魂は理解しているつもりだ」 正真正銘の軍人育ちである『NOBODY』後鳥羽 咲逢子(BNE002453) は黒い軍帽を正しながらキリリと言い放つ。 「別チャンネルでも他があるって知らない世界も結構あるんだねー 魔法の世界に迷いこむってラノベてかではよくあるけど、大佐は待ってる人多そうだしねー」 早急に送り返さないとねー、と『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119) が仲間達を見渡すと彼らの頷きが返って来た。幾らアザーバイドに敵意や悪意が無くとも、彼らは存在しているだけでこの世界を狂わせてしまう。 果たして、その時であった――遠くない距離から弾丸が連続発射される音が響く。 「作戦開始だな」 漆黒の外套『Joker of Tricks 』を風に揺らめかせた『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638) の怜悧な瞳が彼方を見据えた。 視線の先。黒衣の偉丈夫と白いエリューションが三体、そこに居た。 ●大佐、応答セヨ! 「おのれ白軍めぇ! バラッバラのスクラップにしてくれるわーッ!」 正に孤軍奮闘、獅子奮迅。 アザーバイド『大佐』はE・ビースト達を圧倒していた。その様にリベリスタ達は一瞬、慄然としたものを覚える。 (これは――) 何としてでも彼との戦闘は回避したいな、とオーウェンは思う。もし大佐と戦う事になったら火器の搭載により鈍重な所を突いて……と思っていたからこそ、大佐の有り得ない機動力に最早口元を引き攣らせるしかなかった。 サテ、ぼやぼやしている暇は無い。真っ先に動き出したのはツァインとラヴィアンであった。 「大佐、御無事ですか!」「おっちゃん! 突然だけど、」 します!」 「援護 するぜ!」 「ブッ殺―― ん。 エッ!?」 ハモった声に大佐が二度見した。そのまま動きを止めて二人を凝視している。 「当方、特務機関アーク所属8名 只今より貴殿の援護を行う!」 直後、二人の横に並んで『八咫烏』長谷川 又一(BNE001799) が声を張り上げた。後の説得は任せたぜと仲間達を一瞥するなり大佐に狙いを定めていたバッタに向かって跳躍し、通り名の由来である大太刀『黒槌』で居合抜きの一撃を放った。 「……!? 特務機関アーク?」 「ハッ! 自分はアーク所属のリベリスタ、後鳥羽咲逢子少尉であります! 黒軍の大佐殿。我々に敵意はありません。事情は後で説明しますので戦闘の援護をさせていただいてよろしいでありますか?」 咲逢子が見事な敬礼と共に声を張った。 「オレ達は、ここらの……軍隊みたいなもんだ。 そこの白いバッタ共はオレ達の獲物なんでな、首つっこませてもらう」 無愛想ながらも偽りのない真っ直ぐな眼光で桐生 武臣(BNE002824) が未だ事態を飲み込めない大佐を見据える。 「俺らの敵はそのバッタ。おっちゃんもバッタと戦ってる。敵の敵は味方ってワケさ」 「ここは違う世界で、俺達はそこの住人で大佐を元の世界に戻す任務に付いてるんです。 どうか信じて欲しい! 貴方を元の世界に戻しにきたんだ! 戦士の誇りに懸けて誓う。貴方を助けるとッ!」 「ちょ、ちょっと待ちたまえ、それってどういう……?」 更に重ねられるラヴィアンとツァインの言葉に大佐はバッタの攻撃をかわしつつ目を白黒させている。だがリベリスタ達の正直な態度のお陰か黒服のお陰か、彼がこちらに敵意を抱いていない事は確かだ。 「ここはお前さんの元居た場所とは別世界。お前さんは恐らく、事故か、何者かの策略によって、こちらに飛ばされて来た。 我らが敵なら、何故お前さんと敵対する兵器と戦っている?」 言いながらオーウェンがバッタと交戦中の又一を見遣った。 「諸君らが私の味方なのは分かった、が……異世界? 私にはどうもそこだけがサッパリ――」 「――神秘召喚<アーティファクト・ダウンロード>!」 大佐の言葉を遮る様に岬が唱えた。百聞は一見に如かず――と、瞬時にアクセス・ファンタズムより邪悪漆黒なる巨大ハルバード『アンタレス』を取り出してみせる。 「お代は見てのお帰りだよー」 岬は内心でアンタレスが黒くて良かったと思いつつ、これでどうだと大佐へ微笑みかけた。 そして当のアザーバイドと言えば、文字通り『魂消て』いる。 「……何だその技術は!!?」 ついにはよろりと後ずさる。そこまで驚くかと笑いそうになったのを堪えて、凪沙が纏める様に言葉を掛けた。 「あたしたちは白いバッタみたいなのをこの世界の敵として討伐に来たんだよ。 それでバッタ討伐後にあなたをバグホールに誘導しに来たんだ。 ここはあなたの戦場じゃないからね。 だから、しばらくあなたの援護をさせてよ」 「コイツらの言う通り、ここはオッサンのいた世界じゃない。 オレ達はこの世界を守る為なら、命を掛けて戦う覚悟がある。 ……アンタには、アンタが戦うべき戦場とアンタの戦友が待ってるんじゃねぇか?」 凪沙に続いた武臣の言葉に、強い決意と覚悟とを秘めたその言葉に、大佐が口を噤む。 そして、頷いた。 その目にはリベリスタ達と似た真っ直ぐな光が宿っていた。 「分かった。一先ず諸君らを信じよう」 その言葉にリベリスタ達は心の底からホッとした。先ずは第一関門クリアである。 「御理解感謝いたします、大佐殿!」 満面笑みの咲逢子が再度敬礼をした。大佐はウムと頷いて、突進してきたバッタの一撃を大きく跳躍して回避する。着陸した位置はリベリスタ達のすぐ傍であった。 丁度いい、とガントレットの拳を握り締めた凪沙が彼に問う。 「ねぇ、あなたをなんて呼べば良い?」 「私は『大佐』だ、君は?」 (大佐は大佐なんだ……)「あたし凪沙!」 「そうか。――では、奴らを蹴散らそう。宜しく頼むぞ諸君!」 返事と共に、一同は強く地を蹴って飛び出して行った。 ●戦闘開始! (やれやれ、取り敢えず一安心って奴だねぇ) バッタの足止めをしつつ状況を窺っていた又一が安堵の息を吐いた。だが気は抜けない、『黒槌』を正眼に構えて灰色の眼差しでバッタを見据える。その装甲には傷がほとんど付いていなかった――想像以上に、堅い。 その時である。 「俺のターン!」 四色の魔光が立て続けにバッタの横っ腹に被弾した。ラヴィアンの魔曲・四重奏である。そこへ、破壊的な闘気を漲らせた岬がメガクラッシュでバッタを吹っ飛ばす。 「こいつはボクが受け持つよー」 アンタレスを構えた岬が又一へ微笑みかける。出来る限りこのバッタを引き離す心算だ。 「……手伝おう」 得物を構えた武臣が岬の横に並ぶ。 「そんじゃ、宜しく頼んじまおうかねぇ」 『黒槌』の背で肩を叩きながら又一は一歩下がると、そのまま瀕死バッタへ走り出した。 「うぉおおおおおおおお」 一方、ツァインは全身に気を漲らせていた。 「いくぞ、黒スジハード!」 ツァインが神秘の力を解き放った――かくして、漆黒の十字架が現れる。何だか禍々しい黒光の加護が仲間達を包む。もし白い光だと大佐がキレかねないので気合いで黒くしたのだ。それにリベリスタ達がおったまげたのは言うまでもない。 (やれば出来るもんだな!) 自分の可能性に自信が持てたツァインであった。更に自己強化すると瀕死バッタへと向かう。 「諸君らの技術は我々のそれより随分と発達している様だな……」 次々と繰り出される神秘に大佐は驚きっぱなしの様だ。そんな彼の傍ら、跳ね回るバッタに斬風脚を放ちつつ凪沙が訊ねる。 「ねぇ大佐、あいつの攻略法とかある?」 「そうだなぁ……燃やしてみるとするか」 それって攻略法?凪沙が心の中でツッコむ最中、大佐がすぅと息を吸い込む。だがその口をオーウェンが片手でバンと塞いでしまった。 「悪いが『それ』は控えて頂こう……ここら一体が焼け野原になったら色々と本末転倒だからね」 「成程、了解した」 顔を逸らして手から逃れた大佐が答えたのを確認するとオーウェンはレーザーナイフ『試作型機械光刃「Rule-Maker」』を手に、片目を瞑ってバッタ達を注視しエネミ-スキャンを試みる。 そして見抜いた。E・ビースト達の突くべき所を。 「関節部と口の中を狙え!」 オーウェンの声が戦場に響く。リベリスタ達がそれぞれに了解の反応を示して相手へと向き直った。 「さて……追い詰められた動物ほど怖い物はない。先ずは確実に仕留めさせて貰う」 オーウェンは視線を瀕死バッタに向けると共に呪印封縛を放った。それが呪印で拘束された瞬間、 「関節部と口の中、ねぇ」 自分の技ではちょっと難しそうだ――又一が放つ破滅的な黒いオーラがそれの頭部に致命的な一撃を加える。粉砕された装甲と共にバッタが呻いた。 そこへ立ち塞がったのは、ブロードソードを構えたツァイン。 「これでも――喰らっとけ!」 かくして放つのはヘビースマッシュ、それはバッタの体を口から貫いた。 「く、ちょこまかと……!」 残りのバッタは瀕死状態のそれの様にはいかない。強力な脚力で素早く動くそれに中々攻撃を当てられない咲逢子は歯噛みした。同じく凪沙も上手く業炎撃を当てる事が出来ない。 その時、「うわっ」と岬の悲鳴の直後に彼女を吹き飛ばしたもう一体のバッタが猛然と咲逢子に迫る! 「!」 咲逢子は咄嗟に目を閉じた、が、何も起こらない。 目を開けると、片足でバッタの突進を抑えた大佐の背が映る。 「……ナギサ! 少尉! やれッ」 言葉と共に、大佐が足裏のジェット噴射でバッタを宙に吹っ飛ばす! 「りょーかい!」「サー・イエス・サーであります!」 二人の返事と斬風脚が重なる。鋭い真空刃はバッタの両脚の関節に直撃し、その太い脚を撥ね飛ばした。 機動力を失って地に落ちたそれをすかさずオーウェンが呪印で束縛する。又一がブラックジャックを放つ。凪沙と咲逢子も躍りかかる――もうアレは仕舞だな、と大佐は最後の一体を探して振り返った。 そこにはバッタの突進を受け止め防いでいる武臣とツァインの姿。どうやら背後から襲いかからんとしていたバッタを防いでくれた様だ。 「俺のターン! ずっと俺のターンッ!」 それにラヴィアンが魔曲・四重奏を連続で叩き込む。魔術に縛られたそれを武臣のナイアガラバックスタブが切り裂き、跳び出してきた岬のアンタレスが一閃する。ツァインも武器を構えた所で――暴れ始めたバッタに吹き飛ばされた。 更に咲逢子らが相手をしていたバッタもリベリスタを吹っ飛ばして闇雲に跳び回る。そのしぶとさにリベリスタ達が歯噛みした刹那、アザーバイドが一歩前に出た。 「諸君、伏せろ!」 大佐の言葉と共に、彼の腹部から巨大な銃砲が出現する。 次の瞬間、リベリスタ達は見た。空一面を覆い尽くす様な光が、E・ビースト達を焼き潰したのを。 かくして、勝利はリベリスタ達とアザーバイドの手に輝いたのである。 ●さよなら大佐 「取り敢えず全部正直に説明するから、まずは聞いて貰えないかな?」 武器を収めたラヴィアンが大佐を見上げると、彼は何を今更と頷いた。 「んじゃかいつまんで話すぜ。 ここはおっちゃんのいた世界とは違う世界なんだ。んで、異世界から来た人が長くいると悪影響がでちゃう。だから、おっちゃんには元の世界へゲートから帰って欲しいんだ。 異世界だとかすぐ信じらんねーかもだけど……これ、ここの世界の地図な。やるよ」 ラヴィアンは世界地図を大佐へと手渡した。アザーバイドは両腕を手に変形させると(因みに質量保存とかガン無視だ)それを受け取り、不思議そうにそれを眺め始めた。 「ウーム……、いやはや、何と言うか……日本、アメリカ合衆国、メキシコ? 随分と国があるのだな」 「お前さん日本語読めるのな……」 難なく地図上の文字を口にした大佐に又一は呆気にとられた様だ。最中、大佐の横からヒョコリと顔を出した岬が地図上の日本列島を指し示す。 「ちなみにココは日本だよー」 「何と! こんな小さな国家!? ぬぅむ、もし他国が攻めてきたのなら我らが黒軍が加勢――」 「――しなくっても大丈夫、この国は戦争をしていないからね」 「戦争をしていない!?」 オーウェンの苦笑交じりの言葉に大佐はカルチャーショックの様だ。不思議そうにしたまま畳んだ地図を軍服の中に仕舞い込む。そこへ咲逢子が大佐を呼び掛けつつ横に並ぶ。その手にはノートパソコンがあった。彼女は大佐の意識が向いた事を視認すると、ネットワークと自身の感覚をリンクさせつつ説明を始めた。 「我々アークのリベリスタは大佐の住む世界とは別世界の、戦う力を持つ者達です。中には私の様に戦闘意外に秀でた者も居ます。 大佐の事を教えてくれたカレイドシステムもその一つ。外世界からの来訪者である大佐を本来の世界に戻す為に派遣されたチームが我々なのです。 質問はありますか?」 咲逢子が操るパソコンの画面にアークやリベリスタ、カレイドシステムの諸々が映し出される。 「ふむ……私が考えた事もない事象のオンパレードだが、今更信じないなど言うまい。 納得した。質問は無い。説明御苦労、少尉」 「質問が無くなったのなら、本来の世界に戻る為のゲートを探しましょう。こちらの世界の上官からゲートの場所は聞いています」 信じて貰えて良かった、ノートパソコンを閉じつつ咲逢子が表情を綻ばせた。 そうと決まれば、後はバグホールへ向かうのみ。 その道中にツァインが大佐に今までの武勇伝を訊ね、彼が熱く語る異世界の出来事にリベリスタ達が耳を傾けていると――目的地にはじきに辿り着いた。 次元の歪みを前に、アザーバイドは一歩踏み出し―― 「大佐!」 咲逢子の声に振り返った。 「戦争の無い世界になるといいですね」 お別れです、と敬礼をする彼女の横で、ツァインもまた敬礼を捧げた。 「それでは大佐。任務を共に出来た事、誇りに思います。御武運を!」 「こちらこそ、諸君らには大いに世話になった。感謝する!」 大佐はそれに敬礼で応えると、今一度リベリスタ達を見渡した。そこへ武臣が一歩前に出る。 「……アンタと轡を並べたのは、忘れねぇよ。 異世界で会ったクソガキ共の事、たまには思い出せよ。 ――達者でな、戦友」 普段は鋭い表情を少しだけ和らげ、吸っていた煙草を大佐に差し出す。 「勿論だとも」 それを受け取りつつ、大佐が微笑みかける。 「諸君らの事を、受けた恩義を、私は決して忘れない。 ――では!」 と、最後に大佐は最大の敬意をこめてリベリスタ達に敬礼を捧げるとバグホールの中に消えて行った。 「大佐に負けねぇ様に、俺達も頑張らないとなぁ~!」 オーウェンと共にブレイクゲートでバグホールを閉ざしたツァインが空を見上げる。リベリスタ達も天を仰いだ。 そこには黄昏空が静かに広がっていた。 「夢じゃなかったんだなぁ……」 片手に持った異世界の地図をしげしげ眺めつつ、軍人は呟く。 そしてもう片手に持った煙草を咥えると、彼は黄昏の空を見上げた。 彼らもこの空模様を見ているのだろうか。 見上げる黄昏に、紫煙が一筋揺らいだ。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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