●カッチカチですぞ 「はぁ……、参ったなぁ」 夜の街、暗い路地。 塾帰りの女子高生は溜息をついた。 『ね~、ひょっとして、ちょっと太った?』 デリカシーの無い友人から言われた一言。グサリときた一言。 もう部活は引退してロクに運動をしていない所為か。 夏だからって、クーラーの利いた部屋に閉じこもってダラついていた所為だろうか。 それともお盆の帰省中におばあちゃん家で美味しい物を食べ過ぎたからか。 あるいは、その全てか。 兎にも角にも! 「ダイエットしなきゃ……なぁ」 はぁ。重たい溜息。 「明日、早起きしてジョギングしよっかな……」 はぁ~。更に重たい溜息。 そんな時であった。 「そこのお嬢さん……」 闇の中から、少女を呼ぶ厳つい声。 「……え?」 立ち止まる。 振り返る。 視界いっぱいに、純白褌一丁の巨大でガチムチなヴェリィー・マッチョが。 女子高生の思考と動作がフリーズした。 マッチョはニコッと眩く紳士的に笑うと、 「ダイエットには……」 言いながら徐に真っ白な褌に手を突っ込んだ。 「――コレですぞ!!!」 かくして取り出したるは、それはそれは立派で太くて真っ黒い……鉄アレイ。 「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」 少女の悲鳴が暗闇に響いた。 ●ガッチムチですな 「ノーフェイスが現れたわ」 集まったリベリスタ達へ、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が二色の瞳を向けた。 「その名も『鉄アレイの漢』……フェーズは2。配下エリューションはいないよ。理由は知らないけど、鉄アレイをこよなく愛している筋骨隆々のノーフェイスなの」 彼女の言う通り、モニターに映っているノーフェイスはガッチガチのムッキンムッキンであった。丸太の様な腕にガッチリ割れた腹筋、盛り上がった大胸筋、太い首、発達した大腿四頭筋――かなり力が強いだろう、それにその分厚い筋肉は防御力もありそうだ。真っ向から単独で立ち向かうと苦戦するだろう事は容易に想像できる。 リベリスタ達がモニターからフォーチュナへと視線を移すと、彼女は頷き説明を再開した。 「『鉄アレイの漢』は見ての通り、鉄アレイを武器にした肉弾戦を得意とするよ。でもそれだけじゃなくって鉄アレイを投げてきたりもするから、間合いがあるからって油断しないで。鉄アレイに直撃しちゃうとショック状態になるから気をつけてね。 それとこのノーフェイスは見た目によらず機動力が結構あるから、素早さに翻弄されて混乱しちゃダメだよ。 勿論、あの筋肉の通り力も強い。皆で協力して戦う事ね」 重ねられる忠告にリベリスタ達が頷いたのを確認すると、イヴは更に説明を続ける。 「それとね、この女子高生。多分、貴方達が到着する頃には路地のすぐ入口あたりに居ると思うんだけど……ノーフェイスが来る前に、先ずこの子を何とかしてあげてね。 ――これで説明は終わり」 言いながら、モニターへ向けられていた目を再びリベリスタ達へ向ける。一息の間の後に彼女は言い放った。 「それじゃあ、宜しく頼むわね。……頑張って」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月11日(日)21:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●いざ逝けノーキンズ 「はぁー~、ダイエットかぁ……。明日っから朝ごはん抜きにしようかな……」 夜の暗い路地に、乙女の暗い溜息が響く。 塾帰りの女子高生はいつもの帰り道である路地へと重く足を進めて――立ち止った。 「……あれ?」 いつもの路地に赤ポールと通行止の看板。 工事かな?そう思った直後に声が掛けられる。 「あ、そこ通行止っぽいッスよ。迂回したほうがいいみたいッスよ」 「えっ?」 女子高生が振り返ったそこに居たのは、自分と同い年ぐらいの少女――『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)。 イーシェは人当たり良く表情を笑ませると、彼女へ気さくに話しかける。 「アタシもこの道使ってるんスが……工事なら仕方ないッスね。なんでもガス漏れらしいッスよ?」 イーシェの言葉の最中、工事員の服装をした『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)が「はいゴメンよー」と彼女和の脇を通り抜けて路地へと歩いて行く。 「そっかぁ」 ディートリッヒが歩いて行った先を見つつ、女子高生は鞄を肩に掛け直すとイーシェの方へ向いた。元々そういう人柄なのだろう、明るく彼女へ笑いかける。 「じゃ、仕方ないねっ。教えてくれてありがと! よかったら途中まで一緒に行く?」 「勿論ッスよ! ……あ、とろこでついさっき『ダイエット』とか言ってたッスけど……」 「そーなの! 何かいい方法ない?」 「うーん、アタシは運動とストレッチを丁寧にしてるッスね。お風呂上がりのストレッチとかお薦めッスよ。 それと間食は止めた方が良いッス。でも、人生の楽しみがないとやってらんねぇッスからね、少しだけ控えると良いんスよ。 皆極端に走るからつれぇんス」 「へぇ~……成程ね~」 イーシェと女子高生が和気藹々と会話しながら遠ざかって行く。 「ダイエットかー。ボクの年だとあとの成長に悪いんでないなー。……あとで成長するはずだよー」 その様子を物陰から見ていた『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119)が呟いた。ついでに結界も張って不安要素を潰しておく。 「大体だいえっとに必要なのは筋肉トレーニングだけじゃなく有酸素運動を混ぜつつだの……」 同じく様子を窺っていた『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)がブツブツと自分のダイエット理論を展開させてゆく。 「どうだ? 上手い事いったのか?」 ディートリッヒは戦いやすいようにと路地のゴミを蹴ってドブの方へと片付けつつ仲間へ訊ねる。 「そのようだ。……しかし違和感がないな」 「うるへー」 ディートリッヒの工事員スタイルについての『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)の呟きとそれに対する彼の返事。 ――しかし、ほのぼのタイムはこれにて終了。 「なんていうかこれは……うわぁ……ひどいでござる」 いくらノーフェイスといえども少しは服に気を使ってほしいものだ。『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)がげんなりと眉根を寄せる。 「褌一枚とか変質者でござらぬかー!」 「同感だ……何で褌なんだ……」 やれやれ。『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)の表情も渋い。 まぁいい。『咆哮搏撃』で固めた拳を握り締め、勇然と前を向いた。 「褌一丁で女子高生に迫ろうとする、まごう事なき変態……だが、随分と鍛えてあるな。 見掛け倒しじゃなけりゃいいがよっ! ぶっ潰してやらぁっ!!!」 モノマと同様に構えるのは『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)。蒼白い槍斧『ヒンメルン・レーヴェ』をヒュンと振るい声を張り上げる。 「カッチカチなのですっ! からだは、鍛えるものです! そのきもちは! よくわかるのです! でもっ、戦いはひじょう! ゆーしゃたるもの、どーるいあいあわれまぬ!」 勇気凛凛の臨戦態勢のリベリスタ達が見据える先―― 爽やかな筋肉男児が爽やかに微笑みながら爽やかに鉄アレイでトレーニングをしている姿が。 「――ゆくですよ! いざ! しょーぶ!」 イーリスが愛斧の切っ先を向けた。 脳筋VS脳筋。開戦である。 ●頑張れノーキンズ 準備された光源の為に視界は良好、女子高生についても問題ない、そうと決まればぶっ潰すのみ! それぞれに自己強化を済ませたリベリスタの行動は迅速であった。まずは二手に分かれる。 「なんとまあ、暑苦しそうな敵じゃわい……脳味噌まで筋肉が詰まっとるんじゃないかのぅ」 それに褌――ビジュアル的にも最悪だが、そんな事を言っている場合でもない。 なんせ――8人のリベリスタ達は全員前衛他者回復なしの『ガンガン行きましょう命投げ捨てるモノ!』を超特急で往く面子だからだ! 速攻で決めねばならない。真っ先に接敵する班のレイラインは猫の爪を模した殴打武器『猫の爪みたいなもの』を構えて飛び込むや鋭く幻影剣を放った。 「……変態相手にもなれてきたんだよー」 全くこんな変態ほど革醒しやすい世の中。漢がレイラインの攻撃を受けている隙に岬は敵の横を走り抜け、邪斧『アンタレス』を構える。同時に漢の背後へ到達したモノマは直後に地を蹴って漢へと向かった。レイラインが後方宙返りで鉄アレイの一撃を華麗に回避し着陸したのと入れ違いで飛び掛かる。 「突き抜けろおぉぉぉッ!!」 叩き込むのは渾身の掌打。破壊的な気。 「ぐフッ!」 内部からの破壊攻撃に漢の動きが引き攣る。 その隙に包囲網は完成した。 「やあやあ! われこそはイーリス・イシュター! まかりとーる!」 イーリスのオーラが激しい電撃となってゆく。蒼白い電光を纏った『ヒンメルン・レーヴェ』を振り上げる! 「おせおせ! いーりすまっしゃーーー!」 豪打、捨て身の雷撃――押し切る! 「やるじゃあないか!」 雷撃を受けた漢がニカッと爽やかに笑った。鉄アレイを握り締めた両腕を広げて回転し、イーリスとレイラインに手痛い一撃を加える! (別に悲しくなんてねぇよっ!) 剛腕の下をすり抜ける様に身を低くして躱したモノマ(身長:やや低め )は心の中で叫んだそうな。 「参る!」 漢の回転が止まった直後、長年愛用している漆黒の大太刀『鬼影兼久』を構えた虎鐡が跳躍した。輝くオーラを纏い、もうあの褌斬ってやろうかと言わんばかりの勢いで猛ラッシュを繰り出す。漢も鉄アレイで応戦する。刃物と鉄アレイがぶつかり合う。 「なんかテカってたりするし近づきたくないよー、なんでこの手の変態は無駄に歯が白いんだろ―?」 岬も『アンタレス』を振るって疾風居合い斬りを放つ。その間にショック状態となった二人は下がり、それを補う様にディートリッヒと九狼が前に出た。 「筋肉自慢などせず男は黙って自分を磨くもんだぜ? それと見知らぬ女の子にいきなり変な勧誘するもんじゃねーな」 闘気を纏ったディートリッヒが不敵に笑い、グレートソードを構える。この前のめりどつき合い構成――上等、喧嘩屋の自分にとってはいっそ清々しい。 鉄アレイの一撃を喰らった虎鐡が一旦飛び退いたのと同時に飛び掛かる。 ディートリッヒはオーララッシュ、九狼はソニックエッジ。 (身長が高く急所はやや遠い――ならば) 愛打刀『蓮ノ露姫』を携えた九狼は狙いを漢の脚へ、その腱へ。 しかし部位狙いはそう簡単にいくものではない様だ。 「おっとー!?」 不気味に身軽。ひょいと飛んで躱されると、そのまま漢は両手を褌内へ突っ込んだ―― 「皆大好き鉄アレイですぞーーー!!」 鉄アレイが大量に飛んでくる! 「!!」 見切ったかと思えば更に飛んでくる、掠る、当たる、圧倒する。 重い一撃は容赦なくリベリスタの意識を揺さぶり、その脚をふらつかせる。 後退してしまう。 そして攻撃の手が止んでしまった――否! 「……しかしどうして鉄アレイ。 負荷をかけて鍛えるって意図はわかるんスが、いっぱい持っててどうって問題じゃないと思うんスよね。 結局は、コイツは変態ってことでいいんスかね?」 キラリと煌めく正義の銀剣『Knight's of honor』。 エリューションは須らく排除するのみ――誇り高き折れざる意志を瞳に、帰還したイーシェが白銀の片手半剣を構えて跳躍する! 「その筋肉がしおしおになるまで相手をしてやるッス!」 雷刃一閃、ギガクラッシュ! 「ほほう……! 君も鉄アレイ好きかい?」 それでも爽やかな表情を崩さない漢が褌の中から鉄アレイを取り出す。 「……ブレイクフィアーとかはぜいたく品、欲しがりません勝つまではー」 攻撃は最大の防御――オーラに輝く『アンタレス』の紅い目が獲物を捉える。刹那に岬が連撃を繰り出す。 「ただただ力に任せた攻撃では、アタシは砕けねぇッスよ!」 イーシェも加勢し、その間に他のリベリスタ達はショックから立ち直るのを待ちながら集中を重ねていった。 回復は無い。だが、それは逆に『それだけ火力が素晴らしい』という事。 漆黒の魔斧、白銀の剣、鉄アレイの奏でる戦闘音楽を耳に気を研ぎ澄ます――二人が徐々に圧されていく―― 「どちらが先に倒れるか……勝負じゃ!!」 「ぶった切る!」 「ちからこそ、ぱわーー!」 飛びだしたのはレイライン、ディートリッヒ、イーリス。 空を切り繰り出すのはソードエアリアル、疾風居合い斬り、ギガクラッシュ! 力押し上等ッ! 「そう――力こそジャスティスだね!!」 鉄アレイの殴打豪打で迎え撃つ漢の微笑み。 互いに満身創痍。 誰もが肩で息をする。 正に血沸き肉踊る。激戦。 殴り殴られ斬って防いで声を張り上げ。 これこそ『戦い』。 命を懸けた戦い。 ――かくして、決着の時は、近い。 「行きますぞーー!」 爽やか漢が姿を消した――否、超スピードで跳躍し始めたのだ! 「!」 多角的な鉄アレイ攻撃がリベリスタ達を襲う。 しかし黙ってやられる彼らではない。 「――遅いわい!」 本家ソードエアリアルを繰り出したレイラインが漢の動きを阻む。スピードは彼女の方が圧倒的に上、漢がバランスを崩した。 「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」 そこへ森羅行によって完全回復したモノマが斬風脚を放った。それは漢ではなく――漢が着地しようとした足場を派手に破壊する! 「うぉっ!?」 着地に失敗した漢が転倒する。ここぞと飛び出した九狼が『蓮ノ露姫』による澱みなき連続攻撃で漢を追い詰める、急所を容赦なく斬り刻む! 「喧嘩屋舐めんじゃねぇーッ!」 九狼のソニックエッジで動きの止まった漢へディートリッヒと岬が輝く刃を振り上げ、更にオーララッシュを叩き込んだ。 「今のはギガクラッシュじゃない、メガだ―! じゃなくてオーララッシュだー!」 圧す。追い詰める。 ――激しい電撃を纏って、三つの眼光が獲物を捉えた。 鬼影兼久、ヒンメルン・レーヴェ、Knight's of honor。 黒と、蒼と、銀。 「いい加減ぶったおれるでござるよ!」 「ひっさつ! いーりすまっしゃーーーっ!!」 「さよならグッバイエリューション! 来世はもっと無害な存在になれば良いッスね!」 強力無比な荒ぶる雷撃が三刃。 激しい電光が戦場に満ちる。 それは漢を跡形も無く消し飛ばした―― ●お疲れノーキンズ 「せいぎはっ! かーーつっ! ですっ!!」 愛斧を両手に掲げ、イーリスが勝鬨を上げる。 「やー、脳筋でもなんとかなるもんだねー」 岬もアンタレスを肩に、収めた勝利に安堵の息を吐いた。 「自前でこれ程の肉体を作り上げるには、ダンベル以外の器械を使った鍛練が絶対に必要だ。 おそらくコイツはエリューション化の際に変態した類なのだろう。 元はマッチョ志向が有るものの、努力を出来なかった塵か、或いは誤った鍛練をし過ぎて、頭がおかしくなったバカか……、非常に希有な戦士としての才能を持っていたのに、頭が悪過ぎたようで残念だ」 今や文字通り塵となった漢についての持論を述べつつ、九狼は静寂の訪れた路地を見遣った。 「……ところでなんでダイエットに鉄アレイ推してたんスかねぇ?」 先祖伝来の兜を脱いで一息吐いたところでイーシェが首を傾げる。その横でレイラインが「そうそう、だいえっとと言えばだな……」と語り出したが文字数の都合で割愛させて頂きます。ごめんね。 「恐ろしい……相手でござった……。 爽やかなくせになんかやっぱ汗臭いでござぁ……」 やれやれ、虎鐡は肩を回して溜息を吐く。アレの汗臭さが染み付いていないか心配でちょっと自分の匂いを嗅いでみたり……愛する養子に『クサイ』『こっち来ないで』なんて言われたら、死ねる。死ぬしかない。 「それはそうとあの四次元褌凄かったでござるなぁ……」 「あぁ、とんだ変態野郎だったな……」 虎鐡の言葉にディートリッヒが頷き、モノマも同感だと肩を竦めた。 あんな変態が出没しない事を願うばかりである。 兎にも角にも、勝利したのはリベリスタ。 静けさを取り戻した夜を一望して――脳筋戦士は踵を返す。 正義は勝つ。 そして正義の脳筋も――勝つ! 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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