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Death is deaf to our wailings.(死には嘆きの声が聞こえない)

●Death is deaf to our wailings.
(死には嘆きの声が聞こえない)
 ――アメリカのことわざ

●『冥府への伝信ネクロウル』
「貴方たちに頼みたいことがあるの――リベリスタである貴方たちに」
 アーク本部にあるブリーフィングルーム。
 その場所に集まったリベリスタ達を前にしてフォーチュナの少女――真白イヴは静かな声音で口火を切った。
 手短な返事や首肯で了解の意を示すリベリスタ達を軽く見回すと、イヴは再び口を開いた。
「……とある少年から『アーティファクト』回収することが今回の任務。当然、分かっているとは思うけど、放っておけばフェーズが進行して大変な事になるから……」
 ――破界器(アーティファクト)。
 他チャンネルの侵食因子の影響を受けたことによりエリューション化した物品の総称だ。
 無機物そのものが意志を持って独立行動するエリューションゴーレムの場合とは違い、通常は『それそのもの』が自発的に何かを起こす事は無い。
 だが、フェイトを持たない人間に扱われる場合は、エリューション特性を喪失しないアーティファクトは結果的に世界崩壊を引き起こす一因となってしまうのである。
 それだけではなく、物品がただ単純に危険な効力を得てしまう場合も存在する為、どちらにせよ放っておくわけにはいかない代物である。
 常軌を逸した力で奇跡を容易に引き起こすアーティファクト効力は、この世界にとっては大きすぎるのだ。
 そうした力は時に社会のバランスさえ脅かし得る。
 使い手の善悪もさる事ながら、到底その力は普通に人間社会に野放しにしておくにはいかない。
 リベリスタ達の目は一様にイヴへと問いかけていた。即ち、今回の事件の渦中にあるのはどんな代物なのか? ――と。
 無言の問いかけに答えるように、イヴは一度言葉を切ってからゆっくりと口を開いた。
「『冥府への伝信ネクロウル』。アークは……そう呼んでいるわ」
 イヴが告げた名前を聞いたリベリスタ達は一斉に首を傾げる。その顔は一様に、一体それが何であるかを問いかけている。
「この次元――世界に留まっている霊魂に関係したアーティファクト。使い続ければ危険な事態を誘発するわ――」
 そこまで言うと、彼女は端末を操作してメインモニターに映像を映し出した。

 ――もう恥ずかしがったりせずに言うよ。小さい頃から可愛いと思ってたし……好きだったよ――

 モニターの中では一人の少年が恥ずかしげに携帯電話へと囁いている。
 映像の背景は滲んでおり、薄ぼんやりしたディティールであることから、この映像はフォーチュナが見た光景の投影である事が分かる。
 イヴは端末を操作して映像を一時停止すると、更に端末を操作して少年の手元をアップにした。
 拡大された少年の手元には、一台の携帯電話が映っている。見た所、ごく普通の携帯電話だ。特に変わった所があるようには思えない。
「これがそのアーティファクトよ。そして、この子がその携帯電話を手に入れた少年――平坂徹(ひらさか とおる)」
 イヴは少年の名を口にしつつ端末を操作し、アップになっていたカメラを引くようにして少年の全体像が見えるように映像を動かす。
 見た目はごく普通の少年という印象を感じさせる。人並みに真面目で、人並みにふざける――そんなどこにでもいるようなごく普通の少年。それが徹の印象だった。
「端的に言うなら、何の変哲も無いのない日々を送っていた少年。ただ一つの例外――小さい頃から時に痴話喧嘩を繰り返し、時に良い雰囲気になる幼馴染がいたこと」
 いつもの淡々とした声音の中に一抹の感情を滲ませながら、イヴはなおも語り続けた。
「まるで漫画のようでしょう? でも、その幼馴染はもういないわ――」
 遠い目をしながら悲しげに語るイヴの様子に事情を察したのか、リベリスタたちは一様に黙り込む。そして、イヴはリベリスタたちの察した通りであると示すように、静かな声音で告げた。
「――死んだの。そして、彼――平坂徹は『ネクロウル』を偶然手に入れた」
 やはり遠い目と悲しげな表情でイヴは再び端末を操作し、携帯電話の画像をもう一度アップにする。
「彼は事ある毎に『ネクロウル』を通して幼馴染と会話しているわ。今彼の手にあるあのアーティファクトは死者――正確に言えば、この世界に留まっている霊魂との会話を可能にするのよ」
 その言葉にリベリスタたちが息を呑み、或いは表情を驚愕に染め、三者三様の反応を示したのを見てから、イヴは二の句を告いだ。
「『ネクロウル』のおかげで彼は幼馴染の生前に言えなかったこと――彼女への想いを告げ、そして彼女からも想いを告げられ、両思いとなったわ」
 いつも通りの淡々としたイヴの口調。だが、今この時ばかりは彼女が努めて淡々とした口調で話しているのではないかと、リベリスタたちは思った。
「そして、それがあったからこそ、彼は幼馴染を喪った悲しみから立ち直れた」
 詳しく説明したおかげでリベリスタたちが事態を呑み込み始めているのを感じ、イヴは更に続ける。
「だから今の彼はもう失意には沈んでいない」
 生者と死者という存在に別れはしたものの、互いの想いを伝え合い、その想いが結ばれた――それだけ聞けば、ただの良い話とすら思える。だが、リベリスタたちには無表情なイヴの顔が憂いに沈んでいるように感じられてならなかった。
 確かに、アーティファクトは強大な力を持っている。しかし、得てして大きな力には大きな代償がつきまとうものだ。
 現に、強大に過ぎるアーティファクトは往々にして、同等の強烈な副作用を伴う事が多い。
「霊魂という本来ならただの一般人には関わることのできない存在とただの一般人が会話できる。これが何の代償も無しに可能だと思う?」
 淡々とした声音で紡がれるイヴの一言。それを聞いたリベリスタたちは一斉に絶句し、凍り付いた。
「『ネクロウル』はエリューションフォースを引き寄せてしまうの」
 まるで吹雪が吹き荒れる雪原のごとく冷えきった雰囲気のブリーフィングルームの中、イヴは続けた。
「使い続ければやがて彼はエリューションフォースの大群を呼び寄せることになる」
 季節は八月。真夏も真っ盛りだ。だが、リベリスタたちの心身はぞっとするような感覚で真冬のように冷えきっていた。
「放たれる『ネクロウル』の因子――それにエリューションフォースが引き寄せられているの。まるで、携帯電話の発する電波に引かれて集まってくるようにね」
 リベリスタたちは事の重大さを嫌というほど理解したのか、重々しい所作で一様に頷いた。
「任務は――『ネクロウル』の回収、もしくは破壊」
 イヴはリベリスタたちに言い放つ。
「このまま放っておけば、彼はいずれこうなるの……」
 再び、淡々とした声音の中に一抹の感情を滲ませて言うと、イヴは端末を操作して一つの映像をモニターに映し出す。

 ――何なんだよ……こいつら――うああぁぁっっ!」
 
 映像の中心では徹が携帯電話を手に、エリューションフォースの大群に襲われている。彼は幾重にも取り囲むようにして無数のエリューションソウルに群がられていた。
 おびただしい量の手が彼へと伸び、手足を掴み、首を締め上げている。
「彼はエリューションフォースのことも、アーティファクトのことも――それこそ、殆ど何も知らない。だから、頭ごなしに『ネクロウル』を渡せと言っても、到底聞かないでしょうね」
 当然だろう。自分を失意の底から救ってくれるものを偶然にも得たのだ。リベリスタたちにはそれを手放したくない気持ちも頷けた。
「でも、このまま『ネクロウル』の機能を使用し続ければ、やがて予測した未来――さっきの映像と同じ末路を辿ることになる」
 イヴはリベリスタたちに向き直ると、勤めて感情を抑えた淡々とした声で言った。
「私が思う方法は三つ。一つめは、彼から力づくで『ネクロウル』を奪うこと。二つめは彼が別の方法で失意から立ち直り、『ネクロウル』が無くても前を向いて進んでいけるようにすること。そして、三つめは一つめと二つめ以外の方法、私も思いつかなかった方法」
 リベリスタたちが頭の中で方法を吟味しているのを見て取りながら、イヴは付け加える。
「どの方法を採るにせよ、急いでね――無数のエリューションフォースが集まってくる結末まで、もうそれほど時間は残されていないわ」
 イヴがモニターを操作すると、今も携帯電話――『ネクロウル』を手に歓談に興じている徹の姿が映し出される。
「今、彼が歩いているのは都内の一角、詳しい場所は――」
 イヴはリベリスタたちを見回しながら、彼が今いる場所を告げていく。
「厄介で危険だけど……彼を犠牲にしない為にも――この仕事、お願い出来るかしら?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常盤イツキ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月17日(土)00:42
 こんにちは。今年の七月よりSTとして活動させていただくことになりました常盤イツキです。
 皆様に楽しんでいただけますよう、力一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

●情報まとめ
 舞台は東京都内。ごく普通の住宅街が舞台となります。
 

『つかみ』
 神近単
 近距離の対象を幽体の手で掴む。
 
『首絞め』
 神近単
 近距離の対象の首を絞める。


●シナリオ解説
 平坂徹はごく普通の人間です。戦闘能力はありませんので、リベリスタの皆さんが守らなければエリューションフォースの攻撃を受けて死亡します。
 皆さんは彼が無数のエリューションフォースに襲われる瞬間に現着して戦うことになります。
 無数のエリューションフォースは戦闘開始時には八体出現し、全滅させるとまた新たに現れる八体と戦闘することになります。
 エリューションフォースの能力は上記の通り。ヴィジュアルは物理攻撃に近いですが、幽体という設定上、神秘攻撃として扱います。
 なお、『ネクロウル』を破壊すれば、その時点でエリューションフォースの引き寄せは停止するので、全滅させた後で新たに八体のエリューションフォースが出現することはありません。
 イヴも言っていたように、クリア条件を満たす方法は一つではありません。
 リプレイを面白くしてくれるアイディアは大歓迎ですので、積極的に採用する方針ですから、イヴの提示した方法以外にも何か良いアイディアがあれば、積極的に出してください。一緒にリプレイを面白くしましょう!
 それでは、イヴ曰く『危険で厄介』な任務ですが、ガンバってみてください。
 皆様に楽しんでいただけるよう、私も力一杯頑張ります。
 それでは、プレイングにてお会いしましょう。

 常盤イツキ
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)
ナイトクリーク
★MVP
金原・文(BNE000833)
ナイトクリーク
アルカナ・ネーティア(BNE001393)
覇界闘士
神代 凪(BNE001401)
ホーリーメイガス
識恵・フォウ・フィオーレ(BNE002653)
プロアデプト
ロマネ・エレギナ(BNE002717)
プロアデプト
廬原 碧衣(BNE002820)
ホーリーメイガス
雛月 雪菜(BNE002865)

●デス・イズ・デェフ・トゥ・アワァ・ウェイリングス
「平坂が死霊に殺されれば彼女も安らかに眠れなくなる。墓守として、彼女の安らかな眠りを守ってあげたいよ」
 現場に向かう車の中で『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)は強い決意を込めた声で言った。
「もういない人と、話ができる……お母さんと、話ができるかもしれない……ううん! 危険なアーティファクトは、ちゃんと破壊しなきゃ!」
 一瞬、躊躇うような素振りを見せたものの、すぐにアンデッタと同じく強い決意を込めた声を出したのは『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)だ。
「使者と対話を為す事が出来るアーティファクト、ですか。確かに……人によってはそれはどれだけ切望しても得る事の出来ない物ですね。……可哀想だとは思います、同情する余地もありましょう。それでも、私達には遣り遂げなければならない事があります」
 文の言葉に同意するように 『優しき白』雛月 雪菜(BNE002865)が文へと声をかける。
「集まってくるエリューションフォースも、別離を経験した人の想いの欠片なのかな……? 誰もが同じ痛みを抱えて誰もが乗り越えて生きなきゃいけない。わたしはそのお手伝いをするなの」
 俯き加減で二人の言葉を聞いていた『夢見がちな』識恵・フォウ・フィオーレ(BNE002653)も顔を上げ、二人と同じようにしっかりと前を見据えて口を開く。
「人の思い出は、儚いものじゃが大切にしなければならぬのう」
 そんな四人の様子を見て、『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)はしみじみと呟いた。
「死者と会話の出来るアーティファクト、か。下らないな。そんなものがあると生者が迷ってしまうだろ?」
 文たちとは違って、『』廬原 碧衣(BNE002820)は決然とした声で切り捨てるように言い放った。だが、その声音はどこか自分に言い聞かせるような響きを含んでいる。
(私が、そんな事が叶うのならと一瞬でも迷わされたようにな)
 自分に言い聞かせるように、心の中だけでそう呟くと、碧衣は毅然とした表情をことさら心がけた。
「わたくし共のすべきことは『ネクロウル』の回収または破壊でございます。そして、優先すべきは徹様の命」
 静かな声で改めて任務内容を確認するのは『Pohorony』ロマネ・エレギナ(BNE002717)。彼女の顔はベールに隠されて見えないが、きっと仲間たちと同じく決意に満ちた瞳をしていることだろう。
「哀しいお話だねー。最悪、無理矢理にでも止めなくちゃいけないよね。幼馴染の彼女だってきっと悲しむもん。だからやれる事をやらないとね」
 ロマネの声を聞き、任務内容を自分でも確かめながら『』神代 凪(BNE001401)は呟いた。やはり、彼女の声と瞳にも、揺ぎない決意が宿っている。
 彼女たちが決意を新たにし終えたのを見計らったように車が減速し、ほどなくして停車する。気が付けば、ブリーフィングルームで見た映像と同じ風景が周囲に広がっていた。
「どうやら到着したようでございますね」
 静かな声でロマネが告げると、車内の全員が一斉に頷く。
「徹さんを助けて……幼馴染さんを悲しませないためにも……がんばろう、みんな!」
 怖がりながらも勇気を振り絞った文の言葉に、仲間たち全員が自然と勇気付けられていく。それを感じ取ったアンデッタは更に勢いをつけるように、努めて明朗な声で言った。
「行くよみんな! 平坂と幼馴染の二人が待ってる!」
 その言葉に全員は強く頷くと、停車した車内から飛び出した。
 
●ベイン・ザ・ファントム
「何なんだよ……こいつら――うああぁぁっっ!」
 突如として徹の周囲に現れた謎の存在は楕円形で半透明の球体の表面に人の顔のようなものがいくつも浮き出ており、更には無数の腕が何本も生えている。まるで幾人もの人間のパーツを混ぜ合わせたかのような浮遊する幽体――エリューション・フォースによって瞬く間に取り囲まれたことで、徹は恐怖のあまり絶叫していた。
 その数八体。徹を取り囲む死霊たちは一斉に手を伸ばし、うめき声を上げながら彼へと襲い掛かった。だが、死霊の一体が徹の首を絞めようと伸ばした手は、唐突に飛来したかまいたちによって切り落とされる。
「間に合ったー! 危ないからちょっとじっとしててね。すぐすませるよっ!」
 恐る恐るかまいたちの飛んできた方向を見た徹は更に驚愕した。その方向に立っていたのは、タヌキの耳と尻尾の生えた少女――凪だ。今の凪は自分も超常の力を使えることを徹にアピールする為、あえて耳と尻尾を隠す幻を見せる能力を使用していなかった。
「大丈夫、あなたの大事な人は魔法少女が守るなの!」
 電話の向こうの幼馴染にも聞こえるように大きな声で宣言しながら識恵が戦場へと駆け込む。
「徹さんを傷つけさせはしません!」
 続いて駆けつけた雪菜も幼馴染に聞こえるように大きな声で宣言する。
 識恵と雪菜は互いに頷き合うと、二人で聖なる光を放つ。二人が力を合わせて放った聖なる光は、徹に群がるように集まった三体の死霊を焼き払い周囲を照らし出していく。
「ごく普通の世界に生きる若者がこんな形で命を落とすのは不憫じゃからのぅ」
 死霊の一体が半実体化した腕を伸ばして徹の腕を掴もうとした瞬間、上方から伸びた黒いオーラがその腕をへし折って叩き落し、そのまま死霊を霧散化させる。
 突然、自らを助けてくれた黒いオーラに驚きながらも徹が頭上を見上げると、その先には空中から戦場へと舞い降りてくるアルカナの姿がある。
 驚きのあまり死霊の数々を凝視していた徹は偶然にも、自らの真正面から突っ込んで来る死霊の一体と目があってしまい、死霊の目を思わず覗き込んでしまったことで仰天し腰を抜かす。
 尻餅をついた徹に死霊が襲い掛かる直前、徹の眼前で死霊が真正面の顔の一つを撃ち抜かれた。正確には眉間部分をライフル弾が貫通し、死霊が霧散していく。これで五体目だ。
「貴方様をお守りします、あれらは遠くに逃げても追ってきますので、わたくし共の後から離れませんように。この世ならぬものに惹かれてくるのでございます」
 ゆっくりとした足取りで徹へと歩み寄りながらロマネはライフルのボルトを操作して空になった薬莢を排出する。そして、再びボルトを操作して次弾を装填しながら、徹を守るように彼の前へと立った。
 落ち着いた声と足音、そして排出された空薬莢の転がる甲高い音に引かれるようにして、呆けたようにロマネへと振り返る徹。だが、その暇すら与えまいかといわんばかりに次なる死霊が無数の手を彼へと伸ばす。
「そういうことだ。事態が既にお前の常識の埒外にあるものだということは私たちや、今も群がってきているこの死霊どもを見れば分かるだろう?」 
 周囲に張り巡らせた糸の罠。それにかかった死霊の一体を絡め取りつつ、碧衣は徹の隣まで来て立ち止まると彼に目で問いかけつつ、糸を力強く引っ張って死霊の身体全体を締め上げ、無数の断片に分割するように断裁する。
「だから、これからわたしたちがする話を聞いて……ほしいの」
 文は徹の背後から迫っていた死霊の一体を、全身から放った気を糸状にしたもので捕縛しながら、徹へと語りかけた。自分の方を振り返った徹と目を合わせる一方で、文は必死に糸を繰る。それに耐え切れずに死霊は、がんじがらめになったまま霧散していく。
 敵が消えたことで手応えが無くなった糸を手元へと巻き戻しながら、文もロマネと碧衣に続いて徹のそばに立ち、しっかりと敵を見据えた。その瞳は恐怖で揺れていたが、敵から目を逸らすまいと、文は精一杯の勇気を振り絞る。
「碧衣様、文様、そしてわたくし――揃いまして、ございます」
 静かに告げるロマネの声を合図に碧衣と文が頷いた。そして彼女たち三人は身体から気の糸を放つと、互いの気の糸と絡め合わせ、戦場一帯を丸ごと覆うほどの巨大なドーム状のネットを編み上げていく。
 神秘の暴露を少しでも抑えるべく、そしてこれ以上被害を拡大させない為、彼女たち三人が力を合わせて結界を張ったのだ。
 結界に覆われた戦場の中で、残る一体の死霊が正面から徹へと無数の腕で掴みかかる。
「僕達は君と電話の向こうの彼女を守るために来たんだ。危険だから僕から離れないで!」
 その言葉と共にアンデッタが徹の前に飛び出すと、無数の手から身を呈して彼を庇い、即座に八人は死霊から徹を守るように彼を中心とした布陣を組んだ。

●ヴォイス・フロム・アンダーワールド
「今の死霊を見たじゃろう? 便利なものはタダで手に入るわけではないのじゃ。またお主の身に危険が及ぶ前に、それをこちらに渡して欲しいのじゃ」
 アルカナは徹が握り締めている『ネクロウル』を目線で示しながら言う。だが、徹は激昂とすら言えるほどに声を荒げてそれを突っぱねる。
「コレを手放す……そんなコトできるワケないだろ! どうして手放さなきゃいけないんだよ!」
 それを聞き、アルカナから言葉を継ぐように識恵が説明を始める。
「この幽霊さんたちはその携帯電話に引き寄せられてるの」
 それを聞いて徹は手元の『ネクロウル』と、残る一体の死霊を見比べる。
「で、でもよ! これを手放したら、もう――」
 事情を説明されても渋る徹。そんな彼にロマネは相変わらずの静かな声で言い聞かせる。
「お手元のそれは人が誰しも夢見る願い。徹様のお気持ちを否定は致しません。ですが、よく考えずともそれが普通でない事は理解頂いていますでしょうか? 何の代償もなしに亡くなられた方とお話をする事が、叶うとでも?」
 そして、諭すようにロマネは続く言葉を告げた。
「人は幸せに生きる事を求める義務があるのですから、どうぞお命は大事になさいませ。貴方様を愛する方も、それを望まれぬはずがございません」
 ロマネがそっと言い終えたのを確かめ、凪も口を開いた。
「君の辛い気持ちがわかるだなんて軽々しく言わないよ。でも話したい気持ちはわかるよ。私もお母さんいないけど、まだ小さかったしお父さんいたから。あんまり辛くはなかったけど……お母さんと話せるなら話してみたいもん……でもね、それはやっちゃいけない事」
 そこで一度言葉を切ると、凪は拳に炎を灯してみせる。
「私達は見ての通り魔法みたいな力を一杯使えるよ。それでも死んだ人と話すなんて事が出来る人はいないんだ。出来たとしてもそれは何かを引き換えにしなきゃダメ。今、こんな風に襲われてるのはそのせいなんだよー。ねぇ、君の彼女は……君に命を落としてまで自分と話して欲しいだなんて思うのかな?」
 炎の灯った凪の手と彼女の表情、そして手元の『ネクロウル』を見比べる徹。彼は逡巡した素振りを見せると、そのまま黙り込んでしまう。
「その携帯電話……まだ、繋がっていますね? 電源は、そのままでお願いします」
 雪菜が徹に語りかける横で、アンデッタは電話の向こうの徹の幼馴染へと声をかけた。
「大丈夫、僕達が平坂を守るから。……君の名前を教えてくれるかな? 僕はアンデッタ」
 その問いかけから数秒の後、『ネクロウル』のスピーカーから真面目そうな少女の声がする。
『黄田川 和泉(きたがわ・いずみ)……です』
 雪菜は徹に続き、今度は和泉へと声をかけた。
「初めまして、雛月です。……先程から、会話が幾つか届いているかも知れません。その上で、重要な事を伝えさせて頂きます」
 ――私は彼らの幸せを奪うのだから。そうした思いから、雪菜は努めて感情は抑え、ゆっくりと口を開いた。憐みやそういった感情が出ない様に必死で自分の心を抑えながら、一言一言はっきりと和泉へと語りかける。
「このまま、貴女と彼が“有り得ない”事を続けていく場合……彼は殺されてしまいます。……どうか、貴女からも彼を説得しては……下さいませんか?」
 雪菜が言い終えてからややあって、スピーカーから和泉の言いよどむ声が響く。
「で……でも……私――」
 言いよどむ和泉へと、今度は凪が語りかける。
「ねぇ、聞こえてる? 近くにいるなら聞こえてるよね。彼に死んで欲しくないのなら、貴女からも止めるように言って欲しいな。お願いだから……」
 先程、徹に説明した時と同じように落ち着いた声音で識恵は和泉へと言い聞かせた。
「いつでも話せるんだもん。まるで、遠くに引っ越しちゃっただけみたいに錯覚するよね。でも、このまま手を離さずにいたら彼らはまた現れるの。だから、お別れの挨拶をしてあげて欲しい」
 識恵に続き、アンデッタも和泉へと言う。 
「君は平坂が自分の元へ来てほしいなんて絶対思ってないよね。だから、君からも平坂に伝えてあげてほしい。生きてほしいって」
 ――携帯に声を拾わせないといけないか、柄じゃないが多少声を大き目にしないとな。そう胸中で呟きながら、碧衣も『ネクロウル』を通して、その先にいる和泉へと語りかける。
「未練は解る、それがお前を留まらせている理由だとも。だがお前のその声が徹を惑わせて、歩みを止めさせてしまっている。真に徹の事を思うなら、お前から携帯を手放すように言って欲しい。徹が正しく歩めば、いずれまた会える。だから……!」
 碧衣の言葉を引き継ぐようにして、文は徹と和泉に語りかけた。
「今のままだと……和泉さんは、徹さんと会話をすることしか……できない。でも、天国へ行って、そして生まれ変われば……またもう一度、出会えるよ。きっと」
 だが、それでもなお徹は彼女たちの言葉をかき消そうとするかのように大声で叫ぶ。
「ほっといてくれよ! 俺はあんた達みたいに強くない! コレがなくなったら……和泉の声が聞けなくなったら、もう……ダメなんだ!」
 まるで文たちを遠ざけようとするかのように、徹はその場を去ろうと歩き出した。そして、その機を死霊が逃す筈もない。
「危ないっ!」
 護衛の陣形の外へと踏み出した徹に襲い掛かった無数の手。それに徹を掴ませまいと、文は徹を突き飛ばした。だが、代わりに文が無数の手に絡め取られる。
「わたしも……徹さんと同じだよ。強くなんか……ない。さっきから、ずっと怖くて……」
 無数の腕によって身体を呑み込まれながらも、文は僅かな隙間から必死に手を伸ばし、徹へと言葉を届ける。
「わたしも、死んじゃったお母さんと話がしたい……。でもきっと、その携帯電話を使っても話はできないって思う。だってお母さんは今ごろ、またこの世界に生まれてきて、元気に過ごしてるだろうって信じてるから」
 無数の手の中から外へと必死に伸びる文の手を見ていられず、思わず目を逸らす徹。彼が無意識に強く握り締めていた『ネクロウル』に向けて、アンデッタは優しげな口調で言う。
「死後も意識を保ってるのだとしたら、平坂以上に君も辛かったんだと思う。だから、最後に平坂といっぱい話をさせてあげたいな。気が済むまでの間、死霊を押し留めるくらいはしてあげられるから」
 その言葉が届くと同時、碧衣の放った幾本もの糸が、文を掴む無数の手の一本一本に巻きついて縛り上げ、文を縛めから解き放つ。
「徹、いいか――」
 糸を繰りながらの碧衣の言葉は、途中で肩に置かれたアンデッタの手によって制止される。
「事故で死別した時は別れを告げる間もなかったけど今回は違う。二人の想いを信じたい――だから、大丈夫」
 自分の目をまっすぐに見つめ、静かに頷くアンデッタの気持ちを感じ取り、碧衣は黙って口をつぐむ。二人に続き、残る六人も見守ることを決め、彼女たちは静かに口をつぐんだ。

●シー・ユー・アゲイン
「徹……小さい頃からいつもふざけてばかりの君にいつも手を焼かされてた……でも、そんな君がずっと好きだったの」
 文たちが見守る中、和泉が『ネクロウル』越しに徹へと告げる。
「ああ。ホントにお前は生マジメすぎて、カタブツで、石アタマで――そんなお前が……ずっと一緒にいたお前が俺もずっと好きだったよ」
 碧衣が残る一体の死霊を押さえつける傍らで、徹も和泉の声に応える。
「だから……もう、徹とはお話しできない」
 決然と言う和泉。だが、その声はどこまでも震える涙声だ。
「……大好きだよ、徹」
 殆ど聞き取れなくなる寸前まで涙に震えながらも、嗚咽するのを必死に耐えて、最後の最後まで言葉を搾り出すように紡ぐ和泉。徹はそれを黙って最後まで聞いた後に、ゆっくりと言葉を返す。
「俺も大好きだよ、和泉。またな」
 末尾の一言に和泉は疑問の声を上げる。
「え?」
 その問いに徹は涙声で答える。
「俺、待ってるから。お前が生まれ変わってもう一度会えるのを……ずっと待ってるから。だから、“さよなら”じゃなくて、“またな”だろ?」
 そして、涙声と微笑みの声が一緒になった和泉の声が『ネクロウル』から響いた。
「うん。またね」
 それから少しして、通話を切る澄んだビープ音がアンデッタたちの耳に届く。それを確認した碧衣は糸を繰り、最後の一体を断裁した。
「はい、コレ――。それと、さっきは、その……ありがとう。あいつ泣かせない為にも、ずっと悲しいのを引きずってないで、忘れて気持ちを切り替えないとな」
 電源を切って折り畳んだ『ネクロウル』を文に渡しながら徹は言う。晴れやかな顔で『ネクロウル』を手放した彼にロマネは優しく言った。
「忘れる必要はございません、大事な方の分まで、幸せになればいいのですよ」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。ご参加ありがとうございます。
 皆様のおかげで無事に徹は助かり、和泉も成仏することができました。
 次の任務まで、今はじっくりお休みください。
 それでは、次の任務でまたお会いしましょう。
 常盤イツキでした。

 2011.09.16 常盤イツキ