●このなつのえにっき 七月二十八日 はれ。 学校からもってかえったアサガオがきれいな花をさかせました。いろはきいろとあおです。あしたはもっとたくさんさいたらいいなと思いました。 七月三十一日 くもり。 きょうはラジオ体そうが休みだったので、はやおきしてお花を見ることができませんでした。たくさんさいたみたいだけど、しぼんでしまっていてざんねんでした。でもつぼみが三つできていたので、あしたはちゃんときれいにさいているところが見たいです。 八月五日 くもりのちはれ。 アサガオの花は二つでした。きのうといっしょでみずいろでした。きょうはたけしくんといっしょに虫とりにいきました。セミとカブトムシをつかまえました。タケシくんはクワガタムシをつかまえました。 八月十二日 あめ。 あしたからおじいちゃんのうちにいきます。カブトムシもいっしょにつれていこうとおもいます。カブトムシはくろくてかたくてロボットみたいでかっこいいです。 八月十八日 はれ。 おじいちゃんのうちからかえってきたら、アサガオがすごく大きな花をさかせていました! とってもとってもおおきいです! おとうさんのてよりもおおきい! ●八月二十日、明け方。 急成長を遂げ、大輪どころかラフレシア級の花を咲かせたアサガオが急速に蔓を伸ばした。大蛇の如く這い回るそれが目指すのは、玄関先におかれた透明な飼育ケースだ。プラスチック製のそれを素早く絡めとり、アサガオはそれを高く掲げる。幾重にも巻き付けられたそれがケースにヒビを入れ―― ――次の瞬間、ケースは内側から破壊された。 その変化もまた、一瞬。ケースの破片と共に絡まる蔦を引きちぎり、黒い塊が空中に躍り出る。弾丸の如きそれは上り始めた太陽を背に翼を広げる。 天を衝く角、黒く輝く鎧。雄々しき進化を遂げたカブトムシは、色鮮やかに咲いた巨大なアサガオへと飛び込んでいった。 玄関先で響く戦いの音色に、少年が驚いて目を覚ます。 窓辺に近寄り、カーテンを開けた少年は、驚きと感動に瞳を輝かせる。そして鉛筆とノートを急いで持ってきて、眼下の光景を描き始めた。 ぼくの、カブトムシとアサガオが―― そう記したその瞬間、日記帳が鈍く輝き――カブトムシの腕がはち切れんばかりに膨れ上がり、アサガオの蔦は引きちぎられた箇所から急激に再生していった。 さらなる強化を遂げた二体の戦いは、激化の一途を辿る。 ●ちょうてんかい 「八月二十日、くもりのち雨。とても大きくなったカブトムシと、大きくなったアサガオがうちの前で死闘を繰り広げていました」 手元の資料に目を落としたまま、天原和泉(nBNE000024)がそんな呟きを漏らす。 「……」 ふと資料から顔を上げ、既に集まっていたリベリスタ達に初めて気付いたらしく、彼女は顔を赤らめた。 「……と、まぁそんな事にもなりかねない状態です」 取り繕うように一つ咳払い。そして彼女はオペレーターとしての表情に戻る。 「エリューションが二体、ある家の軒先にて発見されました。フェーズ2相当まで段階は進んでいます」 場所はとある田舎町の民家。発見の遅れが災いした上、そのエリューションは戦闘能力に特化したような革醒を遂げ、なおも強化されている最中だと言う。 それだけでも結構な状況ではあるが、この事態はもう一つ別の面を持つようだ。 「カレイドから得られた情報によると、鍵となるのはこの場に存在するアーティファクトのようです」 映し出されたのは、民家の二階から二体のエリューションを見下ろす子供。そしてその手元にある日記帳だ。 「原理は不明ですが、エリューションはここに描かれる事で力を増していると見られます。恐らくはエリューション化自体ももこの日記が原因でしょうが……今更それはどうしようもありません。 あなた方にお願いするのは、脅威と呼べるレベルまで成長したエリューションの排除です」 ……勿論、言うほど容易い仕事ではない。だがエリューション同士が今のところ敵対状態にある事、そしてアーティファクトによる強化を上手く利用できれば……。 「健闘を祈ります」 最後にそう告げ、和泉は一同を送り出した。 ●追加情報 ・アーティファクト『かんさつえにっき』 描写された者に進化の力を与える絵日記。繰り返し描かれたものはエリューション化にまで至り、既に力を得ているエリューションやリベリスタは劇的に強化されます。 持ち主以外の人間が書けばどうなるのか、破壊すればどうなるのか等は不明です。 ・アサガオ エリューション・ビースト。巨大なアサガオを頭部と見立て、絡まった蔦が人間の女性のような形を取っています。身体の各所には蕾と大小さまざまな花が散らされ、非常にカラフル。 遠距離までを射程とし、近距離なら範囲攻撃が可能な程に大量の蔦を自在に操ります。動きは遅いですが攻撃の命中精度、そして生命力と再生能力に優れます。巻き付かれると呪縛相当のBSが発生します。 ・カブトムシ エリューション・ビースト。二足歩行する黒い甲冑の大男のような見た目に進化しています。小回りは効きませんが、パワーとスピード、そして防御力は脅威となるでしょう。直線状に並んでいると突進攻撃でまとめて吹き飛ばされます。飛行、ブロック4。 ・森川アキラ 夏休みの絵日記をつけている小学生にして、今回のエリューションの飼い主。二十日早朝は諸事情により両親が出かけており、家で一人留守番中です。 絵日記の内容はそのまま興味を反映しており、アサガオとカブトムシを行ったり来たり。勿論今まで見てきたアサガオ、カブトムシには贔屓目が入った状態からスタートです。 ヒーローとか怪人とかは大好きです。 ・場所 田舎町の民家、庭付き一戸建て。戦闘は庭と玄関の間辺りで始まります。周りは田畑で、しばらく民家はありません。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ハニィ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月04日(日)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●蠢く悪の陰謀 カブトムシが振り下ろした鉄拳を、エアバックのように弾けて咲いたアサガオの花が受け止める。衝撃に散りゆく花弁の裏で、素早く走った蔦がその腕を絡め取った。しなやかな蔦は黒く輝く鎧の隙間に食い込んでいく。だが、引き千切られたのは蔦の側。カブトムシは残り三本の腕を器用に、そして力強く振るい、自らの腕の戒めを解いた。 「わぁ……!」 強大な力を持つ二体の攻防に、もともとはそれらの持ち主だったアキラが感嘆の声を上げる。輝くその目は純粋に感激の光をたたえており、何故巨大化したのか等の疑問は今のところは毛ほども抱いていないようだ。 色鉛筆が少年の興奮を写したように躍り、雑ながらも生き生きとしたイラストが絵日記の中に描かれる。その線が一本増えるごとに、二体のエリューションの力は少しずつ強化されていく。戦いは激化し、少年の目はさらにそれに釘付けになる。両者にとって幸か不幸か、このままならそのスパイラルは破滅の時が来るまで続くだろう。 だがそこでその手を止め、少年の目を奪ったのは一人の女の高笑いだった。 「おーほっほっほ、『夏休み巨大化計画』は大成功のようね!」 アキラの脇、張り出した一階の屋根の上へと降り立ったのは隻眼隻腕、そしてせくしーな水着に身を包んだ『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)……いや、悪のガンターイ帝国の幹部、ガンターイクイーンだ! 色気は少々残念な感じだが、露出の多い派手な衣装の中に戦いの無骨さを感じさせる風貌は確かに悪の幹部に相応しい。後で恥ずかしい思いをするかも知れないが、ともかく役になりきった彼女はアキラの方へと歩み寄る。 「よくやったわ、ボウヤ。その『かんさつえにっき』は、我が暗黒ガンターイ帝国の新兵器。絵日記に描かれた生き物を巨大生物に変えて、大暴れさせるのよ!」 そして、告げられるのは衝撃の真実。 「そ、そんな……」 全ては彼らの掌の上の出来事だったのだ。そうとも知らず、日記にアサガオとカブトムシを描き続けていたアキラは、自らの手で彼らを怪物に変えてしまった……! ということになったようだ。綺麗に信じたらしいアキラの様子を察し、舞姫が満足気に、そしてできるだけ悪者っぽく笑みを浮かべる。 実際、即席の筋書きとしては大したものである。虫と植物の巨大化という非現実を目の当たりにした少年に、それを荒唐無稽と笑うような感覚は無い。 だが、作り話を信じさせただけでは事態は解決しない。争う『怪人』、エリューションは現実として既に現れてしまっている。 「も、元に戻してよ! 僕のカブトムシとアサガオだぞ!」 「今更戻れはしないのよボウヤ。あなたはさっきみたいにどんどん日記を書けば良いの。そうすれば、あの子達はもっともっと強くなるわよ。嬉しいでしょう?」 第一段階として誘導は済んだ。次に必要なのは、そう。 「そうはさせないぞ!」 事態を打開する、正義のヒーローだ。 ●轟く正義の名 「暗黒ガンターイ帝国! お前達の野望もここで終わりだ!」 アキラを挟んで反対側の屋根に現れた『熱血クールビューティー』佐々木・悠子(BNE002677)が、舞姫の方をびしりと指差して宣言する。 その声に応えるように現れたのは、それぞれの色の衣装と覆面を身に纏った五色の戦士だ。 「革醒戦隊アークレンジャー! 参上!」 リーダーと言えば赤。ということで赤の衣装の『戦うアイドル女優』龍音寺・陽子(BNE001870)の声に合わせ、五人はめいめいにポーズを取る。勿論、この戦隊は五人ともリベリスタで構成されている。 「毎度毎度懲りないな、ガンターイ帝国ども。今回も貴様らの陰謀は阻止させてもらう!」 ナイフの切っ先を突きつけ、アークブラックこと『ジャガーノート』天城・真希菜・イングリッド(BNE002549)が言う。本職で女優の陽子とは違い、演技派とは言い難い彼女だが、役柄的にそう不自由はしていないようだ。 「アキラ君のアサガオと、カブトムシを、悪の生物に変えた帝国! ゆるさないのです!」 何だかやけにキラキラした演出と共に現れたアークピンクは『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)、そして人参大好きアークイエローが『素兎』天月・光(BNE000490)だ。 「子供達の夢は俺達が守る!」 そしてこの戦隊の紅一点ならぬ唯一の男性、アークブルーに扮する『晴天』陽瀬 広鳥(BNE002879)がノリノリで武器を取る。 彼等は運命に選ばれた五人の戦士。世界の危機を救うべく、彼等は今日も戦うのだ。 ……別にふざけているわけではない。この状況に対応し、勝利を掴むには必要な設定なのだ。事実、テレビでも観たことのないアークレンジャーの存在に、アキラはまた目を輝かせている。 狙いは間違っていなかった。そう悟った悠子はオーバーアクション気味に腕を振るい、アークレンジャーに檄を飛ばす。 「アークレンジャー、ガンターイクイーンと配下の怪人達を速やかに殲滅せよ!」 ちなみに彼女は戦隊の司令官ポジションだ。 「くっ~、アークレンジャー! また邪魔をする気ね!!」 とりあえず一通りの顔見せが済んだのを見取り、ガンターイクイーンが司令と対照になるようなポーズを決める。司令同様、悪の幹部は直接戦ったりはしない。そう、命ずるのだ。 「やっておしまい、怪人電気狐ッ!!」 「ぴかこーん!」 彼女の呼び声に応え、アークレンジャーの前に怪人電気狐こと『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)が現れる。少年のヒーローへの憧れを理解する彼がどうしてこんな事になったのか、そしてもうちょっと他に鳴き声は無かったのか、残念ながらここからでは窺い知ることはできない。 繰り返すが、彼等は本当にふざけているわけではない。何故なら―― 「ブルー、後ろだ!」 超幻影を駆使して戦闘員戦を演出しようとしていたアークブルーこと広鳥だが、『前哨戦』を行っている暇など彼等には存在しない。『怪人』二体は臨戦態勢どころか絶賛戦闘中であり、彼等がここまで攻撃を受けていない事自体が既に奇跡に等しいのだ。 悠子の声に反応し、ぎりぎり防御体勢を取る事に成功したものの、カブトムシの拳を受けて広鳥が吹き飛ぶ。 ようやく乱入者達を敵と認識したエリューションは、角を掲げ、蔦を蠢かせ、それぞれに威嚇するような姿勢を取る。アーティファクトによる強化を積み重ねてきた二体の力は、リベリスタ達にとってもまさに驚異的な域に在る。 「――さぁ覚悟しなさい、アークレンジャー」 「それはこっちの台詞よ!」 思わず息を呑んだのは表に出さずに済んだだろうか。舞姫と陽子が、互いに警句を含んだ言葉を交わす。 表面上はヒーローショー。互いに知った上での出来レースをやりつつエリューションにかかるタイミングを見計らうのが理想系だろう。だが全員がそれに参加してしまっている以上、エリューションを巻き込みながらやるしかない。 一歩間違えれば勿論、待っているのは敗北と死だ。 ●綱渡りの演技 虫の身体に想起される細腕からは考えも付かない、そんな巨大な拳がイーリスを打つ。攻撃を捨て、完全に防御体勢に入っていた彼女もまた広鳥同様地面に叩きつけられた。 少なくとも今は、まともにやりあっては勝ち目は薄い。だが放置して別の事に専念するには、『アキラの視界の範囲内』というこの戦場は狭すぎた。 「さぁ、来るが良い」 防御の姿勢を固めたままアサガオの前に躍り出た真希菜は、そんな中で敵の攻撃を引き付ける心算だ。 鞭のように薙がれた蔦は彼女の狙い通りカブトムシを巻き込んで絡みつく。ここで真希菜が蔦を回避していれば文句無いのだが、そう上手くはいかない。 カブトムシ同様蔦に巻き取られた真希菜を救ったのは、一筋の黄色い光。 「ぼくに切れないものは余りない!」 光の手にした剣が蔦を両断し、真希菜のみを解放する。そして囚われたままのカブトムシには、炎を纏った陽子の拳が襲い掛かる。 「アイアンクロー!」 装備した手甲鉤に合わせた名を冠した一撃は、しかし固い装甲の表面を傷つけるのみに留まる。 カブトムシはすぐに拘束を脱するだろう。だがその前に、怪人電気狐が陽子に飛び掛った。鍔迫り合いを演出しつつ、アッシュが陽子を敵の攻撃範囲から押し出す。 「はっ、遅ェ遅ェ、遅過ぎるぜアークレンジャー!」 現状、一番難しい立場に置かれているのが敵役の彼だ。役回り上はカブトムシ達同様の『怪人』なのだが、エリューションにそんな仲間意識は当然無い。アークレンジャーを追い詰めるにしても、ヘタをすれば演出では済まない事態になるだろう。 「そんなんじゃあっという間にミンチにされちまうぜ?」 広鳥の天使の息でイーリスが回復するのを横目で確かめつつ、アッシュはまた戦況を調節するために動き出した。 「レッド、後方から狙われているぞ! ブルー、フォローに回ってくれ!」 戦場を見下ろすその場所で、悠子が司令っぽさを意識しながら指示を出す。何か分かりやすい弱点でもあれば良いのだが、そんなものが都合良く見つかるのはテレビの中でだけだ。サポートと一口に言ってもその内容は至極難しい。 「くう……」 私もヒーロー役が良かった等とは口が裂けても言えないが、戦う仲間を見ているしかない現状に悔しげな呻きがもれるのはどうしようもない。大体戦闘中の司令って何やってるもんなのさ。 「おーっほっほっほ、このガンターイクイーン様の作戦はカンペキよ!」 歯噛みする悠子とは対照的に、悪の幹部である舞姫はやる事が多い。 「絵日記の力でアークレンジャーを応援しないかぎり、ヤツらは絶対に勝てないわ!!」 例えば、こうやって墓穴を掘るとか。 「そ、そんな……どうすればいいの?」 分かりやすい振りではあるが、アキラは救いを求める目で悠子を見る。怪人を作り出してしまった少年は、その日記を使っても大丈夫なのか躊躇いを感じていた。 サポートすべき点は、意外と目の前にあったようだ。 そうこうしている内にも戦況は悪化の一途を辿っていく。 力強く翼を広げ、舞い上がったカブトムシが手の届かぬ場所から降ってくる。一直線に戦場を横切ったカブトムシは、近接戦闘中の光とアッシュを纏めて吹き飛ばした。 「……な、なんてこと? 暴走してる!?」 役の上では『味方を巻き込んだ』攻撃に、舞姫が慌てたように言う。実際には暴走でもなんでもないが、そういう流れに持っていくには頃合だろう。そして言ってるそばから伸びてきた蔦が彼女の足を取り、空中へと引っ張り挙げる。 「やっちまったな!」 「自分たちの怪人の制御も出来んとは……」 ここぞとばかりに光が指差して笑い、真希菜が呆れたように呟く。 「う、うるさいわね!」 「帝国よ、とりあえず今は共闘するです」 地面に叩きつけられそうになった舞姫をイーリスが庇い、一時の休戦を申し出る。 「え、えーい、電気狐ッ! この失敗作を倒しておしまい!!」 「……ぴかこーん」 舞姫の言葉に、渋々といった調子でアッシュが頷く。 共闘体勢は整った。だが実質の戦力比は何も変わっていないのだ。状況を打破する鍵は――。 悠子の思考が巡り、回答を演技へと落とし込む。 現状、このアーティファクトについて分かっているのは『描かれれば強化される』という一点のみ。 ならば日記という形態を崩しても大丈夫なのか、それこそ名前だけを書き連ねても効果はあるのか。全ては不明であり、今から実験を行っている暇は無い。正体不明であれ、今はそのアーティファクトが勝利の鍵なのだ。 ゆえに、確実な手立ては一つ。 「心配するなアキラ君! 君はいつも通り、思うままに書けばいいんだ!」 彼女達はそれで勝利を掴めるだけの準備をした、はずだ。 「俺達に力を貸してくれ! キミの力が必要なんだ!」 「私達に、最強の力を、下さいです!」 苦戦するアークレンジャー達の声に背を押され、アキラは日記の続きを描くべく、色鉛筆を手に取った。 ●圧倒的な力 あんこくガンターイてい国のたくらみで、ぼくのカブトムシとアサガオがかいじんにされてしまいました。けど、アークレンジャーがたすけにきてくれました。 アークレンジャーはくせんしていますが、一生けんめいたたかってくれています。 アークレンジャーが。アークレンジャーは。アークレンジャーを。 全てが想定通りとはいかず、カブトムシやアサガオも強化が進んでしまっている。だがまとめて名前の出る『アークレンジャー』五人は、応援するアキラの思いもあってさらに大きく強化されていた。 「勘違いするなよ、お前達を倒すのはこの俺様だ!」 「ふん、余計な事を」 真希菜を狙った蔦をアッシュが切り裂き、怪人電気狐とアークブラックが憎まれ口を叩き合う。 切られた蔦が再生するのを見る暇も無く、アサガオは蔦の束を纏めて振り上げている。数本で捕縛しても意味が無いと見て取り、物量で攻める方法を取ったか。 「来るぞ!」 速度には絶対的な自信を持つ二人。 「がんばれ、アークレンジャー!」 先に、より速く走り出したのはアークブラック、真希菜だった。 「なっ、俺より速い……!?」 アキラの声に気を取られた事もあり、出遅れたアッシュが蔦の本流に呑み込まれる。一方の真希菜は、幾本もの蔦の流れの中を目にも留まらぬ速さで駆けていた。 異常なまでの身体の軽さを彼女自身も感じていただろう。掴む事のできぬ風の如く、彼女はアサガオの懐に至り、ナイフを振るう。 蔦の奔流が二つに割れ、そこには一本の道が出来た。 「森川くんが応援してくれてるんだ! ぼくたちが負けるわけがない!」 道を辿り、降り来た光の斬撃が、人の身体を形作ったエリューションを深く、深く切り裂いた。 アサガオが戦うのとは反対側の戦場では、カブトムシが攻撃の届かぬ空中から突進の構えを見せていた。 降下の速度も乗せて急加速し、地べたを這いずる敵に迫る。成す術も無く吹き飛ばされるはずの被害者が、今回はカブトムシに向けて突っ込んできていた。 「いーりすぺしゃるー!!」 真正面からぶつかりあうのは、カブトムシの角とイーリスのハルバード。互いの渾身の一撃が交錯し、すれ違った後には、へし折れたカブトムシの角が地面に突き立っていた。 それはまさに、彼女等の力がエリューションを上回った証明。 また空中へと逃れようとしたカブトムシだったが、その後ろには既に赤い衣装の陽子が居る。風を裂く蹴りが二度続けて放たれ、カブトムシの翼を左右共に破壊する。 そして墜落していくカブトムシを待つのはアークブルー、広鳥だ。 「アルティメットヘビースマッシュ!」 普段とは比べ物にならない威力を秘めた一撃がカブトムシを直撃し、その身体を派手に―― 「やっぱり怪人は爆発しないといけないですよね! 」 臓物やら体組織やらが飛び散る子供には見せられない光景が広がる直前に、二発連続で悠子のハイアンドロウが放たれる。 「え、おいちょっと!?」 「あ」 蔦に絡まれたままのアッシュに気付いた時には既に遅く。爆発が二体の死亡シーンを包んだ。 「やったぁ!」 「……えーっと、諸君! グッジョブだ!」 アキラの歓声を受け、決めポーズを取ったアークレンジャーに悠子が親指を立てる。爆煙の晴れたそこには、もう怪人達の姿は無かった。 ……否、半ば焦げた電気狐だけが残っていた。 「……ち、やられたぜ……餓鬼の心も征服出来ず、世界征服なんざ出来ねェ……か……ぐふ」 残った意識で何とかやられ際を演出し、アッシュは倒れた。いや、彼もそこそこに強化を受けているので大事無いとは思うのだが。 「きぃ~~、憶えてらっしゃい、アークレンジャー!!」 様式美に近い捨て台詞を残し、ガンターイクイーンこと舞姫は彼を引きずりながら去っていった。 ともかく。アークレンジャーの活躍により、今日も平和は守られたのだ。 ●最後の敵 書き綴られた日記は最後のページを迎え、白紙のページに色と文字が載る。最後のマス目が埋まった時、アーティファクトによって与えられた力は綺麗に消えてしまった。 事件は解決し、悠子はアキラに事のあらましを簡単に伝える。内容が内容だけに、それでもちゃんと伝わったかどうか。 「我々は秘密裏に行動をしていまして、今回起きたことは内緒にしておいて貰えると助かります。すなわち、私達だけの秘密、ですね」 「うん!」 それでも勢いよく頷いたアキラだったが、直後に表情が凍る。 「……え?」 それもそのはず、ウインクしながら告げられた悠子の言葉はある意味死刑宣告に等しい。内緒にするのはある意味お約束だろう、共有の秘密は嬉しいものだし、それは良い。 だが問題はこの日記だ。七月の後半から営々と書き綴られてきたこの日記帳は、提出できない。彼女はそう言っているのだ。 まだ残っているであろう宿題に、それがのしかかった場合の重さは計り知れない。 「私! ちゅうがくせいのおねえさんです! 一緒に頑張るです!」 じんわりと涙目になった少年を見て、慌ててイーリスが手を挙げる。 「ぼくも勉強得意じゃないけど……」 分担してやれば早く終わるはず。そんな事を入れ知恵しつつ、光も参加を表明。 「よし、こうしようぜ! 俺とアキラ! どっちが宿題を終わらせるかここで勝負だ!」 そういうわけで、彼等の戦いはもう少しだけ続くのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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