●それから 『文筆家』キンジロウ・N・枕流はアークのリベリスタである。 力量は10と余を数える陰陽師である。生業はもっぱら小説家である。 今日の枕流は、慣れ親しんだ漁師に頼み込み、旬の魚を得ようと三陸沖に来ていた。 「秋に刀の魚と書いて」 と、枕流が掌に指で漢字をかくと。 「へえ、サンマです」 漁師の老人が応答する。 「サンマですね、うぃ、へっくしゅ」 夏か秋かをどう差別すべきか苦しむ時分であるが、秋刀魚の漁は日没から夜明けにかけて行われ、また、沖はやはり寒いものである。 集魚灯がカンカンに照っていて、昼間のように明るい。 夕暮れに出向し、暮れゆく黄昏を眺め、水平線の近くにぽつぽつと漁火が見えてきてころに、日が暮れる。 月が頂きを占める宵。やはり漁火が蛍の様に照っている景は、何とも美しいものである。 「さ、先生、まだ群れもみつからねぇからね。下で一杯」 「ハハハ、親方はやっぱりそれですか」 「それしかあるめぇさ」 わはははと、枕流と老人は船内へと下る。 石油ストーブで温られた部屋は、沖の風で冷えた身体に染みる。この暖かい部屋で、キンキンに冷えたビールをプシュっとあける。 「この贅沢はなんべんやってもたまりません」 「蟹とるときはもっと贅沢だがね、ああ」 「あれは寒すぎですよ」 ぐいっと煽り、やがてほろ酔い加減。 時々、老人は魚影ソナーを見に行ったり来たりを繰り返すも、中々魚影にはぶつからない。 時間はゆるやかに過ぎていく。 スルメをほくほくと食べている頃に、事は起こった。 ぼかん、という音がした。船体は大きく揺れる。 「何だ!? ソ連か!?」 「まさか、今回は蟹漁でもフグでもないですよ?」 二人は大急ぎでデッキへと這い出ると。 『サンマサンマサンマ(笑い声)』 見れば、どうみてもカツオにしか魚類が奇妙な笑い声を上げていた。 尾ひれの両脇に、人間の生足が生えている。美脚である。脚のすぐ上に、二本の大小サンマを日本刀の様にさしている。 枕流と老人は顔を見合わせる。 「私は生まれてこの方、サンマサンマと笑う者をみたことがありません」 「今見てるじゃないか」 『サンマサンマサンマ(笑い声)』 枕流と老人は顔を正面に戻す。しかし、また向い合わせる。 「無理がありすぎなんじゃないかねぇ? カツオに見えるが」 「無理がありますよね」 呑気な問答を繰り返していると、魚眼が枕流と老人を捉える。 『何奴! 食らえ! 秋太刀魚乱舞!』 煌めく鋼色が一閃した。 それは敵が腰に差した大小に非ず。海から飛び出したサンマであった。 秋刀魚はまるで飛翔する刃の如く、人の肉を容易く切り裂いて。 「ぐわああああ」 枕流と老人はたちまち真っ二つになった。 ●秋刀魚 「E・フォース。フェーズ2。識別名『カツオ武士』を撃破する」 アークのブリーフィングルーム。『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、端末を操作しながらクールな姿勢を崩さず言った。 「なんだその、適当な名前は。シャレか?」 「シャレ?」 デス子の「よくわからない」といった反応を見て、今声をあげたリベリスタは着席した。 「場所は三陸沖。海上だな。リベリスタが秋刀魚漁体験をしていたのだが、神秘事件に遭遇するといった経緯だ」 映像が出る。 敵性神秘、カツオ武士の姿が映し出される。 音声付きで「さーんまーサンーマー♪ サンマーサンマ」と歌っている。 これがセイレーンだの、人魚だのであれば絵になっただろう。ならなかったかもしれないが、しかし、なぜ逆なのか。身体が魚で足が人なのか。 そういうテンプレートのようなものがあるのだろうか。脚は美脚である。 「敵は、類まれなる剣術の使い手だ。E・ビースト『秋太刀魚』を使って攻撃してくる。問題はこの後だ」 一体何があるというのか。 「この秋太刀魚がかなり美味い!」 と美味さを強調したデス子は、既になりふりかまってないようだ。 「そのためにカツオ武士を倒して、巻き込まれたリベリスタを加勢しつつ、漁師を守ればいいんだな」 「その通りだ。そして、秋太刀魚を我々の手に!」 ふと部屋を見ると、メーカーの既製品だがビールや日本酒、焼酎、七輪、諸々置いてある。準備万端とうことであろう。 かく、デス子が盛り上がってきた所に、水を差すように内線がかかってくる。 デス子は目を見開き、震える手で受話器を取る。毎回内線がかかってきてデス子だけ行けないというパターンである。 「え?」 信じられないものを聞いたかのように、スピーカーモードに切り替えて。 「よ、よく聞こえませんでした。もう一回言ってください」 『行っていい』 沙織のクールな声がブリーフィングルームに響いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年09月15日(火)22:20 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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●高速船 夕暮れの漁場に向かう。 高速船は尻尾のような白い泡を立てて進む。 「太刀魚なのか秋刀魚なのか、日本語はまだまだ難しいですね。秋の味覚の代表格ですから」 『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)は、少し風にあたりにデッキにでてきた。目を細め、アークに来てからの事を思い返しながら、漁火を眺める。 その瞑想を「秋刀魚狩りだーっ」という声が破り去った。 シーヴ・ビルト(BNE004713)である。 「七輪で焼いても良いし炙りにしても良いしっ、えへへ、美味しい秋刀魚が今から楽しみなのですっ! にゃんこのように沢山ゲットするのでにゃ~ぉ♪」 シーヴはにゃーお。と万歳する。 「……にゃーとは言いませんよ」 メリッサは少々つられそうになった。 転じて高速船の内部である。 「ふふ。食材のロマン再び……ですね」 『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)の準備は万全だ。 旬。いわゆる時節モノの醍醐味である。光介はカフェに務める料理人見習いとして、揺るぎない意志と、意志の宿す燃える瞳をもってここにいる。 「いざ本日の漁場へ――」 腕が鳴る。炎の暗視と千里眼が宵闇を切り裂く。 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、微笑を浮かべた柔和な表情で、デス子を盛り上げる。 「粋狂堂さんとご一緒できる日が来るとは、感無量です」 「義衛郎。私はこの時を待ち望んだ……とうとう、現地で食べることができる」 デス子普段の眠そうな目は輝いている。握り拳で武者震いをしている。どれだけ楽しみだったのだろう、と義衛郎は考え、無理もないとフッと笑った。 「さあ行きましょう、『参考人』。秋刀魚がオレ達を待っている」 「ああ、ゆこう! 凄まじく美味いサンマがまっている!」 デス子は立ち上がる。 数秒の空白の後、そしてデス子は着席した。まだ着かない。 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は、船首部で拡声機を握りしめていた。 へっくしゅ、という声が拡大される。さっきからスタンバイをしていたのだ。流石に身体が冷える。 そこへ、光介が目標の船を千里眼で捉えたという知らせが入る。入るや否や。 「私はソ連だ! 速やかに停船せよ! 然らざれば攻撃する!」 と、盛大に言ってのけた。 意訳としては、『ソ連(好き)だ。しかざれば(敵を)攻撃する』であった。 たちまち、ボッという音がした。 宵闇を切り裂いて、向こう側から銛が飛んでくる。ベルカはとっさに避ける。 「!? ――これが、祖国と戦った北海の蟹漁師の力か!」 かの老人とは面識がある。本来は蟹漁を生業としている老練たる漁師だ。避けなければ――当たっていた! 走る緊張。 脅威の銛。 戦いは始まったばかりである。 が、しかし、戦う相手は、別に老人ではない。 ●Final諸君ではないですか 「よし、乗りこめ」 デス子が高速船を滑らせて、漁船とすれ違う。 その刹那にリベリスタ達は飛び移る。 「今年の夏は随分と堪えましたなぁ枕流先生、そして毎度のあれです」 「や、どうも先生方。お久しぶりです。ご相伴にあずかりますよ」 最初に『足らずの』晦 烏(BNE002858)と『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が着地する。 烏の使った翼の加護によって、接舷の手間をカットできた形だ。続いて他のリベリスタ達も飛び移ってくる。 「なんと! 諸君ではないですか!」 枕流は驚愕したような表情を浮かべた。一方老人は、先ほどベルカに放った銛を巻き取りながら言う。 「なんだぇね、お前さんたちかい。あれか。いやそうにちがいねえ、前のカニやフグみたいなあれかね?」 知己が多い。 『何奴!?』 と、カツオ武士が反応して、びちゃびちゃとやってくる。 「さんま苦いかしょっぱいか……。ん? これは戻りガツオもワンチャンスあるのでは?」 快が踏み込む。 応ずるようにカツオ武士は、秋刀魚を抜刀する。 「白刃取り……いや、魚獲りかな?」 指二本で挟み込み、斬撃を止める。 「新田君、それ跳ね返せないかね? 二指真空――」「あー!」 烏がギリギリな事を言いながら神秘の閃光弾を転がす。デス子の声が途中でかき消した。 快は、立派な大小を料理にしたかった。 ――が、奪えない。E・フォース。この者の身体の一部と怪しまれる。 刹那の中で考え、快は二本の指にバリアシステムのエネルギーを集中させ、敵斬撃の衝撃を跳ね返す。 烏の閃光弾が、快を巻き込んで炸裂するが、たとえ巻き込んだとて、快には効かない。 『ぐぬう! 目が! 小癪!』 敵は視力を失い、よろめく。 「河豚以来ですね、枕流先生」 義衛郎が、軽く挨拶をしながら、枕流の横を抜けて前衛へと出る。 蟹漁、フグ漁とで顔を合わせている。 「委細承知しております」 「お話がはやく、大変助かります」 この枕流の調子っぱずれな言い回しは相変わらずだが、直後に守護結界が場に下る。 義衛郎が仕掛ける。 朧のように幻影を纏い揺らがせて、キンっと抜刀する。 「そこだ」 捉えたるは、『秋太刀魚』が二匹! 今回の目標――ではないが、重要である。 『これから死にゆくものの名を、刻まんと――ぐわー』 続くようにもう一本の銀線が、カツオ武士の薄皮を割く。 「包丁代わりに使うようで気が進みませんが、これも鍛錬の一貫と割り切りましょう」 メリッサだ。 ひゅんと風鳴り音を立てて、細剣を構えなおす。 『やってくれたのう! 斬り裂け! 更なる下僕ものどもぉ!』 カツオ武士の大声に引き寄せられるように、キラリと闇に光る線が5つ。リベリスタ達の四方から迫りくる。 「がんばりましょーっ、えいえいおーっ」 シーヴが、くるくると輪舞のように、アクロバティックに。携えた二丁の得物から、タタタンと小気味のいい音を放った。 弱い。撃墜される秋太刀魚。 「やったー><」 一般人の避難に動く者は、ベルカと光介だ。 「ヤポンスキー、ダヴァイ! ダヴァイ!」 ベルカは、老人を避難させながら、秋太刀魚に狙いを定め、撤退戦のごとく閃光弾を投擲する。 「作戦準備は整った。では征くぞ、飢えたる者よ!」 声高らかに、飢えたる者――この場にいるリベリスタ達の士気を鼓舞する。 「キンジロウさん、船長の護衛と――呪印封縛もできれば!」 光介は枕流に要領よくやってほしい事を伝える。 「あいや、承知いたしました」 旧千円札は、じりじりと後退してくる。 安全さえ確保できてしまえば――策は為る。 戦いは大詰めを迎えようとしていた。 ●43ターン後 大詰めを迎える前に、終わっていた。 「武士に情けは無用。食に躊躇は不要です──術式、慈悲なき羊の乱獲!」 目を座らせている光介の横で、枕流が重々しく、うむ。と肯定する。 「武士に情けなどありません。同じ武士に対してかける最後の憐れ、希少なものです。南無阿弥陀仏」 光介の回復が厚い。 秋太刀魚とカツオ武士の火力を超えている。もはや相対した瞬間終わっていたといっても過言ではない。 カツオ武士は、ビッチビッチと横たわりながら跳ねるだけであった。 烏は紫煙をフッと吐く。 ガトリングガンの様な銃声が場に響き渡り、現れた秋太刀魚は地に落ちる。 その落ちた秋太刀魚を、シーヴがひょいひょいと回収していく。 時々、隠れていた秋太刀魚が襲い掛かる。 「まだいた! れっぷうじーん♪」 が、砕け散る。 このように消し飛ばした個体もあったが、それらはバケツの中に溜めてある。後で別の料理に使うのでそれはそれでよいのだ。 一方で、快は悲痛の極みといった声を絞り出した。 「満杯だ! トロ箱が無い。急ぎ追加の入れ物を」 食材を扱う時点から、味の善し悪しを決める戦いは始まっている。一秒でも無駄にできない。 デス子が高速船からよたよたとクーラーボックスを持ってくる。いつもの眠そうな感じだが、しかし目には光が確固としてある。 「ヴィハジーラ ナビェリェーグ カチューシャ♪」 ベルカは揚々と祖国の民謡を歌う。 「ナー ヴィソーキー ベリェク ナクルトーイ」 後方のほうで船長の老人が呑気に大漁旗を立てて、同じ民謡を歌っているらしい。ソ連には強い老人である。 「ところで同志諸君、そろそろフラッシュバンが無くなる」 燃費の悪くないフラッシュバンとて、そろそろベルカの余力が尽きようとしていた。 「潮時ですか」 義衛郎が呟く。 ついでにカツオ武士を剣先でちょいちょいつつく。 「いやー大量ですね。秋太刀魚を召喚するだけの存在って、どんな気持ち?」 突然、カツオ武士はガバっと立ち上がる。凄まじい抜刀が義衛郎を襲う。これを、仰け反るように避ける。 もはやリベリスタ達は、ただの『凄まじい』では足りないほどに強い。 メリッサの細剣が光る。 phrase d'arme(剣の会話)の如く、敵の得物をカカカカカンと何度も叩き、仕舞いには、細剣で敵の剣先を下へ抑えつけた。 「カツオと言えど、武士は武士。ならば剣士同士で決着を着けましょう」 敵、カツオ武士は無表情な魚顔であるが、表情があるならばニタリといった貌であろう。 『さあ反撃だサンマ! 辱めを何倍にも返してやるサンマー!!』 トン、と軽やかに刺しこまれたテラークラッシュの次、たちまち敵性神秘は爆ぜる様に消え去った。 「カツオの武士…浪花節だぜ、全く」 「ぶふぅ。ゴホンゴホン」 ベルカの呟きに、デス子が吹く。 察するに、ここにきてようやく、カツオブシのダジャレの意味に気が付いたらしい。 ●Final尊い 気仙沼に帰港する。 漁師の老人のツテで、漁業組合の寄り合い所を借りていた。他でもない秋の味覚を、新鮮なままに平らげようという腹積もりだ。 大昔は、油を搾って捨てるだけの存在であったが、いまでは秋の味覚として親しまれる――秋刀魚。 「やはり七輪で炭火かね」 烏は、寄り合い所の外でビールの空ケースを椅子に、七輪をうちわで扇いでいた。もくもくと黒い煙が立っている。パチパチと油がはじける音がする。 黒い煙には、食欲をそそられる重厚な油の香りが混濁する。 烏のすぐ横には、台所につながる勝手口である。台所は存外に広い。 そこから快が。 「やはり塩焼きが一番。とはいえ色々秋刀魚尽くしと行きたいよね」 まな板の前に立って、散った魚肉を集めたものから、なめろうをこしらえている。薬味――とくに茗荷は入れる。絶対だ。 板の上で魚肉をトントントントンと包丁で叩いていき、粘りが出るまで混ぜ合わせる 。やがて、つんとした薬味の香りが鼻孔をくすぐった。 烏は「うむ」と肯定した。 「新田さんのなめろうっ」 シーヴがそわそわしている。 快のなめろうに興味深々である。勝手口から外を見るとメリッサもサンマを焼き始めるので、行ってみる。 「焼けるのまだかな? まだかな?」 丁度、風向きの加減で、黒い煙がシーヴの顔面を燻ってくる。 「ふにゃー、煙が目がしょぼしょぼっ><」 「ほら。シーヴは風下に立たないで、こっちに来なさい」 メリッサがシーヴにハンカチを渡す。小動物めいたフュリエは大人しく脇に座る。 やがて、パチパチと気味の良い音を立て始めた秋刀魚を、二人は楽しそうに覗きこみ、向き合って笑みを交わしあう。 和に徹底している面々の中で、光介は異彩を放っていた。 「素材を活かした変化球……うん、ここはアヒージョで」 コンロを借りての、秋刀魚のアヒージョ。 ニンニク、鷹の爪、濃く味付けしたオリーブオイルで煮込む。スペイン語で「ニンニク風味」を意味するものであった。 義衛郎はテーブルを拭き、座布団をしき、料理を迎える準備を終える。 白飯は漁師の老人がこしらえている。 デス子は簡単に味噌汁を作る。 枕流はもっぱら客人としての振る舞いをしているが、料理作りが得意ではなだけのようだ。 かくして各々の料理が出そろう。 焼いただけの秋刀魚は、角皿に横たわり、旨そうな魚の脂が焦げた匂いを放っている。 炭火の香り。皿の隅には大根おろしが小山になって鎮座している。これぞ王道ともいえる仕上がりである。 新鮮な状態でなければ味わえない秋刀魚の刺身も、大皿に美しく並んでいる。また、皮と肉の間に、うっすらと白い脂の層が見える。 上等な証である。 大きな卓は豪華絢爛といった有様を見て、ベルカはよだれを辞さない。待ちきれないでいる。そもそも、この場、秋刀魚食べたい! この以外に目的などあろうかよ。あとソ連。 程なく「頂きます」が唱和される。 メリッサとシーヴは「あーん」しあいっこをしている。 「はい、お返しあーん♪」 メリッサはパクっと食べる。 「お返しも、最近すっかり慣れてしまいましたね。これも、平和ボケというものでしょうか――あ、シーヴご飯粒が」 とメリッサはシーヴの頬のご飯粒をとる。 「ふにゃ? ご飯粒ついてた?」 首を傾げたシーヴは、ご飯粒を取ったメリッサの指をぱくっとした。 「!?」 これはまだ慣れていないらしいか、メリッサは頬を紅潮させる。 「んー、お顔真っ赤だけどどうしたの?」 顔を近づけるシーヴに対して思わず。 「な、何でもないです」 と視線を逸らした。 一方、快は全力であった。 「季節は重陽の節句。ここはひやおろしで乾杯するところじゃないかな」 『三高平 純米大吟醸鑑評会出品酒』、『吟醸甘酒』『清酒「三高平」純米吟醸ひやおろし』等を持参してきている。 「これは秋刀魚に合いそうです。余は甘党なのですが、スキっとぐいぐい行けます」 枕流が快の酒に舌鼓をうつ。 「まろやか飲み口が自慢の純米吟醸です。以前、茸と筍の一件で好みを」 枕流は「ははあ」と要領を得ない返事をした。 烏は大根おろしに醤油を一差し垂らす。 身をほぐし、大根おろしをのせて、ひょいと食べる。皮と皮の下のふわっとした脂が口いっぱいに広がる。 ここで日本酒。 のどの奥からの熱い息をハア、と吐き出す。 「思わず笑ってしまうくらい美味いですな」 「一番うまいね。最高の秋刀魚さ」 漁師の老人がなめろうを啜りながら言う。下品だが、とてもうまそうにに食す。元は漁師の料理である。こうして食うのが一番うまいのだという。 俗に、皿まで舐めたくなるくらい美味い為ということから「なめろう」という説がある。濃い味付けの生魚、ピリっと薬味がアクセントだ。 義衛郎は、刺身に箸をのばす。やはり、この皮と肉の間にうっすらとさす白い脂の層がただごとではない。 青魚特有の濃い風味が鼻のおくから来て、しかしスッと消える。そこまで鼻につかない。ぷりぷりとほどよい弾力と、なんといっても脂が甘い。 義衛郎はうんうんと頷いて、濃いお茶で油分を払う。 「次はバーナーで炙りましょう」 砂糖等を混ぜた味噌を塗り、さっと炙る。チリっと音がする。これだけでも風味が色濃く立つ。 うまい。何をしても旨い! 「――粋狂堂さんもどうですか?」 と、義衛郎が前方にいるデス子へと炙りを勧めると。 「いただこう」 眠そうな目が輝いている。一口で首を垂れ。 「んんん――ほいひぃぃ」 眉を八の字にして、感無量の音を上げながら垂れた首を戻す。 光介がお酌にと徳利を傾ける。 「ふふ、やっと念願叶ったみたいですね」 「有難う。こうして飲めるのがとてもうれしい」 返すように、デス子は義衛郎に茶を淹れ、光介にドリンクを注ぐ。 「また来れますよ」 「そうだな」 義衛郎も。 「何回巻き込まれているんでしょうね。枕流先生」 怪しからん。 「弾ける魚の肉汁! 魚の脂! くっ! 白米がとんでもない美味さ……! カレーと甲乙つけがたい兵器級の!」 ベルカは、アヒージョでスパイシーを感じ、また焼き魚も刺身もご飯とともにかっ喰らっていく。 芳醇なニンニクの香りと鷹の爪の刺激が白ご飯の甘味に対してふりかけのような働きをする。溶けながれた旨みがオイルに馴染んで、そしてなにより、秋刀魚の骨まで美味いという仕上がりである。 こうした味の変化は、箸休めにも良い。また刺身や焼き物へと箸が伸びる無限さんま地獄といえよう。 「おかわり!」 和気あいあいの声は 九天の頂に鎮座する月に届き、尚も宵は更けていく。 悪党、異形、神秘世界。リベリスタを取り巻く環境は疲れる事ばかりである。 束の間かもしれない平和。その束の間でも、暑苦しさを忘却して、寝込むような功徳が大切である。 これがあるならば―― 「斑雲君や巡君達が来てるらしいからおじさん御裾分けでもとね」 この一杯があるから戦えるという者も。 「美味しくみっしょんこんぷりーと、いぇーい♪」 「い、いぇーい……」 ハイタッチを重ねあう者も。 「オイ トゥィ ピェースニャ ピェーセンカ ジェヴィーチャ♪ ぬおおお美味い!」 祖国を愛し、日本も愛し続ける者も。 「大事が起こらないうちに、また何処か行きたいですね」 正義に非ざるを携えながら走り抜けた者も。 「いつかのエキシビジョン以来でしょうか」 自分にできることを探し続けた者も。 「実は甘酒と梅酒も持ってきているんだ」 運命の悪戯によって、ひたぶるに戦いを駆け抜ける事になった者も。 この先も、遠き未来でも、自らを信じて、『運命』に立ち向かっていけるだろう。 「尊(たっと)い」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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