●『くまくま盗賊団』とは何か 曲がりなりにも犯罪一味を自称する玩具のようなアザーバイド軍団の、その一味の事を考えるには、まず彼らが何者であるかを知らなければならない。 『くまくま盗賊団』とはすなわち、頭である『ボス』を筆頭とした、『ボスの為に構成された一団』だ。 団長は、団長が居た世界から拒絶されている。 ボトムに弾き出された切欠は忘れたが、それだけは忘れなかった。忘れようがなかった。 何度ディメンション・ホールに足を踏み入れても、見えるのはいつだって、煙のような深い道だ。遠くの方で懐かしい香りと懐かしい気配を感じる気はするが、進めど進めど辿り着くのは結局、また別のホールだった。 最初は自分が飛び出してきた筈の場所に飛び込み、次からは偶然見かけたホールを見付けては飛び込み、やがて自分がホールを生み出せる事に気付いてからは何度もそれに飛び込んだが、やはり拒絶された。 ボトムの外には出られなかった。 何故そうなったのか、団長は疑問を抱かない。考えてどうにか出来るものだとは思わなかったし、そうして厳然と目の前に立ち塞がる現実だけが、団長にとっては全てだった。 そんなある日の事だった、今は『一号』や『れんらくがかり』と呼ぶ、自分に良く似た姿のアザーバイド達と知り合ったのは。 彼らの故郷の話は団長の記憶とは所々が異なっていて、それゆえにその二体が団長と同郷の者である保証は無かったが、良く似た姿は親近感を抱かせ、警戒心を薄れさせた。 そして彼らは、団長とは異なり、ディメンション・ホールの向こう側の世界に拒絶されてはいなかった。 仲間が増えるのはすぐだった。二体の新たな友達が、仲間が、面白おかしく団長の事を話して回ったからだ。 ゆえにいつしか団長の周りは賑やかさが満ちるようになった。 だが、ボトムにおいてアザーバイドと呼ばれる彼らは、決して自然に受け入れらえる存在でも無かった。 だから、団長は悩んだ。受け入れて良いのか、ボトムに居座って良いのか、人に、リベリスタ達に絡んで良いのか。悩んだが、それは長く続かなかった。 結局の所、彼は寂しかったのだ。自分が一人きりであるという事実が。 そして、嬉しかったのだ。共にいる事を選んでくれた仲間達が。 団長は、彼らと仲間としてやっていくに当たり、その集団の名前を名付ける事にした。そんな時にこっそりと窺った電気屋の店頭で、映画を放映する視聴用のテレビを観た。 盗賊団を名乗ったのは、単にその時、目にした映画に流れる『盗賊団』という響きに憧れたからに過ぎない。 ●『ボス』からの依頼 「『われわれはくまくま盗ぞく団である。こんや、しょ君らリベリスタとさい初にそうぐうしたおもちゃ屋にてごうだつ作戦を行う。これがさい後の決せんだ。止めたければいつでも来い。くま頭りょう』……ちなみにこれを届けにきたのはこいつだ」 予告状を淡々と読み上げて、『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)は片手で掴んだ物体を突き出した。 「あ、あー……」 ふっかりしたふわふわボディに、緑色のキルティングのようなデザイン。ボタンのような目をへにょへにょと歪ませて、緑色のテディベアもどきが手足をだらんとぶら下げている。 猫の子のように首根っこを掴んでぶら下げられ、すっかり抵抗するのに疲れたようだ。突き出された拍子にぶらんぶらん身体が揺れて、泣き声のような情けない声を上げる。 「最初はこいつを人質にしようかと思ったんだけどね。妙に罪悪感が湧いてきたから、此処は正々堂々叩きのめしてきてほしい」 「ぼ、ボスはー! 簡単にはやられない、から、なー……!」 「……それ、やられる前提のフォローになってないかい?」 「あっ」 何でもない事のようにあっさり言ってのけた五月女に、『れんらくがかり』という呼び名を持つ緑のテディベアが噛み付く、ものの。 フォーチュナの突っ込みに、慌ててがぽっと口を両手で塞いでいる。 「まぁそうは言っても、予告状自体はそれほど気にしなくて構わないよ。問題はこっち」 『れんらくがかり』から視線を外し、五月女は読み上げたばかりの予告状を裏返した。 のたくったような文字が、そこにもこう綴られている。 『盗ぞく団の強制送かんをたのむ』。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年09月21日(月)20:10 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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● ボタンのような目を細めて、青いテディベアもどきは口元に手を当てた。 「あ、アンジェリカさーん! 右、右!」 声を上げる必要も無かったのかもしれないが、振り返った『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の視線に忍び寄っていた団員が慌てて急ブレーキをかけた。 慌ててもっふりした手を持ち上げ、ふかっふかっと叩き合わせようとする。 「可愛い……♪」 ふかふかした手で一生懸命猫騙しを喰らわそうとするアザーバイドに頬を緩めて呟いたアンジェリカが、優しい手付きであっさり抱きかかえるとその手から武器の玩具を回収してしまう。 「教えて良かったのか?」 「だって怪我させたら申し訳無いじゃないですかー」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の言葉にきょとんとして、青いテディベアもどきが言い返す。 「女の子は大事にしなさいって、ばっちゃが言ってたー……」 真面目くさって言いながら、緑色のテディベアもどきが拳を突き出す。サムズアップのつもりらしい。 「くまくま盗賊団の諸君。戦闘を停止しよう。こちらには交渉の用意がある」 店の中、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の声が朗々と響いた。 その声にテディベア達が暴れていたものも、隠れ場所からさえも顔を出して快を見上げる。 「俺はネゴシエーターだ。君たちの武装解除と引き換えに、食料支援の用意がある」 「用意があるー」 「そちらが武器の引き渡しに応じるなら、このお菓子を君達にあげよう。さあ、どっちがいいかな」 「いいかなー?」 繰り返したのはなぜかれんらくがかりだった。水色達が揃って緑色を見て、快を見て、取り出されたお菓子に釘付けになる。すっかり餌付けされたアザーバイド達にとってみれば、またとない誘惑なのだ。 「えい。……捕まえた」 菓子に誘惑された隙をつかれてまた新たな一体がアンジェリカに抱き上げられる。何だとー、と口先だけ抗いながらやけに楽しげだ。 一方快の背後では、顔を見合わせたテディベアもどき数体が、息を合わせてそれぞれの武器を振り上げた。喰らった所でダメージも無いような武器だったが、未会計の玩具である事は間違いない。 「何で俺には襲い掛かってくるんだよ!」 えいえいおー、と威勢良く甲高い声を揃えて武器を手に手に立ち向かって来た水色の首裏を摘み上げ、プラスチックの忍者刀を回収しながら突っ込むと、猫の子のようにぶらんとぶら下げられた水色が「女の子に酷い事しちゃ駄目なんだぞー」と鹿爪らしく説教顔をしていた。 「フェミニズムは大事ですよー」 「フェミニズム!?」 一号の言葉に、今度は二方向から迫るピコピコハンマーを捕まえながら快が声を裏返す。 「みんな、女の子大好きだもん、なー……」 そんな光景を見ながら緑色がぼそっと呟いた。 隣で水色が、聞こえなかったような顔でコホンと咳払いをして雷音に向き直る。 「ボクとれんらくがかりは、友達だからボスについていくんです。ボスがボク達を送り返しても、ボクらは何とかしてこっちに戻ってくるつもりですし」 「ボスの為に、か?」 「ボク達の為に、です」 そんな会話を聞き付けたのか、緑色のテディベアもどきが二人を振り返った。そして何でも無いかのように、口を開く。 「ボスはさみしがりだから、一人ぼっちにしたら泣くと思う、なー」 雷音の目とアザーバイドのボタンのような目が、揃って緑色を見る。 青いテディベアもどきは破顔して、大袈裟な程に頷いた。 「そうですよ。寂しがるから、一人ぼっちは駄目なんです」 「……そうか」 雷音は眦を和ませるように微笑むと、棚から転がり落ちた玩具を拾い上げた。 「この辺りにいた子ってこの子達で全員だよね?」 戻ってきたアンジェリカが、複数の団員達を抱き上げながら尋ねる。その後ろからやってきた快に掴まっている団員の数も併せて数えた一号が頷いた。 「あ、はい。この列に居た全員です」 「こら、好い加減諦めろって」 少女の方は腕の中でも大人しく、中には自ら肩にへばりついているテディベアもどきも居る中で、快に掴まっているのは実に抵抗心に溢れたアザーバイドばかりらしい。 アンジェリカの腕に収まる一体が「一号とれんらくがかりはなんで捕まらないんだよー」と不満そうな声を上げたものの、水色一号の返答は実に簡単としたものだった。 「ふっふっふー。ボク達はボスの命令でリベリスタ達を魅了しているので捕まらないんです!」 「ですー」 胸を張った一号と語尾だけ繰り返すれんらくがかりの言葉に、捕まった団員達がおー、と尊敬の籠る声を上げた。 「えっ、これで信じるのか!?」 その言葉に返すまでも無く、水色達は流石ボスだなと言い合っている。敵に抱かれて寛ぐ自称犯罪者達の、何とも奇妙な光景だった。 テディベアもどき達がアンジェリカの腕の中で「おぼえてろー」と陽気に叫ぶ。 「お菓子の他にも紅茶を振舞うという、サービスもついているぞ。甘いお茶だ」 雷音が取り出したポットの蓋を開けて、アンジェリカに抱かれるアザーバイド達に香りを嗅がせた。 「持ってきたお菓子にもっとも合うものだ。そのような武器よりはよっぽどに有用性があると、思うのだが」 その言葉に顔を見合わせたテディベアもどき達が、少女二人を見比べて「武器と交換ー?」と迷った声を上げる。 「そうしてくれたら嬉しいな。それで、帰る前にちょっとだけ、お茶会しよう……?」 が、アンジェリカの言葉にそれはすぐさま歓声へと変わった。 次々武器を投擲する光景を見守って、雷音は噴き出すようにくすくすと笑う。 「盗賊団は楽しいか?」 リベリスタの言葉に答えたのは、緑色のテディベアもどきだ。れんらくがかりはもっふりした両腕を突き上げて、ふっかりした足でぴょんと跳ねる。 「楽しい、よー! みんな遊んでくれるものー!」 雷音の目が、青いテディベアもどきを見る。 視線を受けたアザーバイドは、惚けたようにひょいっと肩を竦めてそっぽを向いた。 「だって、ボスがボスですもん」 結局は、そういう話だった。 ● 「どうやって全員見付け出すかですけど……」 「お、それなら簡単だぞ。あいつら楽しそうな気配に弱いからな、適当に戦ってたらその内全員出てくる」 「天照大神みたいですねっ」 ビニールの斧を構え直しながら、ピンク色のテディベアもどきが離宮院 三郎太(BNE003381)へと、ごく単純な発見方法を伝授する。目を瞬かせた彼に、アザーバイドは偉そうに胸を張ってみせた。 「何せ俺様の盗賊団だからな!」 「あ、ちょっと納得しました」 「どういう意味だ!?」 自分から言い出した癖に、頷かれると声を引っ繰り返すピンク色だった。 そんな遣り取りを交わしてそれぞれ配置につきながら、改めて団長、もしくは頭領は馴染みの男を見上げる。 「あー。先に言っとくが遠慮はするなよ? 寧ろ存分に力を示してくれ」 「そりゃ構わんがね。お前さんはそれで良いのか?」 「寧ろそうでなきゃ困る」 真剣な顔で即答したテディベアもどきが、柔らかそうな腕を広げて仲間の隠れている棚を示した。 「良いか? お前が一瞬であいつらを倒す事によって、あいつらはこうやってお前と対等に話している俺も同じくらい強いと錯覚する訳だ」 「…………」 「すなわちお前があいつらを簡単にいなす事によって、ボスに対する忠誠心が上がる!」 謎めく持論を展開してみせたアザーバイドが、略奪行為の振りをしてビニールの斧で商品棚を叩く。ガラガラと転がり落ちてきた玩具に混ざり、スーパーボールが勢い良く跳ねた。 隠れ場所の棚から顔を出してボールを見詰める盗賊団の一体がそれに飛び付いたものの勢い負けして一緒に弾みだす。その光景に、ピンク色がおお、とたじろいだような声を漏らした。 「そ……それに何より、ボスが弱いとあいつら安心出来ないだろう」 「上司もツライよってやつなのかねぇ」 「ふふん、出来る男の苦難って奴だ」 やや離れた所で上手く三郎太に捕まえられ、回収されていく団員に胸を撫で下ろすテディベアもどきだったが、口先だけは烏の言葉に乗っかりわざとらしく肩を竦める。 もっふりした腕で斧を担ぎ直して構えると、もう一つスーパーボールを落として今度は玩具の斧をバット代わりに勢い良く打ち抜いた。 「本音を言えば、そもそもこんな風に馴れ合うようになるとも思ってなかったぞ。……あっ」 猫の子がじゃれ付くように物陰から飛び出した一体の団員が、団長の打ったスーパーボールをキャッチしようとしてやっぱり勢いに負けていた。糸を引くような細い悲鳴を上げて吹き飛んでいく水色を、再び三郎太がキャッチする。 「ナイスキャッチだサブ!」 「もうちょっと安全な方法無いんですか? あと三郎太ですっ」 ピンク色のサムズアップに言い返して、三郎太がすっかり放心している水色を抱き上げD・ホールへと運んでいく。 「俺様は、ボトムは恐ろしいもんだと思ってた。地面は硬いし人も動物もデカいしな」 胸を撫で下ろした態度で烏を振り返り、アザーバイドはビニール風船の斧を構え直した。 「種族が違うのも住んでいる世界が違うのも、全部差別に繋がり易いもんだ。だから最初は見世物扱い位は覚悟してたぞ」 「……正論ではあるわな。お前さんの所でもそうだったのか、もっと平和なものだと思ってたが」 「うむ。俺様の居た世界は此処に比べて多分平和だが、人が暮らす世界だからな。――あいつら隠れてるの忘れてるな」 言いながら、ピンク色がもふもふの手で棚の一角を示す。銃を構えた烏が迷わず引き金を引くと、実弾の無い閃光で容易く目を回したテディベアもどきが数匹、錐もみ状態で転がり落ちた。今度もしっかり三郎太に掴まって、D・ホールへと連行されていく。 「ま、これもカミサマの思し召しって奴かもな」 カミサマってのは民を助けてくれるんだろう、そう笑ってテディベアもどきはまた一つボールを取った。斧をバットのように突き付けホームラン宣言をするアザーバイドの頭を、烏が反射的に押さえ付ける。 「むぎょ。おい待て何をする!」 「打つ気だったろう、また」 「何おう! そこにボールがあるなら打つだけだ!」 「そんな山男のような事を言われてもだな」 ふかふかボディを押し潰されたテディベアもどきが、斧を振り回してべちべちと床を叩く。 「任せて下さいとは言いましたけど、何でボクの方にばっかり飛ばすんで――何してるんですか?」 「いや何、あまり散らかされる前にちょっと牽制をな」 「へーるぷ! 俺様はヘルプを要求する!」 テディベアもどき数体を抱き上げて合流した三郎太が、苦情を途中で止めて首を傾げた。 淡々と応じる烏の手の下でぶんぶん斧を振り回しながら、潰されてふっくらボディを歪ませたピンク色が三郎太へと訴える。 「しかし、神様を信じているとは意外さな」 「神様ですか?」 きょとんと目を瞬かせた三郎太に抱き上げられながら、ピンク色は糸で縫い付けたようにも見える口を歪ませて笑い、軽い斧を肩に担ぎ直して頷く。 「実際に居たんだ、俺様の世界には。ふわふわ様って言ってな、雲みたいに柔らかいちっこいカミサマ達。普段は皆で集まってころころ寝てるだけだったが……」 「皆? 神様ってそんなに沢山いるんですか」 声を弾ませるように興味を見せた三郎太へと大きく頷きながらアザーバイドは嬉々として語り出した。 異なる世界の怪しげな話を交わしながら、夜は徐々に更けていく。 ● 土産に貰った菓子を抱えて、甘い匂いを漂わせた水色のテディベアが、ボスに対してもっふりした腕で敬礼してから、縁をぴょんと跨いでホールへと飛び込んだ。 「数え間違いも無いですねっ。これで終了です」 D・ホールを潜るアザーバイドの数を数えていた三郎太が、ほっとしたように言う。 「それじゃ、閉じますね」 確認を兼ねそう言いおいて、口を開いたホールをブレイクする。目の前で壊れ、閉じていく異世界への扉を、ピンク色のテディベアもどきは瞬きもせずに見詰めていた。 その様子に目を細めて、アンジェリカがそっとアザーバイドの頭に手を乗せる。 「本当にこれで良かったの?」 躊躇いがちに囁いて、柔らかな頭を撫で少しだけ目を伏せた。 「もっとちゃんと、お別れとか……」 「盗賊団のボスが、女々しい別れ方なんか出来るもんか」 にぃ、と縫糸のような口角を持ち上げ、アザーバイドはアンジェリカへと首を横に振って返す。 その様子をちらりと眺めて、烏が煙草を銜え直す。 「くまくま盗賊団は今回で解散、そしてこれからはくまくま冒険隊だな」 「冒険隊……っ」 烏の言葉に、閉じていくD・ホールを見下ろしていたれんらくがかりがパッと目を輝かせて喰い付いた。顔を上げた拍子に勢い余って引っ繰り返り、強か尻餅をついて一号に助け起こされている。 「ああ、冒険、それはいいな。神秘を暴く、ヒーローだ」 「そうかぁ? 冒険隊だとほのぼのしたイメージが強くないか?」 賛成した雷音に、ピンク色が腕を組みながら難しい顔になった。現時点で既にそんなあり方にしまっている事には、気付いていないらしい。 不満げなくま頭領を抱き上げて、雷音が表情を綻ばせるようにして微笑んだ。 「別のホールから落ちてきたものを君が、助けるんだ。盗賊よりずっと格好がいい」 「む……!」 言葉を詰まらせる頭領に、緑色がパタパタと腕を振り回して大きく頷く。 「そうだよー。盗賊より格好良い、よー」 「お前は響きが気に入っただけじゃねえか!」 「ボスだってそうだったのにー」 ピンクが緑の頭をポスポス叩く横で、水色が囃すようにして笑う。 「一旦けじめを付けて、新たな再スタートってやつさな。メンバーはここにいる皆に、今日はいないが九重君もだな」 「おいちょっと待て、俺様まだ認めてないぞ!」 片腕をぶんぶん振ってのピンク色の異論には、生憎誰も答えなかった。 「それにしても……今回の事はきっと頭領さんにとっても苦渋の決断だったのではないでしょうか。その決断のときにボクたちアークのメンバーが立ち会えた事は少し……感慨深く思います」 平和になったように思える世界で、蹴れど実際には何も変わっていないようにも思える。否、脅威というものはただ、身を潜めて次の機会を伺っているだけなのかもしれない。 「その時に何かできるのか、何をしたいのか。今のボクにはまだはっきりとした答えを出す事が出来ません」 三郎太の鮮やかに青い瞳がじゃれ合うアザーバイドを見て、仲間達を見る。疲れた様子で足元で座り込んだ緑色のテディベアもどきを抱き上げる。 「……皆さん、前へ進んでいるんですね」 呟くようにそう言った彼を緑色のアザーバイドの、ボタンのような目がきょとんとして見上げていた。 「三人になっちゃったな、くまくま団」 「む?」 首を捻ったピンク色が、雷音の腕の中でもふもふされたまま快を見上げる。 「今やくまくま団がくまくま隊になる危機に見舞われてるがな!」 ふんす、と空気が抜けるような音で鼻を鳴らしたピンク色のアザーバイドと対照的に、快は愉快気に口角を上げた。 「何なら、また今までみたいに呼んでくれてもいいんだぜ? その度に強制送還まで付き合うさ」 「お! だがそれだと同じ隊員を敵に回す事に……いやそもそも俺様くまくま隊は認めてないぞ、認めてないがな?」 執拗に主張しながら葛藤で唸り出したアザーバイドの頭に手を置き、快は視線を和らげるようにして微笑む。 「そうじゃなくても、友達の数ならもっと増えたろ? この世界に君たちが居続ける限り、俺達はずっと友達だから」 「ううむ、俺様は友達より部下が欲しいぞ」 「そう言うなって」 それと、と、声を潜めて快がアザーバイドに顔を寄せた。 「きっとそのうち新しい家族が増えるだろうから……その時は、会ってくれるよな」 「なっ、なっ、な、君はいきなり何をいうんだ!」 ぽかんとしたアザーバイドが口を開くより早く、雷音が焦って声を荒げる。すぐにこほんと咳払いをして調子を整えようとするが、頬はすっかり真っ赤に染まっている。 「……未来、きっと君にあって欲しい人ができると、思う」 予想の振りをした、それもまた厳然とした一つの未来だ。アザーバイドの手をもふっと握りながら、雷音が呼吸を落ち着けた。 「やんちゃで、ちょっとわがままで、でもきっと優しい子になると思う」 だから、と一呼吸置いて。 「君もいろいろ教えてあげてほしい。これは君への祈りで、そして願いだ」 はにかむように微笑む少女と、傍らに寄り添う青年と。 そんな二人を幾度も幾度も見比べた末、アザーバイドがぱかんと口を開く。 「こ……コウノトリ……?」 「そういう事になるかな。というか、コウノトリとか良く知ってたな」 恐る恐るとした問いに頷いた快を暫しじっと見上げ、ボタンのような目がボトムに残る二人の仲間を振り返った。 「一号、コウノトリが! 赤飯! 祝い酒――もがっ」 「わっ、大声で報告しないでくれっ」 やいのやいのと騒ぎ出したアザーバイドの口を慌てて塞ぐ。少女の手の下で、ピンク色をしたテディベアもどきがもがもがと何かを訴えていた。 そんな一幕も夜の帳の内にして、月は沈み日は昇り、そうして一日は巡り出す。 いつも通り、なんて事の無い顔をして、世界は変わらず続いていくのだ。今日もまた、明日もまた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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