●これまでの四年、これからの人生。 アークが立ち上がってから、激動の四年間だった。 神秘に抗い、人の悪意に抗い、異世界の侵略に抗い、信じる道のために進んできた。 激動の四年が過ぎある程度落ち着いてきたが、全てが終わったわけではない。 これからも戦い、平和を紡いでいくのだろう。 それはリベリスタとしてかもしれない。 それは一人の人間としてかもしれない。 それは戦火に身をおく戦士としてかもしれない。 それは傷を癒すための癒し手としてかもしれない。 それはこれから成長する若者としてかもしれない。 それは誰かに手を差し伸ばす大人としてかもしれない。 それは人生を終え、後世に何かを残した老人としてかもしれない。 それは未来永劫語られる伝説としてかもしれない。 それは平和を掴む英雄としてかもしれない。 それは世界を轟かす覇王としてかも知れない。 その未来は、フォーチュナをもってしても見通せぬ貴方の道。 運命をも変える貴方達の未来。それは『万華鏡』をもってしても識ることのできない光の中。 さぁ、歩いていこう。人生という貴方の道を。 僕たちは歩いていく―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年05月22日(金)23:22 |
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●最終決戦から9年 黄泉ヶ辻が滅び、バロックナイトの主要な人物も倒した。 だが夏栖斗には。越えなければならない難関が残されていた。今その壁を乗り越えようと勇気を振り絞って前を見る。 「どうしました?」 そこにいるのは紫月。なにやら緊張している夏栖斗を見て首をかしげている。何かあったのだろうか、と心配してしまう。 なお何ゆえ夏栖斗の前に紫月がいるかというとここが彼女の家であるからである。彼女と二人きりになる。この状況を作るだけでも夏栖斗はかなりの苦労(主に心労的な意味で)があった。 「えっとさ、紫月」 唾を飲み込み、呼吸を整える。言うべき言葉は分かっている。 「僕と家族になろう。一生をかけて君を護り抜くから。この先の人生は全部君に捧げたいんだ。 結婚しよう」 一世一代のプロポーズ。緊張で硬くなる夏栖斗に対し、紫月の反応は柔らかだった。 「はい。幾久しく、宜しくお願いしますね」 微笑み一礼し、夏栖斗の言葉を受け入れる。 「えっとつまり、それってさ」 「ええ。姉さん達にも報告しないといけませんね」 「よっしゃああああああ! でもあれかな、拓真とゆづちゃんで紫月が欲しくば……とか試練があったらやばいな」 前後衛攻撃特化夫婦の戦闘風景を思い出しながら、夏栖斗は深く考え込んだ。そんな彼を見ながら、紫月はその唇を奪い思考をこちらに向かせる。 「あぁ、けれど、一つ間違えないで下さいね? 私、ただ護られるというのは好きじゃないんです」 「わかってる、今まで僕を護って、そして居場所であってくれたのは紫月なんだぜ?」 今度は互いの意志で重なり合う唇。それは一つの家族の始まり。 ルヴィアと凜はアークを脱退し、ロシアに移る。 そこで傭兵家業を営むと同時に、副業でバーを経営していた。時に硝煙の匂いに、時にアルコールの香に。昨今の悩みといえば、 「店で忙しいのは結構だけど、戦闘のカンは鈍りそうだ」 ぼやくルヴィア。副業のほうが忙しくなり、本業である傭兵家業の割合が減ったことだ。自分が管理する傭兵チームが客としてやって来てくれるが、財布の中身は知れた仲だ。 「それにしても、毎日忙しくてアーク時代が懐かしくなるな」 凜はカウンターで作業しながら、昔のことを思い出していた。アークに所属して神秘事件を追いかけていたあの頃。遠い昔のことだが、今となっては懐かしい。彼らは今頃何をしているのか。 そして閉店の時間。最後の脚を送り出して、ルヴィアは看板を店の中にしまう。 「暇があるなら仕事しろよ極潰し共」 その言葉に愛想笑いを返す傭兵チーム。扉を閉めて、カウンターに座るルヴィア。そこに凜がグラスを差し出す。琥珀色の液体が静かに揺れた。 「……今が一番充実してる。これもルヴィアが居るからだろうな」 「日々が充実してるのは良い事だ。互いが互いを支えあうってのも悪くない」 凜の呟きにグラスの中の液体を口にしながら答えるルヴィア。琥珀色の液体を飲み干した後に立ち上がり、カウンター越しに口付けを交わす二人。アルコールの鋭さが、甘さに混ざる。 「先は長いんだ。これからも末永くお願いしますよ彼氏殿?」 「勿論。これからもずっと一緒に居ような」 薄暗いバーの明かりが、二人の影を淡く照らしていた。 「シエルさん。結婚、しましょうか」 光介はシエルの神を梳きながら、はっきりと言った。 アシュレイとの戦いから約二年後。十八歳になったときに光介はこう言おうとずっと決めていた。 「……もう一度確認させて下さいまし……本当に私なぞで……」 問い返そうとしてシエルは言葉を止める。同棲を続け、互いの気持ちははっきり分っている。何よりも自分をしっかり見つめるこの瞳がはっきりと告げていた。何を今更。そこまで思い、胸の中に熱い感情が膨れ上がる。喜びと嬉しさと。 不安があるのは事実だ。だがそれも二人なら乗り越えられる。シエルは光介に抱きついて、自らの羽でふわりと光介を包み込んだ。 「喜んで妻になりましょう。一生をかけて愛し続けますから……御覚悟下さいまし?」 「ふふ、覚悟完了です。どこまでも一緒に」 聞きようによっては若干恐怖を感じる貞淑なシエルの返事に、言葉通りその全てを背負う覚悟で答える光介。 「ボクらの子供も、癒しを謳ってくれるかもしれませんね」 「ふふ。そうなると嬉しいですね」 その言葉は、数十年後に現実となる。 光介とシエルは癒し手としてアークに深く貢献し、多くの作戦と危機を支え続けた。『ホリゾン・ブルーの光』と『雨上がりの紫苑』が輝くところに死者はなく、そこに立つだけで多くの戦士が鼓舞されていた。 『行くぜ。どんなエリューションでもきやがれってんだ!』 『綿谷夫婦がいるんダ。怖くねぇぜ』 後に二人に子供が生まれる。その子供達も親を見て育ち、癒しの歌を奏でるようになる。親子で奏でる癒しの四重奏が響き渡れば、怪我人すらなく激戦を突破できたという。 『違う。緑谷親子、だぜ』 アークの戦場に、今日も癒しの歌が響く。 「中国語を教えてもらえませんか?」 璃莉が小雷にそう言ってきたのは最終決戦が終り、しばらくしてからのことだった。 「どうしたんだ、急に」 「笑わないでくださいね。 昔の私とか小雷さんみたいな、世界中の孤児の子や困ってる人を助けたいんです」 昔の璃莉は啓示が聞こえるからということで疎まれ、孤独な時期が多かった。小雷は神秘により肉親を失い、孤児院で育った。そういった人を無くす。それが璃莉の夢だった。 「笑うものか。いくらでも教えてやる」 その夢を聞いて、小雷はその力になれるのならと中国語を教える。 そして、二年後。小雷はアークのリベリスタとして世界中を渡っていた。そして故郷近くでおきた事件を解決し、一息ついていた所に、 「お久し振り! 分かる? 璃莉だよ」 リベリスタの国際ボランティア組織として働く璃莉と再会する。神秘で親をなくした子供の為に活動しているのだ。 「あの時教えてもらった北京語、現在進行形で役立っています」 「そうか……」 言葉こそ短いが小雷は感無量だった。かつて孤児であった自分を育ててくれた『先生』のように、璃莉が子供達を育てている。その事実が、嬉しい。 「一番に、大人になった私を見せたかったの」 言うべきかどうか迷い、璃莉は口を開く。自分に似た誰かを追っている小雷。それが自分の気持ちを伝えることを止めていた。だけど、今なら言える。 「小雷さんの事、大好きだから」 その一言が小雷の心を揺さぶる。かつて追っていた女性と似て、しかし違った未来を歩む女性――璃莉のことを強く意識する。 「本当に綺麗になったな」 そして小雷は一人の男性として璃莉に向き直る。その手が優しく、璃莉に触れた。 遠い異国のカフェテリア。静かな音楽が鳴り響く場所に、一人の女性がカップを傾けている。紫の髪を揺らし、どこかぼうとしている雰囲気を持つ少女。 「……次は、どこに行こうかな」 シエナはカップからを離し、ぼそりと呟いた。アークを出て数年。自分の生き方を探す為に旅を始め、そして今も続けている。 カラン、と扉が開きベルが鳴る。その音に振り返れば、見知った顔がいた。 「もしかしてと思ったら……やっぱりシエナさんか。お久し振り」 シエナを見て、顔を緩めるロアン。この街に薄紫の髪を持つ魔女がいる、と聞いてもしやと思ってやってきたのだ。彼もまた、アークを離れて世界中を旅していた。 「ん、ロアンさん。久しぶり……だね」 互いに再会を祝いつつ、話はここ数年のことに流れる。アークを出て、どのようなことがあったのか。 「僕は相変わらず『妹みたいな、理不尽な正義に踏み躙られた人々の味方になりたい』って思ってる」 ロアンは神秘の事件で妹を失い、そのことがアーク出奔に関わっていた。正義とは実に耳障りのいい言葉なのだろう。だがそれにより傷つく人がいるのも事実だ。 「単に綺麗事嫌いの反抗期みたいなのかも知れないけど、ね」 「それがあなたの『生』なんだ……ね」 ロアンの話に耳を傾けながら、シエナはロアンを見ていた。 「わたしはいまも、自分の『色』を探してて。人の執着や生き様、まだまだ学んで、糧にしたい……よ」 今だ自分探しのシエナ。否、人生は常に自分探しだ。他人と交わり、そして自分自身を確立して行く。 「「実は……好きなんだ。シエナさんの事が」 数年のたびを経て、自分の気持ちを自覚したロアン。これもまた、自分探しの結果。唐突な告白を受けて、自分なりに真剣に考えるシエナ。そしてゆっくりと口を開く。 「ん? ロアンさん好き、だよ? けど、まだ全部、咲き始めのLIKEだから」 「それでも構わない」 いずれLIKEをLOVEにする。そう決意するロアンだった。 『篝火』 悠里が設立したリベリスタ組織である。大を救う為に小を捨てることの多い戦いの中で『誰も見捨てない』ことを理念とした組織だ。 設立から六年。活動もようやく軌道に乗ったところだ。仕事を終えて一息ついていた。 「今回もギリギリだけど何とかなったね」 「ギリギリになったのはファラーチファミリーを救ったからなんですがねぃ」 悠里の言葉に答えたのは元剣林の水原。自ら召喚したアザーバイドの暴走に巻き込まれて死にそうになったマフィアを『助けよう』と悠里が言ったのだ。その結果、ギリギリの攻防戦になった。 「今回の一連の事件が落ち着いたら、一度日本に帰って子供達の様子を見に行こうか」 「それは大分先になりそうですねぃ」 「何とかなるよ。じゃあ行くか」 誰も見捨てない。この篭手が届く範囲は。 その誓いを胸に刻み、悠里は理不尽に抗うために席を立つ。 ●9年~50年 「おはようございます。シェスカさん」 「うー……おはよう」 聖の挨拶に眠そうな瞳を擦りながら答えるシュスタイナ。朝が弱いシュスタイナの代わりに、ご飯の準備などは全て聖が行っている。 「シュスカさん。来月か再来月なんですが、休日の予定はどうなってますか?」 「来月半ば以降はお互い開いてる筈だけど。まだお仕事入れるの? 身体壊すわよ」 いつも申し訳ないなと思いながらテーブルにつき、朝食を食べるシュスタイナ。 「いえ、友人に頼んで結婚式をしようかなと思っているんですよ」 「友達さんの式を入れるのね。準備は早めに、丁寧に進めましょ」 エクソシスト上がりとはいえ、聖は神父である。結婚式の仕事もあるのだろう。シュスタイナはそう思い、パンを口に運ぶ。 「いえ。私達の式ですよ。貴女と、私の、結婚式です」 「ふーん。私達の。…………え?」 いまなんていったのこのひと。 「貴女と、私の、結婚式です」 「そんなこと『夕飯何にする?』みたいにさらっと言われても!」 「すみません。私もこういうのは慣れてませんから……」 求婚に慣れている男性は俳優か結婚詐欺ぐらいだろう。それは兎も角聖は驚くシュスタイナを真正面から見つめ、改めて言葉を紡ぐ。 「シュスカさん、私と結婚して下さい」 驚きと呆れの中で、シュスタイナは仕方ないか、と思ってもいた。 (聖さんらしい。朴訥な人柄は、十年前に恋をした時のまま) 息を吐き出し、シュスタイナは聖に向かい一礼する。 「不束者ですが、宜しくお願いします。 いい機会だし、私に対してのさん付はなしにしましょ。ね? 『旦那さま』」 「シュスカ……慣れるまでは戸惑いそうですね」 思わぬシュスタイナの意趣返しに、聖は戸惑いながら頭をかいた。 ここは米国。映画で有名なかの地で、赤い絨毯を歩く女優がいた。 女優の名前は白石明奈。地方のバライティーアイドルで下積みを重ね、アイドルから女優に転向。処女作の『Fly High MISSILEGIRL!』により映画界に衝撃を与える。その後も次々と作品を生み出し、映画界を登りつめる。 そして僅か十年でハリウッドでビュー。その作品がアカデミー候補となる。 「何だ貴様は!」 赤絨毯を歩く明奈の耳に聞こえる爆発音。そして悲鳴。躊躇なく明奈はそちらのほうに足を向ける。動きにくいスカートを千切り、迷うことなく颯爽と。 そこにいたのは映画ファンのフィクサード。自分の好きな作品がノミネートされていないと暴れていた。明奈はそいつに近づき、拳を振り下ろす。 「えーと、イッツァサプライズ! OK?」 女優になっても明奈の人生はこれからもドラマティックだ。 「ハァァァイ、デカラビアデェェェス! 今年で十一年目ですか」 毎年恒例となった九月十日の魔神襲撃。魔神デカラビアはシルクハットを手に深々と挨拶をする。 「一年ぶりです。デカラビア様。 まおです。そして弟の光斗です。よろしくお願いします」 まおが紫眼の少年と共に会釈する。光斗と紹介された男は無言で挨拶を交わし、目の前の魔神を恐れるように身震いする。 「光斗、緊張しちゃダメ。何時も通りに守るお仕事で大丈夫」 そんな彼にこっそり助言するまお。十一年の歳月は彼女を大きくさせた。肉体的にも精神的にも大人となったまおは、皆を導くよき戦士となった。……まぁ、胸だけはその恩恵に預かれなかった様だが。 「それでは始めま――」 「――待て」 「おや?」 デカラビアの開始を遮るように、鋭い眼光を持つ男が声をかける。 「レオンハルト様!」 「約束通り、立ち寄らせてもらった」 まおがその男の名を呼ぶ。傷だらけの鉄面皮。かつてアークのやり方を手ぬるいといって出奔した一人の戦士。今は単身神の敵を倒すべく世界を歩き回っているという。 人と人の争いを下らぬと断じ、神の敵を討つ毎日。今回は魔神召喚のほうを聞いてアークに帰って来た。魔神王にも挑みたかったが、流石に今から行って間に合いそうもないためこちらに来たのだ。 「久しいな。積もる話も色々あるが、相手は油断ならぬソロモンの悪魔。それは後回しにしよう」 「ええ。一緒にデカラビア様を正々堂々倒しましょう」 「ああ、正々堂々とだ」 「お話は終わりましたか?」 デカラビアの言葉に破界器を構えるリベリスタ。返事はそれだけで十分だ。 今年も魔神戦が始まる。 「満願成就です!」 「本願成就!」 海依音とせおりがそう叫んでから約二十年後。三高平を走る一人の男がいた。 「ふん。箱舟の本拠と聞いてはいたが、対して変わらないな。 それにしても母さんはどこに消えたんだ?」 男の名前は覇矩(はがね)。海依音が生んだ子の一人である。どこかふてぶてしく、よく言えば王の気質を備えていた。 「ママ、どこかなもうっ! せっかく久しぶりにママに会えると思ったのに!」 そして街を走る一人の女性。青い瞳と竜の角をもち、鎧を着ているのにその重さを感じさせないほど軽やかに道を走っていた。彼女の名前は沙良。せおりの一人娘である。 そして曲がり角で母を捜している覇矩とぶつかる。互いに尻餅をつき、腰を押さえながら立ち上がった。 「ふぇっ、急ぎ過ぎてぶつかっちゃった! ごめんねえ!」 「おい。人にぶつかっておいて挨拶もなしか、小娘」 走り去ろうとする沙良に腕を組んで答える覇矩。 「私は紗良。えっとー、アークリベリオン!」 あーくりべりおん? 聞いたことない単語に首をひねる覇矩。 「紗良か、悪くない名前だ。しかし、女性は淑女たれ。走るなら前をみて走れ、怪我をしたらどうする? 僕は覇矩。兄を食いつぶし、世界を統べる蛇の王だ」 へびのおう? 蛇のビーストハーフなのかな、と解釈する沙良。 「えっと、はがねくんだから、はーちゃんだね!」 「は、はーちゃん? ちゃんをつけるな、子供じゃないんだ! 僕は十六歳だぞ!」 「十六歳? 私と同い年なんだ」 「同い年か。……いや、僕はまだ成長期だからな」 沙良と自分の背を比べ、目線を逸らし呟く覇矩。首をかしげてそれを見る沙良。 これが後に『箱舟の竜蛇王』と呼ばれるチームの起こりである。 「行くぞ、皆!」 「おう、兄ちゃん!」「モヨタ、命令しないでよね!」「負けられないぜ!」「ふふふ、行きますわよ~」「ボ、ボク怖いけどがんばる……!」 モヨタの号令に様々な返す鯨塚兄弟姉妹。 そう、兄弟姉妹である。長兄のモヨタ、次男のナユタ、長女のやゆ子、三男のアヤタ、次女のみる美、四男のマユタ。色々あって父親が家に帰ってきて、その後兄弟姉妹が増えたのだ。なお、ここにいるのは革醒している者で、未革醒の兄弟姉妹も居るとか。 「俺がデカいのを押さえるから、やゆ子はそのまま向こうの押さえに回って。アヤタは麻痺を狙ってくれ!」 「あら。おちびちゃんに押さえられるのかしら?」 「この俺から逃れられると思うなよ!」 強気にモヨタに絡んでくるやゆ子と、負けん気の強いアヤタ。 「ナユタとみる美は全体攻撃。マユタは回復を絶やさないようにな!」 「全力で砲撃だ!」 「避けられると思わないでくださいね~」 「みる美お姉ちゃん、怖い……」 常に全力で戦うナユタ。おっとりしているが殺意の高いみる美。それを見ておびえるマユタ。 彼らのチームワークは血縁ということもあり高い。程なくエリューションは打破された。 「今日も大勝利だな。打ち上げに呑みに行こうぜ!」 「呑みに行くの賛成。あ、でも兄ちゃんはジュースかな?」 家族で祝杯を挙げようと誘うモヨタ。それに被せるようにナユタが言った。 二十年経ってもモヨタの見た目は十代のままだった。ナユタは二十前半まで成長しているのに。 「ジュースって……いい加減子供扱いするのはやめろよ。俺だってもうアラフォーだぞ?」 ため息をつくヨモタ。また成長期来ないかなぁ……。 「あれから三十年か……」 市役所の書類を纏めながら義衛郎はぼやいた。見た目はそれほど老け込んでいない。どうやら老化が一旦止まったらしい。 『閉じない穴』を巡る攻防から三十年。義衛郎はアークのリベリスタと、市役所相談窓口の二足のわらじというさほど変わらない毎日だった。 最も、リベリスタの仕事のほうは苛烈な任務か、どうでもいい任務かの両極端。要約すれば『不慣れなリベリスタに任せられない』厄介な任務を割り当てられることになる。 「なんだろう。オレには何言っても許されると思われてるんだろうか」 ぼやく義衛郎だが、言うほど不満には思ってなかった。なんだかんだで戦いの場を与えられるのはありがたい。義衛郎にはやらなければならないことがある。 (何時か、『The Terror』を実力で斬る) 胸に刻んだ一つの目標。それを為す為に義衛郎は今日も働く。 春。拓真は桜を眺めていた。 拓真の傍らにはまだ幼いといっていい子供がいた。拓真の孫だ。並んで桜を見る光景は、幼少のころの自分を思い起こさせる。まさか自分が祖父の立場になろうとは夢にも思わなかった。 「おじいちゃんは、世界を救った英雄なんだよね!」 あの戦いから数十年。子は皆、自分たちの道を歩いている。リベリスタになり戦う子もいる。戦いを選ばなかった子もいる。 「僕も大きくなったらおじいちゃんみたいになるんだ!」 そういう孫の頭に手を置いて、優しく撫でる拓真。 「お前は私でもない、父でもない、お前自身の道を歩みなさい。迷う事もあるだろう、足を止めてしまう事もあるだろう」 それは拓真の真摯な願い。 「忘れないで欲しい、私達はお前の幸せを誰よりも願っているから」 風が吹く。今年の桜ももう終りだろう。だけどまた、春は来る。 「ねーねー、お爺さま」 『喫茶W&W』……かつてはギラギラ輝いていた喫茶店は、いまや小洒落たカフェになっていた。奥のソファーでゆったりと座り、コーヒーを飲むジェイド。 アークで知り合った女性と結婚し、いまや米寿。今裾を引っ張るのはジェイドの孫だ。元気一杯は誰に似たのやら。 「お爺さま、事件ですよ! さ、出動です。アークのリベリスタ!」 事件といってもエリューション事件ではない。失せ者探しや人探しなど簡素なものだ。時折どこから情報を仕入れたのか、神秘がらみの事件も持ってくる。とはいえ昔ほど危険な任務は、アークのほうが先に予知している。 「じーじは、もう引退してェのよ」 「わたしが美少女探偵翡翠ちゃんとして立派になるまで駄目です!」 その名前はやめなさい、と軽く告げて腰を上げる。孫の助手として。今日もがんばるか。 「貴方が『善意の盾』か」 ジャックは恐山のフィクサードと邂逅していた。多くのコネを持ち、同時に多くの部下を持つフィクサードだ。 「『ラヴフォーティ』……アークに寝返るとは思わなかったわ」 ジャックは元フィクサードである。小さな組織の一員だったが、突如アークに転向。その理由を聞けば、 「『愛』に目覚めたって聞いたけど。本当?」 『善意の盾』の問いに肩をすくめるジャック。否定とも肯定とも取れるジェスチャー。 リベリスタになり五十年。大きな活躍こそないが数多くの神秘事件を解決していく。 『小さい仕事なんていうなよ。私達のいつもの仕事は、誰かにとっての重大事だ』 と一つ一つの事件を丁寧かつ確実にこなしていくジャックは、アークにとってもなくてはならない人材となっていく。 「今日は挨拶だ。 死んだリベリスタがいれば、遅れてきたリベリスタがいる」 そのしゃべり方は、『善意の盾』の知るリベリスタの少女を想起させた。 ●50年から500年 とある山間。村ともいえない小さな里。 龍治と木蓮は、そこから旅立つ一人の青年を送り出した。 三高平を離れて幾星霜。この里で生活を続け、何人もの子を育ててきた。 「人への挨拶と三食摂ることは忘れるんじゃないぞ?」 里を出る子に御守りを渡す木蓮。もう何人目になるのだろうか。皆に同じ御守りを渡し、同じことを言い、それでも別れの瞬間は悲しみがこらえきれないでいる。 (何度か経験している事ではあるが、この感情には未だに慣れん) 黙して子を見てはいるが、龍治の気持ちも同じものだ。子にかける言葉はない。言うべき事は日々伝えてきた。師として親として、木蓮と一緒に過ごしてきた時間が全てだ。 旅立つ子の背が見えなくなってもなお、龍治と木蓮はそこに立ち続けていた。 「こ、この瞬間は、やっぱこうなっちゃうぜ。母親だから仕方ないだろ?」 鼻をすする木蓮を優しく抱きしめる龍治。白髪を優しく撫でて、物思いにふける。 里に来て、もう何人の子を送り出してきただろうか。そしてこれから何人を送り出すのだろうか。共に育った家族として、技を伝えた弟子として。羽ばたいていくことは嬉しくもあり、そして別れは悲しくもある。それでも。 「ありがとうな、龍治。何回も伝えたことだけれど、やっぱり俺様はお前が大好きだぜ」 自分の下で微笑む木蓮を見て、寂しさは消える。 「別れを寂しがっている暇はない。まだ育てねばならん者は多いからな。 残り少ない俺の使命だ。この命尽きるまで付き合って貰うぞ、木蓮」 「へへー。暫く休みはないぞ、覚悟しろよ!」 そして二人は里に戻る。 繋いだ手は命尽き果てるまで共にあるという無言の誓い。これまでも、これからも続く二人の絆の証。 時村沙織。 恵梨香の人生は、彼のためにあったといっても過言ではない。 フィクサードの襲撃により家族を失い、恵梨香自身も深い傷を受けた。全てをなくした彼女に希望を与えたのは、沙織だ。魔術師として、リベリスタとして。彼女は沙織の為に戦ってきた。沙織の為に生きてきた。 だが、革醒者と一般人は同じように年をとらない。死が二人を別つ。 彼の死を聞き、恵梨香は半身を失ったような痛みを受ける。自分が戦ってきた意味、自分が生きてきた意味を失ったのだ。 だが、積み上げて来た物がある。 アーク。人類を崩界から護る箱舟。 恵梨香はアークを守り、そしてさらに発展していく。 そして今、恵梨香の命の炎が尽きようとしていた。臨終の間際、積み上げたものを確認し、僅かに微笑む。 「彼らはアタシ達の子供。彼らがいればこの先の人類も安心よ。 ねぇ、アタシは良くやったでしょ? 貴方――」 赤い月の下、うさぎは通信を入れて仲間と連絡を取っていた。 「そうですね。正直衰えを感じてます。今も少し苦戦しましたしねえ……」 ため息を通うさぎ。全盛期であれば苦もなく突破できた戦闘だが、予想以上に手こずった。これが衰えなのだろうか。 「魂の磨滅でしたっけ? なるほど、そろそろ私も限界でしょう」 革醒者であっても精神の老化は避けられない。それでもうさぎは戦ってきた。 『……そうか。引退するならいい所を紹介しよう。静かだが療養するには――』 「え、引退? しませんよ?」 通信相手の言葉に、きょとんとした声で答えるうさぎ。逆に相手のほうが言葉を失ってしまう。 「あの頃から随分時が経って、色んな人や物事が変わりました。それは尊い事です。 けど私は『変わりません』よ。私は最期まで『私』で行きます」 言って通信を切るうさぎ。うさぎは世界を守るために変わらず戦い続ける。 オルガノン それは真理(こたえ)を求める者の前に現れ、所持者によって最適化される論理演算機構。 記録を紐解けば、数百年前に彩歌・D・ヴェイルと呼ばれる革醒者が使っていたという破界器。 彼女の記録は『D-CASE』戦以降は数える程度しかなく、彼女が所有していた『オルガノン』が誰に継承されたという記録はどこにもない。 だがオルガノンは、確かに何人もの人を渡り歩いていた。『数字使い』『奇跡図書館』『一を知るもの』『無知ゆえの好奇心』……持ち主の才能に関わらず、その破界器は現れる。ただ真理を強く求める者の元に。 必要な時に、必要な人に。革醒者とリンクし、共に真理を見出すモノ。 時を超え、形を変えても残るものはある。 ●そして伝説へ 「……ぁあ」 またか。風斗は何度目かの『目覚め』に陰鬱なため息をついた。 魂の磨耗。年齢限界。それを超えるための計画があった。生命活動を停止し『死亡』することで魂と肉体の消滅を先延ばしにするというもの。有事に際し目覚めさせ、不要となればまた眠らせる。 うまくいくかどうかもわからない。うまくいっても肉体と魂にどのような悪影響が出るかわからない。何よりも、孤独な戦いになる。 それを全て理解したうえで、風斗はそれに志願した。世界の為の一本の剣となるために。 「おはようございます、楠神さん」 冷たい電子音が風斗の耳を打つ。否、その冷たさの中に一つの『意思』を感じる。 イド。彼女もまた、このシステムに身を投じた。延命の為に体全てを機械化し、そして電子化し。自らをコピーすることで磨耗した魂を長く受け継いで。 それは『個』としては死んでいるのかもしれない。それでもイドはリベリスタを、世界を守るためにサポートシステムの一部となった。イドというオリジナルはすでになくとも、その意志と心は残っている。 「状況を頼む、イド」 風斗もそれは理解している。今のイドを『人』と呼ぶのは語弊がある。正真正銘機械なのだから。だが、それでも知った『人間』の声が聞けるのは嬉しいものだ。感情は殺してきたつもりなのに、どうにも顔が緩んでしまう。 「敵エリューションの数は――」 電子音が状況を説明する。冷たい声は遥か時を超えて戦う者と共にいる為に選んだ、最適化。共に世界を護ると誓った決意の結果。 さぁ、世界を救いにいこう。 アラストール・ロード・ナイトオブライエン。 その名前はアークで様々な対戦に貢献した騎士として残り……そして突如歴史から姿を消す。 だが高位チャンネルの調査に繰り出した際に、アラストールと思われる者の英雄譚を聞くことができた。これにより、Dホールによる次元転移を受けたものと推測される。 曰く、魔王を伏し平和を取り戻した。 曰く、幾万の部隊を率い、悪辣なアザーバイドを討った。 曰く、崩れ行く世界に光り輝く剣を掲げ、崩界を止めた。 真実かどうかは分らない。だがその噂だけは確かに残り……真実を問おうにも、アラストールと会うことは叶わなかった。 体感時間にして六十年。ボトムチャンネルの時間に直せば、五百を超える年月。 常に祈り続けた騎士は、最後の瞬間に一人の『騎士』に出会う。 「久しいな、幼子」 それはかつて追いかけたユメの形―― かつて、世界を護るために戦った男がいた。 理想を求めて走り続け、手を伸ばし、幾多の戦場を駆け抜けてきた。 だが生物の法則には逆らえず、力尽きる。 かつて新田快と呼ばれた一人の男は、命尽き果ててもなお世界を守るための力となる。 クロスイージスの力として。誰のユメを守るための力に。 それは邪気を払う光として。 それは武器に宿る破邪の力として。 それは敵を殲滅する聖戦の加護として。 それは勝利の『幻想』として。 生前、快が理想に届いたのか。それは『今』の快には分からない。それを知ることも、知るつもりもない。 だが快がその仲間達が拓いた道の、その先を開こうとする彼らと共にまた手を伸ばし続けるのも、悪くないと思っていた。 かつての自分と同じように理想を宿した者の力として、理想を追っていこう。 それが快の『守護神』としての在り方だ。 人が星を渡る時代。 母星時間に換算して百年続いた戦いは終結し、人類は再び穏やかな発展の時代へ移行した。戦争の道具として利用されていた宇宙戦艦は、未開の地に人々を運ぶ希望の船として生まれ変わる。 前人未到の世界に進むのは、古き戦いの英雄にちなんで母船と十一の護衛艦。そこに乗る船長は、かつての『太陽』の名を冠した大魔術士の遠い子孫を名乗るもの。 危険は多い。だが、彼らならやり遂げるだろう。その期待を背負い、船員は配置につく。船に行き渡るエネルギー。 人類の新たなる一歩。そのための宣言は、すでに決まっている。古くから伝えられるあの一言。船長は立ち上がり、腕をクロスに構えた。 「キャッシュからの――パニッシュ☆」 太陽系全域で広く事始めの挨拶として使われるこのサイン。 その由来を知る者は、もういない。 それはボトムチャンネルが上位世界や凶悪なフィクサードに脅かされていた時代。 神秘により人の生活を脅かすものを討つリベリスタ。その中に『蜂須賀』という一族がいた。 彼らは神秘的害悪を根絶することを至上の『正義』とし、活動していた。それ以外は不要とばかりに切り捨て、人としての安らぎすら捨てて戦っていた。それは旗から見れば常軌を逸していた。 やがて彼らを初めとした『箱舟』は上位世界からの影響を取り除き、害悪なフィクサードも壊滅させる。そして――その後『蜂須賀』の姿を見たものはなかった。 様々な憶測が飛び交い、そして消えていく。そのどれも信憑性はなく、そして時間が経つに連れ『蜂須賀』のことも忘れ去られていった。 それでも。 平和な世界はある。それが『蜂須賀』がいたという何よりの証―― ●ここより先の未来へ 世界を護る戦いは一旦終り、それでも未来は続いている。 ここから先は貴方達の物語。長い人生の中のほんの一エピソード。 僕たちは歩いていく。 未来に向かって、力強く―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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