● 静岡市内にあるとあるライブハウス。 そこは既に満員の客で埋め尽くされていた。 「予想以上の大入りか。皆、準備は良いか?」 「あぁ、悪くねェな。『有頂天』にいるってのはこんな気分かもしれないぜ。最高の読経を聞かせてやれそうだ」 控室で仲間達に声を掛ける『生還者』酒呑・”L”・雷慈慟(BNE002371)に対して、『てるてる坊主』焦燥院・”Buddha”・フツ(BNE001054)は冗談交じりの返事をする。 今日はBoZのライブが行われる。 バロックナイツ盟主を退けたとは言え、リベリスタ達には疲労の色も濃い。日本国内に視点を広げてみると、数多くのフィクサードの起こした騒乱の爪痕が残っている。だからこそ、ライブを開くことにした。要は景気付けだ。社会的な不安を拭うためなら、多くの人が集まる場所に行くのも有意だろう。そうして少しでも人々に笑顔が戻るのなら、彼らは『救世』のために歌う。 「……こちらも問題無い」 一拍遅れて応えたのは『無銘』熾竜・”Seraph”・伊吹(BNE004197)だ。 ちらっと覗いた観客席に、知った顔を見た気が反応が遅くなっただけのこと。こんな所に来るはずがないとすぐに切り替え、再度流れを確認に戻る。 一方、『合縁奇縁』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)は気楽なものだ。神秘の力を喪失したが、彼の音楽に支障はない。彼が繋いできた縁は、彼を神秘の力だけに依存させることは無かった。 「言われるまでもないからな。さて、そろそろ時間だ……おや?」 その時だった。 扉を開けて2人の男が入って来た。 「プロデューサーさん……」 入って来たのは、『it』坂本・ミカサ(BNE000314)と『救世境界線』設楽・悠里(BNE001610)だった。 ● 「アレで良かったですか?」 「良いんじゃないかな、最後に決めるのは彼らだし」 それから十数分後、ミカサと悠里は控室を後にしていた。基本的には激励に行っただけ、のつもりだ。あまり長居をし過ぎるのも彼らにとって都合が悪かろう。 間も無く開演の時間だ。 覗いて帰るにしろ、そのまま見て行くにしろ、これがちょうど良いだろう。 そうやって話している時だった。ミカサのアクセス・ファンタズムが呼び出し音を鳴らした。ミカサが無表情でそれを手に取ると、そこから聞こえてきたのはフォーチュナからの緊急の知らせが聞こえてくる。 語られる内容は、今まさにこのライブハウスがフィクサードによる襲撃を受けようとしている、というものだった。彼らの狙いは、神秘の力を失ったアークリベリスタ結城竜一の暗殺。 様々な人々の想いが走る中、Last Gigは始まろうとしていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年05月12日(火)21:13 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「B・O・Z! B・O・Z!」 「B・O・Z! B・O・Z!」 灯りの消されたライブ会場が歓声で満たされる。決して大きくは無い会場だが、彼らの放つ熱気は一流アーティストのライブにだって負けはしない。 そして、時間が訪れ、場の空気が一層の高まりを見せようとした時、突然明かりが消えた。 暗闇の中で先ほどまで声を上げていた客たちも、いつしか口を噤む。 「……Dragon、L、Seraph、聞いてくれるか」 僅かなざわめきだけが残る会場を見渡し、暗いステージの上に立った『てるてる坊主』焦燥院・”Buddha”・フツ(BNE001054)は仲間達に語りかける。 「前のライブのときからずっと考えていたことなんだが。オレは……大した人間じゃない」 アークに入ってからのフツは、ずっと人の弱さを認めてきた。神秘事件の渦中で生きていれば、人の業に出くわすことは少なくない。経験の中で身に付けた態度としては間違ってはいないが、それを上から目線と言われれば、その通りだ。 「オレは弱い。人の弱さを認めるくせに、自分の弱さを認められない卑怯者だ」 そして何より、フツは人の弱さを認めることで、自分の弱さから目をそらしていた。 だから、この場で彼はそれを認める。信頼出来る仲間だからこそ、それを吐露することが出来た。普通ならこんな場においてはただの弱音でしかない言葉だ。しかし、仲間達は信じて続きの言葉を待つ。 「それでもオレは、お前さん達とやっていきたい。みんなにBoZの歌を聴いてもらいたい。だから頼む。オレを助けてくれないか」 フツの心から迷いは消えた。 いや、これからも迷い続けるのだろう。 それでも、共に立つ仲間を信じ、彼は救世の道を進む。 「オレのワガママに、見栄っ張りに、これからも付き合ってくれないか」 『合縁奇縁』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)は、フツへとサムズアップで応えた。 『生還者』酒呑・”L”・雷慈慟(BNE002371)は頷き返す。 そんな彼らを見て、『無銘』熾竜・”Seraph”・伊吹(BNE004197)は軽く口元に笑いを浮かべる。 最早言葉はいらない。 目の前の客のために、そして自分自身のために歌うだけの話だ。 会場に明かりが灯ると、世界に音が溢れ出した。 ● ライブが始まるほんの少し前に時間が戻る。 「プロデューサーさん……」 「今回のオキャクサマは一般の方々ばかりだから、良かったね?」 どこか皮肉っぽい口調の『it』坂本・ミカサ(BNE000314)。実際、今日の客の入りに関しては他所の街に出てきたからこその盛況という側面を否定しきれない。風の噂にBoZの名を聞いた客が多いというのは事実だ。 口にしたミカサは素人な訳だが。 激励にしてはあまりに辛辣な言葉に場は凍り付く。ここ最近におけるBoZの活動が下火だったかと言うとそんなことは無い。あの日以来、手探りのように彼らは自分達の音楽を取り戻そうとしてきたし、それが出来ていたつもりだった。 しかし、ミカサの素人発言は、素人であるが故に再び鋭くBoZの心を切り裂いた。 一方、一緒に入って来た『救世境界線』設楽・悠里(BNE001610)は、会釈をしてから何も言わずに状況を見守っている。その眼差しからはBoZへの非難めいたものは感じられない。むしろ、優しげに見守っているかのようですらあった。 (役割上、自分は抑えるべきは抑えてきたし、そうしてきた……筈だった) 雷慈慟は以前の事件を思い出す。 あの時は雷慈慟も後方を固めている心算だったのに、前衛2人の乱れを感じただけであの体たらくだった。専門の現場ではないとは言え、己の未熟さを思い知らされた一件である。 幸い時間が解決を図ってくれたものの、あの夜の一件はともすれば解散の危機ですらあったろう。だが、その裏側で、塞がったように見える瘡蓋の内側で、傷は癒えていないのかも知れない。実際のところ、全員乗り越えた振りをしているだけで、何も本質的な解決には至っていないのかも知れない。 だから、ミカサの一言で元の木阿弥へと化してしまう。その可能性は十分にあった。 「おー、サンキュー。いくぜ、”俺たちのロック”を奏でによォ!」 しかし、その心配は杞憂でしかなかった。 竜一はミカサに軽くハイタッチすると、軽やかな足取りで控室を後にする。 それを見て、雷慈慟の迷いは消えた。彼も仲間を促すと立ち上がった。 「さあ……救世を始めよう」 「僕から言うことは特にないよ。みんなのライブ、楽しみにしてるね」 支度を終えて、部屋を出ようとするBoZ。悠里は笑顔で手を振って見送る。そこへ部屋を出ようとする伊吹がぼそっと呟く。その瞬間だけ、悠里の眼差しが戦士のそれに変わった。 最後にフツが出ようとした時、ミカサはその背に声を掛ける。 「俺は、賽を投げたつもりだよ。音楽について、前回未完成にも程遠かったのは事実だし」 フツの足が止まる。 この場にいるのは一流のリベリスタばかり。力で世界を護るということにおいて彼らに勝る者はそうそういない。だが、まだ未熟な青年たちが大半だ。 「まぁ、今日のライブで音楽の評価が『程遠かった』と過去形になる事を祈っているよ」 ミカサの激励とも皮肉とも取れる言葉を背に、フツはステージへと向かっていく。そして、扉を出ようとした時、そっと伊吹が肩を叩いた。 「みなまで言わずとも良い。俺も……いや、我らもそなたと同じ気持ちだ。我らをここまで連れてきてくれたこと、感謝する」 伊吹の言葉を聞いて、フツの表情が変わった。お陰で吹っ切れた。彼らの足にもう、迷いは無い。ミカサはそうなることなど分かっていた、とばかりに肩を竦める。 ミカサはやっぱり素人な訳だが。 ● 一曲終えた所で、伊吹は何かを吹き出しそうになる自分を必死で抑える。 好むと好まざると、リベリスタの感覚は総じて鋭いものだ。そして、彼の目が捉えてしまったのはBuddhaに向かって声援を送る1人娘の姿だった。幸い自身のことは誤魔化せているようだが、サングラスの下で心中を穏やかにしていられない。 伊吹が自分の娘と関わらないようにしてきたのは、神秘や裏の世界に関わらせないためだった。娘には普通の幸せを掴んでほしいというのは、当然の親心だろう。 だが、今なら向かい合うことが出来る。 (正体は明かせずとも、この歌は届くと信じて) 雷慈慟に対して視線を送ると、雷慈慟もまた伊吹に視線で返してくる。 (そうだ、プロデューサーさんは教えてくれた) 次の曲に向けてリズムを取りながら、雷慈慟はかつてのことを思い出す。 BoZは個々で活動している訳じゃない。BoZは形の違う4つの石が集まっているようなものだ。 そのまま並べてみても、それはただの石でしかない。あの夜までは、まさしく石が並んでいるだけだった。しかし、石が噛み合えば大きな意思となる。 それに気付けた以上、教えてくれたミカサへの返事は音楽で伝えるより他に無い。 雷慈慟のドラムに合わせて、竜一も思う存分ギターをかき鳴らす。 (ギター1本あればいい。ギターさえあれば、無敵だった。かつての俺はそうだった) 音楽を始めて間もない頃の竜一は、『ロックとはただひたすらに自分を貫くこと』と考えていた。そう、思っていた。 だが、それは竜一だけのロックでしかない。いずれは限界にぶち当たってしまう。 その限界を超える手段はある。皆が持つロックを集め、束ねることだ。”ロック”を、4つ集めて、無限大に広げる……それが”ロックバンド”というものだ。 「色即是空さ! その空(くう)を震わせ、救世するのが俺たちだ」 Buddhaのシャウトが、Dragonのギターが、Seraphのベースが、Lのドラムが。 それぞれに違う生き方をしてきたリベリスタ達の音楽が重なり合って、会場に響き、世界を塗り替えて行く。ただエゴをぶつけることを救世と呼んでいたあの頃とは違う。目の前にいる人々の心にほんのわずかでも救いがあればと、彼らは音楽で語る。 観客たちも狂騒に巻き込まれたか、はたまた共に心で涅槃を見ているのか。声も枯れよとばかりに叫び返してくる。 ライブの盛り上がりは、まさに最高潮に達しようとしていた。 ● 会場が盛り上がりを見せている頃、ライブハウスに繋がるトンネルでは戦闘が行われていた。 ライブ会場に対して襲撃を行いに来たフィクサードと、悠里とミカサが戦っているのだ。 フィクサード達の目的は「神秘を失ったリベリスタ結城竜一」の殺害。伊吹も独自の情報網で動き自体を掴んでいたが、今このタイミングで襲撃が行われた。 「沢山で来たものだね、結城くんが怖いの?」 挑発するミカサを纏うようにする薄い闇のオーラが伸び上がると、暗黒の瘴気がフィクサード達を包み込んでいく。その足元には既に数名倒れているものがおり、中には血を吸われた者もいる。 ミカサの方はと言うと、全力を出している様子も無い。 憎悪の鎖が悠里の首を狙って放たれる。捕えられれば心身を侵食される、絶対有罪の鎖だ。しかし、悠里はそれを難なく受け流すと、逆に放ったフィクサードとの距離を一気に詰める。 「会場で暴れるのはご法度だよ」 フィクサードが気付いた時には遅かった。氷の拳が連打で叩き込まれ、いつの間にやらその全身を氷の鎖で束縛してしまったからだ。 「少しだけ頭を冷やして貰うよ」 事も無げに場を制圧する2人のリベリスタ。 しかし、そこで2人は顔を見合わせる。 「それはそれとして……どうしよう?」 「来る前に話した通りだよ。彼らを会場まで連れていく」 「……OK」 悠里とミカサが取った行動は、リベリスタの常識で考えればはっきりとあり得ないものだった。捕縛状態にあるフィクサード達を連れて、ライブ会場に移動を開始したのだ。標的がいる場所へ連れていくなど、愚行以外の何物でもない。 それは悠里自身、百も承知だ。 「それでも、彼らの音楽なら……試練の時を乗り越えた彼らなら、この人達すらも救える事が出来るんじゃないだろうか。いや、出来ると信じてる」 悠里にだって、何が正解かなんて分からない。いや、きっとそれは神様だって分からないのだろう。だが、悠里は信じたい事がある。 それは人の可能性だ。 だから、悠里は恥じる事無くライブハウスへと歩を進めるのだった。 ● 照明の発する熱が容赦なくBoZの体力を削って行く。 いや、全力で音楽を奏でるというのは人が思う以上に疲労するものだし、それが多くの人を前にしているのであればなおさらだ。 だが、それ以上の情熱を以って、BoZは歌う。 雷慈慟は細心の注意を払ってリズムを取る。だが、同時にあえてパッションを無理に閉じ込めようともしない。 (初心に立ち返るんだ。自分一人では興業は成り立たない) 今までより互いに互いを身近に感じるのは、きっと気のせいではないはずだ。そしてBoZを繋ぐ音の輪を広げるために、全力を注ぐ。 そして、全力を以って曲の最後にスティックを振るった。 曲が終わると同時に会場の照明が落とされた。 先ほどまで熱狂と音楽に満ちていた会場に静寂が訪れる。 ライブのクライマックスを決める、新曲に入る時が来たのだ。今はそのためのちょっとした溜めである。 観客が戸惑い、そして次の動きへの期待を高める中、フツは大きく深呼吸した。彼の心にこれから歌う新曲への不安が無い訳ではない。だけど、それ以上に信頼出来る仲間がいるのだ。 きっと、いける。 「さっきも言った通り、俺は大した奴じゃない。この曲にも、そんな気持ちが込められてるのかもしれない。恋ってさ、きれいなことだけじゃないだろ」 仲間達にだけ聞こえるようにそっと声を出すフツ。仲間達は黙って続きを待つ。 「その根底には、原始的で動物的な、繁殖する、という思いがある。そうだよな、L」 雷慈慟はいつものように無言で表情を変えずに頷いた。 「恋をして、結ばれて……楽しいことばかりだけじゃなかったと思う。それでも恋をしてよかったと思える。そうだよな、Seraph」 その言葉に伊吹は照れ臭そうに弦を爪弾いた。予想外の客のせいだろうか。 「恋は力だ。世界を救う力となった。だが、力を失っても恋(おもい)は残る。そうだよな、Dragon」 竜一が返事するより早く、会場を再び照明が照らし出す。 観客が一斉に歓声を上げる。その様を見て、フツは矢も楯もたまらず叫び出す。 「みっともない自分をさらけ出して、恥かいて。それでもオレは、音楽が好きだ!」 「音楽は、魂と! 心だ!」 フツの魂の叫びに呼応するように、竜一も「能力が何だ」とばかりに叫ぶ。 そう、ステージで無理に合わせる必要は無い。自分はただ自分の最高のパフォーマンスをすればよい。それが他のみんなを押し上げることになるし、逆にみんなが自分を押し上げてくれる。限界なんてないのだ。 恨みのくだらなさを笑い飛ばすように叫び、竜一は演奏を開始した。 「ファンよ、空よ、魂よ、フツの歌を聴けえええええええええ!」 咲かせたい 魂/根心 どこmuddyも 魂/根心 蓮葉(はすは)はいつもチャイティーヨー パヤ 縁起のそばの巡礼地で あらたかしい娑羅双樹(さらそうじゅ)と無憂樹(むゆうじゅ) そして印度の菩提樹が三大 裁きをしたいけれどヤマな性格がラージャまずい 同一視しよう 菩薩娘が地蔵する こんな光明に仲がいい世ね これが般若の到彼岸(とうひがん)なのか ウン 護摩るね 善逝(ぜんぜい)、布袋も うっとり眺める 花にも似て 咲いているあの蓮女(はすめ)が来た 娘娘(ニャンニャン)かな 別嬪なんだろうラクシュミー 女神かわいいな 功徳(くどき)たい 坂本に相談しようか、でも自分抱かれるからやめとこう 同士よ 修行の内容じゃ ナンパ時 禅禅掴めません むなしいね 煩悩というのは ノウ 無我無我 仏性 徒弟も できれば一緒に四聖諦(ししょうたい) サティヤサティヤと真理が満ちて悟り 本能は 誰も浮名ひとは いないと 知ってる 六道 泥沼だ うまく浮かない来い 困難とき もっと大仏になりたい 達磨も転んだことなのか オン 一蓮 託生 つよく 咲きあったあなたとも因果が 離れていくかもしれないけど 死後では戻れない世界を 代わって 謳歌して ずっと 離れない 仏間でもあの娘に 隠さない木魚叩く悼みを 泥かき わけ 恋華(れんげ)を咲かせる 日にはまだ 今も 遠く ● 「どうやら山が動いたな」 雷慈慟は普段見せない満面の笑みで、スティックを振るっていた。 彼の心の中には確信に近い推察があった。自分達は4人でBoZだ。先日の戦いだって、1人の力で解決できるものでは無かったのと同じだ。 そしてBoZの音楽は、奏でる我々と聴衆全体がこの場で様々な感情を共有する事で1つの単位になったのだと。 「我らはまだ道半ば……いや、今日まで始まってすらいなかったのかもしれないな」 同じくステージに立つ伊吹はそんなことを感じていた。 ステージに立つまではアークを抜けるつもりでいたし、そのままBoZからも去ることになると思っていた。だが、今ではまだ共に音楽を続けたいと思うようになっている。 これからは神秘に依る力ではなく音楽の力で世を救うのも悪くない。決して楽ではないだろうが、そなた達となら光のあたる道を歩き出せる気がしている。 それに気づかせてくれたのはきっと、BoZの仲間達だ。 様々な想いと共に歌うBoZの様子を、ミカサと悠里はフィクサード達と共に見ていた。フィクサードは現状、力で屈服しただけだ。不貞腐れたようにしている。 それを横目に、ミカサは誰にともなく呟く。 「解るだろうか、彼らは力があるが故に個として完全であろうとし過ぎた」 悠里だって知っている。人は弱い。 だけど、弱いから、強くなりたいと思うし、弱さを知るから人に優しく出来る。 手を差し伸べる時も、上からであっては意味が無い。同じ目線で、一緒にやっていこうとするのがきっと大切なのだ。 それを悟ってこそ、BoZの言葉が、届けたい事が真実味を増すのだから。 語るミカサはやっぱり素人な訳だが。 「答えは見つかったのか、模索の途中かは解らない。正直、歌で救えるものなんて限りがある 取捨選択も時には必要だ……それでも」 同じ目線で寄り添い理解してくれる何かの存在、ただそれだけの事でどれくらい『心』が救われるか。 そこにこそ、BoZが歌う意味があるはずだ。 当然、平坦な道じゃない。 己の弱さ、狡さ、醜さ、恰好悪さを認めて、それらを曝け出す強さが必要だ。 それでも、その時が、きっとBozの救世が成る時なのだろう。 最後の曲が終わる。 すると、場にアンコールを要求する叫びが木霊する。見ると、フィクサードのうちの何人かも一緒にアンコールを叫んでいた。相変わらず黙っている者もいるが。 「魂の籠った音楽(救世)を待ってる」 ミカサとフツの目が合った。 そこにもう、以前のような冷たいものが感じられなかった。 (例え届かなくても、心の弱さに負けないように、立ち向かうんだ。さぁ、歌い続けよう、叫び続けよう、求め続けよう。この果てしない、生きる輝きの中を) 悠里は他の観客と同じように、アンコールの声を上げる。 そして……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|