● 寒暖の差は激しいものの季節は既に春。 柔らかな日差しが三高平の街に降り注ぐ。 そんな街を歩き、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)はアーク本部の扉を開いた。 「こうしてまた、アーク本部の扉をまたくぐることが出来るとはな」 ようやく落ち着きを取り戻したアーク本部の内部を見渡し、守生は感慨深げに呟く。 ともすれば、今頃世界は消えてなくなっていた。それを思うと、こうしていられることも、奇跡に等しい。 三ツ池公園の激戦から時は流れた。 だが、多くの人々にとってその戦いが知られることはなく、今日も世界は動いている。そんな中で守生は比較的大きな変化があった方ではあるのだが……。 「モリゾーさん、こんにちは」 「あぁ、ゼフィか。やることは増えたけど、フォーチュナであることに変わりは無いしな。そっちは……例の手続きか?」 考え事をしていた守生に話しかけたのは『風に乗って』ゼフィ・ティエラス (nBNE000260)だった。昔は書類を書くのも一苦労だった彼女も、すっかりボトム・チャンネルに慣れたものだ。さすがに電子機器に触れるのは恐る恐るのようだが。 「えぇ、最近はアークにも余裕があるようなので」 先日の戦い以降、アークに属するリベリスタは数を増していた。国内リベリスタとの連携は強化され、海外にアークの名声が響き渡ったからだ。一方、エリューション事件の発生件数は大きく変わらないものの、国内フィクサードの動きが縮小したせいもあって対応する事件の数は減少傾向にある。 「ラ・ル・カーナだって心配だしな」 「えぇ、それに何かあればいつだって戻ってきますよ」 そうしたアークの様子もあって、ゼフィはラ・ル・カーナへと戻ることにした。世界樹エクスィスの若木の様子も気になるし、ボトム・チャンネルで得た様々なものを故郷のために還元したいという想いだってある。もちろん、今生の別れではない。ボトムに災いが起きれば、彼女はいつだって駆け付けてくることだろう。 「頼もしい話だな。まぁ、大事は起きて欲しくない所はあるが。この半年、フィクサード連中のせいで学業に支障が出た、なんてもんじゃなかったからな」 冗談めかして肩を竦める守生を見て、ゼフィはクスリと笑う。 守生はこの春、三高平大学に進学することとなった。元々成績はかなり良い方だ。他の大学に進むことも考えたが、アークのフォーチュナとして今後も活動していくことを考えればこの選択に間違いは無かったと思っている。将来的にアークの他の業務も、と考えてはいるが予定は未定だ。 もっとも、受験勉強をするに当たって、多くの組織が起こした事件は彼にとってあまり望ましいものでは無かった。ある意味、舞台の裏側で起きたもう1つの戦いと言えるだろう。 「さて、他の連中はどうしているんだろうな」 そして、守生はゼフィと別れると今日もブリーフィングルームに向かった。 今日も世界は揺らいでいる。 それでも、リベリスタ達は守り抜いた世界を、今という時代を生きているのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年05月01日(金)21:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 闇の中に火花が光る。 暴力的に、圧倒的に。 あばたの足元には薄汚い血を撒き散らすエリューションの肉体があった。 この日、彼女はエリューションを使役するフィクサードによる事件を解決するために動いていた。バロックナイツの脅威が去った以上わざわざアークに所属する意味も薄いのだが、「掃除屋」として生きる彼女にとって『アークのリベリスタ』という肩書は有用だった。 「期待はしていませんでしたけど、こんなものですか」 フィクサードを殺すと、あばたは彼の所有していた蔵書をさらっと目に通して、興味を無くしたとばかり投げ捨てる。彼女は三ッ池公園の決戦以来、アーティファクトの収集や自己研鑽に余念が無い。 アシュレイのような不老長寿、キースのような異世界との接続を行う神器等、彼女の目的に足る所へ、彼女自身を連れて行く手段を探してのことだ。 (全世界のエリューションを敵に回すにはまだ足りない。造物主に手をかけるにはまだ届かない) 戦いを乗り越えたからこそ、そのことへの自覚はある。 それでも、あばたは諦めない。 Show must go on. そう、リベリスタ達の戦いは終わらないのだ。 ● 三ッ池公園の戦いから始まった物語は、三ッ池公園の戦いで幕を閉じた。 それは希望と絶望の鬩ぎあい。 進もうとする意志と、歩み疲れた諦観の戦いだった。 この戦いを世の人々は知らない。いや、知るべきではないのだ。知れば真実がもたらす恐怖は、第2第3の魔女を生み出してしまうのだから。 だが、ここであえて物語の結末を語ろう。 この世界を守り抜いた者達が戦いを終え、どこに向かっていくのか。その足音は何処かへと伝わり、希望を諦めずに進む次の者達への道標となるのだろうから。 ● 三高平学園――三高平大学に付属した一貫教育の学園で、三高平で生活する人々のために設立された場所だ。それは事実上、リベリスタのための学校と言っても良いだろう。革醒によって普通の生活を送れなくなってしまった者は少なくない。そうした者達が学校という空間をやり直せる場と言える。 カルラもそんなリベリスタの1人だ。 彼の場合だと戦い続けることが困難になったというのも理由の1つである。あの時受けた刃が、あるいはあの時受けた弾丸が、もう少しでも深く突き刺さっていたのなら、ここに彼はいないのだろうから。 しかし、そんなカルラも今まで遭遇したどの戦いより動揺していた。 膝の上には黒髪の少女――壱和がいるのだから。 「今日は勉強会をしよう、って事だったよな」 「はい。色々あって遅れ気味でしたし、それに、カルラさんには休息が必要です」 膝の上で背中を預け、壱和はしてやったりという表情だ。 何しろ今までは戦ってばかりで一緒にいられる時間が少なかった。それまでの時間を取り戻さんとしている。もっとも、正直に甘えたいとまで言いだすことも出来ず、強引だったのではないかと内心冷や冷やしている訳だが。 「いいのか……? 俺の知ってる勉強会と違う気がする」 カルラは口の中でもごもごと言っているものの、勉強会が始まってしまえばやるべきことはそれなりにこなしてみせる。幸いにもやったことがある範囲だったこともあり、勉強会はつつがなく進んでいった。 (心配かけ通しだったからな、その分安心させてやらないと) 一方の壱和はと言うと、この時間を純粋に楽しんでいた。 背中を預けて、一緒に本を見て、のんびりと。 耳のすぐそばで息遣いが聞こえて、くすぐったい。 一緒にいる。それだけの事が、すごく嬉しい。 だからつい、心にふっと浮かんだ悪戯心に従って動いてしまう。 「カルラさん、これ教えてもらえますか?」 「どこだ?」 壱和が示した場所にカルラが首を伸ばす。 その時、そっと壱和の唇がカルラの頬に触れた。 「不意打ちだと……?」 「花見の時のお返しです。これでおあいこ、です」 珍しく慌てるカルラに対して笑顔で答えると、壱和は再び勉強に集中する振りをする。しかし、内心は今にも逃げ出したい位恥ずかしい。 カルラはそんな少女の様子を見るとため息を1つ。そして、周囲に見られていなかったことを確認すると何事も無かったかのように、勉強会へと戻るのだった。 ● アークに残る者がいれば、去る者もいる。 三ッ池公園の『閉じない大穴』が消え、日本からバロックナイツの脅威は去った。当面の目的を果たした以上、別の目的に向かって動き出すのは当然の話だ。そして、戦略指導室で室長の沙織と向かい合うヒルデガルドもそうしたリベリスタの1人だった。 「そうか、そういうことなら止めることは出来ないな」 「あぁ、元々、日本に来た理由がバロックナイツ戦線への参加だ。バロックナイツが組織としてほぼ崩壊した以上、祖国に帰るのが道理だろう」 ヒルデガルドの出身は古くよりイギリスに存在した神秘の名家だ。数多くの戦いを経て疲弊した倫敦のリベリスタ組織『ヤード』の立て直しをする、という目標もある。アークと『ヤード』を繋ぐパイプ役となれれば重畳と言った所だろう。 そんなヒルデガルドに沙織が問う。 立て直しが終わったらどうするつもりなのか、と。 すると、彼女は少しの思案の上で応えた。 「まだ分からないな、いずれにせよ以後は英国が主な活動の場になろう。これからのアークの行き先に幸多からん事を」 そして、ヒルデガルドは優雅に一礼すると、『1人で』戦略指導室を後にした。 数分後、沙織は急いで彼女を探しに人を出させた。 ● とあるフィクサード集団が拠点としていた山中のアジト。 血だまりを前にして遠野結唯はようやく一息をついていた。力目当てでフィクサードに従っていた普通の犯罪者も紛れていたが、既に彼らは逃げ去っている。彼女にしてみると、別にどうでも良い相手だったから。 「大きなヤマももう生じる事はあるまい。悉く退けてきたからな、おいそれと動けやしないだろう。それこそこんなモグリか馬鹿でもない限り、な」 結唯がアークへ来たのは『万華鏡』を始めとした豊富な装備が理由だ。だが、国内においては武闘派の『剣林』が、世界規模で見てもバロックナイツが崩壊を迎えている。計算できない存在だった『黄泉ヶ辻』ですら、既に壊滅した。 これ以上、アークに頼る必要は無い。 神秘狩りは1人でも出来る。 「まあ、私のやり方が気に入らん奴もいるらしいからな」 愛用の格闘銃器を仕舞うと、結唯は立ち上がる。 彼女自身にアークを抜けるつもりは無いが、彼女のやり方はフィクサードに近い。故にフィクサードとして討たれる可能性はあるし、それは元より覚悟の上だ。 「行くか、神秘狩りに」 そして、結唯は密やかに旅立った。神秘を狩るために。 己の望みのために力を振るうフィクサードとして。あるいは、世界を護るアークのリベリスタとして。 ● ペットボトルが転がる資材置き場。 ブラックペッパーと炭酸水という健康にはよろしくなさげなものをコヨーテは口にしていた。足元には他にも、アークの戦闘記録に関する資料が転がっていた。彼が今更、敵への対策のために勉強をするなどと言うことは無い。過去の戦いに思いを馳せていたのだ。 「倫敦のイヌ……いや、ブタ野郎に、拳奴の連中! また闘り合いてェなァ。ネピリムも燃えたッ!」 アークに来て短い方ではあるが、コヨーテは数多くの強敵と戦ってきた。出来るならこのまま何も考えずに戦い続けていたい位だ。 だが、多くの者達が選択の岐路に立たされる中、コヨーテもまた選択の時が訪れようとしていたのだ。 きっかけは傭兵である義父からの手紙。海外に存在する彼の部隊に合流するよう手紙が来たのである。 以前なら何も考えることは無かったのだろう。しかし、これまでの戦いの中で、コヨーテは自分が思っていた以上に、強い敵を与えてくれるアークと仲間達のことが好きになっていた。 「ま、考えるまでもなかったなッ」 戦いを思い返す中で結論が出た。考えてみれば、今生の別れでも無い。 海外に行ってもやることは戦いだ。だったらそこで戦い、勝てばいい。そうして強くなってから、また戻ってくればいいのだ。 この上なくシンプルな、いや極めて「コヨーテらしい」結論だった。 「秋までもうちょい時間あるし、ソレまでは『アークのリベリスタ』、続けッか!」 そう決めるとアークの本部に向かう。適当な奴を捕まえれば、きっと次の戦いの場へと案内してくれることだろう。 ● 朝の太陽が眩しい。 まだ空気の澄んだ道を、モヨタとナユタの兄弟は歩いていた。ここは三高平、神秘に目覚めた異能者達が安らぎを得ることが出来る数少ない場所である。そして、少年達は学校へ通学している所だ。 突然、モヨタが立ち止まる。 つい先日の激しい戦いと、目の前にある平和な光景。その差にふと当惑してしまったからだ。ナユタが訝しげに顔を覗き込むと、モヨタはポツリと呟くように答える。 「……あの戦いからだいぶ経ったんだな。こうやって学校に通っていられるのも、あの日を乗り越えられたからだよなぁ」 「確かに、こないだまでと比べたらかなり平和になったね」 どこかぼうっとした口調のモヨタ。 もっとも、先日の戦いで一応の平和は得られたものの、根源的な問題が取り除かれたわけではない。そこでナユタはふと尋ねてみる。 「にーちゃんはこれからどうするの?」 弟の不意の問いかけに答えを窮してしまうモヨタ。 一瞬答えられず、目を泳がせてしまう。その時、今も持っているアクセス・ファンタズムの存在に気付く。そう、苦しんでいる人を助けたいという想いで、幼い身を推して必死に戦ってきた。それはこれからだって変わらないし、変えたくない。 だから、強い意志を持って答える。 「決めた、やっぱりオイラ、アークでリベリスタを続けるぜ」 エリューション事件が完全に無くなった訳ではないし、自分には4年もの間戦ってきた力と経験がある。ならば、これがきっと自分にとっての使命なのだろう、 「もっと強くなって、みんなを守れる一人前のリベリスタにならなくちゃな」 「そうだね、にーちゃんらしいや」 決意を込めた兄の声に、大人びた顔を向けるナユタ。 しかし、それはすぐさま年相応の悪戯っぽい表情に変わる。 「だったらオレは、絶対にーちゃんより強いリベリスタになってみせるもん! 革醒して短期間でここまでいけたんだから、きっとオレの方が才能あるし!」 「はは、それもナユタらしいな。一緒にこれからもがんばってこうぜ!」 「それじゃお互いどっちが強くなれるか競争だね」 顔を見合わせる兄弟。 どちらの瞳にも、強い意志の輝きが満ちていた。 その時、ナユタは何かに気付いたかのように手を打つ。 「っと、話しこんでたらもうこんな時間だ! 遅刻しちゃうよ! にーちゃんお先にー!」 先ほどまでの会話はどこへやら、青く輝く羽根を広げるとナユタは宙へと浮かび上がる。 慌てたのはモヨタだ。立ち止まって話し込んでしまった彼は、弟のように便利なものの持ち合わせは無い。 「って、おいてくなー! せめてオイラも抱えて連れてってくれよー!」 モヨタの声が街に響き渡る。 これもまた、リベリスタが手に入れた平和な光景なのだろう。 ● 数多くのリベリスタ達が戦った。 リベリスタの数だけ物語があった。 この今にも崩れそうな世界を護るため、リベリスタ達は戦い続ける。その中で、笑い、哀しみ、怒り、運命の炎を燃やしてきた。 だからこれも、戦いが終わったほんの束の間の話。 何かの終わりは何かの始まりなのだから。 だが、長きに渡る戦いを終えた者達のために、あえてこの場で筆を置こう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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