●満天の星空。満開の桜 三ッ池公園の戦いはリベリスタの勝利に終わった。 かくて赤い月は消え去り、世界は何事もなく回り続ける。 だが失われた命は戻らず、残酷な世界が変わったわけではない。 それでも―― 「よーし、お前ら! 宴だー!」 それでも『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)は祝杯を挙げる。 戦いは終り、危機は去ったのだ。これを勝利と呼ばずしてなんという。 明日も変わらず戦い続けるかもしれないが、それでもこの勝利をかみ締めなければ心が折れてしまう。 「幸いな事に桜は満開だ。此処で花見するぞ!」 祝賀用に用意していたのか、大量の飲み物と食べ物を持ってくる。アークのスタッフが手伝い、夜桜の舞台が整った。 あっけに取られるリベリスタ。その中には応援に駆けつけたヴァチカンやガンダーラもいる。一部逃げ遅れたフィクサードたちは、苦笑しながら離れたところで勝利を祝っていた。 「乾杯だ」 「何に?」 「この世界に!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年04月12日(日)22:54 |
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■メイン参加者 15人■ | |||||
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● 結唯は静かに夜桜を見上げていた。 手には酒。公園のベンチに腰掛けて、物言わず杯を傾ける。 (勝ったか……) 未だ傷の痛みが抜けきらない状態だが、だからこそ酒が体に染み渡る。 思えばアークに着てから様々な戦いを経験してきた。様々な思惑を持つ相手、様々な欲望を持つ相手、様々な手法で攻めて来る相手。 その事如くを退け、そして今酒を飲む。薄紅色の桜と夜の黒。それらが重なり合う様は実に風情ある光景だ。一人静かに酒を飲――みながら、遠くから聞こえる宴の声に眉を顰めた。 (全く。騒がしい奴らだ) アークに居ると退屈はしない。しかし風情を理解しない者も多いのはのは問題か。 誰か酒を飲める奴を誘うか、と結唯は腰を上げた。 ● 「それじゃ、決戦の勝利を祝して、乾杯」 「「「乾杯!」」」 快の音頭で花見は盛り上がる。急な宴の開催だった為、酒の用意ができなかったのが悔やまれる。だがしかし、宴の開催者を思い出す。 「ここは、九条さんが持ってきてくれたであろう銘酒に期待かな」 「おうよ。定番の日本酒からワインウィスキーなんでもあるぜ」 ずらりと並んだ様々な瓶。和洋様々なラベルが並んでいた。 「今回はやけに沢山持ってきたね」 「世界各国からリベリスタが集ったからな。相応の用意をしてきたのさ」 成程、と快は頷いて日本酒を手にする。ヴァチカンや梁山泊、ガンダーラやスコットランドヤード。様々な国のリベリスタが参加していた。宗教的な理由で飲めない人もいるが、そこはそれ。 「逝ってしまった人たちに、献杯」 快は桜を見ながら酒を注ぐ。杯を掲げ、一気に飲み干した。決戦で命を落とし、明日を繋いだ人たちに乾杯を。その犠牲を忘れない。五臓六腑に染み渡る熱さが、生きている証。 そして始まる勝利の宴。リベリスタフィクサード混合というレアケースの酒宴である。 「あみあみ、ごきげんうるわしゅう。世界を救った気分はどう?」 「あみあみ言うな。勝っても儲けのない戦いなんて初めから負け戦よ。アークは大勝利でおめでとう」 夏栖斗はジュース片手に恐山の七瀬に話しかける。ビール片手に無愛想に応える七瀬。 「……勝ちは勝ちだけど、正直なところ複雑だね」 笑顔のまま――笑顔を維持して泣き顔を見せないようにしたまま夏栖斗は言葉を返す。 世界は救えた。だけど友達は救えなかった。未来を諦めた魔女。たった一つの純粋な祈りをこじらせて、自暴自棄になった一人の友達。 「人の死は乗り越えるんじゃなく、受け入れなさい。受け止めて、時々思い出して泣きながら歩くのよ。無理に乗り越えようとしても、躓いて潰れるだけだから」 ビールを口にしながら七瀬が夏栖斗に語りかける。人生の先達として、迷える後輩に助言するように。 「あみあみ……」 「だからあみあみ言うな。この夜までは共闘期間よ」 夜が明ければ敵同士。だからこそ生まれる会話もある。 「二人とも呑んでるかー、酒の追加持って来たぜ」 同じく善悪の交わる酒宴がここにあった。陽子が向かった先は元剣林の十文字と水原が飲んでいる所だった。 「呑んでますぜぃ。コイツは限界ですがねぃ」 「……むぅ、アークには分身の術を使う者がいるとは」 コップを手にして向かえる水原と、酔って頭が揺れている十文字。 「なんだい、姫さん下戸か? 情けないねぇ」 「私は誰の挑戦でも受ける……ぞ」 言ってコップを差し出す十文字。いいねぇその意気、と陽子はそのコップに酒を注いだ。水原と一緒に一気に酒をあおる。酒の肴とばかりに、陽子は彼らに秘密にしていた事をぶちまけた。剣林が潰れた以上、秘密にする理由はない。 「そういや姫さん達がキース・ソロモンを探しに三高平に来た時、実はキースも三高平に来てたんだぜ」 「あー、あの時か……って嘘!?」 「ふっふっふ。わらしのよほうろーりか」 驚く水原と、既にろれつが回らない十文字。その姿を見て陽子は笑う。コイツラと関わると面白い事ばかりだ。 「つづら」 「ヨーコ……トウコ……」 つづらは宴の中でかけられた声に振り向き、その者たちの名を返す。かつて『Wシリーズ』と呼ばれる狂気の檻に共に捕らわれていた少女。W10とW04とナンバリングされた者。 「生きていたのね。ずっと心配した」 ――Wシリーズは定期的にある薬を服用しないと細胞が自己融解する構造になっている。つづらは幸運にも自己融解を免れる手段を手に入れたが、それは決定的な治療ではない。滅びを先延ばしにしているだけだ。 そしてその治療法は、アーク内で進んでいる。時間こそかかるが、いずれは治療薬無しでの活動も可能になるだろう。 「虫のいい話かもしれませんが、私はWの力を治療したいのです」 アークを恨んで敵対したつづら。だがアークとの交戦によりその敵愾心は溶けて、生きたいという気持ちが増えていた。散々迷惑をかけておいて、今更……と震える手を優しく掴むヨーコとトウコ。 「お帰り。つづら」 そのぬくもりに涙するつづら。 「よかったな、つづらたん」 竜一はその様子を遠くから見て、腕を組んでうなずいた。 ヨーコとトウコ。そのほかのWシリーズの命を、文字通り命をかけて救った竜一からすれば、その光景は感慨深いものがあった。つづらもまた、竜一が救おうとした者だ。それらが手を取り合う日々を、どれだけ夢見たことか。 この戦いで竜一は革醒者としての力を失った。もう剣を持つ事は出来ない。だから革醒者として事件に関わる事は出来ない。神秘の力で苦しむものを自分の手で救い出す事はもう出来ないだろう。 だが、自分が救ったものが神秘で苦しむものを救うことはあるだろう。 縁は繋がっている。今日助けたものが、明日誰かを助けるのだ。もう剣はもてないけど、剣で救ったものが新たな刃となり悪を討つ。 「合縁奇縁か」 だから自分が出来る事は唯一つ。新たなる者たちに何かを残すことだ。竜一はつづらたちのほうに近づいていく。 「つづらたんうひょおおー! というわけで、お兄ちゃんと呼んでいいよ!」 正に飛びかかる勢いで竜一はつづらたちに迫った。それも宴の喧騒の一つとなる。 「オッス、『ワイルドウルフ』、つーか藤咲。久しぶり。そっちも生きてたようで安心したぜ」 「とめさんとハロルドも一緒か。都合がいい」 「あれから結構経ったけれど、そっちはどうしてた?」 フツ、伊吹、日鍼が『ワイルドウルフ』と呼ばれるリベリスタチームに声をかける。厳密に言えば五人中二人は袂を別ったのだが、この戦いのみ共闘していたという。 「あっ、カテーナさん誕生日いつ? もしかしてわいと同じ十九歳? もしそうやったら飲む代わりにイタリア語教えてくれへんかな」 「あ、うん。それぐらいだったらいつでも呼んでー」 お酒の呑めない日鍼とカテーナがジュースで歓談していた。日鍼は視野を広げる為に外国語を学んでいるとか。ドイツ語を学んで言語を学ぶ面白さに気付いた日鍼は、ものすごい速度で知識を吸収している。 「だったらこういう映画とかみるといいよ」 「おおー。日本語訳された映画だ。イタリア語?」 字幕を見ながら耳で言葉を覚える。その手法として効率がいいやり方を教えてくれた。事実、カテーナもこの方法で日本語を覚えたのだとか。 「前にも言うたけど、困ったこと会ったらいつでも言ってな」 「うーん……とりあえずはお酒飲ませてもらえないことかな?」 カテーナは頬をかきながら答える。イタリアの飲酒可能年齢は十六歳からだとか。郷に入っては郷に従えの精神で、仲間から二十歳になるまでお酒は封印されている。 「ま、仕方ないよな。あ、これ般若湯だから」 フツはお酒……もとい、般若湯を口にする。仏教では飲酒禁止なのだが、まぁ、そこはそれ。 「藤咲。久しぶり。そっちも生きてたようで安心したぜ。娘さんの具合、どうよ」 「息災とはいかんが、何とかやっている」 フツは近くで飲んでいた藤咲に声をかける。娘の治療費を賄う為にフィクサードに身を落そうとしたリベリスタ。どうにか治療の目処は立ったようだ。金策に苦しむのは変わらないようだが。 「そうか……無事を祈ってるぜ。アークに入って四年と半分くらいになるけどさ、知り合いが生きてるっーのは嬉しいよな。 お前さんたち、ベテランはみんなこういう思いをしてるのかね」 「ああ。明日知れぬ命だ。今日ここで酒が呑めるのが、幸せだと感じるよ」 藤咲の言葉にフツは瞑目して笑みを浮かべた。その気持ちは理解できる。今生きている幸せ。それをかみ締め、杯を傾けた。 「……全くだ」 伊吹は藤咲の言葉に同意しながら、酒を口にする。瞳に写るワイルドウルフの面々。彼らと共闘した日々を思い出す。あれはアークにくる前の話だったか。 常に前線に立つリーダーの藤咲。勇猛且つ冷静沈着な振る舞いは仲間を引っ張るリーダーとして頼れる存在だった。 まだ若く、それゆえに純真な心を持つミコトは常に前向きで健気に皆をさえてくれた。 常に明るく笑うカテーナは、どれだけ不利な状況に会っても希望を与えてくれた。 ハロルドのしぶとさは仲間を支える盾となり、不利な状況を覆す切り札となっていた。 経験豊富なとめの戦術と行動は、このワイルドウルフの戦略の要となっていた。 苦労はあった。常勝無敗とは行かないが、けして悪い事ばかりではなかった。 パーティは分裂したが、なお集まって酒が呑める彼らの絆の深さに呆れ、そして羨ましくも思う。 「何突っ立ってるのさ、坊や。アンタも呑みな!」 とめが伊吹を誘うように酒瓶を掲げる。豪胆なとめの声に笑みを浮かべながら、伊吹は自分もその『絆』のうちに入っている事に笑みを浮かべた。 宴はまだ、終わらない。 ● そんな宴の喧騒から離れ、静かに語らう者たちもいる。 「桜位、見てから逝けば良かったのに……」 うさぎは夜桜を見上げながら、そんな事をいっていた。顔はいつもの無表情だが、付き合いの長い風斗にはその内に込められた感情が理解できる。 (……ったく。恨むぞアシュレイ) 風斗は魔女に対して、あまり強い感情をもっていなかった。同情に似たものはあるが、世界を壊そうとする悪人以上の気持ちはもてなかった。うさぎの気持ちを知り、それに沿うように動いたに過ぎない。 「飲むぞ。付き合え」 持ってきた酒とつまみ。風斗はそれをうさぎに渡し、自分自身のコップにも酒を注いだ。愚痴ならいくらでも聞いてやる。その構えだ。 「私はね風斗さん。アシュレイさんに笑って欲しかった訳じゃない。涙目になって欲しかったんです」 うさぎの言葉に頷く風斗。あの魔女の持つ『人間らしさ』にうさぎが触れたからこその感想だろう。あんな死出を前にした笑顔ではなく感情的になってほしかったという気持ちは、親友として理解でき―― 「私情で世界滅ぼそうとした上にやり逃げ出来ず生き延びちゃって座り込む彼女の額に『高脂肪乳』って油性マジックで書いた上でグルグル周りを回りながら『ねえ、今どんな気持ち? これから死ぬほど気まずいタイムが待ってますけどどんな気持ちヤーイヤーイ』って煽り倒したかったんです」 「お、おう」 真顔で告げるうさぎに、そんな曖昧な言葉を返す風斗。親友とはいえ、理解できない領域もある。 「……そしたら流石の彼女も、怒るじゃないですか。そしたらあんな、小奇麗な最期でなんか終わらせずに済んだ」 ぐい、とコップを傾けるうさぎ。そのしぐさに見える後悔の思い。 「でも、そうならなかった。私は運命に抗う事も従える事も……何も出来なかった」 「……いいから飲め。今日は最後まで付き合ってやる」 後悔を流すように酒を飲むうさぎと風斗。時は戻らす、それでも戦士は歩いていく。 「決着ついてからまだ二時間だぜ? アークってタフだなぁ」 「全くだ。あれだけの戦いの後なのに元気なもんだぜ」 宴の喧騒から離れたところでプレインフェザーと喜平は二人で桜を見ていた。薄紅色の花弁が風に揺れている。 「そういえば初めて日本の桜を見に行ったのも、喜平とだったっけ」 「そうだったな。三年前だったか?」 「あの時、いつか一緒に飲めたら……なんて話したけど、そう遠くない内に叶いそうだね」 「酒が飲めるようになるにはあと二年もあるぜ」 あのときの花見から三年。なら二年ぐらいはすぐだ。そう思いプレインフェザーは喜平を見つめる。所々に見える激戦の跡。 「なぁ喜平、怪我してんじゃん。まさか幽霊じゃないよな?」 「ちゃんと二本足で立ってるさ。確かめてみろよ」 苦笑する喜平の言葉に従って、その体をベタベタ触るブレインフェザー。しっかりとした感触とぬくもりが、彼が生きている事を実感させる。 「お前こそ生きてるのかな。ほれ」 「わっ。もう」 お返しにとばかりにブレインフェザーの頭を撫でる喜平。灰色の髪の毛をくしゃりとかき混ぜる。ブレインフェザーはくすぐったそうに抵抗するも、手を跳ね除ける事はしなかった。 互いの手はふざけあいながらも互いの存在を強く感じ取り、そしていつしか強く引き寄せる。 戦場を駆け抜けた戦友として。愛しあった男と女として。 風が吹き、桜の花びらが舞う。 二人の唇は自然と近づき、そして重なる。重なる唇からはさっきまで飲んでいたジュースの味が混じっていた。 風がやむと同時に唇は離れ、そして何事もなかったかのように二人は笑顔で見つめあう。 「今回もお疲れさん」 「喜平もお疲れ様。これからも、よろしくな」 「宴会ね……確かに今の陰鬱な気分は紛れるか?」 遠くで騒ぐ者たちを見ながら聖は少し離れた場所で座り込んでいた。その隣に座るシュスタイナを見ながら、まぁあちらに行かなくてもいいかと思いなおす。 「お互い生きてて、本当に良かった。今回は少々無理が過ぎましたからね」 「『生きてて良かった』じゃないでしょ」 聖の言葉にシュスタイナは怒るように答える。事実、その言葉に怒りを感じていた。 「傷ついた私を見るのが嫌? なら私だって同じだと、何故気付かないの!」 シュスタイナは戦略的な役割上、庇われる事が多い。それは仕方ないと思っている。だけど勝利のために仲間が傷ついて平気な顔をしていられるほど、達観していない。 「今回のようなことは早々ありませんよ。それに、傷だらけのシュスカさんを見ることに比べれば、これ位は……」 「そういう事を言ってるんじゃないの! ……大事な人が傷ついて何とも思わない人間が、どれくらい世の中にいるの?」 聖の言葉に叫ぶように反論するシュスタイナ。気がつけば、頬を流れる涙一筋。堰を切った感情は止まることなく、聖の服の裾を強く掴んでいた。自分を庇い傷つく者が、いつしか倒れてしまいそうな不安。その不安に負けぬように強く。 「約束して。無茶しないこと。私を一人にしないこと。……あと」 「あと?」 「……子供扱いしないこと」 十五歳のシュスタイナは三十五歳の聖に顔を向けて、見詰め合う。精一杯の勇気を振り絞る乙女の言葉。それを聖は子供と嘲笑うようなことはなかった。 「約束します。貴女を一人残して、居なくなるようなことはしないと」 聖の指がシュスタイナの涙を拭う。そのまま手をシュスタイナの頬に当て、優しく自分の元に引き寄せる。夢見るように瞳を閉じる二人。 唇を通じて感じる互いの体温。僅かな時間だが、二人はより深くそれを感じ取っていた。 「貴女は私の子供ではなく、恋人ですよ」 「っ!? うう……!」 聖の言葉に涙を流し、その胸で泣き出すシュスタイナ。 子供としてではなく女性として嬉しくて、今はあふれる感情を涙と共に流していた。 ● かくて赤い月は消え去り、世界は何事もなく回り続ける。 だが失われた命は戻らず、残酷な世界が変わったわけではない。 それでも、この勝利は明日の平和に繋がる第一歩だ。 桜は平和な世界を祝福するように、薄紅色の花弁を広げていた。 この世界に乾杯を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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