●鯨塚兄弟のパパの話 鯨塚 モヨタ(BNE000872)アンド鯨塚 ナユタ(BNE004485)。二人は休日の自宅でチャーハンをかっくらっていた。 テーブルの端には写真たて。幼いナユタと生まれたばかりのモヨタ、そして今はパートに出ているママと……とーちゃん。 モヨタは写真を横目にぽつりと呟いた。 「とーちゃん、今どこにいるんだろ」 途端、ナユタが乱暴にテーブルを叩いた。 「やめてよ。オレたちを置いていったとーちゃんのことなんて! とーちゃんはオレが生まれてすぐにかーちゃんたちを残して消えた。オレたちがどんなに苦労したか……!」 「よ、よせよ。とーちゃんはそんな人じゃ……ない、はずだよ……」 モヨタは力なくスプーンをテーブルに置いた。 「おいら覚えてるんだ。とーちゃんが抱っこしてくれたこと。あの時の暖かい手、大きな手……おいら、あの手をもう一度握れるんだって、信じて……」 「ただいまー」 「あっおかえりとーちゃん」 「だからおいらその日までアークで頑張るって決め――えええええええええええええええええええ!?」 ナユタにマス寿司手渡すとーちゃんを前に、モヨタは膝から崩れ落ちた。 「どうしたモヨター。お前にもお土産あるぞー、はいじゃがぽっくる」 「どこ行ってた時のお土産だよ! あと12年居なかったレベルのお土産じゃないよこれ! あとナユタもなんで普通に出迎えてるの!? おいら? おいらだけおかしいの!?」 「だって昨日絵はがき届いたし……ほら」 ナユタがハガキを差し出してきた。 ピラミッドの前でダブルピースする写真に『とーちゃん、明日帰る』と手書きされていた。 はがきを地面に叩き付けるモヨタ。 「どこ行ってんだよ!」 「そうだよとーちゃん、エジプト帰りにマス寿司とじゃがぽっくるはおかしいよ!」 「突っ込みどころそこじゃないよ! え? っていうかナユタさっきまで『顔も知らない父に対する複雑な気持ちを素直に表わせずに乱暴になってしまう弟』みたいなリアクションしてなかった? なんで普通にしてるの? 普通に対応できてるの?」 「そう言ってもさモヨタ、オレたちもういい年じゃん」 「十代だよ! ガラスの十代だよ!」 「その下りが言える人は十代じゃないぞモヨタ」 「昭和生まれは黙ってて!」 モヨタはがーっと残りのチャーハンをかっ込むと、お水をぐびぐびしてテーブルにコップを叩き付けた。 「おちついたか?」 「うん……まあ……」 モヨタ、ナユタ、とーちゃん、まおはそれぞれテーブルにつくとふうと息をついた。 一斉に振り返るモヨタナユタ。 無言でスプーンを握る荒苦那・まお(BNE003202)。 「「なんでいるの!?」」 「エジプトのおみやげだぞー」 「女の子をお金で買ったかのようにいうのはやめてよ!」 「まおは日本から来ました」 「しってる!」 「ごめんとーちゃん、家の前を歩いてたからつい連れてきちゃって」 「野良犬じゃないんだよ!」 「まおは蜘蛛です」 「それもしってる!」 「あーもー折角落ち着いたのにまたわっちゃわちゃだよ! 次の話に全然進まないよう!」 頭を抱えて絶叫するモヨタ。 そんな彼の口に液体をしみこませたハンカチを押し当て、くたっとさせるとーちゃん。 「とーちゃん今なにを。もしかしてクロロ……」 「女子更衣室の香りをかがせた。今モヨタは思春期の興奮によって意識を飛ばしているはずだ」 「やめて!」 「だああああああああああああもうお茶! お茶入れてナユタ!」 そしてテーブルを囲んでお茶をすするモヨタ、ナユタ、とーちゃん、まお、まこ。 はふーと息をついてテーブルに湯飲みを置――いて、突っ込みをぐっとこらえた。尺にだって限りがある。一個ずつ突っ込んでちゃいられねえ。 「で、とーちゃんなんで居なくなったの? 12年前に突然さ」 「おいおいマイサァン。行くときにちゃんと手紙を送ったろう」 「そんな手紙来たかなぁ……」 「ハトで」 「ハトで!? 伝書鳩で!?」 「上野公園の」 「それただのハトだよ! 絶対どこにも届かないやつだよ!」 「でさー、とーちゃん今ハリウッドで働いてるんだけどー」 「話をナチュラルに進めないでよなんだよハリウッ……ハリウッド!?」 モヨタは二度見した。 五十嵐 真独楽(BNE000967)はお茶をおかわりした。 雲野 杏(BNE000582)はまこにゃんを抱きかかえた。 結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)がお茶を持ってきた。 モヨタは顔を覆って泣き崩れた。 だから尺に限りがあるって言ってんだろ! 「今アクション映画をとってるんだ。ヒーローものさ。でもキャストが足らなくなってしまって……モヨタたちに手伝って欲しいんだ」 「ほう……この流れはアレね? 主役とヒロインが複雑骨折したことで急遽私たちが主役に選ばれる……という」 お土産の峠釜飯をかっくらいながら目を光らせる杏。 「そうなんだ。今世界で公開されているヒーロー映画が人気でね」 「それって……」 ナユタの記憶の扉がぱかっと開いた。財布ライダーの配給で映画を作って世界に向けてぶっぱなしたことがある。確かキャストにモヨタとまこにゃんがいて杏がテーマソングを作っていた筈。 ということはまさか。 「おいら、世界で大人気なのか!?」 「いや人気なのはまこにゃんの方だ」 「えっ」 「ファンクラブが存在している」 「ええっ……」 「モヨタは……うん……うん、俺の息子よ、うん……」 「にごさないで。なんか恐いから濁さないで」 モヨタは顔を覆ってうずくまった。 ナユタはおみやげの落花生をぽりぽりしていた。 杏は熊本の地酒をぐびぐびしていた。 竜一は峠の釜めしをかっくらっていた。 まおは香川うどんをすすっていた。 ●こんかいのしゅし というわけでヒーロー映画をつくろう! 神秘とかまるで関係なくハリウッドで映画プロデューサーをしているとーちゃんのためにヒーロー映画を撮影します。 既にスタッフはみんないるがキャストがいない。とーちゃんがあんまりにフリーダムにしすぎたせいで全員帰ったからだ! なので、ナユタ、モヨタ、まお、まこにゃん、杏、竜一の六人だけで映画を成立させなくてはならないぞ! 脚本は既に破り捨てている。配役を決めていざアドリブだ! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年04月03日(金)21:24 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●MOYOTA THE MOVIE 石ころが転がった。 ――『SAMURAI-NINJA』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)。 石ころの上を通り過ぎる無数の人々。 ――『AN-Z』雲野 杏(BNE000582)。 無数の人々の上に広がるビル群。 ――『COO-MOURN』荒苦那・まお(BNE003202)。 ビル群を包むロサンゼルスの町並み。 ――『NAYUTA』鯨塚 ナユタ(BNE004485)。 ロサンゼルスを含むアメリカ合衆国。 ――『MAKO-NYAN』五十嵐 真独楽(BNE000967)。 アメリカをまんなかに見た地球。 ――『MOYOTA』鯨塚 モヨタ(BNE000872)。 地球の外に広がる太陽系。 太陽系の外に広がる銀河系。 銀河系、宇宙。 宇宙。 宇宙。 そんな宇宙のどこかで、宇宙船が悠大に航行していた。 宇宙船の中央に位置する巨大な玉座には、異世界侵略者アン・ズーが深く腰を下ろしていた。 立体ホログラフをジェスチャーで操作しながらつまらなそうにぼやく。 「この世界には岩とガスしかないのね。全くつまらない……あら?」 操作していた映像の中に、青く煌めく星があった。 ズームしていく。ズーム、ズーム、更にズーム。 アン・ズーは目を大きく見開いて映像に顔を近づけた。 「こ、これは……!」 映像では――。 ピンクのポンポンが空に向けて突き上げられた。 チアガールたちが足やポンポンを降りながら、応援席で声をあげている。 その中央で、きわどいミニスカートとお腹を大胆に出したタンクトップの真独楽がアクロバティックな三回転三ひねりジャンプを見せる。 絶妙にスカートの中が見えないアングルで着地すると、元気よくポンポンを掲げて見せた。 「頑張ってー、モヨター!」 一方、四角形のラインで囲まれたフィールド内では道着姿のモヨタとナユタが向かい合っている。 変幻自在な踏み込みと打ち込みを見せるナユタに対し、モヨタは力強いブロッキング。 コーチの竜一はぎゅっと拳を握っていた。 防戦一方かと思われた試合はしかし、モヨタの強烈な正拳突きによって決着した。 ラインの端まで突き飛ばされたナユタは、ヘッドギアを外して笑った。 近づいて手をさしのべるモヨタ。その手を掴むナユタ。 掴んだと同時に、場内アナウンスに『優勝はモヨタ選手』という声が響き渡った。 沸き立つ観客たち会場に飛び込み、モヨタに飛びつく真独楽。 その様子を、ローブを被った誰かが遠目に見つめていた。 吊り目の少女である。モヨタがそれに気づいた時には、彼女はふとその場から消えていた。 モヨタはアメリカンスクールに通う青年である。 弟のナユタやガールフレンドの真独楽と一緒に平和な日々を過ごしていた。 だがそんな生活は表の顔。ひとたび町に事件が起きれば、彼らは――。 「大変、ダイヤモンドドーナッツ店に強盗が入ったわ!」 「なんだって!? まこ、行こう――変身だ!」 どこからともなく飛んできた無数のパーツが全身に装着され、モヨタはジェット噴射と共に飛び上がる。 「オッケーモヨタ、サポートは任せて!」 真独楽もまた、全力疾走からの飛び込み前転――の途中で獣の爪やしっぽを生やし、素早い四つ足走行で現場へと直行。 そう、彼らは謎のヒーローギガントモヨタとしての裏の顔を持っているのだ。 「おっと、ようやく来たようだねギガントモヨタ。でも、この新作ドーナツは貰っていくからね!」 「またお前か、怪盗ナユタ! 一体お前は何者なんだ!」 「誰でもいいさ。とりあえず、これでもくらえ!」 仮面をつけた謎の怪盗ナユタ。彼は肩に担いだロケットランチャーを発射する。 モヨタが飛来したミサイルを腕のガードで耐えきると、爆風の中を駆け抜けた真独楽が相手のロケランを鋭いパンチではね飛ばしてしまった。 「しまった! でも、こんなこともあろうかと――」 懐に手を入れるナユタ。 が、その瞬間。ナユタは壁を破壊しながらあ飛び出してきたクリーチャーによって吹き飛ばされた。彼だけでは無い。ナユタと真独楽もまとめて吹き飛ばされてしまう。 「いたた……な、何が起こったんだ……!?」 頭を押さえて身体を起こすモヨタ。 彼が見たのは、ローブに身を包んだ恐ろしいクリーチャーであった。 背中からは蜘蛛のような脚が生えていて、駆動音と共にぐりぐりと動いている。 「情けない。この程度の破壊にすら対応できないなら……ヒーローの資格は、ありません」 「な、なんだと!?」 「力におぼれて、後始末すらつけられないのでは。もう、辞めるべきです」 謎の蜘蛛型クリーチャーはそれだけ言うと、空いた壁の穴から飛び出していった。 モヨタは追いかけようと飛び起きるも、そこは建物の五階。 広がるビル群をターザンのように軽やかに移動していく相手に、追いかけるすべは無かった。 「……モヨタ」 「おいらは大丈夫。一体何者なんだろう、あれは」 「わからない。でも……なんだか悲しい目をしてた」 心配げに顔を覗き込む真独楽に笑顔で頷いた後、モヨタは謎の怪盗ナユタに向け手を差し伸べた。 パチンと手をはたくナユタ。 「今回は邪魔が入ったけど、次はこうはいかない」 そうとだけ言い残し、ナユタは先程の壁の穴から羽を広げて飛び去っていった。 謎のヒーローギガントモヨタが謎のクリーチャーに負けたことは、ちまたの噂となっていた。 ゴシップ大好きな新聞社など『乱暴者モヨタついに天罰が』などという見出しをでかでかと出す始末。 軽くへこんでコーラの自棄のみを始めたモヨタにため息をつき、真独楽は真独楽なりにクリーチャーのことを調べようと行動していると……そこへ。 「やあ真独楽ちゃん。奇遇だね」 「あっ、竜一先生!」 図書館の前で竜一先生とばったり出会った。 折角だからパフェでも奢らせてくれよという竜一先生にほいほいついて行った真独楽だが、それは彼の罠だった。 カフェに入ったその途端、店員全員が操られたかのように真独楽を押さえつけたのだ。 「「マコニャンペロペロ! マコニャンペロペロ!」」 「そんな、どうして!? 助けて先生!」 「先生? そのプレイはもうおしまいだよ。オレは傭兵、サムライニンジャ。君は謎のヒーローマコニャンだね?」 「そ、それは……!」 「隠しても無駄よ!」 ウェイトレスの衣装を中破させたような服を着たアン・ズーこと杏は、タブレットPCの画面を真独楽へと突きだした。 そこにはいい感じにお尻や太ももを写したまこにゃんのベストシーンを集めた動画が表示されていて、画面上を流れるコメントには大量の『MAKO-NYAN prpr』の弾幕が流れている。 「すぐに分かったわ。あなたがあのまこにゃんだって」 「ま、まこをどうする気……?」 パフェのクリームが頬やデコルテライン、胸元やお腹へと散った状態のまこにゃんに。 仰向け姿勢から若干身体を起こし、不安げに首を振るまこにゃんに。 沢山の男に囲まれるまこにゃんに。 竜一と杏は盛大にワルい笑みを浮かべた。 「「お楽しみだよ」」 ● 自宅でばーちゃるぼーいして遊んでいたモヨタは、おかーちゃん(パパの特殊メイク)から受け取った手紙で真独楽の危機を知った。 そう、真独楽に首輪をつけた写真によってである! 「まこ!」 窓から飛び出したモヨタはギガントモヨタへと変身。ビル街の間を飛び抜けながら写真の裏にあった場所まで向かう……が、その時! 「マコニャンペロペロォ!」 側面から飛びかかってきた謎の仮面怪盗ナユタによってタックルを受け、側面のビルへと転がり込んでしまう。 丁度バスタイムだったおっさん(パパの変装)が胸毛を散らしながら絶叫した。 「なっ、何をするんだ怪盗ナユタ! 今はお前の相手をしてる場合じゃ……!」 「マコニャンペロペロォ!」 肩に担いだロケランを発射するナユタ。股間を隠して逃げ惑うおっさん。窓から飛んで逃げるモヨタ。 ナユタは彼を追って飛び立ち飛行しながらロケランを乱射してくる。 「マコニャンペロペロ! ペロペロォン!」 「や、やめろ! やめてくれ!」 必死に避けるナユタ。そのたびにビル街が次々と爆発し、人々は悲鳴をあげ、道路は玉突き事故を起こしていく。 「マコニャンペロペロ!」 このままでは町が大変なことになってしまう。 モヨタは意を決してクイックターン。ナユタへのギガントパンチを叩き込んだ。 建設中のビルへと突っ込み、鉄骨に何度もぶつかりながら五階の床へと転がる二人。ロケランはその弾みでビルの下へと転がり落ちていった。 「マコニャンペロペロ! ペロペロ!」 「なんだ……様子がおかしい。さっきからマコニャンペロペロしか言わないぞ」 「ペロペロォ!」 直接攻撃に出るナユタ。 モヨタはどこからともなく飛んできた剣を握ると、ナユタめがけて叩き込んだ。 「くらえ、ギガントアタック!」 「ペロペロォォォォ!」 バキンと割れる仮面。 そして中から現われたのは……なんと弟のナユタだった! ――途端、彼らの足下に赤いスリケンが突き刺さる。 若干時を遡って。 「まこにゃんぺろぺろ! ぺろぺろおおおおん! ぺろぺろぺろおおおおおん!」 「それじゃあ一緒に歌ってね! まーこにゃん!」 「「ぺーろぺろ!」」 「まーこにゃん!」 「「ぺろっぺろおぉ!」」 ドレスを着込んだ真独楽がマイク片手にふりふり踊っていた。 竜一と杏は光る棒を一心不乱に振り回しながらコールを叫んでいた。 周囲ではカフェにいたおっさんたちも一緒になって棒を振り回し、情熱の炎を燃やしていた。 急に杏の回想シーンに飛ぶ。 宇宙船の中で地球の動画を見つけた杏。 その動画とはギガントモヨタを一般人が撮影した映像を編集したものである。 だが何でか知らんけど映っているのはまこにゃんばっかりで、小ぶりながらも形のいいお尻やなだらかで健康的なお腹や首筋からおへそにかけての芸術的なライン、そしてなにより上手に焼けた薄褐色の肌色がいい感じに映り込んでいて、気がついたら杏も一緒に『MAKO-NYAN prpr』のコメントを連投していた。 「私は気づいたわ。この宇宙の宝。いえこの世界の宝はこの子に違いない。この子にケーキ食べさせてパフェ食べさせて毎日暖かい部屋でまこまこにゃんにゃんするのよ! そう決めたのよ!」 「で、でも……」 真独楽はマイクを両手で掴んだまま、きゅっと目を瞑った。 「まこはみんなのものだから……ごめんなさいっ」 「みんなの? 特定の個人は?」 「それは、そのぉ……」 くねくねする真独楽。 「この人?」 動画の端っこに映っているモヨタを指さす杏。 余計にくねくねする真独楽。 「えー、ちがうしぃ」 「それ違うくないやつじゃん!」 杏は血の涙を流して光る棒を握りつぶした。 「ええい殺せぇ! あのギガントナントカを殺してしまえ!」 「えっでも今ライブの途中だし」 ハチマキとハッピをつけてダイナミックにオタ芸を披露していた竜一は、はたと動きを止めた。 「いいから行けコラァ!」 「あうん!」 蹴り飛ばされ、窓から外へ飛び出す竜一。 竜一はフッと不敵に笑うと、一瞬で全身を赤い装束に包み、顔に『竜』『一』と刻まれたメンポをはめ、グライダーを使って飛び始めた。 彼の向かった先は……そう、ナユタとモヨタが戦っている建設中ビル。 凄まじい速度で突っ込みつつ、竜一は謎の液体の入った赤いスリケンを発射した。 ――そして時系列はつながった。 足下に刺さったスリケンは凄まじい爆発を起こし、ナユタとモヨタを一斉に吹き飛ばす。 「俺は戦うのが好きじゃねえ。圧倒的に勝つのが好きなんだよ。だから、一挙両得させてもらうぜぇ!」 「くっ、新手か……」 「マコニャ……いたた、オレは一体何を」 「ナユタ! 正気に戻ったんだね!」 「も、モヨタ……」 ナユタは顔を曇らせた。 「確かに操られてた。でもそれは今だけだ。怪盗として暴れ回ってたのは、オレの意志なんだ。リア充なにーちゃんが羨ましくて……憎くて……!」 「いいんだナユタ」 モヨタは立ち上がり、倒れたナユタに手をさしのべた。 「嫉妬も僻みもエネルギー! おいらはそれを、受け入れるぜ!」 「にーちゃん……まったく」 ナユタは苦笑して、彼の手を取った。 その瞬間、二人は不思議な光に包まれた! 「ぐっ、なんだ!?」 いざトドメをさそうと思っていた竜一は思わず目を覆った。 光の中から現われたのは背中に翼を生やしたモヨタ……いや、モヨタとナユタが融合した姿。グレートモヨナユである! 「馬鹿な、完成していたというのか――ぐあああ!」 モヨナユのパンチによって吹き飛ばされる竜一。 身体を起こすと、手を翳して叫んだ。 「アイアムユアファーザー!」 「「なんだって!?」」 「オレは生き別れたパパなんだ! 神秘の力によって自我を失い、組織に利用されるミュータントとなっていたんだ。そういうシリアスなやつなんだ!」 「「そ、そんな……」」 モヨナユの脳裏にパパの姿が浮かんだ。 モヨタがこれがいいと言うのにしつこくギャンのプラモを進めてくる父。 ナユタがこれ嫌いというのにやたらセガゲーを進めてくる父。 サイズ違いでピッチピチになったソニT一丁でボディビルポーズをとってリアクションを求める父。 ごっこ遊びで泣きながら俺にヒーロー役をやらせろを叫ぶ父。 ミニスカ美少女フィギュアを下から覗き込む父。 アニメのパンチラ寸前シーンになると下から覗き込もうとする父。 「「……って、全然違う人じゃん!」」 「しまったバレた!」 「「くらえグレートモヨナユフィニッシュ!」」 「サヨナラ!」 凄まじいモヨナユの斬撃を受けた竜一はしめやかに爆発四散。 ハイクを読む暇すら与えられなかった。 そこへ――巨大なドラゴンが現われた! 『竜一を倒したくらいでいい気になってんじゃないわよ! あなたは地球侵略とまこにゃんを娶る邪魔になる。ここで消えなさい、グレートモヨナユ!』 「「おまえは……うわあ!?」」 ドラゴンのはき出す炎に悲鳴をあげるモヨナユ! 一方、そのころ。 不安におびえる真独楽はひとり窓の外を見つめていた。 今頃モヨタたちは危ない目にあっている。自分に何も出来ないなんて。 せめてあの場に駆けつけることさえできれば……。 頬を涙が流れ、滴が膝へ落ちる。 その途端後ろの壁が破壊された。 慌てて振り向くと、そこにはローブに身を包んだクモクリーチャーの姿が。 「あ、あなたは……来てくれたんだね」 「……」 クモクリーチャーことまおはバツが悪そうに目をそらした。 「持て余す力をもった哀れな者たち。あなたごときが、その運命を変えられますか?」 「……」 今度は真独楽が目をそらす番だった。 背を向けるまお。 彼女は目を瞑り、真独楽が元気に飛び跳ねる光景を思い出していた。 落ちた本を拾ってくれた真独楽。 飛び出した子犬を助ける真独楽。 公園のベンチでぽつんとランチを食べる自分に声をかけてくれた真独楽。 まおは目を開き、小声で言った。 「出来ることはあるはず。必要なのは……勇気だけ」 真独楽は顔を上げ、頷いた。 ● 杏ドラゴンはロスのビル街を派手に破壊して回っていた。 抵抗するも、あまりのパワーにはねのけられてしまうモヨナユ。 「「このままじゃみんなが……でも、どうすれば!」」 悔しげに拳を握る。 と、そこへ。 ビルとビルの間をターザンのように移動してまおが現われた。背中にくっつくようにして真独楽もだ。 「「まこ、無事だったのか!? それにそいつはあの時のクリーチャー……」」 「大丈夫、友達だよ!」 真独楽の呼びかけに、まおはちょっとだけ目をそらした。 「時間を稼ぎます」 まおは杏ドラゴンの首に糸を巻き付けると、無理矢理にその動きを止めた。 とはいえ数秒。 伸びてきた首に掴み上げられ、乱暴に振り回された後に壁へと叩き付けられてしまった。 力なく落ちていくまお。 「まおぉー!」 「「あぶない!」」 落ちそうになる真独楽をキャッチするモヨナユ。 彼らは頷きあい、そして杏ドラゴンをにらんだ。 「こんな形じゃなければ、いい友達になれてたよ。アン・ズー」 「「くらえ、グレートモヨナユマコフィニッシュ!」」 モヨナユと真独楽。それぞれの力を合わせた巨大な剣が杏ドラゴンを真っ二つに切り裂いた。 激しい爆発と共に消滅する杏。 モヨナユはその光景を、静かに見つめていた。 ● カラテ大会の会場。元気に応援する真独楽。 試合はナユタとモヨタの決勝戦だ。 強烈な拳を繰り出すモヨタに、ナユタは対抗するような強烈な拳を繰り出した。 相殺するいくつもの打撃。 息を呑む観客。 そして最後には、ギリギリの一発を叩き込んだナユタの拳が、モヨタを場外まで吹き飛ばした。 ヘッドギアを外すモヨタ。 ナユタは歩み寄り、苦笑しながら手をさしのべた。 その手を取るモヨタ。 飛び跳ねてフィールド内へ駆け寄る真独楽の視界、その端っこに、ローブの少女が見えた気がした。 ロスの瓦礫をかたづけるおっさんたち。 そんな彼らのそばで、ぼこんと赤装束の手が飛び出した。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|