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<Baroque Night Eclipse>歪夜ヒュムヌス・陽

●先触れ ―Case D―

 そういう余裕や正義感から来る講釈に
 どれだけ自分の弱さを憎んで惨めに思うか分かりますか!
 正義の味方め。

                            ――――『The Ghoul』斑雲 黒桂(つづら)


 三ツ池公園の空に、赤い月が浮かんでいる。
 ぬらぬらと墨液の様な闇があたりを覆い尽くし、殺気立つような光をひときわ濃くして、崩界の夜を演出していた。
 この赤い月を上の池が映している。水月の中央で、ぱしゃん――と一匹の魚が跳ねて、ここから波紋がひろがっていく。
 魚は水面下では悠々と泳ぎ、そしらぬ顔で泳ぎ疲れたかかの様に水底で動かなくなった。誰も気にもとめない存在である。誰もそしらず気にもとめない事であった。
 何の変哲もない営みから、たちまちロストコードの侵食が始まった。
 異変が起こる。
 沈んだ魚が、ぱくぱくと口を動かす。
 やがて魚の口は開いたままになる。それでも、まだ広げようととする。可動部の限界を越えて開かれる。
 そのうち口から中身がひっくり返る。内臓をげろりと吐き出して、裏返したぬいぐるみの様な恰好となった。
 吐き出したはらわた。ハラワタが蠢く。粘土のようにこね回されて、次には一回り大きい魚の形になる。
 魚の形が、またハラワタを吐く。繰り返される。少しずつ大きくなる。少しずつ変わっていく。
 魚が吐き出したものが両生類――牛一頭ほどのガマの形になるまでに、5分ほどか。
 池の水は、すこしずつ粘度を帯びて、そのガマと同化するようにせり上がっていく。
 無数の魚の中から出て来たガマも、ハラワタを吐いた。
 吐いたハラワタがまたガマになる。先の魚のように、また形が変わっていく。ガマの次はトカゲになる。
 ついには枝のように翼が生えていく。鱗が羽毛となっている。羽毛もやがては細くなり、ただの毛となる。
 様々な生き物が蛇のように連なり、とぐろをまいて、行き場を失うと、こんどは樹木のように縦に伸びていく。
 空中で先端が2つに割れて、なおも伸びていく。
 ミミズのようなうねり、先端から出て来たものは、巨大な人の顔の如きものであった。
 粘液を滴らせながら。閉じた目のまま。唇が動く。

 "And now we will make human beings; they will be like us and resemble us. They will have power over the fish, the birds, and all animals, domestic and wild, large and small."

 巨面は歌をうたう。
 女の歌声から入り、次には片割れの男声が、裏の音をとった。


●Dの呼び水 ―The Tower―
「どうも、清いリベリスタ100%果汁の朱鷺子コールドマンです。濃縮還元」
 ブリーフィングルームに入ると、『変則教理』朱鷺子・コールドマン(nBNE000275)が愉快に出迎えた。
「三ツ池公園の件です。何かディーテリヒが討たれたみたいです。アシュレイさんに」
 ブリーフィングルームが静まり返る。
 確かにアシュレイと盟主は行動を共にしていたが、果たして、闇討ち影討ち騙し討ち通じる相手か。試みた瞬間に彼――盟主に従う戦乙女の刃が光るのだと容易に想像できる。何が起こっているのか。
「まあ、盟主はさておき、欧州に行っていたリベリスタ達の報告によりますと、アシュレイさんの目的は世界の破滅だという事が分かりました。『魔王の座』と呼ばれる召喚儀式によって、ぶっこわしちゃうそうです」
 フィクサードという存在は、己の為に、崩界につながるような事をする存在と定義されている。しかし、全世界を滅ぼす。木っ端微塵に。無かったことにする、とは。何ともスケールが見えない。
 これまでアシュレイは、バロックナイツの持つ神器級アーティファクトを蒐集していたが、全てこれが目的だったと怪しまれる。
 ウィルモフ・ペリーシュの魔力抽出技術を得たことで、儀式を成就させる準備を終えたらしい。
 一部――モリアーティの破界器がアシュレイに渡る事は阻まれたが、足りなかった分は盟主から得たと目される。
「その『魔王の座』から、何が呼び出されるんだ?」
「『Case-D』――と名づけました。やばいっす。マジ。物理的な破壊だけじゃなくて、概念も吹っ飛ばすレベル。『R-Type』もびっくり」
 アシュレイの目的――全世界の破滅をもたらす――を叶える存在が呼び出される。それは『R-Type』を超えるという話であった。
 リベリスタの一人が問う。
「敵を倒して、血路を開いて、要はアシュレイをぶん殴って止めれば良いんだな?」
「イエス! 話が早い! ただ、その血路が大変です」
 朱鷺子が端末を操作する。
「さて、お集まりいただいた皆さんに感謝の意を。ここから本題です。アシュレイの前に、エリューション『Dの先触れ』を排除します」
 たちまち、スクリーンには樹木の如きナニカが映し出された。
 表面は、細かくささくれているが、よくよく見れば、その一枚一枚が生物の頭をしている。下は魚類。上にいくにつれて、両生類の如き緑の皮が見えたり、爬虫類の様な鱗のようなものが見える。また、枝のように鳥の翼が歪つに生えている。
 もう少し上では、幹が二股に分かれていて、Yの字に右に大きく伸びる。
 先には、頭髪のない人面――男の顔がある。
 二股に分かれた左側も同様だが、こちらは女の顔とみられる。
 根本から頂まで全高30mはあるか。
「どこからどういう経緯で来たのか、さっぱりなエリューションです。フォーチュナ曰く、いきなりポンと出て来たイメージらしいですね。予知レベルで、『Case-D』と同質の何かを感じたも言っていたので、便宜上『Dの先触れ』という識別名にしました」
 もう一度みると、通常のエリューションとはどこやら違う異様さを漂わせている。またそれ以上に、超常なる気配を発している。
 巨大な顔は歌をうたっている。
 ひたぶるに歌っているだけにみえる。
 しかし、池の中央に生えたそれは、世界を侵食しているかのように、池の水を黒いタール状のものに変えている。池が固形物のようだ。
「二股に分かれた先端の顔を、両方倒せば消滅します。それまでは無限に再生します。かなり大変です。なので、別の部屋で、もう一つの顔を排除する作戦が立てられています。この部屋の担当は『男面』です」
 『男面』『女面』に8人ずつ。
 計16人で行う作戦だ。かなりの難敵と目される。
「こちら側の近くには、『The Ghoul』斑雲 黒桂(つづら)というフィクサードがいます。六道、黄泉ヶ辻、剣林の界隈をうろついていた子ですね。度々と敵対しては、泣きながら逃げ帰ってますね」
「敵なのか?」
「一体、誰があの子に『世界が滅ぶヤベエ』ってリークしたんすかね? 到着時点で『Dの先触れ』と交戦してるはず」
 タンバリンを叩き、へいへいと煽ってくる朱鷺子の言葉を信じるならば、ひとまず、邪魔にはならないらしい。
「ちょっと普通に私だと全然力たりないっぽいんで、『魔王の座』の影響で出現する公園周囲のエリューションを掃討してまっさー」
 飄然としている朱鷺子であるが、見ればタンバリンを強く握っている。
「本命はアシュレイさんです。くれっぐれも! 無茶しないでくださいね。約束です」


●友軍? ―600 Words of Nexus―
 盲目の少女が一人、異形の木へと歩みを進める。
 外見は髪から肌まで白一色である。右腕に大きな甲冑を纏い。左腕は球体関節人形のようである。
「仇をとるとか。もう意地もどうでもよくって――」
 周囲にはヴァチカン他、援軍と見られる死体が転がっている。
「いつかアークのリベリスタを負かして、泣かせる事――そのために! おまえは! 邪魔だ!」
 『Dの先触れ』が放った触手を、甲冑から出した12基のチェーンソーで斬り捨てる。地面から這い出たイソギンチャクの如き穴を戦鎚で潰す。
 およそ単体ながら好調といえるだろう。しかし。
 一息の間に、フィクサードの右腕がねじ切られた。
 たちまち力が雲散する。
 見れば、いつの間に出たのか、血管が網目のように走った黒い球が地面に半分、沈んでいた。
「前を見続ける事ができる人が――」
 黒い球から発せられる、強烈な引力を知覚したが、目を正面に戻す。
「――本当に強いって云える人だから!」
 強く戦鎚を握るも、すぐ目の前には『先触れ』が迫っていた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年03月31日(火)22:25
 Celloskiiです。
 この依頼は『<Baroque Night Eclipse>歪夜ヒュムヌス・陰』と同じ時間に起きています。両依頼に入られたキャラクターは、本依頼では描写が極端に少なくなります(白紙扱いではありません)。

 アシュレイ戦は、別途、多人数参加型シナリオが予定されています。

 『特殊なルール』があります。場合によっては有効に働きます。


●状況
 ・赤い月の夜、バロックナイトです
 ・場所は三ツ池公園の上の池。
 ・池の水は既に『Dの先触れ』と同化して、固形化しています。広さは30mで障害物無し。
 ・『恐山』と『梁山泊』の友軍がいます
 ・最速でフィクサードを庇えるかもしれませんが、シビアです。


●特殊なルール
 男面側と女面側が入り交じる戦いになります。
 よって、『1回まで』任意のタイミングで【<Baroque Night Eclipse>歪夜ヒュムヌス・陰】の参加者から手を借りることができます。
 逆に、先方からも要請があるかもしれませんが、要請された場合のプレイングを割く必要はありません。ペナルティや消費もありません。
 プレイングに二つ以上確認した場合、その中からランダムで選択します。
 要請する際、無線など通信手段があるとスムーズです。要請失敗の判定有ります。

  書式
  要請する相手のID,条件、要請する行動(スキル名など)

  例文
 nBNE000024,異常回復役が全員行動不能になった時、ブレイクフィアー要請

 多少の文字省略などは頑張って拾います。
 スキルを要請する場合、先方が活性化している必要があります。
 無い場合は無難な行動になりますが、プレイング文字を割いた分は考慮します


●成功条件
 『Dの先触れ』の撃破


●エネミーデータ
『Dの先触れ・男面』
 根本から全高30mほど。根本は上の池の中。肉で出来た樹木のような形です。
 半ばほどで二股に分かれて、分かれた先端にそれぞれ男の顔と、女の顔が顔を出しています。
 本依頼では、男面を相手にします。
 A:
  ・アイアズマ       神遠2特殊 範囲の任意の位置に後述『侵食物』を召喚します
  ・フィーラメルグ     神遠2複 [ブレイク] [失血] ダメージ大
  ・なぎ払う        物近範 [ノックバック] ダメージ大
  ・グローリーヒュムヌス(EX)   ????

 P:
  ・巨体            バッドステータスは10種類以上から効果を発揮します
  ・世界のデフラグ
   HP/EP自動回復・大。

  ・生命の実
   『Dの先触れ・女面』(<Baroque Night Eclipse>歪夜ヒュムヌス・陰に登場)の
   HPを0にしない限り滅びません。


『侵食物』
 『Dの先触れ・男面』が形成する黒い球体です。
 1T溜。10m以内のものを、強烈な引力で引き寄せます。ダメージ大
 体力高め。

 三ツ池公園を中心に崩界が極まっているため、『Dの先触れ』以外のエリューションが乱入して来る可能性があります。


●友軍
到着時の状況です。
過去の登場シナリオを知らなくとも一切合切問題ありません!
アークのリベリスタのこれまでの行動の結果、ここに来ています。

『The Ghoul』斑雲 黒桂(つづら)
 アンノウンのアンノウン。フィクサード。19歳
・インヤンマスターRANK3までのスキル
・フェイタリティアーク(EX)      不吉/不運/凶運 神秘攻撃技

-:
  ステルラフェイタル     1戦闘1回だけ、活性化スキルを幻想纏いのように組み替えます。

 右腕がねじ切られて、アーティファクト由来の自付与(変態兵器は)使用不可です。
 スキル含めてかなり融通がききます。要請には可能な限りそのように動きます


●Danger!
 当シナリオにはフェイト残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 予め御了承の上、シナリオに御参加下さるようにお願いします。

●重要な備考
 <Baroque Night Eclipse>の冠を持つシナリオの成功数は、同決戦シナリオの成功率を引き上げます。
 失敗は成功率を引き下げませんが、成功する事で決戦シナリオの実質難易度が低下します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハイジーニアスインヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
アークエンジェダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
ハイジーニアスナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
アウトサイドデュランダル
蜂須賀 臣(BNE005030)

●蓄積 ―Dead end―
 鬼魅の悪い空間が広がっているようだった。
 池は漆黒となりはてて、木のようなものが中央に生えている。

 向こう側――女面側で、爆発が生じた。
 音を聞いた男面が、そちらの方を向くと。
「チェェスト!!」
 この向いた瞬息の間に、『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)が踏み込んで、最初の侵蝕物に一刀下した。
 浅い、否。柔軟か。一撃では壊れない。
「たかが前触れでこの様相か」
 成る程と胸裏で呟く。
「顕現するだけで世界が消滅するというのは伊達ではないようだな」
「せーふ!」
 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が、旋棍を交差させて鞭を阻む。
 臣から三尺ほど横にへだてた地点。夏栖斗の背後にはつづらだ。
「御厨 夏栖斗……?」
「どーも、ごきげんうるわしゅう。月が綺麗だね、ってだめだ。これじゃラブコールじゃん! 浮気ダメ絶対!」
 夏栖斗を打った鞭の如きものを、黒い影が切断する。
「また珍しいとこで会うものねぇ、つづら。相変わらず元気そうで何よりだわ」
 『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は他からも伸びてくる触手を低空飛行で引きつける。
 次に、踵を返すように根こそぎ斬り捨てる。
「何故――」
「はいはい、積もる話もこの前殴り損ねたこともとりあえずは後回しね。まずはこの邪魔な巨木もどきを先にぶっ倒すとしますか」
 ここで後ろから、銃の声が響く。
 フランシスカを狙って伸びた触手が爆ぜる。侵蝕物にも弾痕を刻む。
「三界狂人不知狂 四生盲者不識盲 生生生生暗生始 死死死死冥死終」
 『足らずの』晦 烏(BNE002858)である。硝煙をくゆらせ、紫煙を吐く。
「斑雲君、ちっとは良い顔になったんじゃないか?」
「――空海ですか?」
「流石、巡君の弟子。――ちょいと、おじさんは恐山側に話しできないかどうか試してくるな」
 烏は幻想纏いを起動させる。同時に翼の加護を用いた。
「なあんだ、つづらちゃん殺し損ねてたかあ。良かった生きてて、なんでかほっとしちゃった」
 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の眼帯に覆われたがらんどうの隻眼と、閉じられた両目が交差する。
「――ってそんな場合じゃない! 今はフィクサードより別の目的がここにある」
 魅零は手をひらひらと振り、次に敵を見て駆ける。臣に並び。
「さ、始めよう。血で血を洗う聖戦ってやつを!」
 眦を決するように魅零は敵に構えを作る。
 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は、駆けながら、白蒼色の鋼で空を切る。
「行けっ!」
 切った狭間から大砲の如きものが迸り、侵蝕物に突き刺さる。奥へと吹き飛び、泥水のように散った。
 つづらが、瞼の閉じられた視線を向けてくる。
 無言に対して竜一は。
「俺が力を振るい殺す事で守れる命は、確かにあるだろう。だが、殺す事で誰かを救うなんて考えは傲慢だ」
 イソギンチャクの如き口を叩き潰す。
「だから俺は”あの後”、つづら、お前になら殺されてもいいと思った」
 たちまち、つづらは眉をひそませ強い歯ぎしりを立てた。が
「今回は。今回だけは冷徹な自分の限界を取っ払おう。だから、”救わせろ”。俺に。お前を。世界を。”あの時”のように。それが俺の意思だ。そして、君がどう動こうと構わない。俺の背は、命は、君に任せよう」
 歯ぎしりは、スッと消える。いつもの無表情に戻り、つづらは戦鎚を杖のようにして立つ。
「――色々言いたい事はありますが、いずれ話します」
「……わかった」
 『カインド・オブ・マジック』鳳 黎子(BNE003921)が、「どーも、つづらちゃん」と飄然と影から現れる。
「お久しぶりですよぅ、助けに来ました。っと、ちょっと休んでてくださいねぇ」
「……っ!!?!?」
 何か言わんとして言わざる間に、黎子が人差し指を立てて「ストップ」と、つづらの唇にあてる。
「余裕があるからなどと思わないでくださいよ。私はいつも自分の事でいっぱいいっぱいです! おかげで友達もできません」
 と、語るだけ語って、ピラピラと影へ消える。既に『先触れ』に手が届かんとする距離にまで。
 『此縁性の盾』四条・理央(BNE000319)は、最後方にいた。
 理央は、この面々の中では唯一の回復手である。
 かなり遠方まで飛ぶ大傷痍の術で、最初の回復を放っている。
「前衛デュランダル二人分で、侵蝕物撃破――が目安。先触れだけでこの強さ」
 散らばる死体は決して弱くはない筈だったのだ。更に『Case-D』なる者の予兆というのだから。
「本命が出たら本当に洒落にならないね」
 また、もう1チームとの連携を担っている。幻想纏いの操作により、ターミナルを共有モードにする。
 途端に『あちら側』の通信担当の声がした。

『これまで多くの戦友が逝きました。ここが最後の境界線。もう誰一人喪わせない。リベリスタも、フィクサードも、同じ世界を生きる仲間であります――』

 理央はフッと微笑み、眼鏡を整え。
「うん、勝とう」
 と、力強く応じる。


●破滅を使い、創世をうたうもの ―Angel―
 男面が地を響かせるようなBassで『Ag-asma』と言った。
 硬化した黒い池が、タールの様に変じて、ねっとりとした泡が立つ。『侵蝕物』が浮かび上がる。
 その数は4。
 先んじた者は、かまっている余裕などない。
 魅零と臣は、体表や地面から伸びてくる触手を切り捨てて征く。
「怖くないよ! もし吹き飛ばされても、さ! 臣くんが受け止めてくれるでしょう??」
「受け止める? 何故わざわざそんなことをする必要がある。自分で立ち上げれ」
「あ、ちいちゃいから無理か……」
 臣が眉をぴくりと動かす。
「……なめるなよ。貴様のような細身の女1人を受け止める程度、訳もない!」 
 烏が施した翼の加護によって、直接顔面に叩きに行くのみだ。
「手応えが違う。やりやすい」
 侵蝕物と先触れの体表は、似たような手応えである。異様に柔軟で壊れない。顔面は石膏を思わせる分、やりやすい。
 袈裟懸けにつけた男面の傷からぶくぶくと泡が出る。修復が始まったのだろう。
「and wild, large and small♪ おまかせ!」
 魅零が突き出す一刀は冥(くら)い色の正方形が男面を覆う。覆った次に。
「これで行きますねぇ」
 黎子が5つの煌きを携えて、男面の額を刺し貫く。
 状態異常も発揮される。中でも『致命』の二文字によって、今ぶくぶくと修復せんとする泡が消えていく。
 すかさず、ひゅんと空から黒色が刺し込んだ。
「気持ち悪い面でなにへったくそな歌歌ってんのよ。気持ち悪いことこの上ないわ。とっとと黙りなさいな」
 フランシスカが空中で、縦回転を一つ。
 全力の黒き剣で打ち据える。
 たちまち数々の状態異常が活性化する。自然回復などさせやしない。
 臣たちからやや後方に隔てた地点で烏、夏栖斗、竜一、つづら、更に後方に理央である。
 つづらが、理央から回復を受けて本調子に戻る。
「回復ありがとうございます。加勢します」
 夏栖斗は現れた4つの侵蝕物のうちの一つを氷結させながら応答する。
「うん、助かる。世界の破滅を一緒に止めよう!」
「希望は何かありますか」
「あの『先触れ』に異常与えたり、そこら辺に転がっている侵蝕物含めて範囲攻撃がいいかな!」
 片目だけ開く。W・Pのイニシャルが浮かんだ義眼であった。
「陰陽・極縛陣」
 敵速度の低下と不吉の付与である。
 範囲攻撃重視に『使える術を組み替えた』と見える。
 烏が首を傾げる。 
「斑雲君と戦うと、相当むずかしくなりそうだな」
 言いながら新しいタバコに火をつけ、侵蝕物と先触れの両方に弾丸の雨を浴びせる。
 『幻想纏い』と『万華鏡』の力で、相手に合わせて技を試行錯誤できる我々(アーク)と同等か。
「さて、それはともかく、やっこさん、紡いでるのは創世記の一節よなぁ。歌い進ませると何が起こるやらだ」
 タバコの煙は硝煙と、歪夜の空気に燻り融け合っていく。
「……っ」
 竜一は語らんとして黙す。
 語らんとして語らざる様子に対して、つづらが言う。
「リベリスタになりたかった」
 白子が、地面に手をついて陰陽・極縛陣を広げながら漏らす。
「私はNDの時に居て目を失いました。その時、『安心しろ。俺が、守る』と言ってくれた人がいた。誰かは知りません。リベリスタだったのでしょう」
「……そうか」
「そうなりたかった。けれど、私は誰も守れていない」
 これが根本か。竜一は目をつむる。
 大切な人達を守ると決めて、守れなかった一つの形だと思い至る。次に見開いて、侵蝕物をアルティメットキャノンで吹き飛ばす。

 男面の動きに合わせて、戦場が入り乱れる。
 時々、女面側に近づいたり、離れたり。戦いは進んでいく。
「ふ、雰囲気が世紀末モードで物凄く怖いです」
「素直に神の威光はすげーなと感心しますが……胸糞悪い」
 向こう側のやりとりも耳に入る。
『要請! スケフィントンをください!』
 理央は魅零にコンタクトをとる。
「スケフィントンを要請されているよ。動けるようなら」
「おお! まかされたー! あーーーーーそびまっしょおおおおおイエーーーーーーイ!」
 魅零は応じて、女面にもスケフィントンの娘を叩き込んで帰ってくる。
「けれど、回復が心もとない」
 戦況を見据える理央の目。
 前衛が、一撃で大きく削られる。
 更に敵は大きく開いた口を、硬化した地面につけて、下顎でこそぐ様になぎ払ってくる。臣、魅零、フランシスカ、黎子、が跳ね上げられている。
 それでも彼らは向かっていく。
「――! 新手?」
 理央は小型のエリューションを捕捉する。トンボのような羽根の生えた魚が4。
「影人!」
 予め作っておいた影人へ指示を出す。状況をどれだけ抑え込めるか。攻撃の手を強めるべく、呪印を切る。
「封縛!」
 これにて侵蝕物の一つを固める。
 回復、連携。外敵排除――悪手を打てば崩壊するような状況である。
「真人クン、デウス・エクス・マキナ、お願い」
『わ、わかりました! がんばってみます!』
 謙虚な言葉と裏腹に。降り注ぐ光は大いに傷を癒していく。
「ありがとう。すごく助かったよ」
 敵を焼きつくす最後の一手に届くか果たしては。


●攻撃は最大の防御 ―My Sister―
 歌い続ける異形は繰り返し繰り返し。
 侵蝕物一つは、最高峰のデュランダルが最大火力でもって二人分の目安が立っている。
 根本や皮より、石灰質の顔が弱点と見立てはついて、これも共有されている。
 状態異常に手厚い面々故に、蓄積度合いは凄まじい。
 しかし、問題が一つ存在した。
「凄まじいな」
 地や体表から、鞭の如き触手が伸びてきて、臣の全身を大いに削る。
 敵が更に動いて、下顎で地面ごと削るような攻撃がくる。
 また、前衛が跳ね上げられる。
「ミスった。――敵も協力して然るか」
 烏が呟いた途端、女面側から濁流の如き黒い水が津波のように押し寄せてきて来た。
 男面側のやや放れていた面々をも飲み込む。

 問題とは、回復が足りないの一言に尽きた。
 最大火力で一気に焼ききる他ないのだが、侵蝕物の存在がそれを許さない。
「蜂須賀は、負けん!」
 律儀にもフェイトを赤い月にささげて立ち上がる。魅零を受け止める。苦悶といった表情の臣に対して、魅零は。
「これは絶対感じさせてくれる。感じさせてくれなかったらいやだやだやだエクスタシー」
 という恍惚の貌なので、受け止めた手を放した。
「夏栖斗! 氷が溶けた!」
 女面の黒い濁流攻撃から抜け出た竜一が、すぐに発した声に。
 咄嗟に身を固めた夏栖斗であったが、引き寄せられる。
 侵蝕物の攻撃もかなりのものだ。かろうじて防御を固めて、四肢を失うような傷は避ける。
 押されている。
 近づかんとして、しかし引き寄せられ、大きな被害も来る。
「アム……大丈夫。まだまだこれからよ……こっからが本番ってね! 戦いはまだ終わってない!」
 フランシスカは運命を捧げて立つ。
 『呪い』で蓋をする役目。自分が崩れたらあっさり異常を回復されて――あとは詰むのみなのだ。
「ちょっと、強すぎませんか」
 横で、つづらも音を上げ始めていた。
「しっかり気張りなよつづら。世界が消えたらアーク負かして泣かせるのも出来なくなるんだからさ!」
「空元気ですか?」
「強がっていれば何とかなる!」
「……」
「――さて、異界の戦友(とも)達に恥じぬ戦いを! 黒き風車、参る!」
 フランシスカが翔ける。
 夏栖斗も、侵食物の引力を振りきってくる。
「つづらちゃん、僕――いや、みんな余裕なんか全然ないんだぜ? ないから出来る精一杯をやって、余裕ぶってるだけだ。そのほうがかっこいいじゃん」
 夏栖斗はニッと笑って、侵食物を氷結させる。続き、男面の横ツラへ。
 乱打から、即時に氷結が始まるが、男面は動く。
 敵のなぎ払いで、跳ね飛ばされてきた黎子が言う。
「こっちの都合ですがね、今度会ったらあなたを守ると決めていたのです」
「何故……?」
「前につづらさんが言っていた『貴女に……何が!』の答えに近い所でしょうかねぇ」
 口角に血が伝う。これを拭って得物を握ると。
 フィクサードは戦鎚を握り直す。
「全力で叩き込める時間を作ります。一回きりです」
「そうですか」
 黎子は微笑みながら、ぴらりと影に溶けた。
 魅零が創造する冥きものが、再び男面を覆った。
「崩壊の因子を吸い込んでここまで大きくなった悪の種。啄んで今日で終わらせよう? この、馬鹿げた惨劇の夜を」
 な に が な ん で も スケフィントンを入れる。
 その覚悟を折りはしない。飄然と――残酷に閉じる牢獄に男面は悲鳴をあげる。
「世界の消滅黙って見てられるほど馬鹿でもないわよ!」
 フランシスカの巨剣に宿る奈落の息吹が、更に積まれる。
「見知らぬリベリスタ、姉さん――巡様、如月博士、この際W00も! 力を! 貸せ!」
 つづらの秘術である。鬼魅の悪い空気の刃が奔り、男面に不吉不運凶運が乗る。
 夏栖斗の氷。魅零の箱の麻痺もあって、ここに拘束が発動する。
 理央の援護射撃が、侵食物を溶かす。前衛が引っ張られて仕損じる心配もない。
「攻め時、だね」
 撃ち漏らした魚が、理央に食らいつかんとする。届く寸前に突然果てる。
 見れば、恐山と梁山泊のリベリスタの混成が5人立っていた。烏の要請によるものだ。
「安息日に至っておやすみしますとは行かず、ろくでもない結果になるのは間違い無さそうだが――揃っているんだもんなぁ」
 烏がタバコを携帯灰皿にねじ込み。恐山と梁山泊に「どうも」と手を振って、立ち膝姿勢をとる。
「勝ったな。そうだろう、大先生?」
 放った弾丸がスローモーションの様に。男面の口中に吸い込まれいてく。歌が止まる。
 黎子が、男面の上へ着地して、ひらりと身を宙に踊らせる。
 男面を眼前に据えて。
「もう私は救える命から目を背けはしない!」
 妹を見殺しにしたと苛み続けた自分がいる。姉を見殺しにしたと苛む者がいる。
「だから、絶対負けない!」
 ――朱子! と胸裏を奮い立てながら放つルージュエノアール。
 悪運を伴い、更に一撃。連続で何度も。男面を切り砕き、男面の筋繊維をむき出しにした所で離脱する。
 離脱した所へ、フランシスカが刃を突き立てた。
 ぶよりとした感触が得物を伝う。
「行け!」
 突き刺した所で、握りをあらためて一気に下す。顔面は真っ二つに割かれる。
 臣が縦に振りかぶる。
「この世界から消え去れ、魔王の波紋!!」
「力を、貸せって言われたら。もう全力しかないなぁ!」
 竜一は、つづらが言った『見知らぬリベリスタも』部分に口を綻ばせる。大きく横に溜めをつくり、大きく奥歯を噛む。
「俺の右腕。ぶっ壊れてもいい! 限界を超えろ! 救う為にだ!」
 夏栖斗は右拳を大きく引く。
「世界を終わらせるなんて、絶対にさせない!」
 2つの刃が交差する。
 十文字のど真ん中に真っ直ぐな拳が刺さった。


●最終戦 ―to be continued―
 理央は、戦況報告を済ませていた。
「敵、維持限界突破――ボク達の勝ちだね」
 巨体がずんと倒れる。
 状態異常を維持し、敵の回復を遮り続け、程なく『あちら側』が終わったのだ。
「斑雲 黒桂。世界を護るために戦うなら今は見逃そう」
 臣は、木陰で小休止をしていたフィクサードに剣の切っ先を向ける。
「だが覚えておけ。如何な理由があろうと、無辜の人々に手出しをするなら、蜂須賀は容赦しない」
 それが仲間の為だろうと、何であろうと――蜂須賀の正義である。
「同類の匂いがしますねぇ」
 黎子が横から言う。
「な!?」
「そうでしょうか?」
 黎子は「さて?」と言って濁す。誰と誰がの部分を明確にしていない。
「つづらちゃーん! 手伝ってくれて、ありがとね! さあさあ、もうひと踏ん張り」
 と、魅零がぐいぐいとフィクサードの腕をつかみあげた。
 竜一は何を言うか窮していた。そのフィクサードが歩いてくる。そのすれ違いざまに。
「お墓――はないですが、せめて少し三高平に行きます。その時に――」
 と、ボソっと呟いた。
「あとは魔女か」
 烏が遠くを見て煙を吐いた。夏栖斗が頷く。
「700年の努力がたどり着いた先が――全部巻き込んでなかったことにする事」
 怖い、とだけ言った。
「よし、行こうか! 道は切り開くよ」
 フランシスカがひらりと舞い、黒い剣を担ぎなおす。
 全員の視線は閉じない穴の方へと向いていた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Celloskiiです。
 成功です。陰側とは趣向が大分異なった戦いでした。
 こちらは、超火力で焼きつくす戦いと申しましょうか。
 残る最後の戦い、皆様の無事をお祈りしております。

 お疲れ様でした。