● 「よし良いか、そっち持てよ?」 「あぁ、じゃあ行くぞ……!」 月明かりだけを頼りに、トラックの荷台から冷蔵庫を下ろす2人の男。 今、彼等のいる場所が山奥である事を考えれば、その冷蔵庫がこれから棄てられるだろう事は容易に想像できる。 事実、彼等の眼下には棄てられた家電が小さな山を築くほどに積み上げられていた。 「せー……の!」 そして2人の手を離れた冷蔵庫は小さな草木をなぎ倒し、ゴミの山へと突っ込んでいく。 1つの仕事を終えた男達が荷台に視線を移すと、そこにはまだ洗濯機や電子レンジといった処分に金のかかる家電がいくつか載せられている。 「やれやれ……ゴミを棄てるのにも金がかかるってのも、難儀な世の中だな」 とりあえず一息いれようと、男の1人が胸ポケットから取り出したタバコに火をつけ、言った。 空気に混じる煙が尽きてしまえば、彼等は再び荷台のゴミを投げ捨てていくのだろう。 そんな簡単な仕事のはず――だった。 ゴトン……! 転げ落ちた粗大ゴミの山が崩れたのだろうか。 静かな山奥に響く、不気味な音が男達の耳へと届く。 「おい、そろそろ続きをやろうぜ?」 「――だな」 吸っていたタバコを地面に落とし、足で踏みつけた男がその言葉に頷き、荷台へと登る。 しかし彼等が荷台のゴミを棄てる事はもう無い。 その背後には、動くはずの無い家電が彼等の背後に迫り、怒りの刃を突きたてようとしていたのだから――。 ● 「……逆襲の家電」 山奥に無惨に棄てられた家電が、怒りという意思を持って人間に鉄槌を下す。 そう考えれば、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)が『逆襲』という言葉を使うのは当然とも言えよう。 「動く冷蔵庫、洗濯機……単純な攻撃が多いけど、フェーズ2だからその分強い。家電戦士と言っても良い」 イヴの説明によれば敵はたったの2体。金属で出来た身体を利用したパワー重視の近接攻撃を行うらしい。 フェーズ2ではあるものの、リベリスタ8人がかりならば勝機はあるはずだ。 が、距離を取って攻撃すれば大丈夫というわけでもない。 「ただし……噴出す冷気にだけ気をつけて」 「冷気? 冷蔵庫はともかく……洗濯機が?」 尋ね返したリベリスタの言葉に、イヴはただ頷くのみ。 洗濯機でも放った水流が冷気を帯びているのだから仕方ない。彼女の目は無言でそう語っているようにも見えた。 しかもその水流を受けると、衝撃で動きがしばらく鈍くなってしまう。 戦場となるのは人気のない山奥。 薄暗いため、月明かりだけが頼りとなるだろう。 立つ場所によっては、武器を振りにくくなる可能性もある。 「……そんな、ちょっとだけ厄介な敵」 怒れる家電の恐ろしさは、万華鏡で覗き見ただけでも感じる事は出来たようだ。 「だから、頑張って」 それでも、勝ってほしい。 静かにそう言ったイヴの表情には、そんな想いが浮かんでいた――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月25日(月)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●蠢く家電 ただの物言わぬ家電とは言え、エリューションとなってしまえばもはやそれは家電ではない。 殺気、動く気配――動き始めた家電の明確な悪意は、静かな山の中でもしっかりと感じ取ることが出来る。 「日本にこういうお化けが出てくる話がなかったっけか? なんだったか……」 普通の人が見れば、意思を持って動き始める家電などホラーでしかないだろう。 人の気配を感じて動き始めたのか、暗視を駆使して動き始めた家電を見渡すツァイン・ウォーレス(BNE001520) は、記憶の欠片を探すような仕草を取った。 「付喪神ではないでしょうか? 例えエリューションだろうと悪霊だろうと、座敷童子と付喪神はいると思いますよ。信じています」 「そうか、付喪神か」 そんな彼の隣から、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250) が答と思しき言葉を口にすると、ポンと手を叩いて『あぁそれだ』とツァインは納得した表情を浮かべる。 伝承に伝わる付喪神の話も、もしかしたら目の前で動く家電のようなエリューションが元になっているのかもしれない。 しかし眼前に現れた家電達は、人に危害を加えるだけの邪悪な存在。その凶刃は間も無く彼等リベリスタへと向けられるだろう。 「物に心があるというのなら、私達に牙を向くのはある種当然のこと、と言えるのでしょうね……」 「確かに無惨に捨てられてしまったなら、怨む思いもありましょう。……ですが」 怒りをもって人間に反逆するのも当然だという『銀風』セフィリア・ロスヴァイセ(BNE001535) の言葉に頷きながらも、『生真面目シスター』ルーシア・クリストファ(BNE001540) はそれを否定するかのように2体のゴーレムを見据える。 このまま放っておくわけにはいかない。 その気持ちが、リベリスタ達の戦う理由なのだから。ルーシアの瞳は、そう言っているようにも見えた。 「念のために、結界を張りますね」 「あ、私も張りますっ!」 戦いを前に、周囲を警戒したセフィリアと『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084) の手により張られる結界。 人が来る事はないだろうが、念には念を入れても問題はないだろう。張られた結界が、それまでの山の空気とは違った戦いの空気をリベリスタ達に感じさせる。 「まァ、更に面倒起こす前に廃棄してやンよ」 反逆の家電戦士を、再びスクラップに戻すために。『静寂なる炎』八十神 九十九(BNE001353) がその一言と同時に手を振ったことを合図に、リベリスタ達は行動を開始していくのだった。 ●怒りの反逆家電パンチ! 「変な奴ぁ見慣れてると思ったが……世界が広いぜ」 動き始めた2体の家電戦士を改めて見直すと、『Gentle&Hard』ジョージ・ハガー(BNE000963) はやれやれとため息をつく。 だがそれは見た目のシュールさから出たものであり、決して相手を甘く見て出たため息ではない。 「お前さん方に恨みはねぇ。 が、放っとく訳にもいかねぇ。恨むなら『運命』ってヤツを恨むこった。Mr.フリーザー。お近づきの印にどうだい?」 むしろ放たれた弾丸は、彼が柄にもなく張り切っているだろう事が伺える程に鋭い一撃をリフリジレイターへと見舞うほどだ。 その一撃に、鈍い金属音を鳴らしながらリフリジレイターの目……いや目はないが、とにかく視線がジョージへと向いた。 「道を開きます、今の内に前進してくださいまし!」 ならばその目を後衛に向かせてしまえと、ルーシアのマジックアローもリフリジレイターの金属の身体に穴を開ける。 後衛に敵意が向けば、それだけ前衛が無難に到達しやすいと考えたのだろう。 「信頼、ちゅーのは苦手やが……1人で勝てるほど甘い訳あらへん。……信頼したるわ。今は」 一方で静かに前進して敵への接近を目指す『存在しない月』シーヤ・クラウス(BNE002181) は、その様子に仲間の存在の大きさを感じた様子だった。 (敵は強大、ならこういう援護が大切ちゅーことやな……) そうシーヤが考える最中にも、後方から七海の放ったスターライトシュートが彼の眼前でリフリジレイターを貫いていく。 相手は2体とは言え、単体での戦闘力は明らかに彼等リベリスタよりも上――ならば勝機はどこまで上手く連携できるかにかかっていると言っても過言ではない。 「九十九さん、行きましょうっ」 「あぁ待て、別れる前に……」 そしてリフリジレイターへの接近を目指すななせが九十九へと声をかけると同時に、入ったのはカインの制止だ。 「ん? なンだよ」 「気休めかもしれないがな」 施されたオートキュアーに軽く礼を告げたところで自身もシャドーサーヴァントの影を伸ばすと、目標のリフリジレイターを見据え構える九十九。 攻撃を仕掛けたルーシア達目掛けて前へ進むリフリジレイターには、彼等の姿はまだ見えていない。 「後は一気に倒してしまうだけ……ですね」 その様子に冷静に情況を判別したセフィリアがそう呟いた時、ウォッシャーマンの水流にジョージの体が洗濯されていく様子が目に映る。 傍目に見ても激しさを感じさせる水流は、その威力の高さを物語っているようにも見えた。 「ちっ、スーツが汚れちまったが……問題ねぇ、このまま行くぞ」 軽く手を振って彼女の視線に応えるジョージだが、その反応に反して受けたダメージは思ったよりも深い。後2発は耐えられるだろうが、次を貰った後で考えようと銃を構えなおし狙いを定め――、 「ならコイツはお返しだ、俺の弾は甘かねえぜ? 五円玉の穴をも通す、名付けて、¥5's(ファイズ)シュート! ……なんつってな」 精密さを誇る1$シュートが、別に攻撃をしていないリフリジレイターへお釣りとして支払われていった。もしもリフリジレイターが喋る事が出来たなら、『俺じゃねぇ!』とでも反論があったかもしれない。 そんな折、彼の身体を安らぎを感じさせる微風が包み込んでいく。その風を放ったのは、祈るような姿勢を持って清らかな存在へと呼びかけたルーシアだ。 頷く少女に無言のまま親指を立てたのは、ジョージなりの感謝の意というところか。例え言葉を交わさなくても、次の行動でその援護に応えるという思いの表れだろう。 「いいタイミングですね。では彼女の分まで」 「ええ、やりましょう。銀風の力、思い知りなさい!」 ならばと彼女の分の攻撃をまかなおうと、頷きあった七海とセフィリアの攻撃が同時にリフリジレイターへと飛ぶ。 着弾時に響き渡った鈍い金属音が、相手にどこまでのダメージを与えているかは定かではない。だが、今は攻め立てる時。 「家電使い捨てには心を痛めますけど……今は!」 このような現実を生み出したのも人間だと考えるななせの放つオーラクラッシュには、『申し訳ない』気持ちも混ざっているようにも見えた。 そう思うからこそ、この反乱は止めなければならない。そんな想いと共に放たれる一撃に、九十九が続く。 「違うな、棄てられたくなきゃ棄てる必要が無いと思わせる程働けってンだ」 働きすぎて壊れた可能性もあるが、こうして動き出した以上はまだ使える可能性だってあるが、とりあえず彼的には壊れた方が悪いと感じているらしい。 (止まったか……?) そして彼のギャロッププレイを受けたリフリジレイターの動きが、不気味に生えた腕を振りかぶったまま、軽くきしむような金属音と共にピタリと止まる。 まともに当たれば麻痺――となれば、動きが止まった事はその現われだろうか。 (いや……違う!) 耳に届いた風切り音に慌てて防御の態勢を取った時には、時既に遅し。その豪腕に身体を激しく揺さぶられ、体が軋む感覚が彼を襲う。 辛うじて斜面を転げ落ちる事無く踏みとどまったが、防げなければ次は耐え切れない。それが嫌でも判るほどに、重たい一撃。 「九十九さんっ!」 「大丈夫かっ?」 隣で戦うななせや、ウォッシャーマンと斬り結ぶツァインの声にも上手く返事を返せないほどに、九十九の傷は深いようだった。 「凄まじい威力やな……せやけど!」 その様子に家電戦士の強さを肌で感じつつも、飛んできたウォッシャーマンの豪腕を済んでのところで避けきって逆に攻撃を叩き込むシーヤ。 当たれば確かに厳しい。だが、当たらなければ――! 少しでも戦線を維持するために、シーヤは攻撃を全て避ける気持ちでブラック・コードを構えなおす。後ろへ軽く視線を向ければ、九十九の傷を癒しにかかるルーシアの姿も見えた。 「癒しの息吹、届いて……!」 「悪ィな……」 まだ、これで戦える。天使の息を受けた九十九は、再び攻撃に転じるべくルーシアからリフリジレイターへと視線を移し……そして同時に、セフィリアや七海の攻撃が彼の眼前の敵を貫いていく。 「それにしても、硬いですね」 「どこかに弱点とかないかな? 裏側は薄そう……」 ソードエアリアルを放ったセフィリアや1$シュートを放った七海の表情に、その堅牢さのせいか浮かぶ焦りの色。 確かにダメージは与えている。見た目はかなりボロボロで、崩れ去ってもおかしくはない。七海の指摘した裏側も同じくボロボロな辺り、弱点はなさそうな気配でもある。 「倒れないのは、それだけ怒っているって事かねぇ」 それでもなお立ち続けるのは、家電を捨てた人間への怒りだと2人に続いたジョージは感じているようだ。 「なら、それ以上の力で廃棄すりゃ良いンだよ」 ジョージの言葉にそう結論付けると、先ほど施されたオートキュアーでさらに僅かに傷を癒した九十九のギャロッププレイが、再びリフリジレイターの動きを止める。 また動きだしはしないか……? わずかな時間だけ流れる、緊張した空気。その予想の通り、やはりリフリジレイターは動いた。最上部の冷凍庫の扉を開くと、溢れた冷気が周囲にいるもの全てを凍らせていく。 「流石に……でも、ここまでですねっ!」 しかしボロボロになったリフリジレイターの反撃は、ここまでだった。ななせのオーラクラッシュが、堅牢な守りを誇る体をついに打ち砕いたのだ! 「よっしゃ! 後はコイツだけや、スクラップにしたるわ」 「そうだな、いくぞ!」 リフリジレイターの冷気に傷を負いつつもようやく1体倒せた現実は、シーヤとツァインの戦意を高めるには十分なファクターとなったらしい。 こうなれば、もはや結果は見えたも同然だった。 「わずかでも援護を……攻撃は最大の防御です!」 これ以上の傷を負わないためには、ルーシアの言うように一気に攻め立てれば良いだけなのだ。 「そうですね、全身全霊を持って!」 後方から援護を続けるセフィリアの攻撃にも、前で戦うツァイン達同様に力が篭る。否、彼女だけではない。 「射手が的を外す訳にはいかないのです、当てていきますよ」 静かに呟いた七海も、その言葉にふっと笑みを浮かべたジョージも全力を尽くした集中攻撃をもって、ウォッシャーマンに襲い掛かる。 そんな激しい火線で攻め立てていく彼等の前方では、水流を警戒した九十九とななせがツァイン達と合流して攻撃の包囲網を作り上げていた。 「もういい加減……止まれや!」 合流した2人の攻撃にあわせたシーヤのギャロッププレイが、動きは止められなくとも勝利を引き寄せる一撃を加えると、飛び交う攻撃を受け続けたウォッシャーマンが、苦し紛れに眼前のツァインを殴りつけるものの――。 「くそ、今度はこっちの番だ! スクラップに戻してやるぜぇ!」 僅かに大地に足をめり込ませながらも防いだツァインのヘビースマッシュに、逆にその金属の身体を砕かれていく。 それは苛烈な戦いに終止符を打つ一撃でもあった。 ●反逆の終わり ギギ、ギィ……! 歯車が止まるかのような音と共に、戦い続けたウォッシャーマンはリベリスタ達の前に崩れ落ちた。 「ふぅ……思いの外、強敵でした……」 セフィリアが手にしたヘビースピアを大地に突きたて、額を流れる汗を拭う。 戦いは双方どちらが勝ってもおかしくない、激しいものだった。家電戦士達の強さは、前で戦っていたシーヤ達の情況を見ればわかる。 誰もがボロボロで、倒れた者がいなかった事が不思議なくらいだ。 それでもリベリスタ達が有利に戦いを進め、勝利を掴む事が出来たのは、見事な連携による結果と言えるかもしれない。 ――否、それだけではないと言えるだろう。 「……お疲れ様でした。家電の怒りは凄まじかったですね……やはり、物は大切にしないといけませんね」 軽く息をつきながら労いの言葉をかけるルーシアの存在は、この戦いにおいてはかなり大きいものだった。 彼女の援護がなければ、傷を癒す手段に乏しかったリベリスタ側は相当の苦戦を強いられていただろう。下手をすれば敗北していた可能性だってある。 「おつかれさんやな、助かったわ」 「全くだ、オートキュアーではカバーしきれなかったからな……」 信頼するのが苦手なシーヤや、オートキュアーを駆使して柔軟に戦ったツァインからかけられる言葉に、少し照れた笑みを浮かべるルーシア。 「ま、この場にいる全員が良くやったと言えるねぇ」 「全くです、上手く連携が取れて良かったですよ」 しかしジョージや七海が言うように、他の7人も全力を尽くしたからこそ、勝利をもぎ取ることが出来たのも事実。 「では皆さんに、お疲れ様ですねっ!」 ななせの屈託のない笑顔と言葉に「あぁ、そうだな」とぶっきらぼうに返す九十九だが、この勝利の余韻に浸る楽しい雰囲気は決して嫌いではないらしい。 山を流れる少し冷たい風は、そんな彼等の勝利を祝福しているかのようにも感じられた。 「ところでコレ、どうすンだ?」 勝利の余韻をあらかた楽しみ終わった後、九十九が指差したのは家電戦士達の残骸や、同じように捨てられた家電の山である。 放っておいても問題はなさそうだが、不法投棄は犯罪であり――もしかしたら、この廃棄された家電の中から再び動くモノが現れるかもしれない。 「いくら捨てるのに金が掛かるからってコレはねぇよな……」 彼の横でその家電の山を見たカインは頭を抱え、捨てた人間に怒りを覚えているようでもあった。 ならば、このまま放置するわけにはいかないだろう。 「警察にでも通報して棄てた奴と一緒に処分させるか?」 「いや、それよりも知り合いの業者にでも連絡してみるかね。『宝の山があるぜ』ってな」 通報を考え携帯電話を取り出した九十九を制し、まずは業者への回収を狙うジョージが電話を手に取った。 もちろん警察にもこの後通報する事で、不法投棄の業者も現行犯で逮捕されるだろう。 「では……帰りましょうっ!」 「そうですね、今日はゆっくり疲れを取りたいです」 時間にすれば数分にも満たない戦い。 傷だらけになったが、得られた勝利はとても大きいモノ。初めての戦いに勢いをつけた彼等は、今後も更なる活躍を続けていく事だろう――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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