●唄う群れる若者 大勢の若者たちがやけに馬鹿騒ぎをしていた。 高田馬場の駅前のロータリーでの光景だった。 地面に集団で倒れていたり、地面に汚いものが撒かれていたり。 明らかに呑んでいる奴が真っ赤な顔をして駅前に倒れていた。 そんないつもの光景だったが、今日は少しいつもと様子がおかしかった。 「ヒャッハー、お前らどいつもこいつも皆馬鹿田、馬鹿になっちまえ!」 ロータリーに突如現れたのは黄泉ヶ辻フィクサード。 集団のリーダーであった榊原翔は部下に指示してアーティファクトを撒き散らす。 一見して学ランを着込んだ榊原は普通の学生のように見えた。だが、その瞬間に異様なものが撒き散らされて一気に現場は混乱の渦の中に陥れられた。 馬鹿騒ぎしていた若者が異変を表示始める。 近くにいた友人同士で肩を組み合いながら何故か彼らの校歌を唄い始める。 「てめえ、なんで唄わねえんだ? さては違う学校だな! やっちまえ」 一緒に唄わない奴を散々に蹴飛ばし殴り倒す。 一瞬にして高田馬場は暴徒の若者の街へと変貌していた。 未来ある若者たちが次々に犠牲になっていく。 「どいつもこいつももっともっと馬鹿になっちまえ! ヒャッハアアアア!!」 榊原は狂気の集団に煽りを入れた。さらに暴徒と化した若者たちは、周辺を歩いていたビジネスマンやOLを襲って行く。阿鼻叫喚の地獄絵図となった。 やがて彼らは徒党を組みながら西北に向かって高らかに嗤い唄いながら歩み始めた。 ●馬鹿の空騒ぎ 「黄泉ヶ辻の連中が何やら馬鹿なことを始めたみたいだから食い止めてきて」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして険しい口調で言った。すぐに状況を説明していく。 七派最悪、国内フィクサード最悪と名高い狂気の一派・黄泉ヶ辻が東京の各所で不穏な動きを見せていた。 黄泉ヶ辻は『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュの依頼でアーティファクトの収集を行っており、ついに京介がペリーシュと契約を結び或るアーティファクトを手に入れた。 アーティファクトはドナスィヤン・アルフォンス・フランソワ・ド・サド――つまり、マルキ・ド・サドという人物が著した『悪徳の栄え』と呼ばれる作品の原典だった。 彼らはこのアーティファクトを東京の各所にばら撒くことを計画したのである。 『悪徳の栄え』は使用者の狂気を他者へと拡散する。 ウィルスのように空気感染させ、一度広まった狂気の種は完全に消え失せる事は無い。人口密集地域に『神秘的パンデミック』が生じれば日本は『黄泉ヶ辻京介の予備軍』に埋め尽くされかねない事態に陥るだろう。 「貴方達は新宿区の高田馬場駅前における榊原一派の暴徒を食い止めてきて。すでに現場には狂気に触れてしまった若者たち一般人が大勢いる。くれぐれもこれ以上、新たな被害が出ないように事態を食い止めてきてほしい。くれぐれも頼んだわよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月22日(日)22:02 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●校歌の宴 阿鼻叫喚の人々の呻き声が木霊している。 高田馬場駅ロータリー一帯は若者たちの暴動が起きていた。 肩を組み合いながら校歌を高らかに唄っている。辺り一帯にわき散らしながら唄わない奴を敵とみなして殴る蹴るの暴行を加えていた。 若者の暴徒に恐れをなしたOLやサラリーマン達が逃げ惑う。 「みんな、もっと馬鹿になっちまえ!!」 お祭り騒ぎだと言わんばかりに黄泉ヶ辻の榊原が若者を煽る。 暴れる若者を抑えることはもうできそうになかった。 まるで酒にひどく酔っているかのようだ。 撒き散らされた狂気に伝染した若者ほど怖いものはない。 次々に暴徒の手によって一般人が地面へと倒されていった。 その時だった。 体格の良いスーツを着た男が若者たちの前に躍り出てきた。 「はい、学生注目! 駅前からは速やかに避難しなさい! 全員、早稲田通りを東に駆け足!」 大きな箱の辺りから現れたのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)だった。片手を前に突き出して鬼の形相で立ちはだかる。 絶対にこれ以上の暴挙はゆるさんとばかりに仁王立ちで立ちふさがる。 「おーい、こっちこっち。此処危ないから、逃げて逃げてー!」 長い髪を振りながら『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が大きな声を掛ける。その場にいた若者たちが一斉に魅零の方へ惹きつけられる。 可愛い顔立ちの魅零に若者たちが色めきたった。 うぉおおおおおおおおおおおお 暴徒と化していた大きなお兄さん達が魅零に連られるように移動し始める。 「躾のなってない若造ども、かかってこいよ。俺が相手してやる」 厳しい目つきで『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が両手を広げてアッパーを放つ。 魅零について行かなかった主に女子学生達が義弘に惹きつけられた。 若い女の子に次々に義弘が囲まれていく。 あまりに圧倒的な女性の匂いに義弘は意識が跳びそうになるが懸命に堪える。女の子にもみくちゃになりながらも義弘は歯を食いしばって耐え続けた。 黄泉ヶ辻のリーダーの榊原は若者たちの異変をかぎ取っていた。 暴徒と化していた若者が早稲田通りの方へと移動し始める。その流れを誘導して自分たちの邪魔を使用しているリベリスタの存在にやっと気がついた。 直ぐさまに暴動の流れの中に身を乗り出して討伐に向かおうとする。 「黄泉ヶ辻か――残る七派でも極め付きに凶悪な輩どもめ。お前らをこの機にせん滅する」 眉間に険しい表情を浮かべた『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)が吐いて捨てた。 あの名高いリベリスタの家系に生まれた臣は恐れを知らなかった。すでに激しい戦いの末に一族の何人ものが犠牲になってきた。臣もまたその血を受け継ぐものである。 妥協や寛容といった言葉は全く持ち合わせていなかった。 敵が黄泉ヶ辻である以上は全力でこの場で叩き潰す。 「誰かと思えば、アークのリベリスタか。それもこんな人数で戦えるのか?」 不敵な笑いを浮かべながら榊原が話しかけてきた。 その表情からは負けるわけがないという余裕さえ感じられた。 リベリスタ側の人数を見て即座に勝てるわけがないと嗤ったのである。 臣が刀を鞘から一気に抜いて戦闘態勢に入ろうとした。 いつまでもその減らず口を叩かせるわけにはいかないと――迫った時だった。 ●ぺろぺろ 「黄泉ヶ辻共、俺が三高平に編入するまでどこの大学にいたか、教えてやろうか?」 臣を制するように前に出たのは快だった。 「高田馬場(ここ)の大学だよ。卒業こそしてないが、俺のもう一つの母校に、随分とふざけた真似をしてくれたな」 快はまるで鬼神のように憤っていた。 大切な後輩を無残な姿に晒されてこれ以上黙っているわけにはいかなかった。 それを聞いた榊原がにやりと笑う。 「――そりゃ都合がいい。俺は三田からやってきたんだ。あいにく、お前たちのことが絶対に好きになれそうにねえ。これをやるからどっかへ消えてくれないか」 懐から一万円を取り出して快を懐柔しようとする。 目の前で札束をびらびらと見せつける。 榊原たちは皆一様に高級な服や腕時計をしていた。 どうやら金持ちのようだった。おまけにルックスも洗練されているときている。 「もっとも――貧乏人にはこれさえもったいないがな、そうだろ冴場君」 互いに君呼びしながらうすら笑いを浮かべる。 快はすぐに一万円を手荒く払いのけてしまった。 お互いに全くかみ合っていなかった。 それもそのはず二人の間には浅からぬ因縁が立ち込めていたのである。 「よくも貴様! 俺たちの先生をのけものにしやがったな。絶対にゆるさねえ!」 榊原もついに堪忍袋の緒が切れた。冴場を命令してすぐに銃撃を開始させる。前から突っ込みながら乱射してくる冴場を何とか魅零と臣が交わして態勢を整える。 「臣くん、臣くん、どっちが多く倒せるか勝負ねー」 魅零が臣と背中を合わせながらさも楽しそうに声を掛けた。 それに対して臣は眉間に皺を寄せて嫌な顔をする。 「臣くん負けたら、ペロペロするから上半身脱ぐ準備しておいてねー☆ ガチです!」 舌をぺろぺろさせながら魅零が臣にしがみ付こうとする。 「な、舐める……?」 思わず顔が引きつった。 元々負ける気など微塵もないが、絶対に負けられない……! 慌てて振りはらった臣は息を切らせながら切羽詰まったように声を落とした。 「遊びではないのですよ。尤も、勝負をしたとしても勝つのは僕ですが――」 負けるわけにはいかない――と臣は心に決めた。 「――『剛刃断魔』、参る」 臣は刀の柄を握り締めると一気に敵陣に切り裂く。 圧倒的な破壊力によって辺り一面が薙ぎ払われる。 吹き荒れた微塵の中へ魅零が跳び込んで暗黒をばら撒いて暴れる。 華麗に髪を振りまいて踊り暴れる魅零に冴場達もペースを奪われて容易に攻撃できない。 「さーて、ワクチン誰が持っているかなあ」 魅零は敵に向かって問い掛ける。 「おまえなかなかいい女だな、どうだこっちに来ないか?」 榊原がニヤニヤしながら言う。どうやら魅零のことを気に入ったようだった。 殺すには惜しいと再び一万円を餌に勧誘してくる。 対して臣が絶対に渡さないと息を撒いた。 「おまえ――良い顔してるな、ぺろぺろしてもいいか?」 妖しい表情を浮かべたのは早乙女だった。すでに顔がイッてしまっている。 このままでは味方だけでなく敵にもやられてしまう。 ぺろぺろされるくらいならばまだ死んだ方がましだ。 臣は直ぐさま特攻をしかけた。もちろん早乙女だけは狙わずに――。 前線では快と義弘がお互いに鉄壁の防御で陣を割らせない。 度重なる冴場や榊原の攻撃にお互いに譲らずに一歩もひこうとはしなかった。 「数はこちらのほうが少ないが、気概と気合で負けるつもりはない! 侠気の盾の意地、見せつけてやろう」 メイスを振りまわしてついに跳びかかってきた冴場を打ち倒す。 急所を突かれた冴場は悶絶しながら膝から崩れ墜ちる。 攻撃を受けても受け手も倒れない義弘と快はタフそのものだった。 だが、敵も義弘に集中砲火を浴びせ始める。 猛烈な猛火が義弘の体を襲う。 快も魅零や臣をカバーするので精一杯で助太刀することはできない。 義弘は歯を食いしばった。元より助けなぞ必要ない。 義弘にとって快は目標でもあり尊敬できる大切な仲間だった。 だからそれ以上に負けたくなかった。 俺も新田以上にできる能力を秘めている。そう歯を食いしばる。 敵に対しても数では負けているがこの力では負けていない。 ――絶対に最後まで戦場に立ち続ける気合を見せつけてやる。 義弘は猛攻にすでに上半身の服を切り裂かれていた。筋肉隆々な姿が露わになる。それでもひたすら耐えて耐えて一歩もひかなかった。 ついに敵が根を上げて後退しようとする、その一瞬の隙を魅零が狙っていた。 放たれた暗黒のロンギヌスが日下部に突き刺さる。抵抗できない敵の頭にさらに臣の刀が一戦して首を瞬く間に切り落とした。すでに敵は気迫で押されつつあった。 ●母校の誇り 「逃すと思うのか。貴様らの如き邪悪を、この僕が! この世界の為、僕の正義にかけて、貴様ら全員生かして返さん!」 臣が高らかに跳躍して振りかぶる。 振りぬいた刃に峰の豊満な双瓜を切り裂いた。 金切り声を上げながら峰はついに地獄へと葬られる。 回復役がやられて榊原は舌打ちをした。 すでに暴徒と化した若者たちも早稲田通りを東へと行ってしまっていた。 味方もアークの鬼気迫る奮闘に対抗するのが精いっぱいだ。 余力のある味方に鞭を打って前線へと送り出す。 「こざかしい――よくもやってくれたな。一斉におまえらやっちまえ!」 榊原は残る部下に一斉に攻撃をするようにけしかける。 幹部の何人かを失ってすでに余裕をかましている暇がなくなっていた。 少ない敵を確実に倒すために前線の臣を集中的に狙って火花が散らされた。 快は敵の狙いを読み取って前線に躍り出ると一人で猛攻を食い止めた。 負けじと敵の壁でもある早乙女が前に踊りだして快と組みあう。 早乙女もアメリカンフットボールで鍛えた強靭な体つきをしていた。 快と互角に渡り合いながら攻撃を巧みに仕掛けてくる。 「おまえ、そういえばなんで中退したんだ? さてはコピペかカンニングだな? さすがは分数の計算もまともにできないときたもんだ」 不敵に笑いながら早乙女が快を挑発してくる。 「俺たちの方が、イケメンボーイで金持ちで勉強もできる――ライバルなんておこがましい。そもそもお前らなんて眼中にさえないんだよ!」 その瞬間に敵のラストクルセイドが炸裂して流石の快が呻いた。 激しい攻撃に快も意識が跳びそうになる。 よろめいて倒れそうになるが寸前の所で立ち上がった。 そんな敵をあざわらうかのように榊原も陰に潜みながら困惑させてくる。 「やることがいちいち幼稚なんだよ、この三下共がさあ!」 快は怒鳴りながらも冷静に敵の動きを見ていた。 感覚を済ませて敵の動きを見ながら敵の動いて行く方を予見した。 「――そんな幼稚な撹乱が、いつまでも通用すると思ったら大間違いだ!」 快が吠えた。その瞬間、出てきた敵と相対する。 大きく振りかぶってナイフを突き出す。 「ぐああああああああああああああああああああ――」 榊原の断末魔が辺りに響き渡った。 倒れたところを素早く魅零が詰めていた。 素早く懐を探ってワクチンの入った瓶を取り出す。 跳躍しながら一気に戦場を離脱した。 ワクチンを奪取することに成功して一気に流れがリベリスタ側に移った。 早速魅零はワクチンを解放して暴徒の若者を抑え込んでいく。 ようやく辺りの雰囲気が一変したところで早乙女も最後の反撃に出てきた。 そうはさせまいと義弘が抑え込むが、早乙女も強靭なタックルで義弘を薙ぎ払う。 そのまま絶対に倒してやると――快に向かって再び刀を振り上げてきた。 「今日の俺は、敢えて言おう。 黄泉ヶ辻、お前らを殺すと。 お前は俺を怒らせた。 母校の誇りを汚した報い、このエクスカリバーが裁く。 ――その身に刻んで悔い改めろ」 快は念じた。ナイフに祈りを込めて無心になって振りかぶる。 早乙女も長いリーチを生かして攻撃してきた。 快のナイフと激しい鍔迫り合いを起す。 カチインン! 早乙女の刃が根元から折れて吹き飛ばされた。 その瞬間に――早乙女の体が斜めに切り裂かれて辺りに血が噴いた。 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア 早乙女は天を仰ぐかのようにその場に崩れ去った。 ●馬場の酒帝 幹部が倒れてから黄泉ヶ辻は総崩れになった。 士気を失ったように敵前逃亡を図ろうとして臣に背中を刻まれた。 阿鼻叫喚と化していた高田馬場は元のように静けさを取り戻していた。 早期に人払いができたため、被害は最小限で食い止められた。さらにワクチンを奪取したことによって暴徒と化していた若者も元の姿にすることができた。 敵も獅子奮迅と抵抗するリベリスタの前に敗れ去った。 「おい、あれ、新田じゃないか!」 「あっ、馬場の酒帝だ!」 同級生だった男が快の姿を見つけて叫んだ。 その学生時代の飲みっぷりの良さから密かに呼ばれていた名前で呼ばれる。 快は高田馬場を守った英雄になっていた。 ラグビー部がやってきて快を胴上げする。 最高の夜だった。 宴にはやはり日本酒がいい。 快はその晩遅くまで昔の仲間と馬場で呑み明かした。 「それじゃ、ご相伴に預かろう」 義弘も一緒に連れて馬場の街へと一行は消えていった。 一方で、いつまでも臣と魅零は騒いでいた。 負けじと戦った結果、魅零がついに臣よりも敵をたおした数が勝っていた。 「ぺろぺろしよ~」 戦いに勝ったと言わんばかりに魅零が舌を出しながら妖しく臣に近寄ってくる。 「……やめろ、やめるんだ! 何故そんなに人を舐めたがるんだ……。 全く理解出来ない……!」 笑顔で迫る魅零から背を向けて臣は必死に逃げ出した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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