● ヤッホー! リベリスタちゃん達、エブリバデイ! 毎日が日曜日、ハッピー、ラッキー、ヨミガツジー。京ちゃんゲイムはっじまるよー! 強い強いアーク御一行様じゃ、ただ暴れてもつまんないよねぇ? だから俺様ちゃん、色々考えました。 考えて、考えて、考えて、考えて……あれ、何回考えたっけ。兎に角考えましたYO! つまり、アークちゃん達は俺様ちゃんが大嫌い。アークちゃん達は一般ピーポーの皆を守りたい。 守りたい一般ピーポーが俺様ちゃんみたいになったら、義務と嫌悪、果たしてどっちが勝つのかなーって……。 ああもう! 狂ちゃん、うっさいYO! 今盛り上がってるから黙ってて! ……まぁ、説明が面倒だから細かい話は同封の資料を見てNE! 週間黄泉ヶ辻、創刊号は三百八十円! 書店にて! ● 次第に寒さも和らぎを見せる3月のある日だったが、アークのブリーフィングルームに集められたリベリスタ達は言葉を失って凍り付いていた。 沈黙を破ったのは『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)だった。彼には皆に見せたビデオレターについて説明する義務がある。 「何と説明したもんか……って所なんだが、順を追って話すぜ。あんた達に頼みたいことは、『黄泉ヶ辻』の起こす事件、奴の言う所の『ゲーム』を阻止することだ」 守生の言葉に対して、リベリスタ達は一様に苦い表情を浮かべる。 かつて日本の闇を統べた7つの組織、主流七派。今ではアークの台頭によって勢力を減じているものの、今なお脅威となる力を秘めている。その中で『黄泉ヶ辻』は「閉鎖主義」として知られていた。何を目的とし、何のために集う組織なのかを問われて答えられる者はいない。他の組織と交わることも無く、不気味な事件や理解出来ない陰惨な事件に関わっていることだけが知られている。正直言って、可能ならば一生関わりたくない連中だ。 その『黄泉ヶ辻』が、この度アークに対して送って来たのが先のビデオレターである。 「黄泉ヶ辻の首領『黄泉の狂介』――黄泉ヶ辻京介はああいう人間だ。愉快犯じみた言動だが、胸糞悪くなるような事件を気分1つで起こす、国内ではトップクラスの危険人物で知られている」 守生も冷静な口調だが、怒りとも恐怖ともつかない感情が滲み出ている。 ビデオレターの内容を要約すると、 『黄泉ヶ辻京介はウィルモフ・ペリーシュとの契約で入手したアーティファクトを東京都心で暴発させる心算らしい』という事だ。 「ちょっと前の話になるんだが、黄泉ヶ辻京介は『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュの依頼でアーティファクトの収集を行っていたんだ。この組織がそういった事情で動くのは珍しいけど、この時にはちゃんと『仕事』をしていたらしい。その理由が問題のアーティファクトを手に入れるためだった、ってことだ」 人が動く以上、そこには何かしらの利害は存在する。ペリーシュが『黄泉ヶ辻』を動かし得たのは、アーティファクトが『黄泉ヶ辻』にとって「真面目に仕事を果たす」だけの価値を持っていたからだ。 「アーティファクトの名前は『悪徳の栄え』――ドナスィヤン・アルフォンス・フランソワ・ド・サド――つまり、マルキ・ド・サドの名で知られる人物の書いた作品の原典だ」 守生が口にした書の名を知るリベリスタがほうっと唸る。 非常に冒涜的で、非常に先鋭的な作品だ。内容の是非はともかくとして、アーティファクト化した際に強力な効果を持つことは想像に難くない。そして、守生が語る効果はその名に違わぬものだ。 アーティファクト『悪徳の栄え』は使用者の狂気をウィルスのように空気感染させる。通常の使用者ならば希薄化した狂気は殆ど影響を与えまいが、京介ならば話は別だ。一度広まった狂気の種は完全に消え失せる事は無い。人口密集地域に『神秘的パンデミック』が生じれば日本は『黄泉ヶ辻京介の予備軍』に埋め尽くされかねない。 「正直考えたくも無い事態だ。これが現実化した日には、この国から秩序は消えてなくなる。いや、悪意だけが埋め尽くす世界に変わっちまうんだからな」 まさしく、考えられる限り最悪の人物の手に渡ってしまったと言える。だが、まだ救いはある。いや、これを救いと言ってよいのかは難しいが、愉快犯は敢えてこれをゲイムとしたのだ。 「まさしく狂人の発想だが、一応救われた形にはなる。『ゲイム』である以上、阻止する方法はある訳だからな」 ゲイムであるからには阻止するルールも設定されているという訳だ。 京介は『悪徳の栄え』で生成された『京介ウィルス』をばら撒く構えだ。 対のアーティファクト『美徳の不幸』によって生み出されたワクチンはそれをばら撒く『黄泉ヶ辻』一派が持っているらしい。 「信用できるかは……難しい所だ。それでもそれに賭けるしかないのも事実。そこであんた達に向かってもらいたいのはここになる」 守生が機器を操作すると、スクリーンには公園の地図が表示される。上野公園の名で知られる、台東区にある公園だ。数多くの文化施設が存在し、桜の名所としても知られる場所だ。昼間は数多くの人間でにぎわうこの場所が、『ゲイム』の舞台の1つとして選ばれた。 「『ゲイム』の場所にいるフィクサードの指揮官は、森谷猟鬼(もりや・りょうき)。メタルフレームのクロスイージスで、『黄泉ヶ辻』としては典型的なサイコパスだ」 これが典型的と言うのはおかしな気もするが、『黄泉ヶ辻』とはそういう組織である。人と殺し合うことが趣味で、それを遊びとして楽しんでいる男だ。もっとも、一般人革醒者を問わず相手にする上、国内においても実力者に分類されるため、一方的な虐殺になりがちな訳だが。 目の辺りが機械化しており、カメラのレンズを思わせるパーツが特徴的な三十代の男だ。両手に鉈を構えてそれで相手をいたぶるように戦うらしい。 ここ最近はブラウザゲームに嵌っていたため趣味の『遊び』は控えていたのだが、首領直々の『ゲイム』の話を聞いて参加を申し出たらしい。 「この他にも何人かフィクサードはいる。単純な実力だけだったら、アークの精鋭部隊には劣るだろうな。だけど、連中はペリーシュから受け取ったアーティファクトで全体的に強化されている。油断して勝てる相手じゃない」 アーティファクトにより召喚されたエリューションもおり、敵の戦力はそれなりに手厚い。だが、アーク本部としてはリベリスタ達の力を信じている。 「説明はこんな所だ、詳しいことは資料にある」 説明を終えた守生の顔は険しい。敗北は日本の破滅に繋がりかねない。失敗の許されない任務なのだ。それでも、いつものようにリベリスタ達を送り出す。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 ● 普段は楽しげに人々が行き交う公園の広場。しかし、そこは惨劇の場と変わっていた。 老若男女問わず、彼らは狂気に犯されていた。それまで共に過ごしていた家族を、友人を愉快そうに殺そうとしているのだ。 中にはおそらくは大学生のグループなのだろうか。若い女性達で同じ年頃の男性達を傘で突き刺しているものもいる。その顔に一切の罪悪感は無い。 「やべぇな、女の子チーム勝ちそうじゃねぇか。おーい、しっかりしろよ! 男ども!」 その光景を噴水の前でのん気な声で応援する男がいた。『黄泉ヶ辻』のフィクサード、森谷猟鬼だ。冷静に地獄絵図の公園を構えたビデオカメラに収めている。残虐な映像はチープな映像で再生されなくてはいけないというのが彼の拘りなのだ。 「でも、このもどかしさはやっぱ、良いよなぁ。あぁ、毎日が夏休みは最高だ」 猟鬼にとって、『黄泉ヶ辻』は最高の遊び場だった。 いつでも遊べる場所を提供してくれるし、遊び仲間だって沢山いる。この『ゲイム』に勝利すれば、日本中がそんな世界に変わるのだ。そうすれば、毎日何それ構わず遊び続けることが出来る。こんなに楽しいことは無い。 「アークさんよぉ、早く来ようぜ。そして、俺と遊ぼうよ。子供の頃みたいにさぁ!」 猟鬼は首領からもらった小瓶を愉しげに振ると、これから来る『ゲイム』の相手に思いを馳せるのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月19日(木)22:58 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 悪人が笑い、善人が泣く。世の良識ある人々であれば眉を顰める光景だ。 だが、視方を変えてみればどうだろう? 悪人からすれば、それこそがあるべき世界の姿である。 そして、世の人々が悪人となったのであれば、善人を苦しめるのが『正しい生き方』と言えよう。 リベリスタ達の目の前で繰り広げられる景色は、その善悪の転倒した世界そのものであった。 「いつも被害に遭うのは、何の変哲もない人生を歩んでいる人なの」 『静謐な祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は、歯をぎりっと食い縛る。 『黄泉ヶ辻』のばら撒いた神秘ウイルスの影響で、東京中はパニックに陥っていた。感染者は在るがまま振る舞っているだけだ。それはあたかも、公園での穏やかな日々を楽しもうとしているように、人を苦しめることを楽しんでいる。 だが、全ては1人の狂気が生み出した悪の園だ。 アリステアにとっては、ただの人が巻き込まれたということがひたすらに悲しい。 「上野公園か。ダイオウイカの見物に来た事あるなあ」 混沌の最中にあって、『ファントムアップリカート』須賀・義衛郎(BNE000465)の言葉は物見遊山の最中であるかのようにのん気なものだった。元々淡白な男だ。仕事に感情を乗せることは多くないし、物的人的被害に頓着することだって決して多くは無い。 嗚呼、しかし。 「憩いの場で暴れるなんて本当に良い迷惑だよ」 義衛郎と親しいものであれば、その短な言葉の中に確かな嫌悪と怒りを感じることが出来るのかも知れない。 リベリスタ達は互いに頷き合うと、混沌の公園の中へと向かっていく。 すると案の定、暴徒と化した人々がリベリスタ達に気付いてやって来た。彼らの目から見ると、リベリスタ達は正気を保った異物に過ぎない。そして、異物を排除しようというのは善人悪人を問わず行う反応と言えよう。彼らの場合は、異物で遊びたいという欲求もあろうが。 しかし、そこではいそうですかと倒されるような柔なリベリスタ達ではない。 「おいで、子猫ちゃんたち。どこまでもクレバーに抱きしめてやろう」 甘い声で暴徒と化した女性達を誘う『はみ出るぞ!』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)。 外面だけを見れば端正なマスクの美青年だ。その声は魔力めいて女性の心に染み渡り、彼女らは当然のように惹きつけられていく。もっとも、狂気にあてられた女たちの望みが、竜一の整った顔を愛情を持って無茶苦茶に破壊したいというのも確かな話だが。 そして、人の動きを察知して、他の暴徒も流れ込んでくる。それこそが彼の狙いだ。 「今だ!」 竜一の叫びに応じるようにアリステアが、光を炸裂させる。 そこそこの実力の革醒者でも耐えられない程の衝撃だ。狂気に冒されただけの一般人には耐えられるべくもない。倒れ伏す人々の姿を見て、アリステアはそっと目を伏せる。命に別条がないとは言え、彼女の良心に呵責が湧かない訳ではない。 だが、状況はリベリスタ達に後悔するような時間を与えてくれない。 騒ぎを聞きつけた暴徒たちが面白半分にリベリスタ達のいる場所に姿を見せる。鬱陶しげに短くため息をつくと、『骸』黄桜・魅零(BNE003845)はちょっと表情を変えて叫んでみる。 「もう、止めてよ!!」 哀しむヒロインのように大仰に。涙まで流すのはやり過ぎだろうか。 しかし、暴徒の動きにこれと言った変化は無い。いや、むしろ格好の得物を見つけたとばかりに士気が上がった様子すら見受けられる。 魅零も今度は肩を竦めてみせた。 「こんな所で時間喰う訳にはいかないのよね」 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)もまた、不機嫌そうな表情を可愛らしい顔に浮かべると神秘の閃光弾を投げつける。 光が炸裂した先で暴徒たちがパタパタと倒れて行く。 魅零が気配を殺すようにしてその中を走り出すと、他のリベリスタ達も追うようにして走り出す。 「ここから逃げて。振り返らずに走って!」 せめても、とアリステアは正気の残った人に呼びかける。 倒れ伏す人々を横目に、『非消滅系マーメイド』水守・せおり(BNE004984)は、ふと自分が以前この場所を訪れた時を思い出していた。 「前にちょっとだけ、ここら辺に来たことあるなあ。漫画の展覧会や、動物の展示会を見に来てたような記憶があるよぉー」 何処にでも転がっているような「普通の思い出」。人生を変えるような特別な何かがあった訳でも無いちょっとした記憶だ。だけど、そんな記憶があるせいだろうか、胸の奥に怒りの熱さを感じるのは。 「思い出があるからこそ、余計に許せないのかな?」 今、まさしく小さな思い出が狂気に蝕まれている。止められるのはリベリスタ達だけだ。 そして、『黄泉ヶ辻』への怒りを胸に、リベリスタ達はゲイムの舞台へと到達するのだった。 ● 公園の噴水は時間に応じて形を変えている。周囲の様相が変わっても、やることは同じだ。 だが、この広場にいるもの達は明らかに異質な者達だ。 リベリスタ達が辿り着いた先には、必死のリベリスタ達をにやにや笑いながら迎えるフィクサードと大柄なエリューションの姿があった。 「随分なレアキャラが揃ってくれたじゃんか。俺の運も中々のもんだなぁ。ゲイムを始めようぜ」 「そうか、そいつは羨ましい」 歓びの声を上げるフィクサード達を、義衛郎に見下すような視線を向ける。 相手に言われたからではないが、若緑の拵えをした刀を抜いて、構えを取る。 そして、吐き捨てるように言った。 「頭の螺子が緩い位しか取り柄が無い連中の相手なんて、貧乏籤も良いところだ」 義衛郎の言葉に刺激されて、フィクサード達は一斉に攻撃を仕掛けてくる。敵の準備もあり、係は悪いものの、目的を果たせるぐらいには相手の癇に障ったらしい。ここまでは彼の計算通りだ。後は覚悟を持って躱し切るだけの話。 そして、鉈を両手に構えたフィクサードが義衛郎に向かうよりも数瞬早く、碧く色のついた風のようにせおりが横から切り込んだ。 「大人しくワクチン寄越せや、こんにゃろー!!」 勢い任せに衝撃波を叩き付ける。女の子が「こんにゃろー」とははしたないが、そんなことを気にしていられる余裕は無い。 パッと見た所には育ちの良いお嬢様にも見えるせおりだが、実のところは肉食女子。それに、彼女の持つ刀と同様に荒ぶる魂の持ち主なのだ。相手には体勢を直す暇だって与えはしない。 「ゲームが好きなら、遊んであげようじゃんかよー」 フィクサードの足止めに成功したのを見ると、魅零は得物をエリューションに突きつける。 「グルルルルル」 反応したエリューションはリベリスタ達を焼き尽くさんと炎を撒き散らす。慌てて魅零は躱すと、俊敏に走りながら距離を詰める。しかし、走る彼女の身を炎の舌はそうそう許してはくれない。 「手強いことに違いは無いが、前の奴に比べればマシだな」 炎に焼かれながら、一歩一歩確かめるように竜一は歩を進める。戦気を纏った彼をこの程度の炎で止めることは出来ない。 このエリューションの出自がWP製のアーティファクトであることを考えれば、リベリスタ達でも楽勝と言う訳にはいかないのも当然の話だ。 しかし、ここがエリューションの限界だった。 「毎日が日曜日な所悪いけど、毎日が血祭にされても困るんですよ!」 炎にまかれながらも距離を詰めた魅零が叫ぶとその怨念が形を取ったかのように黒い霧が立ち込める。神秘に生きるものであれば、恐怖と、そして苦痛と共にその名を記憶しているはずだ。 あれこそはあらゆる苦痛を内包する、恐怖の拷問具。 「人間、一生懸命に生きているのよ!」 霧の中から現れた黒い箱がエリューションを閉じ込める。スケフィントンの箱の中に閉じ込められて無事でいられるものはそういない。 「オラァ!!」 動きが止まった所で、ここぞとばかりに竜一が渾身の一撃を叩き込む。 相手が箱の中にいようとも衝撃だけで十分だ。 聞こえた破壊音だけで、公園の全てが吹き飛んでしまうのではないかと思ってしまう程である。 アークの結城竜一と言えば、今や世界でも有数のリベリスタとしてその名を知られつつある。その「様々な意味で危険な男」を止めるべく、フィクサード達はナイフを振りかざして迫ってくる。 「俺は、誰よりもリベリスタだ!」 しかし、竜一の刃も覚悟も鈍りはしない。自分で出来ることの限界など弁えているつもりだ。裏返せば、自分に出来ることならば、徹底的にこなすだけのこと。一層の力を両の腕に込める。 それぞれに戦うべき相手を定めたリベリスタとフィクサード達は刃を交える。世界を蝕む病と、世界を護る抗体の生存をかけた戦いだ。 綺沙羅は彼らの戦いの輪の外から、冷静にキーボードを叩く。 (ゲームのプレイ動画面白いから好き) だが、綺沙羅の心の奥底には敵フィクサードへの怒りがマグマのように滾っていた。ゲームを作る側の人間だから、プレイ動画は見る専門である。プレイヤーの反応が分かるという実利的な意味もあり、それなりの数は抑えているつもりだ。 そして、その中に人の命を弄ぶゲイム等は存在しないのだ。 「さすがに生身の人間を使ったデスゲームとか見る気も起きないけど」 最後のキーを叩くと、周囲に陣地が構築されていく。周囲に見受けられた、興味半分に紛れようとしていた暴徒の姿が消えていく。綺沙羅の能力によって、この場には戦う力を持つ者だけが残された。 外界から隔絶された空間で、リベリスタ(護る者)とフィクサード(冒す者)は戦いを始める。己の望む世界を現実のものとするために。 戦いの中に傷付く者達の姿にアリステアは哀しみを禁じ得ない。 覚悟を持って戦う者達はまだ良い。善であれ悪であれ、自分の意志で戦っているのだから。だけど、最初に傷付くのはいつだって、たまたまその場にいただけなのに巻き込まれる者達だ。そんなことは日常生活でも起こり得ることだが、辛いことに違いは無い。 「神秘云々、なんて知らないでいられたら。巻き込まれないでいられたら。それがいちばんなのにね」 だが、状況はそうした逡巡すらも許さない。小さな願いも呑み込んで革醒者達は戦いを続けるのだった。 ● 世界から隔絶された場で、戦うリベリスタ達。 相手は腐っても旧七派の最精鋭。それがあらん限りの準備をしている以上、生半な相手とは言えない。しかし、皮肉にも黄泉ヶ辻京介すらも理解していることではあるが、リベリスタ達の力はそれすら凌駕していた。 「俺は、負けない!」 竜一の持つ剣と刀は世界に仇なす者にとっては恐怖の象徴。如何なるものをも踏み砕く暴君そのものだ。その圧倒的な破壊力を、一点に集中する。 天使のように繊細に。 悪魔のように大胆に。 「ハァァァァァァ!」 理性によって制御された、暴君の力はエリューションの身体を完全に破壊し尽くす。 強敵がいなくなったにも関わらず、リベリスタ達の表情は険しいままだ。アークの勝利はあくまでもこの場の敵を殲滅を意味しない。ワクチンの入手こそが、勝利における絶対条件なのだ。フィクサード達もそれを知っているからこそ、憎らしい笑みを浮かべたままだ。 「ふーん、そういうこと」 冷たい視線を向ける綺沙羅。フィクサード達は純粋に楽しむためだけに来ている。つくづく気に入らない相手だ。自分だってフィクサードとして活動していた時期もあったが、こいつらと一緒にされることだけは心外である。 そんな奴らには、相応の対応を返してやるまでの話。 「あんた達にとっては夏休みでもキサ達は仕事で来てるの」 綺沙羅が念じると龍の力が現れ、導かれるようにして木々が動き始める。 「夏休みの続きはあの世でやって」 命令に従うようにして、四方八方から木が鞭のようにしなり、フィクサードを強かに打ち据える。 「さあ聞いて、方舟の人魚の呪い歌!」 続くようにして、せおりは終焉の歌を歌い上げる。 彼女の中に在る人魚の因子は、世界に終焉を与える長雨を現実のものとする。その力を前にして耐えられるものなど、そうはいない。 「思い出した、と言うか思い出以外にも個人的にすごーく許せないことがあるんだよね」 何かが疼くのをせおりは感じていた。 現場からそう遠くない場所に在るお堂は、彼女が名を肖った女神と習合された神のお堂でもある。 「なんか親戚が事件に巻き込まれたみたいですごーく気分悪いよ!」 怒りのままに力を解放するせおり。 戦場のバランスは既にリベリスタ達の側へと傾いていた。ダメ押しとばかりに義衛郎の放つ雷光がフィクサード達を焼く。フィクサードの中でも比較的まともな感性を持つ者は何とか逃げようとするが、ここは綺沙羅の構築した陣地の中。逃げ出すことは叶わない。 せめてもと死に物狂いの抵抗を試みる者もいたが、リベリスタ達に与えられた傷はすぐさまアリステアが癒してしまう。彼女自身も隙を突かれて少なからぬ怪我を負っている。だけど、運命の炎を燃やして必死に耐えていた。その姿はフィクサード達を少なからず動揺させる。 「っべーな。さすがにこれ、もう京ちゃんにゲイムに誘ってもらえなくなるかもじゃね」 「猟鬼! 人の生き死にがお好きなら、自分の生き死にには興味はある?」 「あん?」 あくまでも他人事のように周囲の状況を眺めるフィクサードに対して、呼びかけたのは魅零だった。 「猟鬼の一生! もしかしたら終幕は近いのかもしれないね! まだまだ終わるには早い歳でしょ、いっそ、こっちに寝返らない?」 魅零が聞く限り、フィクサード自身の性癖は『黄泉ヶ辻』である必要性は無いように思えた。これを出来たのも、彼女自身がどこか常識からずれた人生と感性を持っているからなのかも知れない。 「あぁ、良いな、それ。俺も正義の味方にしてくれ……よ!」 しかし、帰って来たのは刃による返答だった。魅零はその返答で悟る。狂ったフィクサードは狂ったフィクサードなりの形で、『黄泉ヶ辻』に忠誠を誓っている。自分の生死に頓着はあるまいが、『黄泉ヶ辻』を離れることだけはしない。そういう人種だ。 ならば、返す答えはただ1つ。 魅零はスケフィントンの娘を呼び出すと、苦痛の拷問具でフィクサードの動きを封じる。 既に彼を束縛から護るべき加護は存在しない。 「へへへ、ゲイムセットかぁ。でも、まだ逆転の目はあるんだよぉッ!」 その時、いつの間にやらフィクサードの手に小瓶が握られていた。『黄泉ヶ辻』の作った最悪の状況を打破し得る、『美徳の不幸』の生み出したワクチンだ。 「こいつを壊してやればてめぇらの絶望の表情を……」 フィクサードが許された僅かな力を振り絞ってワクチンを破壊しようとする。しかし、彼には台詞を言い終える暇すら与えられなかった。 「分かりやすいんだよ、お前みたいなやつの考えることなんてのは」 それは瞬間的な加速だった。 ほんの一挙動。 しかし、義衛郎にはそれで十分だった。 「返せぇ!!!」 フィクサードが初めて感情をむき出しにして叫ぶ。刀を仕舞う義衛郎の足元には、フィクサードの腕が力無く転がっていた。そして、小瓶を拾ったアリステアはキッとフィクサードを睨む。 「あなたの考えなんて知りたくない」 何がフィクサード達を『悪』へと駆り立てたのか。それは理解出来ないし、するつもりもない。それでも、彼女には言える言葉があった。 「けれど、人の生き死にを弄ぶ人は、それなりの最期を迎えるんだって、私は思ってるよ。神様はちゃんと見てるって」 「森谷さんは、毎日が夏休みがいいんだね? じゃあ、今から毎日をお盆休みにしてあげようじゃないの」 せおりが太刀の切っ先を大地に向けて構える。 得物が青い光を放つ。 他者の運命を断ち切る必殺の構えだ。 「必殺! デスティニーアークっ!!」 高潔な宿命の一撃はフィクサードの命と、そしてこの場に与えられるはずだった破滅の運命を切り裂く。 その一撃を振り抜いた後で、せおりは既に公園が桜の季節を迎えていたことに気が付いた。 ● 生き残っていた他のフィクサードはこうなると物の数ではない。リベリスタ達の手によって、この場の戦力は瞬く間に壊滅させられてしまった。 「もうあなたには必要ないでしょう?」 アリステアと魅零は、現場に残っていたフィクサードの『趣味』の映像を破壊する。確認しただけで十分過ぎる程、おぞましさが伝わってくる内容だった。 その後、アーク本部の支援チームと連絡を取ると、すぐさま現場の収拾に当たる。他の場所がどうなったかはともかく、この場を守ることには成功したのだ。 悪が世界を制すれば、その時善悪の観念は逆転するのかも知れない。悪もまた、世界の生み出した概念の1つ、絶対的なものなど無いのだから。 それでも、リベリスタ達は世界を護る。傷付きながらも、明日を信じて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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