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<悪徳の栄え/美徳の不幸>仕事だから


 大型ショッピングセンターで人々がお互いを殴り合っていた。
 楽しいから、傷付け合う。そういったタガの外れた人間たちの有様だった。
「世も末、人も末、黄泉ヶ辻もまた末か……」
 高い位置からそれを見下ろしていた黒い翼のフィクサードは、吸っていた煙草を放り捨てた。
 懐から携帯電話を取りだし、耳に当てる。
「私だ。エリア感染を確認した。……ああ、分かった。お前のエリアも私が担当すればいいんだろう。いいさ、仕事だからな」
 携帯電話を懐にしまう。煙草の箱を取り出し、中身がカラになっていたことに気づいて深くため息を漏らした。
「なんで入ってしまったかな、こんな組織」

 翼人のフィクサード。斑鳩京平はビジネスマンである。
 黒い清潔なビジネスに身を包み、上司の空気を読み、部下の空気を読み、組織内を上手に生き抜き、たまったストレスは煙草と酒で逃がしていく。そんな、どこの誰でもやっていそうなありふれた生活をする男だった。
 特別なことと言えば、彼がフェイトを獲得してしまったことと、その結果就職してしまったのが黄泉ヶ辻だったことである。
 はじめはそこらのブラック企業とかわらない、人を使い捨てて利益を獲得するタイプの組織だった。スタッフ全員どこか狂っていたが、そんなの今の社会どこにでもいる。
 だが狂気が本格化したのは、ボスが『楽しい事ノルマ』とかいうふざけたルールを作ってからだ。
 黄泉ヶ辻京介の自分ルールで悪事に点数をつけ、気に入らない時には処罰する。その罰の与え方すらゲームの得点にした。
 スタッフを我先にと狂い、身を削って悪事を働いた。あせった仲間たちは次々と摩耗し、精神疲労と肉体の損傷によって次々と死んでいった。自殺した奴も少なくない。
 まあそんなこと、今の世の中さほど珍しくない。
 どこの誰でもやっていることだ。
 斑鳩京平が生き残れたのは、これらを全て仕事と割り切ったからに他ならなかった。
 家に帰れば妻も子供もいる。身体の弱った母もいる。死んだ父の作った借金もある。
 まあそれも。
「今の世の中、よくあることだ」

 今回の仕事は『京ちゃんウィルス』とやらを都内にまき散らすことだった。
 正確には『悪徳の栄え』という書物アーティファクトによって黄泉ヶ辻京介の狂気を全ての一般人に伝染させ、ゆくゆくは日本を黄泉ヶ辻京介化するというものだ。
 狂っている、のかもしれない。
 だがなぜだか斑鳩京平には、子供の遊びにしか思えなかった。
 彼からすれば、黄泉ヶ辻京介は高性能なオモチャを手にした子供だ。空気を読まないし、気を遣わないし、守るものもない。醜い子供だ。
 だがそれでも、傅いて仕事をこなさなければならないのが社会というものだ。そむけばただちに抹殺される。家族もまた、死ぬより酷い目にあうだろう。
「休憩は終わりだ。行くぞ」
 翼をはばたかせ、別のエリアへと移動する。
 そんな彼の後ろを、大量の『異形の羽虫』たちが追いかけた。


 『京介ウィルス』を駆逐すべく、フィクサードたちからワクチンを奪う。
 これがアークリベリスタに課せられた任務である。
「皆さんが担当するのは東京足立区。黄泉ヶ辻系フィクサード斑鳩京平と、彼の使役している羽虫型のエリューションビースト群です。近隣住民の非殺傷鎮圧と移動は担当のリベリスタたちに任せ、皆さんはフィクサードからワクチンを奪う任務に集中して下さい」

 京介ウィルスの情報は、黄泉ヶ辻京介のビデオレターによってアークリベリスタ全員の知るところとなった。
 アーティファクト『悪徳の栄え』の効果によってウィルスを空気感染させ神秘パンデミックをおこす。それが彼らの目的であり、ワクチンを獲得してパンデミックを食い止めることこそが我々の役目なのだ。
 対のアーティファクト『美徳の不幸』によって生成されたワクチンは、ウィルス散布に関わっているフィクサードたちがそれぞれ持っているらしい。
 彼らを倒し、ワクチンを奪うのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年03月12日(木)23:01
 八重紅友禅でございます

●成功条件
 ワクチンの獲得

●敵勢力について
・斑鳩京平
 フライエンジェのマグメイガス・ランク4です。自分用の回復スキルと射撃系の魔術、加えて近接格闘能力を備えたバランス矯正タイプとなっています。
 特定の接触アクションを起こす場合は、彼の性格を考えて空振りや逆効果に注意しましょう。

・羽虫
 1~2メートルの羽がはえた虫型エリューションビーストの群です。約30体以上とみられています。
 仲間の羽虫のHP・SP・BSを急速に回復するスキルを有しており、基本的に群れでの集中攻撃を行ないます。
 複数攻撃ぶっぱは鬼門。できる限り一体ずつ確実に倒していきましょう。
 また、こちらの陣形を大いに引っかき回されるので、個別に分断される危険が非常に高く、そうなった時の対策を必要とします。

●重要な備考
<悪徳の栄え/美徳の不幸>のシナリオ成否状況により、『京介ウィルス』が猛威を振るう可能性があります。
 本シナリオの結果によって、社会情勢が一気に悪化し、崩界度が急上昇する可能性があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
ハイジーニアスソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
ギガントフレームプロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
ジーニアスクリミナルスタア
篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)
アウトサイドスターサジタリー
クリス・キャンベル(BNE004747)
アウトサイドマグメイガス
月草・文佳(BNE005014)
ジーニアスマグメイガス
柴崎 遥平(BNE005033)
アークエンジェクロスイージス
★MVP
椎橋 瑠璃(BNE005050)

●仕事
 装甲改装バスは振動がきつい。
 『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)はやや顔をしかめながら、窓の無い壁に寄りかかった。
「仕事だから、か。共感できることではあるな」
「仕事なのはお互い様だしね。恨みっこなしサ」
 ふかしていた煙草を灰皿に押しつけ、篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)は苦笑した。次の煙草にまた火をつける。
 流れで煙草を勧められ、愛想笑いで首を振る『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)。
「入った会社が犯罪まがいのブラックだったなんでよくある話よね。抜け出せないのもまあ、仕方ないかなって? まあ背負いすぎてもしょうが無いでしょ」
「おうよ。こっちもこっちで、仕事をさせてもらおうぜ」
 煙草を吹かし、『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)は資料をめくった。
 同じ資料をぱらぱらとめくる『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)。
「今回は愉快犯化した一般人をどうこう……ではなく、敵勢力からのワクチン奪取が目的ですか。一般人の鎮圧や移動はもう済んでるって話でしたっけ?」
「写真も来てるよ。うっわあ、すんごい光景。国民全部アレになったらすんごこいことになっちゃうんだろうね」
 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は端末に写真を表示してけらけらと笑った。
 本来笑い事ではないが、なんでも笑い事にできてしまうのが彼である。
 一方で何事も笑い事に出来ない『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)は、同じ画像を見て眉を寄せた。
「ヨミガツジ……三高平が逼迫しているこの折に仕掛けてくるか。まともな考えではないが、だからこそ面倒だよ」
「なんたる狂気。これだからノブリスオブリージュは……」
 椎橋 瑠璃(BNE005050)は煙たそうに口元に扇を当てた。
「持った力の責務を解さぬやからは、これだから嫌いですわ」
 扇を閉じる。ぱちんという音と共に、バスが停車した。
 速やかに車両から降りると、少し遠くで飛行する斑鳩京平が見える。
「弱きを守ること。それがわたくしの責務。あのようなうざけたウィルスなど、どうして許せようものですか」
 瑠璃は翼を一斉に開くと、天高く飛翔した。

●羽虫の斑鳩
 斑鳩京平の通り名は『羽虫の斑鳩』である。対象者にいつまでもしつこくつきまとい、根負けしたところで要求をごり押しするのが得意だったからついた名で、軽いあざけりも混じっていたが本人はこれを満額で受け入れていた。
 粘り強さには自信があったし、感情を殺すのも慣れていた。ゴミにたかって生き延びるさまはまさにハエのそれである。彼が羽虫エリューションの取り扱いに長けたのも、思えば偶然ではなかったのやもしれぬ。
 今日も今日とて怖じ気づいて逃げ出したチームメイトの穴埋めとしてウィルス散布に向かっていた……途中で、彼の眼前を鉛弾が掠めていった。
 翼で急制動。血の流れた鼻先をおさえて振り向くと、滑り台の上であばたがこちらを狙っていた。
「アークってやつか。一生関わりたくなかったが……仕方ない。やれ!」
 羽虫の群れが一斉にあばたへと襲いかかる。あばたは滑り台から飛び降り、周囲で円陣を組んでいた仲間のもとへと着地した。
 二丁の銃を抜き、安全装置を解除するクリス。
「ナイスだ相棒。円陣を組んで分断を可能な限り防ぐ。攻撃は欲張らずに個体数を減らすことに集中しろ。つまりは作戦通りだ、いいな」
「委細承知――まいります!」
 瑠璃は地面を十字に踏みならすと、バチンと扇子の音をあげた。
 殲滅性加護領域が展開し、あばたやクリスたちの体力や自然治癒力が急速に引き上げられる。
 羽虫たちが全員をぐるりと取り囲んだのはほぼ同時だった。
 彼らの一斉射撃もまた、同時に始まった。
「一点攻撃、『あれ』からです」
 あばたは機関砲とロングピストルを同時に構えると、羽虫の一匹めがけて徹底射撃を開始。
 叩き込まれた鉛でずしりと重くなった羽虫に対し、杏香が素早く飛びかかる。
「そんじゃ、ちまちまいこうかねっ」
 逆手に持ったナイフを二本突き刺し、蹴り飛ばすようにして離脱。
 深追いはせずに円陣に戻る。
 羽虫たちとしては(というより斑鳩としては)円陣の中央へ大量にねじ込む形で分断し、そのまま数の暴力で圧殺してしまいたいところだが、きっちり連携をとられているとなると難しかった。
「このサイズじゃ殺虫剤はきかないな。やれやれ、銃を使って羽虫を殺すなんて初めてだよ」
 二丁の銃を空に向け、味方と入れ違いになってダメージコントロールをはかろうとする羽虫にトドメをさしていく。
 ぼたぼたと落ちていく羽虫の死骸をチラ見しながら、遥平は手帳を空に翳した。突っ込んできた羽虫が見えない壁にぶつかり、はじき返されていく。
「残念だったな」
 弾いたそばからリボルバー拳銃を向ける。仕込んでいるのは貫通力の強い魔法弾だ。
「くたばっとけ!」
 羽虫に大穴を開け、そのまま後ろの羽虫たちを巻き込んで破砕していく。対して羽虫たちは奇妙な羽音を鳴らし、お互いの肉体を再構築させはじめる。苦虫を噛み潰した顔をする遥平。
「なるほど、こりゃキリがなさそうだ」
「なに、全部倒す必要は無いさ」
 身体に穴が空いたままめげずに突っ込んでこようとする羽虫に、涼はカラーボールのようなものを放り投げた。
 張り付いたボールが爆発し、木っ端みじんになって落ちる羽虫。
 亮は更にもう一個ボールを取り出すと、別の羽虫に向けて叩き付ける。
 立て続けに起きる爆発によろめく羽虫。終はにやりと笑って飛びかかった。
 操り糸でもついているかのような超常的機動で羽虫たちを踏みつけて、目的の羽虫にナイフを深々と突き立てる。
 握り込み、引きちぎり、切り裂く。
 その腕に、別の羽虫が噛みついた。
「おっとっと!?」
 引っ張られてバランスを崩す終。
 連れ去られてはたまったものではない。腕をわざと引きちぎらせて離脱すると、円陣の中へと降り立った。
「あっつつー、回復頼めるかな?」
「勿論。はいちくっとするわよー」
 文佳は軽口を叩きつつ術式を高速展開。終の腕を無理矢理再構築させた。
 と、その時。
「見つけた、あいつからだ」
 斑鳩の低い声がした。
 途端、文佳めがけて大量の羽虫が一斉に殺到。首や腕、脇腹に噛みつくと、そのまま彼女をかっさらった。
「月草さん!」
 羽虫の撃破に集中していた瑠璃が、はっとして顔を上げる。
 大量の血がシャワーのように降り注ぐ。
 が、瑠璃の瞳に絶望の色はわずかにもなかった。
「今行きますわ、動かないでっ」
 一度だけ身を屈めると、反動をつけてジャンプ。翼を複雑にはばたかせると、凄まじい速度で文佳や羽虫たちへと突っ込んだ。
 突き抜けるように文佳の身体をかっさらうと、瑠璃はその場で翼を丸め、文佳の身体を包み込む。
 周囲から飛びかかってきた羽虫たちの歯が、瑠璃の翼や背中にざくざくと突き刺さった。
「邪魔ですわ」
 勢いよく翼を広げ、周囲の羽虫たちを薙ぎ払う。
「月草さん、あなたはなんとしても――」
「見つけた」
 味方の円陣に戻ろうとした、その矢先。すぐ後ろで斑鳩の声がした。
 羽虫たちに紛れて接近していたのだ。
「回復担当を庇う役目。つまりお前が、持久戦の要だ」
 首に掴みかかる斑鳩。凄まじい力で締め付けられ、流石の瑠璃も苦悶する。
 拳銃を抜いて額につきつける斑鳩。
 引き金の指に力がこもる。
 撃鉄が動き、雷管を叩――く寸前。十字の光が斑鳩の腕を打ち抜いた。
 思わずのけぞり、瑠璃を手放す斑鳩。
 涼が二本のブレードを交差させて構えていた。
 あぶり出されたのか。
 それとも囮が減りすぎたのか。
 後者である。下手に抵抗せず羽虫の数を減らすことにだけ集中したことで、斑鳩への道筋が比較的早く開いたのだ。
 ブレードをしまい、落ちてきた瑠璃と文佳をキャッチする涼。
「どうだ。下がるつもりはないか?」
「そう言って帰る営業マンはいないさ」
 銃を連射する斑鳩。
 間に割り込んだ終が弾を身体で受けながら跳躍。羽虫を踏み台にして斑鳩の眼前まで接近すると、ナイフを首めがけて繰り出した。
「ねえ京平さん、別に人殺し好きじゃ無いよね」
「だったら何――」
「へましたら家族を巻き込むんでしょ? 転職してアークに来たら? 家族も保護してもらえるよ」
 言いながら、キッチリ致命傷を狙って斬撃を連発する終。
 咄嗟に物理シールドを張る斑鳩だが、そのシールドを強制破壊して終は顔を寄せた。
「今の時代、仕事は選べるんだよ」
「選んだ仕事は変えられんのだ」
 終を蹴り飛ばして距離をとる斑鳩。
「適当にダメージは与えた。羽虫に任せてここはひかせてもら――」
 そのまま後退しようとした途端、彼の肩や腹へ二発の特殊弾がめり込んだ。
 銃を構えてあばたとクリス。それぞれの銃撃である。
 呪縛弾と注意強制弾。どちらも撤退を防ぐ弾である。
 バランスを失って地面に転落した斑鳩に、クリスたちが円陣を維持したまま接近していく。
「逃がしませんよ」
「どうやら職場環境がよくなさそうだなあビジネスマン」
「冗談じゃない。取引のつもりか」
「アークが嫌なら裏の組織でも構わないぜ。コネくらいはある」
 襲ってくる羽虫を適当に払いつつ、銃を向けて迫る遥平。
 ……そんな様子を確認しながら、文佳は戦況をかるく分析してみた。
 羽虫をある程度撃破したとはいえ、無力化はあまりできていない。瑠璃のラグナロクと文佳の回復術である程度しのげているとはいえダメージを受け続けているのはこっちだ。
 斑鳩がこのまま逃げと自己回復に徹してしまった場合、こちらは消耗しきった数人だけが残ることになる。
「となると……逃げ切られちゃうわよねえ。さあどうしたもんかしら」
 誰にも聞こえない程度の小声で呟く文佳。
 そんな声を、杏香の声がかき消した。それもわざとらしい大声でだ。
「あーやめやめ。斑鳩さんちは今現在ヨミガツジの監視がついちゃってるんだとさ。逃げを打ったら何も知らない家族がお家ごと即爆破。だろ?」
「……しまった」
 頭を押さえる斑鳩。
 杏香が声を張り上げたのは自分に注意をひかせるためばかりではない。
 誰とリーディングラインを繋いだのかはっきりさせるためだ。
 危機感を感じたのか、斑鳩は羽虫たちに停止命令を出した。ぴたりと空中で停止する羽虫たち。
 銃撃を一旦やめるクリスたち。
 一時的に膠着した戦場を、煙草をくわえ直すした杏香がハンドポケットで歩いて行く。
「大人しく言うこと聞いたら家族の面倒見てあげるってのはアリなんだけどさア……」
 斑鳩の手前で立ち止まり、顔だけを近づけた。
「『ここで逃げたらアンタのお家に行っちゃうぞ』ってのもアリだよね」
「……は、はったりだ。お前らがそんな」
「できるサ。今まさにアンタっていう犠牲で都民を助けようってんだ。正義のためにゃあ人道なんでクソくらえだよ」
「…………」
 沈黙が流れた。
 斑鳩、杏香、羽虫もクリスたちも誰も動かない。
 そして。
「よし、わかった……とでも言うと思ったか馬鹿が! やれ羽虫ども、こいつらを足止めしろ! 俺はワクチンを持って逃げる!」
 斑鳩はきびすを返し、全速力で逃走し始めた。
「待て!」
 足止めに銃撃を仕掛けるクリスやあばただが、彼を庇った羽虫たちに命中。そのまま羽虫たちが一撃離脱を仕掛けてくる。
 攻撃をなんとか払い、傷口をぬぐう遥平。
「くそっ。あいつめ、考えなしかよ……黄泉ヶ辻京介がピンチの今がチャンスだってのは、分かってる筈なんだがね」
「ん? いや、そうでもないみたいよ?」
 服についたよごれをはたきつつ、文佳がてくてくと歩き始めた。
 足を怪我したふりしてその場にうずくまると、その場に『さりげなく落ちていた』物体を懐に隠した。隠したものをちらりとだけ見せてくる。
 片眉を上げる涼。
「そいつは……」
「そういうこと」
 文佳は冗談めかしてウィンクした。
 落ちていたのは、資料にあった『美徳の不幸ワクチン』である。
 どうやら、任務を全力で遂行しようとした結果失敗したことにしたかったらしい。
 この戦闘自体も千里眼や何かで監視されていたのだろう。
 杏香はそれらのことをハイリーディングによって受け取っていたらしく、肩をすくめて笑った。
「ま、けが人も少なく済んだし仕事もコンプリート。言うことなしサ」
「だね。大事にならなくてほんとよかった! オレ、最悪歪曲まで考えてたもん」
 まったくそんな様子はなさそうな顔をして、終は頭の後ろで手を組む。
 彼の後ろに装甲バスが停車し、扉が開いた。
 いち早く乗り込んでいくあばた。
「それじゃあ皆さん行きましょう。次の仕事が待っている」
「仕事か。まったく、忙しい時勢だな」
 同じくバスに乗り込んでいく涼。
 終や杏香、遥平や文佳たちも乗り込んでいく。
 最後に残された瑠璃はバスに乗り込みつつ、跡形も無く消滅していく羽虫のエリューションたちをかえり見た。
「弱き者を守ること。それは命だけではなく、精神性を守ることでもありますわ。きっと魔も守って見せます。何度でも」
 扉はしまり、車は走り出す。
 山積みになった、次の仕事の現場へと。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 今回の作戦でさりげに要になっていた瑠璃さんにMVPを差し上げます。