●カレーを食べる話 こんにちの三高平。 「おれが負けたのは、元・三尋木のクソアマと、アークのナントカおばちゃんの二人だけだ!」 イベント用の貸し広場で、白色のコック服に身をつつんだ『武装料理長』ゴッデス・ムッシュ・田中が、中華包丁を高らかにして、宣言するように云った。 「キキキキ、自慢じゃないが、俺は一二三様の献立をかんがえていた時期もある。ほこりたかき裏野部! アークそのものに寝返ったわけじゃねぇぜ!」 しろい半円形の中華帽子をどこからかとりだして、ハゲあたまの上にのせる。 ムッシュ田中が料理服のそでをまくると、女神の刺青がかいまみえる。 彼は元・裏野部である。 料理人すらヒャッハー仕様の、甲高い声の、コケた頬で。やはり裏野部らしい形相であるとは念入りなことである。 「キキ! テーマはカレー。これで俺をうならせてみろ! それか! おれの料理を食って死ねい! リベリスタどもッ!」 横から、黒服がガラガラとテーブルを運んでくる。 かれらが何者かは定かではないが、襟に恐山のバッジがあるような気がしないでもない。まあ幻覚だろう。 テーブルの上には給食につかうような大きな食缶が2つ鎮座している。蓋があけられるとカレーの良いにおいがたちどころに場を支配した。 「はい、というわけで!」 元・三尋木『地獄カレー』横須賀 麗華が、ムッシュ田中の口上の絶頂をうちけすように、横から声をだした。 「ムッシュさん、こんなこと言ってますが、もう行く所がない人なので気にしないで食べてていいですよ!」 ポニーテールの、どこにでもいそうな日本人顔のふつうの成人女性という容姿である。 うんしょ、うんしょ、とキャスターつきの移動式キッチンをひっぱってくる。上には、いましがた炊きあがったと解釈できる釜が鎮座する。ふっくら白飯が大量にある。 この双方、どちらもフィクサードであったのだが、今は三高平に住んでいる。 三尋木から説得されてきた麗華。ムッシュ田中は、場の流れで『ついでに』収容された経緯であった。 この場を要約するならば、ひたぶるカレーを食べたり、移動キッチンにより作ってもいいという場ということだ。カレー以外もいけるらしい。 またゴッドタンの心配はいらない。ムッシュの秘術『オーバーリアクション空間』により、凄い演出もできうるようだ。 とりあえず頂きますの代わりのように、元・穏健派がいう。 「私のカレーをくってじごくへ落ちろぉぉぉ!」 両方『裏野部』かと、口上が怪しまれた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月10日(火)22:06 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●カレーライスとからあげ スパイスの香りが、鼻孔をくすぐった。 イモを煮込んだか、とろみが強くて、豚の脂が存分に溶け出ているルウである。 ピリリと甘辛く、ちょっと塩味もあるのだが、これが白飯と中和されるようになっていた。煮こまれた人参や玉ねぎといった野菜の自然な甘み、バランスというべきか。調和というニ字が、一皿の上にあった。 こう、味を評したのはアラストールである。 ふっと来て、すっとカレーを受けとり、ふしふしとカレーを食べていた。中辛である。 眼前にあるカレーを味わいながら、以前にインド人が経営するお店のカレーを食べたときの事を思い出す。 ルウの味が日本のカレーとは違っていた事。御飯は使わずナンというパンで食べたのは、一寸、不思議な感じであった。 美味しいものに国境はないということなのでしょう。と胸裏で語る。 モノローグのように、あるいは瞑想から我にかえるように。 「――で、おかわりを所望します」 カレーと聞いて食べに来た、ただそれだけの人である。それ以外でもそれ以上でもそれ以下でもない。 「れーかねーさん、ごきげんうるわしゅう!」 そこへやってきたのは、夏栖斗である。 麗華の姿を確認するや、飄然とそこへいく。 「ねーさん、辛口で! そりゃあもうじごくに落ちるくらいの!」 「こんにちは! やっぱりアークになじんでしまいました! 地獄へ落ちろ」 麗華は、激辛スパイスをその場で調合して、カレーに加え、味を整えて夏栖斗に差し出した。 「っていうか天国に登るとかそういうのじゃなくていいの?」 ふと横から悠里である。 「こんにちは。元気そうで何よりだよ」 「設楽さん! 先日はおせわになりました」 「アークに所属してから不自由はしてない? ナナイちゃん、京子ちゃんと連絡取ってるの?」 「おかげ様でばっちしです! あっちもあっちで大変みたいです」 「けど、連絡もついてて元気そうにしているなら何よりだよ」 麗華が革醒したそのときから関わっている夏栖斗と 説得の最後のひとおしに寄与した悠里である。 「前に食べた時からファンなんでね。あ、今日は中辛でお願いしていいかな」 「がってんしょうち!」 世間話を交えたのち、テーブルへと着席してカレーにとりかかった。 「お、ムッシュ。アークに来てたのか。まあ、それなら歓迎するぜ」 「ヒャぎああああ!?」 ムッシュ田中は頓狂な声をあげる。田中がこの場にいるいきさつもまた、二人の事によるものあったのである。 ムッシュ田中の悲鳴を華麗にスルーするように。 「リベリスタとフィクサードの垣根もなく料理をつくる――良いものだな」 小雷は中華鍋を振るう。 痛々しい傷の残る小雷は、しかし、怪我をものともしていない。 作っているのは麻婆豆腐である。カレーに添えての麻婆カレーをこしらえている。 「お肉、お野菜、スパイス、きっと滋養にいいとおもうの」 小雷の横で、璃莉はからあげを揚げている。 「(唐揚げを揚げる璃莉を見ているとますますあいつ――リリに似ているな)」 と小雷は胸中で呟く。 程なくして、両品が完成して実食にうつる。 麗華のカレー、ムッシュのカレー、小雷の麻婆カレー、からあげを眼前に、いただきます! をする。 「小雷さん、食べて食べて!」 薦めれて一口。 からりと揚がった衣を前歯で砕くと、殻が破れるように鶏のうまい汁がジュっと飛び出す。 「あいつの味だ」 もう食べることは二度と無いとおもっていたものがここにあった。 「うん、『リリさん』のレシピなの」 璃莉がしぼりだす様にいうと、小雷は驚愕したかのように目を見開く。 「!? リリの事を知っているのか? お前は一体――」 ●春分を前に アラストールが食したカレー、カレーの皿は、山の如くそびえて――眉へとせまる。 「おかわり」 しかし、まだ続く。 すでに一人で大半を食べきっていると評してもよい。恐山と目される黒服は、いささかビビっている。 夏栖斗は激辛カレーを堪能する。 「本当に美味しいなあこれ。コツとか教えてもらってもいい? ダメ?」 暑く、熱く、かく辛く。カーッとかきこめば、熱さと涼の両方を得る。 「え、コツですか?」 「ねーさんにご馳走するよ。意外と僕料理はできるよ」 「あ、食べてみたいですね!」 割と乗り気の麗華に、悠里もまたこの話に乗る。 「僕もお願いしようと思っていた所だったよ。よろしくおねがいします、先生」 ここに、お料理教室が開幕する。 素材の選びから始まり、玉ねぎの炒め方、細かい気配りエトセトラ。 悠里は思う。 「(元は敵だったとしても、こうやって一緒に料理をすることだって出来る。 そういう事を君は信じさせてくれたんだ。本当に、感謝してるよ)」 お料理教室が始まったところから、七尺ほど隔てて小雷と璃莉の卓がある。 「銀次――は果敢で豪快な……男の中の男だった。酷な話だが人はいずれ死ぬ。あいつにはその覚悟は出来ていた」 「乗り越えて、生きていかなきゃ。生きてれば、私にも、出来る事きっとあるよね」 璃莉は決意をあらためる。すると小雷が麻婆カレーの皿をたぐる。 「俺のつくったカレーも食べてみるか?」 璃莉は、勧められるがまま一口。 「おいしいっ!」 と満面の笑みを浮かべる。次には照れくさいような表情を浮かべた。 「(こんな俺でも慕ってくれるというなら先輩としてしっかりしなくちゃな)」 これを見て、小雷も胸中で決意をあらためるのであった。 ふと外を見れば、ムッシュの頓狂な声もどこ吹く風といえようか、そしらぬ顔をした春分前の景色に、若草がのんびりと顔をのぞかせていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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