●蓬莱の魔物 かつて七派フィクサードの一、剣林の手によって『蓬莱』の魔物がボトムチャンネルに迷い出た。 リベリスタの活躍によりそのほとんどが駆逐され、『蓬莱』のDホールは閉ざされる。だがすべての魔物を駆逐できたわけではない。 四凶。春秋左氏伝等に記される悪神。 犬のような姿をし、善人を忌嫌う『コントン』。 全てを貪る曲がった角を持つ牛『トウテツ』。 正しきものを喰らう翼持つ虎『キュウキ』。 戦乱を好む戦闘狂の人面虎『トウコツ』。 四体の悪神のうち、コントン、キュウキ、トウコツは駆逐された。 だがトウテツは倒すに至らず、ボトムチャンネルに存在している。 静かに伏し、闇にまぎれるように『万華鏡』の予知を掻い潜っていた悪神だが、ついにその尻尾を掴むことに成功する。 人を喰らい、財を喰らい、知識を得た獣。『蓬莱』から抜け出た白骨夫人と合流し、とある廃村を拠点に活動していた。この世界に潜り込む為に人の姿を形取り、自らの欲を満たしているという。 白骨夫人の手によって僵屍(キョンシー)を従え、静かに勢力を拡大する『蓬莱』の魔物。トウテツの持つ能力により、『万華鏡』の力は遮断されている。この機会を逃せば次はないだろう―― ●トウテツと白骨夫人 「これである程度の能力は回復したか」 曲がった角を持つ男がお腹をさすりながら笑みを浮かべる。それが四凶と呼ばれた悪神の一角、トウテツだと誰が気付こうか。幻覚ではない。人の姿に変身したのだ。それでも変身は十分ではないのか、頭の角は隠しきれない。 「トウテツ様、今日の食料ですが」 傅くように一人の少女が声をかける。その手には縄が握られており、その先に繋がれているのは、若き男女グループ数名。廃村めぐりをしていた大学生といったところか。 「ああ、そこに置いてくれ。そこの男は金持ちの息子のようだな。その財を喰らい尽くすまで、食べないでおこう」 「できれば私にもまわしてください。キョンシーの数を増やしたいので」 「よかろう。そこの女子はくれてやる。化粧臭くて食欲がおきん」 少女は感謝の言葉を返し、女性を拘束する縄を引っ張り自室に戻る。可愛い手駒にすべく儀式を行わなくては。笑みを浮かべる白骨夫人。 「ここでの狩りもそろそろ限界だな。トウテツモンを一度解除し、近くの街に移動しよう」 トウテツモン――饕餮文と呼ばれる強固な魔除け。これにより『万華鏡』の予知を妨げ、今まで予知に引っかかる事はなかった。家の瓦として設置したそれを一旦解除する。新たな狩場に移動するまでその加護は受けれなくなるが、その間なら大丈夫だろう。 「うまく人の世に紛れる事が出来れば食事もしやくくなる。しばらくは力を蓄えなくてはな」 トツテツは積極的に人間の世を乱そうとはしなかった。それは一度この世界の守護者に手傷を負わされているからだ。力をある程度取り戻したとはいえ、人間の世をひっくり返すには戦力が足りない。それはわかっていた。 『蓬莱』から逃げた白骨夫人と出会えたのは幸運だったと言えよう。キョンシーによる戦力増加は有能な兵隊となる。多くの軍勢を作れば、それなりに彼らと戦えるはずだ。 「強いて難点があるとすれば、キョンシーにするために私の食べる分が減ることか」 キョンシー作製に白骨夫人に人間を渡している為、十分な食事が出来ていない。空腹感を押さえながら、トウテツは移動後のプランを考える。大きな街に移れば、この空腹感も少しは解消されるだろう。 ――その前に障害が一つ発生する事を、トウテツはまだ知らない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月17日(火)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「忙しくナルゼ」 一番槍を取ったのは『歩く廃刀令』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)だ。二本の刀を両手に持ち、白骨夫人を囲むように展開するキョンシーをすり抜け、一気に目標に迫る。狙うは白骨夫人。繰り出す刃が肉を裂く。 白骨夫人の視線を見て、その先から逃れるように走り回るリュミエール。相手が伝承の存在なら、こちらは九尾の狐だ。この速度についてこれないのは明白。移動しながら刃を振るい、白骨夫人を傷つけていく。 「生きている人はいないみたいだね……」 残念そうに呟くのは『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)。キョンシーの中に生存者がいるかも知れないと淡い希望を抱いていたが、現実はそう甘くはなかった。両手のナイフを交互に振るい、キョンシーを切り裂いていく。 自分の腕、ナイフを意識する。刃が届く範囲を意識しながら、ナイフの軌跡を夢想する。実際にはコンマ二秒にも満たない無想の世界。その時間で無限の軌跡を計算し、最適解を選択する。それにより生まれる、左右同時に振るわれる終の目まぐるしいナイフ。 「この不意打ちが全てを決めるといっても過言ではありませんね」 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は機械の眼で戦場を見渡し、トウテツの位置を確認する。敵陣の要にしてボス。あれをどう凌ぐかが鍵となる。指先からトウテツに向けて糸を放つ。真っ直ぐに放たれる神秘の糸。 トウテツはその糸を避けようと身をひねるが、それもあばたの想像範囲内。指先を動かし、糸にたゆみを作る。たゆみのよって生まれた糸の波がトウテツに触れ、そこから蛇が撒きつくように糸がトウテツの動きを拘束する。 「質の悪い害獣だな。犬や熊なら射殺で終い、撃って死なないなら綺麗さっぱり潰すだけだ」 唾棄するようにトウテツを見て『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が呟く。五感をフル稼働して戦場全体を把握しながら、懐から符を取り出す。放たれた符は力を帯びてキョンシーに降り注ぎ、その力を縛っていく。 両手両足の指よりも多いキョンシーの群。だがユーヌはそれに動じない。ここで怯えて手を抜くことが、後にどれだけの被害を生むかを知っているからだ。『普通の』生活を営む為に、怜悧に鋭く術を展開する。 「悪いけど仕事だから、正々堂々とかより楽な方法でやらせてもらうわよ?」 髪を書き上げながら『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)が魔力を収縮させる。説得の余地はない。人に被害を及ぼすアザーバイドは即討ち滅ぼすべし。確実に仕事をこなすこと。それがセレアのプライドだ。 詠唱をゼロに。術に必要な最低条件だけを抽出し、条件を整える。大仰な身振りはいらない。因果律を狂わせる呪文もいらない。足のステップと手の角度。そして自身の魔力を燃焼させ、大幅に短縮した魔法が降り注ぐ。 (徹底的に討ち滅ぼす) 『神堕とし』遠野 結唯(BNE003604)は静かに思考し、銃を構える。剣林との戦いで出てきた『蓬莱』のアザーバイド。それが撃ち滅ぼす相手だというのなら、完膚なきまでに倒すまで。ただ黙々と銃口を向け、引き金を引く。 サングラスの奥にある瞳が敵を捉える。必要なのは敵か味方か。敵なら殺すというシンプルな計算式。余計なものを省いた純粋な殺人行為は、ミスを行う余地がない。ただ繰り返し引き金を引き、敵を穿っていく。 「ここは貴様らのような化け物がくるべき所ではない」 怒りを口にして『善悪の彼岸』翔 小雷(BNE004728)は拳を握る。人を殺し、キョンシに帰る白骨夫人。人を喰らうトウテツ。共に許せる存在ではない。雷を拳に纏わせ、流れるような動作で拳を振るう。その動き、正に雷光の如く。 足をしっかり踏みしめ、大地の力を伝達させる。風を切るように体を動かし、流れる水をイメージして体を動かす。心の炎を燃やして力に変え、稲妻の武技でキョンシーをなぎ倒す。世界を示す五行の力。それを回転させるが覇界闘士の技。 「運命の海原往かん方舟や、未来を越えて彼方へ~」 胸に手を当てて謳う『非消滅系マーメイド』水守 せおり(BNE004984)。腹筋に力をこめ、そこを震わせるように声を出す。背筋を真っ直ぐ伸ばし、体の奥から世界に響かせるように。せおりの美声が戦場に響き渡る。 歌は大海原から響くように深く大きく広がり、津波のように強く敵を襲う。敵全てを押し流すせおりの美声。聞きほれる間もなく衝撃が襲いかかってくる。かくも美しく、そして恐ろしき海の抱擁。命無きキョンシーはそれに押しつぶされる。 「トウテツ様、敵でございます!」 「待ち伏せを喰らったか……どうやら予知能力者かそれに類する占い師がいるようだな」 慌てて戦線を立て直す白骨夫人。そして状況を分析するトウテツ。どうあれ今やらなければない事は決まっている。 十二対二十七。倍近い戦力差相手にも怯むことなく、リベリスタは破界器を構えた。 ● リベリスタの取った作戦は面制圧だ。即ちキョンシーを広範囲攻撃でしとめ、その後白骨夫人とトウテツを叩く。白骨夫人はキョンシーがいる限り復活を続ける。トウテツもすぐに倒せる相手ではない。ならばまずはキョンシーを叩くが吉。 キョンシー打破にユーヌ、終、小雷、せおり、『暴君』レオンハルト・キルヒナー(BNE005129)が接近して戦いを挑み、遠距離からセレア、結唯が。白骨夫人にリュミエールがつく。トウテツを押さえる為にあばたが向かい、回復役として『静謐な祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)、『此縁性の盾』四条・理央(BNE000319)、『ツンデレフュリエ』セレスティア・ナウシズ(BNE004651)が回る。白骨夫人の攻撃を警戒してか、戦場に散開するように展開していた。 だがキョンシーを直接殴りにいったリベリスタは数の暴力で体力を奪われる。 「あいたたたた。キツイなぁ、もう」 「この程度、黒騎士ほどではない!」 終と小雷が猛攻を前に運命を燃やす。 「ケッ! コノ程度ジャ、倒レテヤレネーゼ!」 白骨夫人の視線で石になったリュミエールも、運命を削りその呪いを解除する。 数の面で不利は否めない。だからこそのキョンシー打破。リベリスタ達はキョンシーを中心に攻撃を仕掛ける。 「貴様がキョンシーにした若者にだってこれからの人生があったんだ。人の命を何だと思っている!」 「あら、貴方達は武器の気持ちを考えながら殴るのかしら?」 小雷の怒りの言葉に口に手を当てて答える白骨夫人。彼女からすれば人間は自分の手駒以上の価値はない。その言葉に怒りを増す小雷。 「結構ボトムの生活に馴染んでるんですね。でもそろそろお帰りください!」 「そちらから穴を開けておいて帰れとは。面倒な連中だ」 終がキョンシーを刻みながらアザーバイドたちにお願いするも、トウテツはそれを一蹴する。被害者のように振舞っているが、あくまで演技。人を喰らう獣からすれば、ここはいい餌場だ。 「財を食らってご機嫌か? 肥え太った豚ならサンドバッグに丁度いいな?」 「確かに汝らの財は素晴らしい。一口で喰らうのが惜しいぐらいだ」 ユーヌの毒舌に言葉を返すトウテツ。リベリスタの装飾品は価値のあるものばかり。財を喰らって力を増すトウテツは満悦の笑みを浮かべる。 「貪欲だとか言うならさ、せめて運命に愛されることも手に入れちゃえば良かったのにね。それなら事と次第によっちゃ、ぶっ殺すところまでは行かなかったのよ?」 「殺す? ひな鳥が面白い冗句を」 セレアの言葉を鼻でせせら笑うトウテツ。自分が殺されるとは思っていないのか、その態度は尊大だ。伝説の悪神であったときと変わらず、その性格は悪辣。 「幻想種じゃないモノホンかぁ。ま、崩界要素は排除すべし、慈悲もなくね!」 「不遜だな。慈悲を請うのはお前たちだろうに」 人の姿を模したトウテツをせおりが見る。本物の魔獣。伝説そのものといっていい存在に憧れでもあるのだろうか。最もこのような人格には憧れないが。 「サァ踊ろうか夫人。ツッテモ私の方が年上ッポク見えネーナア、外見十八ナノニナお前」 「お好みなら、もっと幼い姿にもなれますわ」 刃を繰り出すリュミエール。それに口に手を当てて言葉を返す白骨夫人。ドウデモイイゼ、とそっけなく呟きリュミエールは刃を振るう。 「どうやら速度重視の装備が生きているようですね」 「私より先に動くか。うるさい羽虫が」 あばたはトウテツに糸を絡ませ、その動きを封じていた。相手の先手を取り、動きを完封する。ここで足止めをすることが自分の役目。捕らえる事はそう難しくない。 「……塵に帰れ」 結唯の弾丸が火を噴き、キョンシーの頭を穿つ。死体は殺せない。ただ無に帰すだけだ。キョンシーの来歴も生い立ちも必要ない。ただ殺すのみ。 白骨夫人やキョンシーの攻撃をアリステアやセレスティアが癒し、理央が白骨夫人の毒を癒す。そしてレオンハルトの一撃がキョンシーに叩き込まれる。 戦いの流れは順調だ。高火力の広範囲攻撃を叩き込み続ければ、キョンシーはいずれ力尽きる。そうなれば戦いはリベリスタ側に有利に運ぶだろう。 その考えは正しい。だからこそ。 「え?」 あばたは自分とトウテツの間に割って入ったキョンシーに軽い驚きを感じた。トウテツを庇ったキョンシー。このままでは直接トウテツを攻撃できない。だが問題はない――はずだった。 トウテツが身を翻す。地面を蹴り、全力で走り出す。 「――トウテツが。フリーになっているだと?」 キョンシーが全滅すれば、蓬莱のアザーバイドの勝利の目は薄くなる。 だからこそ、キョンシーが全滅する目に彼らは仕掛けた。 ● (トウテツが後ろに迫ったら押さえに入ろう) (夫人に三人ぐらい向かったらトウテツに回ろう) リベリスタはキョンシーを最優先に行動していた。そして誰かがトウテツを押さえるだろうと心の片隅に置いてはいたが、明確にトウテツに向かうものはいなかった。あばたが糸で封じている程度で、物理的な壁を用意していなかった。 勿論そのための心構えはしていた。後衛を守るために足を翻して向かおうとして―― 「……キョンシーがブロックしてくるだと!?」 リベリスタの倍あろうかというキョンシーが、彼らを足止めする。アークリベリオンの突撃技も、足止めされては意味を為さない。 「距離が僅かに足りない……!」 あばたはトウテツが後衛に向かった時にこちらを向かせようと術を放とうとして、それが届かない事に気付く。トウテツから少し距離を離していた事が仇となった。前に進もうにもキョンシーがそれを阻む。 リベリスタの面制圧により既に死に体のキョンシーだ。足止めはもって数刻だろう。 つまり数刻程、トウテツは後衛で暴れまわる事になる。 「やってくれる……!」 「う、はぁ!」 高い威力の魔法を放つセレアと回復役のセレスティアがトウテツの牙で運命を燃やす。 「……っ!」 「はぅ……!」 結唯とアリステアがトウテツの角で運命を燃やすほどの傷を受けた。 「あら貴方、落ち着きなさい」 キョンシーを攻撃する前衛に向けて、白骨夫人が足止めするように呪いの視線を向ける。理央の回復もあって足止めできる時間は僅かだが、その僅かすら惜しい戦況なのだ。 そしてキョンシーを一掃するリベリスタ。その時間はけして長くはなかった。 だがその時間でトウテツは後衛を徹底的に攻め続け、セレア、セレスティア、アリステア、結唯の四人を伏していた。そしてトドメを誘うとしたところに、 「アクセール、バスター!」 横合いからせおりが突撃し、トウテツを弾き飛ばす。キョンシーは全て倒れ、数の優位は逆転していた。 レオンハルトも参戦し、トウテツの移動を封じた。あばたが少し離れた場所から動きを封じる為に糸を放つ準備をする。 白骨夫人をリュミエール、ユーヌ、終、小雷が近づいて攻め、理央が白骨夫人の与える不調を取り払うべく構えていた。何とか戦端を仕切りなおす。 だが、 (一気に削られた。これは厳しいか……?) それはこの場にいるリベリスタ全てが思っていたことだった。 ● 獣の咆哮が響き渡り、鋭い牙が振るわれる。 「神の魔弾はこの程度では屈しない」 「負けてやるものか!」 トウテツと相対しているレオンハルトとせおりが運命を燃やす。 「三回に一回は避けますか」 あばたは時折こちらの糸を回避するトウテツに苛立ちを感じていた。さすがは悪神の一。むしろここまで動きを封じているあばたの腕がすごいのだ。 「品性のない子供だな。睨みすぎるとシワができるぞ」 白骨夫人に向かったユーヌが彼女の瞳で呪いを受けて、運命を燃やす。 「……チッ! ココマデカ……」 「あー、後は任せたよ」 霊魂の手に魂を掴まれ、ミュミエールと終が力尽きる。 二人を戦闘不能にしたとはいえ、本来後衛で戦う白骨夫人は回避能力に劣る。ミュミエール、終、小雷の撃を前に、追い込まれていた。 「これで終わりだ!」 「ト、トウテツ様!」 小雷の拳を受けて、白骨夫人が息絶える。崩れ去ると同時、灰となって消え去った。 「礼を言うぞ。あの小娘は我の食欲を満たす邪魔をしてくれたからな」 仲間が倒れたのに、それを意にも介さないトウテツ。その言葉には余裕があった。 その言葉に怒りを感じたか、リベリスタは弾かれたように動き出す。戦線に小雷が加わり、ユーヌとトウテツを攻め続ける。 「不運だな? 星の巡りが最悪で、やることなすこと裏目な怨めし売れ残り」 ユーヌは符をばら撒き、トウテツの守りを打ち砕く。それと同時にツキの流れを乱し、攻撃を遅らせる。唸るトウテツを見ながら次の攻撃の為に札を手にした。休んでいる余裕はない。 「全力全壊っ! デスティニーアーク!」 弓の弦を引き絞るように自分自身に力を込めて、一気に解き放つせおり。マーメイドの血で自身を回復させながら、トウテツに挑む。アークが神秘の力を得て生んだアークリベリオン。その粋の力を示すように、勇猛果敢にトウテツに挑む。 「トウテツ、そのその程度の咆哮で俺を止められると思うな」 トウテツの咆哮に心乱れることなく小雷は拳を振るう。包帯を巻きなおしてしっかり握り締める。和泉の湖面を思わせる静かな心を持ちながら、悪に対する烈火のごとき怒りの炎を燃え上がらせる小雷。もうこれ以上、仲間を傷つけさせない。 「……」 結唯が無言で銃を撃つ。乱れる呼吸を隠す余裕も無い。ならば今は気にせず撃つのみ。大切なのは敵を討つという事だけ。己の心を殺し、ただ銃を撃つための機械となる。 「とっとと倒れてくれませんかね?」 神秘の根絶を求めるあばたは、しつこくトウテツの動きを封じようと術を行使する。目的の為に最善手を尽くす。真面目なあばたは自分に出来ることで最大限の行動を行う。そこに我欲はない。あるいは真面目に仕儀とをこなすことがあばたの欲なのか。 あばたが動きを封じ、理央が体力を回復し、ユーヌ、結唯、小雷、せおり、レオンハルトがトウテツを攻める。数こそ減じたが、理想の流れは生まれていた。 だが、 (コイツの体力は底なしか……!?) 財を喰らったトウテツの体力は果てが見えなかった。リベリスタの回復を一部喰らっている事もあり、倒れる気配がない。そして時折あばたの糸による封鎖が外れたときは、猛攻撃を受けて一気に体力を削られる。 「……獣風情が」 「く、そぉ……!」 弱っているものを庇っていたユーヌと、小雷、結唯が力尽きる。これで残っているのはレオンハルト、せおり、あばた、理央の四人だ。 「逃げましょう」 「……ええ、仕方ありません」 あばたと理央が決断を下す。残った前衛が倒れれば、戦線は崩れる。そうなれば皆トウテツの腹の中だろう。今がそのギリギリラインだ。 過ちはトウテツをフリーにしてしまった事。たった一つのミスが大きく響いて、ここまで引きずってしまった。そして引き際を定めていれば、ここまで傷を負う事はなかったのに。 悔やんでいる余裕は今はない。倒れているものを抱え、リベリスタは撤退する。 トウテツはそれを追おうとはしない。身の程を知った痴れ者がとばかりに、愉悦に満ちた瞳で撤退するリベリスタを見ていた。 ● この後、トウテツが起こす事件を『万華鏡』が予知する事はなかった。 だが確実に、四凶の一はボトムチャンネルに潜んでいる。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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