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箱庭のワンダーランド。或いは、逃げ場のない恐怖。

● 箱庭ワンダーランド
 真夜中のドーム球場。その中央に、薄ぼんやりとした青白い炎が灯っていた。よくよく観察してみれば、その炎は1人の少女が手にした小さなランタンに灯ったものだと分かるだろう。
 金色の髪に、白い肌。赤いドレスを纏っている。その、人形のように整った美しい顔には、感情らしい色は浮かんでいない。まるで能面のように、彼女の表情は凍り付いたまま。黒目の存在しない真白い瞳で、手元の灯りを見つめていた。
 どれほどの間、少女はそうしていただろうか……。
 ギギギ、と軋んだ音を鳴らしながら芝生の上を1台の牛車が進んで来た。
 牛車を引く牛の姿は見えず、代わりに炎で出来た女性の輪郭がそれを引いている。ゆっくり、ゆっくりと炎の女性が引く牛車は進み、グラウンドの中央付近、金髪の少女の隣で停止した。
 バララ、と小気味の良い音をたてながら御簾が上がる。
 牛車の中からグラウンドへと放り出されたのは3人の男女であった。1人は警備員の制服を来た中年の男。それから、カップルなのだろうか、強く抱き合った若い男女。
 3人の顔色は青く、がたがたと恐怖に震えていた。
 それを見て……。
 金髪の少女は、にたり、と気色の悪い笑みを浮かべた。

● ようこそ愉快で、恐ろしい庭へ
『いらっしゃい。ぜひとも心行くまで遊んで、恐怖してください。わたしの庭に出口はありませんが、どのみちそう長くは生きておれませんので、問題ないですよね?』
 モニターの中で、金髪の少女はにたりと笑ってそう告げた。怯えた表情の3人の周囲に、青白い炎が灯り始める。炎の中で蠢く影は、蜘蛛や百足などの害虫らしき形をしているのが、モニター越しにも確認できる。
 それを見て『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は露骨に顔をしかめてみせた。
「アザーバイド(コフィン)と、彼女の協力者でもあるアザーバイド(朧)の2人組。目的らしい目的はなく、たまたま迷い込んだこの世界で趣味に興じているだけ、のようね」
 突如現れた不気味な毒蟲に慌てふためき、3人の男女はその場から逃げ出した。
 途端、コフィンは笑みを消し、もとの無表情に戻る。それから、静かに、囁くように、傍らの朧に向かって『次』と告げた。
 それを受け、朧はゆっくりと牛車を引いて球場から出て行く。
 恐らくは、新たな獲物を探しにいったのだろう。

 一方其の頃、逃げ出した3人は恐怖に涙し、半狂乱となって駆け回っていた。
 初めに彼らを襲った毒蟲など、コフィンの仕掛けた罠の序章にすぎない。
 彼らの前に次々と現れるのは、血まみれの拷問器具や、それを引きずるボロ布を被った大男、兎の被り物を被って鉈を振るう怪人、グロテスクな肉塊の怪物などであった。
 真っ暗な球場で、しかし不思議と光源などなくとも、数メートルほど先までは見通せる。もっとも光源があったとしても、光が届くのはせいぜいが十数メートルほどといったところであろう。
 出口も分からず、自分たちがどれほどの時間、どれほどの距離を逃げ回っているのかも理解できないまま、彼らはただただ、逃げ惑う。
 力つき、動けなくなるまで、ずっと……。

「コフィンの作った結界のせいで、彼女の許可なき者はドーム内に入る事ができず、またドームの外に出る事もできない」
 淡々と、呟くようにイヴは言う。
「ドームへ入るには、ドーム周辺をうろついている朧に声をかければいいみたい。そうすれば、朧の牛車でドーム内へと連れて行ってもらえるから」
 とはいえ、牛車に乗れるのはせいぜい3人が限度であろう。
 つまり、一度にドーム内へ移動できる人数は3人まで。それ以降は、朧が再度戻って来るのを待つ必要がある、ということだ。
「コフィンは、毒蟲や、拷問仕、狂い兎、肉塊の怪物を召還する能力を持っているわ。手数を量産できる反面、自身の戦闘能力は高くない。一方朧は、動きは鈍いけど頑丈な体を持っているから倒すのに時間がかかるかも。火炎を使った攻撃を得意とするわ」
 現状、ドーム内に閉じ込められている一般人は3名。
 朧の足止めをしないと、更に増える可能性もある。ドーム内では、光源を持っていても十数メートル先までしか見通せないので、最悪の場合、逃げ惑う一般人や、遠方の仲間を誤って攻撃してしまう事も有り得るだろう。
「目的があって行動している相手ではないから、場合によっては話し合いである程度解決、譲歩できる部分もあるかもしれない。
 もちろん、問答無用で撃退しても一向に構わない。この世界からいなくなってくれさえすれば、リベリスタとしての任務は成功だ。
「注意すべきは暗い視界と、ドーム内に入ってしまった後は撤退できないこと、一般人の存在ね。ドーム内のどこかにDホールが開いているから破壊してきて」
 行ってらっしゃい。
 と、そう告げてイヴは仲間達を送り出した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年03月12日(木)23:00
お疲れさまです。
少しずつ暖かさが戻ってきましたがまだまだ寒い日が続きます。風邪など引いてはおられませんでしょうか?
今回は、異世界からの来訪者に乗っ取られたドーム球場が舞台です。
箱庭からの一般人救出劇、或いは脱出劇となります。
それでは、皆さんのご参加お待ちしています。

● 場所
ドーム球場内、及びその周辺。
球場内は暗く、数メートル先までしか見通せない。光源を用いても、前方十数メートルが限度。一般人が3名、球場内のどこかを彷徨い歩いている。
ドーム内に入るには、朧の引く牛車に乗る必要がある。一度に入れる人数は3名まで。また、ドームから出るにはコフィンの討伐、或いはコフィンの許可が必要になる。
ドーム周辺を朧がうろついて、次の獲物を探しているようだ。声をかければ、簡単にドーム内へと運んでくれるだろう。
ドーム内のどこかにDホールが開いている。

● ターゲット
アザーバイド(コフィン)
一定の規模までの封鎖された建物を、自分の箱庭に変えることができる。
箱庭への出入りは、彼女の許可が必要。
赤いドレスに金髪、黒目のない白い目をした無表情の少女。
自身の戦闘能力は高くない。また、箱庭展開中は移動に制限がかかるので、あまりうろちょろと動き回ることはできない。
【毒蟲】→神近単[毒]
毒蟲による攻撃。数が多く、常にドーム内をうろついている。
【拷問仕】→物近単[呪縛][流血]
拷問器具を引きずる大男を召還する。
【狂い兎】→神遠複[流血][混乱][ブレイク]
兎の被り物を被り、鉈を持った殺人鬼を召還する。
【肉塊の怪物】→物近範[ノックB][圧倒][隙]
グロテスクな肉の塊じみた姿の怪物。よくよく見れば、女性的なフォルムをしていることに気付くだろう。

アザーバイド(朧)
火炎を纏った女性。牛車を引いている。
コフィンの協力者であること以外、性格など不明。箱庭へ人を送り込む役割を担う。
動きは鈍いが、防御力が高く討伐に時間がかかる。また、状態異常やノックBなどが効き辛いという特性を持つ。
火炎を使用した攻撃を行う他、自身に近距離攻撃を行った相手に対し[反射]ダメージを与える能力を持つ。
【火炎車】→神近範[業火][ブレイク]
自身と、自身の引く牛車から火炎を噴出させる。


参加NPC
 


■メイン参加者 4人■
ハイジーニアスソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
フライダーククリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
ギガントフレームデュランダル
柳生・麗香(BNE004588)
ハイフュリエダークナイト
リーナ・ハハリ(BNE005116)

●恐怖満ちるドーム
 不気味な場所だ。真っ暗で、何処までも闇が広がっているような感覚に、自分が何処を走っているのかも分からなくなり、気を抜けばすぐにでも発狂してしまいそうだ。
 現在、何名かの一般人が、この異様な空間に閉じ込められている。この空間を作り出したのは、アザ―バイド(コフィン)と(朧)という名の2人の女性だ。
 コフィンは赤いドレスを、朧は火炎を纏い牛車を引いている。その牛車で人を捉え、この世界へと引き摺りこむのだ。
 この世界を作ったのは、コフィンだ。ドーム球場を基礎とし、自分の結界とも呼べる異様な空間(箱庭)を作成したのだ。コフィンの許可なきものは、誰1人としてこの世界へと足を踏み入れることはできない。そして、コフィンが許可を下した者は朧だけ。
 つまり、この世界へと入るには朧の引く牛車に乗り込む以外に方法はないのである。
 3人の男女を箱庭へと運び込み、朧は再びドームの外へと出る。
 キョロキョロと、真夜中のドーム周辺を見渡し新たな得物を探す朧の元へ、何者かがにこやなか笑顔で駆け寄ってきた。

「わー☆ 牛車って初めてみるー☆ 何かのイベント??」
 人懐こい笑みで朧に語りかけるのは『エンバー・ラストの灯り』鴉魔・終(BNE002283)であった。彼から遅れて、女性が3名、朧の傍へと歩み寄ってくる。
 服装にも、外見にも統一感のない4人組だ。彼らは、アークという組織に所属しているリベリスタであるのだが、朧やコフィンはそのような存在のことを知らなかった。
 リベリスタこそが、2人のようなアザ―バイドの天敵であることなど知らず、朧は小さく、囁くように問うた。
『乗る……?』
 行き先は、恐怖の満ちた箱庭の中。
 一度に乗れるのは3名までなので、4人いる彼らを一度では運んでしまえない。
 だからだろうか。
 そう訊ねた朧の表情が、どことなく困ったように見えたことは。

●箱庭の中の怪物達
「一般人をいたぶるのは、ちょっとやめて欲しいですね。とはいえ厄介な能力を持っている感じなのが嫌ですよう、やーん」
 3人を箱庭内に降ろし、朧はそのまま終を迎えに外へと出て行く。それを見送り、『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は震える声でそう呟いた。
 暗視ゴーグルや、スキルを使って索敵能力を底上げ、そのまままずはコフィン或いは既に箱庭内に連れ込まれている一般人を探す手筈になっている。
「まずは手分けして一般人をさがすこと。人を隠せる場があるか箱庭の地形の把握。怪物がでても避けることにつとめる、でOK?」
 腰の剣に手をかけ『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)がそう呟いた。箱庭の中には、コフィンの作りだした怪物達が蠢いているという話だ。
 一般人が箱庭に入ってどれほどの時間が経過しただろうか。全員が、まだ無事でいるという保証はない。コフィンの目的は、どうやら“恐怖”にあるようなので、あっさりと命を奪うような真似をするとは考えにくいが、それでも事故というものは存在する。
 不慮の事故で、あっさり死んでしまうほど、人間という存在は脆い。
「ま、魔女たる私がこのようなまやかし程度を怖がる理由などない!」
 ましてや、一般人よりも遥かに異形、異常の存在になれたはずのリーナ・ハハリ(BNE005116)でさえ怯えるほどに、この箱庭の中は不気味で、異様な雰囲気に満ち満ちているのだから。

 先行した3名が、箱庭内で散開し一般人達の捜索に乗り出した頃、終は朧の引く牛車に乗って、箱庭へと向かっていた。
 片手で、ナイフをくるくると回しながら、その口元には笑みを浮かべている。
「ホラーは好きだけど、リアルホラーはないないしちゃおうね~☆」 
 楽しみだ、とでも言うように。
 肩を揺らして、終は笑う。
 くすくすという笑い声を御簾越しに聞きながら、朧は小さく、首を傾げた。

 暗視ゴーグルを付けてさえ、視界を確保できるのは10メートル程度。千里眼を用いても、イスタルテの目にはコフィンも、一般人の居場所も映らない。
 足で探すしかないだろうか、と仲間と別れ暗闇の中へと足を踏み出したその瞬間、イスタルテの視界に、地面を蠢く奇妙な物体が姿を現した。
「ひぇ……」
 イスタルテの口から、小さな悲鳴が零れる。ヌメヌメと光る体表と、無数に生えた手足。毒液を垂れ流す無数の棘。ひと抱えほどもある、巨大な毒蟲だ。 
 それも1匹や2匹ではない。その数は実に、十数匹。否、もっと多いかもしれない。視界に映るだけでその数だ。暗闇の中には更に無数の毒蟲が蠢いていることだろう。
 咄嗟に武器を構え、しかしイスタルテは思い出した。
 まずは一般人の無事を確保することが優先だ。その為には、不要な戦闘は避けるべきである。
 そう考え、イスタルテは翼を広げ空へと飛んだ。
 くるりと反転し、その場から逃走を図るイスタルテを追って、無数の毒針が射出された。

 イスタルテが毒蟲と遭遇している頃、麗香もまたコフィンの呼び出した怪物と交戦を開始していた。
「うわ、っと!」
 空気を切り裂く鋭い音。
 しゃがみこんだ麗香の頭上を、2振りの鉈が通り過ぎる。鉈を振るったのは、兎の被り物を被った不気味な男だ。麗香の髪の端が切断され、周囲に散らばる。冷や汗を浮かべ、彼女は剣を引き抜いた。
 下段から上段へと、麗香は剣を振り上げる。
 だが……。
「コフィンはずいぶんと退屈な世界からいらしたのですね。このボトムでは退屈のしない刺激的な日々を送れると思いますよ」
麗香の斬撃を、鉈で受け止める狂い兎。火花が散って、数歩後ろへ後ずさる。
それを追って、麗香は地を這うような低姿勢で駆け出した。振り上げた剣を手首の動きだけで反転させ、今度は走る勢いそのままに、上段から下段へと、叩きつけるように片手で剣を振り下ろした。
「もっともあなたの命の保証はいたしませんけどね!」
 麗香の剣が、狂い兎の右腕を切り落とす。血液の代わりに噴き出したのは、怖気を感じるようなどろりとした闇だった。
 狂い兎は、悲鳴さえ漏らさず、残った左手で鉈を振るって麗香の腹部を切り裂いた。
 麗香と兎、共に刃物を武器とする者同士。
 暗闇の中、火花を散らして斬り合いが始まったのは、当然の成り行きと言えるだろう。
 
 暗闇の中、暗視を駆使してリーナは駆ける。
 目の前に飛び出して来た、腐臭漂う肉塊の怪物を飛び越し、背後から投げつけられた鉄球を蹴って更に前へと跳んで行く。
 リーナは、無数の拷問器具を引き摺りながら追ってくる大男と、地面を這いずるように移動する不気味な肉塊の猛攻を、既に数分ほども回避し続けているのだ。
 呼吸が乱れ、集中力も限界に近い。単体用の攻撃スキルしか備えていない今のリーナは、絶え間ない連続攻撃、それも複数体の相手をするのは得意ではない。
「あぁぁもう! 一般人の捜索をしつつ、襲撃があればコフィンを仕留める予定でしたのに!」
 進路を塞ぐ肉塊を、大鎌の一撃で切り裂いて着地。
 踵を返し、大男の突き出して来た鉄の塊を受け止めた。鉄の塊は、女性の姿をかたどっている。全面が開き、その内側には人一人が収まるスペースと、無数の鉄棘が並んでいた。
 アイアン・メイデンと呼ばれる拷問器具だ。その外見は、拷問というよりも処刑器具に近い。
「悪趣味です!」
 鎌を器用に翻し、アイアン・メイデンを受け流す。そのまま、滑るような動きで大男に接近すると、鎌を振り上げその胴体を切り付けた。
 大男が、呻き声を上げ溶けるように消えていった。
 その直後。
 リーナの両足に、肉塊の怪物が纏わり付いた。
 
 毒蟲の追走を振り切り、ついにイスタルテは一般人達を発見した。最高速度で現場へと向かったイスタルテの視界に映り込んだのは、恐怖で半狂乱となり放心している一般人たちの姿であった。
 その周囲を囲むのは、数体の毒蟲たちだ。
「危険状況ですね。まずは敵を排除して安全を確保します」
 フィンガーバレットを構え、銃弾を乱射。まずは1体の毒蟲を排除する。次いで、翼を広げ、燐光を含んだ強風を巻き起こす。
 風に巻かれた毒蟲が潰れ、毒液もろとも消滅した。
「無事ですかっ!」
 呆然と、虚ろな目で虚空を見つめる一般人達の元へイスタルテが駆け寄っていく。
 そんな彼女の進路を遮るように、炎を纏った牛車が現れた。

『驚いた……』
 そう呟いて、朧はイスタルテへと視線を向けた。
 更に、暗闇の中から赤いドレスの少女、コフィンが姿を現す。
『私の箱庭で、何を暴れているの。貴女達は、ただ恐怖していれば良かったのに』
 真白い、黒眼のない瞳でイスタルテを睨みつけコフィンは暗闇の中から何かを引き摺りだすような動作を繰り返す。
 その手の動きに導かれるように、暗闇から姿を現したのは兎の被り物を被った殺人鬼であった。
『殺してしまうのは趣味じゃないけど、でも、仕方ないわ。邪魔なものは、排除しないと。そうでしょ、天使さん?』
 天使、とコフィンはそう言った。イスタルテの翼を指して、そう呼んだのだろう。
 鉈を振り上げ、狂い兎が跳び出した。
 その瞬間。
「そうだね。邪魔なものは排除しよう☆ リアルホラーはないないしちゃおうね~☆」
 牛車から飛び出した終が、ナイフを一閃。背後から、狂い兎の首を掻き切る。
 さらに、AFから設置用トラックを取り出して一般人達を護る壁とした。
『………………朧?』
『ごめん。それと、たぶんあと2人いる』
 コフィンは小さく溜め息を零し、朧は困ったように眉を下げた。

●箱庭の支配者と火炎の牛車
 狂い兎を斬り捨て、呼吸を整える麗香のAFにイスタルテから連絡が入る。
 一般人と、それからコフィン、朧を発見した、という朗報だ。居場所を確認し、現場へと急行する麗香の視界に、肉塊に絡め取られたリーナの姿が映った。
 擦れ違い様に剣を一閃。肉塊を切り裂きリーナを解放する。
「ありがとうございますっ! っと!」
 肉塊の拘束から解放されたリーナは、鎌を一閃。リーナの鎌に、幾つもの色を混ぜ合わせたような不気味な色合いのオーラが収束した。
 鎌で切り裂かれた傷跡からオーラは、肉塊の中へと浸食。
 次の瞬間、肉塊は激しく痙攣しそのままべしゃりと潰れ、溶けるようにして消滅する。
 肉塊の怪物が消え去ったことを確認し、リーナは麗香の後を追ってイスタルテ達の元へと駆け出したのだった。

 コフィンが次々に呼び出す怪人、毒蟲達をイスタルテと終は撃破していく。
 イスタルテの弾丸が毒蟲を潰し、終の斬撃が怪人達を凍らせ、切り刻む。
 だが、敵の数は一向に減らない。一般人への被害を抑えるため、イスタルテはトラックの上から朧の動きに警戒している。しかし、朧はぼうっとした目で戦況を眺めるばかりで、戦いに加わるつもりは今のところないようだ。
 コフィンはといえば、動きの素早い終を注視し、自分への接近を防ぐことで手が一杯らしい。
「一気に距離を詰めたい所だけど……」
 そう上手くはいかないようだ。目の前に現れた鋼鉄の乙女と大男が終の斬撃を受けとめる。
 一瞬、全ての動きが止まる。
 次の瞬間、大男は凍り付き砕け散った。
 だが、即座にコフィンの足元から肉塊の怪物が姿を現し、死角から終へと襲い掛かる。それを阻んだのは、イスタルテの放った弾丸だ。
 肉塊の怪物は、肉片へと姿を変え、腐臭をばら撒く。
「やっぱり、厄介な能力ですよぅ。やーん」
 鼻を押さえ、顔をしかめるイスタルテ。コフィンや朧も、飛び散った肉片を見て顔をしかめている。
『恐怖しなさい。そして、死んでいきなさい』
 そう呟いて、コフィンは暗闇の中から無数の毒蟲を呼び出した。
 コフィン自身の戦闘能力は高くない。おまけに、箱庭を展開している間はあまり動きまわることもできないようだ。だからこそ、こうして配下を召喚しては、恐怖を与えるように敵を襲わせる。
 だが……。
「このボトムにはあなたの箱庭を壊せる存在が闊歩しておるのです。ぜひとも心行くまで遊んで、恐怖してください! 命が惜しければお帰りになったほうがよろしいですよ?」
「貴方の演出する恐怖は『怖いモノという記号』を寄せ集めただけで、本質的な怖さではない、ね?」
 麗香の剣が、リーナの鎌が毒蟲達を斬り捨てる。
『朧っ……!』
『…………あと2人、って言ったじゃない』
『言ったけど! なんでこんな奴らを連れて来ちゃったの』
『誰でもいいから連れて来いって言ったでしょ』
 拷問仕の大男を、狂い兎を、肉塊の怪物を次々に呼び出しながらコフィンは叫ぶ。
 戦闘を得意としないコフィンにとって、自分の配下に恐れを抱かない相手が複数揃ったこの状態は、非常に不利だと言えるだろう。
 跳び出して来た狂い兎の鉈を、麗香の剣が受け止める。
 拷問仕の振り上げた首切り斧を、リーナの鎌が切り落とす。
 リベリスタ達の動きを妨害しようと、肉塊の怪物が這いずるが、しかしそれをイスタルテの弾丸が木端微塵の肉片へ変える。
『うそ……』
 一度に呼び出せる数には限界があるのだろう。
 或いは、これまで怪人の召喚を続け、疲労が蓄積していたのかもしれない。
 今まで、無表情を貫き通していたコフィンの顔に、冷や汗が浮かぶ。
 自分目がけ、全速力で駆け寄ってくる終の姿を視認したからだ。慌てて、暗闇の中から怪人を呼び出そうとするが、間に合わない。
 冷気を纏った終の刃が、コフィンに迫る。
『………………ひっ!!』
 恐怖に目を瞑ったコフィンだったが……。
 恐れていた痛みは、一向に襲って来ない。恐る恐る目を開けたコフィンの視界に映ったのは、真っ赤に燃える牛車であった。

 終のナイフが炎に包まれる。否、ナイフだけではない。終の全身を、火炎が包み込んだ。
「あっちチチチ!」 
 慌てて後退する終の身体を、淡い燐光が包み火炎を消火。イスタルテによる回復術が、終の火傷を癒していく。
 コフィンの窮地を救ったのは、今までじっと戦況を眺めていた朧であった。
 朧の防御力が高いことを事前に知っていたリベリスタ達は、警戒心も顕わに武器を構える。
 しかし……。
『コフィン……。これ以上は無駄。恐怖が足りない。貴女はもう、箱庭の維持も難しいでしょ』
『……………う』
『そういうわけだから、そちらの提案を受け入れようと思うわ。私達はすぐに、元の世界へ帰ります。攫って来た人間達も、皆無事よ。少しだけ、混乱しているかもだけど』
「それはこっちで引き受けるよ☆ 病院に搬送して貰って怪我や精神面のケアして貰うのがいいかな?」
 ナイフを降ろし、終は告げる。
 それが、終戦の合図となった。
 溜め息を零し、コフィンは軽く手を振るう。それと同時、周囲を覆っていた暗闇が消え失せる。
 暗闇の箱庭から、元のドーム球場へ。球場の端には、Dホールが開いているのが確認できる。
 不満気なコフィンを引き摺るようにして、朧はDホールへと向かって歩いていった。

 どこまでも、マイペースなアザ―バイドだった。
 それが、リベリスタ達の感想だった。一歩間違えれば、誰かが命を落としていたかもしれないのだが、しかし結果的には死傷者はゼロ。結果オーライ、と言ったところか。
 いつの間にか気絶していた一般人達を回収し、Dホールを破壊すれば任務は完了だ。
 溜め息を零し、リベリスタ達は後始末へと乗り出した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
おつかれさまでした。
コフィンと朧は、元の世界へと帰って行きました。攫われていた一般人たちも、多少のトラウマを負ったものの、無事に救助されました。
依頼は成功です。

この度は、ご参加ありがとうございました。
これにて、『箱庭のワンダーランド。或いは、逃げ場のない恐怖。』の物語は終了です。
それでは、また縁がありましたらどこかでお会いしましょう。