● ――――あなたの好きな色はなんですか? 「助けてくれてありがとう」 二色世界の白い少女、リスティ・メイティはぺこりとリベリスタに頭を下げる。 先日、化け物に襲われていた彼女達を助けたのは『彼ら』だったからだ。 「傷はもういいのか?」 少女の腕の中には未だ包帯の取れていない相棒、時計ガエルのマルコが居る。 「僕は大丈夫だよ。こんな事でヘタレてたらリスティのお守りなんて出来ないからね!」 「ちょっとマルコ! どういういう意味よ!」 いつもの調子で会話を弾ませる二人にリベリスタは笑みを零した。 思ったよりも元気そうだ。 リスティの腕や頬には小さな赤い傷跡が残っているが、この程度ならば直ぐに消えてしまうだろう。 そう、リベリスタは思った。 『赤い傷跡が残っているが、この程度ならば直ぐに消えてしまうだろう』 思い至って、違和感を感じる。 二色世界は白と黒。それに付随するグレーで世界の色が成り立っているのだと聞いていたからだ。 そこから落ちてきたリスティとマルコも当然、リベリスタの目には白く映っている。 否、白く映っていたはずだった。 「オイ、その傷は大丈夫なのか?」 「え? もう少ししたら治ると思うけど……」 不思議そうにリベリスタを見上げたリスティの瞳は、霧がかった森の様な薄い緑色。 頬はごく薄い桜色。注視しなければ見逃してしまいそうな色調が確かにあったのだ。 「『色』の事を言っているのかしら?」 「ああ、君たちの世界は二色しかないんだろう? だったら何故……」 リベリスタの疑問に少女は視線を落とし、小さく首を振る。 「分からないの。何が起こっているのか。でも、きっと聖白老様と聖黒老様に何かあったんだわ」 「聖白老様と聖黒老様? それは誰だ?」 項垂れた少女の頭を撫でながらリベリスタは膝を付き、少女へ目線を合わせた。 「私達の指導者であり、統率者であり、父であり、母である人達の事よ。みんなが二人を慕い敬い尊んでいる」 「そうか、心配だな」 「うん。聖白老様、聖黒老様……」 俯いて手を固く握りしめるリスティの声が、静かなブリーフィングルームの中に小さく響いた。 「何じゃ、呼んだかいのう?」 ひょこ。 突如として空間の狭間を割って現れたのは真っ白な髭を長く伸ばした老人。 対するは目をまんまるにした真っ白な少女。 「え……えええええええ!!!!? 聖白老様ーーーー!?」 「いえーい」 ピースを外側にずらしながらキメ顔。口調は抑揚のない物が好ましい。 ともあれ。 聖白老と呼ばれる二色世界のミラーミスはリベリスタ達に自分達の世界の事を詳細に語りだした。 ● 世界は色で満ち溢れていた。 空は何処までも青く時に七色に煌き恵みの雨をも齎す。 夜空は満点の星空と小さな月と大きな月。瞬く流星は多彩な色を映し出した。 森は爽やかな新緑の彩りに包まれて風や鳥が歌っている。 人々は『色』を大切にし、心の支えにしていた。『色』は世界の意志であったのだ。 けれど、ある時それは失われてしまった。 次元の狭間からやってきた異世界の化物が人々の『色(いのち)』を喰らったのだ。 まるで『エサ』の様に食い散らかされたのだ。 それを憂いた二人の勇者と仲間たちはその異世界からやって来た強大な敵に戦いを挑む。 なんとか化物をを異世界へと追い返す事に成功した勇者達。 しかし、犠牲になった仲間の命と大地に残る傷跡。 広大で肥沃な星は壊滅的な損傷を負い、世界は分解してしまった。 残った人々は肩を寄せ合いごく小さな場所に集まり細々とした生活を余儀なくされた。 そして、二人の勇者は自分たちの自由と引き換えにこの世界から『色』を失くしのだ。 未来永劫この世界を鎖し、害ある者から守りぬく為に。 「子供達に語っている創世の話は全て真の事じゃ」 聖白老はもさもさした髭を撫でながら頷く。 「この異世界というのが、二色世界に優位性を持つ虚飾世界ということになります」 海色の瞳で聖白老の言葉を補足する『碧色の便り』海音寺 なぎさ(nBNE000244)。 二色世界を虚飾世界から守るために彼らの『エサ』となる『色彩』を白と黒の長老は封印していた。 「そうじゃ。このオーブに『色彩』を封印しておる」 曖昧な色をした玉が老人の手の平の上に乗っている。リベリスタが見ても強力なパワーを秘めているであろう事が判断出来た。 「……それで、お主らに頼み事があるのじゃ。ワシらの世界を救ってはくれんかのう?」 老人の表情に憂いがにじみ出る。それだけ絶望的な状況なのだろう。 「虚飾世界のシュヴァインが現れ、ワシらの命を脅かしておるのだ。しかし、ワシにはどうする事もできん」 二色世界のミラーミスである二人の長老はその力の全てをオーブに込めてしまっているのだ。 彼がこのボトムチャンネルに現れている間、向こう側では聖黒老が倍の負担を強いられている。 二人が戦うことは出来ない。 それに色彩を持たないこの世界の住人達はボトムチャンネルより上位世界で在るにもかかわらず戦闘力が殆ど無いのだ。 それも長老達がこの世界を守るために色彩を封じた結果。 でも、それを全て開放したとしても、戦いを知らない住民達では敵わない。 今回の敵はきっとアークのリベリスタにとって、これまで彼らが戦ってきた存在ほど強くはないのだろう。 けれど、この世界の住民達にとっては存亡を掛けた危機ということである。 この世界の住人であるリスティに多少なりとも関わったリベリスタは心情的には救いたいとかんがえるのは自然なことなのかもしれない。 だが、異世界に降り立つ以上リスクはどうなのだろう。 「私達の世界には、『色彩があります』」 「左様」 なぎさの言葉を長老が肯定する。『色彩』を『エサ』とする虚飾世界の住人にとってみれば、二色世界を滅ぼした次の矛先がこの世界となることは、想像に難くない。 つまり、温厚かつ友好な二色世界の住人に協力し、虚飾世界の攻撃的なアザーバイドに痛烈な打撃を与えることは、この世界の安全にも繋がるということだ。 「なるほど!」 だからリベリスタ達は、かの異世界に赴いて虚飾世界の侵略者を撃滅しなければならない。 侵略者の頭目シュヴァインの力は強大であり、はやくも二色世界に満ち始めた微かな色彩を次々と取り込みはじめた。 このままでは手がつけられなくなる。 「どうすればいいんだ?」 まずは普通に戦うしかない。 けれど、この世界も含む色彩を持つ世界の住人の攻撃では最終的には彼等のエネルギーに転換されてしまい、完全に滅ぼすことは大変難しいと思われる。 「ならどうすれば?」 二色世界の長老達が述べるには、このオーブには二百年間封じられてきた色彩の力が篭められているという。 敵を瀕死の状態に追い込み、このオーブをつかってやるのだ。 「え、大回復とかするんじゃねえの?」 長老はいつの間にか口にしていたチューインガムをぷーっと膨らませる。 ――ぱん! 「こういう事じゃ」 「あ、ああそう。つーか、軽いジジイだな」 「そんなこと言っちゃダメだよ!」 「つうか。え、なに、じいさんミラーミス?」 かつてR-TYPEが現れた時に、ただのそれだけで多大な影響を与えた事はこの国の神秘界隈ではトラウマとも言える事態だったのだが。 「安心せい。ワシはそこのリスティを通して投影しとる、幻のようなものじゃて」 彼女はこの世界では奇跡的にフェイトを得ている存在で――まあ、理屈はともかく大丈夫なら心配ない。 「んでまあ、作戦か」 「そうじゃな」 じいさんの提案した作戦は、ありったけの色彩エネルギーをぶちこんでやるというものらしい。 ずいぶん大雑把だが、話がこうまで大きくなってしまえば、かえってそんなものという気もする。 例えばどれだけ相手の許容量が大きくとも、そこには限界がある。 そしてこのオーブには二色世界の全てに等しいと言える力が宿っているのだ。 必要以上の力を取り込もうとしたシュヴァインは限界を超えた力に自滅してしまうだろう。 長老が言うには、そのまま一気に敵が出現するゲートまで完全破壊してやればいいとの事だが。 「それはいいが、また出てきたらどうするんだ?」 この処置を施せば、虚飾世界が再び二色世界へ侵攻するのに百年は必要になると長老は述べ、続けた。 長い年月をかけて築き上げられた次元の橋もろとも、世界を遠ざけるやらなんたら、信じられないような話が続くが、まるで実感は湧かない。 「まあ。次は。戦うことも、考えねばならんかもしれんな」 隠れた結果が現在の事態であったのだから、当然の帰結だろう。 では失敗すればどうなるのか。すぐに二色世界と虚飾世界の戦いになるのは明白だと思える。 だが戦いを知らぬ住人達が無理やり戦い始めた所で勝敗は見えているだろう。 「……」 そんな話をした所で栓の無い事。リベリスタはあえて何も言わなかった。 それにこのご老体とて重々理解している事だろう。 他に重要なことは。 「ところでオーブってどうやって使うの?」 「やってみればわかる」 「まじかよ」 なにはともあれ、やるしかないのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:もみじ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月03日(火)23:54 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●I chase/追う 「せおりさん――!」 「痛てて……あ、れ? オーブの、使い方間違ってたの……、かな……」 カーニバル・レッドに彩られた人魚の視界は赤と黒に明滅して滲んで行く。 チカチカと光るオーブの遊色は青い少女の瞳に色を灯さず。 静かに閉じられた瞳は黒い海に――――沈んだ。 ―――― ―― 「要は敵の親玉を徹底的にボコればいいって事だよね?」 「そうですね。其の様に思います」 ブリーフィングルームに響く『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の声に『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が応える。 フォーチュナや聖白老からの説明を受けて二色世界へと向かう準備を始めるリベリスタ達。 「世界を救う……だなんて、おとぎ話の勇者にでもなったみたいね」 フィエスタローズの瞳を細めて『約束のスノウ・ライラック』浅雛・淑子(BNE004204)はくすりと笑う。 「ふぉふぉっふぉ、意外と成れるもんじゃよ。お前さんらなら必ずやってくれるじゃろう」 リスティとマルコは心配そうに淑子達を見つめた。 「リスティさん、マルコさん。大丈夫よ。絶対に護るから」 力強い言葉に白い少女は頷く。 「皆、無理しないでね」 「ところで、二色世界へはどうやって行くんでしょう?」 『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)が長老に視線を向けた。 「そうじゃのう……結びつきの因果が強ければ強制的に開くことも出来るんじゃが」 顎に手を当てて髭を撫でる聖白老。 「聖白老様。私、マーガレットの押し花を持ってるわ」 リスティが取り出したのは赤いマーガレットの栞。 「同じものがお部屋にあるからこれじゃだめかな?」 「それは……もしかしてあの時の?」 淑子がお土産にと渡したマーガレットの種は花を咲かせ、そのうちの幾つかを押し花にしてリスティは持っていたのだ。 「うむ。それなら大丈夫そうじゃな」 「うんうん☆ オレ達の世界も色のある世界だから他人事じゃないよね。取りあえず! リスティちゃん達の世界に平和と色彩を取り戻す為に頑張ろう!」 「「おー!」」 『エンバー・ラストの灯り』鴉魔・終(BNE002283)の声にリベリスタ達は拳を高く上げた。 ●I search/探す 「やっほー☆ シュヴァインさん☆ お腹の具合はどうですか?? ぺこぺこ??」 二色世界の虹の祭壇。ゆったりとした虹色の空間を突如として引き裂いて現れたシュヴァイン達に終は挑発を掛けた。彼の身体はシュヴァインが動くより早くギアを最高速に組み替えている。 「なら、オレとか食べてみる??」 シルヴァの剣跡は残像を残して舞う。続けざまに幻影を纏った剣でシュヴァインを切りつけた終。 「何だ、てめぇら!」 淑子の耳にシュヴァインの怒声が響く。腹を空かせた動物に理性等求める方が困難であるのだ。 巨人は終目掛けて黒い斬撃を振り下ろす。 「……うーん。流石に、痛いね☆」 痛打を受けて終の腕からアガットの赤が吹き出した。 アンジェリカの読み通り、リベリスタ達の『色彩』に反応して一番強い色が感じられた虹の祭壇へと敵はゲートを開いたのだろう。 終が真っ先に攻撃を仕掛けたのは、回復役を守るという面でも効果的であった。 リクイドファングはぬらぬらとした水状の足で駆け抜け、変容した大きな拳で行く手を阻むアンジェリカを打ち付ける。 この感覚には覚えがあった。抵抗も出来ないまま只殴りつけられる痛みと全身の力が抜けていく哀しみをアンジェリカの身体は覚えている。 けれど、何も出来なかった幼い自分はもう居ない。理不尽に打ち克つ力を少女は得たのだ。 ――だから、リスティさん達を苛めるそんな奴らは許さない。絶対にやっつけてあげるからね! 『地獄の女王』を振りかざし、自身を殴りつける『暴虐』を打ち払う。 (お父様、お母様。どうかふたつの世界を……なんていうのは、欲張りすぎかしら。そうね、それじゃあ。大切なお友達との約束を守れるよう、見守っていて) 亡き両親への祈りを捧げる淑子は、指を組み合わせ幻想の盾を描いていく。 それは仲間達を包み込み堅牢なる要塞を其の身に宿すものだ。 ミストワードが終を攻撃するも、ロウ・イージスの盾がダメージを軽減してくれる。 ――二色世界には斯様な歴史があったのですね。 シュヴァイン側から見ればリスティの住まう世界も、ボトムチャンネルも等しくエサ箱なのだろう。 シエルはラセットブラウンの瞳を巨人へと向ける。 「なれば、その考えが変わらぬ限り――相当に痛い目をみる事を教えて差し上げましょう」 静謐な森の中に佇む湖の如くさざ波一つ立てない涼しげな所作。されど、その内に秘めたるは水底に濁流を押し込めた苛烈なる蛇神の様。ハルモニアの名を受けし者の定めなれど。 彼女の魔力は方舟の中でも最高クラスのもの。光介の繰る術式を取り入れた魔術刻印は優しい光の属性を帯びているのだろう。 「人々の叡智の先に求められし選択の刻限。悪しき根源を殲滅せんとする大いなる神の光を此処に! 神聖の裁き(ジャッジメントレイ)!」 シエルの放った鮮烈なる光は敵の身体に傷跡を強く残し、数匹の足取りを緩める。 (色は想うほどに広がりを見せるもの。それは亡き父から学んだ、小さなこだわり。それはリスティさんとわかち合えた、小さな感動) 光介は美術館で想像力を、公園で人が持つ色を教えた事があるのだ。 だから、それを失わせたくない。 「全力で止めさせてもらいます。想像を伴わない『色の乱獲』を」 光介の描く魔法陣はエルヴの光を帯びて、綿帽子の様な魔法の束を次々と生み出し仲間の傷を癒して行く。 しかして、光介は臆病な羊の恐怖への抵抗感を感じてた。 この前ボトムチャンネルに現れたカオスビーストとは桁違いの威圧感をシュヴァインに感じるのだ。 「色の無い世界なんて寂しいもんね! 自分がどんな色をしていて、好きな人がどんな色をしてるか分かんない世界なんて……そんなのやだ! リスティちゃんたちのためにも、色を取り戻さなくっちゃ!!」 オーブを持った『非消滅系マーメイド』水守 せおり(BNE004984)が声を上げながらガーデンオブドリームをその身に纏う。 「なんだぁ、てめぇ。美味しそうなもん持ってるじゃねぇか! 寄来しやがれ!!」 「ご馳走! ギャギャギャ!」 オーブの気配はシュヴァイン達にとって、極上の食べ物がテーブルの上に並んでいる状態だ。 お腹が空いている動物の目の前にエサを出せば、貪られるのは必至だろう。 せおりの元へ駆けるデューンフライヤ2体は彼女の身体を砂で絡めとった。 ●I lose/失う 戦闘はリベリスタが優位に立っている様に見えた。雑魚共を一掃し、幾度かの応酬の末、せおりがシュヴァインに攻撃を叩きつけた瞬間、突如としてひび割れた巨体はタールの様にドロドロと溶け落ちて地面へと雪崩落ちる。 「……やっつけたのかな?」 せおりの問いに応える者は居ない。 しかし、光介は本能的に予感していた。何か不吉なモノが地面から吹き上がってくるのを。 「気をつけて下さい! 何かが来ます!」 「え? 何、なに!?」 地面が唸る音と共に大地が揺れ動き、地が裂ける。そこからゴウゴウと音を立てながら真っ黒な瘴気が吹き上がった。 二色世界の地の果てにある虹の祭壇は破壊されて宇宙空間の様な漆黒の闇が辺りを覆う。 「これは……」 シエルが緊張した面持ちで構えを直す。噴出する威圧感を全員が感じ取ったのだろう。 「いかん! 皆伏せるのじゃ!」 聖白老の声にリベリスタが身を低くした瞬間、漆黒の風陣が空間を切り裂いた。 真上を通り過ぎる傍若無人な力にアンジェリカの肌は怖気を覚える。 本能的な忌避感。逃げ出したい気持ち。 「アンジェリカさん、それ……!」 「え?」 アンジェリカは指を差された髪を掬い上げた。艶やかな黒髪の先端が薄いグレーへと変容していたのだ。 「――ボクの『色』が無くなってる?」 地面へと潜ったシュヴァインは『色彩喰い』を始めたのだろう。即ちそれは色(ちから)を補充しなければ危険だと判断したから。 「油断してはなりません。大逆転の怖さは幾度も経験済みです」 そう諭すシエルの髪もじわりと薄紫へと変わっていく。 同時に、生命力の様なものが抜けだして行く感覚に身体が慄いた。 「うぅ……」 終が耐え切れず膝を着く。頭の芯がグラグラ揺らいで吐き気がするのだ。 せおりは思惟する。 こうなったら力を取り戻す前にオーブの力を開放した方がいいのではないかと。 パーティの中でも一番打たれ強いせおりならば、頭上を飛び交う漆黒の風陣を受けながらも、地の底に居るシュヴァインの元へ辿り着けるはずだ。 「私、行くよ! あいつにドカンと投げつけてくる!」 「海の娘、知られた名をマーメイド! その力の一端をとくと拝んで驚きやがれっ!!!」 ザザザザ……。ザザザザ……。 せおりは世界の終わりを引き連れてパライバトルマリンの瞳で虹の祭壇を泳ぐ。 地の裂け目へと到達した激流はアクアティントの音を立てて流れ落ちた。 「……ガッハッハハハ!!!」 一瞬の沈黙の後、戦場に響き渡る高らかな嘲笑い声。 「甘い! 甘いぞ! そんな非力な力じゃあ、俺様を倒す事なんて出来ねぇぜ!」 一回りも二回りも大きくなったシュヴァインは傷ついたせおりを摘み上げて地面へと叩きつける。 「せおりさん――!」 「痛てて……あ、れ? オーブの、使い方間違ってたの……、かな……」 明滅する意識でせおりは手の中のオーブを握りしめ。 そして、意識を手放した。 「くそ!」 一番早くせおりの元へと走りこんだのは終だ。オーブを所持するせおりを守るのは自分の役目だというのに。色彩を喰われている現状では彼女を庇う事で手一杯だ。 その間にも漆黒の風陣は終の身体を切り刻む。 「――ぐぅ!」 終の意識もせおりと同じように明滅し、暗幕へと落つる寸前。羽ばたく音と共に視界に赤色を捉えた。 「え?」 予想された攻撃は終の身体を穿つ事は無く、驚嘆に目を開く。 「何だぁ!? また変なのが出て来やがったのか!」 終の前には触り心地の良さそうな毛並みを持った鴉が翼を広げて終を庇っていた。瞳はエンバー・ラストの赤。 「幻獣じゃと!?」 長老が声を上げる。この世界の主たる聖白老達にとっても幻獣という存在は高貴なる者達らしい。 二色世界が色を失う前からの聖なる者達が終に振りかかる攻撃を防いだというのだ。 それだけではない。リベリスタを守るように彼等の前に立つ幻獣達。 「貴方達は……」 淑子は目の前に立つスノウ・ライラックの毛並みを持つ美しい鳥を『知って』いる。 何故なら―― 「このリボン、ボクが巻いてあげた」 大きな黒猫を撫でるアンジェリカが呟いた言葉。二色世界から落ちてバラバラに散らばった『ふわもふ』に巻いてあげたフェアリー・ローズのリボン。 羊の柔らかな羊毛に光介はホリゾン・ブルーの色を見つけた。 シエルは周りをぐるりと囲む蛇に背を預け、僅かに残った綿毛とリボンを撫でる。 「『アスター/雨上がりの紫苑』の色ですね……お久しぶりです」 大きく成長したふわもふ達は因果を結んだ相手の窮地に駆けつけたのだ。 「なんと……お前さんらは、聖なる幻獣をも従えるのか」 かつての勇者だった自分達がやっとの思いで心を交わした幻獣を、いとも簡単に手懐けるリベリスタに感嘆の声を上げる聖白老。 「すごいや! あの子ら幻獣だったんだね!」 「びっくりね。色彩の世界に行くまで小さかったのに」 「ワシらが生きておられるのも、幻獣達が大きくなって守ってくれたからなんじゃよ」 リスティ達が二色世界から逃げ出す前に感じた血の匂いは幻獣達のものだったらしい。 因果を結んだ幻獣達によって、リベリスタに其々の色の力が溢れて行く。 希望が見えてくる。 「これなら、大丈夫な気がします。行きましょう!」 光介の声に駆け出す仲間たち。 ●I unleash!/解き放つ 何故だろう。懐かしい気配がする。 ほんの数秒意識を手放していたせおりは青い瞳をパッと見開いた。 地面へと叩きつけられた程度ではせおりのフェイトを消費するには及ばなかったのだろう。 それでも、黒い斬撃を受け続ければどうなるかは分からない。 ふと、視線を上げると目の前には大きな蝶が羽根を広げて攻撃を防いでくれていた。 「どうして……」 因果を結んでいないせおりの為に身を呈して庇ってくれるこの幻獣は一体。 幻獣の羽根が遊色の色を表す。この移ろう色彩に見覚えがあった。 「そっか、ありがと」 彼女の義兄が結んだ『ヴェルディグリ』の因果を継いで、せおりは立ち上がり―― ―― ―――― 轟音。 耳が押しつぶされるような感覚。 大気を歪ませる強烈な圧力が炸裂する。 一秒か。それとも数秒だろうか。 満ち溢れたまばゆい光は眼前の全てを飲み込み、虹色の軌跡を残して―― 「嘘……足りないの!?」 せおりがオーブを使ってもシュヴァインは健在なまま、いささか過剰にその腹を膨らませた状態で巨体を残している。 「うぷっ、ちと喰いきれねえが、何のつもりだったんだ。ああん?」 「そんな……!」 アンジェリカが落胆の声を上げた。オーブの色彩を持ってしてもシュヴァインは倒せないということなのか。 今まさに弱々しく明滅するオーブを中心に、二色世界全てに色彩が溢れだしていると言えど。 「まさかお前等、それで俺様の腹をぽーんとやろうと思ったってんじゃあ、ねえだろうな、ああん?」 シュヴァインの耳障りな哄笑に鼓膜が引き裂かれる様で―― まさか。 これで終わりなのか。 「いいえ。まだ、諦めてはだめよ」 約束をしたのだから。 本の中や異世界にしか友人の居なかった以前の淑子であれば、絶望を受け止めきれず諦めていたかもしれない。けれど、今は淑子の言葉を受け止めてくれる相手がいる。その者達を誰一人として失いたくないという思い。 淑子は約束をした。色彩世界の少女が、二色世界の少女と交わした指先。因果の結ばる所が『色』だったならば、諦めるのは拙速に過ぎる。何故ならば。 「――――『色彩』なら此処にあるわ!!!」 淑子の大戦斧が光を帯びていく。それは、その色は。――約束のスノウ・ライラック。 何故ならば、彼等は内なる『色彩』の勇者なのだから。 「そうだね。オレ達にはいっぱいの色があったよね☆」 終が纏うのは人を暖める為に命を燃やす残り火の色。自身を犠牲に、意味のある終わりを望む、その生き様は紅葉の様に鮮やかな――エンバー・ラストの灯り。 「世界がどうこうも大変ですが……何よりもお友達の為に斃れる訳にはいきませぬ!」 恋人を優しく包み込むだけではない。シエルの羽根と同じ色をした灰色の雲。その隙間から射した太陽の光をそれを浴びて、小さな雫が輝く。彼女の色は――雨上がりの紫苑。 「お前達に理不尽に命を喰われたこの世界の人達の痛み、今こそ思い知るがいいよ!」 痛みを知っているからこそ、少女は優しくなれる。アンジェリカの歌声は全ての力なき者達へ捧ぐ鎮魂歌。宝石の様に綺麗な心――愛情のフェアリー・ローズ。 「この世界の色を。未来の色を。ボク達の……ゆめいろを、失わせたりはしない!」 少年の瞳は天と地を分ける境界線の空の色。何処までも広がる聡明な知性、本能的な臆病さを内に秘め、故にそれでも他人を暖かく癒やすのは――ホリゾン・ブルーの光。 「私の色だって、きちんとあるんだから!」 リベリスタがくれた『色彩』を取り込んでリスティも色を成す。――ラビット・ホワイトの翼。 皆の色彩がオーブへと集束していく。遊色の光が大きくなる。 この戦場にいる者たちだけではない。二色世界の住民の心がこのオーブへと集まっているのだ。 優雅。希望。調和。愛情。知性。 全ての色が満ちていく。 「……うん。皆の色が集まった今なら、行ける!!!」 確信。オーブを使う時が来た事がはっきりと分かる。 そして、最後にせおりの青炎(パライバトルマリン)を加えて、オーブは『色彩の剣』へと姿を変える。 色よ戻れと、せおりが吠える。 「これで、トドメだーーーー!!!」 ―――― ―― シュヴァインが倒された後、光が二色世界を覆った。 それは色彩を解き放たれたと言うこと。リスティやマルコにもきちんと色が着いている。 「お前さんら、よくやってくれた。本当に感謝の言葉もない」 「ありがとね。皆」 「う~んと、これでしばらくは大丈夫だけど未来永劫ってわけじゃないんだよね??」 「そうじゃのう」 「なら、今から少しずつ戦い方を覚えてみる?? オレ達も教えられる事なら教えるよ☆」 終は長老に建設的な事柄を提案する。 「大切な物を護る為には時に戦う事も必要だと思うんだ。100年後も世界が色鮮やかであるように」 解放された色に目を見張るリスティ達に光介は声を掛けた。 「やっぱり、綺麗」 「ふふ。もうとっくにあったんだと思いますよ。リスティさんの色は」 だって出会った時から。少女の色彩(想像力)は豊かだったから。 少女の緑色の瞳が細められる。 ――この世界の人も、いつかは戦わなきゃかもしれない。でも、できれば未来を想って、鮮やかに築いていってほしい。 天を仰ぐアンジェリカは赤い瞳で奪われたこの世界の人達の魂の安寧の為、心を籠めて鎮魂の歌を捧げるのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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