●閉じた世界を破壊せよ 謎の神秘介入を受けていた人口二千の小さな島国ナウル共和国。 十人のアークリベリスタの潜入調査により、それはエディコウンの介入によるものであることが発覚した。 カンボジアで人工コアによる人間発電技術を研究させ、技術をまるごと持ち去ったエディコウン『グラコフィラス』。 姉ヶ崎の偽名で活動し、模範的市民製造工場や妖刀の運用を行なっていた『レペンス』。 現在この二名によって運用されているナウルには、様々な技術の集大成として作成された模範的市民『コアロイド』と碁盤目状に整形された新ナウル市街地、なによりそれらを実現する要となっている五つの工場施設棟。 これらを破壊しなければ、爆発的に増加するであろう『模範的市民』によって種としての人類が淘汰されかねない。 これを聞きつけた者たちはみな剣をとり、アークの旗本へと集まった。 かつてアークに救われた者。かつてアークと共に戦った者。堅い契約を結んだ者。 今ここに、いくつもの組織をまたいだアーク連合チームが結成され、『ナウル島電撃強襲作戦』が発動したのだった。 ●カウンターミッション アーク・ブリーフィングルーム。 ここには十名のリベリスタと各組織の代表者が集まっている。 「皆さん。このたびは電撃強襲作戦にご参加いただきありがとうございます。皆さんには作戦概要とその意図について説明しましょう」 眼鏡をかけた男性フォーチュナが、事務的な調子でナウル島のマップを表示した。 「まず突入方法ですが、我々が外部から観察できる風景は偽装されたものであることが判明しています」 シィン・アーパーウィル(BNE004479)による調査の結果判明したことだ。 もし鵜呑みにして突っ込んだなら、思わぬ反撃によって船や飛行機が破壊されていた所だ。 「よって、今回はかつてアークが千葉で回収した機竜要塞メルボルンの残骸と松戸博士によるメタトロンの技術を融合させた神秘船『多多良』を使って強行突入を行ないます」 とはいってもつけられるのは岸までだ。そこからは陸を移動することになるだろう。 そこで役立つのが、司馬 鷲祐(BNE000288)と氷河・凛子(BNE003330)の協力によって完成した正確な『現在のナウル島』の地図である。 綺麗に整形された市街地はいわば要塞都市。建物は戦術的な障害物となり、道は兵を迅速に移動させるためのルートとなる。 だが地図情報がこちらにもある以上、この利点は相殺されるだろう。 コアロイドについては葉月・綾乃(BNE003850)と青島 沙希(BNE004419)がその成り立ちを確認している。もしこれに気づかなければ、保護しようとした市民によって部隊に致命的なダメージを受けていただろう。 今回はコアロイド化している市民にも戦闘能力があると予想し、集団戦闘に秀でたチームを編成した。 「アドプレッサ親衛隊、および新風紀委員会第三隊。このふたつが戦闘状態になったコアロイド市民を押さえ込む予定です。タルパロイド技術を応用していることから、完全に撃破したとしても市民に致命的なダメージはおこらないものと思われます。手加減抜きであたることができるでしょう」 こうして島中央にある五つの棟へと進軍することができる。 このうち内容が判明しているのは『新生児棟』と『転生児棟』のみ。 特に新生児棟はユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)によってセキュリティを殺してある。突入は比較的用意なものとなるだろう。 新生児棟での破壊対象は特に見られないが、グラコフィラスと三尋木諜報員の鎮圧は必要になるはずだ。楠神 風斗(BNE001434)たちが調査した結果によれば三尋木諜報員は洗脳されているという。 つまりここで確実に判明している敵戦力は、エディコウンの『グラコフィラス』。そして彼らに洗脳されたと思しき三尋木諜報員約20名前後だ。 「三尋木諜報員に関しては『作戦に支障が出ない限りの生存』が陳情されています。彼らの裏切りでないことは分かっていますので、アークで回収したタルパロイド約13機を投入。彼らの拘束と無力化にのみ使用します。戦闘に利用できればよかったのですが、あいにく前回起動してから間がありません。エネルギーの充填が不十分なようです」 次にグラコフィラス。 「彼らはそれぞれ妖刀を所持していると思われます。以前の経験から高い神秘戦闘能力が予想されますが、現在の皆さんの戦闘力であれば充分に渡り合うことができるでしょう」 それよりも、妖刀の再封印が必要だ。 「妖刀の封印についてはアークが保護した常盤平荘園をはじめとする職人たちによって作成された封印箱を使用してください。敵を撃破もしくは完全無力化することで自動で妖刀を封印してくれます」 そして転生児棟での破壊対象は、曳馬野・涼子(BNE003471)の発見した『リサクルセンタア』と綾乃たちが発見した『コアロイド工場』。 恐らく姉ヶ崎こと『レペンス』が阻むことになるだろう。彼の所有している妖刀『悪斬』は同様の封印箱で回収することが任務に含まれている。 ここまで説明した上で、フォーチュナは眼鏡のブリッジを指でおした。 「察するに、我々の調査は完全ではありません。残る三つの棟に何が存在しているのかも判明していませんし、これらがどんな驚異になるかも分かっていません。ですが……」 リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)がドサクサで回収してきた妖刀『歪』ことホワイトマンメインフレーム。 これと交渉をはかることで今まで以上の情報を引き出し、ギリギリではあるが味方に注意を促すこと、もしくは追加戦力を投入することが可能になる。勿論妖刀『歪』を現地に持ち込むわけには行かないので、交渉担当者は突入作戦には参加できない。最高で一名までだ。交渉が成功する確証はないので、これを無視して突入作戦に全員で参加することも検討してほしい。 「突入作戦には新風紀委員会たち以外にも個人活動していたリベリスタたちもいくらか参加していますので、予期せぬ敵戦力にも対応ができるかもしれません。我々のように事前情報ありきで活動しているわけではないので、完全なカウンターにはなりえませんが……」 そこまで言い終わり、全てのデータをあなたに託した。 そう、あなたにである。 「この作戦の成功はあなたにかかっています。よろしくお願いますよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月05日(木)22:24 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●交渉人司馬鷲祐 「どうぞ、お入りください」 「……ご苦労」 眼鏡を中指で押し上げ、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)は開かれた装甲コンテナの扉へと歩み入った。 扉が閉まり、裸電球だけの薄オレンジな空間が残される。 「アーク所属、司馬鷲祐だ」 コンテナ内にあるのは二つ、ホワイトマンメインフレームとパイプ椅子。 備え付けのディスプレイに文字が浮かび上がった。 『ようこそ閉じた世界へ。交渉人は、お前でいいんだな?』 「そのつもりだ。お前のことは『ホワイトマン』と呼んでいいな?」 『なんなりと』 椅子に腰掛けた鷲祐を確認してか、ディスプレイの文字が移ろいだ。 『話を始める前に、三つ言っておくことがある』 箇条書きに表示されるディスプレイ。 『第一。交渉内容が「ナウル島のことを教えないと壊しちゃうぞ」だった場合、俺は積極的に嘘の情報を教えて作戦を失敗に追い込む用意がある。理由を説明する必要あるか?』 「いや、わかる。戦終了後にあっさり殺される可能性が高いからだな。むしろ作戦を失敗させ、次回作戦においてより慎重な交渉を求めるほうがお前にとっても有益だ。お前がわざわざ『なんでも言うから壊さないでくれ』なんて言い方をしたのも、こちら側に交渉の重要性を最終的には自覚させるためだろう。わざわざ『交渉』なんてやり方をしているのも、お前の出してくる情報の信憑性が俺の『引き出し方』に依存させることを示している。ある意味、最も協力的な姿勢だ」 『理解があって助かるぜ。じゃあ第二。交渉人以外の人物が外部通信によって参加してきた場合、その発言内容がアークにとって不利な要素として働くことがある』 「承知した。交渉が終わってから聞きたい放題質問し続けるのは無駄だということだな」 『ダメ元で聞きまくればワンチャンあるんじゃねーかと思われると面倒くさいし、その場合は積極的に嘘を教えていくつもりだ。後は……まあアレだな。「集団思考の穴」にはまるとお互い面倒だ。それで済むんなら交渉役なんか立たせねーし、寄せ書きすれば済む』 「それは言われなくても分かってる。第三はなんだ」 『第三。交渉終了後、この場に留まり続けることが俺にとって不利益にしかならないと判断した場合、俺は即刻自爆し、お前を巻き込んで大損害をもたらす準備がある』 「……」 『俺に自爆機能があるって話、したっけ?』 「……やや失念していたが、確かに過去そういう事例があったな」 『オーケー。じゃあ交渉を始めよう。そっちの突入作戦はもう始まってるんだろ?』 「ああ。皆できる限りのことをやっている。俺も、出来ることをする」 鷲祐は頷き、アタッシュケースを開いた。 ●ナウル島、突入。 神秘船『多々良』はリベリスタたちを乗せて洋上を進んでいる。 「まさに乗りかかった船……ということですか。何にしても世界の危機。私たちなりに、努力を尽くします」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は中央司令室の窓辺に立ち、近づく島に目をこらした。 見えている島はごく普通の島だが、これは幻影によって偽装されたものである。こちらの派手な接近には気づいているだろうし、当然迎撃の用意はあるはずだ。 「こいつらが増殖したら多くの人が犠牲になる。これだけでも殴るのに充分だよ」 青島 由香里(BNE005094)はぱしんと拳を手に打ち付けた。 窓越しに島を見つめてなにやら物思いにふける『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)。 「ああ……」 凛子はそんな彼らを横目に、マイクを手に取った。 『これより戦闘状態。総員衝撃に備えてください』 ミサイルめいたものがウナギのような軌跡を描いて無数に飛んでくる。その殆どが船に着弾したが、装甲の破壊には至らない。なにせ神秘装甲船である。 『全速前進、防御を固めて突入します!』 度重なる爆発と衝撃。足下の揺れに顔をしかめながらも、凛子たちは幻影の壁を突破。岸辺に大量に設置された見慣れない大砲の数々に機銃射撃をしかけながら、船は強制的に岸へと乗り上げた。 大型の戦車でも余裕で渡せそうなタラップが地面にわたされ、その上を凛子たちの乗った自動車が全速力で走り抜ける。 まるで無害な顔をした一般人が腕を広げて通せんぼをしたが、構わず撥ねた。彼らはコアロイド。神秘技術によって作られた疑似人間だ。死にはしないし意味は無い。 「まずは新生児棟と転生児棟へ分かれて突入します。町中での戦闘は協力組織に任せ、私たちは最短距離を駆け抜けます。各自連絡を忘れずに」 『了解! 気をつけてね!』 凛子は応答しながらハンドルを握りしめ、ギアを操作。アクセルを強く踏み込んだ。 彼女たちの進行を少しでも阻もうと道路に自動車を並べ、『動くバリケード』にしようとする。が、構っている時間は無い。 車のボンネットに『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)がするりと飛び乗り、刀を鋭く抜き放つ。 暴風が巻き起こり、バリケードにした車が紙細工のように吹き飛んでいった。 その間を全速力で駆け抜ける凛子の車。 更に行く手を塞ごうとする連中に次の一撃を構えつつ、朔はひとり呟いた。 「一見全てがつながったかのように見えるこの事件。だが、何か大きな流れが見えていないような……これも支流の一つでしかないような、そんな気がする」 抜刀。粉砕。強行突破。 「今回で、その手がかりを見つけねばなるまい」 島外周の市街地に、凛子たちが躓くことは無かった。 本来なら飛び出してくる一般人や軽く要塞化した立地に戸惑った所だが、目的地までの最短距離と兵が移動するであろうルートを大体で割り出している彼女たちに隙は無い。 それに、一般人に偽装した敵兵は『そうと分かっていれば』鎮圧するのもたやすいのだ。 「とはいえ戦力は未知数ですので、可能な限り堅実な手を打っていきましょうね」 『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)はそう言いながら通信機ごしの指示をとばした。 足下には四肢を切断され、鉄杭でもって壁に打ち付けられた一般人が呻いている。 切断した腕の断面は豆腐や蒲鉾でも切ったような白く弾力のある物体しか見られず、切断されたそばから徐々に再生をはじめている。 その様子を逐一観察しながら手元のメモに書き付け、マイクに呼びかけた。 「コアロイド一般人には再生能力があります。首を切っても死にませんが行動不能に追い込みづらいので全てにくい打ち処理を施してください。合体の危険を考えて一定距離もしくは壁を挟むように。推定戦闘力は初期フェイズのノーフェイス程度です。特殊強化されたバージョンも存在するはずなので、あなどらないように」 『了解。次のエリアへ移ります』 アドプレッサ親衛隊と新風紀委員。彼らはいい仕事をする。特に前者は倫理観を一旦捨てている分、『必要な処理』と分かれば躊躇しない。 シィンはそれぞれ最低三人組のチーム編成を組ませ、新風紀委員で武力破壊、アドプレッサ親衛隊で無力化という繰り返しを地道に続けた。 「この分だと、こっちに余裕が出そうですね。中央制圧に人手を回せそうです。……やりましたね」 薄く笑うシィン。 どうやら、こちらはかなりうまくいっているようだ。 ●新生児棟 軽武装した数名のコアロイド警備員が、一斉に首から血を吹き上げ、その場に崩れ落ちる。 彼らのすぐ後ろにはユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)がにこにこしながら立っていた。 「調査で一度空振りした分~、こっちで頑張っちゃいますよ~」 ユーフォリアは操作盤に手を当てると、事前に仕込んでいたパスコードを入力。警備システムを軒並み殺し、扉という扉をのロックを開いた。 「監視カメラは~……はやや~、やっぱり物理的に止まってますね~。じゃあ開錠ログから計算して~……あ、分かりましたよ~」 走り出すユーフォリア。 『桐鳳凰』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)たちはその後ろを走りながら首を傾げた。 「分かったって、何が?」 「施設内の構造と~、あと姉ヶ崎の居場所ですね~」 「便利な能力だなあ。まあ助か――って危ない!」 ツァインはユーフォリアを引っ張り戻し、前に飛び出した。 施設内の通路は狭い。敵兵が銃を構えて通せんぼしたら、避ける間もなく撃たれ放題になるが……。 「俺の堅さを舐めるなよ!」 無数の銃弾がツァインの鎧と盾にはじき飛ばされ、全て被弾したはずのツァインはかすり傷ひとつ負っていない。 「私の速さも舐メルナヨ」 途端、ツァインの足下を光りの線が走った。否、超高速で敵へ接近した『歩く廃刀令』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)である。 敵兵の間を稲妻のごとくジグザグ走行すると、敵の腕や首を次々に切断。そして駆け抜けていく。 開かれっぱなしの装甲扉の前に、三尋木諜報員たちが並んだ。手には銃を握っている。 「止まれ! それ以上進むと――!」 「私を止められる奴はイナイ」 リュミエールは持っていたタルパシードをまき散らし、一時起動。卵のような膜を展開したかと思うと、三尋木諜報員を包み込んで一瞬で無力化してしまった。 横を駆け抜けていく『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)。 そして、急ブレーキで立ち止まった。 「……ほんとうに、ままならいね。アンタたちとわたしたちって。人間どうしみたいに」 「その関係性がよく分かりませんが」 手術台のようなものに腰掛けている男が一人。 姉ヶ崎。またの名をエディコウン『レペンス』である。 彼の後ろには大量の筒が存在し、それまでコアロイドの製造が行なわれていた跡があった。 「まあ、仲良く出来そうな雰囲気ではありませんね」 「レペンス」 リュミエールとツァインがそれぞれ部屋に入ってきた。 「お宅がレペンスさんかい、最初会った時は男だとばかり思ってたが、容姿なんて関係ないのかね」 「よう泰廃、兄弟刀が会いにキタゼ。お前もこの妖刀について何か知ってるンジャナイカ?」 「うるさい。『先生への質問会』は後でやりな」 リュミエールたちの頭を掴んで左右に押しやり、涼子は二本のメリケンサックをポケットから引き抜くと、くるくると回して握り込んだ。フリントロック銃でもあるボディが無骨に光る。 「とにかくアンタたちのやり方は放っておけない」 「です、か」 姉ヶ崎、もといレペンスは刀を抜いた。 抜いたと同時に、彼の後ろから数人の子供たちが現われた。 顔の右半分に仮面をつけた少年少女である。 「……」 見覚えのあるスタイルに顔をしかめる涼子。 彼らは背中に妙なバックパックを背負っていた。そのそこから伸びたスイッチを、強く押し込む。 レペンスが首を鳴らし、眼鏡を外して捨てた。 「こちらもあまり死にたくないので、抵抗させてもらいます」 一方、鷲祐は。 「こちらの目的は当該研究の永久停止。並びに関連技術の完全廃棄だ」 『それはコアロイド研究をさしてるのか? とすれば、関連技術の範囲によってはアークに渡っているいくつかの技術も撤廃することになるぞ』 「例えば?」 『リュミエール・ユーティライネンに渡っている刀。ツァイン・ウォーレスに所有権が渡っている難泰再封型。あとは……そうだな、接収してる神秘船や人口コア技術に、フルメタルフレーム技術、それらの先にある深化技術もそれにあたらないか?』 「『関連』の度合いによってはアークの自滅もありうると?」 『そこまでは言わねえが、まあ詰めていこうぜ。お前は話が通じるクチっぽい』 「そうだな……」 鷲祐は書面を高く翳した。 先刻述べた目的に加え、ナウル島作戦の効率化、レペンスとグラコフィラスの制圧を目的としたものである。 他に……。 ■『ホワイトマン』含む残存エディコウンのアーク庇護下への誘導。 ・ナウル島提供に際する組織的協力。 帰還方法、ボトム適応研究の環境としての利用を約束。 それに伴う人間社会側の根回しをアーク・三尋木連合で実施。 ・アドプレッサと締結した内容に加え、島内での自由、安全の保障。 ■定期的な連合職員との接触による倫理共有、研究の実施。 ・『ホワイトマン』の独自性に着目した将来性を期待。 ・最終的な共存を想定し、それに組織協力する為。 ……といった提案を、『ホワイトマン』の提供する情報と一歩一歩歩み寄るような形で順番に締結していった。 唸る、というか唸ったような顔文字を表示させる『ホワイトマン』。 『こう言っちゃなんだが、お前……もしかしてアークで浮いてないか?』 「どうしてそう思う」 『俺の見立てだが、アークは金持ちのボンボンが世界中から傭兵をかき集めて作ったテロ組織だぜ? 金はあっても思想統率がとれてねえから、重要な決定事項は投票制になりがちだ。綺麗な詭弁を上手に使えるやつが組織内で実質的な力をもつ。だからこういう交渉ごとが得意な奴は必然的に居場所を失うんだよ。邪魔になるからな』 「邪魔にされた覚えは無いな。アークはお前が思っているより『友だちづきあい』が活発だ」 『仲良しクラブでもあると』 「少なくとも内部分裂は起こしていない。それより……」 『ああすまん。お前の提案と要求な、問題が全くない。お互いの強制力が所々で拮抗するようになってるから、今後交渉を続けることでお互いへの危険を回避し続けられるようにできている。キーは、研究内容がボトム適応に関わるか否かの判定を、お互いの協議で決定できるって部分だ。でもって重要なのは、言うこと聞かないと壊しちゃうぞとどこにも書いていないことだな。このカードをきった瞬間、交渉がその場限りのものになるからだ。お前、頭いいな』 「俺は出来ることをしたまでだ。で、どうなんだ?」 『ナウル島の戦力だな? 任せとけ。まずコアロイド以外の戦力だが……何順に話す?』 「レペンスとグラコフィラス……いや、新生児棟と転生児棟に近い順にだ」 『よし、じゃあまずはコアブースターと巡り目からだな』 金属製の壁が爆発と共に吹き飛んだ。 打撃や爆発による直接的破壊、ではない。なぜならツァインが銃弾のように壁を破って水平に飛び、無数のデスクをまき散らしながら部屋の中をバウンドしたからだ。 「な……く、くそ……どういう威力だ、これ……」 盾を持っていた腕があらぬ方向に曲がっている。鎧で目立たないが、脇腹も軽く持って行かれているようだ。一般人なら三度は死んでいる。 『そいつは恐らくコアブースターを装備した巡り目だ。その施設にあった『衆人環視の部屋』によって副次的に作成される巡り目というフィクサードは、エリューションフォースを飼い慣らす性質をもつ。それを更に精鋭化、凶悪化させるべくカンボジアで実用されていたコアブースターを装備させたんだろう。並のフィクサードでもアークのトップリベリスタを重傷に追い込むレベルだ。今の戦力だとキツいぞ』 「先に知りたかったなあそれ!」 大量の腕がくっつきあい、巨大な腕と化したようなEフォースがツァインに襲いかかった。咄嗟に防御するが、威力が強すぎる。ツァインは巨人のような腕に掴み上げられ、施設の外へと放り出された。 「なんでもいい、私より早く動けヤシネーヨ」 巨大なEフォースの腕をジグザグに切り裂きながら部屋中を飛び回るリュミエール。 彼女に気を取られていた少女の後ろに、ユーフォリアは素早く回り込んだ。 的確に頸動脈だけを切り裂いてノックダウンさせる。 「思ったより早く出ましたね~、コアロイド以外の戦力~」 「それが、よりによってコレとはね。やっぱり放っておけない、アンタたちは……!」 直径十メートル近い巨大な眼球が浮かび上がり、殺意の光線を放ってくる。 涼子は歯を食いしばり、それを『かわさずに』突っ込んだ。 あまりの衝撃に腕がもげて吹き飛んでいく。 関係ない。涼子にとってもはや、それは痛みでも苦しみでも無かった。 ただの、そうただの、純粋なる『怒り』である。 「どうして作った、こんなもの――」 握りしめた拳でもって、巨大な眼球を粉砕。エリューションの飛沫を身体に浴びながら、その向こうに居る少女に掴みかかった。 その場に押し倒し、全力で殴りつけた。 全身をびくんとけいれんさせて停止する少女。 そこへ、刀を翳したレペンスが襲いかかった。 「オット」 「あなたの相手はこっちですよ~」 刀を同時に受け止めるリュミエールとユーフォリア。 二人は凄まじい速度でナイフを繰り出し、レペンスはそれを凄まじい速度で打ち払う。 が、さすがにトップクラスのリベリスタ二人がかり。ついにレペンスの手から刀が飛び、回転して壁へと突き刺さる。 「おや、これは……追い込まれましたね」 「安心してくださいね~。殺しちゃダメって言われてるので~」 ユーフォリアはそう言うと、ナイフの柄を叩き付けてレペンスを殴り倒した。フェイトを獲得しているわけではないので当然殺したら死ぬ。不殺スキルの持ち合わせも無いので、ユーフォリアは仕方なくその辺の縄でレペンスを縛っておくことにした。 「いつつ……っと、制圧は済んだ感じかな?」 だらんとした腕を押さえ、ツァインが戻ってくる。 涼子は力尽きた少女たちにまだ息があることを確認してから、全身についた塵や汚れを払った。 「残りの施設に行くんだろ。急ぐよ」 「いや……俺は一旦ここで治療していくよ。すぐに続投できる体力じゃなさそうだ」 敵からの攻撃を積極的に受けていたツァインはひときわ損傷が激しい。確かに今と同じレベルの敵に遭遇したら命が危ないだろう。続投するにしても一休みしてからだ。 「私は、チョット用事がナー」 妖刀『悪斬』を封じた封印箱を手にして言うリュミエール。 ユーフォリアは肩をすくめて笑った。 「はやや~。では二人で行きましょうか」 「頼むわ。すぐに追いつくからさ」 苦笑いするツァイン。 壁に空いた穴からそのまま外へ出て次の施設へ向かう涼子たちを見送ってから、ゆっくりと……息を吐いた。 どこへともなく声をかける。 「そろそろ出てきてもいいんだぜ」 「先に言うなよ。もっとこう『いつの間にか居る』ってテンションで行きたかったんだからよ」 「……ナルホドナ。ありゃあ、あながち聞き間違いじゃなかったのか」 リュミエールは自分たちが縛り上げたばかりのレペンス、もとい姉ヶ崎を見下ろした。 彼の顔からはあらゆる印象が消え、ただの『白い服を着た男』にしか思えなくなっていた。 彼らは、理屈ではなく直感した。 「『ホワイトマン』だな」 「はいどうも」 倒れたデスクに腰掛ける『ホワイトマン』。 「答え合わせいる?」 「いや、大体分かった。エディコウンが女性ばっかなのに姉ヶ崎だけ男なの変だと思ってたから。お前も『ホワイトマン』の分体なんだろ?」 「正確には、『ホワイトマン』化した人間に人格を上書きしたものだ。『ホワイトマン』化に関しちゃおいおい話そうや。それより……」 ずい、と身を乗り出すツァインとリュミエール。 「再封型とは一体ナンダ? 難泰トハ六八トハナンダ? 本当ニコレハ六八と呼ベル代物ナノカ?」 「難泰・再封型って今は封印状態だからこうなんだよな? それとも元々こういうもんなのか? 能力はやっぱ自分を不幸にして周りを幸運にするって奴か? あと俺にこれ渡した理由わかんねーかな?」 「あーもううるさいうるさい! 一度に質問すんな馬鹿! ばーか! 嘘教えてだまくらかすぞばーか!」 「子供か!」 一斉に質問攻めを始めた二人を、『ホワイトマン』は足をばたつかせることで押しのけた。 「大体お前らなー、いました質問の九割は答え分かってて聞いてるだろ。答え合わせに付き合う余裕も義理もねーんだよ俺にはよー。俺はお前のパパかっつーの」 「そりゃあ……そうだが」 「じゃあ一番言いたいことを言ッテヤル」 ツァインを押しやり、再び身を乗り出すリュミエール。 「私のための刀を造れ」 「……」 「……」 沈黙。 そして静寂。 数十秒の沈黙のあと、『ホワイトマン』は天を仰いだ。 「……ないわー」 「ないか?」 「今世紀最大にないわー。お前、どんな手を使ってでも珍しい刀を奪って集めるっていうのが最大の個性であり欠点であり毒であり武器だったんじゃねーの? それをおまえ、俺というチートアイテムをアテにするようになったらただの『ダメな人』じゃん」 「そうか?」 「だろー。よしんばそうでなかったとしても、俺がお前にそこまで尽くす理由ねーし」 頭をがりがりとかく『ホワイトマン』。 「まあいいや、今回はホレ、色々付き合わせた感じあるし、いいこと教えるからそれで手を打てよ」 リュミエールとツァインを交互に見比べる。 「妖刀の所有権を移す方法が、所有権保持者を戦って殺すことだってのには気づいてるか?」 「アー……そういや真っ先にゲットしたのに私のものにならなかったな」 お前そんなことまでしてたのかという目で見るツァイン。 「でだ。お前の持ってるそれ? 難泰? 今ツァイン・ウォーレスの持ってる再封型と合わせることで完全版になるぜ。それやもうチョーつえー刀になるぜ」 「よし」 「よしじゃねーよ」 よこせとばかりに手を出すリュミエール。 首を振るツァイン。 「だから手渡すだけじゃダメなの。殺さないと」 「……」 「リュミエール・ユーティライネンがツァイン・ウォーレスと戦って、そして完全に殺害して初めて権利が移る。後は勝手にやってくれ」 「お、おいちょっと――」 ツァインが急な話についていけずに戸惑っていると『ホワイトマン』はふらりとその場に倒れた。 「そろそろ時間切れだな。まあ、縁があったら会おうや」 それ以降、『ホワイトマン』は消え、そこには姉ヶ崎がいるだけとなった。 ●新生児棟 朔たちが潜入した際と比べてずっと警備が厳重になった、とはいえ。 所詮はやや強化された一般人が突貫工事で作った建物である。対神秘防御は勿論、日本警察が百人ほど武装すればまあ制圧可能なレベルの建物には収まっていた。 そこへ、一般リベリスタ百人分の戦力と言われる朔たちがチームで押し寄せればひとたまりもない。 朔はタルパシードを撒いて三尋木諜報員を捕縛すると、そのまま戦闘区域から強制離脱させた。コアブースターで武装していたがこうなってしまうとあっけないものである。 「どうにも熱くなれないな。藁でも斬っている感覚だ」 「油断しないでください。敵がいなくなったわけではないのですから」 軽く被弾した朔に回復を施す凛子。 「だが、この棟に大きな危険は無いんだろう?」 「司馬さんが引き出した情報では、そうですね。妖刀で武装したグラコフィラスと三尋木諜報員。『秘書風の女性』と表記されていた強化コアロイドのみです」 「唯一の心配ごとはタルパシードの不足だったが……」 ちらりと見やる朔。 「押しつけさせて貰うぞ、俺の善意と正義をな!」 風斗は強化された三尋木諜報員たちの攻撃を無理矢理押しのけると、青白く発光した剣でもって彼らを真っ二つに切り裂いた。 切り裂かれたそばから強制的に接合され、ギリギリ命がある状態まで戻して昏倒する諜報員たち。 朔は肩をすくめた。 「あの調子だ。三尋木への義理も果たせよう」 「だとしても手早く制圧してしまいましょう。残り三棟の情報が明らかになっているとはいえ、いつまでも放置はできませんから」 「そのうち一つは『放置しなければならない物件』だがな。しかし、どうも……」 こきりと首を鳴らす朔。 朔は通常の歩行から早歩きへ変え、数歩でダッシュ、更に数歩でトップスピードに乗り、更に数歩で次元を超える速度に達した。 バリケードを築いていた敵兵がバリケードごと消し飛び、その後ろの扉さえも消し飛び、最後にあったのは扉をサーフボードさながらにして室内へ滑り込んだ朔のみとなった。 「お前たちからは感じないのだよ。魂の息吹を」 「余計なお世話だ、宇宙人ども」 十手型の妖刀を手に襲いかかってくるグラコフィラス。 朔はそれを刀で受け止めた。 直角なカーブを描いて脇から責めてくる秘書風の女。 「あんたの相手は俺だ!」 チェーンソーに変形した腕を、剣で受け止める風斗。 彼らは同時に相手を蹴り飛ばすと、飛ぶ斬撃をそれぞれ別の相手に繰り出した。 切り裂かれて消失する秘書風の女。 一方でグラコフィラスは壁に叩き付けられる。 「俺は否定する。この世界を……この社会を!」 風斗は剣を槍のように構えて突撃。青白く光った剣がグラコフィラスを貫通し、後ろの壁をも貫いた。 がくりと脱力するグラコフィラス。 彼女の手から妖刀がこぼれ落ち、凛子の持っていた箱の中に吸い込まれるように封印された。 「任務完了、ですね。二人とも回復するので動かないでください」 「ああ、どうも。しかし案外あっさり行きましたね」 軽く怪我をした風斗たちに神秘治療を施しながら、凛子は小さく頷いた。 「こちらから見た重要度で言えば、ここは最重要目標でした。ですが、相手にとってはそうでなかった。重要視されていたのはむしろ……」 「『更生児棟』『野生児棟』、そして手を出してはならない『寄生児棟』か」 呟く朔。 そこへ、開けっ放しにしていたオープンチャット越しに由香里の声が入ってきた。 『こちら由香里! 怪しい建物を見つけたよ。警備が他よりずっとカタいの。ここが例の施設だよね、中入っちゃうよ?』 ●寄生児棟→エイスワールド 由香里の目的は敵への嫌がらせと未確認施設の独自調査である。 シィンからなかば強引に分けて貰った部隊を護衛につけ、島の北側にある施設へと侵入を始めていた。 「うん、北側施設。寄生児棟っていうんだっけ? 警備員? もう倒しちゃったよ」 手をぷらぷらさせる由香里。足下には戦闘不能になったコアロイドが無数に転がっている。 彼女にかかればコアロイド程度ハエを落とすより簡単だ。 無線越しにシィンが応答した。 『手を出すなと言われませんでしたか? そこは「手を出さないのが正解」の施設だと』 「でもそれって『ホワイトマン』が言ったんでしょ? 敵の情報を信用するのはねー。本体押さえてるとは言っても、逃げる手段くらい持ってそうだし? そういう人が『入るな』って言うってことは、入って欲しくない何かがあるってことじゃない?」 扉を強引に押し開ける。 『ですから――』 ぶつん、と通話が切れた。 「あっ! ねえもしもし? ちょっと電話切るって酷くない? あーもう着信拒否されてるし……」 通信機を操作して顔をしかめる由香里。彼女は気づいていないが、誰も彼女への着信距離などしてない。 彼女が今、断絶されたのだ。 通信範囲から? 否。 世界から、断絶されたのだ。 そのことに気づくのは、ずっと後のことになる。 ずっとずっと、後のことになる。 ●願望達成補助人格『ホワイトマン』 そも、『ホワイトマン』は個人の名前じゃあない。妖刀『歪』を使用した人間に現われる、夢を叶えるための補助人格だ。 あの妖怪刀狩り女は俺のことを『夢を叶える刀』と言ったが、こいつはサンタさんがプレゼントを枕元に置いてくれるヤツとはまるで違う。夢を叶えるってのは、自力で叶えるってことなんだよ。 ほらよく言うだろ? 人間やればできるって。でもやらねーんだ。やれねー理由が沢山あってできねーんだ。大金持ちになりたいしモテたいだろうけど、働くのダルいし女のご機嫌取りもめんどいだろ? その諸々を本人の知らないところで『代わりにやってくれる自分』が、いわゆるところの『ホワイトマン』だ。 よくほら、すげーこと成し遂げた奴がさ、必死で頭が真っ白になって、気がついたら達成してたなんて言うだろ。あれと一緒だ。真っ白になってるんだよ。 妖刀『歪』を使った人間は過去に五人だけだ。 友達みんなが争わない世界を望んだアラシノ・レイ。 惚れた女が悲しまない世界を望んだ九美上九兵衛。 大好きな友達のお兄ちゃんが自分だけを見てくれる世界を望んだ姉ヶ崎エイス……と言った具合だ。 そんなちっぽけな世界を実現させるために、この装置は存在する。代償として、本人は徐々に個を失い、最後にはこの世から消える。誰もが知っているのに、なぜか触れられない存在として、消えていくんだ。 そうやって消えたエイスをもう一回この世に戻そうとして、父親の姉ヶ崎……あーつまり『レペンス』が最後の使用者になった。 そうして作り上げたのがこの島であり、この施設群であり、異世界絶対介入装置であり、その装置の完成形『寄生児棟』だ。 あれには手を出すな。出したらたちまち飲み込まれるぞ。どうしてもっつーなら、あとでゆっくり外側から破壊しろ。いいな? これフリじゃないからな? ●エイスワールド 青島由香里は新世界の神である。 所属していた組織アークの任務でどこぞの島を制圧し終えたと思ったらなんだか世界各国のワルたちが一斉にアークに押しかけて跡形も無く潰していたというので、怒りに燃えて飛び込んでいった途端謎の超能力に目覚め、神クラスのラスボス連中を千切ってはなげ千切ってはなげ。 しまいには屍の山の頂上で拳を突き上げ、世界平和を実現していたのである。 そうなってから、はや七百年。 「いやー、死なないねー。あたしの寿命って多く見積もっても百年だと思ってたけど」 「まあそんなもんでしょう。ただでさえリベリスタが人間じゃないのに、神クラスにまでなったんなら。不老不死もあり得ますよ」 「やだなあ。世界からあたし以外のエリューションが忽然と消えたとはいえ、いざこうなっちゃうとやることないのよね」 十人近く同時に寝れそうなベッドで転がりながら、由香里はそんなことをぼやいた。 その斜め上をふわふわと飛ぶシィン。 「エネルギー問題もすっかり解決。月と火星の植民も済んで土地も人口もあらゆる問題も全部解決。偉業だらけじゃないですか。まだやり足りないことでも?」 「うーん……シィンエネルギーにかわる新しいエネルギー源の開発かな。電力なんて時代遅れだし、神秘性のエネルギーもなんかマンネリだし……いっそ太陽作っちゃおっかなあ」 「さっすがあ」 指をパチンと鳴らすシィン。 「でも『私』の見立てだと、そろそろこの世界やばいですよ」 「どうして?」 「やだなあ、忘れたフリですかあ?」 シィンは笑って。 美しく笑って、こう言った。 「だってもうこの世界、五億七千八百八十二万とんで七十二回目のループですよ?」 「――ッ」 施設に潜入した由香里を仲間たちが発見するのは、ナウル島突入作戦の翌日である。 その時点で彼女は重度の精神被害を受けており、強制的な精神洗浄を施した後、無事に救出されることになるが、それまで彼女は永遠に同じ世界をループし続けた。 後に知ることになるが、それは純朴な少女が願った『大好きなお兄ちゃんが自分だけを見続けてくれる世界』から、そのお兄ちゃんだけが消えた世界だったという。 ●野生児棟 由香里との通信が途切れたことで、チームに並々ならぬ緊張が走っていた。 「青島さん……無事だといいが」 歯噛みする風斗。だが今は目の前の任務をおろそかにできない。 なぜなら、今から目指す施設にあるのは彼にとっても因縁深いものだからだ。 「フルメタルフレームヴァイアント(FMV)。そういやあれも鎌ケ谷禍也の作品だったな。世界の兵器を理解して再現する。それは機竜のシステムを流用したものだ。機竜技術はいわば『ありえたかもしれない未来の技術』。この技術はかつて『ホワイトマン』が研究していたが、引き継いだ三人の博士、松戸助六・八幡縊吊・鎌ケ谷禍也によってフルメタルフレーム、人口コア、タルパロイド、巡り目などの技術に応用され――」 「なぜ復唱する? 司馬君から詳しく聞いたばかりだろう」 「俺も……格好つけてみたかったんです……」 血が流れんばかりに唇を噛む風斗。 あの『謎は全て解けた』と言ったときの司馬先輩かっこうよすぎる。 施設前にたどり着くと、警備システムが自動で動作し、施設内から大量の人型物体が飛び出してきた。それらは空中でゼリー状の物体に変化すると次々に合体。巨大なドラゴンへと変化した。 E能力者をベースにしたエリューションゴーレム。FMVである。 「気をつけてください、奴はなんでもありだ!」 「それはこちらも似たようなものだ」 飛来する巨大なミサイル。それを風斗は強引に一刀両断した。 爆発に巻き込まれるが、構うことは無い。大抵のダメージは凛子がカバーしてくれる。 「援護します。あれを倒せば、この施設は制圧したも同然ですから」 「助かります!」 巨大な腕が叩き付けられ、風斗はそれを全力でガード。 朔がその上に飛び乗り、超高速で駆け上がる。 「蜂須賀さん、だめだ! 見た目に惑わされては!」 「心配するな」 朔の向かったドラゴンの首が複雑に展開し、中から強力なレーザー兵器が出現。が。朔は即座に抜刀。兵器を真ん中から切断すると、切断面に自らをねじ込んでいった。 内部を複雑に破壊する音と、連続した爆発。 風斗は意を決して巨体に突撃し、持てる力の全てをドラゴンへと叩き付けた。 「二度とあの悪夢は繰り返させない! 勝手なことかも知れないが……いや、勝手に、そうさせてもらう。誰彼構わず、力尽くだ!」 衝撃が放射状に広がり、連鎖破砕していくドラゴン。 中央からは両腕を軽く失った朔が口で刀をくわえて飛び出してきた。 顔色一つ変えずに着地。器用に鞘に刀を収める。 「戦闘終了だ」 「そのようです……どうやら、あちらも」 耳に手を当てる凛子。 「更生児棟も制圧が完了したようです」 ●更生児棟 「え~っとぉ~、この施設は~」 ユーフォリアが独特の『間延びしているのになぜかテンポのいい口調』で話すには、更生児棟はいわゆる死者の再生工場である。 既に死んだ人間に、バックアップしておいた人格を当てはめて理論上生き返ったことにするというものだが、そううまくいくものではない。人格はそう長く定着はせず、なんとなく本人と似た何かにはなるが、どうしても別物になってしまうのだそうだ。 これもまた鎌ケ谷禍也が実用していた技術だったし、実のところ彼のバックアップはここにあるのだが……。 「ヒ、ヒヒ……生きてる、まだ生きてる、僕……僕、生きて、ヒヒヒ……」 「『ブランクマン』というらしいんですが~、これじゃあ~、流石にアレですよね~」 白衣を着た鎌ケ谷禍也によく似た何かが、びたびたと地面を這いつくばっている。 ユーフォリアは彼を『一応調べるため』に手足をナイフで貫通させ、地面にピン留めしていた。 「死んだ奴は生き返らない。もし同じものを作ったとしても、それは別物だ。そんなの、誰だって知ってることだろうにさ」 なんとか腕の再生を終えた涼子もまた、機能を破壊した施設からぞろぞろと出てくる人間もどきを淡々とたたきつぶしていた。 そこへ。 「イキのいい女が二人」 とてつもないプレッシャーと共に、一人の老人が降ってきた。 手には一本の刀。 その辺から持ってきたであろう白衣を着流しのように着こなした彼は、咄嗟に防御したユーフォリア――の脇腹を盛大に切り裂いた。 「……はやや~」 よろめくユーフォリア。 そこへ。 「『真・浪人形』――『真・勧善勧悪』!」 老人は秒間何百閃という斬撃を叩き込み、一瞬でユーフォリアの意識を断絶させた。 フェイトを削って輪切りになった自分を無理矢理再生。老人から一気に距離を取る。 追撃を謀ろうとした老人の間に、涼子は割って入った。 「アンタ、誰だ。敵か?」 「我が名は九美上九兵衛。無敵を捨てて最強になった男よ。ゆえに……敵はおらん」 「なんだって?」 後ろで声がした。 ツァインの声である。 歓喜を含んだ声である。 「はは、なんだあんた、生きてたのか。てっきり死んだと――」 「死んだとも。自ら命を絶ったとも」 「は?」 「だが死にきれなんだ。なぜ……なぜ生きているのか……俺は、一体何を、しようと……していた? ……俺は誰だ?」 「誰でもいいさ。俺が会いたかったのは、アンタみたいなやつだったからさ」 剣を握るツァイン。 そしてユーフォリアたちに呼びかけた。 「ここは俺に任せといてくれ。施設の完全停止と破壊。頼んだぜ」 「え~っとぉ……」 「行くよ」 迷うユーフォリアを引っ張って、涼子は施設内に駆けていった。 残されたツァインは剣をとり、苦笑した。 「言いにくいんだけどさ、俺……そろそろ死ぬんだよね。無茶しすぎたのかな。フェイトももうなんか……普通の人くらいにしかなくって。一回死んだら、マジで死ぬんだ」 「……」 「死ぬってどんな感じだ? 今まで死にそうなことは沢山あったし、死ぬほど痛い目にも沢山あった。でも辞めらんなかったし、辞めなかった。なんか世界は大変なことになってて、俺も俺の友達もみんなしっちゃかめっちゃかだけど……でもなんか、死にかけるたびに楽しいっつーか……なんつーか」 「……」 「だからさ。いいよな。最後くらい……最後くらい……」 「それ以上語るんじゃえや。剣が鈍る」 老人は刀を水平に構えると、戦闘の間合いをとった。 「やるんだろう? 来いよ」 「……応!」 ツァインからとてつもない闘志が漲った。 真っ向上段居合い斬り。対して九兵衛は彼の刀をはじき返し、隙が出来たと思われたツァインは強引に九兵衛の胸に蹴りを叩き込んだ。 突き飛ばされつつ九兵衛は全身を硬質化。施設の外壁に着地すると、ツァインめがけて飛びかかりつつ九人に分裂した。 「九十九神――!」 「私も混ぜロ」 囲まれそうになったツァインのもとへリュミエールが高速で到着。ジグザグに駆け回って繰り出された刀を弾くと、実態をもった幻影たちを全て破壊した。 と同時に、ツァインの身体に力が戻ってくる。 「これは」 シィンが無線に口をあてつつ、目視できる距離でふわふわ浮かんでいた。 『市街地の制圧は終わりました。こっち、手伝いますよ』 「助かる!」 シィンの号令に会わせて周囲の『ブランクマン』たちが一斉に取り押さえられ、抵抗するものは全て破壊される。 完全な鉄火場とかした戦場のど真ん中。 ツァインは輝く剣を手に飛びかかる。 「やっと会えたがこれでさよならだ。楽しかったぜ、達人!」 剛剣。 斬撃。 一本割り。 九兵衛の身体は翳した刀ごと真っ二つに切り裂かれ、そして粉々になって消えた。 ●アーク特別研究施設国家、ナウル共和国 この後、施設を無事に制圧した涼子たちが死にかけていたツァインを掘り起こしたり、かなり余裕の残ったシィンの部隊が市街地制圧を完璧にこなし、由香里の救出にも貢献したりと色々あったが、さておき。 「ナウル共和国は一般的な製造業を営みつつ、アーク保護下における研究施設として保存される。エディコウン『レペンス』『グラコフィラス』、及び『アドプレッサ』は研究目的に限り島内での自由を許可し、逆に研究を妨げるとされるアークの介入を拒否する権利をもつ」 『オッケー。確かにこの契約、交わしたぜ』 「……最初からこれが目的だったのか?」 『どうしてそう思う』 「いくら島内とはいえ、リベリスタ一人で持ち出し可能な場所にメインフレームを設置するのは不用心すぎる。それに、『神秘介入がある筈だが何も問題がない貧乏な島国』に関心を抱く組織など、世界中探してもアークくらいなものだ。遅かれ早かれ、お前は接収されていた。そしてこういう場は設けられていた」 『いや、ぶっちゃけリュミエール・ユーティライネンが俺をパクってくとは思わなかったけどな。何あいつ、常に予想を超えていくんだけど』 「それは同感だ。まあ、賢い判断かもな。もしお前から一方的に『ご協力』の話があっても、俺たちは疑心を持ったまま放置しただろうし、彼らも保護下に置くことはなかったろう」 鷲祐は椅子かた立ち上がり、アタッシュケースを閉じた。 「以上で、交渉を終了する」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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