● 2月14日、この日に皆さんは何を思うだろうか。 別段何も変わらない日常を過ごすだけだ、という人も居るだろう。 だが、世間はバレンタインデーの話題で持ち切りだ。 リベリスタの住む町、三高平もそれに関しては全く同じ様だった。 寒い2月の中で最も熱気の感じられるこの時期。 チョコを持って、思い人へとその心の内を打ち明ける人も決して少なくは無い。 或いは、日頃の感謝の気持ちを込めてチョコを贈る人だって居る。 これを過ぎればチョコが安くなって嬉しいという人だっていらっしゃるのだ。 様々な思いを抱えて、人々は今日と言う日を過ごしていく。 それは一般人であろうとリベリスタであろうと──違いはないのだ。 幸福である事に罪は無い、日常を送り続けたいと願う事にも罪は無い。 ならば、今という歯車を回し続けよう。 たった一度きりの人生だ。 今日と言うこの日があなたにとって、何かを変える日なのかもしれない。 そう思える何かがあるのであれば、後悔はすべきではない。 さあ、2月14日の始まりだ。各々、思う通りに行動すれば良い。 せめて今日というこの日が少しでも楽しかったと思えるように。 ● 「バレンタインなのだけれど、お仕事です」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を見渡して、そう告げた。 「世間じゃお祝いムードだってのにな」 困ったもんだぜ、とリベリスタは苦笑を返しつつもイヴの次の言葉を待つ。 「ごめんね、それで肝心の今回の任務なのだけれど……」 僅かに言い淀むイヴに眉根を寄せるリベリスタ。 そこまで厳しい任務なのだろうか。 「あ、皆が考えている様な任務じゃない。むしろ全く危険は無いと言っても良いと思う」 「じゃあ、どうしたんだ?」 今回の討伐対象について話をした方が早いね、とイヴはブリーフィングルームのモニターを操作する。 モニターに映ったには、何だかもやもやとした煙の様な物だ。 「今回の討伐対象のE・フォース。どうしてだかよく分からないけれど、死亡フラグが大好きらしい」 ブリーフィングルームに沈黙が下りる。 「……死亡フラグって、あの死亡フラグか?」 「そう、パインサラダとか故郷に許婚が居るんだ……とか、多岐に渡って種類があるあの死亡フラグです」 何でそんなに具体的なんだ、とツッコミを入れると任務の為に勉強したらしいです。 イヴちゃん、真面目だからね。仕方ないね。 「今の所戦闘能力は皆無だし、叩ける間に叩いてしまおう、というのが本部の結論」 方舟の戦いは、佳境に入ってる。危険な任務も多くなって来ているが、こういった任務を見過ごす訳にもいかない。 「なので、ロケーションが必要ならATSも貸し出すから適当に死亡フラグを立てて来て欲しい」 別に本気で立てろと言う訳ではない、飽く迄もエリューションを満足させて消滅させる為の物なのだから。 「それにね」 「うん?」 付け加えたイヴの言葉に首を傾げるリベリスタ。 「逆にいっぱい立てたら、そういうフラグは折れるんだって」 極めて真面目な顔でそう呟くイヴの顔を見ながらリベリスタはそれじゃあ仕方ないな、と笑みを零した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ナガレ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月22日(日)22:44 |
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■メイン参加者 11人■ | |||||
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● 2月14日、バレンタインに既に街はその色を変えてしまっている。 そんな三高平の商店街で幾らかのチョコレートを袋ごと抱え込んで歩くのはシエナだ。 彼女の身体はフェイトを得た影響で身体の一部が機械へと変質している。 その為、身体に蓄えたエネルギーを大量に消費してしまうのだが……。 「凄く素敵な補給イベントだと思う……よ」 どこを見ても、チョコを積んでいる日本のバレンタインはシエナにはお気に入りのイベントとなったらしい。 最も、大量の袋を抱えて歩いているその様子はいささか他の人達とは楽しみ方が違う気もしたのだが。 まだ、自分の生き方がわからない彼女にとって自らが興味を持てる物が食だった。 その為に漁なども行っているらしい。中々の剛の者である。 (こういう熱を、育てていけばいいのかなって、最近思う……の) いつかきっと、心に芽吹いたこの芽や種が生き様を作り上げてくれる、そう思えるのだ。 これまで出会って来た様々な人達と同じ様に。 「でもいまは、お腹が空いた、な」 そういって、買い込んだチョコからひとつ箱を取り出して口の中に放り込む。 口の中で溶けていく甘い香りは彼女の白の心に喜びの色を与えてくれるのだった。 「橘さーん! 新しいからあげだよ!」 空から舞い降りて来た璃莉を驚いた顔で橘和輝は迎え入れた。 「何だかどこぞの愛と勇気が友達のヒーローみたいな……いや、それは兎も角どうしたんだ?」 「あのね、今日はバレンタインだからこの前のお疲れ様と初めて会った時のお返しも兼ねて!」 差し出されたチョコのかかったからあげに面を食らった和輝だったが、すぐに笑みを浮かべて礼を言う。 近況報告とでも言えば良いのか、お互いの状況を話すと無限にからあげが出てくる教会……?と和輝が首を傾げていたが。 「からあげ、美味しいよね」 「そうだな……チョコレートが掛かっているのを見た時は驚いたが」 味は中々悪くない、と共にからあげを食べる二人。 「私ね、羽が生えるまでは身体が弱くて、身体に悪い物はあんまり食べられなかったんだけど……」 身体に悪くて美味しいものでおススメって何かあるかな? 璃莉の言葉に、僅かばかりに考え込んだ和輝は。 「そういうのは道重の奴が詳しかった様な気がするな……今度、聞いておこう」 約束するよ、と小指を差し出して。 「?」 「指きり。約束、忘れない様に」 俺なりのジンクスみたいな物なんだよ、と言う和輝に璃莉は笑って。 「うん、それじゃあ約束だよ!」 後日、律儀に約束を護ろうとした和輝が道重にロリコンのレッテルを貼られてしまったのは余談である。 ● 「じゃーん! エスターテちゃんにバレンタインのチョコ持ってきたの!」 「わっ、ルアさん、ありがとうございます」 静かなカフェへと足を運んで、各々の時間を過ごす事にしたルアとエスターテもまたバレンタインを楽しんでいた。 ルアがどうぞ、と渡したチョコレートを胸に抱くようにして受け取ったエスターテは嬉しそうだ。 その二人を眺めながら、やや複雑そうな面持ちで眺めているのはルアの弟のジースである。 始めは話題もこの間行ったテーマパークの件があるから良かったのだが、後は食べ物の事を話す事しか思い浮かばずに現在エスターテをルアに独り占めされている状況なのだ。 けれど、その視線は分かり易過ぎる程にエスターテへと向かっており。 「このラッピング可愛いでしょ?あっちにあるお店で売ってたの」 見ればオーガンジーとレースの包みに細めのリボンを掛けてあった。 ルアなりの気遣いの形なのだろう。 「はい。可愛いです……手作り、ですか」 「そうだよ!手作りしたの!」 手芸や料理……とまでは言わずとも、そういった物を自分で用意する習慣が無かったエスターテは新たにそういう事もあるのだ、と覚えておく。 もしかすれば、そう遠くない内に彼女もそういった事に挑戦するかも知れない。 そんな二人を眺めているジースがふと物思った事を口にする。 「……そういえば、エスターテって何か好きなものあるのか?」 突然、口を開いたジースにルアは何言ってんのコイツ、という視線を送り、気圧されるジース。 しかし、彼とて姉の圧力に負けられない理由があるのだ。 「あ、いや。チョコとかお菓子とかで好きなもんとかあるのかなと思って」 エスターテは不思議そうな顔をしてからその問いに答える。 「好きなもの……え、と紅茶は好きです」 次に彼女の口から並べられるのはババロアとタルト、ザッハトルテ。 つまり、総じて甘いものは大体好きらしい。そういえば、今日もイチゴタルトを彼女は頼んでいた筈だ。 「てんぷらも、えっと。好き、ですが」 「エスターテちゃんそれ前から好きだよね!私もだよ!」 いつの間にそういうイメージになったのだろう、と首を少しだけ傾げるエスターテ。 一方、ジースは彼女の事を知れて嬉しかったのか、思わず笑みが毀れている。 それにもう一つ、気づけた事がある。エスターテの首に光るネックレスはジースが誕生日に彼女へと贈った物に違いない。 ならば、心の奥底から漏れ出る喜びが表情に出ても仕方がないだろう。 それを見咎める様にしてルアが視線を送っている事に気づくと照れ隠しに何でもねぇよ、と二人の頭をぽんぽんと撫でた。 「わー!もー!何するのよー!」 髪の毛のセットが大変だという女性特有の悩みを知らないジースはぽかぽか、とルアに叩かれる。 「え、と……あの、喧嘩はよくないです」 姉弟のじゃれ合いを見ながら、仲裁へと入るエスターテ。 僅かに甘い香りを漂わせる様な彼女らの関係がどうなるかは、今後のお楽しみに。 ● 「俺、この依頼が終わったら、ユーヌたんとちゅっちゅぺろぺろじゅるじゅるするんだ…」 「おや、終わるまでしないんじゃなかったのか?」 それでは死亡以前にギャグフラグになってしまうな、と冷静に竜一へとツッコミを入れるのはユーヌ。 きちんとツッコミは入れるものの、この任務が終えれば正式に結婚しても良いな、と考えるユーヌの目は至って本気だ。 式場の予約を済ませながら、さらにパインサラダまだ作り置きしてるなんだなんて任務に忠実にも程があった。 二人はホラー映画を見ながらお約束的なカップルを演じる予定の様だ。 「任務の為だからね、存分にちゅっちゅぺろぺろしないとね!」 エスカレートしたら物語的に止めが入るのも王道さ! と熱く語る竜一。 止めに入らなかった場合はどうするのか、と疑問も浮かぶが竜一はアーク歴戦のリベリスタ。 きっと上手い事切り抜けるのだろう。 「まあ、死亡フラグとか、よゆーよゆー! だって、体は子供!頭脳は大人!なユーヌたんがいるので大丈夫! 勝ったも同然さ!圧倒的じゃないか!」 ノリノリで次々と死亡フラグを立てていく竜一。 ユーヌも負けじとヴェロキラプトルに遭遇──いや、そもそもどうしてそんな物が此処に居るのかとかそういうのは無粋なのだろう。 「しかし、そんな死亡フラグで大丈夫か? 一番良いフラグを頼む、とならなければ良いな」 「E・フォースどもめ、土下座して許しを請えば見逃してやるぞ!ハッハー!!」 別に大丈夫か、と二人でトドメとばかりに最後の決め技へと取り掛かる。 「まぁ、お約束なのは良いが、別に倒してしまっても構わないのだろう?」 「ユーヌたんの手を煩わせる必要もない。この俺がここで引導を渡してやる!」 「「破ァッ!」」 抑揚の無い声と、気合の篭った声が鳴り響く。 やったか?! と続ける竜一だったが……悪いね、リベリスタ。 このE・フォースもう息してないんだ……。 公園のベンチへと三人の男達は腰を下ろしていた。 夏栖斗、快、悠里の最前線を走るリベリスタの集まりである。 「死亡フラグかぁ…。ここは僕に任せて先にいけ!みたいな?」 流石に今の状況に似つかわしくないから駄目かな、と任務内容を思い返して考える仕草をする悠里。 「死亡フラグなぁ、ほんと僕らがいうと洒落になんないよな」 実感を込めた言葉で苦笑いをしながら夏栖斗は呟く。 「実際、わりと死にかけてるからな……」 つい先日の任務で限りなく死へと歩を進めた快も口調は重苦しい物ではないが、確かに彼らが死線を歩く戦士であると実感させる。 空気を重苦しくするのも駄目だな、と夏栖斗が意を決して口を開く。 「よし、僕、黄泉ヶ辻との戦いが終わったら、紫月に結婚申し込むんだ」 「おいおい夏栖斗、結婚の前にお前、済ませなきゃいけないことが色々あるんじゃないか?」 「ははは。本当に申し込めるの?直前で逃げ出したりしない?」 口に出せば恥ずかしい事この上ない台詞に照れくさそうな夏栖斗を二人で冗談めかして、問いを投げた。 「笑うなや、僕もこんなことになるとか1年前思ってもなかったわ! って、済ませることあったっけ? ああ、大学卒業?」 何時も通りの反応を返す夏栖斗に快と悠里は顔を見合わせ、肩を竦める。 「俺は……今日は雷音がパインサラダを作って待っててくれてるんだ」 「快はそれサラダじゃなくて、ケーキにしとけ!ちょっと今かららいよんに電話しとく!」 慌てて携帯電話で妹に連絡を入れる夏栖斗、どうやら無事にケーキへと変更される様子だ。 電話をかけている夏栖斗を尻目に、快は悠里へと問いかける。 「悠里はどうなんだよ?結婚式には呼んでくれよな」 「うーん、そうだね…」 こんな時でもないと、とても言えない様な言葉があった。心からの言葉であればこそ。 「ねえ、夏栖斗」 「ふぅ、何とかなった……ん? どうしたの」 何時にも増して真面目な表情の悠里に僅かに身構える。 「この先何があっても、君達は幸せになってくれ。幸せな家庭を築いて、普通に歳を取る。そんな普通の幸せをきっと手に入れて欲しいんだ」 彼には予感があった。 ともすれば、自分はもうこの日常へと帰る事が出来ないかもしれない、そんな予感が。 「そういうこというの、お前さぁ!」 苦笑を浮かべた夏栖斗がやめろよな、と悠里の胸を軽く叩く。 「そういえばさ、パインケーキだと生存フラグになるんだけど、代わりに仲間の眼鏡が割れるんだよな……」 「え、眼鏡?」 あっ、と二人の声が同時に鳴り響く。 「……夏栖斗?」 見れば悠里の眼鏡のレンズがぱきり、と綺麗に皹が入っている。 「え、僕なの?!」 その眼鏡が果たして、誰の死亡フラグを圧し折ったのか。それは謎のままだ。 天乃は三高平の町を歩きながら物思いに耽っていた。 彼女は激戦区へと転戦を行い続ける様な、言わば何時死んでも不思議ではない生活を送っている。 その戦歴は未だに生きている事が疑問に思える程に凄惨な物だ。 激戦とかつてないほどの死の気配は彼女へと十分な充足感を与えてくれた ──満たされる事が無いと思っていた闘争への渇望が冗談の様に今は薄い。 はぁ、と吐く息が白い、冷たい空気が天乃の周囲に纏わりつく。 透明な感覚。これが真っ白に燃え尽きるという事なのか、そう思う。 だから、もし生きて戻れたのなら…もう少し普通に生きるのも良いと思うのだ。 友人と馬鹿騒ぎをしたり、振られたけれどやっぱりどこか諦め切れていない人と、もうこれ以上近寄るまいと思った人と前のように他愛もなく飲んだりとか…そう言うありふれた事、をやろう。 彼女の渇望は満たされた、それと同時にまた別の欲が彼女に芽生えていた。 「……あ、雪?」 ふと見上げると、曇り空から雪が降り始めていた。 気づけば正面から見慣れた顔が、一度は諦めた彼が歩いてくる。あちらは天乃には気づいてない。 そっとそのままその道を外れて、彼と顔も合わせずにすれ違う。 今はこれで良い、天乃はそう思う。今はまだ、戦姫の戦いは終わっていないのだから。 ……その晩、雪はその場を立ち去る彼女に付き添うように止む事は無かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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