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<バレンタイン2015>想色ショコラ


 ショコラ・ココアの指先がボールの中に入ったチョコレートをゴムベラで優しく撫でていた。
 とろりとろりと香り立つ甘い甘いスイートなガナッシュ。
 その仕草を海色の瞳が逃さぬ様に負っている。
「ふふ、そんなに見つめられると照れてしまうわ」
 嫋やかな声色は彼女の名前の通り、甘く心に広がっていくようだ。
「ごめんなさい。貴女がとても綺麗で……あと、チョコが美味しそうだったんです」
「あら、嬉しい事を言ってくれるのね。でも、後半の方が本音かしら?」
 くすくすと微笑んだショコラ・ココアの顔はハートの形をしたチョコレートだった。
「チョコはね気持ちを込めてゆっくりと優しく混ぜると良いのよ」
「ゆっくり……」
 いつの間にか目の前に現れたボールとゴムベラ。それを手に取り優しく混ぜる。
「プレゼントしたい人の事を想って、ゆっくり、ゆっくり。……そうよ。その調子。良いじゃない」
 次は型に流し込んでトントンと空気を抜くのだ。
 その後は冷蔵庫でゆっくり冷えるのを待つ。
「そういえば、ショコラ・ココアさんってお兄さんか弟さんが居ませんか?」
「あら、居るわよ。皆、美味しそうだったって顔してるわね?」
「あ、えっと……」
 海の幸に秋の実り、聖夜の七面鳥。照れた様に微笑む少女のお腹がくるると鳴った。

 いい感じになったチョコを冷蔵庫から取り出す。
 可愛らしいペールホワイトのレースが施された箱にチョコを詰め込み、心を込めてリボンを掛ける。
 喜んでくれるだろうかと不安にもなるけれど。
 きっと、大丈夫。
「想いの詰まったプレゼントは、お互いが幸せになる魔法の呪文なのよ。さあ、いってらしゃい」
 ショコラ・ココアに背中を押されて駆け出した少女。
 ――渡したい人の元へ。胸には一生懸命作ったチョコを抱えて、ショコラ色の地を蹴った。


「一緒にデザートビュッフェに行きませんか?」
 海色の瞳で微笑む『碧色の便り』海音寺 なぎさ (nBNE000244)はリベリスタに一枚のチラシを差し出した。見れば郊外のカフェテリアを貸しきって行われるバレンタインフェアの案内である。
 まだ雪の残っている小道を歩いて、中に入れば温かな暖炉が設置された広いログハウス。
 ナチュラルアンティークなテーブルと椅子は居心地の良さを感じる。
 窓の一部分はステンドグラスになっており、陽光を優しい色彩へと変えるのだ。
 ゆったりとした音楽が流れる店内で目を引くのは、宝石の如く輝くデザート達。
 クリーム色のプリンに生クリームと苺のケーキ、ピンクとグリーンのマカロンにオレンジ色のゼリー、プルーンの添えられたヨーグルト。それに、チョコレートファウンテン。
 乙女の花園といった感じのラインナップだが。
「甘いものだけじゃないんですよ」
 シェフ手作りのパスタや軽食が振るわまれるというのだ。これなら、甘いものが苦手な人でも存分に楽しめるだろう。
 二人だけの時間を過ごしたいならば併設された小さなゲストルームや、庭園が見えるウッドデッキに置かれたソファで寛ぐのも良いかもしれない。日中であれば温かな日差しがあるので二人でブランケットにでも包まれば温かいに違いない。
「よかったら、来て下さいね」
 イングリッシュフローライトの髪を揺らして笑顔で去っていくフォーチュナ。
 暖かな陽光が差すカフェテリアでバレンタインのチョコを渡すのも良いのではないだろうか。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年02月26日(木)22:18
 バレンタインを楽しみましょう。もみじです。

●ロケーション
 三高平郊外のカフェテリアを貸し切っています。
 持ち込みも自由です。人目を気にする必要もありません。

 暖炉が設置された広いログハウス。
 ナチュラルアンティークなテーブルと椅子。窓にはステンドグラス。ウッドデッキに置かれたソファ。
 小さなゲストルームが併設されています。密談にどうぞ。
 ログハウスの外に喫煙所もあります。

●メニュー
○ワッフル&クレープ
 出来立ての暖かなワッフルやクレープに、フルーツソースやジャム、アイスや果物を添えて。

○チョコレートファウンテン
 おなじみチョコの滝です。果物やマシュマロを付けて楽しめます。

○ケーキコーナー
 いちごショートにモンブラン、チョコレートケーキ。
 シフォンに果物のタルト、数十種類のケーキが目白押しです。
 可愛いグラスに入ったムースやゼリー、プリンなんかもこの場所に。

○果物コーナー
 なんといってもイチゴの季節ですね。
 オレンジやグレープフルーツといった柑橘類に、パイナップルやキウイにリンゴ。
 みかんは大切です。大切です。

○お食事
 甘いものばかりではツラい方にも。
 各種パスタに、釜焼きピッツァ。
 ことこと煮込んだカレー。ローストビーフが美味しいです。

○お飲み物
・紅茶:ダージリン、ウバ、キームン等、産地別に各種揃っています。

・フレーバー紅茶:オリジナルフレーバーのバレンタインの他。
 ザクロ、ワイルドストロベリー等の果実系。
 アールグレイ、プリンス・オブ・ウェールズ、正山小種等、いろいろあるようです。

・ハーブティ:爽やかなレモングラスやカモミールの他。
 「リラックス」「ぽかぽか」といったネーミングのブレンド。
 ごぼう……なんてのもあります。

・コーヒーは浅煎りブルーマウンテンに中煎りコスタリカ、深煎りコロンビア他。
 カフェオレやアイスコーヒーもあります。

・お酒。ビールやワイン。各種カクテル。甘口のポートワインやアイスヴァインも。



●NPC
 PCに絡まれない限り空気として扱います。
・海音寺なぎさ
・ユラ

●注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。←重要!
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
・特定の誰かと絡みたい場合は『時村沙織 (nBNE000500)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合(絡みたい場合)は参加者全員【グループ名】というタグをプレイングに用意するようにして下さい。(このタグでくくっている場合は個別のフルネームをIDつきで書く必要はありません)
・NPCを構いたい場合も同じですが、IDとフルネームは必要ありません。名前でOKです。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。


参加NPC
海音寺 なぎさ (nBNE000244)
 


■メイン参加者 24人■
アークエンジェインヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
アウトサイドデュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ハーフムーンソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
フライダークホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ハイジーニアスナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
ギガントフレームスターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
ハイジーニアスダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
ハイジーニアス覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
アークエンジェダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
ノワールオルールクリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ハイジーニアススターサジタリー
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
アウトサイドインヤンマスター
伊呂波 壱和(BNE003773)
ナイトバロンアークリベリオン
喜多川・旭(BNE004015)
ギガントフレームプロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
ハイジーニアスホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)
ハイジーニアスクロスイージス
碓氷 凛(BNE004998)
ヴァンパイアマグメイガス
アウィーネ・ローエンヴァイス(nBNE000283)


 店内に広がる香りはフレッシュなフルーツと、とろとろに甘いお菓子達。乙女の楽園へようこそ。
 ほろ苦いシンプルなガトーショコラの横に並ぶのは果物と小振りのザッハトルテ。
 虎鐵と雷音はお互いに手作りのお菓子を持ってきていたのだ。
 琥珀色のフレーバーティから立ち込めるのはクランベリーマスカットの香り。
 アンティークのテーブルも相まって小さなお茶会の様。
 二人は其々、相手からプレゼントされたお菓子を口に含む。
「うん、君のお菓子は美味しいな。その姿からは想像できないほどに、繊細で、優しい」
 舌に乗せたチョコケーキは瞬く間に解けて、甘い余韻を残すのだ。
「雷音の菓子もやっぱり美味い。心がこもってるってのとやっぱ愛する娘が俺の為に作ってくれたんだしな」
 ここに至るまでの思い出が二人の間を通りすぎて行く。
 娘は父と兄の為に一生懸命、手料理を練習したのだろう。
 父は子供達の為にお菓子を作り続けたのだろう。
 父の背中は誇らしく。娘の姿は失った家族の暖かさその物だった。
「虎鐵、いろいろ、お疲れ様」
 向かいに座っている雷音が虎鐵の頭を撫でる。
「雷音こそお疲れさん」
 剣林の事。自身のワガママに突き合わせてしまった事。そして、打ち克った事。
 それらを乗り越えて生き延びたから。これからだって、こんな時間を一緒に過ごせるはずだ。
「なにがあっても、これからもボクは君の娘だ」
「俺もずっとお前の父親だ」


「ねーねー! 席あそこにしよ? 暖炉があるよ!」
「そうね、そうしようか。ああもう、そんなにはしゃがないの」
 元気な声と共にカフェテリアに現れたのはアリステアとフランシスカ。案内の店員も可愛らしい声にくすりと笑みを浮かべる。
 案内された席は暖炉の前。暖かな火の気配とパチパチと木が爆ぜる音。
「去年もこの時期に一緒に甘いもの食べたんだよね。あれから1年経ちましたっ」
「そういやそうね。あの時は和菓子だっけ? ありすてあが口一杯に頬張ってもうね……。一年か、早いわね」
 懐かしい思い出は花色に咲いている。共有する記憶はそれだけで嬉しいものだ。
「私も少しは成長したでしょう? したよね?」
「……成長? 年齢は増えたんじゃないかな。……うそよ、ちゃんと成長してるわよ」
 アリステアのゆるゆるなほっぺを、ぷにぷにして。少女達は可憐な空間を作り上げる。

 フランシスカが選んだのはいちごのショートケーキ。アリステアはチョコレートケーキに紅茶をセレクトする。
 白い天使は悪戯な顔で黒い天使にケーキを差し出した。
「ふらんちゃん、あーんして?」
「…ん? あーん?」
 少し大きめに切り取られたケーキをフランシスカはぱくりと頬張る。
「美味しい?」
「当然美味しいわよ。大事な友達と食べてるのだから」
 仲の良い白黒天使は午後の暖かな日差しの中優雅に戯れるのだ。


「色々揃ってますね。美味しそう……」
「普通の食事にデザートもばっちりか」
 リセリアの口から零れた言葉に猛は笑顔で頷いた。何を選ぶか迷っている横顔も可憐で美しい。二人が選んだのはチョコレートケーキとモンブラン。
「紅茶は……折角だし、オリジナルフレーバー、バレンタイン?」
「じゃあ、俺もそれで」

 猛はモンブランを突付きながらテーブルにあったメニューを見つめていた。
「? お酒ですか」
「そういえば、俺はまだだけどリセリアは飲める歳になったんだな」
 猛はメニューをリセリアの方に向ける。
「まあ、今年で二十歳ですから日本の法律上でも一応。……ああ、そうか」
 国内に居れば他の国の成人年齢を気にする機会もないだろう。
 例えば、ドイツでは16歳から公共の場でのビールやワインは買って飲める、だとか。
「……美味しい物なのかね、酒ってのは」
 猛にはお酒というモノにいい思い出が無いのだ。興味が無いのも無理はない。
「うーん……まあ、美味しい物は美味しいかな……」
 甘いワインやバーテンダーが振るカクテルは飲みやすいだろう。
 ウィスキーや辛口の日本酒は敷居が高いかもしれない。
「ま、飲める様になったらワインの一杯でも付き合ってくれよ」
「ふふ、喜んで」
 猛が二十歳になるのは今年の9月。その時が来るのが楽しみで。
 今日は美味しいデザートと紅茶で二人の甘い時間を過ごすのだ。


 庭園が見えるソファに並んで腰掛けているのは櫻霞と櫻子の二人。
 この度、正式に役所への申請が通り天城の姓を名乗る事となった櫻子は、より一層の愛を持って櫻霞とのカフェテリアを満喫していた。
 言葉に出さずともその表情で楽しんでくれている事が分かるのは櫻霞にとっても心地よいもの。
 アンティークのテーブルに置かれているのは、ワッフルとシティローストのコロンビア豆を使ったコーヒー、チョコケーキと紅茶だ。
「最近お仕事が忙しかった分、今日はゆっくりできますね」
「家にいてもいいんだが、やはり息抜きは大事だからな」
 尻尾を振りながらチョコケーキを一口食んだ櫻子は、櫻霞へと寄りかかり腕を伸す。
「はぅ~……やっぱり此処が一番幸せですぅ~」
「甘えたがりは相変わらずか」
 抱きついてきた櫻子の頭を撫でた櫻霞。
 どんな時が一番幸せかという問いに、ソファの背と自分との間に櫻子を閉じ込めて耳元で囁く。
「無論お前と居る時が一番だ。そうでなければプロポーズはしない」
 黄金と紫暗の瞳に見つめられ櫻子は頬を紅く染めた。
 言葉を紡ごうにも動揺して声が出ない。
「ほら、同じ味じゃ飽きるだろう? お互い違うものだし。折角だ、半分にするか」
 切り取ったワッフルを差し出された櫻子は、照れながら同じように櫻霞の皿へチョコケーキを載せる。
「はぅぅ……やっぱり照れるのですぅ……」
 ぷしゅぅと茹だった顔を乗せてきた櫻子に、飽きないなと微笑む櫻霞。


 ミュゼーヌと旭の前には夢の様な甘い空間。
 広いアンティークのテーブルに広がる、ストロベリーワッフルにチョコレートパフェ、アールグレイ。ファウンテンに潜らせたバナナと、オレンジを添えたクレープ、シフォンに果物のタルト、プリンに、暖かいストレートのディンブラ。
 お互いに被らないように並べられたスイーツに二人は目を輝かせる。
「ごはんものも気になるけど……どしよ」
 旭はミュゼーヌが何を食べるのかを気にして、そわそわと落ち着かない。
「じゃあご飯は私がペペロンチーノを頼みましょう」
 女の子は色んなものをちょっとずつ食べたいものだ。だから、二人でシェアをする。
「ね、たべさせて?」
 あーんと口を開けた旭にミュゼーヌはチョコレートパフェを差し入れた。
「こんだけ揃うとやっぱ壮観だよねぇ……!」
「ふふ、まさしく乙女の楽園ね」
「えへ、スイーツビュッフェだいすき。体重計きらーいっ」
「体重は……仕方ないのよ。機械の体だから重くなってもっ……! …こほん。私とした事が取り乱してしまったわね」
 幸せを噛みしめる乙女達は始終笑顔で楽しげだ。

「そうそう旭さん、ハッピーバレンタイン」
「ふふー、ミュゼーヌさん。わたしからも、はっぴーばれんたいーんっ」
 綺麗なラッピングが二つ。
 中身は花を象ったアイシングクッキーとほんのり大人向けなラムボール。
 大好きを込めて互いに手渡す、ありがとうの気持ち。


 カルラの隣に居る壱和のスカートが風にふわりと揺れる。
 これまでこうして遊びに来る事はあっても可愛らしい出で立ちで現れるのは初めてだったから、距離を置かないにしてもお互い照れはある。
「天気もいいし、外も悪くないが。インテリアもいい趣味してるな」
「暖炉がありますし、せっかくですから中でいただきましょうか」
 暖かい場所に案内された二人は甘い香りと薪の匂いに笑顔になった。
 シフォンにクレープに、ワッフルやモンブラン。どれにしようかと迷う壱和。
 カルラはワッフルとケーキ、深煎りコロンビアを配する。
「やっぱり、コーヒーがないと甘いものは量を食えなくてなぁ」
「ボクはカフェオレで。ブラックはまだ飲めなくて」
 せっかくなのだから、甘いものに挑戦してみよう。カルラは壱和と少しずつ分け合って食べる。
「……来月、ホワイトチョコでアレンジしたの作ってやる」
 しかして、ホワイトデーは飴が定番だっただろうか。
 カルラの言葉に壱和は尻尾を膨らませて喜んだ。それをうまく表現する言葉が見つからなくて。自然と頬が緩んでしまう。
「ぎゅって、していいですか」
「ぇ ハグ?」
 驚きながらも手を広げるカルラの胸に飛び込む少女。
 言葉に言い表せない分だけ、ぎゅうぎゅうと力を込める。
「カルラさんの好きなものも、ボクに教えて下さいね」
 これから沢山の事を。一つずつ知っていこう。


 光介となぎさはウッドデッキでアフタヌーンティ。暖かな日差しが心地良い。
 少年はオレンジを丸ごと持ってきて、花弁に見立てたフツーツカットに仕上げる。
「ふふ、どうぞ。チョコに浸しても、良いかもですけど」
「わぁ! 光介さん凄いです」
 建前は『七色の霞』で振る舞う為。けれど、本当はなぎさに食べてほしいから。真っ先にオレンジから練習したのは内緒である。
 今まで遠慮してきた分だけ、いざ家族と告げてしまったら、もう少し距離感に戸惑うのだと思っていた。しかし、それは変わること無く、日々が過ぎて行く。
 自分と相手の十字を重ね合わせ、共に背負って歩くと決めた覚悟は普段の二人の在り方をはっきりさせたのだろう。
 だから、また一歩。
 少しずつ、普通の兄弟みたいに過ごしていきたい。
(……望み過ぎでしょうか?)
 改めて声に出すには、もう少し時間が必要なのだろうか。
 けれど。
「光介さん、これバレンタインのチョコなんですけど、貰ってくれますか? 昔、母と一緒に作った事があるんです。あげる相手は父と兄だけだったんですけど」
 普通であった頃の家族に向けた感謝の気持ちを思い出して、それに今の『兄(光介)』への想いを重ねて。
「いつも、ありがとう。お兄ちゃん」
 こういう場所でしか兄と呼ばないのは、まだ照れくさいのだろう。妹は頬を染める。
 その様子に兄は微笑みを浮かべるのだ。

 那由他は店内を彷徨いていたユラの姿を見つけ、側に擦り寄る。手にはチョコ。
「ユラさんにはまだ渡してなかったので。怯えずに、美味しく食べてくださいね」
「ひっ」
「大丈夫、毒になる物は入ってませんから。ふふふ」

「後は、なぎささんがチョコを誰かに渡すかの確認だけですが……」
 那由他はシュネーのドレスを靡かせてなぎさを探している様だ。
「どうせ光介さんなんでしょう? 分かってるんですよ。お兄ちゃんって仲良さそうにしてましたからねー! くう、妬ましい!」
 こんな風に那由他が純粋に嫉妬の感情を表に出すのは珍しい。
 丁度、碧の少女の髪が揺れるのを察知した那由他は、一人きりのなぎさを後ろから抱きしめる。
「うー!?」
 手で口を塞がれたなぎさはびっくりして目を見開いた。
「ふふふ、そう簡単になぎさの想いを受け取らせはしませんよ?」
 聞こえてきた那由他の声に少女は胸を撫で下ろす。そして、手に持っていたチョコを奪われた事に気がついた。
「那由他さん、びっくりするじゃないですか。そんなに、チョコ欲しかったんですか?」
「だって光介さんに渡すんでしょう? だったらこれは返せないなー」
「もう、渡しましたよ」
 なんだってー! では、このチョコは。
「それは、那由他さんの分です」
「……ふふふ。なぎさは可愛いなぁ」
 頬ずりをする那由他。子供扱いに恥ずかしさを覚えるなぎさ。既に渡してしまったのなら仕方がない。けれど、次があれば阻止してみせる。
 ――――私だって、この子ことが大好きなんですから。

 なぎさは凛にカフェテリアが好きなのかと問うた。
「甘味は好きな物の一つだ」
 本当は隣の少女と話したかったというのが、ここに居る大半の理由なのだけれど。
 ケーキコーナーで凛が選んだのは苺のショートケーキとみかんの乗ったシフォン。
 それを持って庭園が見えるテーブルに着く。
「今更な気もするが……」
 半分ほど食べて紅茶で一息付いた頃、凛はなぎさに話しかける。
「苗字で呼ぶのも堅苦しいと思っていたんだ、名前で呼び捨てにしても構わないか?」
「はい。好きな様に呼んで下さって構いませんよ」
 なぎさの言葉に少し安心したように、苦笑を零す凛。
「俺の事も凛でいい、……その方が嬉しいとも言うんだが……」
「え、っと……」
 どうしたものかと戸惑うなぎさ。距離感がまだ掴めていないのだろう。頬が紅く染まる。

「あれから何事もなさそうだな」
「はい。大丈夫ですよ」
 凛は他愛のない話をしながら、なぎさを見つめて優しく微笑む。
「まぁ……何があったとしてもなぎさは俺が護る、何の問題も無いがな?」
「その……凛さんはどうして」
 どうしてそこまでしてくれるのか。もしかして、自分が子供だから、からかわれて居るのだろうかと。
「俺にとってなぎさは特別な存在と言う事だな」
「ぁ、え、と……」
 凛の事が嫌いな訳ではない。しかし、男性から好意を向けられる事に慣れていないなぎさは戸惑うばかりで。言葉を紡ぐことができない。
 耳までオペラモーヴに染まるなぎさを優しく見守る凛であった。


(そういえば……)
 糾華は生クリームとメープルシロップがたっぷり乗せられたワッフルを頬張りながら、目の前の夏栖斗とのデートが久しぶりだったと心に留めた。
「おいしい? 向こうに綺麗な色のゼリーあったから持ってくるね」
 店内に広がる甘味の誘惑に、ウキウキしながらに歩いていく夏栖斗を見送って糾華はAFを確認する。中にはチョコレィト。準備万全です。
 夏栖斗はゼリーを手に持ちながら糾華を見つめた。
「あざちゃんさ、本当に綺麗になったよね」
 突然の言葉にぱちくりと目を見張る糾華。
「お世辞言っても何も出ないわよ?」
「いや、お世辞とかじゃなくて。出会った頃はすごい小さな子だったのに」
 出会ってから4年。可愛い少女は綺麗を得ようとしている。
「11歳……だったのよねぇ。今思えば生意気な子供だったと思うわ」
 今でも子供だけど、と笑う糾華は素直に美しいと言えるだろう。
「彼女がいなかったら口説いてたかもね」
「くど……もう! それは……2、3年遅かったわね」
 お互い大切な人が居るのだ。誤解を招くような発言に少女は抗議する。
 ゼリーを受け取った糾華は夏栖斗に小さな箱を差し出した。
「はい、『妹分』から大切な『お兄様』への愛の形でございます」
「えっ!?」
 夏栖斗は黄金の瞳で声を上げる。
「大きな気持ちの本命は彼女さんから貰うのよ?」
「やっぱ女の子にはかなわないや。ありがとう。嬉しい」
 悪戯っぽく笑う妹分の髪を兄は優しく撫でたのだ。


「デザートビュッフェでも、お酒があるなら男でも十分楽しめるね」
 快は色取り取りに並ぶスイーツとお酒のメニューに笑みを零す。日本酒ではあまり馴染みは無いが、欧州ではお菓子とお酒はマリアージュ。その分歴史も長い。最近では日本酒入りの生菓子等も上品な味わいで美味しいという。
 快が最初に頂くのはアイスワイン。
「お、こいつはカナダのだな。クセが無くて、葡萄の甘みが滑らかな感じだね」
 甘いアイスワインはデザートやフルーツにも良く合う。
 お次は酒精が増強されたポートワイン。味の濃いカレーにも負けない甘みとコクがある。
 隣の席に座るのはビールとローストビーフを食みながらノートパソコンを見ているあばた。
「ウァレンティヌスなんていなかった、という説の方が有力なようですね」
「ほうほう」
「創作が現実と信じられて、伝説となる。未来に作られた物語が過去を置きかえる。それを神話と言います」
 ポートワインとカレーのマリアージュを楽しみながらあばたの声に頷く快。
「生まれる前を知ることができないという人間の認知限界が、現実や歴史すら上書きする。神秘的なことだとは思いませんか」
 機械銀の瞳で前を歩く恋人達を観察するあばた。愛の日のカップルは自分達だけの世界を構築している。
 快はチョコレートマルガリータとビターチョコを摘んで。甘いお酒に酔いしれる。
「本当ならこんな所に来ないんだが、うちの式神が行きたがっていたからな」
 身の回りの世話をさせている労いに息抜きも良いだろう。
「……余計な知識を教えた覚えはないんだが。バレンタインとか。何処で覚えたんだか……」
 ちらりと側に居る式神を見やる結唯。作りなおす手間が面倒だからとそのままにして置いたのだが。
「甘いのは好かん。菓子系もな」
 言いつつ窯焼きピッツアとブラックコーヒーを手に席へと座る結唯。
「……嬉しそうだな」
 結唯はお菓子を食べる式神を見つめて面倒になったなと頭を抱える。
「なに、私に? 普段世話になってるし。バレンタインだから?」
 手渡されたチョコに怪訝な顔をする結唯。
「だから甘いのは嫌いだと……。ビター? ……これなら。まだ食べれん事はないな」
 二人の時間はちょっぴりほろ苦なチョコレート。


【おんなのこ会】のメンバーは宝石の様なスイーツの前に悩んでいるようだった。
「ケーキがたくさんある……すごいな」
 アウィーネの声にせおりが丁寧に説明を加えていく。
「ピンクのマカロンはローズフレーバーで、ベージュのメレンゲに薄いグリーンのクリームが挟まってるのはオレンジフラワーかな? 前に食べたことあるけど美味しかったよぉ!」
「そのマカロンも美味しそうだ。私は栗とラズベリーのタルトと、ザッハトルテにしよう」
「私はみかんゼリーと、みかんの杏仁豆腐です」
 アウィーネが先ほどから気になっているのは人形の様なルリジューズ。
「それ気になるの? ルリジューズって修道女の襟に見えるからそういう名前なんだって!」
「なるほど」
 感心しながら、手に持っているのはピスタチオのアイスとカシスシャーベット。意外と大食いの様だ。栄養分は胸に集約されるのだろうか。
「母がアイスを作ってくれた事がある、美味しいのだがアイスのイメージは恐い」
「え?」
「え?」
 せおりはチョコファウンテンの前に立つ。
「チョコファウンテンはメロンたべようっと!」
「私はマシュマロにしよう」
「私はみかんです」
 なぎさは執拗に蜜柑を持っていく。
「そういえば、ハーブって西洋魔術だと星座と結びつけられてて、星座のハーブティーを飲むと運気が上がるらしいよ!」
 せおりがパライバトルマリンの瞳を輝かせ、言葉を広げる。
「そうなのかっ、そういえば地元でチョコとバラの紅茶というのを飲んだ事がある」
「私は乙女座だからラベンダー。なぎさちゃんは蟹座だからカモミールで、アウィーネちゃんは牡牛座でローズだね! お花のイメージも強いけど、全部お茶になるんだよぅー」
「ではお茶はローズの入ったものにしよう。色が綺麗だな」
「私もカモミールティが飲みたくなりました」
「でしょ!」
 星座占いや運気アップという単語が飛び交う【おんなのこ会】はとても楽しげで、庭園に咲く花達の囁きが聞こえる様だ。


「……花嫁修業は捗ってるか?」
 そんな言葉から始まった鷲祐と海依音のディナーは店内がバータイムに入った頃。
 照明は少し落とされてゆったりとしたジャズが静かに流れている。
 甘いチョコに合うのはアイリッシュウィスキー。鷲祐は琥珀色のグラスを傾けて海依音の声に耳を傾けていた。
「でね、黒覇さんったらねー! ……って、わしすけ、聞いてる? それでね」
「ああ、聞いてる。で、どうした?」
 テンションの高い絡み酒は相変わらずで。赤い唇は方舟での思い出を語る。
 戦場に戦闘を重ね、いつしかこの『変な聖職者』に背中を預けることが増えたのだなと、苦笑いを見せる鷲祐。
「いろいろあったわよねぇ」
 今までの記憶が海依音にはある、同時にこれからが確約出来ない事を実感する。
「だからねー、わしすけー、絶対に死んじゃいやよ」
 言葉に出した途端溢れ出る涙は、感情の天秤が傾いてしまったから。
「……なんで泣いてるんだ」
「やだー、わしすけ死ぬのやだー」
 失うのが怖いから。鷲祐を失うのが怖いから。
「俺は死なない」
「ちゃんと、来年もそのあともいきてる? じゃないと泣き止まないもん」
 側に居る時は、笑っていてくれとは言えやしないけど。
「……全く。いい女を泣かせる不心得者になりたくないからな」
 本当に世話の焼ける奴だと言いながら、鷲祐は案外こういうのも悪くないと心に留めた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 甘くてスイートなカフェテリアで思い出の欠片を刻んで頂けたら幸いです。
 ありがとうございました。