●最期の死闘 「もう駄目だ! これ以上はもたない」 二刀小太刀を操るリベリスタの蒼乃宮静馬が決死の形相で叫んだ。次から次へと地面から現れる陰獣の攻撃にもうなすすべがない。 蚯蚓のような醜悪な姿で地面をドリルのように突き出て刺してくる。圧倒的な数の敵を前にして次第に頼りになる味方は血を吐いて倒れていった。 三ツ池公園の外周はすでに敵味方入り乱れる混乱の渦に巻き込まれていた。 国内のリベリスタ達がアークとともに闘うために駆けつけていた。だが、これまでの敵とは明らかに違う強さにリベリスタは限界だった。 静馬はそんな意気消沈するリベリスタ達の先頭に立って鼓舞し続けた。同じリベリスタの安部芽衣香とともに奮闘していたがもう余力がない。 「お前たちは逃げるんだ! あとは俺が一人で片づける」 アークに対する恩返しの為にこれまで戦ってきた。すでに重傷を負っており、これ以上は無理に動けない。せめて最期だけでも役に立って死にたかった。 これ以上仲間を死なせるわけにはいかない。静馬は血塗れの体に鞭を打って陰獣の群れに立ち向かっていく。だが、背後に回った陰獣の姿に気が付けない。 「静馬さん、逃げてください! もう十分ですから」 芽衣香は静馬の危機に叫んだ。 引きちぎれた巫女服に構わずに静馬の方へと歩んでいく。一瞬静馬が最愛の家族の姿にダブった。絶対に死なせない。両手を広げて楯になろうとして、芽衣香はあえなく弾き飛ばされた。息も絶え絶えに血が口から溢れてくる。 「せめて、最期にもう一度――会いたかった」 芽衣香は薄れゆく景色の中で最愛の家族の姿を思い描いた。 ●悪戦苦闘の三ツ池 「三ツ池公園で暴れている化け物達を食い止めてきてほしいの」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして険しい口調で言った。すぐに状況を説明していく。 バロックナイツ盟主『疾く暴く獣』ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマンがついに動き出した。第二位『黒騎士』アルベール・ベルレアンと第六位『白騎士』セシリー・バウスフィールドとともに三ツ池公園に凶悪な牙を向けてきた。狙いは定かではないが、敵も数多のエリューションやアザーバイドを投入してきており、事大は深刻を極めた。 「現場には多数のリベリスタが奮闘しているがそれも時間の問題。このままではいずれ突破されてしまって三ツ池公園が敵の手に墜ちてしまう」 圧倒的に多い敵の数に味方のリベリスタ達も悪戦苦闘していた。すでに大半が傷ついて現況を独力で打開する力は残っていなかった。 今回は敵にアシュレイが居る以上、万華鏡による一方的なアドバンテージは得られない。さらに敵にアシュレイが居る以上、彼等は間違ってもアークを侮る事は無い。 非常に厳しい戦いが予想されることは間違いなかった。 「貴方達には三ツ池公園の外周で味方のリベリスタと協力して、敵の部隊をこれ以上侵入させないように食い止めてきて。くれぐれも無茶しないように健闘を祈るわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月27日(金)22:04 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 5人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●強烈なパンチ 「ボケナスがああああああああああああ!」 安倍芽衣香が顔を上げた瞬間。『黒き獣』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)の強烈なパンチが頬に炸裂した。声を上げる間もなく芽衣香は吹き飛んだ。 猛烈な風ともに砂の向こうへ滑り飛んでいく。 弾き飛ばされた芽衣香はそのまま地面にぴくりとも動かない。 「てめえの役割くらいてめえで自覚しやがれ!」 なんでフォーチュナが前に出ているんだと喚き散らしながら、もう一発殴ろうとするのを後ろから『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が止めに入る。すぐさまその場にいる瀕死のリベリスタに魔力の癒しを授けた。 「ムキ~! お兄様にも打たれたことないのに!」 ようやく起きあがった芽衣香は怒りを露わにしてノアノアに噛みついた。 ノアノアもしつこい芽衣香を振り払おうとすぐさま反論する。フォーチュナのくせに前線に出てんじゃねえ、他人に迷惑をかけるな、死ぬならてめえで勝手に死ねと口撃する。 「私だって守られるだけじゃ嫌なの! お兄様のように強くなるんだから!!」 芽衣香は負けじと反論した。頑固さは流石に兄妹ともよく似ている。 「このわからずやあああああ!! 最初に言っておくけどな、ボクはブランク長えからお前にかまってる暇ねえぞ! 死にたくなきゃ勝手に逃げろバカ!!」 ようやく振りほどくとよれよれの足取りでノアノアは敵陣に一人で突っ込んでいった。 無謀にも陰獣達に囲まれて集中砲火を浴びせられる。 血塗れで倒れていたリベリスタ達が起き上がって救いの神の方へと顔を上げた。 公園の熾烈な攻防戦。死にかけのリベリスタ達に救世主が現れたと思った時だ。 振り返るとそこにはアークのリベリスタ達が確かにいた。 だがしかし…… 奮闘していたリーダー蒼乃宮静馬はその救援に訪れたメンツを見た。その瞬間に、淡い期待が幻想であり、一気に地獄のどん底に叩き落とされた気がした。 「もはやこれまでか……」 アークのメンバーの見た目は誰も自分より弱そうでため息をついた。酔っ払いの角が生えたやたら黒い女に、どこからどう見ても普通の少女。さらに後ろに金髪のカッコつけたチャラそうな『ザ・レフトハンド』ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)と、とても戦力にならなそうな布団を被った、老いぼれ爺さんの『布団妖怪』御布団 翁(BNE002526)だ。 唯一まともに前線で戦えそうなのは鋭利な刀をぶら下げた蘭堂・かるた(BNE001675)くらいだが、こんな変なメンツな上にしかも人数も少ない。 朦朧とした意識の中で静馬は死をついに決意し、自害を試みようとした。 「蒼乃宮静馬よ……そなたの剣の腕前はワシも聞き及んでおる」 翁は不意に静馬に向って重い口を開いた。 「貴様、どうして……俺の名を知っている? 初対面のはずでは」 静馬は困惑した。こんな弱そうな敵は幾らなんでも覚えていない。だがまて。それにしてもこの圧倒的なオーラは何だ? 布団をかぶった雰囲気の威圧感に押されそうになる。 「もしや……貴方は『翁』ではないか? 最凶の隠密御庭番衆の伝説の御頭――」 朦朧とした意識の中で静馬は盛大な勘違いをした。彼の中には、翁が、自分がかつて所属していたフィクサード組織で仕えていた伝説の先代の翁に思えたのである。 静馬に従っていたリベリスタ達もすごい人が現れたと希望に胸を膨らませた。不意にそう思ってみると現れたアークの面々がとても強そうに思えてくるから不思議だ。 「蒼乃宮さんも安倍ちゃんもおひさしー……って、覚えてないかな」 寿々貴が近くにやってきて静馬に声をかけた。寿々貴の細い手を握り締めてようやく立ち上がった静馬はおもむろに彼女の顔を正面から見て何かを思い出す。 「君は確かすずきさん――」 忘れもしない、鬼蜘蛛と共闘した時の戦いだった。ライバルの二刀流の奴との激しい決闘戦の時に後ろで回復の支援に徹していた少女だった。寿々貴の回復がなければ、双剣との決戦は静馬が間違いなく勝っていただろう。 寿々貴も未だにあの時のことを忘れていない。 鬼蜘蛛にもらったあの包帯は今でも大事にとってある。 「あの頃を生き延びて、生きる意志をもったなら、貫きなよ」 まっすぐに見つめてくる寿々貴の目にようやく静馬の心に生きる強い意志が宿った。 「お前ら話が長いぜ。俺が一発かましてやる!」 ウィリアムが狙いを定めて一斉に銃を乱射した。辺りにいた陰獣が一斉に逃げるようにして地面の穴へと一時的に潜り込んでいく。道筋が出来たところをかるたが姿勢を低くして身構えながらウィリアムの警戒する後を付いていく。 「これ以上もたない、そう思ってからが、死線の越え時……そういうものでしょう。 まだ最期ではありませんよ? 世界は、あなた方も見捨てはしません」 かるたが鞘から刀を抜くと後に続けと言わんばかりに敵の中へと切り込んでいく。 ●その先に地獄が待っていたとしても 突然現れたアークのメンツに影武者の騎士も些か困惑した。相手の無謀ともいえる強硬突破の攻撃にこちらも陣形を乱されそうになる。影武者の騎士はすぐに呪文を展開して、自身の分身を多数作りだして本体を守るように展開した。 斬り込んできたかるたやウィアリアムに向かって小刀を用意する。不意に宙に浮いた無数の小刀が猛烈なスピードともに突破してきた二人に襲いかかった。 寿々貴に回復を貰った味方のデュランダルのリベリスタ達もすぐさま応援に向かう。多数の小刀を振り払うように振る舞うが流石に数が多い。 頭上の敵に気を取られているうちに不意に地面が盛り上がった。しまった、と思った瞬間には地面からドリルのように突き出てきた陰獣に体を貫かれて絶叫する。 「お前ら、俺の傍から離れるな、陰獣は一人はずれたやつを狙ってくるぞ!」 ウィリアムはその類まれな勘を働かして陰獣の気配を読み取っていた。陰獣の攻撃パターンを推察して仲間のリベリスタ達に気をつけるように指示を出す。 「不意打ち闇討ち何でも御座れ。そういう手はオレには通じねえんだよなァ!」 襲ってきた陰獣の群れに容赦なく弾丸の雨を降らす。飛ばされそうになる帽子を手で押さえながら華麗な者こなしで敵の牙を避ける。 すかさず開いた腹めがけて弾丸を撃ち込んで敵を次々に葬った。 だが、敵の影武者はそうはさせまいと援軍を繰り出して妨害しようとした。 「いくらお前が増えた所でよぉ、攻撃する対象は分身しかねえんだよ!」 ノアノアが絶叫して吠えた。前衛にいる仲間を庇って前に立つ。波状攻撃をもろともせずにノアノアは気合と精神力で己をカバーしようとした。 「呪い? ハッ!! 俺を誰だと思ってやがる! 聞いて驚け見て笑え! 恐れ多くも先の副魔王ノアノ麻痺は効く!!!」 ノアノアは案の定、激しい攻撃にその場で動けなくなった。 絶叫しながらそのナイスバディをくねらせてひたすら耐えるだけだった。 やはり気合と精神力ではどうにもならない。 厳しい現実に見ていた仲間だけでなく敵までもが憐みの視線を寄こしてくる。 「攻撃は苦手だよ確かにな。だけどよ、逆に言えば防御に徹する事が出来るって事にもなるだろうさァ!!」 それでもノアノアは諦めなかった。 負けを認めたらそこで試合終了だ。 負けてても勝つんだ。死んでも諦めないぞ―― その先に地獄がまっていたとしても 「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」 ノアノアが雄たけびを上げる。 ついににっちもさっちもいかなくなって地面に敵にやられて伏した。 ●敵の正体 後ろから寿々貴がやってきてぼろぼろになったノアノアを助け起こす。 無茶をするなと言いたいところだったが、言うことを聞くような奴ではない。すぐさま担いで後ろに後退しようとした。 周りには陰獣が押し寄せてきて寿々貴は身動きが取れない。不意に後ろから陰獣が鋭いドリルで迫ってきて寿々貴は眉を顰めた。人数が足りなくて誰も助けに行けない。 その様子を見た静馬が歯ぎしりした。絶対にすずきさんを助ける。 だが、周りを敵に囲まれてこれ以上動けない。一体どうしたら―― 「この世界を、ワシら個人の譲れぬ物を守りぬく戦いを! 声を出せ! 出し惜しみはするでない! 自らの命を全て吐き出せ! そこまでやってこの戦いに勝利出来るのじゃ!」 翁は攻めあぐんでいる静馬に向って叱咤激励した。無数の敵に囲まれて死を思ったのはこれまでに何度かある。だがこれほどになすすべがないと思ったのは幾度としかない。 だが、それでいいのだろうか。それでは自分の守りたいものが守れない。 大切な仲間を失うのはもう御免だった。 「死ぬ時はワシも一緒に死んでやろうぞ! この血肉の一片たりともがこの世界から失せ様とも! ワシは後悔せぬ!」 決死の形相で翁は静馬の前に立った。その目は絶対に負けないという強い死の表れ。 「翁、貴方の言う通りだ。元御庭番衆御頭としてこの戦い絶対に負けるわけにはいかぬ」 「そうとなれば突撃じゃぁー……って、あっ? あああああああああああああ!!」 不意に翁が総攻撃を代わりにくらってその場に撃沈した。 ものすごく早い退場に静馬は一瞬だけ黙とうした。 「翁――貴方のことは一生忘れない。ではお悔やみの言葉はこれくらいにしていくぞ!」 静馬は翁をその場に見捨てて代わりに敵の包囲網を刀でかいくぐった。 目指すはただひとつ。 「すずきさんに指一本触れたら俺が許さん!」 その時だった。静馬が二刀小太刀を操って回転舞剣撃・九連を放つ。圧倒的な剣圧で敵が薙ぎ払われて寿々貴とノアノアは助け出された。 残った仲間のリベリスタ達が反撃に転じて徐々に敵を葬っていく。だが、最後に残っているのは影武者で分身をしてくる騎士だった。 「闇に、飲まれよ」 剣に闇のオーラを纏わせたかるたは集中した。今こそ影武者の騎士を倒さんと、剣を振りかぶって一斉に辺りを薙ぎ払う。不意に展開していた分身がもっと深い闇に飲み込まれてつぎつぎに敗れていった。 今までは攻撃をしても分身だと幾ら攻撃しても無駄だった。寿々貴も精神を集中させた。自分の持てる全ての魔術知識を総動員して敵の本性を見破ろうとする。 「一番後ろが敵の本体!」 一度も攻撃を受けていない奴が敵の本体だった。寿々貴の指摘を受けたかるたが、ついに敵を倒すためにノアノアとともに強行突破をしかける。 そうはさせまいと分身が横から小刀を投げて邪魔をしてくる。だが、ウィリアムはすでに幻影を見破っており、自信を持って敵の中心を狙い打って阻止した。 「幻影? そんなモンで惑わされるか。相手の足元を見て、地面にしっかり足が付いてるヤツを狙えば良いんだよ!」 急に狙われた本体の騎士はウィリアムの弾丸を受けて避けることもできず膝まづく。その隙を狙ってかるたが刀を振り上げながら大きく跳躍した。 「貴方が何者かは存じません。私怨もありません。が、これまでです」 目指すは敵の真上だった。大きく振りかぶった刃の切っ先が脳天に突き刺さる。 「ぐあああああああああああああああああああああああああ」 影武者の騎士が雄たけびを上げながらついに地面に崩れ墜ちて動かなくなった。 ●女の宣戦布告 「いやあ、御苦労じゃった。わしは今回の戦いはこの世を守るための大切な戦いじゃと確信しておった。しかし敵はとても困難な敵じゃ。一筋縄ではいかないと思っておったが、皆が力を合わせることで敵を見事に倒すことに成功しこの世に平和が――」 「――って、お布団は一体なにをしてたの?」 翁がカッコよく総括をしているところにノアノアが後ろから問いかけた。怪我をしていたはずだが何故か反復横とびをしながら冷静な突っ込みを入れてくる。 翁は言葉が詰まってそれ以上言えなかった。 ただひたすらしゃべっていたことしか記憶にない。 だが、翁が身を挺した御蔭で蒼乃宮静馬は無事に困難を乗り越えられた。 「すずきさん、ありがとう。君の御蔭で生きる勇気が貰えた」 肝心の静馬はいつになく真剣な表情で寿々貴と向き合っていた。心なしか頬が赤くなっており、並々ならぬ心情で静馬は彼女に接しているように思えた。 握手をしながら静馬は真剣にいつまでも寿々貴の顔を見つめていた。 「必ずまたどこかで」 静馬はそれ以上は何も言わず、マントを翻して立ち去った。 「わしは、わしは? わしに感謝は?」 「爺さんは引っ込んでたら」 「布団、邪魔」 「――ああああああああああああっ」 ウィリアムとノアノアに布団をはぎ取られるようにして翁は退場させられる。 公園の外周での激しい攻防戦は犠牲を出しながらもリベリスタ側の激しい奮闘によってなんとか耐えて見せた。それでも他の箇所ではまだ激しい戦闘が繰り広げられている。まだ予断を許さない状況だった。 すぐさま、かるたが本部に連絡して状況を報告する。 怪我人を収容するために動けないものはかるた達が他の動ける仲間とともに安全な後方へと下がらせた。かるた自身は本部から要請を受けて次の場所へと向かう。 「そういえば――あの娘はどこへいったの?」 助けたはずの芽衣香がいないことに気がついてノアノアが問いかける。先に行こうとしていたかるたが立ち止って、芽衣香から伝言を預かっていることを思い出した。 立ち去り際の芽衣香は並々ならぬ決意をしていた。 守られるだけでは駄目だ。絶対に自分が強くならなければならない。 兄も最愛の人にふさわしい男になるためと称した修行で現在は行方をくらましている。 ついに一皮剝けたらしいと噂を聞いたが本当かどうかはわからない。 それでも芽衣香はもう心に決めていた。 兄を絶対に奪わせない。私は貴女達を認めない。 「『絶対に強くなって帰ってくる。それまで首を洗って待っているがいいわ』――だって」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|