●山中 車内のクーラーをガンガンに効かせながら、積荷を搭載したトラックが山中を駆ける。 積荷は古美術。しかも海外の物が多い。恐らく、買い手は相当な金持ちの道楽者なのだろう。 こんなご時世に良い身分だこと。 それにしてもあの鎧、随分とでかい。 確か昔、騎士が実際に着用した物だと言うが、あんなに大きな物では動けないだろう。 運転手が何度目かも解らぬ思考を脳内で呟く。 ガタリ。 妙な揺れ。 石でも踏んだのだろうか。 ガタリ、ガタリ。 いや、違う。 この妙な揺れは貨物質からだ。 まるで何か重い物が動き出したかのような。 その瞬間、運転手の意識は黒く染まり魂はあの世へと飛び立った。 動かす者の居なくなったトラックは、実に常識的に慣性に従い直進し…… 山中に生える木々に突っ込み、爆発した。 その爆発の中から、2mの大鎧がその二本の足で出てくる所を見た物は居ない。 ●ブリーフィングルーム 「お疲れ様です。早速ですが新しい任務です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がコンソールから顔を上げてリベリスタを出迎えた。 早速ブリーフィングが開始される。 「今回は討伐任務、ターゲットはモニターにある鎧です」 モニターに視線が集まる。映し出されたのは、中世期の騎士が着用していたフルプレート……と言うには肩当やスカートが大きい。 そして何よりも、全体が非常に大きいのだ。少なくても2mはある。 「中世末期のドイツで製作された仕掛け鎧だそうです。両肩とスカートにバネ仕掛けの弓を装備しています」 展開図が写される。良くもまぁこんな大層な仕掛けを作り出した物だ。 「結局、小型化が出来ず量産される事は無かったそうですが、どうもこの鎧に無念の死を遂げた騎士の魂が憑依、戦いを求めて動き出した様です」 つまり、その騎士と戦い、討ち果たして成仏させるのが今回の任務の様だ。 「剣は所持していませんが、その巨体と仕掛け弓は脅威となります。十分に気をつけて。御武運を!」 ビシリ、と敬礼で見送る麗しのオペレーター。 そんなエールを受けて、今日も楽しいお仕事にリベリスタ達は赴くのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月30日(火)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●空覆う緑の天蓋 主要道から外れた天然の要塞とも言うべき場所は、真昼でも薄暗い。 枝が風に揺れればざわざわと葉が音を立て入り込んだ者の耳を打つ。 鉄と樹木の比率が街の中とは逆転したそこで確認できるのは、入るなと自己主張していたひしゃげたフェンスとそこに突っ込み、内蔵していた物を巻き込んで燃えたのであろう焦げ付いたトラックだった物だけ。 その入り口に立てば否応無しに、中は日常とは隔絶された異界なのだと実感させられる。 「んふ、戦いを求めてさ迷うなんてカッコイイわねッ」 パタパタと背中の羽を動かし、空を舞いながら周囲をきょろきょろと見回していた『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090) が楽しげに呟く。 千歳と彼女の隣に居る四条・理央(BNE000319)、そしてトラックを調べている『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589) は率先して探索に動いている。 「鎮火はしてるけど、それほど時間は立ってない。これなら直ぐに見つけられそうね」 トラックの火災が既に鎮火している事を確認し、ミュゼーヌがトラックに触れて呟く。理央と千歳は強化された直感を持って事に当たる事にしたのに対し、ミュゼーヌは事前情報から熱感知の能力を活性化してきている。 鋼の鎧であれば炎に巻かれているいる以上、熱を持つ。そしてそれは雨で振らねばすぐに冷めない。 幸いと言うべきか、暫くは雨が降らないと出発前に確認したニュースでは行っていた。 「源一郎様は、奥に行ったと思われますか?」 「解らんな。鎮火はしたが熱は残っている。移動速度次第、といった所だろう」 執事服と蒼い着流しが風に揺れる。 今回、女性の方が多い為か若干肩身が狭い『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)と『無何有』ジョン・ドーの会話である。 二人とも、地面を注視し足跡などの痕跡が無いか探している。 ジョンも千歳や理央の様に直観力を高める能力を持っている。 会えて源一郎に聞いたのは、自身の感を信じるためである。 とはいえ、着流しと執事服と言う取り合わせは何処と無くシュールだ。 「そう遠くまで行ったとは思えないけれど」 理央が呟く。根拠はあるか? と問われれば無いと答えるしか無い。 今の所手がかりらしい物は無く、信じられるのは自分の直感だけなのだ。 もっとも、その直感は信頼に値する。 特異な能力は人間の直観力を引き上げる事が可能なのだ。 他の者も、多かれ少なかれ痕跡を辿るべく、ある者は結界を張って万が一にでも一般人が紛れ込む可能性を潰す。 地面を見る者は柔らかい土についた足跡や踏み折られた雑草が無いかを懸命に探す。 大柄な鎧が立ち並ぶ木々に当たり、傷が無いか。もしくはこすれて木肌が削れて居ないか。 細かい所まで確実に。 相手の痕跡を見つけるべく探索は進む。 ●真昼の幽霊 最初に気づいたのは、直観力に優れた千歳、理央、ジョンの三人だった。 地面の極々微小な振動と、微かに擦れあう金属音。それらを感じ、顔を上げたのが三人だ。 次に気づいたのはメンバー唯一のビーストハーフである山川 夏海(BNE002852) だった。 空気を切り裂いて飛ぶ四本の矢が視界の端に移ったのと同時にその反射神経で射線から飛び退き、叫ぶ。 「奇襲だよ!向こうから仕掛けてきた!」 その声に反応し、リベリスタ達が地面に転がり今居る場所から飛び退く。 「くっ、抜かりましたか!」 「これはまた……随分と、ケレン味のあるアンデッドね……!」 「これが騎士のすること!?」 狙われたのは夏海、ジョン、ミュゼーヌ、そして『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816) の四人。いち早く気づいた夏海とジョンは完全に、ミュゼーヌは右肩を、アンナは左足を掠め、敵の放った矢が地面に突き刺さる。 随分と太い。クロスボウで扱う通常の太矢(ボルト)よりも二周りほど太さが増し穂先も大きい物が取り付けられて居る。 「後衛担当は森に入ってください! あそこなら障害物が多い!」 プロアデプトとしての使命に動かされジョンが叫ぶ。 「此度は騎士の宿りし鎧を穿つべく、己が道を往こう。 我が名は古賀源一郎。汝の最後の戦相手よ」 奇襲から立ち直った源一郎が高らかに名乗る。 その名乗りで奇襲を仕掛けてきた鎧、ヴォルフガングの注意が逸れた。 「……何処を見てる。こっち!」 飛び退いた勢いのまま、森に入り込み木々を蹴ってヴォルフガングの背後を取った夏海が後頭部に拳を押し当てて銃弾を放つ。 鋼と鉛がぶつかり合う音が響く。本来ならば首の動脈を掻き切るはずだが相手は鎧以外には実体は無い。 兜に無数の凹みを作っただけだがその一撃で巨体の動きが止まった。 「大人しくしてもらうわ」 「狙うならボクを狙え!」 盾を掲げ自己の周囲に道力によって浮遊する刀を従えて正面から突撃する理央、そしてその理央からミュゼーヌがリボルバーマスケットを構えてヴォルフガングの側面に回りこむ。 「何故、そんな重苦しい鎧が廃れていったか分かるかしら――この様に、鎧ごと撃ち貫くからよ!」 言霊に魔力を込め、その魔力を弾丸に込める。必殺の意思を持って放つ弾丸がブレストプレートに着弾し穴を穿つ。 「貴方にとってこれが最後の戦場よ!満足させてあげます!」 弓の射程が約30m程度。既に後衛を担当する者達が木々が茂る森の中に入った。 移動し、全員が所定のフォーメーションに付いた事を確認すると、千歳が己の周囲に魔方陣を展開し光の矢を放つ。 木々の隙間を縫う様に、複雑な軌跡を描いて飛ぶ魔術の矢が狙いを違わずに鎧の四肢に直撃した。 鋼を叩く甲高い音に紛れてヴォルフガングに宿った霊魂の叫び声が木霊する。 「守護結界!」 美峰が素早く印を結び、個々の防御力を高める結界を作り上げる。 木を盾に、しかし全員が結界内に入る絶妙な位置だ。 ジョン、アンナの両名が自己付与による能力の向上を施し、奇襲は受けたがリベリスタの態勢が整った。 「オ……オォォォォォオオオオオオオ!!」 亡霊が叫ぶ。恨みか、それとも戦場に立った歓喜か。どちらであるかは解らない。 しかし、亡霊が宿る鎧が動く。 拳を握り、振りかぶる。下手なメイスよりも破壊力がありそうなそれを盾を構えた理央に向けて叩きつけ……様とした所でそれが横薙ぎの機動に変わった。 「嘘、フェイント!?」 拍子抜けした、しかし驚愕の声を上げる理央。 拳の機動の先には夏海が居る。 「っくぅ!」 ビーストハーフ特有の反射神経が身体を動かす。しかし、それは一歩遅かった。亡霊に成り果てたとしても、生前の戦闘経験だけは生きていたのだ。 素早い身ごなしを持つ相手にはフェイントを用いて不意を付く。その程度の事は身体が覚えていた。 身体を捻り、臓器や頭、足等の行動に関わる部位への致命傷だけは避け様とする。だがその衝撃で大きく身体が揺らいだ。 「グオォォォォォォォ!」 追撃。 狙いは頭部。体勢が崩れた夏海ではほんの一呼吸分だけの時間が足りない。 「させん!」 「させません!」 源一郎の腕から銃弾が飛び出す。拳撃の要、腰にアル仕掛け弓が隠されたスカートに着弾した。その一撃での破壊は無理ではあったが、拳の振るうスピードが大幅に落ちた。 数泊遅れて、ジョンが放った聖なる光が鎧に振り注ぐ。亡霊と言う不浄なる者であったヴォルフガングにはこれは効果的だった。 振りかぶった拳は結局振り下ろせず、大きく二歩後退したのだ。 「大丈夫よ。今治すわ」 アンナが詠唱を高らかに謳い上げる。周囲に吹く風が性質を変え周囲に居るリベリスタ達を包みこんだ。 奇襲によって受けた傷も、夏海が受けた衝撃による鈍痛もたちまちの内に癒える。しかし、夏海が受けたダメージだけは完治出来ない。 「ありがとう」 短く礼を言って、夏海がフィンガーバレットを構える。 ミュゼーヌの攻撃に合わせる心算だ。 それを察知したミュゼーヌは、軽く頷く。夏海はショルダーガードの、ミュゼーヌは源一郎が穿ったスカートをそれぞれ狙撃する。 銃弾を受けた鎧は、今だ聖なる光によって受けた衝撃からは立ち直っていない。 避けると言う選択肢を取れぬまま、鉛の弾丸を受けた鎧は、妙に清んだ音を立ててスカートとショルダーガードを砕きながらさらに後退する。 「封!」 駄目押し、とばかりに理央が呪印による封縛術を放つ。無数の呪印が鎧の手足を絡めとりその動きを封じる。 「よっし!畳み掛けろ!」 美峰が印を組み、符を空に投げるとその符が小規模の雲を呼び雨が降り始める。奇妙な事にその雨が鎧の周囲だけに降り注ぎ雨の一粒一粒が氷の弾丸に変じて鎧に叩きつけられる。 「ア……アァァァァアアアア……」 表情の変わらぬ兜の奥から苦悶の叫びが上がる。 「んふっ、楽しんで逝きなさいな」 千歳の放った、美しいとまでに思える四色の魔光が兜を、ブレストフレートを、ショルダーガードを、グリーブを打ち砕く。 「アァァァァァ……アァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!」 歓喜か苦悶か。どちらとも取れる……しかしどちらとも取れない叫びを残し、鎧は二度と立ち上がる事は無かった。 ●騎士に捧げる葬送曲 「まだ傷が残っているわね。今のうちに治療しておくわ」 夏海の傷は一度の治療では完治していなかった。殴られた部分が大きく青痣になっていたのだをアンナが目聡く見つけ治療を施す。 「満足したか、為れば現世より離れるがよい。其が汝の為よ」 ジョンが静かにレクイエムを歌い始め、どこか感慨深い面持ちで源一郎が亡霊騎士に最期の言葉を送る。 「お休みなさい、過去の亡霊……もう貴方の時代は終わっているのよ」 ミュゼーヌが静かに騎士に祈れば、各々がそれぞれの作法で続くように祈った。 「帰ろうぜ」 暫しの黙祷の後、美峰が呟く。それに頷いたリベリスタ達は騎士の鎧の残骸を丁寧に回収し本部へと戻った。 時代遅れの騎士は時代遅れのままにこの世を去る。 それを見送ったリベリスタ達の心中は以下ほどであろうか。 報告を受けたオペレーターは笑顔でリベリスタ達を労うのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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