●歪夜が動く時 バロックナイツ盟主『疾く暴く獣』ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマン、動く―― 世界最強の名を冠するディーテリヒが動く時、歴史が動く。マリー・アントワネットが、ロベスピエールが、ジャック・ザ・リッパーが、そしてグレゴリー・ラスプーチンが彼により運命を転回したという。 ディーテリヒの傍らに立つのは第二位『黒騎士』アルベール・ベルレアン。第六位『白騎士』セシリー・バウスフィールド、そして第十三位『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア。 ディーテリヒが目指すのは三ッ池公園にある『閉じない穴』だ。 アークを知るアシュレイがいる限り、油断はない。隙はない。慢心はない。驕りはない。猛りはない。無知はない。軽視はない。抜かりはない。不覚はない。怠慢はない。失策はない。 数多挑んできたバロックナイツの者たちとは違う。アークをしっかり理解し、敵と認め、入念な策と軍勢を率い、そして戦場に挑む。 ●恐山 「……ということだ」 「つまりアークも風前の灯ということですね」 恐山の事務所。そこに呼び出された七瀬亜実は上司からの情報を聞いてそう返した。 快進撃を続けるアークだが、七瀬はそのキモを作戦によるものと判断している。 相手の油断や相性など、真正面から挑めば崩壊していた組織が勝ち残ったのは純粋な戦力だけではない。『万華鏡』による予知を軸とした作戦があってのことだ。当たり前だがそれを実行する個々の戦闘能力も馬鹿には出来ない。 だが、今回の相手はそれを知っている上での戦いだという。詳細な事は知らないが、重要なのはアークの手の内を知っている人間がバロックナイトサイドにいることだ。 「楽な戦いではないのは確かだな。さて恐山としては現在アークにつぶれられては困る。 神秘界隈のバランスを取り、一派の台頭を塞ぐ為に」 「正確には『恐山以外の組織が台頭するを塞ぐ為に』ですが」 七瀬の言葉に上司が苦笑する。ここでアークが潰れれば、革醒者組織のバランスが大きく崩れる。それは避けたほうがいいというのが恐山斎翁の考えのようだ。 「流石に『穴』には近づけそうにないが、外周の警護なら黙認してくれるだろう。恩を売って来い」 (……つまり、私のパイプを使ってアークに接触しろということか。さてうまく行くかどうか) 七瀬はフィクサードだ。下手をすればリベリスタに拘束されても文句は言えない。うまく呉越同舟できればいいのだが……。 ●リベリスタとフィクサード 三ッ池公園外部。そこを護るリベリスタ達は迫り来るゴーレム集団に押されていた。 無機物ゆえの硬度と圧倒的な物量。疲れを知らぬ猛攻を前にリベリスタは悪戯に戦力を消耗していく。 「左翼に人を回して――」 「黙れ! 恐山の指示など聞いてられるか!」 予想通りか。七瀬はリベリスタとフィクサードの間にある壁に頭を抱えた。然もありなん。逆の立場でも自分ならそう思う。非常時だから救援を黙認されているだけで、根底にある善悪の壁はなくなったわけではないのだ。 「……さてどうしたものか」 連携を取らなければゴーレムの軍団は押さえられない。さりとて連携を取るにはリベリスタもフィクサードもわだかまりを抱えすぎている。昨日まで刃を向けたもの同士が、どうして握手できようか。 交渉に長けた七瀬であっても、こちらの話を聞いてくれさえしない相手ではどうしようもない。0を1にすることが出来なければ、信頼は築けないのだ。 (危なくなったら撤退ね。……まぁ、そう考えている時点で信頼されないのも当然か) 七瀬は撤退ラインを計算していた。自分と部下の命を天秤にかけてまで勝利しなければならない戦いではないのだ。 鋼の兵団は、容赦なく攻め続けてくる。 ●緊急通信 幻想纏いに通信が入る。 「エマージェンシー! 南門の防衛ラインが突破されそうです。付近のリベリスタはすぐに南門に集結してください」 本来主力のリベリスタは公園内部に侵入したバロックナイツ部隊を相手する作戦だ。公園外周は応援に駆けつけたアーク外のリベリスタ組織に任せるはずだったが……。 「敵、バロックナイツ部隊が生み出したゴーレム多数。防衛ラインD2を形成する為に必要な時間は二百秒。その間のみの応援を求む。 味方戦力はリベリスタ二十五名、恐山十名の混成軍。リベリスタ側の指揮官が倒れ、現場は混乱しています」 恐山? その質問を返すことは、状況が許さなかった。切羽詰った状況での時間は、例え一秒でも千金に値する。 幻想纏いに送られてくる情報。それを確認し、貴方は判断を迫られる。南門の応援に行くか、他に任せてバロックナイツ精鋭を討ち取るか―― ●ENEMY DATE バロックナイツ軍 ・『人形劇』クレト・カンデラリア フライエンジェ×レイザータクト。スペイン人男性。ゴーレムの指揮権を持っているのは彼です。彼が死亡あるいは逃亡した時。ゴーレムは最後の命令を実行後、活動を停止します。 リベリスタ軍を警戒してか、自陣から出てくることはありません。 「クェーサードクトリン」「オフェンサードクトリン」「ライオンハート」「極技神謀」「鬼謀神算」などを活性化しています。 ・ウッドゴーレム(×40) 材木で作られたゴーレムです。神秘攻撃高め ・アイアンゴーレム(×40) 鉄で作られたゴーレムです。物理攻撃高め。 ・シールドゴーレム(×3) 巨大な盾を持つゴーレムです。物理&神秘に対する防御高め。 ・マンゴネルゴーレム(×3) 巨大な投石器を持つゴーレムです。 攻撃(全ゴーレム共通) 鉄拳 物近単 拳で殴ってきます。 光線 神遠単 頭部から光を放ちます。 命知らず P 恐怖を知りません。[精無][呪無] 自己再生 P 魔術により再生します。[リジェネ100] (マンゴネルゴーレムのみ攻撃方法追加) 爆弾石 物遠2範 遠くから爆発する石を投擲します。 神秘石 神遠2範 遠くから魔力を込めた石を投擲します。 Good Luck! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月28日(土)22:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「物量攻めは由緒正しい戦術ですねっと」 迫り来るゴーレムの軍団を見ながら『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)は頭をかいた。それをやられる側にとってはたまったもんじゃないな、と苦笑しながらリベリスタ一同は戦場を走る。 「集団戦、それも全く毛色の違う集団二つで立ち向かうとなると辛いわね」 前線の様子に難色を示すのは『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)。リベリスタとフィクサード。水の合わない者同士が異なる目的で戦場にいるだけなのだ。それでも何とかしてみせる。そう、強い意思を心に宿す小夜香。 「リベリスタとかフィクサードとか、区分けって意味あるのかな? 私が無頓着過ぎるだけなのかなー」 首をかしげるのは『非消滅系マーメイド』水守 せおり(BNE004984)だ。そもそもリベリスタとフィクサードは共に同じボトムチャンネルの革醒者。思想の違いだけなのだが、その違いが現状を生んでいる。それは理解できるのだが、やはり疑問は残るようだ。 「恐山さん達と友軍さんが手を取り合って、と言うのは理想だけど。親睦を深めてる余裕がないのも事実で。ええと!」 『静謐な祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は混乱する前線の状況を聞いて、葛藤を口にする。リベリスタ友軍の気持ちは確かに分かる。だけど今はいがみ合っているときではない。一手の誤りで命が失われる状況なのだ。 「俺とて敵に頼むのは忸怩たる思いだがな」 ため息を吐くように肩をすくめて『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)が口を開く。リベリスタの仲間だけでバロックナイツ軍を追い返せればいいだろう。だが現実はそう甘くはない。ならば利用できるものはすべきなのだ。不本意だが。 「今は防衛に努めましょう。『閉じない穴』を彼らに渡さない為に」 すべてはあの『穴』が鍵になるのか、と『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が思案する。ディーテリヒがそれを使って何をするかは分からない。だが、黙って見過ごすわけには行かないのは事実だ。そのためにも、今はこの戦いを制する。 「アーク、酒呑 雷慈慟。貴君等の活躍で戦線は保てている! 気を引き締めろ! ……往くッ!」 「お待たせ! みんな、あと二百秒守れば防衛ラインができる。僕らが、世界を守るんだ!」 到着すると同時に『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)と『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が味方を鼓舞する。数字的な援軍という意味でも心強いが、今までの努力を認められた事による事と明確な目標が見えてきた事。その二つがリベリスタの士気を大きく上げた。 「うおおおおおおおお!」 「アークリベリスタの参入だ! これで勝てる!」 鬨の声を上げるリベリスタ。対し恐山はクールダウンしていた。額に手を当てる七瀬がぼそりと呟く。 「うわー。これでパワーバランス崩れたわね」 恐山の援軍が黙認されていたのは、リベリスタだけではゴーレム軍を排しきれないからだ。だがアークリベリスタ参入でその戦力が変化する。不要になれば背後から襲撃される可能性も考えなくてはいけない。 「援軍は八名か。この状況なら、少数精鋭と見るべきか」 ゴーレムを操るカンデラリアはその様子を観察し、ゴーレムに新たな指示を飛ばす。その指示に従い動き出すゴーレム軍団。 リベリスタ&恐山軍と、バロックナイツのゴーレム軍団。数にすれば四十三対八十七。ほぼ倍数相手の防衛戦が始まる。 ● 「隠れたって無駄無駄! 音の幻想種の耳を誤魔化そうったってそうはいかないんだからね!」 せおりは太刀を手にしてゴーレム軍に向かう。周りの音を聞き取りながら、同時に自分自身も歌により強化する。旋律と音波により体内の細胞と神経を活性化させ、強固な城壁の如く強さを身につける。響くソプラノは寄せては返す海の波を想起させた。 響く足音を頼りに敵の位置を把握する。流石に戦場全てをカバーは出来ないが、それでも視界よりも多くのゴーレムを認識する。細身の体に力を込めて、一気に踏み出し打撃を放つ。津波のような衝撃がゴーレムを押し返した。その後で七瀬のほうに振り返る。 「初めまして、銀咲の妹です! 余力あればあっちのリベリスタさんも回復や支援に含めてくれると嬉しいです!」 「……むぅ。今リベリスタを強化するのはリスク的に厳しいのよね」 「七瀬御婦人、目的等色々察するが」 恐山フィクサードのリーダーを見つけ、雷慈慟はぴしゃりと言い放つ。使い魔の梟を放って視野を確保し、最前線に立つ。衝撃波でゴーレムを押し返しながら、リベリスタ軍を指揮する。自ら前に立ち味方を鼓舞しながら、本来敵である七瀬に言葉を続けた。 「士気を乱した挙句碌に功も上げず踵を返す様なら、我々は空く穴を埋める事に難儀する事請け合いであるし現状と結果から鑑み……邪魔をしに参じたとしか評し様も無い」 「痛いところ突くわね」 その一言が撤退を考えていた恐山の足に楔を打つ。危険だがここで退いては恩を売るという戦果は得られないも同然だ。 「優秀な後方支援は 高い勝率を更に高めるが」 「続けて痛いところ突くわね。アークのお陰で勝率下がってるんですけど、私!」 「どーも、ご機嫌麗しゅう、あみあみ。今日も綺麗だね。今回は思いっきり利用させてもらうよ!」 後方に下がる七瀬と入れ替わり様に夏栖斗が七瀬に声をかけた。恐山の目的は知っている。だが状況が状況なのだ、こちらも利用させてもらう。笑顔でそう告げて前線に足を踏み入れる。炎のパターンを持つトンファーを握り締めた。 瞳に神秘の力を込める。冬の空気に冷やされたゴーレムと、熱を持つ人間を見分ける瞳。ゴーレムの遮蔽物に隠れて見えにくいが、確かに熱を瞳に捕らえて、トンファーを振るう。地を這う衝撃が一直線に走り、カンデラリアに届いた。 「うっし! 牽制にはなったかな」 「十分だ。元々慎重な指揮官のようだからな」 伊吹は盾持つゴーレムに庇わせるように支持するカンデラリアをみて、うむりと頷く。腕に填めた白の腕輪を外し、迫り来るゴーレム軍団の前に立つ。とにかく数を減らなくてはと心の中で呟き、腕輪を投擲する。 神仙を模した人工物から得た白の腕輪。投げれば頭部を粉砕し手に戻るという伝承を持つそれは、伊吹の巧みな技術によりゴーレムの頭部を穿つ。真に驚愕するは偽物を本物のように扱う伊吹の腕。実戦で鍛え上げた投擲術。 「無理はするな。今を乗り切れば勝機は見える」 「ええ。幸いにして流れはこちらにあります」 味方を指揮しながら凜子が状況を把握する。個人戦闘力ではゴーレム単体はアークリベリスタよりも弱い。数の有利さえ逆転すれば勝てない相手ではないのだ。勿論油断すれば一気に押し切られるのも確かだが。 呼吸を整え、味方を見る。それらすべての位置を頭の中にイメージする。傷ついている人間を認識し、癒すべき順序を定める。トリアージと呼ばれる選択法。それは数多くの人を救うための医療術。今は全員を癒せると判断し、癒しの神秘を解き放つ。 「今は目の前に共通の敵がいる、これを撃破してからにしましょう」 「一番大事なことは、皆が生き抜く事。だからお願い。今だけでもわだかまりを解いて欲しいの……!」 恐山のほうに意識を向ける味方リベリスタに、凜子とアリステアの声が重なる。信用できないのは間違いない。この恩がどう響くかを考えると恐ろしくもある。だけど今ここで死ねば、すべての意味がなくなってしまう。 白の翼を広げ、宙に浮くアリステア。幼いながらも多くの戦場を経験し、そして得た一つの結論。世界の覇権よりも、国家の存亡よりも、何より善悪よりも。アリステアにとって優先すべき者を救うべく、癒しの詩を唄う。 「目に映る人や、大切な人が笑ってくれる日常が脅かされるなら、私はそれを許さないだけ」 「ええ。死ぬ人間は少ないほどいいのよ。……それがフィクサードでも、ね」 アリステアの言葉に頷く小夜香。大切な母を目の前で失った時、小夜香はどうしようもない喪失感に襲われた事がある。例え悪人であっても、その人を思う人はいるのだ。それを思えば、死んでいいなどと口にできるはずがない。 風が小夜香の髪を撫でる。さらさらと川に流れる水のように黒い長髪が風に舞った。髪が元に戻る頃には癒しの神秘は既に解き放たれている。この場にいる味方全てを癒すべく、小夜香の祈りは風に乗って届く。 「この先も手を取っていけなんて言わないわ。でもこの場だけでも手を結んでくれないかしら」 「ま、何かあったら俺たちが出向くからさ。今は怒りを腹に収めておいてくれや」 閃光弾を放ちゴーレムを足止めしていたブレスは煙草を咥えたまま戸惑うリベリスタ軍に告げる。かつての敵が味方に回る事だってある。その割り切りができるのは、ブレスが傭兵だからか。ごった煮の味方など慣れている。 ある程度足止めできた事を確認し、ブレスは身の丈ほどある機関銃を構える。銃身にブレードがついた銃は遠近戦両方に対応できるように作られたブレスの相棒。弾丸を一声掃射した後に、ブレードを構えて前線を抜けたゴーレムに刃を振るう。 「悪いねぇ、俺は肉弾戦も得意だったりすんのよ」 「流石アーク。人材豊富ね」 七瀬は集団戦でも足並み乱さないアークの動きに感心していた。言いながら七瀬も部下達に付与と指示を出し、戦線を維持している。 ゴーレムの数は少しずつ減ってきている。だがゴーレムの攻撃や時折飛んでくる投石により、こちらの被害も少なくない。 未だ危うい戦線のなか、しかし水と油は何とか反発することなく鉄騎兵に刃を向ける。 ● 援軍にきたアークリベリスタは、前衛四名後衛四名のやや守備よりな構成だった。それは敵陣突破には不向きだが、こういった防衛線には有利な構成といえよう。 夏栖斗、雷慈慟、伊吹、せおりが前に出て、小夜香、アリステア、ブレス、凜子が後衛である。これに前衛に立つリベリスタ友軍二十五名と恐山軍九名。 その防衛軍に迫るのはゴーレム軍団四十体。さらにその後ろに二十体の後続。そして指揮官を護るようにさらにゴーレムが控えている。 「とにかく数を減らさないといけませんね」 「そうだな。後続全てを投入されれば流石に抑えきれない」 凜子と雷慈慟は頷き、行動指針を決定する。ゴーレムを物理的に足止めするには味方の数が足りない。現状を維持したまま、ゴーレムを速やかに倒すのが主眼となる。指示を出しているカンデラリアを攻撃する余裕はなさそうだ。 「傷の深いものは下がれ。倒れてしまっては意味がない」 伊吹は傷ついたリベリスタ達に下がるように言いながら、目の前のゴーレムを攻撃する。城の腕輪を何度も叩きつけられ、崩れ落ちるゴーレム。けして強くはないのだが、とにかく数が多すぎる。視界の限り打ち据えてもその奥からさらにやってくる。 「あ、向こうの指揮官を倒すと、ゴーレムが何するかわかんねぇから気をつけてよね」 「目的は察したわ。あくまで防衛に徹するのね」 夏栖斗は七瀬に一言伝え、ゴーレムの一軍に躍り出た。トンファーは時として棍棒となり、手の延長となり、盾となる。ゴーレムの攻撃を受け止めながら、オーラを載せた一撃で光線を放つ頭を穿つ。 「ふむ。納得はしてくれているようだな」 七瀬の指揮の元にゴーレム足止めに徹する恐山陣をみて、雷慈慟が納得したように頷く。何度か敵対してきた恐山フィクイサードだ。その強さは身をもって知っている。味方……とは言い難いが、くつわを並べることになれば心強い。 「再生能力ってもかりそめの命、こちとらは自前の生命力で再生してるんだもんね!」 ゴーレムの攻撃を受けながらせおりが叫ぶ。多少の打撃なら受け流し、再生能力で傷を癒しながら前のめりに戦場を駆ける。ゴーレムの自己再生以上の再生能力で打撃を耐えながら、ゴーレムを遮るように戦場を走り回る。 「お前はそろそろ寝ておけよ」 近距離遠距離両方の対応が出来るブレスが弱っているゴーレムを狙い打つ。敵味方入り乱れる戦場で全てを把握する事は難しい。それでも戦場に目を凝らし、可能な限り敵影を捕らえて引き金を引く。 「医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、パナケイアおよびすべての男神と女神に誓う――」 「咎人の罪を許し、ただ一人の人として愛し、癒す――」 「優しい風よ。暖かい太陽よ。白く輝く星の光よ――」 凜子、小夜香、アリステアが三ッ池公園に突き進むゴーレムを足止めしながら仲間を癒す為の呪文を唱える。アークリベリスタ、友軍のリベリスタ、そして恐山フィクサードも視野に入れ、それら全てを癒すべく神秘の力を練り上げる。 「能力と判断の限りの癒しをとり、悪しき方法をけして選ばない――」 凜子は医術の誓いに神秘の力をこめ、 「無限の愛で全てを許し、全ての者に慈愛あれ――」 小夜香は善人と悪人の命をわけ隔てることなく癒すことを誓い、 「迫りくる災厄から隣人を、友を、そして愛する人を守り、助け、救う力を――」 アリステアは自らの身近な人を守る力を願う。 様々な癒しの形。それが三ッ池公園を守るために集った戦士達の傷を癒し、そして戦う力を与えてくれる。三種三様の清らかな癒しが戦線を支え、ゴーレムを押し留める力が増していく。 だが単純な物量による突撃を完全に止めるのは容易ではない。 「いてぇなぁ! 容赦なしかよ」 「全くだ。盟主の軍勢は伊達ではないということか」 ブレスと伊吹がゴーレムからの猛攻で運命を削る。こんなところで倒れている余裕はないとばかりに自らに活を入れて起き上がる。 友軍リベリスタも激戦で倒れるものも増え、恐山フィクサードも何人か撤退している。その分ゴーレムを抑える人数は減っている。 だからこそ、 「どんな状況でも生還して来た……ソレは君達の様な 勇者の助力があるからだ!」 「弱点をついて効率的にいきましょう」 雷慈慟と凜子の指揮の下、一丸となるリベリスタ軍勢。数に対抗するのは兵士の質。士気と的確な指示。その二つがここにあった。 数体のゴーレムは後衛を突破して三ッ池公園に向かったが、あの数なら何とか対応できるだろう。そう信じて迫りくる木と鉄の人形の対処に意識をむけるリベリスタ。 「余裕ぶってるあの顔に一撃加えてやりたい!」 「うしろからぼこぼこ石を投げてきて鬱陶しいんだよ!」 せおりと夏栖斗がゴーレム軍団の後衛で指示を出しているカンデラリアに怒りの声を上げる。だが殴りに行くような事はしなかった。行けば守りが薄くなる。そうなれば三ッ池公園に侵入するゴーレムがさらに増えるのだ。 「皆、そろそろ時間よ」 「友軍の皆さん! あと少しがんばってっ!」 バリケードの完成をカウントダウンする小夜香。そしてそれを皆に伝えるアリステア。それを聞き、各々撤退の準備を進める。傷ついたものを庇うように陣を維持したまま後退の道を確保する。 『防衛ラインD2完成しました。各戦闘員はラインまで退去してください』 通信機から聞こえるアークの放送。 それは倍近い戦力差を何とか耐え切った証であった。 ● 「あのバリケードを攻めるのは骨か。仕方ない」 カンデラリアは完成したバリケードを前にため息をつく。戦力の疲弊を考えれば、うかつに手を出すのは愚作だ。悪手だが、盟主様が目的を果たすまではここでにらみ合いをせざるを得まい。 バリケードの内側にはアークリベリスタと友軍リベリスタ。そしてバリケードの扉手前で足を止めた恐山フィクサード。 「七瀬御婦人!」 「ここでお別れよ。何があるかは知らないけど、フィクサードを公園に入るわけには行かないんでしょう」 雷慈慟の言葉に七瀬は軽く手を振ってリベリスタに別れを告げる。カンデラリアが様子見をしている今なら逃げられるとふんだのだろう。 「公園でならゆっくりお茶ぐらい出せたのに」 夏栖斗は冗談めかして七瀬に笑顔を見せる。とはいえ公園内が安全かというと、そうともいえないのが事実である。 「援軍感謝するわ」 「御武運をー!」 小夜香とせおりが恐山に声をかける。思惑こそあれど、彼らが居なければ危ういところがあったのは事実だ。もとより二人はフィクサード自体に特に悪い感情を抱いていない。 「七瀬のお姉さん。私、迷いながらもまだ戦線にいるよ」 アリステアは背を向ける七瀬に言葉を投げかける。かつて言われた言葉の答えを示すように。 「目に映る人が怪我してるなら治したい。それが辿りついた結論だから」 「……そう。辛い道になるけどがんばりなさい」 背中越しに答えを返し、恐山は闇に消えた。 「でもまあ、今回は恐山のお陰で助かったよな」 「注意しろ。あのフィクサードはその善意を盾にする女だ」 気を抜く友軍にぴしゃりと言い放つ伊吹。あのフィクサードのやり方は知っている。善意を心理的な盾にして踏み込んでくる知略系の女。こうして恩を売る事自体が七瀬の策謀なのだ。 「これで応急処理は終了です。次の戦場に行きましょう」 治療を終えた凜子が幻想纏いに医療器具をしまい立ち上がる。人手はいくらあっても足りないのだ。 防衛に友軍リベリスタを残し、アークリベリスタは次の戦場に向かう。 『閉じない穴』を巡る攻防は佳境に入っていた。 世界の命運が今、決まりつつある―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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