●動き出す獣 数々の苦難、バロックナイツを打倒したアーク。 世界に比する者のない戦歴を、栄光と挫折の中で刻み込んできたアーク。 しかし、彼等を、彼等の守るべき世界を取り巻く情勢は悪化の一途を辿っていた。 周到に仕掛けられた『閉じない穴』という猛毒は、恐らくは魔女アシュレイの予定通りにそのコントロールを喪失している。 アーク側はキースの助力嘆願や、儀式の遂行で必死にこれに抗う手段を講じたが、状況はいよいよ予断を許していない。 時同じくして、アークにもたらされた情報は最悪の中の最悪を極めるものになる。沈黙を破り遂に動き出したのはバロックナイツの首領、『疾く暴く獣』ディーテリヒなのだ。 ディーテリヒは世界最強の名を欲しいままにしていたバロックナイツの盟主だが、これまで不動で知られていた。過去に彼が動いたのは数度しかないが、動く時はとんでもない事が起きる時だ。何か不吉なことが起きる可能性は高い。 配下に黒騎士、白騎士を置き、アシュレイと動きを共にする彼は最大脅威の一つであろう。 動かぬ彼が三ツ池公園を目指したという報は、黙示録の引き金となるだろう。 マリー・アントワネットが、ロベスピエールが、ジャック・ザ・リッパーが、そしてグレゴリー・ラスプーチンがそうであったのと同じように、彼女と深い縁を結んだ者達が辿った道を、アークもまた進もうとしているのか……。 それを決めるのは、これから転回する大きな運命ばかりに違いない。 ●獣の進行 「バロックナイツ盟主『疾く暴く獣』ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマンが動き出した」 ブリーフィングルームでは、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が淡々とした口調で説明を行う。 バロックナイツは個人主義者の集まりだが、彼には例外的に付き従う存在が二人居る。第二位『黒騎士』アルベール・ベルレアンと第六位『白騎士』セシリー・バウスフィールドだ。 唯一人でも未知数な『盟主』に二人の『使徒』、そして行動を共にするアシュレイが加わればこの脅威は絶大では済まない。 「バロックナイツ本隊の狙いは三ツ池公園の制圧だと思う。でも、狙いまでは分からない」 しかし『閉じない穴』を作り出したアシュレイがこの期に及んでその場所を欲している以上は、これまでのバロックナイツのような研究的利用の目的というよりは、もう少し明確かつ危険な意図、必然性があると推測される。 神秘世界のトップニュースとして報じられたこの事件に対して各国のリベリスタ組織もアーク救援を申し出ている。日本の崩界進行度はレッド・ゾーンに突入しており、これは日本だけの問題ではないからだ。 ただ、先の『黒い太陽』の大暴れは各国のリベリスタ組織にも深刻なダメージを与えている状態だ。宿敵ディーテリヒの打倒に燃える『ヴァチカン』だけは意気軒昂だが、アークの力が最も重要になるのは言うまでもない。 「敵の主力はエリューションやアザーバイド。でも、それは数での話。実質的な戦力は皆に相手してもらうことになる」 ディーテリヒやアシュレイによって召喚された敵は圧倒的大多数になる。バックアップ組織やアークの一般戦力で可能な限り抑え込むが、さすがに主力となる精鋭部隊を防ぐには至らないだろう。公園を舞台に迎撃態勢を取り、その失陥を防がなければならない。 「今回は非常に厳しい戦線になる」 イヴははっきりとリベリスタ達に告げる。 これまでにもラトニャ・ル・テップやウィルモフ・ペリーシュ等、どうしようもない敵は居たが彼等は隙だらけだった。 今回について言うならば、敵は圧倒的な物量と、圧倒的な精鋭を集め、周到なる用意をして動いた事は間違いない。 敵にアシュレイが居る以上、万華鏡による一方的なアドバンテージは得られない。そして、敵にアシュレイが居る以上、彼等は間違ってもアークを侮る事は無い。 最上は公園防衛、最悪でも敵の戦力をそぎ落とし、情報を収集し、反攻作戦の足掛かりを作らなければならない……が。 「皆が無事に戻ること。これだけは特に要請したい。これは、アークの総意」 当然、私もと、イヴは小さく呟くように付け加えた。 ●冒険の森にて ひっそりと静まり返る森。 そこには女性2人が、潜んでいた。1人は長い黒髪の美女、類。もう一人は栗色の髪をセミロングにした女性、友美だ。彼女達は手を取り合い、寄り添いながらその時を待っている。 2人は傭兵家業に身をやつしたフィクサードだ。ほど同タイミングにフェイトを得た彼女達は一般社会のレールから外れてしまい、2人一緒に闇稼業に手を染めてきた。これまで行ってきた仕事は真っ当な物ばかりではない。人だって何人も手にかけてきている。 「久々の仕事だ。気を引き締めていこう」 「そうね、でも……」 東西コンビ、類友コンビなどと呼ばれる2人はいつも一緒に依頼をこつこつとこなしてきた。名前はあまり知られないよう、できる限り表舞台に立たないよう生きてきた。 「ネームバリューに飛びつくなんて、ルイらしくない」 「だってさ、トモにこれ以上ひもじい思いをさせられないしさ」 そんな会話の最中も、2人は一時も離れようとしない。仕事においても、私生活においても、2人はパートナーなのだ。 順調に傭兵家業を行っていたはずだったが、最近、めっきりと依頼も減ってしまい、かなり生活に困窮していた。一時は2人がそれぞれに耳へと付けているイヤリングを手放して生活資金に充てようかと考えていたほどである。怪しく光る水色の雫型のイヤリングは売れば少しの間は生活することができるだろうが、2人はそれを是とはしなかった。 だからこそ、バロックナイツの盟主が来ると聞き、2人は生きる為に身を寄せようと考えたのだ。 相棒の、大切な人の言葉とはいえ。友美は今回ばかりは類に同意できずにいた。 「アークでもよかったんじゃないの?」 「…………」 眉を顰める類がちらりと後ろを見やる。彼女達が後ろに従えているのは、魔女が生み出したというエリューション5体。いずれも強力な力を持つ。 全長3メートルの化け物がずらりと立ち並ぶ中、奥にいる身の丈5mほどもあるエリューションを2人は注視する。見た目は胴体の長い蛇のようだが、尾の部分もまた頭がついている、なんとも奇妙な蛇だ。2人がかりで戦っても、楽には勝たせてもらえないだろう。 「今更後には引けない。いくよ」 「……うん」 近づいて来るリベリスタ。彼女達は後ろにいるエリューション達に向け、指を鳴らして合図を送る……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月27日(金)22:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●森での遭遇 三ツ池公園――。 これまで、『閉じない穴』が現れたこの公園で幾度の戦いが繰り広げられただろうか。 『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)は小さく溜息をつく。 「三ッ池公園でやりあうのも、いい加減飽きが来ませんかね」 とはいえ。敵はこちらの考えなどお構いなしに攻め込んでくる。対応しないわけにはいかぬこの状況に、彼女は辟易としてしまう。 「何時かこうなるとは思ってたが、まぁきっちりと準備してくれてな」 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939) は思う。ついに、バロックナイツは総力を上げてこの三ッ池公園の制圧に乗り出してきた。ならばこそ。 「此処は一つ、台無しにしてやろう」 元よりメンバー達の意向は喜平と同じ。彼らは冒険の森へと足を踏み入れる。 鬱蒼と茂る森の中。昼間であってもその視界はよくない。寿々貴は竜眼を使って視界を広げようと試みる。 この森の中には、敢えて、バロックナイツへと手を貸しているフィクサード2人組が潜んでいるのだ。 「まあ人には其々、事情があるものさ。……オレが手心を加える理由にはならないけども」 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は暗い森の中、暗視を使って敵を探す。ベレヌスの灯りを使うことで、視界の確保も行っていた。 この森にはフィクサードだけでなく、彼女達が従えるE・ビーストもまた息を顰めているはずだ。 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)も熱感知を行って敵の早期発見に努めているようだ。彼はジャガーノートによる自己強化も忘れない。 「久々の魔物、腕がなるね」 姉、『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)の言葉に、妹、『大魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)が頷く。 「お姉ちゃんと一緒って言うのもなんだか久しぶり。はりきっていっちゃうよ」 「この町も世界も、こんな魔物たちには渡さないよっ」 張り切る双葉に、壱也も気合を入れる。 がさり、がさり。 枝をかき分ける音。それも複数。獣臭が森に漂う。 『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)の目に巨体が4つ浮かび上がる。亀、鳥、豹、蛇。四神でも模しているのだろうか。それにしてはこれらのE・ビーストは余りに醜い。 「お出ましだなァ、行くぜ!」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は木々の合間に見え隠れする敵に向けて叫びかけ、印を結び始める。現れたエリューションを倒す為に。 ●開戦 「今更後には引けない。いくよ」 「……うん」 パチン。 小さく、乾いた音が鳴る。 それを合図にE・ゴーレム、リベリスタの両者が動き出した。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――大魔法少女マジカル☆ふたば参上!」 その場の誰よりも速く双葉は動き出す。光を放ち、アイドルオーラ全開の彼女は、言の葉を紡ぐ。魔道は巧みなる技術で即時に組み上がっていく。 「紅き血が成す戒めの黒鎖、其が奏でし葬送曲。……我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ!」 狙いは、森の中でも大きく羽ばたく大鳥。そいつに向けて黒い鎖が幾本も伸び、かすった鎖から毒が入り込む。 大鳥は毒に侵されながらも、一声嘶いてから炎を浴びせかけてきた。引火した木々が勢いよく燃え上がる。 炎の中、喜平は接近してきた白豹を見上げる。森で吠える豹はにやりと笑って立ち上がり、拳と蹴りと叩き込んできた。 それを身を挺して受け止めた喜平は、自身の体へと紫色の文様を浮き上がらせる。 「お前の相手は……俺だよ」 臨むところと、白豹は悠然と構えて見せた。 その間にも、仲間達は大鳥へと攻撃を飛ばす。義衛郎が幻惑の技で宙を舞う大鳥に刃を振い、フツもそれに合わせるかのように印を結び、大鳥を取り巻く運気を落とす。 そこへ押し寄せてくるのは大量の水。後ろにいた大蛇が水流を呼び寄せたのだ。大亀も大きな口を開いて食らいついて来る。 対するリベリスタ。戦気を纏う壱也が大鳥へとブロックを試みる。 そして、敵の攻撃に備えて遥平が自分の前方へとシールドを展開していた。 その後ろから飛び出てきた竜一が、大亀の噛みつきを甘んじて受け止める。竜一の防御を易々と崩し、彼に血を流させた。 それでも、竜一は燃える木々を駆けのぼって飛びあがり、破壊の力の限りを前方に向けて……放つ。目の前の大亀が甲羅をも破壊されかねない程の衝撃に叫ぶ。それは、前方にいた大鳥をも巻き込んでいた。 破壊の力は木々すらも散らす。燃やされ、斬り倒され、壊される。敵を倒す為ならば、何をしてもいいのか。竜一の頭にそんな考えが過ぎった。 (……こういう所が、類友のよからぬ感情に繋がってるのかね?) 竜一は熱感知で、敵の同行を探りつつ思う。そんなことを気にしてはいられないと。 「俺は、いつだって必死なんだよ」 エリューションを倒す為。竜一は全てを出し切る。 戦いを続けるリベリスタを、木々の上、直接戦闘の被害が及ばぬ場所でフィクサードである類と友美はただ黙って見つめていた。タイミングを見はからう類が再び指を鳴らす。 パチン。 それは一度、交差したリベリスタとE・ビーストが再び交わろうとしたタイミングだった。 ゆらりと現れた巨体がもう1つ。木々の薙ぎ倒すようにして大蛇が姿を現す。身の毛もよだつ咆哮が2つの口から同時に放たれた。その圧倒的な威圧感に、リベリスタ達は戦慄する。 「散開しすぎないよう気を付けてね」 現れた新手の存在を受け、さらに戦いに集中する仲間達へ、寿々貴が呼びかけた。彼女はできる限り仲間全体へと回復の手が及ぶよう、立ち回る。 森の中、木の根や足場の悪さはハイバランサーで対処していた彼女。その上で仲間達へと翼の加護を与える。仲間達全員に小さな翼が生え、その体は少しだけ宙へと浮いた。これで、皆が楽に動き回ることができる。 一方、木々の枝にのるフィクサード2人の女性。彼女達はただ、その戦いを眺めている。 「こちらに来る様子はないみたい」 「そうだね」 後発で現れた双頭蛇はフェーズ3。それが相手ともなれば、リベリスタ達も戦力を分散させる余裕などない。 だからといって、類達も前線へと出るつもりはなかった。できるならば、ひっそりと暮らしていたいのだから。 その2人が発すると思われた指示を、寿々貴が探っていた。ただ、指を鳴らす以外の指示がまるで見られない。 (簡単な指示だけ、かな) おそらく、この森にいる自分達以外の人間を倒せくらいのものか。それを確認した彼女は再び回復へと当たる。 その間に、流れるように双葉の詠唱が紡ぎ出されていた。 「我願うは星辰の一欠片。煌めきよ戦鎚と成りて敵を打ち、討ち、滅ぼせ!」 森に落ちていく鉄槌の星。木々を薙ぎ倒し、さらに、獣達目がけて降り注ぐ。それを食らった大鳥がついに、糸が切れた凧のように落下していった。 ばさり、ばさりと互いの攻撃のよって枝が落ちていく。それに伴って、視界は少しずつ開けてきていた。 切り開かれた森の中で、豹と亀、そして、蛇2頭が暴れている。 「2頭なのに、頭3つとはこれいかに……おっと」 四つ足になって疾走してくる白豹。その衝撃に耐える喜平は呪いを銃弾に篭め、一気に撃ち抜いた。 現れた双頭蛇には、義衛郎、フツの2人が張り付く。双頭蛇はその大きな口で彼らへと食らいつく。相手は将軍級。その一撃はブロックする2人に手痛いダメージを与える。 双頭蛇が暴れるのをブロックしながらも、義衛郎は周囲の音を聞き分け、できる限り敵の位置を把握する。 「……そこだ」 彼はその上で手から雷を放つ。雷は戦場を駆け巡り、全ての敵を焼き払う。 「本物の四神ってヤツを見せてやるぜ!」 さらに、フツが放った符。そこから生み出されたのは四神朱雀だ。すでに大鳥は落ちているが、擬似的に創り出されたとはいえ、燃え盛る業火は我こそが朱雀と主張しているかのようだ。 それを直観で感じたのだろうか。大蛇は首をもたげて威嚇音を発して、雷を招き出す。大亀も、頑丈な甲羅に秘められた力を解放し、味方全体を守るシールドを展開した。E・ビーストになった彼らもまた、己を主張しようと必死なのかもしれない。 ●2人の女性、2つの頭を持つ蛇 交戦は続く。 リベリスタ達は敵を抑えつつ、各個撃破を目指す。 遥平は高位の魔術師へと呼びかけると、どこからともなく呪詛の歌が響いた。大蛇が目を白黒し始め、大きな頭がぐらぐらと揺れる。 大亀のブロックを行っていた竜一。すでに木々は燃やされ、斬られ、視界はクリアになっていた。彼は大蛇の姿を見定め、エネルギー弾を放射する。 エネルギー弾は大蛇の頭をふっ飛ばしてしまう。頭を失った大蛇は地響きを立てて崩れ落ちた。 敵を倒しても、遥平は頭上でこちらを気にかけているはずのフィクサードの動きを常に気を駆けていた。敵は動かない。こちらを奇襲してくる気なのか……。 遥平は敵が持っているはずのアーティファクトの情報を引き出そうと試みる。 (ダメージ共有型の破界器かね) そのフィクサード2人は手をとり、祈りを捧げている。イヤリングが輝き、2人だけを結界が包み込む。 壱也は動かぬ敵に視線を送りながらも、言葉を投げかける。 「あなたの大事なものは何? お金? 名声? それともその隣の人の温かい手かな?」 不意に友美が類から手を離す。結界がふっと姿を消した。 「どちら側にたっても厳しいことにはなるから」 距離のある双頭蛇に向け、太刀での居合を行って真空刃を放つ。木々の合間を飛ぶ。見事に双頭蛇の胴体を裂き、森に血飛沫が飛ぶ。 「大事なもの見失わないで……生きて」 友美はリベリスタを見下ろす。真摯に言葉をぶつけてくるリベリスタに思うことがあるようだ。 「友美さん」 喧騒の中、寿々貴も静かに呼びかける。 「すずきさんが後衛で普通に声出してるだけでも、聞こえてるんでしょ?」 寿々貴が続けて呼びかける。万華鏡のこと、それによって2人の事情を知ることを簡単に伝えた。 「丁度さ、アーク外の方を雇いたかったのよね」 アークの良い所を語る寿々貴。活性化させた集音装置を使って耳を傾ける友美を、類が静止する。 「トモ、私だけを見てて。いい?」 「うん……」 2人は再び手を取り合う。彼女達だけをまた、結界が覆った。 暴れ狂う双頭蛇。回復の手があるとはいえ、リベリスタにとってその攻撃は脅威だ。 「力押しの攻撃相手なら、こっちにもやりようがあるからな」 シールドを張る遥平が双頭蛇の前へと立ち塞がる。3人が双頭蛇の抑えと入るものの、2つの口から吐き出した毒液がリベリスタ全員へと降りかかり、体力を蝕む。 さらに、大亀がトドメとばかりに吹き付けると、双葉や喜平の体を致死毒が侵してしまう。 「双葉!」 妹の危険に壱也が叫ぶ。それを隙と見た白豹は、喜平と壱也目がけて疾走する。大きく2人の体を突き飛ばす白豹。度重なる攻撃に、2人は意識を失いかけてしまう。 しかし、運命が2人を見放さない。 壱也は飛ばされながらも体勢を整え直し、近場の木へと捕まった。握る手はしっかりと、枝の感触を実感する。 喜平もまた運命に守られていた。彼はすぐに白豹へと近づいていく。 「悪いが、これ以上はさせんよ」 再度撃ち抜く白豹の体。致命傷を受けた白豹は若干弱々しく威嚇の唸り声を上げる。 双頭蛇はその後も暴れ狂い続ける。倒れる仲間の姿に、遥平も黙ってはいられずにシールドで双頭蛇の噛みつき受け止めるが、黒亀の毒霧が遥平の体を蝕む。毒で薄れかける意識を繋ぎ止めた。 竜一は自分の抑える大亀のカバーが甘かったかと、苦虫を噛み砕くような顔をする。 しかしながら、今は2つの頭を持つヘビの対処が先だ。 「双頭の蛇な。片方の頭を叩けば、もう片方が。胴体を打てば両方が……厄介……」 竜一は逡巡するかのような素振りを見せるが、上げたその表情に迷いはなかった。 「……じゃねえな、俺には! 蛇が二頭なら、俺は二刀よ!」 二本の刃を振るう竜一。彼が再度、全力でエネルギー弾を撃ち抜くと、双頭蛇、片方の頭を貫く。 それでも、双頭蛇の動きは止まらない。食らいつく攻撃を、フツが身を張った受け止めた。 義衛郎は動きの止まった双頭蛇に迫る。彼が幻惑の武技で敵へ刃を差し向けていく。まるで義衛郎が分裂したかのように同時に攻撃し、双頭蛇の体の至る所から血が流れ出る。 最後に彼、いや、彼らは残る蛇の頭へと刃を深々と突き立てる。双頭蛇はこれでもかと暴れ回った後、ついに森の中へと倒れ、その生命活動を停止したのだった。 ●裏稼業は仕方なく……? 双頭蛇を倒したリベリスタは、包囲網を狭めつつ、残る白豹と大亀の討伐に集中する。 立ち上がる白豹は全身をオーラで包み込み、一気に放出する。リベリスタ全員に発した。毒や疾走を食らっていた寿々貴を、義衛郎が庇う。視野が光に包まれそうになるのを、彼は運命を砕くことで食い止める。 全ての敵を倒さねばならない。こんなところで倒れるわけにはいかないと、義衛郎はしっかり地面を踏みしめる。 白豹には、それまで抑えていた喜平が散弾銃の銃身を叩きつける。禍々しい色に染まった銃身が白豹の体力を吸い付くしてしまうと、そいつは泡を吹いて倒れ伏してしまった。 残る大亀。仲間を全て倒されて怒り狂う大亀が食らいついて来るのに対し、フツが手にする長槍を大きく振りかぶる。 「結城、そっちに大亀ふっ飛ばすぞ!」 フツは見事に、大亀の巨体を槍でふっ飛ばして見せる。 「おうよ、フッさん!」 応じた竜一がエネルギー弾を放つと、大亀の甲羅にヒビが走った。 次々繰り出されるリベリスタの攻撃。リベリスタももう余力は残っていないが、大亀ももはや虫の息だ。 「この炎を以って浄化せん。紅蓮の華よ、咲き誇れ!」 双葉とて、同じ。この一撃でトドメをと、大亀の中心描けて火炎を炸裂させていく。大亀の体は炎に飲み込まれ、最後のE・ビーストが動きを止めたのである。 「さて……」 リベリスタ達は、未だ動かず、姿も現さぬフィクサードを見据えて見上げる。 彼女達はただ、枝の上からリベリスタ達を見下ろすのみだ。 「聞こえてるか! オレはフツ、アークの焦燥院フツだ! 結城竜一もいる! エリューションは全滅した! もうお前ら帰れ!」 類、友美がその手を放すと、包まれていた防壁が姿を消す。リベリスタとして名の知れた者達。さすがに裏で生きてきた彼女達もその名は知っていた。 「帰るなら追わないが、戦うなら容赦はしない」 友美は何とも言えない表情をしている。自分達のことを気にかけるリベリスタと戦うなど、彼女にはできそうにない。 しかし、類の表情は険しい。睨み付けるように、リベリスタ達に鋭い視線を向けていた。 「戦う? わたしは戦いたくないけど」 「此処は一旦刃を納めてくれると、オレ達も助かるんだけど」 壱也も義衛郎も、これ以上の戦いは身がもたないと実感していた。過度にフィクサードを気にかけていた壱也、遥平の傷は深い。 ただ、フィクサード達も託された部下を倒され、潮時だと感じていた。任務はリベリスタの足止めだ。報酬さえもらえれば、無理をする必要などない。これほどの実力ならば、戦うとなるとただでは済まないだろう。 「世界の敵のド悪党に成り下がるか、脛に傷持つ堅気になるか……選べるのは今だけだよ。こんな機会は二度とは無い、悔いが残らない様に『慎重』にな」 喜平は考え直すように2人へと呼びかける。戦うならば容赦はしない。彼や竜一からはそんな殺気に似たものを感じる。 (わたしの大事なもの、奪わせないから) 壱也も殺気を感じて、身構える。 リベリスタ達の言葉を挑発を受け止めて飛び出しかける類。その腕を、友美が掴んで止めた。 「トモ!」 「ルイ、今は……」 首を振る友美に戦闘意志はない。こんな気持ちでリベリスタと戦うなど、友美には考えられなかったのだ。 「アークは大のために小を殺してきた組織だ。察するに、その辺りに含む所があるんじゃないのか」 諭すように遥平が森へ呼びかける。彼とて、ボロボロだ。だが、迷う若者を救いたいという思いが彼にはあった。 「だが今回は相手が悪い。バロックナイツは人の命なぞ平気で使い捨てる。たとえ味方でもな」 黙ってリベリスタの言葉に耳を傾けるフィクサード。まだ、動きはない。 「安い生命じゃないことは、お互い分かっている筈だ。お前らはどちらか片方でも、欠けちゃならない二人の筈だ」 「事情があるんだろうけど、出来ればこっちについて欲しいな」 遥平に続いて、双葉が優しく声をかける。そして、寿々貴が小さくボソリと呟く。その数字の羅列は、彼女の携帯の番号だ。 「気が向いたら返事よろ」 フィクサード2人はそこで、森から離脱をしていく。まだ伝えたいことがあった遥平は、少しだけ残念そうに俯く。 「お人好しが多いのもまた、アークって組織でな。気が向いたら顔を出せよ。三高平署の方でもいいがね」 誰もいなくなった森へ、彼は最後にそう言い残し、自分達もまた森から去っていくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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