● 荒涼とした大地が広がっていた。ここはとあるリンクチャンネル。 岩山の聳える、不毛の世界だ。岩山の周辺にちらほらと草木の姿は見えるも、狩れているものばかりだ。 そんな所へ、ボトム・チャンネルより呼び声が届いた。人が『魔術』と呼ぶ業によるものだ。 『久しいな、疾く暴く獣よ。契約の元に我を呼ぶか』 岩山が震えた。 いや、見ればそれは山では無かった。ゆっくりと伸び上がるそれは、腕の形をしている。そう、これは巨大な人だ。異界に棲むそれは、ネピリムと呼ばれていた。無数の世界の可能性が生んだ、強大な力を持つ怪物の1つである。 『たしかに我は汝に従わねばならぬ。だが、いつぞやのように退屈はごめんだぞ』 ネピリムから感じられる気配は、意外な程に理知的なものだった。だが、それが力を律するための理性であることは明らかだ。彼は望めば何よりも暴力的に自身を使いこなすことが出来るだろう。 そして、その力ある存在は、自身に声を届けるまでに力を持つボトムチャンネルに在る魔術師の声に耳を傾ける。すると、どうだろう。次第に彼の様子が変わって行く。 「なるほど、『世界に愛されるもの』達か。面白い、面白いぞ、魔術師よ」 山程もある岩の巨人が立ち上がる。 その大きさは、文字通り天をも衝かんばかりだ。 ボトム・チャンネルでの出来事はたしかに強大なアザーバイドの興味を引いたようだ。 「魔術師よ、お前の願い通り……『手』を貸すぞ」 そして、巨人はその拳を大地に向かって振り下ろした。 ● 鋭い冷え込みが肌に突き刺さる2月のある日リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。場にははっきりとした緊張が漂っている。そして、それらの顔を見渡すと、いつも以上に神妙な顔で『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「とうとう来るべきものが来た。数年前だったら、冗談でも口に出来なかったろうな。でも、今となっちゃあ『必然』なのかも知れない。……日本にバロックナイツの盟主が現れた」 『疾く暴く獣』ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマンの来日。 アークにもたらされたその報は、過去の戦いにおいて最大級の衝撃をもたらした。 バロックナイツはいまさら言うまでも無く、神秘の世界に君臨し続けた魔術結社である。その盟主が動いたことなど、過去数回しか確認されていない。 もちろん、アークのリベリスタ達は過去数度に渡って、歪夜の使徒達を屠ってきた。だが、今回は今まで以上に一筋縄とは言えない状況でもある。 「知っての通り、バロックナイツは個人主義の集まりだ。だけど、盟主には例外的に付き従う連中がいる」 それは第二位『黒騎士』アルベール・ベルレアンと第六位『白騎士』セシリー・バウスフィールドの2人だ。唯1人でも未知数な『盟主』に二人の『使徒』、そして行動を共にするアシュレイが加わればこの脅威は絶大では済まない。 バロックナイツ本隊の狙いは三ツ池公園の制圧と見られるが、その狙いは不明だ。 しかし『閉じない穴』を作り出したアシュレイがこの期に及んでその場所を欲っしている以上は、これまでのバロックナイツのような研究的利用の目的とは考えづらい。もう少し明確かつ危険な意図、必然性があると推測される。 その根拠の1つには、敵の入念な準備があげられる。ディーテリヒやアシュレイによって魔術的に召喚されたとみられるエリューションやアザーバイドの類が多数確認されている。 「もちろん、敵の主力の大多数を構成するエリューションやアザーバイドは、アークの一般戦力でもどうにかするつもりだ。だけど、精鋭部隊を相手にするにはこっちも精鋭部隊を出さなきゃいけない。そこであんた達にお呼びがかかる訳だ」 残念ながら実力的な主力と見られる精鋭部隊を水際で食い止める事は不可能だ。公園を舞台に迎撃態勢を取り、その失陥を防がなければならない。 非常に厳しい戦線になるのは間違いない。 これまでにもラトニャ・ル・テップやウィルモフ・ペリーシュ等、どうしようもない敵は居たが彼等は隙だらけだった。しかし、今回は違う。 敵にアシュレイが居る以上、万華鏡による一方的なアドバンテージは得られない。 敵にアシュレイが居る以上、彼等は間違ってもアークを侮る事は無い。 小細工の通用しない真っ向勝負となるのだ。 アシュレイという魔女の呪いは、着実にアークを絡め取ろうとしている。 「これだけの動きだ。他の国のリベリスタ組織も動いてくれている。決して状況は不利なだけじゃない」 日本の崩界進行度は危険水域(レッド・ゾーン)の突入しており、これは日本だけの問題ではないからだ。それだけに各地から援軍が集まってくれている。 しかし、先の『黒い太陽』の大暴れは各国のリベリスタ組織にも深刻なダメージを与えている状態だ。宿敵ディーテリヒの打倒に燃える『ヴァチカン』だけは意気軒昂だが、アークの力が最も重要になるのは言うまでもない。 最上は公園防衛、最悪でも敵の戦力をそぎ落とし、情報を収集し、反攻作戦の足掛かりを作る必要がある。無論、リベリスタ側が無事に戻る事は特に強く要請したい。 「そこであんた達に向かってもらうのはここ。北門に現れるアザーバイドの迎撃だ」 守生が機器を操作すると、スクリーンには虚空から生えた巨大な石の腕が表示された。周囲の構造物との対比で考えれば、ざっと20~30mはあるだろう。 難しげな表情をしている守生は、嘆息と共に説明を続ける。 「召喚されたアザーバイドだ。識別名は『ネピリム』って呼ばれている。どうやら、巨大なアザーバイドの一部だけが現れているみたいだな」 全体を召喚すると、巨大さゆえに運用しづらいと言った所なのだろうか。たしかに、この部位の全身を想像すると途方もない話だ。だが、同時にこれはアザーバイドの一部だけでも十分過ぎる程の戦闘力を有することを意味する。 幸いなことに召喚に時間はかかり、正確にタイミングを合わせられるわけではない。上手く動けば、こちらが準備を整えることもできるだろう。 「なんでも、過去に『ヴァチカン』とやり合った時にも召喚されたらしいな。『ヴァチカン』としては復讐戦に挑みたい所だろうけど、向こうだってリベリスタが余っている訳じゃない。そこで極東の勇者を見込んで、ってことらしい」 実際に『ヴァチカン』の依頼もこなし、信頼を勝ち取って来ているアークだ。信頼の表れと受け取っておくのが良いのだろう。有名になるのも善し悪しではある訳だが。 「あと、現場には結構な数のフィクサードもいる。戦闘の隙を突いて奥に抜けようとする可能性は高いしな。十分に気を付けてくれ」 バロックナイツ盟主の圧倒的なカリスマ性と魔術能力は本隊に圧倒的な武力を集結させるものだ。フィクサード界隈も最近景気が悪いので、世界最大のビッグネームに期待感が集まっている。この場に集まったのはそうした者達だ。 そう、これは単にリベリスタとフィクサードの抗争と言うだけのものではない。 神秘世界の一大戦争、まさしく黙示録の世界そのものだ。 「説明はこんな所だ、詳しいことは資料にある」 説明を終えた守生の顔は険しい。危険度は確実に過去最高。ここが死地になるのかも知れない。それでも、いつものようにリベリスタ達を送り出す。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月28日(土)22:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 三ッ池公園。 その名を聞いて、安穏とした場所を思い浮かべる者は最早多くあるまい。幾度となく革醒者の血を吸ったその場所は、黙示録の舞台にふさわしい呪われた地と化してしまったのだから。 「まずはてめぇらからだな」 自分達を取り囲むようにするフィクサードのど真ん中へ、『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)は巨大な杭打機で狙いを付ける。そして、放たれた光は敵を徹底的に叩きのめす。 「嗚呼、フィクサード。雇われる相手を間違えましたね」 『Lost Ray』椎名・影時(BNE003088)は弓を手にして、フィクサードを狙い撃つ。生かして返す、等と甘い気持ちは一切無い。 相手はアークの最精鋭と比べれば確かに格下が落ちる。それでも、影時自身より格上なのは間違いない。加えて言えば、アザーバイドに至っては雲の上の存在と言っても良いだろう。 自身に恐怖が無いと言えば嘘になるのかも知れない。それでも、憧れる戦士であるソウルの前で柔い姿を見せるのだけはごめんだ。 「僕は知りませんよ。これから何が起こるかとしても。それで、命を落したりしても」 それでも、先手を取れたこともあって、戦況はややリベリスタにとって有利に進む。 たしかに、この場に攻めてきているのは一端のフィクサード達であり、十分な戦闘力は秘めている。発足当初のアークであったなら、この内の1人が相手でも苦戦を強いられただろう。しかし、神秘抗争の最前線を生き抜いてきたアークとは練度に差があった。 「はるばる日本までいらっしゃーい☆ せっかくだけど、時間が無いから巻いてくよ!」 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の口調は軽いが、攻撃に容赦はない。『巻いていく』という宣言に偽りは無く、見る間にフィクサード達は氷に閉じ込められていく。動きを封じられた後に待っているのは、他のリベリスタによる追撃だ。 「何とかネピリムさんが来る前に終わらせたい!」 終を含めてリベリスタ達が勝負を急ぐ理由はそこに在る。放っておけば強力な増援がやって来る以上、わざわざ敵戦力が整うのを待ってやる理由は無い。 そして、後わずかで殲滅し切れるかと思われた時だった。 「来たか」 真っ先に反応したのは『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)だった。その眼は戦場に在りながらも、外からやって来る脅威の存在を見逃さない。 『手』だ。 拳と言っても良いのかも知れない。いずれにせよ、巨大なそれは天空よりリベリスタに向かって降り注ごうとしている。フィクサードがいた所で状況は変わるまい。文字通り「手当たり次第」に攻撃するつもりなのは間違い無かった。 「アザーバイドの召喚か……召喚前にサクッと片付けられれば良かったのだが、難しそうでもあるな」 苦笑を浮かべると、身構える涼。こういった状況で過ぎたことを悔やもうが、どうにもならない。戦いの中で学んだことだ。素早く切り替えると、天を睨みつける。 「まぁ、仕方がないが、出来る限り頑張って行くことにしようか」 「さて、これはいつも以上に気合いを入れてかからないといけない事案だな」 「ええ。それにしても、この戦場に惹かれないといったら、嘘になりますね」 上空に現れた新たな敵を前に、『侠気の盾』祭・義弘(BNE000763)は傷だらけの身体を推して、メイスを握る手に力を込めた。答える『ホリゾン・ブルーの光』綿谷・光介(BNE003658)は口調こそクールだが、声色にはどこか普段の彼に似合わない熱情がこもっている。 無理も無い。 バロックナイツの盟主の魔術はほぼ詳細が伝わっていない。そして、蓋を開けてみればこの規模の召喚術を使ってみせた。しかも、これは彼の持つ神秘の一部に過ぎないはずだ。魔術師としての本能が疼いてしまうのも無理ない話である。 しかし、そんな心を理性で抑えながら光介は癒しの術式を構築する。これ程の相手なればこそ、彼の役割が重要性を帯びてくるのだ。もちろん、先ほどの傭兵フィクサード達とて、決して弱卒だった訳ではない。だが、これから来る相手は確実に「それ以上」だ。 「好きにボトムにアクセスできて色々事を起こせるのがうらやましい、と言ったら怒られますかね」 『オカルトハンター』清水・あかり(BNE005013)のアザーバイドに対する反応も光介と概ね似たようなものである。その名の通り、オカルト――つまりは神秘の世界――を探究する彼女にとってみれば、強大なアザーバイドであっても、興味深い題材の1つでしかない。 「聞けば今回の事件は神秘の親玉みたいなもんじゃないですか、こりゃあわくわくするってもんです」 まぁ、彼女の中に好き勝手やられるのは困るという程度の節度はある訳だが、度し難い性質ではある。 だが、それ以上に度し難い、ある意味でフィクサード以上に危険な性質の持ち主だってリベリスタの中には存在する。 そういう類の人種である『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)もまた、臆するどころか吠え猛った。 「でっかくて強ェ敵と、オマケにフィクサードもついてくるッて? へへッ、すっげェ楽しそォだなッ!」 足元に転がるフィクサードの胴体を踏みつけ、喜色満面の笑みを浮かべる様は、どちらが敵役か分からない。 その身に傷は刻まれているし、疲労も溜まって来ている。それでも、戦いが待っているのだ。止まってなどいられない。遠慮もブレーキも無しに全開でぶっ放している。 「傭兵達も厄介だったが、敵は動く岩山のような存在だ。言葉通り、粉骨砕身の気概で挑むとしよう」 そんな仲間達へ困ったように、あるいは頼もしげに義弘は敵の攻撃に対して備える。 わざわざ意識を向けるまでもない。先ほどから背筋に嫌な気配が走っているのは嫌と言うほど分かっている。だが、受け継いだもの、そして背負った侠気に変えても退くわけにはいかないのだ。 天から生える腕は、大地に向かって拳を振り下ろす。 コヨーテは彼我の距離が自分の射程に入ったと見るや、地獄の炎を纏って飛び掛かるのだった。 ● アザーバイドの一撃はリベリスタもフィクサードも構わずに吹き飛ばした。 それまで怪我らしい怪我も無かった終だったが、一撃で血まみれにされてしまう。しかし、その状態で死にたがりのピエロは生き残ったフィクサード達へと笑顔を送る。 「お金も名誉も命あってのものだと思うよ?? 後から来る人は敵味方の区別が無いみたいだし」 「例え逃げたとしても、僕は其れを笑いませんし、むしろ評価致しますし。命を大事にしろって言っているんです」 対して影時の声は冷ややかだ。先ほどから彼は、フィクサードへトドメを刺すことに躊躇は無い。あのアザーバイドはおそらく、敵であれ味方であれ、命を奪えば奪うほどに昂ぶることだろう。余計に喜ばせてやる義理も必要も無い。 フィクサード達もそれはある程度織り込み済みだった。むしろ、リベリスタとアザーバイドの戦いの隙を突いてここを突破するつもりだったのだ。しかし、リベリスタ達はそれすら許すつもりは無かった。フィクサード達が首を横に振れば、あかりは容赦なく火炎弾で戦場ごと薙ぎ倒しただろう。 悔しげに逃げて行く生き残りのフィクサード達。 「待たせたなァ、ネピリムッ! 邪魔モノは消えたぜ。トコトン闘り合おうじゃねェか!」 前菜は喰い終わったとばかりに、コヨーテは怪我に懲りる様子も無くアザーバイドに立ち向かう。 「オレとお前ェ、どっちかが死ぬまでなァ。覚悟しろよ、オレは死んでも負けねェッ!」 コヨーテの勢いに導かれるように、リベリスタ達はアザーバイドへの攻撃を開始する。 これ以上の小細工は通用しない。最早真っ向勝負以外の選択肢が存在しない相手だ。地力という意味では、アザーバイドの方が圧倒的に上だ。しかし、体で劣るなら技と心で補えば良い。 「のんびりする訳にはいかないな。寝てたら叩き潰されそうだ」 戦場を駆けながら、涼はアザーバイドに死の爆弾を植え付ける。 すぐさま場を離れる彼の後ろ側で、未来ごと消し飛ばす勢いで爆弾が連続して炸裂していく。馬鹿みたいにただ走っている訳ではない。下手に固まって、纏めて潰されたのではサマにならない。 運命のルーレットを味方につけ、危険と安全の狭間で涼は確実に傷を与えて行く。 一方、義弘は不動の構えを取っている。アザーバイドが手を振り回す中心点に立ち、余計な動きを封じるようにも重たい一撃を叩き込む。 「俺は侠気の盾!」 質量の話をするのなら、どちらが勝っているかなど知れたこと。だが、それでも己の信念を乗せた一撃で対抗する。少なくとも、戦いにかける想いであれば負ける等とは思っていない。 「仲間の盾だ!」 そんな義弘の想いに応えるかのように、メイスは神気を帯びて圧倒的に迫る敵の身体を揺らす。 「ただ眼前へ、突き進む!」 重たい打撃音が三千世界に響けとばかり聞こえた。 その時、リベリスタ達はアザーバイドの様子が変わったのを感じた。リベリスタ達が単に戦うだけの機械では無く、それぞれに願いを込めて戦いに挑む存在だと理解したのだ。応じるように戦い方を変えてくる。 「クッ」 光介は歯を食いしばって、全身を襲う脱力感に抗う。アザーバイドの掌から発された光は、戦意を奪うような心地良いものだった。しかし、癒し手としての矜持が必死に離れかけた魂を繋ぎ止める。 これ程の存在を操れる魔道の秘奥に熱情が湧いたのも事実だ。 それでも、光介は癒し手。自分の基軸、行動原理を見失ったわけじゃない。 (そう、常に自分にできることを……癒し手の本懐を) フィクサードという不確定要素を消したものの、アザーバイドの性質が変わった訳ではない。だが、自分の得手とする回復を続けることで、活路が開けるはずだと信じている。 「押し返します。持てる術のすべてで。ホリゾン・ブルーのこの光で!」 並みの術者なら倒れてしまうような大魔術を、光介は行使する。ここまでの荒業をやっても、全てを癒し切れるわけではない。それでも、意地で自分を支える。 そんな彼を支えるように、緑色のオーロラが包み込む。 「こう言っちゃ何ですけど、学術的興味なことを思えば実は割とわくわくしている自分がいるんですよね」 あかりが操るフィアキィがもたらした癒しの力は、リベリスタ達に戦い続ける力を与えてくれた。 当の本人も怪我は深く、運命の加護を以ってようやく立っているといった所だ。彼女の方には役割への義務感や、世界を護るといった使命感等存在しない。 あくまでも、探究心のためだ。 これ程の強大な神秘に触れる機会など、そうそう転がってはいない。 「期待外れではなさそうですし、せいぜい楽しみますかねぇ」 さらなる神秘を手に入れんと、フィアキィと共に戦場に立つ。 「その図体じゃ器用そうじゃねえよなあ、ネピリム」 癒し手達の前に立ち塞がりながら、天の上にいるだろうアザーバイドの本体に向かってソウルは声を張り上げる。その声は戦場の最中に在りながら、旧知の友に語りかけるかのように親しげだ。 「奇遇だな、俺も器用じゃねえんだ。なら単純に勝負を決めようや」 相手に聞こえているかは分からない。だが、聞こえて挑発になってくれれば重畳、なっていなかったとしてもこういう奴には一言言っておきたい。 「俺の事を、お前が、潰せるかどうか、だ」 ソウルの言葉が聞こえたということなのだろうか。 強烈な拳が降ってくる。それも、さっきまで以上に腰ののった代物だ。だが、それはさせないと影時は叫びと共に断罪の矢を放つ。その矢は、彼の血で濡れている。既に、何度となく倒されているのだ。運命の炎は既に掠れている。彼が立っているのは、既に奇跡のようなものだ。 それでも、己に与えられた5分の1のドラマだけを信じ、巨神に挑む。 「ネピリム、こっちです。例え君の呪いであろうが、僕はその呪いでさえ受け付けない身体みたいですよ」 自分の力がこの戦場に十分で無いことなど、百も承知だ。そんなこと、さっきから何度も思い知らされている。たとえそうだとしても、倒れる訳にはいかない。相手が格上のフィクサードであろうが、神話級の存在だろうが誰かを殺させる訳にはいかない。ましてや、それが尊敬する相手であるのならなおさらだ。 しかし、それにも限界が訪れる。 「坊主!」 「あとは頼みましたよ、ソウルさん……」 跳ね上げられた影時は、強かに地面に叩きつけられる。 その時、何処からか咆哮が聞こえる。いや、言うまでもない。上位世界に存在する巨大な戦鬼の、歓喜と称賛の咆哮だ。 だが、その雄叫びは同時にボトム・チャンネルの戦鬼達をも覚醒させてしまった。 「へへッ……腕だけでもコレかよォ。冗談じゃねェ。こんなモン見せられたら、これからフツーの敵相手にすンのがつまんなくなるじゃねェかッ!」 「ディートリヒさんやアシュレイさん達が何のために戦おうとしてるのか分からないけど、オレ達の大事な場所や人達を傷つけるなら阻止しちゃうよ!」 終は聖書の嘘、等といったバロックナイツの考えることは何一つ分かっていない。だが、大事なものを護るためなら、命だって投げ出せる。 コヨーテも状況がどうでもいいのは同じことだ。彼にとって重要なのは、相手が強いということだ。彼が受けた傷の全てが、敵の強さを物語っている。 「腕を貸してくれってよく使う言葉だけど、本当に腕だけなんだね~」 終の姿が掻き消えるように見えたかと思うと、見る間にアザーバイドの腕を切り裂いていく。1つ1つは小さな傷でも、これ程までに刻まれれば笑ってはいられない。 「でか~い」 感心したように言いながらも、その速度が落ちることは無い。一層の速度を持ってアザーバイドを築塗れにしていく。 「すっげェ楽しい! なァ、お前ェもだろ、ネピリム? ……聞こえンのか? まァどォでもイイけどなッ! 強ェヤツと闘いさえできりゃァ、オレは……ソレでッ!」 地獄の炎が渦を巻き、巨大な腕を炎の柱に変えていく。 しかし、それを許すまじと雷鳴が轟き、リベリスタ達の方こそ焼こうとする。 ひたすらに爆発音が聞こえ、魔術の光が閃いた。 どれだけの間殴り合ったのであろうか。リベリスタ達は既にそれを数えることすら億劫になっていた。その時、終は腕の動きがほんのわずか鈍ったことを見抜く。 「みんな、ファイトー! オー!」 「硬いのは分かっているが、確実に爆破させてもらおう――」 「異界の敵を押し返すぞ!」 終の声に合わせるように、リベリスタ達は最後の力を振り絞って攻撃する。その中で、一度大地に倒れたコヨーテは渾身の力を振り絞って立ち上がる。 「死んでも負けねェッて、オレ言ったよなッ? まだ遊んでやんよッ!」 己の運命の炎をそのまま纏い、コヨーテが天に向かって拳を振り上げる。 その拳は、天を突き破った。 ● 「次来る時ゃ、こんなシンドイのはゴメンだぜ。飲み比べなら付き合ってやるよ」 戦場だった場所に残る巨大な『ちぎれた腕』を前にソウルはぼやく。幸か不幸か、アザーバイドの現れた穴は消えてしまったし、これ以上の何かが来る様子も無い。正直な話、この場で本体でも現れようものならお手上げだ。 「次、ですか。あまり考えたくは無いですが」 答える光介の表情は暗い。彼の見た所、あのアザーバイドは定めた数だけ、契約者に従うといった類いの契約をしているようだった。過去の戦いで使い果たしていることを祈るのみだ。 しかして、そんな深刻な表情の仲間達と比べて、あかりの表情は軽い。 目の前には丁寧に研究対象が残っているのだから。何が分かるかは分からないが、それでも否応なしに期待は高まると言うものだ。 「わたし、あの地位に立てたりしませんかねぇ?」 黙示録の最中にあっても、己の生き方を見失わない。これもまた、リベリスタ達の強さなのかも知れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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