● ざっくりと額を割れ、目に熱い血が流れ込む。 片目を塞がれたヴィエラ・ストルニスコバーは、後ろへ倒れて魔物が振り下してきた斧をかわすと、そのまま横へ転がった。 魔物。そう魔物だ。聖書の中から飛び出してきたような魔物が我が物顔で暴れている。電信柱と青い瓦屋根という日本的風景が、西洋的な魔物たちの後ろに見え隠れしているのがなんともちぐはぐで無性に可笑しくなった。 ヒステリックな笑い声が、食いしばった歯の隙間から細くなって出て行く。が、まだだ。まだ狂うわけにはいかない。 ヴィエラは狂気に落ちる一歩手前で、何かが空を切って飛んでくる音を聞いた。 それが何かと考えるよりも早く、勝手に体が動いた。 転がりぶつかった先の死体に手を伸ばし、むんずと引き寄せる。火事場の馬鹿で持ち上げて盾にし、飛来した無数の魔矢を受け止めた。 肉に穴が穿れるたびに、ずしっ、ずしっと腕が下がっていく。 まだ温もりを残した死者のうなじは、柑橘系の甘い匂いがした。 不意に涙がこみ上げて来た。 目のすぐ前ではちみつ色の髪が揺れている。 ――もう、ダメ。持ちこたえられない。 ああ、『白バラの祈り』の仲間たちはどこにいるのだろう。 『ヴァチカン』たちが上げる祈りの声は絶え絶えに、『スコットランドヤード』たちの銃声はすでに沈黙して久しい。 ヴィエラは盾にした死体を体の上に降ろすと、腕を回して抱きしめた。 神の姿を求め、天へ片目を向ける。 涙を湛えた瞳に映ったのは、ジャッカルの化け物が持つ大剣の切っ先―― ● 「急いで!」 リベリスタたちはブリーフィングルームの入口で、呼び出しをかけた張本人であるフォーチュナ『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)に廊下へ押し戻された。 「バロックナイツ盟主『疾く暴く獣』ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマンがついに動き出しました。いや、いまそれをのんびり説明している暇はありません!」 興奮極まって、手にした紙の資料を振り回し、廊下にまき散らす。 さあ、行った、と和菓子屋は口からツバを飛ばすが、一体どこへ行けというのか―― 「三ツ池公園の北部の市街地へ。海外のリベリスタ組織の混成部隊が防衛についていましたが、間もなく全滅します。すぐに助けに向かってください。まだ……まだ何人かは助けられます!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月28日(土)22:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 耐えろ、と頭の中で女の声が響いた。 そしてまた声。 今度は耳で聞いた。 「大丈夫、神様なんかに祈らなくても君達は僕が助けるから」 喉へ落とされようとしていた剣の先がぴたりと止まる。 別の声。 「生憎と救いの神は不在だが、味方なら此処に居る」 槍のように鋭い一閃がジャッカルの胸を突き抜け、幅広の剣を真ん中から砕いた。 折れた剣の先と破片と血と、ジャッカルの両膝がじわりと落ちてくる。 ああ! ●東 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、ヴィエラ・ストルニスコバーの上へ倒れようとしているジャッカルへ向けて強烈な一撃を放ち、折れた剣の破片ごと横倒しにした。 まず一体。と息をついてすぐ、先がなくなった剣が飛んできた。とっさに体を傾けてかわす。 倒れながら役立たずの得物を投げつけるとは、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)に心臓をぶち貫かれたというのに存外しぶとい。 しぶといといえば、一緒に貫かれたサイもどきのアザーバイド2体もまだピンピンしていた。こちらの先制攻撃に浮き足立つどころか、敵の姿を確認するやいなや、司令塔と思しきフィクサードの前に立って壁を作っている。 無傷のジャッカル2体もまた左右に展開して、横手から反撃するチャンスをうかがっていた。 ここにいるのは数揃え。精鋭部隊が公園内に突入するための陽動兵のはずなのだが、それなりに駒が揃っている。 情報通り。バロックナイツ盟主ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマンはアークを一切侮ってはいないことがこれで知れた。 (だけど、だからこそ、僕たちは怯むわけにはいかない) 覚悟を決めた夏栖斗の声は明るい。 「だから、もう少しだけ、あきらめないで頑張ろう。希望だけは捨てないで」 天に祈りをささげるヴァチカンの女リベリスタへ声をかけ、泣きじゃくっているヴィエラの傍に膝をついてそっと体を起こしてやった。 「ヴィエラちゃん、僕だよ。夏栖斗。泣かないで。助けに来るのが遅くなってごめんね……って、いててっ!? なんでつねるの?」 こんな時に、どうして助けに来たのよ、とヴィエラはまた夏栖斗の脇腹をつねった。 バカ、バカ、夏栖斗のバカ。素敵な恋人がいる癖に。かっこよく登場しちゃって。これ以上、好きにさせないでよ。ばかぁ。 視界の隅でサイの盾が割れるのが見えた。猫耳の男が前に出てくる。 ヴィエラは自力で立ち上がると、まだつねられた理由が分かっていない様子の夏栖斗に注意を促した。 「希望だぁ? そんなもの捨ててしまえよ、ここで」 目を細めて歪め、ついでに命も捨てろ、と猫顔が言い放つ。間髪入れず。ビーストハーフは弓を天へ向けて弦を引き、笑いながらリベリスタたちの頭上に炎を雨のごとく降らせてきた。 インドラの怒りそのものである炎が一帯の空気を白熱化する中で、サイに似たアザーバイド2体が巨大な斧を振り回しながら二人に向かって近づいてくる。 「御厨さん、櫻霞様!」 『梟姫』天城 櫻子(BNE000438)が癒しの術を広く施すと、ピクリとも動かなかったヴァチカンのクロスイージスが息を吹き返し、振り下された斧の刃を盾を掲げて受け止めた。そのままサイに地面へ叩き伏せられたがまだ彼は生きている。 櫻霞がゲイ・ボルグでサイの頭を粉砕した。 ああ、よかった。間に合った、と櫻子は心中で安堵するも、表情はなおも厳しいままだった。 (慌しいのはいつもの事ですけど……。この状況は流石に芳しくないですね) いましがた助けた命も、なにより大切な夫の命も、このままここにいては危ういものになる。一刻も早く仲間たちが待つ交差点まで下がらなければならない。 それは敵も承知の上らしく、退路を断つかのように包囲を狭めてきた。ジャッカル2頭が駆けだして櫻子の後ろへ回り込む。 あ、と声を漏らした櫻子を、猫耳の男がくつくつと笑った。 「三人だけのはずないよな。残りはこの先の交差点で待ち伏せか? 残念。ここで死ね」 「悦に浸るのは此処までだ。その余裕、命諸共抉り取る」 櫻霞は二丁の大型銃を胸の前に掲げた。 エンジェル・ブルーに輝く無数の魔弾が、光の筋を引きながら全方向にまき散らされる。 その攻撃は櫻霞の気合を反映して、敵を足止めするどころか後退させる勢いだった。 突進してくる光の壁に、敵は右に左に首を振って避ける場所を探していた。が、それは無駄なあがきというもので、すぐに弾幕に飲み込まれて悲鳴を上げた。 「櫻子!」 夫に指示されるまでもなく、櫻子は体を低くしてヴァチカンの女リベリスタに近づいていた。後ろから腕を取って呆けている女の気を引くと、立てますかと聞いた。 首が小さく振られる。 「うぉらっ!」 夏栖斗の怒声とともに冷気が櫻子の横を走った。 振り返ると、すぐ後ろに氷漬けになったジャッカルの姿があった。櫻霞が即座に魔弾で撃ちぬいて粉々にする。 「僕、ヴィエラちゃんと彼女を交差点までつれて行く。櫻子は先にそこのクロスイージスの彼と走って逃げて。櫻霞は……」 「殿は任せろ」 心配するな、櫻子。櫻霞はそう言ってためらう妻の背を押しやると、猫耳たちの前に立ち塞がった。 「命が惜しくないなら来るといい」 ●北 『ティンダロス』ルヴィア・マグノリア・リーリフローラ(BNE002446)は、地面を覆い尽くし、空を暗くするほど大量の蝗(いなご)の群れを前にして、ごく自然体で言い放った。 「ハァイ、皆大好きアーク宅配便です」 お待たせ、と白い尻尾を揺らす。 前方でくすりと笑い声。銃を持った手を上げたのはヤードのクリミナルスタアだ。 「フィッシュ・アンド・チップスは持って来てくれたか。モルト・ビネガーも一緒に?」 着ているコートは方々虫に喰われてボロボロ。だが、ハートまでは食われちゃいなかったらしい。血で赤黒く汚れていたが、重傷のわりにはいい笑顔だった。 「さめないうちに食べないと風味が落ちるから持ってこなかったよ。食べたきゃ自分でアーク本部の食堂へ行って注文してくれ」 ルヴィアも笑って受ける。 いついかなる時もユーモアを失わない。傭兵として、世界中の戦場を渡り歩いて得た教訓の一つだ。 「アンタ、名前は?」 ジョン、ルヴィア、と互いに名乗りあった所でぶん、と太い羽音が耳の横をかすめた。 「おっと、早速か」 手の内でガラスの刃をくるりと回して閃かせると、アルシャンパーニュを放った。冷たい青の光が体にまつわりついてくる蝗たちを切り刻み、凍らせて落とす。が、すぐに代わりの蝗が現れて集ってきた。 「鬱陶しい。ぶんぶん、ぶんぶん、ハエじゃあるまいし」 犬歯を剥き出し唸ったところで、助けてくれ、と叫ぶ男の悲鳴が聞こえた。 見れば十メートルほど先に赤い自動車あり、そのボンネットの上で神父が狂ったように腕を振り回している。 「マローニ神父だ」 ジョンが銃を構えて狙い撃つ。蝗を何匹かはじき飛ばしたが、多勢に無勢でほとんど効果がない。 救出に駆けだした矢先、ルヴィアたちは横から別の蝗の群れに飲み込まれてしまった。無数の小さな影が視界を閉ざす。 ルヴィアはパニックを起こすまいと歯を食いしばった。どこにジョンがいるか把握できない。できないが、このままでは共倒れだ。 巻き込む危険を承知の上で、ルヴィアは冷気を放つガラスの刃を振るった。 空中の水分が氷結し、死の霧を作る。 霧に触れた蝗が次々と落ちて視界が開けてみれば、すぐ近くにジョンが倒れていた。 「くそ……ったれ!」 遅れてやってきた『静謐な祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の決断は早かった。 状況を一目で把握すると迷うことなく最大の回復魔術を放った。天からまばゆく光るネルギー体を降ろして仲間たちの傷をたちまちのうちに癒す。 「もう大丈夫だよ! 私達の仲間も、それぞれ別のところで貴方達の仲間を助けに向かってる」 アリステアは道々、息絶えて横たわる仲間たちの目を閉じて回っていた。これが遅参の理由だ。 全員を助けられれば良かった。でも助けられなかった。だからこそ、救える命は救わねば。『間に合わなかった』なんて言葉で片付けるのは、本当に嫌。と体の横で拳を固めれば、デウス・エクス・マキナ以外の回復技は考えられなかった。 私は最後の最後まで全力を尽くす。愛する人たちとこの世界を、癒し手の矜持にかけて、守りたい。だから―― 「お願い。一緒にがんばろ?」 そう声をかけた相手は、赤いボンネットの上でうずくまる神父だった。 果たして、アリステアの言葉に勇気を貰った神父は立ち上がった。全身から強烈な閃光を放つ。自身とその周辺にいた蝗のみならず、届く範囲の蝗をすべて焼き払った。 残った蝗の群れは白光を恐れて大きく後退した。 すかさずルヴィアがジョンの肩を担ぎあげて立たせる。神父もまた、車の上を降りてこちらへ走ってきていた。 よし、と小さくうなずいて、アリステアは翼の加護を唱えた。 ルヴィアたちの背に白く小さな翼があらわれた。三人の体が空に浮く。 蝗たちがためらっているうちに、速やかに交差点まで下がらなくては。そのためにも障害物に足を取られてはいられないのだ。 「さあ、戻りましょう。りょ……ううん、みんなが待ってる」 ●西 まったく、次からつぎから……きりがないよ。 ぶつくさ文句を言いながらも、奥州 倫護(BNE005117)は全力で走った。 何の因果か。異世界に消えた兄と立場が入れ替わるようにして覚醒、アークリベリオンとなったからには、とにかくピンチの仲間たちを助けないと、というわけである。 その仲間たちの背中が大きく見えてきた。手が届きそうなぐらいまで近づいてから声を、と思ったとたん、倫護の足はぴたりと止まった。 英語とチェコ語。バベルを活性化しているのでどちらも喋れるが、同時に二つの異なる言語は喋れない。 考えた末に口から出たのは日本語だった。 「助けに来ました! アークの奥州倫護です。ここで無理しないで、3人一緒に交差点まで下がりましょう!」 要は助けが来たことに気づいてもらえればいいのだ。大きく声を張り上げながら、倫護はざっと辺りを見渡した。 犬耳の人の左上に三匹、その前に一匹。銃を構える人の右上に四匹……あれ? フォーチュナの健一が押しつけてきた資料には、西の敵はガーゴイルのような姿のアザーバイドが十体、と書かれていた。 いま確認できたのは八匹だ。二匹足りない。 残りはどこだと目を泳がせた途端、いきなり警告が飛んできた。 “Watch out!” とっさに地面を蹴って後ろへ飛び下がる。 二匹のガーゴイルが、たったいままで立っていた場所に尖った嘴を突っ込んできた。 肉をえぐり損なった二匹のガーゴイルが、地面に激突する寸前に翼を広げて空へ上がっていく。無防備な背中に一発ぶち込んでやりたくなったが、あいにく手が届かなかった。 剣を振るって威嚇しながら、犬のビーストハーフが近づいてきた。スコットランドヤードのリベリスタも銃を構えたまま、後ろ向きでこちらへ向かってくる。 「回復専門か、小僧。ホーリーメイガスには見えねぇが」 「アークリベリオンです……ってそんなことはどうでもいいです。あのガーゴイルたちに届く攻撃を持って――」 「――たらこうまで苦戦してねぇよ」 ですよねぇ、と倫護は肩を落とした。 「交差点まで下がりましょう」 きっぱり告げると、二人は異議を唱えなかった。それどころかさっさと敵に背を向けて走り出す。 「置いていくぞ、小僧!」 倫護はあわてて二人の後を追った。 ● 西の奴は自分で走って来い! と、思っていたら、本当に走ってきた。それもなりふり構わず、背後に醜い小悪魔たちを十匹まるっと引き連れて。 (一匹も始末せず、ですか) 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は、ちっ、と舌を打ってからきちんと体を西へ向けた。 北と東へ向かった仲間たちはまだ戻ってくる気配がない。敵と接触はしているらしく、戦闘音はここまで聞こえくるが、いまのところはそれだけだ。 対して西から倫護たちを追って来るアザーバイドは空を飛んでいる。一匹一匹、確実に仕留めなければ、うち何匹かが交差点を突破して南の公園へ向かうだろう。逃げ戻ってきたぐらいなのだから、あの三人だけでは間違いなく押し留められない。 あばたは交差点の北端に仁王立ちになって恋人の戻りを待つ男に声をかけた。 「神城様、まず西から片しましょう。一人でも多くの仲間を助けるとともに、一匹も南へ進ませるな、というオーダーです」 『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)はしぶしぶ振り返った。目はあばたの顔を捉えているが、気持ちはまだ北へ向いたままだ。少しでも目を離したすきにアリステアが怪我でもしたらと思うと、とても落ち着いてはいられなかった。 あばたの顔を見て、それから西の方を見て、またあばたの顔を見る。 「任せた」 「任されません」 あばたから速攻切り返しを喰らって、涼は、はあ、とため息を落とした。仕方がない。 気持ちの切り替えたあとの行動は素早かった。交差点を斜めに横切り、西の端にあばたと並び立って三人を迎える。 改めてよくみれば、三人の背のすぐ後ろにガーゴイルの嘴が迫っていた。 「とりあえず俺らの後ろに下がれ!」 いうやいなや、運命のルーレットを回して得た強運を乗せた透明な刃を振って三匹のガーゴイルを切り刻む。 すれ違いざま、魔物の鋭いくちばしが涼の太ももをかすめて切り裂いた。 アスファルトの上に血が点々と飛び散る。 倫護たちの目の前で黒いコートがぐらりと前へ傾いだ。 「涼さんっ!」 空で三匹のガーゴイルが嘴を大きく開いて鳴いていた。 不吉な鳴き声が交差点にいたリベリスタたちの幸運を食らい、蝕んでいく。 涼はとっさに膝に手をついて踏ん張ったが、頭を上げた時にはすっかり混乱していた。嘴で切り裂かれる少し前に、ルーレットの幸運は食われて消えていたのだ。 千切れた翼を必死に動かして上昇しようとするガーゴイルたちを、あばたが二丁の銃で狙い撃つ。 倫護たちもトドメを刺しに加勢した。 涼の混乱した意識が、あばたたちの動きを自身に向けた攻撃と捉えた。いつの間に敵に囲まれてしまったのか――。 間の悪いことに、北からアリステアたちを追って蝗の大群が迫ってきた。 直死嗅ぎが働いて防衛本能が瞬時に高まる。 涼は、先制攻撃こそ最大の防御、とばかりに腕を大きく横へ振り払った。とくに誰かを狙ったわけではなく、ただやみくもに。 見えない刃は飛んできた蝗を数匹と、すぐ近くにいたあばたの胸を切り裂いた。続く第二撃で降下して来たガーゴイル一体と、白バラとヤードの二人を切りつけた。 「みんな、踏ん張れ!」 倫護が己の命を癒しの波動に変えて、傷ついた仲間たちを癒す。 「涼! しっかり!」 アリステアは戻ってくるなり神聖の息吹で涼の混乱を解いた。そのまま翼を止めずに涼の胸に飛び込んで抱きしめる。 「ああ……助かったぜ、アリステア。さて、よくもやってくれたな。アザーバイドが何をしに来たのかは知らないが……」 蝗の群れを黒いマントのごとくはべらせて、ガーゴイル二体が突っ込んできた。 涼の手の平の上で練られたオーラが死の爆弾に変わる。 「ま、お前らは此処で終わり――ハッピーエンドを望んでいたんだろうが、爆殺すんぜ?」 爆ぜたガーゴイルのあとに残った蝗を、あばたが正確無比なショットで片っ端から撃ち落していく。 だが、一匹ずつ撃ち落すにはあまりにも数が多すぎた。 リベリスタたちはあっという間に蝗の群れに囲まれてしまった。 「多勢に無勢は傭兵家業の常ってなー。みんな離れろ、グラスフォッグいくぜ!」 同じ過ちは繰り返さない。ルヴィアは声を出して周りから仲間を遠ざけると、凄まじい勢いで小刀を振るって氷刃の霧を作り出した。 突如、地より沸きあがった炎が蝗を焼き、東の方角から凍てつく吹雪が蝗を凍らせて落とした。 「やっと戻ってきましたか。虫をお願いします!」 代わりにわたしは悪い犬猫を懲らしめましょう。あばたは東から戻ってきた仲間たちを出迎えつつ、引き金を絞った。 ● 「これで前哨戦だ、嫌になるな本当に」 西をみても東を見ても、北を見ても。死屍累々、瓦礫の山である。櫻霞のつぶやきはもっともで、これが始まりと思えば誰もが顔を曇らせた。 櫻子は櫻霞の袖を掴んだ。 「次に参りましょう……」 立ち去る友人の背を見送って、ルヴィアは空へ紫煙を吹きあげる。 「盟主とやらも暇なんかな、困ったもんだよ」 知るか、と吐き捨てた猫耳のヒモを、あばたはぐいと引っ張った。 このフィクサード。武勲を立ててディーテリヒに取り入り、いずれはバロックナイツに……と考えていたらしい。 「おまえ程度のフィクサードが?」とあばたは呆れを通り越して感心すらした。まあ、誰にでも夢をみる権利はある。それが悪党であったとしても。 「アークで詳しく取り調べてもらおう。どうせ大したこと知らないと思うけどね」と倫護。 「じゃあ、ボクも」 夏栖斗はバイクにまたがった。 「俺たちもいくか」 アリステアが涼の背中を見つめながら戦い始めて、もうずいぶん経つ。 (隣で笑える日、早く来ればいいのにね) 振り返った涼の手を取ると、アリステアは指を絡ませて握りしめた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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