●足りないもの。戦う意味 「ふふ……ふふふ……あはははははははは!」 突如笑い出したアムに唖然とするリベリスタ。 「ああ、すみません。いきなり笑い出してしまって。 皆さんに伝言があります」 伝言? 誰から? 疑問符を頭に浮かべながらアムの言葉を待つ。 「『俺たちも混ぜろ』」 言葉と共に現れるのは、見たことのないアザーバイドたち。だがその姿形はこの世界で出会った守護者に酷似している。 「皆様が戦わなかった階の守護者です。彼らもまた、皆様と戦いがっています。 勿論コピーです。本人ではありませんが、この私(せかい)のわがままにお付き合い願いますか?」 最弱(ちっぽけ)な私(ミラーミス)にできることは何? 私が持っているものは何? なんと可愛らしく、なんと憎らしく、なんと素晴らしく、なんと愚かしいこの世界の生きとし生ける者たち。 答えはいつも、目の前にあったのだ。 リベリスタに仲間がいるように。私は愛すべき者がいる。 愛すべき者たちの代表として、負けるわけには行かない。 ●守護者と、そしてミラーミス 「三階のロックだ。よろしく」 「ご……五階のモグ田なんだな。お……おねがいしますなんだな」 三メートルほどの巨大な鷹と、一メートルぐらいのモグラが挨拶する。 「「七階のパメラとオーリエルです。リベリスタさん、ヨロシクっ!」」 「九階のアオイよ。ふふ、楽しませて頂戴ね」 下半身が魚の人魚が元気に挨拶し、下半身蜘蛛の女性が妖しく笑う。 「十一階のラビだ。手を使わずに貴様等を倒してやろう。……あ、そういうパフォーマンスなので怒らせたのならすまない」 「ペゼットといいます。十三階の守護者です。あなたの戦いに、祝福あれ」 ウサギの蹴り技使いと、ヒツジの僧侶が両手を合わせて礼をする。 「十五階のカイトだ。我が剣にかけて、正々堂々と戦おう」 「ほっほっほ。このような形で噂のリベリスタと戦えるとは。コピーとは言え冥利に尽きますな。十七階のエーギルです。お見知りおきを」 王冠を被ったカエルの剣士が剣を構えて瞑目し、王のマントを羽織ったブタが杖を手に一礼する。 「十八階のトーカです。猫になって遊びましょう!」 「はふ……十九階のメイリーよ。出番が来るまで寝てていい?」 「二十階のデグだ。三つ首の裁き、見せてやろう」 ネコミミフードの魔術師が元気よく手を上げ、大きさ三十センチの蝶の羽根を生やした乙女が眠そうに目を擦る。三つ首の犬が大声で吼えた。 「二十一階のギエムファラソンだよっ。アムちゃんのためにがんばるぞ。おー」 「二十二階、アリティア。ウム。本体ではないコピーとはイエ、ミラーミスと共に戦えるトハ」 「二十三階のコールエスカだ。ボクの足から逃げられると思わないことだね。最速の名は、伊達じゃないんだ」 「二十四階、リューザキ。……ゆくぞ」 天を衝く巨大な女性が拳を握り、、半人戦車が蒸気を噴き出す。羽根を持つ少年が腕を組みふてぶてしく構える横で、龍を体内に宿した壮年の男が静かに構えを取った。 現れては消え、現れては消え。守護者のコピー全ての挨拶が終わった後に、アムが一礼して向き直る。 「中断して申し訳ありません。仕切りなおしましょう」 アムが一言告げると、まるで時が巻き戻るようにリベリスタの傷が回復する。失われた運命までは戻せないが、戦うには問題ないレベルだ。 アムの顔は、同じ目的を持つと言うだけの理由で戦いを挑んだ者の顔ではない。負けてもいいから戦いたいという者の顔ではない。 何かを背負い、負けたくないと誓った戦士の顔。 見た目が恐ろしくなったわけでもない。巨大になったわけでもない。性格が反転したわけでもない。 だが目の前のミラーミスは、確かに今までのとは違うだろう。 ●世界が変わる時 アムの覚悟とともに、ルゴ・アムレスの大地も緩やかに変貌していた。 それは頂上に縛られて『真似る』ことしかしなかった存在が、何かの真似ではなく自ら答えを見つけ出した結果。 世界を護るだけのミラーミスは、戦う意味を知って変異する。それは自らに課した呪いの結果でもあり、世界そのものである彼女の成長でもある。 その結果、世界がどう変わるのか? それはまだわからない。 ――この戦いの結果が、まだわからないように。 修羅世界最終戦、開始――! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月26日(木)22:21 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 「予想外だ。世界とは、成長するものなのか」 遠くから聞こえる変化の音を聞きながら『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は驚愕の声を上げていた。具体的になにが起きているのかは、わからない。だがこれが目の前のミラーミスとの戦いの結果である事は明白だった。 変化の音は止まらない。それが良き変化なのか、それとも悪しき変化なのか。それはまだわからない。そしてそれの変化はこの一戦で尚変わるだろう。どういう形になるのであれ、この戦いに全力で挑もう。それが結城竜一の選択だ。 「ミラーミスは世界そのもの……か」 『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)は変化の音と目の前に写る景色を元に観察し、洞察していた。今度、ミラーミスと相対したときに何かの参考になるかもしれない。何よりも、知的興味心が抑えられなかった。 世界をまたにかけて戦うアークでも、ミラーミスとの遭遇数は多くない。ラ・ル・カーナの世界樹。バロックナイツの第四位。R-TYPE……。それぞれがまったく別の存在で、人知を超えた存在だった。だからこそ、調べる必要があるのだ。 (これで最後、か。少し名残惜しい、けど……ダンスはいつかは終わる、もの) 戦いに挑むミラーミスの姿を見ながら『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は拳を握った。修羅世界に挑み、ここまで駆け上がってきた。その間に様々な戦いを繰り返し、ここに立つ自分を自覚する。 終わりは必ず訪れる。それは当たり前のようだが、忘れがちの事だ。その終わりがどうなるかはまだわからない。これが修羅世界の最後の戦い。やる事は変わらない。全力で挑み、闘争を楽しむのだ。 「キヒヒッ、イイ顔するようになったじゃないっすか!」 同じくミラーミスの姿を見ながら『無銘』布都 仕上(BNE005091)が笑みを浮かべる。戦うという理由を得た者の顔。負けたくないと克己する姿。それは人であれ神(ミラーミス)であれ変わらないのか。 自らを圧す不可視の圧力を感じる。それは戦意と呼ばれる相手の意思。剣林という組織で生まれ育った仕上には日常でもあり、そして彼女が求めるものでもあった。武の頂へと進むために。この戦いさえも、階段の途中。 「守護者の大半を集めるとは……」 『柳燕』リセリア・フォルン(BNE002511)は現れては消えた各階の守護者の声を思い出しながら、呼吸を整えた。アークの報告書でも見た事のない者たち。『四強』と呼ばれる実力者。何よりもそれこそが自らの武力だと自覚したミラーミス。 その気になれば守護者ではない者もコピーできるのだろう。今まで情報を教えてくれたゴエモンや、闘技場で戦った者たち。まだ出会っていないアザーバイドの修羅。まさしく世界そのものたる所以か。 「我侭? 何言ってんのさ。こっちから頭下げて頼みたかったくらいだよ。 『飛ばしてきた階の守護者全部ともやらせて』ってね!」 黒の大剣を構えながら『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は唇を笑みの形に変える。剣を握り締めるためにかみ締めた歯が、笑みの隙間から白く光った。 もし彼らと出合えたらどのような戦いになったのだろうか? それを想像するだけでも胸が躍る。はやる気持ちを抑えながら相手の動きを見る。この世界の時と空間と修羅を統べる存在。その戦いもまた、胸が躍るものなのだろう。 「その通り。願ってもない事だな」 ベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)は幻想纏いを操作し、黒い着流しを身にまとう。夜空に浮かぶ白い月。その絵柄がルゴ・アムレスの風に吹かれてふわりとなびいた。風が収まるときには、ベオウルフの手には多くの符が用意されている。 ルゴ・アムレス。ベオウルフはこの世界の住人ではないが、この世界とその戦いがかけがえの無いものとなっていた。だからこそ、変わりつつある世界が良き世界になることを願わざるを得まい。 「ええ。どんな人が相手でも勝ってみせます!」 負けない。その気持ちを前面に出して『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は胸を張る。けして相手の実力を侮っているわけではない。自分の力を過信しているわけでもない。それでも勝つとセラフィーナは言う。 それは悪に対する怒りからくるものではない。リベリスタの義務によるものでもない。そしてアークの命令でもない。自分が勝ちたいから来る言葉。自らが認め、超えたいと思った相手に対する闘争心。そこから来る言葉だ。 「ええ。勝ちますよ。貴方の覚悟とその顔にかけて」 『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)はふわりと宙に浮きながら瞑目する。ミラーミスの覚悟を知り、戦う理由も理解した。それを素晴らしいと認めた上で、シィンはそれを乗り越えると宣言する。それは彼女を認めたからこその宣言。 世界は変わる。だけどその事に意味はないとシィンは思う。問題はどう変化し、それからどう未来を歩んでいくかだ。さて自分は戦いが終わったらどうしようか。様々な道を思案しながら、魔力をゆっくりと高めていく。 「成長しているのは、貴方だけではありません」 ミラーミスの真っ直ぐな戦意を受けて『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)が構えを取る。アムが先の一戦で成長したように。世界が変貌しつつあるように。自分もまた成長しているのだ。 それは毎日繰り返してきた突きの鍛練。構える、突く。構える、突く。繰り返される突きの動き。それは小さな一歩かもしれないが、確かな一歩。その繰り返しの果てに今の自分がいる。その剣は、ミラーミスに届くのだろうか。 「全てを出します」 白と黒のミラーミスは負けられない理由と負けたくない意地を心に宿し、修羅そのものを統べてリベリスタに挑む。静かに一礼し、口を開いた。 ――よろしくお願いします。 その一言が戦闘開始の合図。ミラーミスは空間を渡り、リベリスタは床を蹴る。 修羅世界変革の戦いが、今始まる。 ● (楽しい時間とは、あっという間ですね。あとどのくらい、貴方とこうして交われるでしょうか) 細剣を構え、鍔を額に押し当てるメリッサ。そのまま体の真ん中を通すように胸まで降ろす。思考の時間は短く、だけど深く。流れる時間は時を統べるアムですら戻せない。かけがえのない貴重な時間。それを楽しむために剣を構えた。 アムとの距離を計り、その間にある空気を強く意識する。風を突く事は出来ない。そんな事は誰が決めた? 空気を感じ取れるほど強く神経を研ぎ澄ます。鳥が羽ばたくように軽く、そして突きの瞬間だけ強く細剣を突き出す。針のような細い空気の弾丸が、ミラーミスの肩を貫く。驚きの声を上げる鷹のアザーバイド。 『おおっと。やるねぇ、姐さん』 「蜂の一刺しと甘く見れば、後悔しますよ」 「メリッサさんの一刺しが基本技の極みなら、私の技は速度の極みです!」 アムに肉薄するセラフィーナ。抜き放たれた『霊刀東雲』が白く光る。体内のギアを加速させ、更なる速度を得る。六枚の白い羽根を羽ばたかせ、空気を弾くようにして加速する。その速度ベクトルは、全て刀を振るうために。 滑空しながら大上段から切りかかる。手ごたえはあるが、浅い。そのまま立ち上がりざまに下から跳ね上げるように刀を振るう。振るうと同時に足は地を滑るように移動し、新たな斬撃の準備に移っている。足を止めないセラフィーナの華麗な剣技がミラーミスを追い詰める。 「私だって勝ちは譲れません。ここからは回避盾ではなくアタッカーです。改めて勝負です、アム!」 『ふふ、真っ直ぐな太刀筋と心ね。いいわ、応えてあげる』 「仕切り結構。存分に力を揮って、存分に得てください」 蜘蛛型アザーバイドの声を聞きながらリセリアが距離をつめる。自らの神経に神秘の力を流し込み、自らの反射速度を増す。自分の体を痛める行為だが、構ってはいられない。今できる最大の攻撃を。リセリアは戦闘経験から最適答を導き出す。 最速のイメージ。リセリアは自らが思う最も速度が速い戦士をイメージする。イメージが影に宿り、影は自らに力を与える。足を敵に向け、常人なら五歩かかる距離を僅か二歩で詰め、駆け抜けざまに横なぎの一閃を放った。 「消耗は考えない。――全力で参ります」 『己の持ちうる最大の技を惜しみなく行使する。その裏にあるのは仲間への信頼か』 「シィンさんがいるなら、全力でやれるのよ」 ウサギの格闘家の言葉に応えるようにセレアが魔力を練り上げる。自らの心臓の鼓動を意識し、そのリズムにあわせるように体内で力を回転させる。血液の流れと共に全身に魔力が満ちていく。 手を掲げて全身にみなぎる魔力をそこに集中させる。呪文を唱えながら、集まる魔力を破壊の形にイメージする。魔力形成と呪文成立の並列作業。膨大な力を回転させながら、緻密な作業を行うセレア。膨大な魔力の雨が降り注ぐ。 「ま、こんな感じかな」 『見事な攻撃。ならば我が剣を持って応えよう』 「そうはいきません。修羅は、立ち入るべからず」 カエルの王剣を前にシィンが静かに両手を広げる。左右に展開するのは緑とピンクの妖精。フィアキィと呼ばれるそれらはフュリエの友。ラ・ル・カーナと呼ばれる異世界で共に歩んだ永遠のパートナー。 シィンの魔力の流れをサポートするように、二体のフィアキィは周りを飛び交う。深い緑、澄んだ水、優しい風。心穏やかなる自然の力。それが暴威から身を守る盾となり、ベオウルフを護る強固な結界となる。 「英雄に祝福を。修羅世界に変革を。さぁ、幕引きは近いです」 『ぶほほほほ。正にこの世界の分水嶺。どうあれ、この戦いを楽しみましょう』 「話がわかるね、豚のおっちゃん。楽しませてもらうっすよ!」 豚の魔道王の笑い声に、唇を歪める仕上。重力の環を横転しながら回避して、片手で逆立ちするポーズのままバランスを取る。不安定な体勢と見たか、相手は自分から気を逸らす。それを感じ取り、仕上は笑みを深めた。 逆立ちのまま足を曲げ、バランスを崩す。やや前に倒れるように重心をずらしながら、仕上は回転するように足を振るった。振るった足が空気を切り裂き、風の刃を産む。刃は真っ直ぐにアザーバイドに向かって飛び、鮮血を生んだ。 「折角の祭りなんだ。こういうこともしとかないとね」 『ん……すごい。目が覚めてきた。私も踊るわ』 「初見の守護者。さてこの者はどのような攻撃をするのか」 蝶の踊り子が眠そうに目を擦るのを見ながら、ベオウルフは腰を低く構えた。黒塔のすべての守護者と戦ったわけではない。そういう意味でコピーとはいえ見知らぬものと戦える事は非常に幸運なことだった。フィアキィに似たちいさな妖精風のアザーバイドだが、姿形で油断できないのがこの界隈だ。気合を入れるベオウルフ。 緩急つけて宙を舞う蝶の舞。白と黒の翼が行きかう様は、人の認識を狂わせる。手元が狂ってしまいそうになる朦朧を、ベオウルフは心を静かに治めて平常心を保つ。刀を僅かに抜き、戻す。その納刀音で完全に心は平常に戻っていた。 「幻覚系の能力か。悪いが俺にはそういった類は効かない」 『やるな。だが傷つかないわけでもないようだな。攻め続ければいずれは落ちる』 「ああ。だがその前に俺たちが勝つ! アムたんの為にも!」 西洋剣と日本刀を構えて竜一が叫ぶ。何かを背負っているのはアムだけではない。竜一もまた、負けられない理由を背負いここに立っている。その理由のためにも。そして本気で戦いを挑む相手のためにも手を抜くわけにはいかない。 アムから距離を反し、二つの刃を構える。片方を相手に向けて、もう片方を弓引く様に引き絞って。竜一の体内を駆け巡る『気』と剣を握る『力』がそれぞれの剣先に宿る。突き出した剣で標準をあわせ、二つの力を融合させて解き放った。 「勝ったらもふもふだ! ラブ&バトル!」 『え、えー。アムちゃんはをもふもふするのはちょっと……』 「大丈夫……結城の言葉は、適度に流して」 巨人女性の頬を掻きながらの言葉に、断片的な口調で返す天乃。気合の入れ方は人それぞれだ。何かしらの報酬を求める者もあれば、自分みたいに闘争そのものがモチベーションになるものもいる。それを考えれば自分はこのルゴ・アムレスとは水が合う。 アムの真正面から走って迫り、左右にステップを踏んで相手を幻惑する。一瞬でも相手を動揺させることが出来ればそれで十分。動揺から生まれた隙を縫うように相手の横に、背後に移動して拳を振るう。 「さあ、踊って……くれる?」 『ああ、踊ろう。修羅世界のバトルダンスを。だけどボクのステップについてこれるかな』 「お生憎。速度だけがダンスじゃないわ!」 最速の少年の動きに割り込むようにフランシスカが黒い剣を振りかぶる。異世界の戦士から受け継いだ黒の剣。それを手にして勝ち抜いてきた戦いはどれほどか。黒塔を共に駆け上がった戦友を握り締め、ミラーミスに切りかかる。 体内のオーラを活性化し、アムに近づく。避けようと足を動かすミラーミスの動きに合わせるようにフランシスカが足を運ぶ。オーラの残滓が一瞬空気に煌き、そして消えた。移動の勢いを殺さぬようにフランシスカは横なぎに大剣を振るう。 「何度も見て見飽きただろうけどね。今のわたしにはこれが一番の攻撃だから、ね!」 「見飽きるなんて事はありません。技に込められた思いと努力。それは少しずつ違います」 アムは攻撃を受けて微笑むような表情を浮かべる。 否、本当に微笑んでいた。闘争を常とするルゴ・アムレスのミラーミスは、やはり戦いの中で喜びを感じていた。勝つのが楽しいのではない。戦うことそのものが楽しい。勝者は驕らず、敗者は憎まず。ただ戦うことこそが求められる世界。 修羅世界最終戦は、驕りも憎悪もなく続いていく。 ● 多対一。問題は相手の攻撃が状況に応じて変化することだ。ならばすべての状況において安定した作戦を取る事になる。 様々な不調を与えてくるアムに対し、打開策を持つシィンを護るように展開するリベリスタ。攻撃する者も、範囲攻撃を警戒しての前後に散開する形だ。前衛には天乃、リセリア、フランシスカ、セラフィーナの四人が。後方からは竜一、セレア、メリッサ、仕上が攻撃を。シィンが回復を担い、それを護るようにベオウルフが展開する。 後方に移動すれば竜一が吹き飛ばす。べオウルフが庇う以上、シィンを狙うメリットは手番の無駄になる。この状況で最も効率のいい行動は―― 『『いくよっ。さん、はーい!』』 『ふふ。少しおいたが過ぎるわ』 空を泳ぐ双子の人魚がアムに接近しているリベリスタを傷つけていく。そして蜘蛛の糸が光栄から攻撃を仕掛ける者を縛りつける。 「ダメージリソースを潰しに来たか」 「ある程度のダメージは覚悟の上なのでしょうね」 自分の体力を削ってくる者の排除。傷つけばそれだけ勢いを増すアムにとって、序盤は邪魔者の排除がキモとなる。体力を失い勢いが最大限になってからが本当の攻め時なのだ。 とはいえ、その攻撃もけして甘いものではない。 「私を狙ってきたか。皆から距離を離して正解だったわ」 「ひゃう!」 「天乃、大丈夫!」 後方で離れた位置にいたセレアと、前衛で戦っていたセラフィーナとフランシスカが運命を燃やす。フランシスカは天乃を庇うように動き、その盾となっていた。問題ない、と頷く天乃。 「今度は私のターン! 一気に攻めるわよ!」 相手の意図を理解しても、フランシスカの剣技は止まらない。真っ向勝負は臨むところだとばかりに強く剣を握り締め、全身の力を振り絞って振り下ろす。黒塔で、ボトムチャンネルで戦い続けた戦士は今も変わらず剣を振るう。 「ええ。相手がルゴ・アムレスの武力であっても負けやしません!」 呼吸を整え、剣の柄を握り締めるリセリア。目の前にあるのは黒塔すべての守護者。塔の戦いを思いながら、一歩踏み出し体をひねる。塔の戦いを勝ち登ってきたのだ。油断なく、そして自分の鍛練を信じて剣を振るう。 「弾けろ」 天乃は足を動かしアムに迫る。支配するのは相手との間合。攻撃が一歩届かぬ位置で足を止め、一気に踏み込む。互いの息遣いが感じ取れるほど近づくと同時に拳を振るう。ゼロ距離の打撃は腰の動きによる力の伝達がキモ。そしてすぐに距離を離す天乃。 「格上相手でも超えてみせる! それが私達です!」 セラフィーナはミラーミスに臆することなく刀を振るう。それは心情的に憎しみを抱く相手でないこともあるが、格上相手の戦いは何度も経験しているからだ。味方の動きに合わせるように動き、時に同時に、時に交互に攻撃を仕掛けていく。 「そう。俺が背負うのは積み上げた戦歴。その成否、善悪、悲喜こもごも、全ての結果が俺の血肉だ」 一歩一歩を確実に突き進む竜一。天才的な才能があるわけでもなく、神代のアーティファクトを持つわけでもない。だからこそ成し遂げる事が出来た努力の積み重ね。何もない事をなんと呼ばれようと構わない。それを納得するのは竜一自身だから。 「回復は本業じゃないんだけど……ないよりマシでしょう」 度重なるアムの攻撃にセレアは攻撃から回復に移行する。高位の癒しは使えないが、元々の魔力の高さがリベリスタの傷を癒していく。術を行使しながら世界の変化を目に留める。胎動は少しずつ大きくなる。アムの戦意と共に。 「戦う意味、背負うものを自覚したのですね。己の世界を抱え、その為に全てを尽くせる」 貴女に賞賛と羨望を。シィンはアムとそして変わり行く世界を感じ取りながら感嘆の言葉を返した。そのあり方は正に自分の理想に近い。仲間を癒す緑の光を放ちながら、シィンはここまで登ってきた事に喜びを感じていた。さぁ、修羅世界を吞み込もう。 「流石は世界。死角が無いってーのは羨ましい事っすね!」 仕上はアムの攻撃方法が変化したのを悟り、一気に距離をつめる。拳に炎を纏わせて、一気に距離をつめて殴りかかる。どこから攻めても対応されるアムの動き。羨ましいとイながら、それを羨むわけではない。むしろその能力を持つ相手と戦える楽しみがあった。 「アム。貴方に会えてよかった」 感謝の言葉を交えながら突きを繰り出すメリッサ。この世界と交われたからこそ出会えた事がある。戦えた戦友がいる。その中で鍛えられた突きの形。到達点でもあり、通過点でもある一つのゴール。その突きを感謝の気持ちとばかりに繰り出した。 「世界だけではなく時間も干渉するのか。流石だな」 ベオウルフが途切れた守りの結界を再展開する。皆を守るために粉骨砕身するベオウルフ。アムにより時間干渉が為されている為、その手間も増えている。他の皆が安心して攻撃できるよう、符を構えて懸命に動く。 『一気に行きますね。ねこしゃわー』 『これが王の剣。受けて見よ、異世界の戦士よ!』 アムは全体攻撃と強力な単体攻撃を軸に攻撃を仕掛けてくる。リベリスタの体力を削りながら、トドメをさせる相手には単体高火力を叩き込む。 「見事。王の名は伊達ではないようですね」 「ええ。学ぶところは多いようです」 「相変わらず見事な召喚術だな」 リセリア、メリッサ、ベオウルフがその攻撃で運命を削る。倒れても尚朽ちることのないリベリスタの攻撃に、アムも少しずつ追い込まれていく。 「動きが鋭くなったな」 「第二段階ですね!」 攻撃の途中からアムの動きが鋭くなる。動きに無駄がなくなり、こちらの攻撃に対する反応もよくなってきた。 そして、 『ここから先は私たちが相手だよー』 『コノ盾を突破できるカナ?』 『最速で制圧してあげるよ』 『……来い』 四強。黒塔の実力者四人のコピー。それが待ち構えていた。 黒塔の戦いは佳境に入る。 修羅世界の未来は未だ決まらない。 ● 『せーのっ、どっかーん!』 『この僕を捕らえられるかな?』 ルゴ・アムレス最大の拳が振り下ろされ、最速の攻撃がリベリスタを襲う。 「まだまだ負けてないっスよ!」 「おうとも! 勝ってあの娘ももふもふする!」 広範囲の攻撃に巻き込まれる形で、仕上と竜一が運命を削る。 アムが瞬間転移を使って後衛に迫らない理由は、回復役を守る層が厚いと言う事もある。だがもう一つ理由を挙げるなら―― 「戦いに勝つことがルゴ・アムレスの戦いじゃない。戦いそのものが、ルゴ・アムレスのやり取りだから」 全てを戦いで決めるルゴ・アムレス。そのあり方を示すように、アムは勝利を優先して戦いはしなかった。真正面からボトムチャンネルの戦士に挑み、そして勝つ。 「その考え、嫌いじゃ……ない」 天乃は常に立ち位置を変えながらアムに肉薄していた。円を描くような歩法。滑る様な足運び。脱力するような動きで相手に手を当てて相手の動きを察し、一切の無駄を排除した動きで打撃を加える。 「武神降臨! もういっちょ行くぜ!」 竜一は途切れた付与をかけなおして気合を入れる。手を抜くつもりは毛頭ない。自分に出来る最大限の事を。降臨した武神を宿して最速の攻撃を受け止める。足を封じる一撃を振り払い、一撃を加えた。 「その盾、砕きます!」 リセリアは最硬の盾を前に剣に力を込める。今の自分が持ちうる最大の技。速度を持って硬さを砕く剣技。しなるような一撃が連続で繰り出される。多方面からの鋭い斬撃が最硬の盾を弾き飛ばす。 「全く、余裕ないわね」 セレアは攻撃の手を止めて回復に徹していた。四強が攻撃に加わるようになってからアムの火力が格段に増している。威力は元々の守護者の強さに準ずるのだろうか。とにかく前線を瓦解させない為に魔力を練る。 「盾が砕けた! 一気に行くわよ!」 フランシスカは盾が砕けたのを見て一気に攻め立てる。力強く黒の大剣を握り締め、踏み込み穿つ。人と触れて性格は丸くなったが、根っこの部分は戦いを求めている。戦いの中で人と触れ合うと言う意味では、この修羅世界と水が合っていた。 「見えました! その羽斬らせてもらいます!」 セラフィーナは最速のアザーバイドの攻撃を捕らえようと静かに構えていた。動に対し静。いつでも切りかかれる構えを取り、静かに待つ。心穏やかに、だけど闘志を燃やし。裂帛と共に振るわれた七色の一閃が、翼を裂いた確かな手ごたえを伝える。 「安息せよ。ここは自分の楽園です」 シィンは二体のフィアキィを展開し、仲間を癒していた。シィン自身はルゴ・アムレスの世界からエネルギーを得て、そのエネルギーを用いて仲間を癒す。循環するエネルギーの流れ。それこそがシィンの生み出す楽園。 「例えこの戦いが最後の邂逅だとしても。二つの世界がこれで別たれたとしても」 メリッサは変化する世界の未来を危惧し、だからこそこの瞬間を強く思う。戦いの決着はいずれつく。その瞬間まで全力で戦おう。一挙手一投足を丁寧に。この世界に、そして自らに刻むように意識して突きを繰り出す。 「大丈夫だ。世界がどうなろうとも足掻く。それがリベリスタだ」 ベオウルフもまた変わり行く世界に危機感を抱き、そして自らの戦いを思い出す。如何なる勝負であっても諦めないのがリベリスタだ。自らの覚悟を胸に秘め、できる限りの足掻きをする。それがリベリスタ。その在り様をアムに示すのだ。 「この一戦はうちにとっても高みに至らせる戦い。勝ってその一歩を刻むっすよ!」 仕上の思考はアムと非常に似通っていた。戦う意味は異なれど、その根幹にあるのは自己の理想の実現。それは個人的なことであるが故に純真な理想。この拳を握るのは自分の為だ。だからこそ、欲も見得もなくただ純粋に殴りあえる。 『ここまでだ。この爪で眠るがいい』 「アムの動きがさらに増した……!」 「最終段階か。後一息だ!」 さらに力を増したコピーの攻撃に、むしろ湧き上がる闘志。 「くっ……後は任せます!」 「後もう少しなのに……!」 セラフィーナとフランシスカが猛攻に耐え切れず膝を突く。既に運命を燃やしていた二人はその場で倒れ伏した。 だがダメージは確実に積み重ねている。 四強のコピーが消え去り、残されたのは白と黒のミラーミスのみ。アムは自分の拳を握り、リベリスタに挑む。 「貴方と直接戦えるのなら、受けて立ちましょう」 「拳に込められた想い……。それを受け止められるのは、此処にいる俺達だけだからな」 アム自身が振るう拳を受け止めようと、メリッサとベオウルフが前に出る。 「うちの拳は何れ最強にも至って見せる。自慢の拳だっ!」 「必死拳……死の覚悟、をもって最後の大勝負」 仕上と天乃が拳を握りアムに向かう。 それはアムの思いの篭った拳。コピーしか出来ぬと嘆くミラーミスの姿はそこにはなく、例え小さくても拳を握って挑む一個体の思いがあった。 「確かに受け取ったぞ……その思い!」 疲弊していたベオウルフがアムの拳を受けて倒れるが、その背後に天乃が迫る。 「ラストダンス……付き合って、もらうよ」 天乃は自らの生命力を削りながら力をこめ、体を半回転させるようにしてアムに振り下ろす。 正にそれは決死の一撃。全てを捧げる覚悟を乗せて振り下ろされた拳が、ミラーミスを真上から地面に叩きつける。そのまま崩れ落ちるアム。そして―― ● 星川天乃というリベリスタを表現するなら、『戦いに生きた』という表現がしっくりくるだろう。 革醒し、戦いを知り、戦闘への欲求が深まる。刺激的な戦いを求めて危険な任務に率先して挑み、自らに制限をかける事でその刺激を増す。我戦う故に我あり、とは彼女の弁だが正にそれは彼女をよく表現していた。 けして日常に不満があったわけではない。けして日常を恐れていたわけではない。仲のいい友人もいた。尊敬するものもいた。頼れる仲間もいた。気の合うものもいた。……好きな人もいた。 それでも彼女は闘争に身を委ねた。命を軽視するつもりはない。自分が死ねば哀しむ人がいる事も知っている。死を覚悟した事も何度もある。そして今、確かに自分の命が崩れ行くのを感じていた。 死にたくないと言う気持ちがないといえば嘘になるだろう。自殺願望があるわけでもない。この世に未練がないはずがない。 それでも彼女はいつもと変わらぬ無表情で。 ああ、と妙に納得した表情で自分の滅びを受け入れる。 「……天乃!」 最後の一撃を放った状態のまま、天乃は静かに瞑目する。 その胸に辿る運命の輝きは明滅し――そして消えた。 ● リベリスタの立つ黒塔が揺れ始める。 黒塔はアムの敗北を受けてその存在が消失していた。風化するように崩れだし、消えていく。 アムは自らに『戦わない』ことを誓約し、世界を守るために黒塔を形成していた。 ならばその誓約を破れば、黒塔が消えるのは当然の理。 慌てるリベリスタを包む込むように、Dホールが開く。アムの展開した広範囲空間転移術。 エレベーターに乗ったときのような浮遊感が起きたかと思えば、気がつくとそこは地上。いつも黒塔に入る為の入り口があったところだった。 そこにはもう、黒塔はない。あったと思われる形跡を残し、ルゴ・アムレスに鎮座していたモノは影も形もなくなっていた。 「ルゴ・アムレスを支えていた黒塔はなくなりました」 リベリスタの頭の中に響くアムの声。 「黒塔は――」 半径五キロの修羅世界。 それは気がつけばその面積を遥かに増していた。 かつて荒野だった場所に、新たな町が突如生まれ。 かつて山脈だった場所に、新たな湖が生まれ。 かつて世界の端だった場所を埋めるように、新たな世界が生まれ。 黒塔の中で発展した二十四の世界。それがかつて黒塔があった場所を中心に点在するように移動した。その守護者や住んでいた住人ごと、世界中に散りばめられていた。 世界の中央に穿たれ、崩界からルゴ・アムレスを守っていた黒塔はもうない。 世界を守るための力は、世界中に分散していた。 「黒塔はその力ごとルゴ・アムレス中に広がりました。世界中に散った事と私の力の衰退と共に、崩界を止める力は弱くなったでしょう。 でも大丈夫です。この世界には皆がいます。私の愛するこの世界の住人達が」 かつて一人で世界を守っていた存在は、手を取り合うことを知った。 それはリベリスタの協力する様を知ったからだろうか。世界に住む者たちが世界を護る。それはリベリスタが守るボトムチャンネルの状態にも似ていた。 「世界に住む皆を信じる。成程、貴方らしい変化ですね」 リセリアは剣を納め、遠い地平を見る。かつて自分が戦った階層がこの地平のどこかにあるのだ。そこで戦った者もきっとそこにいるのだろう。そして彼らがこの世界を守るのだ。リベリスタのように。 「きっと彼らなら、良き世界を作っていくでしょう」 メリッサは目を瞑り、今までの戦いを思い出す。様々な相手がいたが、世界を滅ぼすような者はいなかった。剣を交えて分かる真っ直ぐな戦士の気質。 「一人塔の上で世界を守ってるよりは、ずっといい。少女は自由でなくちゃ!」 竜一はこの結末に頷く。ミラーミスの白と黒の髪の毛をくしゃりと撫でた。やべぇこのままもふもふしたい、という衝動をとりあえず抑える。空気読んだ。 「色々片付いたら守護者にでもなろうと思ったのですが……ああ、新しい楽園を創造と言う手もありますね」 頭の中でルゴ・アムレスへ移住した時の計画を考えていた。幸いにして土地はふんだんにある。どのような場所にしようか、想像は尽きない。 「地平の彼方まで修羅の世界。守護者だけじゃない。色々なヤツが待ってる……滾るっす!」 仕上は唇を笑みの形に変えて、四方を見回した。世界が変わっても住人の気質は変わらないだろう。戦いに事欠かない世界。なんと素晴らしい事か。 「世界創生の瞬間ね。貴重なものを見たわ」 セレアはアムからテレパスのように流し込まれる映像を思い出し、感嘆の息を吐いていた。ミラーミスから世界の住人への世代交代。もしかしたらボトムチャンネルでもかつて同じ事が起きていたかもしれない。 「あのさ。もしこの世界が危険な目にあったらいつでも呼んでよ。真っ先に駆けつけてやるからさ」 「私たちとアムさんはお友達です。どんな敵が相手でも助けに来ますよ!」 「ああ。この世界は俺にとってかけがえのない世界だからな」 フランシスカとセラフィーナとベオウルフが握手を求めるようにアムに手を差し出す。修羅世界ルゴ・アムレス。そこに危機あれば救うと約束したのは、けしてリベリスタとしての使命感だけではない。戦士として、友として。この世界を守りたいからだ。 握り返されたミラーミスの手は、少し冷たいけど確かに結ばれた友情の証だった。 「――じゃあ……私は、行くね」 静かに。 本当に静かに、途切れがちに。 いつもと変わらぬ口調で、星川天乃はリベリスタと別れを告げる。 「この世界の修羅として生きていく……らしい選択だな」 「もう、ボトムには……戻れない。アムに……灯火をもらったから」 運命を喪失したものは世界の敵となる。天乃がボトムチャンネルに帰れば、世界を滅ぼす因子となる。そしてリベリスタはそれを許すわけにはいかないのだ。 運命を完全に燃やしきった天乃の胸には、フェイトとは異なる何かが宿っていた。この世界に受け入れられた修羅の灯火。 滅びゆくはずだった天乃がこうしているのはまさに奇跡。そしてそれを行使するのがミラーミスと呼ばれる存在なのだ。相応にアムの力も削れたが、それでも天乃をこのまま朽ちさせないと願ったのはアム自身なのだ。 「アマノさんには、死を恐れぬ勇気を教えてもらいました。そのお礼です。そちらの世界にはもう戻れませんが……」 構わない。天乃はそう告げる。この世界で修羅として生きるのも、悪くない。 かつて最下層の世界で肩を並べあった者たちは、拳を突き出しぶつけ合う。そして静かに背を向けた。 九人は仲間の待つ世界に。一人は修羅の世界に。 ● そしてDホールの時間制限が迫る。 世界変革などの奇跡行使により、次にDホールが開く時期は予測できないとアムは言う。もしかしたら明日か。一ヵ月後か。それとも一年後か。十年後か。もしかしたら百年後か。 「すぐに力を取り戻し、また皆様をお招きします」 それがどれだけ困難な事なのか、リベリスタには想像も出来ない。でもアムは成し遂げるだろうと言う確信があった。もう彼女は戦う事を知ったのだから。 「一同、集え!」 突如かかる号令。それは最強のアザーバイドの声だった。その声と共に様々なアザーバイドがリベリスタを囲むように現れる。 猿顔の二刀使いがいた。 犬顔のトレンチコートがいた。 火蜥蜴の二人組がいた。 巨大な鷹がいた。 大きな水蛇がいた。 土から顔を出す土竜がいた。 三体の蟹男がいた。 双子の人魚がいた。 双頭犬の男がいた。 下半身蜘蛛の助勢がいた。 ヤマアラシの女戦士と刀持ちがいた。 兎の格闘家がいた。 梟の賢者がいた。 羊の僧侶がいた。 獅子の姫とその従者がいた。 蛙の剣王がいた。 犬の従者を連れた姫がいた。 豚の魔道王がいた。 猫の召喚士と猫達がいた。 蝶の踊り子がいた。 三つ首の犬がいた。 最大の女性がいた。 最硬の心持つ戦車がいた。 最速の少年がいた。 「我等の世界に新たな一歩を刻んだ戦士達の送迎だ。各々、拳を掲げて祝福しろ!」 最強の号令と共に、その場にいるアザーバイドがリベリスタを祝福するように拳を高く掲げる。今まで塔で出会ったものだけではない。闘技場で出会った者、塔の中で見かけた者、出会っていない者、様々な修羅たちがリベリスタを祝福するように拳を掲げ、歓声を上げていた。 「戦士達に幸あれ!」 「ボトムの世界に栄光を!」 「リベリスタの戦いに祝福あれ!」 リベリスタも、各々のやり方で彼らに答える。それぞれの破界器を掲げ、言葉を返す。 歓声はリベリスタがDホールに入って消えても、続いていた。 ● さて、蛇足ながら伝えなければならない事がある。 ボトムチャンネルはルゴ・アムレスのミラーミスを倒した事により、ルゴ・アムレスからの影響を受けなくなる。 崩界への負担が減った事により、アークの上層は胸をなでおろしたと言う。 同時に星川天乃の報を受け、悲しみにくれる者もいたが一部では彼女らしいと言う者もいた。 いまでも修羅世界のどこかで闘争に明け暮れているのだろう。 ルゴ・アムレスへのDホールは、すぐには開かなかった。 それでも目を閉じれば、あの修羅世界の空気と喧騒が聞こえてきそうだ。 あの塔での戦いを忘れない。 自ら殻を破ったミラーミスを忘れない。 彼らの祝福を忘れない。 リベリスタの戦いに、祝福あれ。 祈りは確かに、世界を超えて届いている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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