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Tempo a sufficienza per amare.


 年明けの平日はねらい目だと聞いていたけれど。
「結構混んでたな」
 知れてしまえばそんなものなのかもしれない。
「そうだね」
 振り返るジース・ホワイト(BNE002417)に、八文字・スケキヨ(BNE001515)が相槌を打つが。
「なんだよ」
 なぜだか返してしまういつもの憎まれ口は、なんだか微笑ましい。
「でも一杯乗れたよ。ね、エスターテちゃん」
「はい」
 隣の親友エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)へ、ふわりとした笑顔を向けるルア・ホワイト(BNE001372)は、まだまだ元気一杯の様だ。
「たまにはいいかもだが」
 人ごみというのは辟易とするものでもあるが、激戦に身を委ねるリベリスタ達にとって、こんな機会は数少ないものでもある。
「お茶には、少々遅い時間かもしれませんが」
 珍しく僅かに躊躇った風宮 悠月(BNE001450)に、一足早いがホテルに戻ってもいいかもしれないと新城・拓真(BNE000644)は提案した。
「エスターテちゃんはもう少し遊ぶ?」
「え、と。はい」
「それでは私達は先に戻るのもいいかもしれませんね」
 こういう場所というのは独特の疲れがあるもので。拓真の顔が、少しだけ強張っていたから。
「うん、また後でね!」
「そうだ、ルア君」
 頭のずっと上のほうから、スケキヨの優しい声が聞こえる。
「なになに?」
 だから、くるりと上を向く。
「ちょっといいかい?」
 仮面の下の表情は、ルアだけが知っている。
 大切な恋人の少し曖昧なお誘いに、なぜだかルアは親友へ向けてちらりと視線を送った。
「行って来いよ」
「え、と。はい。私は大丈夫です」
 二人に促され。
「エスターテちゃんを危険な目に合わせたらダメだからね」
「お、おう」
「エスターテちゃん! ジースを信用しちゃだめ」
「おい!」
「え、えと」
 そうして二人は去っていくが。なんだか間が持たない。
「そ、そうだな。よし、あれに乗ろうぜ!」
「え、と。はい」
 そういえばまだ乗っていなかった、人気の奴が丁度空いていた。


「水がでた」
 ブリーフィングルームで『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げる。
 けれど。わざわざリベリスタ達を呼び出したのだから、ダウジングに成功したとか、水道管の凍結が直ったという類の話ではない。
「敵か」
 端的に問う葛葉 牡丹(BNE002862)に、イヴはこくりと頷く。
「テーマパークにボートのアトラクションがある。その水が革醒して大変なことになる」
 なんかいろいろな意味でヤバそうな事態らしい。
「敵の特性は判明しているか?」
「一言でいえば、ぱない」
 そうか。ぱないか。
 今回イヴの説明は非常にいい加減だが、それもそのはず。この敵めっちゃ弱いらしいのである。
 とりあえず激しくボートを揺らして、驚かせるという能力があるらしい。まあ、この辺りはきっとどうでもいい情報だ。
「一応現地にアークのリベリスタが居るけれど」
 さっきの映像の奴等だろう。相当な手練揃いの筈だが。
「折角だから、そっとしておいてあげてほしい」
 今日は優しいイヴに免じて、忍務に徹するのも悪くないだろう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:pipi  
■難易度:EASY ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年02月09日(月)22:38
 リクエストありがとうございます。
 テーマパークに元ネタはありません。ハハッ。pipiです。

●目的(牡丹さん以外)
 テーマパークで楽しむ。

●目的(牡丹さん)
 エリューション『水』の撃破。
 弱いです。牡丹さんは「水ていっ」とか一言下さい。

●ロケーション
 夢いっぱいのテーマパークです。
 時刻は17~19時頃。
 これから各々パレードを見て、皆でホテルに集合してお食事をして……
 そのほんの少し前の時間です。

●本日の重要な所
○スケキヨさん、ルアさんペア
・チャペル・アンフィトゥリーテ
 皆でお泊りするホテルに併設されたチャペルです。

 一足先にホテルについた二人。
 ちょうどおしゃれなチャペルの前にたどり着きました。
 他に人は見当たりませんが、今日は自由に入れるようです。

○ジースさん、エスターテペア
・スプラッシュサンダーカリビアン
 海賊のアジトでお宝を見つけて脱出する人気アトラクション。

 パレードまでもう少し遊びたかった二人。
 無事に金貨を手に入れた二人は、脱出用ボートに乗り込んだのですが……
 濁流に荒れ狂う二人乗りボートの中で、牡丹さん達がエリューションを撃破するまで無事にエスターテを守れるでしょうか?

○悠月さん、拓真さんペア
・ホテル・アンフィトゥリーテのカフェ
 皆でお泊りするホテル最上階のカフェです。

 暖炉が暖かな窓際のソファ席でお茶を楽しむ二人。
 そうしていると店内のライトが、ほのかに暗くなります。
 丁度夜景と、きらきらなパレードが楽しめる時間の様です。

○牡丹さん
 アークからの依頼で、名無しリベリスタ7名と共にエリューション『水』を撃破しに来ました。
 まさか現場に同僚が居るとは……

 数合わせ参加で、プレイングで他の方の補足をするとのリクエストでしたので、やる事は少なく致しました。

●オマケ
○お食事
 ホテルのイタリアンを予約しています。下記は参考。
・前菜(サーモンとホタテのムース仕立て、ミートパテのカナッペ、冬のカルパッチョ、インボルティーニ)
・小さなカップのミネストローネ
・パッパルデッレ鴨肉のラグーソース
・ポルチーニ茸のクリームリゾット
・お魚とラディッキオのロール
・和牛フィレのビオテッカ、トリュフソースの香り。
・本日のドルチェ
・お好みのコーヒー、または紅茶

○お宿
 ツインかダブルの三部屋です。
・悠月さん、拓真さんペア
・ルアさん、エスターテペア
・スケキヨさん、ジースさんペア
 という部屋割りの様です。

●同行NPC
 エスターテ・ダ・レオンフォルテ
 PCに絡まれない分は空気です。

●コメント
 ちょっとイベシナみたいな感じですが、プレイングがいっぱい書けて、リプレイがいっぱい書かれる感じです。
 お気軽にお楽しみ頂ければ幸いです。
参加NPC
エスターテ・ダ・レオンフォルテ (nBNE000218)
 


■メイン参加者 6人■
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアスソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
ハイジーニアスマグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
アウトサイドスターサジタリー
★MVP
八文字・スケキヨ(BNE001515)
ハイジーニアスデュランダル
ジース・ホワイト(BNE002417)
ジーニアスナイトクリーク
葛葉 牡丹(BNE002862)


 暦の上では立春を過ぎ、春は間近に迫ろうとしている。
 けれど二月というものは往々にして最も肌寒く、日もまだまだ短い季節だ。
 既に夕日は落ち、少しずつほの暗くなって往く空と共に、あちこちで明かりが灯り始める宵の頃。
「どこにいくの?」
 ちょこんと首を傾げたルア・ホワイト(BNE001372)は、八文字・スケキヨ(BNE001515)と手を繋ぎ仲睦まじく歩いていた。
「ちょっと行きたい所があるんだ」
 どこに行くのかは分からない。けれど落ち着いた恋人の言葉は心から安心する。

 二人が歩く場所を説明するのであれば、マクロにはかの『千葉辺りのテーマパーク』。ミクロには皆で食事を予約したホテルの傍である。
 かつて『水っぽい方』での出来事。去る2011年2月14日に起き、今とて紳士に違いなく既に日陰にはないという件。そんな怪人連合の一事(おもいで)は、何のことやらこの際置いておきたいが。ともかくそんなこんなで一行は今日一日を午前中から遊び抜き倒したのである。
 そうして現在この夕刻。ルアとスケキヨの二人は、つい今しがた仲間達と夕食までの短い別れを告げ合ったのだった。

「わぁ――」
 一歩足を踏み入れてルアは嘆息する。柔らかに彩られた壁面へと投げかけられた光が暖かい。
「――綺麗なの」
 扉の内側には大理石のウェディングアイルが、小さな祭壇へとまっすぐに続いている。

「スケキヨさん? お顔……」
 二人だけなら、素顔も心の中も今や隠す必要はないから。スケキヨはそっと仮面を外していた。
 けれどそんな丹精な顔立ちをルアはやっぱり見慣れていないから、心が躍ってしまって。
「ステンドグラスも綺麗だ。近くで見よう」
「うん、ステンドグラスも綺麗なの」
 夢の様にふわふわとした気持ちで、恋人の手をぎゅっと握ると心臓がとくんと脈打った。
 二人でゆっくりと段をあがる。
 パステル調ステンドグラスの向こうからは、きらきらと優しい色彩が投げ掛けられていた。
 祭壇の前。きっとここに花嫁が立つのだろう。
「渡したいものと話したい事があるんだ」
 いつになく真剣なスケキヨの表情に、ルアの頬が桃色に染まる。

 ――今も覚えてる――
「初めて会った依頼の最後に迎えた朝」
 本格的に稼動を始めたアークで、二人が初めての勝利を収めたあの日の事。
「始まりを告げるような朝陽とその中で微笑むキミ」
 塔の上。どこまでも澄んだ鐘の音の中で、暖かいお茶を一緒に飲んだ事。
「あんな素敵な子が、今隣に居てくれるなんて。夢みたいだ」

 リベリスタとしての始まりの朝は。
 キミとボクの始まりでもあったんだ――

「……手を出して」
 渡したいのは、あの朝陽の様に白く輝く指輪。
「うん……」
 小さな手を預ける。白く細い指先。胸の高鳴りがとまらない。
「スケキヨさん……」
「生活の事も考えないといけないし……今すぐとはいかないけど」
 スケキヨは苦笑一つ。生活を共にする上でどうしても考えなければならない事は山ほどある。
 けれど。
「遠くない未来、もう少し大人になったら。こんな場所で、白いドレスのキミの隣に立っていたい」

 ――

 ボクは臆病で頼りないしウソつきだった。
 でも、キミを愛するこの気持ちには何一つウソはない。

「……ルアくん。ボクのお嫁さんに、なってくれないかな?」

 ――

「はい。喜んで」

 ――

 ――――

 答えなんてきっと決まっていたのに。
 言葉の最後はかすれて。
 堰を切ったかの様に涙が溢れてくる。
「ううー、嬉しいのぉ!」
 指に煌く純白の夜明け(White Dawn)――白き誓い。
 何よりも嬉しい返答と共に。胸に飛び込んできた小さな少女を、スケキヨはやさしく、そしてしっかりと抱きしめる。

「有難う。やっぱりキミは、世界で一番素敵な女の子だ」
「でも! スケキヨさんは臆病でも無いし、頼れる人だもん!」
 キスして。あふれ出る感情の総てを広い胸に受け止めてもらって。
「私の好きな人を貶めるのはたとえスケキヨさんでも許さないの!」
 高ぶった感情の抑えなんて効かなくて。
「私達は、ずっと一緒だよ!」
「ずっと一緒だね、これからもずっと」

 ステンドグラスの光に指輪をかざして。
「えへへ。スケキヨさん、ありがとうなの」
 彼の手を頬に当て。二人はもう一度口付けを交わした。


 一方その頃。
 朝から遊び倒したお陰か、そろそろ大人達――即ち新城・拓真(BNE000644)と風宮 悠月(BNE001450)は一休みしたいタイミングである。
 こうして一足先にホテルのカフェへと向かった拓真に悠月の他、スケキヨとルアもどこかに連れ立って用事があるようだった。
 とは言え夜のパレードや、その後の食事まではそこそこ時間がある。ならばその間、どうするか。
 少年達ジース・ホワイト(BNE002417)とエスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)はまだもう少し遊べる体力があるのである。
 だから残されたジースとエスターテの二人は、丁度近くにあった人気アトラクション『スプラッシュサンダーカリビアン』に挑戦してみた。

 パレード前の時間だからか、朝は行列を作っていたアトラクションだが五分と並ばず入る事が出来た。
 こいつのルールは簡単だ。
 おどろおどろしい雰囲気の中で穴倉を進むと、金銀財宝が溢れかえる宝物庫に行き当たる。
 そこで『いかにも取ってください』という風情の金貨を手に入れるのである。
 すると突如雷鳴が轟き、大海賊キャプテン・モルガンに見つかってしまうという筋書きだ。
「え、えと」
「ほら、エスターテ」
「はい」
 作り物ではあるのだが、細部まで丁寧に行き届いており雰囲気は十分。そんな中、かなりの大音量で海賊に激怒されるというのは意外とそれらしくて恐ろしい。
 とにかくボートに乗って逃げなくては。
 ジースはエスターテが転ばぬ様に手を取ると、桟橋を駆けて船の上へとエスコートする。
「シートベルトは無いから、そこまで揺れるものじゃないみたいだ」
 二人乗りのボートは少々狭く、ジースは少女を後ろから抱きかかえる形で乗り込んでみた。
「え、と」
 大丈夫。自分が前だとエスターテの視界が塞がれるから。
 うん。
 他意はない。ない。
「よし、行くぞ!」
 後はどんぶらこと水路を進み、小さな滝からばっしゃーんと外へ飛び出すだけ――その筈だった。

 ガタン、と。突如ボートに横波が襲い掛かる。
「うわっ! エスターテ大丈夫か?」
 シートベルトもないというのに、かなり激しい揺れだ。
 がつんと船がぶつかり、態勢が崩れる。
 二人は取っ手につかまりながらあわてて辺りを見回すが、一体どうした事だろう。
 いや、そもそもこれは有り得ない――エリューションの気配を感じる。
「ジースさん、恐らく、敵が」
「だよなっ」
 とは言え、こんな所でヒンメルン・アレスは扱えない。
 そもそも敵がどこに居るのかも分からない。
「ん? どうしたエスターテ……え、それ。ルアに持たせた剣」
 少女が握り締めているのは守刀Triteleia。
「そっか、ルアも強くなったもんな」
「ちょい貸してくれ」
「はい」
 元はと言えば、祖父がジースに与えてくれたもの。巡り巡って少女の手に、そしてこの日にまた戻ってくるとは。
 ボートの上に立ち、どうにか剣を構えるも、かえって危険ですらあるだろう。
 こんな状況で為すべき事は――
「エスターテ! 危ねぇ!」
 ジースは少女を抱きしめ、同時に大きな揺れ。
「かはっ」
 背中を強かに打ちつけたジースは大きく咳き込む。
「ジースさん!?」
「俺は大丈夫だ。エスターテが怪我しなくてよかった」
 確かに。普段の戦いに比べればどうという事はない。
 だがここを出られるまで、彼女を守りきらなければならない。
 ジースは右手に守刀を構え、左腕に少女を抱きとめる。
 狭いボートの中で彼女を危険に晒さない為だ。守る為だ。他意はない。あくまで他意はない。

 そうしていると、ふと揺れが収まった。
「大丈夫、そうか?」
「え、と、はい」
 ずぶぬれになったエスターテは小さく震えているが、どうにか守り通す事が出来そうだ。
 しかしこうしていると。
 シャンプーの香りとか――

 好きな子のシャンプーの香りとか。体温とか。
 いや、ジースは何も考えていない。
 無罪、無罪、か?

 どこかで姉がひどく怒っているような気がするが。それはさておき。
 どうにか出口が見えてきて――ばっしゃーん。
 勢い良く。と言っても先ほどの勢いとは比べ物にならないほど緩やかに、二人を乗せたボートは夕焼けの空に飛び出した。

 ――

 ――――

「大丈夫でしたか?」
 にわかに放心していると、係員が二人をボートから陸へと上がらせてくれる。
「いえ、大丈夫です。少し姿勢を崩して」
「あ、すまねぇ」
 ジースは少女を慌てて開放する。
「え、と」
「ん?」
 エスターテが小さなポーチからごそごそと取り出したのは絆創膏。
「ああ、こんなのかすり傷だ。大したこと無いぜ」
「でも、一応」
 いつの間にか手の甲をぶつけていたのだろうか。血が滲んでいる。
「ありがとな」
 なぜだか姉を思わせる兎のマークに動揺したジースだったが、ここは素直に張られておく事にする。
「それより、一端戻って着替えなきゃな」
「お着替えをお持ちしましょうか?」
「いえ、みんなとホテルを予約していますので」
「かしこまりました、このたびは大変ご迷惑をおかけして申し訳御座いませんでした」
 こんなにずぶぬれのままでは、ちょっとパレードは厳しいけれど。
 ハハッ。と。
 中の人など居る筈のないマスコットに渡されたタオルが嬉しい。
 ジースはとりあえず少女をタオルでわさわさとしてやった。
 それにしてもタオルを頂いた挙句、ホテルへ馬車までチャーターされて。
 かえって申し訳なさそうな二人が居たりした。

 こうしてずぶぬれの二人はアークからの通信を受け取る事が出来た。
 エリューションは葛葉 牡丹(BNE002862)さんが一発でやっつけてくれたらしい。

 水ていっ。


 こちらの二人がカフェの扉をくぐったのは、そんな事件が終わる少し前の事だ。
 ちょっとした休憩。
 夕食までどこかへ足を伸ばすには短く、ただ待つには少し長い。そんな時間。
「今までにも、何度かこういう所に来た事はありましたね」
 と言っても、年に一度あるかないかという程度だろうか。
 リベリスタが為さねばならぬ事は数多く、余暇はいつでも短いのが常か。
「どちらかと言えば、人が少ない静かな所に行く事が多かったからな……」
 拓真と悠月に似合うのは、確かにそんな場所なのだろう。
「まあ、たまにはこういうのも悪くありません。買い物に行く時のような、日常の延長ですし」
 悠月が好きなのは静かな場所であり、彼女は拓真も同様であることを知っている。
 彼女自信こういう場所が苦手という程ではないが、拓真はどちらかといえば苦手かと。
 少々、疲れも強く見える。
「こちらメニューでございます」
 案内された席に落ち着いた二人はメニューを広げる。
 生憎、何か食べるという時間ではないから、ここは紅茶だろうか。

 ホテルの最上階に位置するカフェといってもそれほどの高さはないから、眼下に道往く人々の姿は良く見える。
 平日と言えども、結構な人数だ。
 拓真はふと想う。此処まで人が多いのを見ると、やはり俺の目に映っている世界などほんの一部なのだと。
 ならばそんな経験も悪くはない。

「適当に理由をつけて別れて来たが……さて、ジースは無事にやるかどうか」
 先ほど連絡を受けたエリューションに関しては問題ないだろうが。
 拓真は苦笑一つ。何かアドバイスでも出来れば良いが。そこに関して得手ではないから。
「とりあえず、エスターテさんには良い刺激になるのではないでしょうか」
 ジースが上手く行くかという点は未知数ではあるのだが。さて?
 話が付き合う付き合わないという飯事程度としても。二十歳を超えるまでは、少々の年齢差も気になる物である。
 何よりエスターテは恋愛沙汰にはなれて居まい。
 まあ、もう一歩親しい距離に踏み込むことが出来るなら上々なのだろう。
「夏栖斗の事にしろ、ジースの事にしろ…余計な世話を焼き過ぎているかも知れんな」
 拓真の言葉はため息にも近かった。自覚はあるが、中々難しい事だ。
 そんな様子に悠月は僅かに微笑んだ。
 世話焼きは彼の性分なのだから仕方がないとして。
「気を使ったのは私達だけでもないですからね。見守るべき時というものはあるものです」
 運ばれてきたオータムナルのダージリンに、二人は言葉をとめた。
 砂時計が落ちたら飲み頃。
 暖かな茶器に注がれたのは、秋摘み独特の落ち着いた琥珀色だった。
 鼻腔をくすぐるマスカテルフレーバーに、ようやく人心地ついた気がする。
 後は食事時までゆっくりと過ごすだけ。
(……夏栖斗さんと紫月の事もそうだけど)
 悠月に思い出されるのは妹達の事。

 彼女等も。そしてジースとエスターテも。
 焦らずに良い関係を築いてくれたらと想うのだ。

 丁度その頃。
 階下では、きらきらとしたパレードが始まろうとしていた。


 こちらようやく着替え終わったジースとエスターテの二人。
「何だ?」
 道すがら気になっていたのは、パレードか。丁度そんな時間だ。
 縁日めいた人混みに互いを見失いそうになる。これがルア相手なら襟首でも掴んでおけば問題ないのだが。さて。
「エスターテ……、あー……えーっと」
 はい、と聞こえてくる筈の声が。この人混みだと。
「逸れると大変だから……って居ねぇ!」
 流されていく少女の手を、ジースはどうにか捕まえた。
「エスターテ、大丈夫か?」
「え、と、すみません」
 もう少し見えやすい位置に移動したほうがいいかもしれない。
 手は繋いだまま。また逸れたら大変だからである。他意はない。

 結局。どうにか見つけたのはホテルの階下である。
「すげぇな」
 これが縁日ならあれは神輿という話ではないが、ともかく電飾で飾られたキャラクター達がおなじみの音楽に合わせてやってくる様は圧巻の一言に尽きる。
「なぁ、エスターテ……」
 ちらりと覗いた少女は、じっとパレードに見入っていたから。
「いや、何でもねぇ」
「え、と。はい」
 ジースが気持ちを、素直に好きだと伝えるには。
 きっとまだ二人で過ごしてきた時間が短いのだろう。
 だから今はただ、握られたこの手の感触を覚えていたいのだ。

 少しだけ強く握ってみたら、少女も握り返してきたから。
 きっと望みがない訳ではないのだろうから。

 そんな姿がカフェの二人から見えていることなど、彼等は知る由も無かったのだけれど。


 そんなこんなでようやく集合し。一行は待ちかねた食事を済ませたのである。
「美味しいとの評判通りだったようだな」
 食後の紅茶を楽しみながら、拓真は問いかける。
「今日は、皆はどうだった。途中から抜けてしまったからな、余計な気を煩わせなかったか」
 聞いては見たが、皆の顔を見ていれば心配ない事は分かった。
「考えてみれば、イタリアンはあまり縁が無かったですね」
 思えば悠月達は大抵が和食中心で、外食にしても縁は無かったから新鮮ではあるのだった。

 ――

「あまり夜更かしをし過ぎないように、ですよ。それではお休みなさいませ」
「俺達はこちらだからな、時間厳守。明日は集合時間に遅れるなよ」
 ハメを外さぬ様、拓真は言外に含めて。それにしてもスケキヨは大変そうである。
 そんな保護者達の言葉と共に、各自が部屋へと戻る。

「エスターテちゃん、見て。スケキヨさんに貰っちゃった」
「わ……」
 ルアの左指に光るのは、結婚の誓約。
 広いベッドで親友と過ごす楽しい時間。
「綺麗なの。えへへ」
「はい……!」
 エスターテの頬も綻んでいる。
「エスターテちゃんはジースに変な事されなかった?」
「え、と……」
 まあ。大変なことがありまして。

 ――

「何でスケキヨと一緒の部屋なんだよ!?」
 そう言ってジースは早速ベッドに身を投げ出してみたものの、スケキヨの表情がいつに無く真剣だったから、つい姿勢を正してしまった。
「何だよ」
「ジース君……ボクの弟になって下さい!」
「ぶーっ!? お、弟ぉ!? って事はお前ルアにプロポーズ……」
「プロポーズ……フフフ。そういう事になるかな」
 とうとう。そういう事になったのだ。
「俺の事は良いんだよ! 泣かせたら、承知しないからな…っ」
「泣かせるもんか! 二人で一緒に、世界一幸せになってみせるよ。
 ところで…ジースくんはどうだったんだい、エスターテくんとは?」
 にやっとしたスケキヨに、ジースは少し後ずさる。
「は!? エスターテと!? な、何でもねぇよ!」
(ちくしょうこっち見んじゃねぇ!)
 なんだか調子が狂うと思ったその頃。

 ――

 え?

 許すまじ!

「こらー! ジースー!」
 アクセスファンタズム準備。良し。
 スキルセット。良し。

 バーン!
 ドゴッ!!

「おや、ルアくん?」
「は! スケキヨさん! 喧嘩じゃないよっ」
 頬を染めてぷるぷるしているルアに、スケキヨは優しく微笑んだ。
 姉弟喧嘩も仲良しの証拠なのだろう。たまにはいいんじゃないだろうかと想うのだ。

 ――

 ――――

 こうして夜は更けて往く。
 先ほどはなんだか少し賑やかだったのが、静かになったろうか。
 これで拓真もようやく一息つける。
 柔らかなベッドに身を委ね。
 眠る時は何時もの様に悠月を抱き寄せ。
「おやすみ、悠月。愛しているよ」
 二人はそっと口付けを交わした。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 依頼お疲れ様でした。
 楽しく書かせて頂きました。

 MVPについては、理由を書くまでも無いと思います。
 おめでとうございます。どうか末永くお幸せに。

 それではまた皆さんとお会いできる日を願って。pipiでした。