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ヒーローズアムネシア。或いは、槍と記憶と英雄と。

● アムネシア
体は軽く、それでいて高硬度の特殊金属で出来ている。 
 気がついたら、彼女は見知らぬ場所に居た。
 視界が歪む。頭が痛い。自分の名前は思い出せない。体は動かせる。動かし方は覚えている。今、その場にいる経緯に関しての記憶は、曖昧だった。記憶を探れば、断片的ではあるがここに至る経緯を思い出すにことができたが、どうにも要領を得ない。
 
 彼女は、廃墟と化した病院の庭に立っていた。足元には、腰の高さまで伸びた雑草が、頭上に見える空は紫。朝日が昇る直前であろうか。背後の病院らしき廃墟には、窓ガラスがなく、代わりにビニールシートや段ボールが張られていた。恐らく、ホームレスだかが住み込んでいたのだろうが、今はそれらしき気配は感じられない。
 僅かに身じろぎすれば、キン、という甲高い音が響いた。音の発生源は自分の腕だ。金属で出来た掌の中に、赤銅色の槍がある。今の音は、槍の柄と自分の腕が擦れた音だ。
 この槍は、なんだっただろうか?
 途切れ途切れの記憶の断片を繋ぎ合わせ、そういえば自分はどこかの誰かにこの槍を貰ったのだった、と思い出す。
 なぜ、この槍を貰ったのか。
 誰にこの槍を貰ったのか。
 そもそもこの槍はなんなのか。
 そういった、恐らく重要であろう記憶は失われている。はて? と首を傾げ、槍を顔の高さにまで持ち上げてみた。
 金属製。赤銅色の槍で、先端の刃は十字架のような形状をしていた。十字架の、白金色の刃には、べっとりと何者かの血がこびり付いていた。
 恐らく自分は、この槍を用いて誰かと戦ったのだろう。
 誰と? 
 相手は、どうなった?
 思い出せない。
 ただ、血の量から考えるに、この槍の餌食となったであろう相手は良くて重傷、悪くて死亡しているものだと判断する。
 自分がやったのか?
 思い出せない。
 数々の悪人と戦って来た。元より、そういった役目を全うするために生み出された存在だったはずだ。特殊金属の体を持つ自分は「ゴーレム」と呼ばれていた。或いは、レアメタルヒーローという異名を付けられたこともあった。
 だが、しかし。
 思い出せない。自分がそういう存在なのは覚えているが、どういった相手と戦って来たのか、何のために悪人と戦って来たのか、思い出せない。
 何故、思い出せないのか。
 記憶の欠如と、奇妙な槍と。
 無関係とは思えないが、さて……。
『あぁ、戦いたい……。そうしたら、何か思い出せそうな気がするわ』
 なんとなく、そんな言葉を口にして。
 そうだ、自分は戦いたいのだ、とそう気付いた。

● 槍とヒーロー
「記憶喪失のアザーバイドの送還、或いは殲滅が今回の目的ね。記憶喪失で、自分の名前も分からないみたいだから、好きに呼んだらいいと思う」
 そう言って、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はモニターに映ったアザーバイドの画像を拡大した。外見は、なるほど確かに女性的な体格をしているし、白金色の髪も長く艶やかな女性のそれだ。
 肌の質感が、人間のそれとは違い妙な光沢を帯びているのは、その身が特殊な金属で出来ているからだろう。
「記憶を取り戻す方法は今の所不明。本人は、戦いを通して失われた記憶を取り戻せそう、と感じているようね」
 保証はないけど、と付け加えるのを忘れない。
 戦いを続けた所で記憶が戻るという保証はないし、更に記憶が欠如するという可能性も否めない。
 イヴは、モニターの映像を更に拡大。彼女の手に握られた、赤銅色の槍をアップに映す。
「恐らく、記憶喪失の原因はこの槍ね。この槍を彼女に与えた何者かによって、彼女はこの世界に送り込まれた、と考えるべきかしら?」
 或いは、何かの拍子に記憶を失い、Dホールを潜って来てしまった、という可能性も考えられる。
「Dホールは、病院に庭に開いたままになっているから破壊するのを忘れないでね。それと、本来は好戦的な性格ではないようだけど、今の彼女は戦いたい、という衝動に取り憑かれているように見える。接近、対応には注意してね」
 不用意に近づいた結果、いきなり攻撃される、という可能性もなくはない。
 なにしろ相手は、未知の存在。おまけに記憶を失っている。どういった思考のもと、どういった行動に出るのか、予測することは難しいだろう。
 説得だけで送還できる、とは思えないが……。
「槍を使った攻撃と、蹴りを主体にした体術を多様するみたいね。槍には[隙][致命][連][呪縛]の追加効果が、蹴りには[ノックB][連]の効果が
付与されている。動きが速いね」
 とはいえ、接近戦を得意とするリベリスタであれば充分に対応可能な速度だろう。全ての攻撃を捌くことは難しいだろうが、少なくとも一方的に攻撃を受け続ける、という事態にはならないはずだ。
 それよりも、注意すべきはその体を構築している特殊金属だろうか。
「状態異常を受ける確率が半減すること、それから受けた物理ダメージの約20%を反射すること。切断しても、断面を合わせれば数秒で癒着すること」
 そう言った特殊な性能を備えているようだ。
 本人の性格はともかくとして、元々、戦いを視野に入れて生み出されたということだろう。
「どんな理由があったとしても、この世界への滞在を許す訳にはいかない。
彼女が廃病院から移動してしまう前に、現場へ行って任務を遂行してきて欲しい」
 キーパーソンは、やはり記憶の欠如と奇妙な槍の存在だろうか。
 気になるな、とそう思いつつも、イヴはそれを口には出さない。
 どんな理由があるにせよ、どんな事情があったにせよ、この壊れかけた世界を守るためには、彼女の存在は毒にしかならないのだから……。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年02月17日(火)22:00
おつかれさまですこんばんは。
お元気ですか。病み月です。
今回は、異世界から来た記憶喪失のアザーバイドの物語。自分の存在理由や、今、その場にいる訳を見失っています。
そんな彼女に、どう対応するのか。
それでは、以下詳細。

● 場所
夜明け。空は紫色で、雲は少ない。暗くはあるが、視界に問題はないだろう。
場所は廃病院前の庭。戦闘中に、廃病院の中に移動することもあるだろう。雑草のせいで、しゃがめば姿を隠すことくらいはできる。障害物はないが、院内に入れば通路は狭く、また視界も足場も悪い。
庭にDホールが開いている。

● ターゲット
アザーバイド(レアメタルヒーロー、或いは、ゴーレム)
記憶喪失であるため、本当の名前は思い出せないでいるようだ。
特殊金属で出来た肉体を持っている。素早い動きと高い耐久力が特徴。
戦っていれば、記憶を取り戻せる。そんな気がしているらしい。
何者かに槍を与えられたようだが、その辺りの記憶は曖昧。
その特殊金属の肉体は、状態異常を受ける確率を半減させ、物理攻撃によるダメージの約20%を反射する性能を持つ。また、切断されても断面を合わせれば数秒ほどで癒着する。ダメージが回復しているわけではないようだ。
【赤銅槍、閃】→物遠単[隙][呪縛]
鋭い突きによる攻撃。
【赤銅槍、連】→物近複[致命][ブレイク][連]
鋭い突きを連続して放つ攻撃。
【脚刀、一蹴】→物近単[連][ノックB]
蹴りを主体とした連続攻撃。金属の体を持つためか、一撃が重い。


以上になります。
それでは、ご参加お待ちしています。

参加NPC
 


■メイン参加者 5人■
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ハイジーニアスソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
フライダーククリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
ギガントフレームデュランダル
柳生・麗香(BNE004588)
ハーフムーン覇界闘士
翔 小雷(BNE004728)
   

●槍を手に
 白金色の長い髪を風に揺らし、キシキシと金属の擦れる音を鳴らし、朱塗りの槍を片手に握って、その奇妙な女性はゆっくりと首を巡らせる。
 足元を覆い尽くす雑草と、紫色の空の下、月明りを鈍く反射させる身体は、金属のような質感であった。
『思い……出せない。けど、思い出せそう……。この、槍で……。槍?』
 ぶつぶつと、宙空を見据えて言葉を吐き出す。
 ゆらりゆらりと身体を左右に揺らしながら、廃病院の中庭に立ちつくしていた。
 人の気配はない。誰もいない。既に忘れ去られた廃墟に佇む彼女は、アザ―バイドと呼ばれる異世界から来た存在だ。記憶を失っている。
 何かの事故でこの世界に迷い込んだのか。
 それとも……。
『私は……廃棄された……のかも、しれない』
 失われた記憶の中、思い出せるのは誰かから槍を渡されたことと、誰かの為に戦い続けてきた記憶。
 槍を手にして以来、記憶の欠如が甚だしい。槍を手にして以降の記憶はほとんどなく、槍を手にする前の記憶も穴だらけ。戦うという意思だけが残っているが、果たしてこの気持ちもあとどれだけの期間持続できるだろうか。
 或いは、戦い続ければ何か思い出せるかもしれない。
 槍を握りしめ、闇夜に浮かぶ月へと突きつける。
 と、その時だ……。
「おはよー☆ 記憶を忘れた異世界のヒーローさん☆ オレ達の手助けが必要かな?」
 陰鬱な廃墟には場違いなほどに、明るい声。『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)だ。左右の手にナイフを下げて、二コリと微笑んで見せる。
 ナイフと笑顔の歪な組み合わせ。
 それを見て……。
『手助け……は、いらない。私と、戦、え』
 腰を落として、槍を構えて。
 金属の身体を持つ、レアメタルヒーローはそう呟いた。

●記憶の糸
 タン、と軽い音。終が地面を蹴って地を這うような低姿勢で飛び出した。朱塗りの槍を低く構えて、ヒーローはそれを迎え討つ。槍の穂先に終のナイフが軽く触れた。
 その瞬間、ヒーローの手首が軽く捻りあげられた。最小の動作で最大の効果を。アクションに基本だ。無駄な動きの一切を排除した槍捌き。跳ねあがった切っ先が、終の頬を切り裂いた。
 終の額に一瞬で冷や汗が噴き出した。本能が告げる死への恐怖が、終の足の動きを鈍らせる。このまま切り込むことは不可能だと判断するよりも速く、終の足は地面を蹴って一足飛びに数メートルほど後退していた。
 だが、みすみす獲物を見逃すヒーローではない。腰をねじり、腕を伸ばして、槍を突きだす。
 空気を切り裂く高速の刺突は、終の着地に合わせて放たれた。
 意識と動作の隙間、一瞬の隙にねじ込まれた一撃は回避できない。
 回避できないのなら……。
「面倒なものだな。好き勝手に暴れるだけなら記憶があってもなくても変わるまい。精々早めに思い出せ、屑鉄以上かどうかな」
 頭上から、槍を叩き落したのは数羽の鴉だった。ヒーローの槍が終の首を貫く寸前で、軌道がそれて槍は地面に叩きつけられた。
 ゆっくりと、ヒーローが顔を上げる。 
月を背に、翼の加護で得た羽を広げた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が式符を片手にヒーローを見下ろす。槍の射程には入らないよう、距離を取り、しかしヒーローが動けば即座にその行動を阻害できるように、冷たい眼差しを彼女に向けたまま、僅かさえも逸らさない。
「なんだか凄そうな槍とか、そういうのを持っておられるようですし、出来れば戦わずに済ませたいですよう、やーん」
 更に、終の背後には『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が構えていた。
 両手を前に突き出し、フィンガーバレットの銃口をまっすぐヒーローの胸に向け、しかし眉根は困ったように下がっていた。
 イスタルテは迷っている。否、悩んでいると言うべきか。
 記憶喪失のヒーローと、その原因かもしれない槍が気にかかる。心根が優しすぎるのだろう。出来る事なら戦いを介さず、記憶を取り戻してやりたいと、そう考えているのだ。
 だがしかし、そんなイスタルテの迷いや気遣いなど意に介さず、飛び出していく影が1つ。
「レアメタルヒーローよ! 我らはボトムの戦士なり。尋常に勝負いたせっ」
 下段に構えた剣を引き摺るようにして『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)が駆ける。エネミースキャンでヒーローを分析した結果、彼女の中の燃えるような闘志を感じ取ったのだ。
「病院には入れるなよ」
 麗香に続き『善悪の彼岸』翔 小雷(BNE004728)も前に出た。
 はいっ、と麗香は返事を返す。勝算があるのか、その口元には笑みが浮いていた。
 槍のスキルに関しても幾らか分かったことがある。
 彼女の槍捌きには無駄がないのだ。
 だからこそ、麗香は駆ける。飛び出す。自身の身体ごとぶつけるような突進だ。
 当然の如く、ヒーローの槍は持ち上げられ、その切っ先は、麗香の剣を裁くように小さな弧を描いて振るわれる。視線は頭上、ユーヌを見据え、しかし視界の端には他のリベリスタの姿も納めている。
 複数人を相手にとって戦うのは慣れているのだろう。
 ほんの僅かな無駄さえ命取りになるような、そんな戦いに。
 だからこそ、無駄がない。最短、最適な迎撃。攻撃をしかけてこないのもそれが理由だ。攻勢に出れば隙が生まれると知っているのだ。だから、迎撃主体での戦闘。
 少なくとも、敵の実力が分かるまでは防御重視の戦闘体制を貫き通す。
 麗香の手首を狙った短く、素早い突きが放たれた。
「ぐ、ぎぃぃぃっ! っ……。た、戦うことで記憶が取り戻せるのであれば、ご帰還いただくまでのしばしの間遊んで差し上げましょう!」
 ザクリ、と麗香の右手首を槍が貫いた。
 痛みによって、麗香の手から力が抜けた。右手が剣から離れる。しかし麗香は止まらない。地面を蹴って、前へ前へ、更に前へと跳び出した。
 血の飛沫を撒き散らし、ダランと右手が身体の横へと垂れ下がる。
 左手は血管が浮き出るほど強く、剣の柄を握っている。突進の勢いを剣に乗せて、下段から一気に振り上げた。
 気合い一閃。身体ごとぶつかるような、体重を乗せた斬撃はまっすぐヒーローの手首を狙って放たれたものだった。
『……ぬっ!』
 命を取りに来る敵とは、それこそ死ぬほど戦ってきた。
 だが、始めから武器狙いという相手はあまりいなかった。
 そんな気がする。
 ざくり、と手首に刃が喰い込む。
 次の瞬間、ヒーローの手首は切断されて槍と一緒に宙へと舞った。手首の断面から零れるのは血液ではなく、水銀にも似た金属色の液体だった。液体は、空中で弾け散弾と化し、麗香を襲った。
 小さな金属の弾丸で身体を撃ち抜かれた麗香がバランスを崩す。
 前のめりに倒れたその胸に、ヒーローの足刀が突き刺さった。苦悶の声すら吐き出せない。肺の中の空気と、血液を撒き散らし麗香の身体は宙へと浮かぶ。
 さらに一撃。
 肺に突き刺さる2発目の足刀。骨が軋む。
 3発目。痛みより先に、衝撃が身体を突き抜ける。内臓が悲鳴を上げる。空気と血液が、喉に詰まって呼吸が出来ない。
 4発目。
「俺もまた戦う理由がある。自分自身の存在意義を探すこと。無力である自分なりにリベリスタとしての自分の役割と存在価値を今ここで探し出す。貴様と戦えばその答えも見えてくる気がする」
 麗香とヒーローの間に割り込んだのは、小雷だった。バンテ―ジに包まれた拳でヒーローの蹴りを受け止め、そのまま足の間に滑り込むようにして肉薄。
 その腹部に、鋭い掌打を叩き込んだ。

「や、っぱり……ヒーローなんだから格闘戦が得意なんじゃないかなっ?」
 血を吐きながら、そう呟く麗香を受け止めたのはユーヌだった。呆れたように溜め息を零し、その身を地面に横たえる。
 即座にその隣へとイスタルテが着地。翼を広げ、淡い燐光を撒き散らす。
「ヒーローですか……。誰かと戦っていたが名前は思い出せない、というのが気になるのですが……槍が呪われた代物、という事はないでしょうか?」
 麗香の胸に手を当て、イスタルテはそう呟いた。燐光が降り注ぎ、麗香の傷を癒していく。
 麗香が再び動けるようになるまで、いくらか時間がかかるだろう。
 2人を護るように移動したユーヌは、手から式符を撒き散らし影人を召喚した。
「存分に暴れて満足か? 記憶が戻っても幸か不幸かは知らないが、忘れたままが良いかどうかもな」
 ふぅ、とユーヌは小さな溜め息を零す。
 小雷と、激しく打ち合うヒーローの姿は、どことなくだが楽しそうに見えた。

『私は……人々の為に戦った』
 小雷の拳を受け止めながら、ヒーローは呟く。
『幾度となく死にかけ、その度にこの身体に救われてきた』
 小雷の掌打を受け流し、左手で彼の胸を打ち抜いた。小雷は血を吐き、その場に倒れかける。だが、ギリギリのところで踏み止まり、鋭い足刀でヒーローの足首を薙ぎ払う。
『ぐ……。そうだ……。死にかけ、力不足を感じた私の前に、奇妙な男が現れた』
 その男の正体は思い出せない。
 だが、その男に渡された槍を手にして以来、彼女は負けていない。その代わり、日毎に記憶が失われていった。力と引き換えに失ったものは、記憶と信念だ。
 無関係な命を多く奪った。そんな気がする。
『私は……取り返しのつかないことを』
「………。お前がしたことが過ちであれ、生きている限りやり直しはいくらでもできる」
 渾身の気合いを込めた掌打が、ヒーローの胸を打つ。小雷の腕に激痛が走る。物理攻撃に対し、ダメージを反射するレアメタルの身体が厄介だ。
 だが、小雷は止まらない。ヒーローの身体を、そのまま宙へと弾き上げた。 
 大きく仰け反り、宙へと舞うヒーローの身体を追って小雷が跳ぶ。弓矢の如く身体を引き絞り、渾身の力で拳を振り抜く。
 小雷の拳が、ヒーローの顔面へと喰い込む。
 ヒーローの足刀が、小雷の胸を、喉を、顔面を、と蹴り抜いたのはそれと同時。小雷の身体が大きく背後へと弾き飛ばされた。血の滴を撒き散らし、意識を失った小雷は地面へと叩きつけられる。
 地面に着地したヒーローが、小雷へ追いうちをかけるようなことはしない。
「オレの戦う理由はずばり! ハッピーエンドの為! 力無い人達が悲しむようなバッドエンドは嫌なんだ」
 左右の手に握ったナイフをくるくると回し、終は1歩ずつ、ゆっくりとヒーローへ歩み寄っていく。ヒーローの視線が宙を彷徨う。落とした槍と腕を探しているのだろう。
「変わった槍だな? 鉄屑リサイクルにも分別が必要だ」
 ヒーローの槍は、ユーヌの呼び出した影人が拾い上げ、後衛へと持ち去っている。槍を取りに来ることを警戒してか、復活した麗香とイスタルテが槍を持った影人の左右に控えていた。
 その間にもユーヌは影人を呼び出し続け、ヒーローがこの場から逃げ去らないように周りを包囲させていた。
 逃げ場はない。もとより、後退するつもりもないだろう。
 後は、とことん戦うだけだ。
 ヒーローの拳と、終のナイフが交差した。

●蘇る記憶
 連続して放たれる鋭い斬撃を、鋼の身体で弾く。
 切傷は即座に癒着するが、ダメージがないわけではない。
 痛みだって感じる。
 生きているのだと、そう実感する。
『思い出した……。力と引き換えに、私は、実験体になったんだ』
 それは、人のもつ潜在能力を引き出す実験。その為の槍だった。力を手に入れた副作用は、記憶の欠如。いつしか、大切な、何のために戦うのかという記憶さえも失った。
 それでも、戦い続けたのは何故だろう。
「ヒーローさん、ヒーローさんの戦う理由は何ですか?」
『私の……』
 眼前に刃が迫る。身を低くして、ナイフの連撃を回避する。
『戦う理由は……』
 記憶を失ってまで戦った理由は……。
『何だっただろう……』
 パズルの、最後のピースが嵌らないもどかしさを感じる。本能に突き動かされ、振り上げた足刀が終の即頭部を捉えた。
 終の身体が大きく傾ぐ。くるん、と回転し逆の足で追撃を放つ。本能に突き動かされ、狙う先は終の首だ。直撃すれば、首の骨程度、小枝を折るような容易さで砕くだろう鋼の蹴り。
 それを受け止めたのは、空から強襲してきた鴉の群れ。
 正面から放たれた、数発の弾丸。
 すくいあげるように胴体を薙いだ斬撃。
 ユーヌが、イスタルテが、麗香が、劣勢に陥った仲間の窮地を救う。
 羨ましい、とそう思った。
 彼女はヒーローだ。ヒーローは、孤独だった。頼れる仲間は存在せず、ただ1人で戦い続けた。
 その結果が、力を求めて、記憶を失った今の状況。
 力を得て、そして廃棄されたのだと、そう思いだした。
 Dホール。別の世界へと、捨てられた。
 誰に?
 それは、槍をくれた奇妙な男だった気がする。
「素性は知らんが、何者であれ救える命は救う」
 それだけだ、とそう呟いたのは意識を取り戻し、無理矢理に戦線復帰を果たした小雷である。
 仲間の作ってくれた一瞬の隙に身体を潜り込ませる。腹部に、ヒーローの蹴りを受けながら、掌打をその額へと叩きこんだ。
 ヒーローの頭部に、意識に走る衝撃。カチリ、と記憶のピースが嵌る音。
 意識を失うその寸前。
 自分が戦い続けた理由を思い出した。
『私は……護りたかったのは、誰かの笑顔だった』
 小雷の手で、地面に叩きつけられながら。
 鋼の身体を持つヒーローは、確かに笑っていた。

『すまない……。迷惑をかけたようだ』
 真っ二つにへし折った槍を踏みにじりながら、ヒーローは言う。どうやら、すっかり記憶を取り戻したらしい。
『向こうに帰って、私は、私にこの槍を渡した男を探してみるつもりだ』
 リベリスタ達を一瞥し、もう一度頭を下げる。
『それから……仲間となれる者も探してみようと思う。君達を見て、そう思った』
 ありがとう、と感謝の言葉を述べて鋼の身体を持つそのヒーローはDホールへと足を踏み入れた。それっきり、こちらを振り返ることはない。
 鋼の身体を持つとはいえ、その身は女性。
 細い背を5人は黙って見送った。
 ヒーローの姿が見えなくなったのを確認し、ユーヌがDホールを破壊する。
 異世界から来たヒーローに、明るい未来が待っていることを祈り、任務を終えたリベリスタ達は、廃病院を後にしたのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
異世界から来た記憶喪失の英雄は、無事に記憶を取り戻したようです。
彼女は彼女の正義のために、元の世界へと帰って行きました。任務は無事に完了です。

リプレイ返却が少々遅くなりました。このたび、ご参加ありがとうございました。
それではそろそろ失礼します。
縁がありましたら、また別の依頼でお会いしましょう。