● 「いや、だからさ……」 電話番号を変えていないほうが悪い。そう言われてしまえば言い返す言葉もないのだが、変えたところですぐに調べられるだろうし、なによりも表の仕事に支障が出る。 「あ、ちょっと待って」 石田隆志(いしだたかし)は携帯を耳に当てたまま肩で挟んで固定すると、意味もなく窓のカーテンを引いて外からの視線を遮った。天井の隅でアークの取りつけた監視カメラが作動しているのだから、本当に意味のない行動だ。 相手に何をしているのか、と問われたので隆志は正直に答えた。 『こそこそする必要はないでしょ、石田先生。これは人助けの相談なんだから』 「え、これ人助けの話なの?」 『立派な人助けですよ。わたしらフィクサードだけど、放置すると間違いなく一般人に被害が出るし』 じゃあ、直接アークに連絡すればいいじゃないか。なにも捕まって軟禁されている元同僚に頼まなくても……。 『剣林、裏野部残党の蜂起、逆凪の御家騒動……年が明けてから大事続きでアークも忙しいでしょう。我々のような六道末端のことまで関わっていられないんじゃないですかね』 そこはこっちが勝手に決めつけることじゃないだろう。隆志はこめかみを指で押しながら、ベッドの端に腰かけた。とたん、スプリングが悲鳴のような軋んだ音をたてる。 どうしても身内だけで内々に片づけたいらしい。ということは、上に相談はおろか報告すらしていない―― 『実験に失敗してテスターたちが凶暴化、逃げ出しました。なんて言えるわけがないでしょ。素手で生皮はがされちゃいますよ』 酒の場ででた冗談が元の、おふざけ企画だからなおさらか。そういや、茄子を面白半分エリューション化させたこともあったけな。 『今回のほうがもう少し真面目ですがね。楽しみながら命中率アップの訓練ができますし』 節分限定のネタで命中率アップの訓練になるうんぬんはちと苦しくないか? 『そんなことはどうでもいいじゃないですか。いいからちょっと出てきなさいよ、高原先生をさそって。当てたら“ナマ乳”が拝めますよ“ナマ乳”が』 高原先生はまだ愛妻を亡くしたショックから立ち直れていない。ここは一人で行くしかないな、と隆志はだらしなく鼻の下を伸ばしながら立ち上がった。 ● 「一人で街を出ようとしていたので止めました」 『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)の横で、隆志が悪びれた様子もなく焼餅入り御汁粉を啜っている。 「……で、みなさんにお願いなのですが、ここにいる石田さんと一緒に鬼退治に行ってください」 正確には鬼そのものではなく、寅柄のブラと寅柄のパレオ――上下セットの筋肉増強強化サポーター、それに角――回避アンテナを身につけた若い女性+αを撃退して欲しいという依頼である。 「そうそう。彼女たちはジャンプ力アップ効果のある寅柄ブーツとパワー増大効果のある金棒も持っているそうです」 実験に参加したのはごくふつうの女子大生+αらしい。 バストアップ、ヒップアップ、くびれバッチリ、黄金ボディ爆誕――を誘い文句に募集をかけたらしいが、万華鏡から取り出した写真を見れば、確かにみな素晴らしいボディをしている。 「ナイ乳も身につければ爆乳になるそうです。ただし、フェイト喪失という重大な副作用がありますが」 着用による肉体変化で気分が高揚、やがて凶暴化。そしてフェイト喪失によるノーフェイス化と進む。 「テスターたちは研究所を飛び出して近場の街へ出ています。いまはまだ道行く人に悩殺ボディを見せびらかして楽しんでいる段階です。そのまま放置すると凶暴化して人を金棒で襲いだします。できれば彼女+αたちがノーフェイス化してしまうまでに、筋肉増強強化サポーターを回収して下さい」 巨大モニターから見て、テーブルの左手側に座っていたリベリスタの手が上がった。 「+αって?」 「……あ~、その前にサポーターの解除方法を説明します」 豆。 健一は、特殊な炒り豆を解除スイッチ(極小)に当てることで解除可能だと説明した。 「ブラのほうはフロントホックに当たる部分。パレオは腰左の結び目のような所に当てればokです。ただ、的が小さいうえに相手は動き回るし、防御するし、で少し大変です」 頭の角はやはり豆を当てれば取れるらしい。 「思いっきり街中、人ごみの中での作戦行動になるので戦闘スキルの使用は禁止です。てか、全部豆を使った攻撃になりますのであしからず」 パレオの下は一部を除いて水着だが、上は何も身につけていない状態になる。女性たちの名誉のためにも、ブラを取ったら素早く身柄を保護、隠してあげなくてはならない。 「で、+αですが……男性が混じっています。パレオの下はどういうわけか“生”なので、ガン見してしまわないようお気をつけください。一応、美少年、美中年ですが…………オレは見たくないですね、はい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月18日(水)22:20 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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● 寒い、と『全ての試練を乗り越えし者』内薙・智夫(BNE001581)は首に巻いたマフラーに顔の半分を沈めた。 「盛りあがってるね~」 背の後ろで元六道のフィクサードだった石田隆志が呑気な声を上げる。 情報通り。鬼――正確には六道が開発した筋肉増強強化サポーターを身につけてちょっぴりはっちゃけちゃった一般人たちは、噴水を中心に小さなグループに分かれて自慢のボディを見せびらかしていた。 「盛り上がっているっていうのかな、ああいうの」 「なんていうか……妙に静かだよね?」 奥州 倫護(BNE005117)は手に息を吹きかけた。 たしかに。静かだった。 場所が歩行者天国という雑多な人通りの中であれば、まったくの無音はあり得ない。実際、道の両面に展開する店の中から流れ出る音楽や、行き交う人の靴音、鳩が羽ばたき飛び立つ音など、ちゃんと耳に聞こえている。が、それが嘘くさい。 「夢の中にいるみたいなのだ」 『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)の例えは言いえて妙だった。 「カメラのシャッター音だけがはっきり聞こえるせいかな?」 バンのドアを閉めながら、『ミスティックランチャー』鯨塚 ナユタ(BNE004485)が違和感の原因をあげた。 「そうかもね」と智夫。 薄い色の空にデジタルカメラの電子的なシャッター音に交じって、フィルムを巻上げる『カシャー』という音や、『パシャッ』といった歯切れの良い音が響く。 「一眼レフもっているのが結構いるなぁ。偶然居合わせたにしては数が多い……」 そういう隆志の丸い腹の上にはやはり一眼レフがあった。生乳ポロリの瞬間を激写するために持ってきたものだ。こちらはといえば、事前にそういう情報を得ていたからわざわざ持って来ていたのであって、決して偶然ではない。 「うーん。近くでアイドルの撮影会とかがあったとか」 倫護が首をひねる。 おーい、と横手から声がかかった。リベリスタたちが一斉に顔を向けると、コートの下に白衣を着こんだ白髪頭の男性が3人立っていた。みなうれしそうな顔をして、腕を振っている。 「あのおじさんたち、もしかして六道なのだ?」 「もしかしなくてもそうだよ。たぶん、あの中の誰かが、いわゆるカメコと呼ばれる人たちに情報を流したんだろ」 まったく。穏便に済ませたかったんじゃないのか、と己のことは棚上げにして隆志は肩を怒らせた。 「石田先生。こっち、こっち!」 元同僚がアークのリベリスタを連れてくるのは想定済みだったのか。三人のフィクサードはまるで悪びれもせず、あいかわらずニコニコとリベリスタたちを手招きしている。 「はあ……。ぜったい悪いことした自覚ないよね、あの人たち」 おばかを絵に描いたような大人たちに呆れながら、ナユタは幻視で翼と相棒のフィアキィを隠した。 とりあえず行こうか、と隆志は先だって歩き出した。 「忙しいところをわざわざ来てもらって悪いね」 悪いと思っていないことはその態度から一目瞭然。だめだ、こりゃ。と智夫は呆れつつ、みんなを代表してサポーター回収作戦の説明を始める。 「それではチコは智夫おにいさんとラーメンを作りに行きますのだ。ちょっと時間がかかるかもなので、何かあったらAFに連絡ください」 解散、とナユタが手を打ったところで倫護が隆志を呼び止めた。 「鬼っ子たちの写真を撮ってもいいけど、帰る前にデータは確認させてもらうよ」 確認してどうするの、とカメラを隠す隆志。 おっぱい写真は全部削除、と倫護がいうと、隆志だけでなく後ろのフィクサード三人組からも抗議の声が上がった。 「それ以前に撮らせません!」 智夫は大判バスタオルをしっかりと胸に抱きかかえた。 ● 「あ、ここだ」 倫護とナユタが訪れたのはアイスクリーム専門店だった。 新商品の宣伝と偽って創作アイスを食べさせ、腹を冷やした男鬼たちにパンツを履かせるためだ。 パオレが外れてポロリ、は誰も得しないばかりか、見た者の心にトラウマを作る。ポロリしたほうだって、あとで死ぬほど恥ずかしい思いをするだろう。そんな悲劇を事前に防ぐのもリベリスタの仕事。たぶん。 「……静かだね」 「……うん」 夏であれば混みあうテイクアウト専用の窓口はカーテンがかかっている。自動ドアの外から店舗内にある若干の飲食スペースを覗くと中に人の姿がない。ショーケースの後ろにもレジにも、客どころか店員の姿すら見当たらなかった。 「もしかしてお休み?」 「アークが連絡を取ってくれたはずだし、ホコ天の日に店を閉めるなんて考えられないよ」 じゃあ、オレたちが店を間違えたのかも、とナユタはAFをポケットから取りだした。 「あれ、やっぱりここだ」 なら、ここであれこれ推測していても仕方がない。倫護とナユタは揃ってwelcomeと書かれたマットレスを踏んだ。自動ドアが開くと同時に、こんにちは、と元気よく声を響かせて挨拶する。 「やあ! 時村フーズの……と、ずいぶん若いね、ふたりとも。あ、話は聞いているよ。準備もできている。だけど、きょうは新商品のリサーチにはちょっと……日が悪いんじゃないかなぁ」 出迎えたのは40過ぎの、すこしつかれた感じのする男性だった。胸のネームプレートによるとこの店の店長らしい。 「あれだよ。ちょっと前に鬼のコスプレした連中がやって来て、いや、しばらくはよかったんだけどね。カメラを持ったオタクたちが大勢集まりだしてから、急に客足が遠のいちゃって」 店長は倫護とナユタをショーケースの裏へ連れて行きながら、アルバイトは帰ってもらったと言った。売り上げゼロ。商売になんないよ、と子供相手にぼやく。 「大丈夫。ボクたちが企画したこの豆乳アイス、ぜったい美味しいから。どこよりも早くこの店で食べられるよ、って言って宣伝してくる」 だから店長さんも手伝ってください、と倫護はエプロンの輪に首をくぐらせた。 「じゃあ、オレは寅柄クレープをじゃんじゃん焼くね。たくさん作っておかなきゃ!」 アルバイトたちを呼び戻すまでの間、一人で注文を捌けるようにね。ナユタは愛想笑いをしている店長へ向けて親指を立てて見せた。 「任せて。きょうは節分。鬼はそと、福はうち。福、じゃなくてお客さんは必ず戻ってくるよ」 「じ、じゃあ、二人に期待して……頑張ろうかな?」 盛り上がる三人の後ろで、ナユタのフィアキィがアイスクリームの味見をしていた。 ● 「――らっしゃい!!」 智夫とチコーリアが暖簾をくぐる前に、威勢の良い太い声が飛んできた。白い長靴を履いた店員が豚骨の臭いを連れて走り寄ってくる。 「あ、あの……僕たち、お客さんじゃないんです」 「分かってるよ。時村フーズさんだろ? てか、ずいぶん若いな。そっちはまだ子供じゃないか」 「チコは子供だけど特別なのだ!」 ふーん、と黒いTシャツの上で腕組みをしたまま店員が唸る。 店の奥から再び、「グダグダいってねぇで、いいから奥にお通ししろ」と太い声が飛んできた。 「まず、うちのを食ってみろ」 厨房へ入るなり、店主らしき坊主頭がラーメン鉢を二つ差し出してきた。 「僕たちは――」 「ラーメン修行だろ。新しく企画しているラーメン。うちのをベースにしたいって話だったぞ。うさんくさい、悪戯電話だと思ったが……さっき銀行で振込みを確認した。どういうつもりかしらんが、まあ、助かったぜ。今日はアレのせいで客がまったく寄りつかねぇからな」 はあ、と顔を見合わせて、智夫とチコーリアは鉢を受け取った。 白濁スープに焦がしニンニクの香り漂うラードが入った豚骨ラーメンだった。大きめに切られたネギの青と紅ショウガの赤がいいアクセントになっている。スープと一緒に煮込むというチャーシューはほんのりしょうゆの味で、噛むとほろりと崩れた。 「美味しいのだ!」 「だろ?」 「ところで、アレというのは……」 返ってきた答えは智夫が思っていた通りのものだった。 店主が語るところによると、鬼の恰好をした連中が噴水の前でウロウロし始めて間もなく、カメラを持った男たちが大勢やってきたらしい。 「そのうち人の足がホコ天から遠のきだしたのよ。まあ、連中気味が悪いからな。近くによったら分かるが、ムフー、ムフーと鼻息が五月蠅くて」 この寒空にあの薄着じゃ、すぐに終わるだろう。そう高をくくっていたら、昼の稼ぎ時を過ぎてしまった。いまだに解散する気配すらない。こりゃあ、ホコ天が解除されるまで諦めるしかねぇか、と肩を落としたところにアークから電話がかかってきたらしい。 「ラーメンを食べてもらった後、体が暖まった鬼たちを上手くおだてて豆まきをするつもりなんです。そうだ、よかったら豆まきに参加しませんか?」 「いいね。やらせてもらうよ」 「ご馳走さまでした。鬼退治の地獄ラーメンを作るのだ!」 チコーリアは店主に空になった鉢を手渡すと、トウバンジャン、チーマージャン、一味、白ネギを要求した。 それでは早速、と智夫もエプロンを手にして立ち上がった。 ● 噴水のある中央広場から西に外れた場所に緑鬼たちのグループがいた。女一人に中年の男が二人の組み合わせだ。 「うーん、どうみてもオカマ……」 真ん中の女の子は分かるのだが、両端に立っている緑鬼たちは顔が整っていようが、胸がサポーターの副作用でポヨヨンと膨らんでいようが、どう見たところで完全に男。なのにカメコたちは熱心に写真を撮っている。 「情報になかったけどあのサポーター、魅了系の何かを放っているよね。絶対」 「オレもそうじゃないかって、いま思った。どう考えても怪しいもんな」 やはりあの寅柄のサポーターは放置できない。 倫護はクーラーボックスの中から豆乳アイスのコーンを取りだした。うっすらと黄色みかかったアイスの上に、甘く味付けしたピンク色の醤油をさっとかけた。 ナユタは紙皿を取りだすとクレープにくるんだアイスをのせ、ナイフで二つに切って開いた。そこへやはりピンク色の醤油をかける。 「みなさーん! 日本は、世界でどのくらいアイスを食べている国かご存じですか?」 唐突過ぎる倫護の問いかけに、当の緑鬼たちはもちろん、カメコたちもシャッターを切る指を止めて振り返った。 「答えは16位です」 「へー」とか、「ほんとかよ」、とかつぶやきが、ぼそぼそとではあるが聞こえた。 掴みはOK。弛んだ場の雰囲気にすかさず、カメコたちの間をすり抜けて緑鬼たちに近づいた。 「ということで、とってもヘルシーな節分アイスクリームです。どうぞ」 突っ込みが入る前に、倫護はアイスの乗ったコーンを差し出した。 ナユタも男鬼にアイスの皿を押しつける。 「せっかくだけど、二つも食べるとお腹が……」 「あ、良かったらコレ履いてくださいなのだ」 いつの間にか、チコーリアたちが屋台を押してやって来ていた。 どこで買ったのか……。 チコーリアは手に男の娘用に作られた、前が立体裁断のショーツを何枚も持っていた。 好きなものを選んでください、とおっさんの鬼に手渡す。 智夫はラーメンの準備をしながら、千里眼を使って周辺の道をひとつひとつ確認していた。行き止まりなど、鬼たちを追い込むのに向いた場所をあらかじめ知っておくためだ。 その智夫の目の前で―― 「あ! パーカーもあるから……あるから、パンツを履くのはどこか影になったところで、やめて、ここで履かないで!」 見たくない、と。悲鳴に近い声で、麺の湯きりをしながら智夫は叫んだ。 ● 男鬼たちに首尾よくパンツを履かせたリベリスタたちは、いよいよ豆まきを始めることにした。 アイスを食べて体を冷やした鬼たちはいま、辛くて熱いラーメンをたべて汗をかいている。貸し与えたパーカーも脱いで(あ、パンツはいいです。そのままで……、と倫護)、腹ごなしの運動でもしようか、という気になっているようだった。 最初にサポーターを回収するのは青鬼のグループだ。 「豆よ~い、始め!なのだ!」 チコーリアの号令で、一斉に炒った豆が飛ぶ。 ナユタはイーグルアイで解除スイッチに狙いを定めた。チコーリアも集中を重ねて命中率を上げる。 「今、ちらっと見えたよね!?」 「鬼は外、ブラは~うちーなのだ!」 まさか、豆が当たったぐらいで外れるとは思ってもいなかったのだろう。四人のリベリスタが一斉に襲い掛かったこともあり、青鬼たちはあっさり陥落した。 (女性でも男性でも、見えちゃうと大変だし) 汗をかきながら智夫がきびきびと動き回って、サポーターが取れた鬼にバスタオルをかけて回る。その間、こっそり写真を撮ろうとする隆志とカメコたちに睨みをくれることは忘れない。 ナユタが腕を大きく振って、周りに群がっていたカメコたちを追い払った。 チコーリアは可愛い男の娘の青鬼からパレオを回収した。 「毛布もどうぞ。かわいい鬼娘の写真はあそこにいる太目のおじさんが撮ってくれているのだ。あとでもらうといいのだ」と隆志を指さす。 「ようし、次は二手に分かれて鬼退治だな。おっさんふたりが手ごわそうだけど……行くぜ、ナユタ!」 「おう!」 倫護とナユタが緑鬼たちのところへ向かった後、智夫とチコーリアはそれぞれこっそりと回収したサポーターをこっそり隠した。 互いに苦笑いをかわすと、それぞれ逃げる赤鬼たちの背を追った。 智夫は巧みに豆を投げて、赤鬼の一人を路地の突き当りへ追い込んだ。 人目につかないようにこっそりと超幻影を使い、緑鬼に変じて路地へ足を踏み入れる。まさか見破られはしないだろうが……好奇心も手伝って、先ほど手に入れた筋肉増強サポーターも身につけた。 「びっくりしたよね。あいつら、研究所からきた追手かな?」 誰、と赤鬼に怯えた声で問われて、「そっちは大丈夫だった?」と返す。怯えた風を装って接近し、相手が油断して緊張を解いたところですかさず豆をぶつけた。 「ちょっとドッキリみたいになっちゃったかな……。ゴメンね」 チコーリアは一番足の速い赤鬼を追っていた。 逃げられそうになったところで、「もっとスタイルがよくなるアイテムがあるのだ(嘘)。取りに来るのだ!」と叫び、まんまと足止めに成功。振り返ったところへ豆を投げつけて、手際よくブラとパレオを奪い取った。 「これ? これはさっき青鬼さんからとったやつなのだ。もっとスタイルがよくなるやつがあったらチコが真っ先に貰っているのだ」 そういって、チコーリアは小さな体に不釣り合いな、尖ったおっぱいを突きだしながら赤鬼に毛布を手渡した。 うまく当てれば、お姉さんたちのあられもない姿が……どきどき、と胸をときめかしたときも確かにありました。 豆を手にナユタはため息をついた。 意外とてこずったのは、赤鬼よりも緑の男鬼たちのほうだった。倫護が予想したとおり、ブラを奪い取ってからの男鬼たちの反撃は凄まじく……文字通り鬼気迫る表情で「返せ」とツバを飛ばしつつ思い金棒を振り回す。 (早く豆を当ててサポーターを解除しなくちゃ) そう思いはすれ、どうにも気分がのらない。パレオが落ちて見えるのが、モロではないものの総レースの…… 「ナユタ、早く! 僕が後ろから羽交い絞めにしている間に!」 はあ、とナユタはまた魂が抜けたような息を吐いた。 「ナユタ―!!」 倫護の絶叫で腹を決めて、ナユタはえい、と豆を投げた。 ● チコーリアと合流し、その姿を見た智夫が大爆笑した。 「智夫おにいさんも……うー、おっぱいあっても変じゃないのが悔しいのだ」 唇を尖らせるチコーリア。 「あ、こら!」 どなり声とともに豆が飛んできた。倫護とナユタだ。 智夫とチコーリアは抵抗しなかった。ちょっとした好奇心で身につけたまで。本気で欲しいと思っていたわけではない。少なくとも、智夫は。 「ボインボインになったら……クルトさんに見せようと思っていたのだ」 「チコちゃんにはちょっと早いかな」と倫護が苦笑いする。 ナユタは智夫へ目を向けた。 「意外性がないぐらい、似あっていたね、おっぱい」 言われた智夫は複雑だ。褒められているのか、それとも……。判断に迷った挙句、中途半端な微笑みで受け流した。 「あと一人。まだ赤鬼が残っている。さっさと見つけて回収しよう」 「終わったらアイス食べてもいいですか?」 いいよ、と倫護はチコーリアからサポーターを受け取った。 「ボクもラーメン食べたい」 「オレはからいの苦手だから……ラーメンは遠慮しとく。アイスは食べるよ。あ、フィアキィはもう駄目だからね。食べ過ぎ」 実際に食べたのではなく、どうやらイメージと言うか、物質の持つオーラと言うか、そんな感じのものを取り込んだらしい。が、みればしっかりと腹が膨れていた。 「……特例だろうね、きっと」 ひとしきり笑いあったあと、智夫は千里眼で、ナユタはイーグルアイを使って辺りを探った。 先に赤鬼を見つけたのはナユタだった。どうやら一人残され、寂しくなったところで仲間の様子を見に戻ってきたらしい。 戦い慣れたリベリスタたちは気づかれないよう四方から赤鬼を取り囲んだ。あとは簡単なもので。 倫護とナユタがあっさりボタンに豆をあててブラとパレオを落とすと、智夫がバスタオルでさっとしゃがみ込んだ女の体を包み、チコーリアが回収してホコ天を騒がせた鬼騒動は終わりとなった。 「さあ、あの三人も捕まえて……三高平へ戻ろう」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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