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さばいばる☆どりーむ(きっと貴方の想像とは違う意味で)


 正月に、初詣に行った人も少なく無いだろう。
 まだ行ってない、とか行く予定もない、な人も少なく無いだろう。
 ひとりで近所の神社の階段を登る少年、F(仮名)も後者のひとりだった。
 だが、それも致し方ない事情があったのだと、彼はそう思う。
 ――彼は受験生なのだ。
 勉強があまり得意でない彼にとって、そもそも大学なんて半年前まで行く気もなかったのだ。だというのに就職活動だってやっていなかったのだから彼の性格その他諸々は察していただきたい。
『わたし、合格判定があんまり良くなくて……ねえ、F(仮名)くん、一緒に勉強しよう?』
 そう言ってくれた彼女が現れるまでは。
 料理が得意で、掃除はちょっと苦手で、かわいい女の子にそう持ちかけられて張り切らない男などいるものかと、Fは固く信じている。ともかく、急にやる気を出したFが受験をする、と言い出したことに両親は驚きながらも応援してくれ、そうして彼は過日のセンターだって乗り越えたのだ。もともと目指す学校があったわけではない。あの彼女(付き合っているわけではない)と同じ学校を『偶然だね、俺もそこ志望なんだ』と言ってしまった手前、あの大学に出願はするつもりだが――はっきり言って、受かる目はまずない。
 それでも、もし。万が一。
 一緒に合格できたら。
 その時は、付き合って欲しいと正面から言えるような気がするのだ。
 賽銭箱に5円を放り込み、2拍する。
 そういや階段の真ん中通ってきた気がするし御手水ってなんだっけって今更思ったし鐘鳴らすタイミングいつだとか気になったし賽銭を投げちゃいけないとか爺ちゃんに言われた気もするけどまあいいや。
 とにかく。
「神様女神様キリスト様菩薩様ー! 俺を合格させてください!」
 その時一陣の風が吹き、安産祈願の絵馬が揺れた。

 ――その願い、叶えてしんぜよう――




 聞こえた妙な声に、は? と声を上げて周囲を見回し、それからあれ、と首を傾げた。
 何をやってるんだ、俺。大学の入試? そんなのはだいぶ前の話だ、今は3限の講義を受ける前に飯を食おうって、一緒に食堂に来て、そうだ、あの子は。
「どうしたの、Fくん?」
 少し伸びた髪で、隣から覗きこんできた。食券を買ってきてくれたらしい。
「変な顔。夢でも見てた? ほっぺ、服の跡ついてるよ」
 慌てて頬に手をやると、「う・そ♪」なんて言って来られて。ああもう、かわいい。
「えっ……そんな、急に……」
 恥じらう彼女に、俺の方が驚く。俺、声に出てたの?
「そうだよ……その、いくらお付き合いしてても、そういうこと、不意打ちは……もう!」
 頬を赤らめてそっぽを向かれた。ああ――俺の大学ライフ、充実してるなあ……


 生暖かい表情に死んだ魚のような目ではっぴーきゃんぱすらいふ☆を映し出す画面を見ていた『まやかし占い』揚羽 菫(nBNE000243)が、映像を静止してHAHAHA、と乾いた笑いをこぼした。
「実にいいね。こう、これを引き裂いて悪夢のような現実に引き戻してやるとか、実にこう、いいね!」
「……で。どういうエリューションなんだ?」
「話が早くて助かるな。まあ概ね予想は付いているだろうが、これはこの少年の夢だ。
 センター終わったばかりで大学生活の夢とか鬼に嘲笑われるといい。こいつの学力で受かるような大学ではないのも調査済みだ。だいたいこの女が性格悪い。こいつ受験する予定の大学の男子生徒と交際中だし明らかに勉強が得意でないF(仮名)に勉強の説明をする方法で自分の受験勉強の足しにしてるし挙句に本当は合格判定余裕な上でFが落ちるのを見越して後で告白だのされても今は大学に専念したいのとか言ってる間にフェイドアウトできるって算段だぞ、自分に好意持たれてることは最初からわかってやってやがる。えげつねえ。本当にえげつねえ。だがそんなことは本題ではない」
 ぐだぐだとどうでもいいことを言ってから、菫はリベリスタの顔ぶれを見回す。
「夢はあるか?」
 唐突な言葉。その言葉に、今度はリベリスタたちが顔を見合わせ、菫に聞き返した。
「つまり、夢を見せるエリューション、ということなのか」
 そういったエリューションの事例は、いくつか報告されている。それだけ、『人の願い』の持つ熱量は何かの歪みを呼びやすいのだろう。だいたいそういうことだ、と菫も肯定した。
「一般人が取り込まれた場合、自力での脱出はできない。つまり、ほうっておくとさっきのFは眠り続けることになる。その方が幸せそうな気はするが、眠りっぱなしでは衰弱は避けられんし、最悪の場合はノーフェイス化……予測の限りでは、こいつはフェイトを得る可能性はない。ただ、この少年は既に取り込まれているから、被害拡大前に原因となったエリューションを排除して欲しい、というのが今回の仕事だな」
「この少年はどうなってる?」
「現在は病院に保護されている。エリューションを倒せば起きるから気にしなくていい」
「エリューションとの遭遇方法は?」
「神頼みだ。
 夢や希望や、些細な願いでも構わない。
 神様にでも頼まなきゃ無理だろ、という内容を願うことで、夢の中に引きずり込まれる。
 言っておくが、ダイエットとかは『個人の努力が足りない』ものだから神頼みにはならない。即物的なモノも『買えよ』で住むレベルだと難しいようだ。具体的には購買部で買えそうなモノな。
 あと、『死者に会いたい』なども、会話や行動の類は無理だ。その願いはげっ歯類の力を超えている。
 引きずり込まれたら、その世界の中に必ずエリューション子機の姿があるから、それを壊せばいい。
 リベリスタなら『起きよう』と思うだけで夢から抜け出せるんだが、壊さずに抜け出すのはやめておけ。
 4体以上を夢の世界内で破壊すれば、そのエリューション本体も目の前に姿を現す。
 体力だけはあるようだが抵抗能力はないから、延々どつきまわす程度で撃破できるだろう」
「……エリューション、エリューションと言うけど。結局何を倒せばいいんだ」
 何かの違和感がある。
 エリューションには種類がある――エリューションフォースだの、エリューションエレメントだの。
 そのあたりを聞こうとしたリベリスタは、ひどく渋面した菫を見ることになった。

「エリューション……八百万のシメサバ」

 その姿を耳にしたリベリスタは何故か脳裏に、女装した大御所芸人の声が響くことになる。
『とんでもない! あたしゃシメサバだよ!』 と――


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年02月16日(月)22:41
こいつを出さねばという謎の強迫観念。ももんがです。
このシナリオは拙作id/1812『たすけてかみさま!(Help me,GODDDDDD !!)』、
id/3399『ゲレンデが絶好調で真冬の恋はロマンスの。』と、なんとなーくちょっぴり
似ていなくもないでが特に関係ありません。別のシメサバです。

●戦場
とある神社の境内。人はめったに来ませんが、まったく来ないとは言い切れない程度。
広さはそこそこ。

●やおよろずのシメサバ
数多くの神頼みから生まれたエリューションフォース。
あなたのこころとからだを特に守りませんが、あなたの望みがかなった夢を見せてくれます。
ただし、BNEは全年齢なので夢の内容は公序良俗に反しないようお願いします。
子機はただのシメサバです。本体は会話可能ですが、なぜかやたら威張り散らします。

A:さばいぶ
ぴちぴちはねます。以上。

●やおよろずのシメサバ撃退方法
夢の中にわざと引きずり込まれることで、子機を探すことが出来るようになります。
夢の中のありとあらゆるものの中に、シメサバが存在する可能性があります。
だってやおよろずだから。
なので、あなたが「ここにある」と定めた物から子機サバを取得し、壊してください。
物の指定がなかった場合はどういう状況下でも鉄アレイの中にあったことになります。
食べてもお腹は壊さない夢仕様。満たされもしない夢仕様。

4体以上の子機サバを破壊すれば本体が神社に出現するので、夢から離脱しましょう。
あとは本体を消えるまでどつき回せば完了です。

●あてんしょん
ゆるゆるシナリオです。夢にかこつけて遊んでください。
真剣に迅速に合理的に対処するとすぐ終わるうえ描写が減る可能性があります。
あと、BNEは全年齢です。全年齢です。
参加NPC
 


■メイン参加者 4人■
ギガントフレームナイトクリーク
ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)
ジーニアスクロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
メタルイヴプロアデプト
エリエリ・L・裁谷(BNE003177)
ハーフムーンレイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)


 占い師でもあるフォーチュナは、ひとりのリベリスタにもう一度、注意事項を繰り返した。
「死者に会っても、会話や行動の類は、無理というか、無意味だ。それでもいいのか?」
 ああ、と。彼は肯定する。
「元から返事など求めていない。形だけの紛い物(I)で十分だ」
 己のミドルネームを示して。夢は己の投影。――そして、どこまでも本物からは程遠いimitation。



「はっ!?」
 がたりと、椅子を蹴立てて立ち上がった彼に、周囲はクスクスと笑いを向けた。
「えっ、教室……制服!?」
「なんだ、寝ぼけてるのか?」
 慌てながらも事態の把握に努めた『全ての試練を乗り越えし者』内薙・智夫(BNE001581)がクラス内を見回すと、教師が呆れた声を出した。
「指されてもないのに立つとか、気合入ってるな? 教科書128ページの最初の段落から読むように」
「ええっと……メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かねば――」
「内薙。私の授業は、英語だ」
 中学英語の教科書を手にした教師が、更に呆れた様子で智夫を制止した。

 ***

 今どき、ネオン街なんてものもすっかり元を失った言葉に成り下がった。便利さや扱いやすさに電気代、入れ替わりの早さや加工の楽さに、すっかりプラスチックパネルやらLEDに取って代わられた。
 だが、Ne、He、Ar、Xe、kr。ダイオードの冷たい光でなく、既に懐かしさの色さえ醸し出すガス管を、代替のない味として未だ好むものもいる。
 例えば『チープクォート』ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)のような。
 一度目を閉じ、開いた彼の眼前には、『ネオン街』があった。
 派手な灯は目を刺し、しかし知らず目を細めたのはきっと、その懐古に故だ。ジェイドは迷うことなく歩を進める。明るい街並みに用はなく、一歩奥へと踏み込めば、歓楽の賑は急に鳴りを潜める。その奥に、当たり前のように佇む扉を開くと、僅かな錆の音がした。古い洋酒色の照明が落ち着いた内装の店内を切り取る。バーカウンターには、先客があった。――望んだ通りに。
「よう、先輩」
 新たな来客に気づく素振りもなく、ただグラスを傾ける存在にジェイドは声をかける。
 時間の流れが止まった相手は、ただ過去の記憶のままに座っていた。

 ***

「ニエット! かみさまニエット! 宗教は人民の理性を蝕む阿片である!」
 ある意味で神じみた存在が実在することを革醒者は知っている。だが、夢にそんな条理は意味を成さぬのだ。それにそもそも、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)の言うソレはそんな意味ではない。
 なぜなら、この夢の世界は、赤かった。
 まーなんか色んな意味で、真っ赤だった。
 物心万物すべからく赤化すべし!
 数多の争いを経て幾星霜。
 遍くひとつの思想のもとに統一された理想社会、それが赤色シメサバ共和国である!

 ***

 降り始めた雪が足跡を隠していく。
 一面の銀(まっしろな)世界に、ひとりの『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)。
 吹きすさぶ風の中、こころのままありのままに叫んだ。
「神は死んだ! もういない! またシメサバじゃねえですか!
 ――よし、八百万のシメサバよ! わたしの願いを叶えるとです!」
 あえて言おう。この邪悪ロリなんでこんな危ない橋作って渡ろうとしてるんだ!!



 夢だ、と思う。
 いくらなんでも、うたた寝したまま次の授業まで寝こけてしまったような記憶はない。忘れてるだけかもしれないけれど――だけどあの日、先生に声をかけられた理由はそんなことじゃなかったと思うのだ。
 智夫にはこの夢の中の日付がいつのことなのか、はっきりとした確信があった。
 現実よりいくらか背丈の高い世界。いや、多分、智夫の背が低くなったのだ。あの頃に合わせて。
(これは……中学のあの日……)
 居ても立ってもいられない。
 急がなければ。
 校門で、彼女は待ってくれているはずだ。待ち合わせをしたのだ、いつものように。
 息を切らせて駆けつけた智夫に気がついた人影が、手を振ってくれた。
 体中に血液を送るために慌てすぎた心臓が爆発しそうだ。懐かしすぎて胸が張り裂けそうだ。
 まだ、ほんの数年しか経っていないはずなのに。
 ――彼女の顔を、まっすぐに見ることが出来ないのは、極端に強い逆光のせいだ。
 今でも、稀に手紙をくれる彼女だけれど、最後に会ったのはこの日。
 彼女は中学のある日を境目に、突然、智夫の前から姿を消した――。

 ***

「自他共に認める邪悪ロリ、というのは前回やりましたので」
 夢見るお年頃(15)、望んだのはステロタイプなお姫様。
 石柱(追加BS凍結)をぶんまわし、教会のような城のようなものを建築(手段割愛)するエリエリ。
「つまりこれは……エリ(エリ)と穴(が手に開いてる)の女王!
 どこかにナイスガイなイケメンはいませんか!
 恋に落ちたり暴走したりなんだりして! 最終的には姉妹愛とかで我に返るとです!」
 石を、いや雪球を投げろー! 雪だるまでもいいぞー!
「あっやめて雪玉なげないでやめてごめんなさいやりたかっただけなんです」

 ***

 ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァは、新聞記者である。
 赤革の手帳に、今日も赤インクを迸らせつつ街の片隅目を光らせるのだ。
 赤色シメサバ共和国において、建国の始祖たる『ビッグシスター』は素晴らしき隣人であり、尊敬すべき友人であり、崇拝でもって迎えられるべき現人神であらせられるのだ。
 街にはいたるところに、その褐色の肌を称えるように、華奢な体つきにささやかな胸の少女像や絵画が溢れ、その神々しさは芸術性などというありふれた言葉で言い表せるものではない。各家庭には、御真影として必ずそのポスターが飾られている。
 無謬にして鋼鉄の霊将たるビッグシスターは宣う。
『いつも人民を見守っているのだわ!』
 Big Sister is watching you!
 ビッグシスターの加護に守られ、人の営みは輝かしい素晴らしい光に満ちている。
 ――しかして。

 ***

 強い酒は、しかし喉を焼かない。そのくせ味と酔いは現実より強く感じる――まったく都合のいい夢だ。
「今じゃ、七派も片手の指の数まで減っちまった。
 それも裏野部から消えるとか、アンタが逝った頃には思いもしなかったもんだ。だが、まあ――」
 別の問題は日々押し寄せているが――まあ、些事だ。何せ。
「――相変わらずろくでもなく、あがいて生きてるよ、俺は」
 空になったショットグラスをカウンターに置いて、少し目を離せばもうそこには揺れる琥珀色。
 干せども尽きぬグラスの中身は、思い出話で、文字通りの冥土の土産。
 昔話に、今も未来も必要ない。



 しかしてその実体は『党本部』、P.E.A.C.H.と称される一部のエリート層が作り出した偶像である。
 彼らが操る世界において、赤色は全てに勝る物であり、緑のピーマンは許されないが、赤いパプリカは許されるのである。ブルースクリーンなどというものもなく、赤く染まったレッドスクリーンは苛烈な業務に追われる人民に一時の休息を約束する思いやりにあふれた処置なのである。紅白歌会戦などという赤の敗北をありうるものとする不敬なものは存在すら許されず、ただレッドソングバトルあるのみ!
 ――嗚呼。世界はなんと不幸の多いことだろう。地球表面の7割は海だという。だとすれば海は赤くあることが自然であり、すなわち真実の姿は朝夕のものであることがこの邦における真実、だというのに他国の多くは海が青いことが事実だと信じているという哀れな話を耳にした。……言葉の意味などわかっている。人が事実だと信じるものは、きっと人によって違うのだ。その違いが争いを、戦を呼ぶのもまた然り。戦火の赤を望むものが居ることもまた、然り。されど人民がそれを知っては、国に不要な動揺が奔る。
 今日もまたベルカは、「真実」を人民に啓蒙すべく、ありもしない大勝利や大増産を新聞に書きたてるプロパガンダに従事し、人々の、ビッグシスターを称える生活がどれほど『嘘偽りなく』素晴らしいものであり、赤色シメサバ共和国の未来がいかに栄光に満ち溢れているのかを、赤で印字された機関紙を通じて――

 ***

「アンタの事を思い出すから、俺の店、W&Wは真っ黒にしたんだ。
 デジタルノイズとネオンサインが目と耳を焼くように。
 悪趣味だって笑うだろう。でも、俺の趣味はこうなんだよ、先輩」
 固茹で卵を気取った男の感傷的なSaudadeは一方的で、それでもジェイドは語ることをやめなかった。
 ただの自己満足だとわかっていても、止めるなどという選択肢はなかった。
 無意味だと繰り返し聞かされても、それでもジェイドは思うのだ。
 ――身体の内が機械に置き換わったあの日から、奇跡なんて物は腐るほど見てきた。
 だったら、もしかしたら。
(ここで話した言葉が、向こうで宜しくやってる先輩に伝わるかもしれないだろう?)
 冷笑、と呼ぶには些かウェットなものが、ジェイドの口端に上る。
「伝わらなくても、誰も困らない。気楽なもんさ」

 ***

「智ちゃん、来るの遅いよ」
 ふい、と顔を背けたのはちょっと拗ねてみせるポーズだろう。彼女の髪がさらりと揺れた。
「ごめん、ちょっと生活指導の先生に捕まっちゃって……」
「それなら仕方ないね。ケーキ1つで許したげる」
「それ、許してくれてるのかなぁ?」
 笑ってしまう。あの時も笑った気がする。きっとあの時と今とで、笑った意味は違うのだけれど。
「すっごくおいしいチョコレートシフォンケーキのあるケーキ屋さんを見つけたの。明日いかない?」
「うん――」
 いいよ、と。
 そう答えようとして、智夫の喉がひりついた。
 あの時智夫はどう答えただろうか。思い出せない。それは日常の一端でしかなかったから。
 彼女の、『まるでいつものように』遠ざかろうとする腕を捕まえた。
 もうすでに智夫は中学生の智夫ではなく。今の身長で。今の服装で。
 もう一度彼女に会いたい。
 それは、過去に戻りたいという意味ではない――だから、中学生の智夫は今はもうここにいない。

 ***

 夢は不毛なものである。
 冷たく輝く城の内装は豪奢――に見えつつもぼやけ、決してピントが合うことがない。
 手近なところでつまみ上げた食器は、どうも細工が凝っているとは言い難い。
 つまりこれは。
「想像力の、限界……」
 エリエリはぐったりと、氷製のはずなのに柔らかく暖かいカウチソファに垂れエリした。
「でもお姫様とかめっちゃ憧れるじゃないですか。
 特にこの年齢になるともはや夢見る少女じゃいられないロリなので」
 そう言う時期が、少なくない数の女の子にはあるのだ。
 変身願望の一種と考えてもいいだろう。しかも某世界的アニメ会社の提示するプリンセス像といったらどうだろう。何かしらの苦労があったとしても、ただ可愛いだけで白馬の王子様(など)の方から迎えに来てくれるのだ。戦いなどの義務や使命を負うヒーローとも違う、ただ誰もが憧れる「美貌」だけで勝ち馬に乗り続ける人生。これに微塵も憧れや羨望を感じないのは、なかなか難しいものがある。



「この後――この先の分かれ道でバイバイしたら、そのままいなくなっちゃうんだ」
 自分の声が乾いてかすれそうになっているのを、智夫は耳にした。
 今、この夢を見ているのは、ありきたりな日のふりをした別れを再現するためじゃない。
「だから、もう行かないでよ、ねえ!」
 せめてもう一度、はっきりと顔を見せて欲しい――そう願って、つかんだ腕を引き寄せる。
「って、サバああああああああああ?!」
 振り向いた彼女の顔は、しかしシメサバだった。

 ***

 思春期真っ只中かつ実質的に天守孤児院を切り盛りしているエリエリには、現実がよく見えている。見えているからこそ、程遠いものに惹かれもするというものなのだ。
 せめてエリューションぢからを使ってでもお姫様気分を味わいたい。
 豪華なドレスとか着たいし美味しいものだっていっぱい食べたい。
 だけど服のレースはきっと機械編みのやけに規則的なもので、生地も子供用コスプレドレスに使われていたようなサテンっぽいつるつるしたもの。
 雪だるまの給仕によって運ばれてきた食事も、なんだか見覚えがある。多分これ、いつだったかの記念日に奮発してみんなで食べた、どこかのホテルのバイキングのメニューだ。
 なんだろうこれ。つまりは、身の丈ということなのか。
「せめてもう少しお高いホテルに時村関係のイベントで行っておけば良かった……ちきんおいしい……」
 世知辛さに目から光の消えたエリエリは、その表情のままバイキングに並ぶシメサバをですとろいした。

 ***

 ジリリリリ、と古い電話機がベルを鳴らす。カウンター上の神経質な金属音に、ノスタルジーよりも現実感が先立つ。一度だけ強く目を閉じてから、受話器を取った。
「ありがとう、もう十分だぜ、神様」
 そのまま握りつぶした受話器――は、いつの間にかシメサバにすり替わっていた。
 ジェイドは開いた手の中に残った物を苦い顔で振り払うと、低く呟いた。
「締まらねえ終わりだぜ、チキショウ」

 ***

 記者ベルカの活躍をその世界全てを、胡座をかいて見ていたベルカはぱたりと尻尾で地面を叩いた。
「……っていやーさすがにここまでのディストピアは引くわー」
 望んで見ておいて何だが、しかもそこかしこ何かおかしなズレがあるように思うが、それ以前にこれちょっとそもそも、いやちょっとこれは、ああ、うん。
 ロシア帽をくるくると指に引っ掛けて回しながら、ぽりぽりと頭を掻く。
「私ってばガチの主義者じゃなくてただの趣味者だし。
 なんなら神社とかも普通に詣でるし。誘われりゃ一般参賀だって余裕だし。
 阿片って麻薬じゃなくて痛みどめ的な意味だったっぽいし」
 ベルカは自分の言葉に自分でうんうんと頷きながら立ち上がると、記者ベルカのポケットを漁った。
「あっ同志私。何をする、それは大切なモノだ、返すがいい」
 メモ書きをやめないながらもベルカを制する記者ベルカの持っていたそれを、ベルカはまじまじと見た。
 ビッグシスターの有り難いお言葉が満載の、『プラム様語録』。だわ、の語尾率が妙に高いそれをぱらぱらとめくっていくと、途中でページがくり抜かれていた。そこに隠れるように存在していた、シメサバ。
「同志私。このシメサバが大切なモノなら、いっそ口の中にでも隠したらどうだ? こんな風に」
 あっけにとられる記者ベルカの前でそれをもぐもぐと噛みしめると、夢の世界は霧散した。



「うわあああああああああああ!!」
 夕方の境内に智夫の悲痛な声が木霊した。
 結界の展開は到着してすぐに邪悪ロリ()が済ませているから、それを誰かが聞き咎めることはなかった。
「僕の過去を、流した涙を、あの時彼女を失った悲しみを、返せエエええ!!!」
 血涙でてそうな勢いで、でかめのシメサバにマウントポジション(正確にはそうでもしないと大きめとはいえ地面でぴちぴちしてるシメサバには届かないためである)とってどつきまわしている。
「ちょ、ま、はなしっ、話をしようじゃないか少年!?
 そのためにも今はとりあえず我を開放せよと言いたいのだぐほっ!?」
「サバなんて、やおよろずのシメサバなんて滅びればいいんだあああああ!!!!」
 命乞いなのかいいわけなのかよくわからないことをほざく(口もないのに)シメサバだったが、智夫、聞く耳持ってない状態である。
 とはいえ仕事としても目標はシメサバの撃破である。話聞いてもろくなことにならないのは間違いない。
 ひとしきりどつきまわして存在感もうっすらしてきたシメサバが震えるように唸る。
「こ、この我が消えようともっ……人に神頼みの欲がある限り、第二第三のシメサバが、必ず……!」
 まあこいつが既に第三のシメサバなんですけどね。
 そこに破裂音――銃声――が響いた。
 硝煙が立ち上る銃を手にしているのは、ジェイド。どうしようこのオッサンまじギレしてませんか。
「み、み、みんなキライやぁああーん!!」
「って、おっと」
 智夫の、まだ殴っていた拳が空を切る。風穴を空けたままわなないていたシメサバが消えたのだ。
 どうにもこうにも、すっきりしない空気が境内を支配する。
「……あれが最後のシメサバだとは思えない。いずれ第二第三の――」
「それさっきシメサバが言ってましたし」
 頑張ってしめようとしたベルカが思いっきり滑り、エリエリに突っ込まれる。
 ――なんともしまらなかった。シメサバだけに。

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
シメサバが好きです。
あぶりサーモンはもっと好きです。
でも子供の頃って魚があんまり好きじゃなかったです。
給食のアジの開きとか、キャベツがよく添えられてたように記憶しています。
それがまたべしょってしてて、水気を吸って悲惨だったんですよね。
ああ、キャベツの千切りも、実はだいぶ好きじゃないです。
ある年に食中毒が騒ぎになって、キャベツの千切りが急遽茹でられたんですよ。
そしたらその茹でキャベツがもう不味くて不味くて。
せめて塩茹でだったらまだ食べられた。というかきっと美味しかった。
お湯なんです。オンリーお湯。茹でただけ。もうね、それがトラウマなのです。
火をしっかり通したかったのでしょう、味がすっかりお湯に逃げ切ったキャベツの千切り。
ドレッシングも何もなくただ茹でただけのそれ。それがアジフライの横にあったんです。
それ以来、どうにも食べたくないし、もちろん作りもしないわけです。
ああ――しまらないなあ、シメサバだけに。