● あぁ、全くついていない。 目の前のフィクサード達からの攻撃を剣で捌きながら、心の中で橘和輝は毒を吐いた。 「ははは! どうしたよ! 最初の威勢は何処に行った!」 「よく言うね」 既に戦況は佳境へと入り、戦いの終わりが見え始めていた。 和輝と同じくこの場所に向かった仲間達も応戦はしているが、疲労の色が濃く、既に軽傷とは言えない状況にある。 対して、フィクサード側には疲労を抱えている者、そして怪我をしている者も殆ど見受けられない。 和輝と複数名のリベリスタは小さなリベリスタ組織として活動をしていた。 勿論、フォーチュナも擁していたし最大限危険への配慮はした──筈だったのだが。 しかして、方舟の万華鏡ならばいざ知らず。 通常の力のみでの予知であれば、その情報は完璧な物とは言えずどうしても取りこぼしが存在する。 「くっそ、こいつ等……!」 数年来の友人である大井道重が、巨大な斧を振り回しフィクサードを吹き飛ばす。 通常であれば相手を、一撃で倒す事に長けているデュランダルの一撃だ。 しかし、そのフィクサードは僅かな傷は負ったものの、致命傷には至って居ない。 「どうしたって此処まで戦えやがる、手応えは有ったってのに……!」 フィクサード達の後方に配置されている、紅く冷たい輝きを放つ水晶球が台に設置されている。 その近くには、和輝達リベリスタが救うべき一般人が何名も横たわっているのが見受けられた。 外傷は無いが、呼吸は弱く、中には既に息を引き取っている者も居るだろう。 その水晶球が光を放つ度に、フィクサードはその力を増すのだ。 原理は分からないがアーティファクトの一つなのだろう、破壊しようにも既に手数も戦力も足りておらず手詰まりだと言っても良い。 「原因はあれだろう……何処からあんな物持ち出して来たんだか。けれど、このままじゃジリ貧だな。このままじゃ何れ──」 全員、削り切られて殺される。 撤退するか? しかし、撤退するべきルートも数名のフィクサードによって塞がれてしまっている。 だとすると、撤退をするにしても分の悪い賭けにしかならない。 前門の虎、後門の狼という奴だ。しかし、決断は下さなければ── そう思考しながら、和輝は一般人へと視界を向ける。 此処でそうしなければ、和輝はその決断をしなかったかも知れない。 けれど、確かに。 まだ小さく10歳にもならない子供だろうか。 確かに、僅かにその子の唇が動いたのを和輝は見てしまう。 ── タ……ス、ケ、テ。 その目は焦点が合っていない、虚ろな物だ。 しっかりとした意識は無かった。 恐らく、無意識下の中で発せられた言葉だったに過ぎない。 けれど、確かにその言葉はこの場にいるリベリスタに届いてしまった。 その瞬間、これまで防戦に徹していた和輝の剣がフィクサードへと一閃される。 相手の胴へと剣戟が吸い込まれ、剣が通過した傷口から血飛沫が舞う。 「くっ、こいつ……! 急に!」 静から動へと突如切り替えられた剣戟にフィクサードは対応出来ない。 続けざまに繰り出される攻撃に後ずさり、攻撃を回避する。 「あーあ、導火線着いちまったのか?リーダー」 「……悪い」 苦笑する様な道重の言葉に、謝罪を入れる。 他の仲間も道重と同様な反応を返していた。 後は、何も言わずにリベリスタ達は黙ってフィクサードに向き直った。 前に進むか、後ろへと引くか──先程の和輝の行動を見てどう動くのか決めたのだろう。 「やるってんなら皆殺しにしてやるよぉ、正義の味方共が! 簡単に殺しはしねえ! 死ぬまで何度も何度も切り刻んでこの世に生まれた事を後悔させてやる!」 「勘違いするな、俺達は正義の味方なんて高尚な物にはなれない──ただ、自己満足に浸りたいだけの死にたがり共の集まりだよ」 その言葉を吐いた和輝の表情は、何処か誇らしげな顔をしている。 仲間達も同様なのか、これから死地に挑むとも思えない程に清々しい顔だ。 ある者は剣を、ある者は拳を──ある者は、心を武器に携えて。 戦士達は前へと一斉に踏み出す。 世界だ何て、大きな物を守れるとは思っていない。 主役に足りえるだけの運命には愛されていない。 既に結末は見えている。きっと自分達は敗北し、掲げた矜持すら圧し折られるだろう。 ただ、自分の命だけは……譲れない物がある時に惜しみたくは無かった。 ● 「前に進むべきか、退くべきか。その決断をした人は皆の中にも居るかもしれない」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)ブリーフィングルームへと呼び出されたリベリスタを見渡しながらそう口にした。 「小さなリベリスタ組織とフィクサードとの争いが起きる。リベリスタ組織の名前は『テンペスト』……もしかしたら、この中の誰かが知っているかも知れないね」 結果は……私が皆を呼び出した時点で分っているかも知れない、と俯くイヴ。 その言葉と様子にリベリスタが敗北してしまうだろう事を理解した。 方舟がその稀有な勝利数、生存率を誇っているのは万華鏡の存在他ならない。 その万華鏡が無い時点でフリーのリベリスタの生存率は極めて低下してしまうのだ。 「フィクサードはどうやら、一般人を拉致して居たみたい。理由はとあるアーティファクトを活用する為。そこにリベリスタが介入したみたい」 それで、今回の作戦目的なのだけれど……と、イヴは続けて概要を説明する。 「フィクサードへの対処。それと囚われている一般人の救出を頼みたい、可能ならリベリスタ達も。……けれど、一番の問題はこれだね」 イヴはモニターを操り画面に紅く冷たい輝きを放つ水晶を写し出した。 「名前は血贄の宝玉。名前から察してるかも知れないけれど、生きている人間の血を捧げる事でその力を発揮する」 イヴが言うには、これは親機で子機に相当する水晶球をフィクサード達が所持しているらしいと言う事。 そして、生贄が捧げられ続ける間は子機を持つフィクサード達は強化されてしまうのだそうだ。 「どうにかして、親機である水晶を破壊するのが手っ取り早いと思う。手段は皆に任せるけれど」 現場は使われていない倉庫、窓は存在するが何らかの手段でもない限りそこから忍び込むのは難しいだろう。 さりとて、入り口は数名のフィクサードが塞いでいる。 どの様にして現場へと突入するのか。そこも重要だ。 「結果を望むからこそ、命を賭す。私達の世界ではそう珍しい事なのかも知れない……けれど」 それ以上の言葉をイヴは言わなかった。 いや、言い出せなかったのかも知れない。 「兎も角、気をつけて行って来て。……ちゃんと無事に帰って来てね」 その言葉にリベリスタ達は頷いてブリーフィングルームを後にする。 一人残された方舟で有数の力を持つ少女は、それを黙って見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ナガレ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月16日(月)22:47 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● この世界は、理不尽に満ち溢れている。世界は誰しもを等しくは見ていない。 それ故に決断を迫られる事もあるが──だが、今回の場合は状況が違った。 万華鏡、箱舟が抱えるフォーチュナの力を増幅し、未来予知の精度を高める切り札。 その予知の結果から、可能な限り被害を抑えてその場を押さえる事が可能であるとリベリスタ達は判断した。 ブリーフィングルームで作戦の内容を聞き終えた後、リベリスタ達は現場へと急行していた。 今回作戦に参加するメンバーは6名、日本においては規模が最大といっても過言ではない方舟。 その場に名前を連ねる、運命の寵愛を受けた者達。 (一般人を犠牲にするフィクサードとそれを阻止するリベリスタ、典型的な対立構図だけど、それだけにそれぞれの意志が見え易いよね) 護るという事に関しては、正面から理解しようとする彼女『此縁性の盾』四条・理央(BNE000319)はフィクサードとリベリスタの違いについて、思考していた。 そもそもフィクサード、リベリスタというその二つの境界は曖昧だ。 世界を守り、犠牲を許容出来ないリベリスタも居れば……世界の為だと決断し、あっさり命を切り捨てる者もいる。 中には人々の犠牲を許容出来ず、隠匿すべき神秘で一般人を救いフィクサードとしての道を歩んだ者も少なくは無いのだ。 様々な信念の形が見え隠れするこの界隈において、アーティファクトを悪用し一般人巻き込む事を厭わないフィクサードと、巻き込まれてしまう一般人の犠牲を良しとしない今回のケースは非常に分かりやすい物だった。 (テンペスト……悪くないな。こういう連中がいてくれるから、全力でブッこもうって気になるのさ) 『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は、今回の友軍であるリベリスタ達に好感を抱いていた。 彼の経歴から想像するにフィクサードという存在に対しては重く、暗い感情を抱いている事は違いない。 ともすれば、革醒した時分の事を考えれば……彼の心には大きな傷とどす黒いヘドロの様な物がこびり付いていただろう。 しかし──今の彼は、決してそうではなかった。方舟へと足を運び、幾多の戦いを超えて研鑽を積み、人々との交流を得て彼は強くなった。 そう、己の目の前で起きる理不尽を捻じ曲げる事が可能な程に。 大きな耳と尻尾を揺らしながら、そんな彼の背中を見ながら少しばかり後方で足を急がせるのは『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)だ。 カルラが現在、それほどまでの強さを誇るのはそれまでの過程が確かに存在してこそだ。 幾度となく、危険な任務へと赴いている彼もまた運命の寵愛を授かっているとはいえ限界は何れ来る。 寵愛を消費しきった革醒者の末路は幸福な物では決して有り得ない。 無茶をしがちな友人を見守る事は今回の任務において大切な役割だと壱和は認識していた。 そして、テンペスト達や一般人の命も失わせてはならないとも思う。 精神面で臆病であった彼女が、テンペスト達の様な状況に巻き込まれた際に前に進めるかは分からない。 けれど、彼らの意思があったからこそ自分達が間に合う事が出来る。 「これ以上は、誰も失わせません」 決意を込めて呟く言葉と瞳には、確かに力強い光が宿っている。 ならば、彼女もまた間違いなく前へと進んでいる。 (テンペストさんって、確かあの時の……) 和輝と以前に一度だけ会った事がある『深蒼』阿倉・璃莉(BNE005131) は驚きつつも助けなければならない、という使命感に動かされた。 璃莉が方舟の住むリベリスタ達が暮らす三高平へと足を運んで来たのはつい先日の事だ。 その三高平へと向かう際、翼を休ませながら腹の虫を鳴らしている所を彼に発見される。 「……こんな所に居るって事はフィクサードじゃないな、腹が減ってるのか」 コンビニの袋を漁ってからあげを差し出してくる和輝に事情を説明すると快く道案内を買って出た。 三高平には住まないの、と尋ねてみたが彼はやりたい事があるから、との事だったが詳しくは彼もその時は語らず。 お礼を言おうとしたのが、仲間達が待っているから、と早々と立ち去ってしまった。 「あの時のお礼、まだ言えてない……急いで助けないと!」 テンペスト達の譲れないモノの為にプライドを張る背中が、彼女には眩しく映った。 だからこそ──今、力を得た自分に出来る事がある。 白く大きな4枚の羽を携えて、彼女は急ぐ。 ……その姿は、かつて三高平に在籍していたシスターと似通っている。 そんな彼女に世界の寵愛が授けられたのは、世界の意思か、それとも悪戯か。今はまだ誰にも分からなかった。 「全く、無茶するよ橘も」 以前、任務の都合で和輝とは共闘関係になった事がある『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は苦笑を隠せないでいる。 正義の味方に関して、和輝とは一度言い争った事があったがお互いに何一つとして譲る事はなかった。 正義の味方でありたいと願う夏栖斗と、自分達は正義になりえない半端者だと言い合う和輝。 吐き出す言葉は違っていたけれど、それでも心の中で物思っている事は同じなのだと夏栖斗は感じ取っている。 そうでなければ、今回のあの様な場で和輝が奮起するなど有り得ない。 ──義務感と正義感を忘れるには、御厨夏栖斗という少年が歩んで来た道は過酷過ぎた。 それを証明するかの様に、肉体は既に永遠なる幻想と化し、心は折れる事を知らぬ鋼と為る。 「でもさ、ほっとけないよね。僕は──“正義の味方”になるんだから」 戦場でフィクサードを抑えているであろう友人を思い、足を駆ける。 その様は間違いなく、誰かが子供の頃に見た事がある“正義の味方”に違いはなかった。 リベリスタ達の中で最も早く駆け抜け、前方を走る『柳燕』リセリア・フォルン(BNE002511)。 彼女もまた、戦いの場に置かれている者達へと思いを馳せる。 オルクス・パラスト、精鋭の一に数えられるアルフレート・エーレンベルクを養父に持つ彼女がこの地へと足を踏み入れたのはその養父からの薦めがあっての事だ。 日本の地を踏んで、早数年。幾多の死線を越えて、鍛え上げられて来た剣士としての技は既に世界でも有数の領域にまで達している。 エーレンベルクの姓を名乗らない事に、アルフレートが何かを言う事は無かったがその意図は察しているのだろう。 何時か、彼女がそう名乗る時が来るのだろうか。しかし、その為にも── (まだ間に合う筈……いえ、間に合わせてみせましょう――もう少しだけ、持ち堪えてください) かのテンペストと、一般人達。そのどちらもを助ける必要がある。 様々な思いを抱えながらも、リベリスタ達は戦場へと参戦する。 望むべき未来を掴み取る、その為に。 ● 「リーダー! 不味いぞ、少なくとも俺達二人以外は……」 道重がフィクサードの攻撃をいなしながら、仲間達の状況を和輝に進言する。 「分かってる。……俺だけでも良かったってのに、物好きな連中だ」 その言葉に、こいつは馬鹿じゃないのかという視線を仲間に向けられたが和輝は敢えてスルーした。 「俺達はお前に此処までついて来たんだ。今更それを言うのは薄情が過ぎるぜ、リーダー」 だからこそ、方舟に彼らが乗り込む事は無かった。そう補足する道重に和輝は苦笑を返す。 「素直に礼を言いたい所だけどな」 だが、事実としてこの戦いは間違いなく、死と直結する。 (せめて、あのアーティファクトさえ破壊出来るのなら) フィクサード達の後方に位置する血贄の宝玉を睨み据える。フィクサード達を強化している、あの宝玉。 あれさえ壊す事が出来れば、自分達でも十分にフィクサード達に意趣返しをする事が可能な筈だった。 未だ、その宝玉の周囲には命を失っていない一般人が呻いている。 その事実に再度足が動きそうになったが、和輝の実力では目の前の憎らしい壁を突破する事など出来はしない。 万事休すか、そう思えたその時。 倉庫の窓から数名の男女達が一斉に雪崩れ込んで来る。 窓から侵入したその存在と、倉庫の入り口から大きく聞こえて来た声が誰であるのか。 それを和輝達はよく知っていた。 「──おい、フィクサード。教えてやる、俺達は紛い物に過ぎない。だが、今間違いなく“本物”が来た」 その表情は、先程までの諦めの浮かんだ表情ではなく、自分達に世界が微笑んだのだと言わんばかりの笑みだった。 ● 銀の輝きがフィクサードへと一閃され、フィクサード達のホーリーメイガスがその場に崩れ落ちる。 その事実に浮き足立つフィクサード達。 「なっ……まさか、援軍か?! こいつらの何処にそんな戦力が!」 不意打ちにも等しいタイミングで繰り出された、傍目から見れば瞬時に移動したかの様に見えた動きから繰り出された剣戟を確認出来たのは練度の高いフィクサードと和輝、道重のみ。 「飛燕剣の……橘和輝さん」 現れたのは、方舟の中でも実力がトップクラスに数えられると有名なリセリアだった。 「あぁ、間違いない。どうやら、尻拭いをしに来てくれたらしいな……感謝する」 その様なやり取りの最中、テンペスト達や一般人に大して上位世界の──ともすれば、神とも言える存在の力を借りた祝福が授けられる。 苦痛の表情を浮かべていた一般人の表情は未だ苦しげではあるが、多少なりとも表情が楽になる。 テンペスト達も受けていた傷が完全とは言わずともほぼ完治し、これからの戦闘を続行するに十分なだけの力を得た。 デウス・エクス・マキナ。例えどの様な状況であろうとも、神が現れその展開を大団円へと運ぶ手法の名前を冠する癒しの力は絶大だ。 「この前は、からあげ! 有難う」 その言葉と容姿を見て、和輝は直ぐに璃莉の事を思い出した。 「この間の貸しをわざわざ返しに来てくれたのか、助かる。状況はかなり不味かったからな」 「うん、応援するよ! 回復なら私に任せて!」 その言葉に力強いね、と和輝は頷き返す。 驚き、慌てふためくフィクサードも状況を理解したのか。 姿を現したリベリスタ達に対して動きを見せようとするが、その場に現れていた二人の理央に動きを封じられていた。 「やれやれ、やる事が多くて忙しいったらありゃしないよ。悪いのだけど君達の思い通りに動かせてあげる心算はないかな」 「くっ、影人使いか!」 アーティファクトに加え、人数の優位性を以って優勢としていたフィクサードにとって、耐久力という値は小さくとも、れっきとした壁として成立する影人の存在は厄介。 加えて見れば、血贄の宝玉には既に護衛と交戦をしているリベリスタの姿。 入り口側に立つフィクサード達の援護を期待するが、そちらは既に何者かと交戦している様だった。 「残念だけど、中へ援護をさせにいく心算はないよ。僕と一緒に遊んでいってよ!」 「う、うわああああああっ!!!」 夏栖斗の威圧感に耐えかねて、フィクサードが彼へと攻撃を放つ。 生と死を分かつ一撃、デュランダルが放つ圧倒的な一撃が彼へと吸い込まれていく。 しかし、それを夏栖斗は真正面から玄武岩と紅桜花のトンファーで微動だにせず受け切ってしまう。 「あ、あぁ……馬、馬鹿な……」 「そんな攻撃じゃ、僕は砕けない。橘の奴も助けてあげないとだしね……」 瞬間、飛翔する武技がフィクサード達へと襲い掛かる。 一撃で倒されないにしろ、フィクサード達に勝ち筋が思い浮かぶ事は無かった。 ● 壱和はその場へ降り立つと降り立つと同時に、既にカルラの情報に寄って位置を把握していた宝玉の護衛へと札を投げて布石を打つ。 式符を己の式神へと変化させ、相手の行動を制限させる。 その思惑は見事に成功し、宝玉から敵の意識を逸らせる事に成功する。 「てめえ、何しやがる……!」 「狙われるのは怖いですが、それでも、逃げないと決めました」 覚悟を決めた壱和の瞳は既に、何かを守る為の意思を宿す戦士の瞳をしている。 怒りに任せて力を振るうだけのフィクサードの力を恐れよう筈もない。 (全員が作り上げたこの状況──! 一秒だって無駄にはしねえぞ……!) 宝玉へと狙いを只定めていた赤き雷光が疾駆ける。 専用の魔力弾を装填、本来であれば射撃武器でなければ扱いきれない射手としての技を扱える様にする彼特注の愛用する武器、テスタロッサ。 今、弾丸は拳と共に炸裂し──死神の放つ弾丸と異名すらされる拳が宝玉へと撃ち放たれる! がしゃん! 大きな音を立てて、砕け散る宝玉。一般人達から届いて居た苦痛の声が小さくなる。 壊れた宝玉からは一般人から得ていたであろう、血がどろどろと流れ出ている。 「おい、フィクサード共……一般人を狩るのは楽しかったか?」 宝玉を壊し、ゆらりと立ち上がるカルラにフィクサード達は後ずさる。 「──これからは、俺がお前達を狩る番だ」 それは、死神の死刑執行宣告。 これからのフィクサード達の結末を宣言する言葉だった。 ● 宝玉が破壊され、人数の優位性を失ったフィクサード達はこれまでと打って変わって劣勢へと追い込まれる。 宝玉があってこその戦闘だったのだ。 まさか、この場に箱舟が現れるなどとは露にも思っていなかったのだから。 「さっきまでの借りを返さなくちゃな」 リベリスタ達と共に攻勢へと出た和輝の身体がブレる。 幾多の幻影と実像に別れた彼の剣から放たれるのは、対象が逃げる事を許さない幾重にも重なる剣戟の檻。 飛燕幻影斬、ここ数年の日本で戦い続け、生き残った彼が編み出した必殺の剣。 「ふむ……興味深い技ですね」 刹那という時の中で、幾閃もの蒼銀に輝く剣戟を重ねてフィクサードを討ち果たすリセリアの感想に和輝は実力じゃそちらには全然届かないんだけどな、と苦笑した。 「運も実力の内、少なくともまぐれではないと思うのですけれどね」 自らよりも明らかに高速に動き、上位の剣技を操ってみせる少女の言葉に評価されたのは嬉しいね、と素直に頷いたのだった。 フィクサード達も攻勢に出ようとはするものの、既に戦力が整えられたリベリスタ達に大きなダメージを加えられずに居る。 「優しいだけじゃ助けられないの!」 加えて、璃莉もまた回復だけではなく、合間合間に攻撃を挟む事によって戦場へと貢献している。 ホーリーメイガスの攻撃性能は、決して他職に後れを取る事はない。その事を彼女は確かに証明している。 理央は自分の出来る行動の幅を生かして、場をコントロールしていた。 「戦況を左右する力は無いのは確か、その上で何が出来るかだよね」 例え、大局を動かす事が出来なくとも、その上で確実になせる事はある。 僅かであろうとも、力があれば何かをなす事が出来ると信じている彼女の動きは既に流れを変えるだけの実力を秘めていた。 落ちる1¢硬貨さえ貫く彼女の精密な射撃が、フィクサードを貫く。 「厄介な奴らを敵に回しちまったな……クソッタレ」 「気づくのが少し……遅かったかな」 続け様に放たれる弾丸にフィクサードは、苦々しげな表情をしながらも打ち倒される。 やがて、戦いも終わりを迎える。 最早、フィクサードに戦闘行為を続ける力は残っていない。リベリスタ達の勝利は確定した。 「……さて、ゲスな生き様を文字通り死ぬ程後悔させてやんぜ」 生き残ったフィクサードに対して足を踏み込むカルラの背中にとすり、と誰かがぶつかって来た感触が伝わる。 後ろから彼を抱きしめたのは壱和だった。 彼の事を知っているからこそ、それは止めなければと身体が動いたのだ。 彼の全てを知る訳ではない、自分の我侭だという事は分かっている。それでも。 「……ボクはカルラさんにそっち側に行って欲しくない」 涙を溢れさせて、懇願する彼女にカルラは動きを止めた。 何が大切で、優先すべき事かは分かっている。 自分の変化を感じながら未だに涙を止めぬ壱和を逡巡しながらも優しく撫でてやるのだった。 ● 衰弱している者達を救出し、任務完了の報告を送るリベリスタ達。 フィクサード達は、身動きを取れなくした上で方舟へと身柄を預けられる事となる。 壱和の言葉はフィクサード達には伝えられたが、それがどの様に彼らに浸透したのかは分からない。 これが何らかの切欠になれば良い、そう願うばかりではあったが。 「相変わらず仲間に無茶ぶりしてんの? まあ、リーダーが頑張ってるのを見たら格好悪い所は見せられないもんな」 合流した夏栖斗の言葉に和輝は苦笑し、道重はそうなんだよ、と苦労話に花を咲かせた。 他のテンペストのメンバーも次々に文句を言うものの、表情は決して暗い物ではない。 「何だかんだ良いながら、正義の味方じゃん。認めちゃえば楽になるのに」 「……そんな簡単じゃないからこそ、だよ。知ってるだろう?」 リベリスタ達の背負う業、正義とされながらも時に切り捨てざるを得ない物がある事を和輝は言っているのだろう。 「ともあれ、助かった。俺達が生きていられるのもアンタ達のお陰だろう、この借りは何れ返すよ」 和輝から差し出された手を璃莉は笑顔で握り返して、頷いた。 「うん、大変な時はお互い様なの!」 リベリスタ達の戦いは終わらない。 しかし、確かに……今日という戦いは終わりを告げて、明日という未来へと希望を繋げる事が出来たのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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