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<蛇のアポリア>死への招待状

●逆凪ぐ風
 ――凪聖四郎。
 これまでは今ひとつ殻を破り切れなかった男ではあったが、アークとも因縁深いこの数年間はまさに今、兄の如し王威を発現しつつある。
 巣立ちの時は来た。
 裏野部による四国での動乱、国内から撤退した三尋木、霊峰富士で異界の力を手に入れんとした剣林。どこの勢力もそれぞれの思惑に従って動いた結果、直刃の、聖四郎にとっての追い風が吹き荒れることになる。
 聖四郎の目的は只一つ。『世界征服』の為には巨大派閥である逆凪の頂点に立ち、三ツ池公園の閉じない穴を奪取する事が近道だと彼は考えた。
 そのためには――

●悪の道
「面白くなってきたじゃねぇか、なぁ?螺旋」
 霧矢・紫苑の指に絡めたペンダントの加工されたアーティファクト『proscriptio』をひゅんひゅんと回しながら相棒の名を呼んだ。
「それが『例のモノ』か」
今回の作戦の為に渡されたアーティファクト『proscriptio』、それは六道派の協力により作成され半径10m以内の人死を力に変えて、聖四郎の所有する『DamnatioMemoriae』へとその力は送信しアザーバイド召喚儀式の代償として使用される。
「お前の仲間も呼べるかもな」
 持っていていいぜ、と紫苑はそれを投げ渡す。
「……虚しいだけだぞ」
 螺旋と呼ばれたこの男、実はアザーバイドで聖四郎が兼ねてより協力体制を作っていた組織により召喚され『直刃』に属している。螺旋のような召喚されたアザーバイド以外にも所属派閥を失ったフィクサード達、海外フィクサード達を勧誘し兵力を増強させた『直刃』は嘗ての七派の一と匹敵する組織に成長しつつある。時勢と態勢の整った聖四郎は己の野望を叶える為にアークの戦力の減少を狙った作戦を決行する。
「俺らの部隊の仕事は殺して殺して殺しまくってコイツに力を蓄える事、だとさ」
「……ターゲットは」
「誰でも」
「……その死は、面白味がないな」
「そう言うなよ、ちゃんと来てくれるって。それに俺がそんなつまらねえ仕事素直にやると思っているのかよ。ただ殺すだけじゃ物足りねえ……そうだろ?」
「紫苑と一緒にしてもらっては困る。私はただ、死を見ることが出来ればいい。私の世界では、死ぬという概念がない。こちらにきて、とても興味深いと思ったよ。面白ければなお良い、というだけだ」
「安心しな、絶対に面白くなる。なんたって相手はあの……くくくっ、お前も死ぬかもな」
「誰だ」
 その言葉を聞くと紫苑はにいっと下卑た笑みを浮かべる。相棒の、まるでその言葉を待っていたと言わんばかりに。

「正義の味方、さ」

 今の時勢、その単語の持つ意味は一つと言って過言ではない。そして『直刃』という組織に属し聖四郎と共に歩むと選択をした以上、戦闘狂と呼ばれる彼らにとってはそれと一戦交えることは血沸き肉躍る程に喜ばしい任務なのだ。

●招待
「皆様、ようこそいらっしゃいました」
作戦室に入ったリベリスタを『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がいつものように会釈をして出迎えた。
「直刃が動き始めました」
 普段は冷静な和泉だが今回は傍から見てもわかる程に沈痛な表情で説明を始める。
 聖四郎の持つアーティファクトと対になるアーティファクトの存在、人の死の力を根元とする為の虐殺案、そしていくつもの部隊が行動を開始すること。
「皆様に対処をお願いしたいのはその内の一つ、こちらを」
 手渡した資料には一人のフィクサードとアザーバイドについて表記されている。
「フィクサードは霧矢紫苑、覇界闘士としての能力も高く手強い相手になると思います。そしてアザーバイド、螺旋という名を与えられているのですが……彼は見た目は私たちと変わりませんが特異な能力を有しています。彼は周囲の時空を歪ませることにより時間の流れに干渉するようなのです」
 万華鏡システムを通して視た未来、そこから和泉が解析した情報。
「まず自身の時間を巻き戻せるようです、受けたダメージや消費した体力も元に戻るようです。次に時間を進めることも可能なようです。病気や毒、炎上などの状態で歪みに接触した場合に症状をかなりの速度で進行させます。直刃の狙いは大量殺人、広範囲の毒など撒かれようものならば……」
 和泉はそこまで言葉を紡ぎ出すのがやっとのようで、少しの間沈黙が辺りを支配した。
「そいつらはどこに出る」
リベリスタの問いに和泉は顔を上げた。少しだけ、表情に柔らかさと安心が浮かぶ。
「出現場所は名古屋市の地下鉄、帰宅のラッシュに合わせて、です。相手は紫苑、螺旋と直刃のフィクサードが合わせて5人。一般人は勿論皆様も倒れるようなことがあればアーティファクトの餌食になってしまいます、気をつけて下さいね」
 

「彼らを野放しにしては多大な犠牲が出ます。危険ですがよろしくお願いします」
 和泉はリベリスタの背に先ほどよりも深く頭を下げて見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:久遠  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年02月14日(土)22:11
こんにちは、久遠です。
OP閲覧ありがとうございます、以下詳細を。

●成功条件
 ・アザーバイド及びフィクサードの撃破

●場所
 ・名古屋市内のとある地下鉄駅構内
 ・夜、時刻は夕方6時。電車の本数は多め
 ・天井は低く3メートル程度

●ターゲット
 アザーバイド『時喰らい』螺旋
  『直刃』によって召喚されたアザーバイド、時折時間の歪みを生じさせ、その周囲に
  条件に基づいた変化を与える。
  見た目は人間と相違なく武装も『直刃』より支給されたもの。高い知能を有しており
この世界の知識は学習済で戦いの場を提供してくれる聖四郎に対して協力的。
  剣の扱いに長け状態変化に対しての抵抗が特に優れている。

 ・時渡(ときわたり)5ターンに一度自動発動する。連もしくは遡の判定は個人毎に行う
  時渡・連 BSにかかっているキャラクターに効果。最大6ターンの時間を進める。
  時渡・遡 BSにかかっていないキャラクターに効果。全ての状態を戦闘前に戻す。
        (戦闘前とはHP、EP全快、付与、BS無しの状態を指します) 

・斬影 自身のHPを消費して使用、近物単。この技を使って攻撃したキャラクターに
対して翌ターン以降攻撃し続ける分身を作り出す。
・剣雨 斬影が4体いる時のみ使用、全ての分身による斬撃の嵐。
遠物全、使用後斬影は消滅。


 霧矢 紫苑(きりや しおん)
  元『逆凪』のフィクサード。ジーニアス×覇界闘士、ランク3。
  力をつけてきた聖四郎を気に入り『直刃』に属することに。
  相棒である螺旋のサポートをメインに『魔氷拳』、『壱式迅雷』、『虚空』、
『鬼業紅蓮』を活性化している。


『直刃』のフィクサード×3
  今回の作戦に派遣された中でもリベリスタと戦うことのできる3人。
  ジョブはマグメイガス、ナイトクリーク、デュランダルでランクは2。


  以上です、どうぞよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
ギガントフレームデュランダル
鯨塚 モヨタ(BNE000872)
ハイジーニアスデュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)

●牢獄
「いつまでも人の地元で好き勝手させるかよ」
 疾風と呼ぶに相応しい身のこなしで『ファントムアップリカ―ト』須賀・義衛郎(BNE000465)の放つ雷がフィクサードを撃つ。しん、と静まった駅構内で鳴り響く開戦の合図。しかしその鐘の音とは裏腹に、敷き詰められたタイルにはかなりの量の血痕が飛び散り破壊跡も目立つ。
「成程、これがアークのリベリスタか。素晴らしい」
 その雷をものともせずアザーバイド・螺旋の放つ鋭い一撃が『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)を捉える。そしてその動きを追随する影が現れなおも攻撃を加える。
「ちいっ! アンタ、時が戻るが故に『死』のない世界から来たのか?」
「ほう、さすがに気が付きもするか」
 時が戻る、その単語に螺旋の表情が緩む、下卑ではない、嫌な緩み。こうでなくては、と付け加え斬りかかるとさらに影を生み出しリベリスタを攻め立てる。
(おそらく解析は何度か試したんでしょうね)
 言葉には出さず『償いの子羊』綿谷・光介(BNE003658)は自分を納得させる。合間見えてから螺旋を解析した記憶は全くないが、おそらく仲間も自分と同じ結論に達しているはずだと。それに影の増加に伴い相手の攻め手が激しくなる以上体力の回復を疎かにするわけにはいかない。
「櫻子、俺から離れるなよ」
「はい、櫻霞様」
 斬り合う影継と螺旋を注視する『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)、されどその一点だけでなく隣にいる『梟姫』天城・櫻子(BNE000438)がなるべく狙われることのないよう配慮を怠ることはない。そしてフィクサードの奏でる不協和音や不吉のカードを掻い潜り二丁の銃から繰り出される射撃が戦場をなぎ払う。
(どこかにあるはずだ) 
 今回派遣された直刃の部隊には凪聖四郎よりアーティファクト『proscriptio』が持たされているという。これだけの行動を念頭に置きながらも櫻霞はそれの対処を最優先に考えていた。
「さぁ、充電完了っと、楽しそうだなぁ、螺旋の奴! 全く便利なもんだぜ、こっちももっと楽しむとするか!」
「あんたの相手はオイラだ!」
 紫苑の鋭い蹴撃の前に立ちはだかる『輝鋼戦機』鯨塚 モヨタ(BNE000872)はその異変ともとれる出来事に焦りを覚える。いかに紫苑の蹴りが鋭いといってもその戦気に覆われた肉体から血を流すことなどできはしない筈。対策は考えてきた、なのに―
「くっ! オイラ、確かに」
「確かに、なんだよぉ!なんならもう一回やってみたらどうだ! 無駄だけどな!」
 それぞれの会話、軽く覚えるデジャヴ、それの意味するところを知っていると言わんばかりに紫苑は続けて拳に力を籠めて一撃を繰り出す。紫苑はさまざまな状態異常の使い手、櫻子と光介はその対策をここに来る前にしっかりと練ってきた。
「痛みを癒し…その枷を外しましょう…」
「術式、迷える子羊の博愛!」
 胸の前で両手を組み、祈りを捧げる櫻子、放たれる光の粒子がリベリスタを優しく包み込み傷を癒す。続けて発動までに効率よく簡略化された術式を用いる光介、二人の息の合った生命力の回復と状態の立て直しが戦線を支えていた、しかし。
「いいだろう、時は来た」
 ぐにゃり、と景色が歪む。
 景色が戻るとリベリスタ達は驚きを隠せなかった。
 駅構内に結界を張った、一般人は全て非難させた、事前の準備もした、そして『直刃』より派遣された部隊は自分達を待っていたかのようなタイミングで現れた。
 なのに――すでに螺旋の影は4体に増えていた。
 影は刃に形を替えて螺旋の剣に収束されていき大きな力の波動を生み出す。

「さあ、降り注げ、剣の雨よ――」

●想起
 思い出す、というのはとても大切な事だ。
 自分がこれまで何をしてきたのか、これからどうしたいのか。その道があるからこそ人は自己を確立させてゆける。その道を振り返ることがなければ選べる道は無限に広がる、しかしそれはもう道でも自己とも呼べるものではない。
 相手を斬ったという感触は自らにその決意を刻み付けるように、握ったその手の温もりが与える安らぎがあるように、連綿と受け継がれてきたその血に誇りを持つように、苦しむ人達の救いを夢見るように、それらの道には起点がありいつかたどり着く終点がある。
「本当にたいしたものだ。今のを耐えるか」
 その終点へ導くに足る一撃、螺旋に自負はあった。
「そういう、台詞は、開幕に言うもんじゃねえ」
 螺旋の余裕に負けないように、精一杯の声を絞り出す義衛郎。
「櫻霞様!」
「大丈夫だ……櫻子、怪我……は?」
 ふるふると首を振る櫻子。間一髪のところで櫻子を庇った櫻霞のダメージは大きく見回せば櫻子以外はかろうじて影継だけが螺旋を食い止めるため立ち上がろうとしている状況。櫻子は必死に状況を思い出す。何が起きたのか、けれども思い浮かぶは駅員に扮し一般人を誘導した程度。
 何故、と問いたくなるような突然の出来事、戦闘は始ったばかりなのに、と。
「何故」
 しかしその言葉を発したのはリベリスタではなく螺旋、何故受け入れないのかと、『時喰らい』でない以上いつか必ず迎える『死』に何故抗うのかと。
「あなたには、わからないでしょうね!」
 確かに螺旋の一撃は強烈で惨状をもたらした。光介は定められた死の運命を超えて立ち上がった。持ち前の術式と術印を用いてあっという間に機械仕掛けの神の名を冠する秘術を完成させる。
 聖なる光が瞬く間に全員の傷を癒す。
 『万華鏡』より得た情報により螺旋が剣の雨を降らせるには何が必要かは理解している。時間の掛かる大技が放たれた、ということはすでに自分達は見当のつかない時間を戦い続けている。
 その事実を真実として伝える。斬った感触も、血を流した傷がなくても、確かに道はあったのだと。何度繰り返されても必ず守るという決意と共に。
「そっか、オイラ達が倒れたらものすごい数の人が死んじまう…そんな事絶対させてたまるかよ!」
「まだ終わりじゃないぞ、螺旋。この世界の土産に戦って『死』を実感していけ。手伝ってやる」
 影の消えた螺旋に斬り込み、なるべく多くを巻き込むように放たれた銃弾の霰がフィクサード達を包む。完全に狙われたわけではないその攻撃は達人の一撃よりも避けることに労力を使い最小限の動きで避けることは難しく、すでに立ち上がった櫻霞の目は螺旋の動きの全てを焼き付ける。
 自分達はまだ生きている、戦える。見つけることができなかったかもしれない、防がれてしまったのかもしれない。だったら、成功するまで続けるだけだと。幸いにして螺旋の能力はそれを許している。
(見えた!)
 翻した螺旋の服の間から漏れたキラリ一瞬の輝きを、櫻霞は見逃さなかった。螺旋に渡されたネックレス型の『proscriptio』、隙間から見えるその輝きはまさに針の穴程しかない。
「必ず、通してみせる」
 今この一瞬だけ、全神経を集中し狙いをつけトリガーを引く。素早い螺旋の動きをも計算に入れた、正確無比な針の穴をも通す射撃に螺旋が気が付いた時にはすでに遅し。
「むっ」
 鳴り響く金属音、弾丸はチェーンを貫き台座より解き放たれたアーティファクトは宙を舞う。
 全員の視線が集まり、体感する時間は戻るでもなく、渡るが如く過ぎるでもない、ゆっくりと進む中に置かれた空間で一人だけ、義衛郎はその限られた時の中で更にスピードを増し、他の追随を許すことなく剣を叩き付けた。それを破壊することは叶わなかったが効果を失うには十分な距離、小さな輝きを目で追うことはもうできない。
「お前等の死すらも策の内なんだろうが、お生憎様。俺達が其れに乗ってやる道理は無いね」
「……てめぇ、やってくれるじゃねえか!」
 殺意を剥き出しに飛び掛る紫苑を横からモヨタのハイメガクラッシュが吹き飛ばす!
「言っただろ、アンタの相手はオイラだ! それとも、オイラみたいなチビが相手じゃ物足りないか?」
「くそったれええぇっ!」
 先程の光介の一言が全員を立ち直らせた。
 たとえ記憶になくとも、それぞれがやるべきことを理解し突き進む。もう、不安に駆られる事もない。
 義衛郎の雷がフィクサードを撃つ。影継は螺旋を、モヨタは紫苑と対峙する。
「さて、大掃除といこう」
「お手伝い致します」
 櫻霞は相手が散開すれば集中砲火を、まとまれば広域射撃という的確な攻撃を、櫻子も神秘の力を集中し光弾を放ち一人ずつ相手の戦力を落としていく。
 また、景色が歪む。しかしそこには力尽き倒れたフィクサードの姿があった、振り返ることはできなくても、たしかに、道はそこにある。

●死への―
「慣れてくりゃ酔っ払ったみてえに気持ちよくなれるさ!」
 この場において明らかに戦闘力の劣った自軍の3人が倒れて、自身も無事でないのに紫苑は攻撃の手を休めることは無い。敗色濃厚だろうがこの戦闘狂はそれでいい、と考える。
「酔ったままでイかせて、なにっ!」
 一閃、モヨタの鋭い居合いが紫苑の腰から肩口に掛けて赤い線を引いた。
 そして。
 傍から見ればもう何度目か。ぐにゃり、と景色が歪む。汗が引き、疲労が抜け、感触を失う。一つ、違いがあるとするならば、モヨタがつけた線からぶしゅう、と突然おびただしい量の血を噴出した。
 知らぬ間に連なる時を渡る、螺旋のもう一つの力。
「ぐあおおっ! ひひひっ、痛てぇ、痛てぇなぁ、俺もヤキが回ったもんだなぁ」
「オイラの勝ちだ!」
「ひひひっ、モヨタ、だっけか? 楽しかったぜ……」
 大の字に倒れると血に飢えた獣は、己が血溜まりの中で、満足そうな笑顔のまま、息絶えた。
「紫苑、それがお前の『死』か……」
 『時喰らい』である螺旋は、いや彼の存在していた異世界の者達は知らない。
 『死』が如何様なものなのか、だから編み出すこともない。他者を殺す為の技術を、流れた出した血液が止まらなくなるような斬り方を、相手をたじろがせるための衝撃の発生の仕方を、いかに強力な一撃を繰り出そうともそこには殺気もなければ怒気もない。この世界に召喚された後に得た知識だけを持って作られた付け焼刃。
 自身の命を削り作り出す分身は確かに時を渡ることなく存在することが可能だし、それをコントロール術も脅威には違いない。
 ――すでに霧矢紫苑もフィクサードも倒れた。
 残る螺旋は自身の命を削ることしかできず、リベリスタの攻撃はさらにそれを削り取る。ここまできた以上勝敗は誰の目にも明らかだ。
 殺す術を持たない螺旋にとって光介と櫻子の回復はまさに鉄壁と呼べるものであり、義衛郎の鋭い斬撃は回避する為の道筋を奪い、櫻霞の正確無比な銃弾が体を貫いていく。紫苑を斬った返す刀でもモヨタの斬撃は衰えを知らずに、そしてついに螺旋が片膝を落とした。
「ぜえ、ぜえ、ぐううっ」
 このアザーバイドにも本性というものがあるのならばやはり戦闘狂、バトルマニアと呼ぶべきものなのだろう。脂汗を垂らし、苦悶の声を出しても顔だけは、あの嫌な笑みのまま。
「螺旋、覚悟しな」
 その言葉は敬意。影継が武器を構えるとぐっと軸足に力を込め、重心を落とし
「こいつで、あんたに『死』ってものを理解させてやるぜ。覚えておけ、斜堂流は時の流れをも凌駕すると!」
 全力を超えた全力、影継の膂力を持ってすれば超重武器ですら手足の延長に過ぎない、十分な加速から螺旋の腹に突き立てられたその力を一気に解放してやる。
 爆音と衝撃が螺旋を貫いた。
 ごふっ、と血を吐き腹に大穴が開いた螺旋だが尚も崩れはしない。  
「ぐああっ、はあっ、ふ、はははっ! これが、これが『死』か! これが、終わりというもの、か! 成程、確かに…これは2度と味わうことのできない素晴らしい、美味だ」
「眺めているだけじゃ…重さは理解できないんじゃないかと思うんですよ」
 死に行く螺旋にぽつりと、光介が半ば独白のように呟く。
「あなたはこれが、こんなものが終点であっていいのですか」
 光介が戦場に立つ理由も『死』に起因する。なんとなく、このアザーバイドが身近に感じられた。
「私の世界にないものを、私は…得た、満足、したよ。私の、終わりの先にいる少年よ、見事だった。礼を、言うぞ」
 お互いが『死』に囚われた存在だからこそ共有できるものも、絶対に共有できないものもある。
「あなたにとっての終点は、僕にとっての起点ですから」
 『眺めて』それを望んだ者、『眺めて』それを乗り越えた者、螺旋の『何故』はここにある。
 最後にもう一度、ぐにゃりと景色が歪んだ。

●解放
「さーて、あれも回収しないとな」
 結界が消え活気を取り戻しつつ駅構内で義衛郎はアーティファクトをどこに飛ばしたのか、と探しに人込みができる前の構内に駆け出す。
「聖四郎はもう少し話の通じる相手だと思えば…」
「まだ、終わりではありません、次に参りましょう…」
 櫻子は櫻霞の袖を掴み溜息を一つ。
 ふと光介が顔を上げると。

      ――時計の針が指すのは戦闘開始からジャスト1分、永い牢獄は開け放たれた

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
同じ時間を繰り返すアザーバイドとの戦い、いかがでしたでしょうか?
今回は皆様のプレイングにただただ脱帽でございます。
アーティファクト、使おうと思っていたのに、お見事でした。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。