●逆凪 裏野部が滅び、三尋木が去り、そして剣林が崩壊した。 七派システムと呼ばれる互いを牽制しあうシステムはもはや意味を成さず、フィクサードはそれぞれ思うがままに動き出す。複雑に絡み合う綱引きは、切れ目が入れば爆発するように千切れていく。 七派の中で最も巨大といわれる逆凪。 巨大組織であるが故に、内部分裂もまた大きい。 逆凪黒覇とその弟、邪鬼。 そして黒覇の異母兄弟の凪聖四郎。 秩序を重んじる黒覇と、征服を目指す聖四郎。同じ血脈を有しながら、二人の王の在りかたは大きく異なっていた。 方向性が違う力は共に歩めない。大きく離れるか、あるいは交わりぶつかり合うか。 その時は近い―― ●五対六十 「まー、お仕事しないとご飯が食べられないのは事実なんですがねぃ。些か急すぎませんかね? こないだのワンコとの闘いの傷も残ってるんですけど」 「軟弱だな。そんなことでは剣林の長など遠い先だぞ」 一組の男女が街を歩いていた。がっしりした体格の男と、赤のコートとマフラーをした女性。他人から見ればデートのように見えるが、会話の内容は物騒なものだった。 「その剣林自体はもうないんですがね」 「『最強を目指す』ことが剣林の目標だ、ならばその心意気こそが剣林。そういう意味ではあの聖四郎という男の心意気は理解できる。王を目指すという気概は気に入った」 やる気なさげに歩く男を叱咤する女。そんな構図だ。二人はそんな会話を続けながら目的のビルを検索していた。それを視界に捕らえて。歩調を速める。 「まぁ、あの男が王になれば今のフィクサード界隈はさらに荒れるだろうがな」 「聞けばアークに恋人討たれてるみたいですからねぃ。アークとの妥協はNO。単独で日本を支配する力があるかというと……」 男は胸にぶら下げたペンダントを指で弾いた。聖四郎から与えられたアーティファクトだ。 「『proscriptio(プロスクリプティオ)』……人の死を力に変えて凪の旦那に送る送信型アーティファクト。こいつで集めた力で呼び出すアザーバイドがどれだけ強いかって話にかかっていますねぃ。 個人的にはアザーバイドの蹂躪とか色々トラウマなんですが」 セリエバとか四凶とか。そんなことを言いながら二人は待ち合わせの場所にたどり着く。そこで待っていたのは聖四郎の率いる直刃のメンバー。 作戦は簡単。少数精鋭で逆凪のビルに攻撃を仕掛け、一定時間暴れ回り撤退する。逆凪派フィクサードで直刃に協力する気のないフィクサードに対しての報復を行い、人死による力の回収もなされて一石二鳥だ。 ビルの扉を開けると同時に、炎が炸裂する。挨拶代わりの一撃に動じることなく、逆凪のフィクサードは臨戦態勢を取った。 「何者だ!?」 「『一射十炎』十文字菫。戦火広げる灯火だ」 「『氷原狼』水原良。わりーんですけど、死んでくださいな」 「俺様ちゃんの名前は『黒羽』の七海って言うんだ。覚えといてくれよ。ああ、サインが欲しいなら並んでくれ。体に刃で刻んでやるよ。赤いサインになるが許してくれよ?」 「『白羽』七海……妹です」 「ふふふ。では『墓掘聖女』と名乗っておきましょうか。影崎サーシャです」 五人のフィクサードが名乗りを上げた。その間にも連絡が行き渡り、臨戦態勢を高めていく逆凪陣。 「こいつ……知っているぞ。元剣林のフィクサード!」 「七派システムは意味を成してませんからねぃ。これでしがらみなくほかの連中を殴りにいけるってもんですぜ!」 やる気を見せる為に水原と名乗った男が声を上げる。宣戦布告はこの程度で十分か。わざわざ待ったのは『力を集めろ』というオーダーに答えるため。この場で逃げない相手なら、覚悟ありと判断できる。 逆凪の内部組織である直刃と、逆凪。 一見すれば内輪もめに見える戦いだが、逆凪を二つに割る戦いの火蓋でもあった。 ●アーク。選択肢二つ 「というわけだ、お前たち」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、説明を開始する。 「つまり、フィクサード同士が争っているということか。……何が問題なんだ?」 襲撃側も一般人を巻き込まないように配慮しているらしく、そう考えると勝手に潰しあっていればいいのでは、という意見もある。共にフィクサードだ。 「問題はここで死人が出ると凪聖四郎の所に力が送られることだ。 どうもあの男、集めた力でアザーバイド召喚儀式を行うようだ」 かつて聖四郎はハーオスと呼ばれる魔術結社と関係があったといわれている。また六道との係わり合いもあり、相応の技術力を有している。何よりもここ数年アークと交戦してきた彼自身の資質は、身をもって理解できる。その男が勝負に出てきたのだ。 「――とはいえ、逆凪が内部崩壊するというのならそれもありがたいという意見もある」 咳払い一つ。伸暁がリベリスタ達に告げた。なんだよそれは、という顔をするリベリスタに命令書を弾くフォーチュナ。 「なので今回に関しては現場の連中に任せることにしたようだ。 聖四郎サイドの協力をするか、黒覇サイドの協力をするか」 は? 目を丸めるリベリスタに言葉を続ける伸暁。 「聖四郎の肩を持てばアザーバイド召喚の力が集まり、厄介なことになる。これはこれで捨て置けないが、メリットは逆凪勢力の減衰だ。デメリットは逆凪からの心象か。 逆に黒覇の肩を持てばアザーバイド召喚の力はここからは流れなくなる。メリットは今後の安全。デメリットは逆凪の力を削る機会を失うことだな」 「どっちも殴るか、放置するかは?」 「それもまたよしだ。それなりに事態は変化するだろう。 正直こんな『兄弟喧嘩』に付き合う義理はアークにはない。だが、理由ならある。ここで一石を投じれば、今後の流れをつかめるぜ」 むぅ。唸るリベリスタ。確かにこれは戦いをコントロールするチャンスかもしれない。 「よく話し合って決めるんだな。正解はない。どちらを選んでも恨みっこなしだ」 投げかけられた選択肢。それを前にリベリスタたちは頭をひねるのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月15日(日)23:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「壮大な兄弟喧嘩というところですね」 肺全ての空気を吐き出すように『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)はため息をつく。世に戦いの火種は尽きることはないが、身内同士とは穏やかではない。どういう形であれ、最後まで医者であろうと凜子は誓う。 「血が濃いからこそ、争うものなの?」 逆凪と直刃の抗争。正確には逆凪黒覇と凪聖四郎との抗争と聞いて『静謐な祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は嘆くように祈りの姿勢を取った。双子の妹を持つ身としては、兄弟同士の戦いはいつも以上に複雑な思いを感じてしまう。 「アーク含め、組織間の勢力争いに興味はないのだがな」 面倒な話だ、と嘆くのは『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)。政治的な話は正直関わりあいたくない。だが、その結果アザーバイドが召喚されるのなら捨て置けない。早急に対応し、野望を砕かなければ。 「フィクサードも生き残りをかけて激しさを増してきた。さあて今日も楽しもう」 弓の張りを確認しながら『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が戦場を眺める。数の上では圧倒敵に逆凪が有利だが、個人戦闘力は直刃が有利。個人的に興味が沸いたフィクサードも見かけ、少し高揚した気分で七海は戦場に足を踏み入れる。 「おう。いたいた。間違いねぇな」 七海と同じく戦場を見回すのは『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)だ。目的のフィクサードを見つけ、傷だらけの刀を抜く。逆凪の抗争自体には興味を持てない銀次だが、剣林残党がいるのなら話は別だ。 「なんていうか、連中も運がいいね」 銀次と同じフィクサードを見ながら、緋塚・陽子(BNE003359)が笑みを浮かべる。人生は賭博だという陽子からすれば、死線から帰ってくるのもまた博打だ。生きているのはめでたいことだ。また戦えるのだから。 「ツンドラさんと菫ちゃんが生きてた事は素直に嬉しいけど……」 複雑な表情を浮かべるのは『境界線』設楽 悠里(BNE001610)だ。逆凪と直刃。正直どちらの味方もしたくない。だからといって、悠里はこれから始まる抗争を見過ごすわけにも行かなかった。惨劇を止める為、拳を握り締める。 「うーん……水原くんは持っていないみたいだな」 直刃のアーティファクトの在処ををスキャンしながら『足らずの』晦 烏(BNE002858)が頭を掻く。『万華鏡』で観測した時点では彼が持っていたのだが、そのあと渡したようだ。直刃全員をスキャンするには時間がかかりそうだ、と烏は諦めて銃を手にする。 「アークか!?」 フィクサード達はアークの乱入に警戒の色を強める。逆凪と直刃と箱舟。三つ巴の状態に緊張が走る。 それぞれの目的を抱き、二人の王の代理戦争が始まった。 ● リベリスタの戦略は―― 「あらあら。いきなり半分ほどお帰りになられたみたいですけど」 血塗れのスコップを手にしながら頬に手を当てて、影崎が言う。アリステア、七海、陽子、伊吹、銀次の五人が戦線を離脱する。残った悠里、烏、凜子が逆凪に合流し戦力に加わる。 「多少不本意ではあるけど、僕達は逆凪の味方をするよ」 悠里は影崎の目の前に立ち、逆凪に告げる。言われた逆凪は怪訝な顔をする。真偽を測りかねるという顔だ。 「信じられないって気持ちはあるかもしれないけど、僕達の戦いぶりを見て判断して欲しい」 「いや、いきなり五人ほど逃げたけどな」 疑惑の言葉を返す逆凪のフィクサード。だが会話の裏で悠里は作戦の概要を思念で告げていた。背後に回りこみ、直刃を挟撃する作戦だと。 「水原君、四凶相手に無事で何よりだ。おじさんこれでも心配したんだぜ?」 烏が水原に問いかけながらアーティファクトのスキャンを続ける。見つけた。数は一個。持っているのは影崎か。 「俺が命を賭ける性格かってーの。危なくなったらすぐトンズラしますぜぃ」 確かに、と嘆息する烏は納得した。そうでなければ神秘界隈で生き残ることは難しいだろう。 直刃全員のスキャンを追えて、烏は村田銃を改良した破界器を手に直刃に向ける。呼吸を止めるほど集中し。引き金を引く。実際は一秒もかかっていない時間の中で、直刃の位置関係を全て把握する。弾丸は雨あられとなり直刃に降り注ぐ。 「私の目の前で簡単に死人を出せると思わない事です」 凜子は戦場の怪我人を確認し、癒しの神秘の準備に入る。怪我人に作戦上敵ではないが、味方とはいいがたい逆凪を入れているのは、彼女の性格所以か。乱戦の中で癒すべき者の視野に入れ、呼吸を整える。 心臓の鼓動。呼吸の回数。慣れ親しんだリズムに乗せて癒しの力を言葉に乗せる。重力から解放されるような柔らかな感覚。それと共に僅かに体が温まり、痛みが和らいでいく。それと共に攻勢に出るリベリスタと逆凪。 「本当に、この界隈のシスターって怖い人が多いよねっ……!」 悠里は影崎に拳を向けながらそんなことを呟いていた。アーク周りでも何人かシスターの知り合いがいる。その顔を思い浮かべ、思わず身震いした。怖い想像を振り払い、拳をしっかり握り締める。 影崎の持つシャベルの攻撃範囲を意識しながら、一歩踏み込んで拳の届く位置まで迫る。それと同時に腕を動かし拳を振るった。徒手空拳によるフットワークの軽さと自在な動き。影崎のスコップが振るわれたときには悠里は既に足を動かして移動している。 「ひどい事言われましたわ。どうしましょう?」 う? のタイミングでスコップを振るい広域攻撃を仕掛ける影崎。悠里はそれを避けるが、本来後衛の烏や凜子は避けきれない。逆凪のフィクサード同様、攻撃を受けて傷ついていく。 「今癒し――」 「お医者さんのお相手は俺ですぜい」 癒しを行使しようとする凜子に、水原が言葉の神秘を投げかける。精神を乱され、回復が遅れてしまう。これは危ないと判断した烏が庇いに入り、何とか戦線崩壊を免れる。 「相変わらず容赦ないね、サーシャのねーさんは。俺様ちゃんも派手好きだけど、破壊って本当に人の目を引くもんだ。どう思う、リベリスタ?」 「こいつ……サーシャを庇ってる!」 影崎と悠里の間に入った七海兄が悠里に語りかけていた。どうやら攻撃のキモである影崎を生かす作戦のようだ。その間にも後衛から回復と射撃が飛んでくる。 「ふむ。十文字君は面制圧担当か」 十文字の動向を気にしていた烏が、彼女の動きを見ながらホッとする。色々彼女から狙われている烏は、不慣れな前衛にいることもあり傷が多い。ここで集中砲火を受ければ倒れ伏すだろう。 リベリスタは逆凪の味方について戦うが、三名では如何ともしがたい。逆凪からの攻撃こそなかったが、味方と認識されていないのも事実だ。リベリスタと連携をとれず、直刃の攻撃の前に一人、また一人と倒れていく逆凪フィクサード。 「流石におじさんにはきついやね」 凜子を庇っていた烏が敵の暴力に耐え切れず運命を燃やす。 地力の差があり、直刃優勢の流れである。 だが、その後ろからリベリスタが迫る。最初に離脱したアリステア、七海、陽子、伊吹、銀次が回り道して現れたのだ。 さあ、反撃の時だ。 ● 「俺ァ城山だ。そんでてめェは剣林なんだろう?」 背後から現れた銀次は十文字に向かって尋ねる。問いかけてはいるが、言葉に殺意が乗っていた。 「城山……ふむ、城山組所縁のものか」 「さてな。問答はいらねェ、ここで素っ首叩き斬ってやる」 無銘の刀を大上段に構え、銀次は十文字に向かって切りかかる。射手としての訓練をつんだ十文字は、回避はあまり得意ではない。迫る銀次の刃を避けることができず、血飛沫が舞う。 「タイマンなら回転大蛇の舞といく所だったがなぁ」 派手に刀を振り甘し、周りにいる仲間を傷つけるわけには行かない。銀次は再度刀を構え、十文字に迫る。 「姫さん久しぶり。今日も思う存分やり合おうぜ!」 「千客万来だな」 陽子の突撃に手招きをするように手首を動かす十文字。その心意気やよしとばかりに陽子は大鎌を振るう。ゆらり、と足を不規則に動かし相手の認識を狂わせる。五人に分身したかのような動きに見せながら、間合に踏み込んだ。 大鎌の重量に振り回されないように体を回転させながら鎌を振るう陽子。当たるか当たらないかは運次第。コインは互いの生命だ。陽子は命をかけた戦いの最中でも、ギャンブルに狂っていた。大勝ちか、大外しか。 「そっちは任せたぞ」 伊吹は十文字を攻める二人を横目で見ながら、七海妹のほうに目を向けていた。まずは回復役を叩く。白の腕輪を外し、両手に構える。怯えるようにこちらを見る少女の周りには、魔術で生んだ魔力盾が浮かんでいる。回復量ではなく、継戦能力を高めたメイガス。 伊吹は魔力盾の動きを見ながら、その隙を覗っていた。相手の目線、足の動き、手の動き、体の向き。全ての情報を加味し、知識と経験を総動員する。ここか、ときっかけを見出し腕輪を投擲する。盾と盾の隙間を縫い、腕輪は七海の腹部に命中する。 「アーク桐月院七海です! そこの二人は特に宜しゅう」 軽く手を上げて七海が、直刃の七海兄妹に挨拶する。このまま歓談と生きたいが、状況が許さない。邂逅の機会は今回限りではないだろうとふんで、今は戦場を治めることに集中する。 指に挟んだ弓に魔力を込める。強く強く。魔力が生んだ柔らかな白光が、稲妻のような激しい光に変わっていく。弓に番えた矢は相手の頭上に向かって飛び、無数に分かれて降り注ぐ。その一撃、正に落雷の如く。 「犠牲になっていい命なんて、ないから」 アリステアは目の前に広がる惨状に心を痛めながら、それでもと祈るように両手を合わせる。それは神秘を行使するポーズであると同時に、文字通りの意味で祈りを捧げていた。もう誰も死なせたくない。そのために。 深く意識を沈め、呼吸を整える。心に浮かべるのは清らかな鐘の音。教会の鐘が左右に揺れ、高らかな音が響く風景。心の鐘が響くたびに、アリステアの魔力が高まっていく。意識を現実に戻し、回復の魔力を解き放った。リベリスタと逆凪フィクサードの傷が癒えていく。 五人の挟撃により、戦いの流れは一変する。それに伴い、直刃も動いた。 「全員転進!」 「仕方ありませんわね。聖四郎様のために奉公致しますわ」 影崎とシャベルを除く直刃メンバーが全て後衛に下がったのだ。影崎を殿にして退路を確保しに回った形だ。 「カカッ! 水原もやってきたか。まとめて始末してやるぜ!」 「仕方ねぇなぁ。忠狼の相手するか」 銀次と陽子が十文字の側にやってきた水原を相手すべく破界器を構える。水原と十文字は視線を合わせ、銀次に火力を集中する。 「妹を守りに来たか……何?」 そして七海妹を攻撃していた伊吹は、七海兄が妹に近づくことなく真っ直ぐに七海とアリステアを狙ってくることに気付く。 (見捨てた? ……ちがう、妹の回避力を信じて囮にしたのか) 伊吹は七海兄妹の策を看破する。確かにアリステアと七海を落とされれば戦力的に痛い。伊吹は回復役のアリステアを守りに入る。 直刃の作戦は強襲後即撤退だ。そのための第一義は退路の確保。リベリスタが背後を断つのなら、戦力を過剰に割いてでも後衛に火力を持っていく。 影崎は足止め用に用意した空飛ぶスコップを巻き込みながら、広域に打撃を続ける。リベリスタと逆凪を出来るだけ巻き込みながら、多くの命を奪おうとする。 リベリスタの目的からすれば間の悪いことに、 「直刃からの襲撃だと聞いていたが……アークとはな。両方とも生かして返さんぞ!」 「え……? 新しい逆凪フィクサード!?」 「そうか。この人たちは説明していないから、事情を理解していないんだ!」 新たに戦場にやってきた逆凪フィクサードは悠里の説明を聞いていない。戦場にリベリスタと直刃の二勢力がいて自分達の仲間が倒れていれば、頭に血が上ってどちらも攻撃対象に選ぶのは已む無きことだ。 その都度、手を止めて説明するか? だめだ。そのほうが効率が悪い。第一目的は影崎の持つプロスクリプティオ。それを奪う。わざわざ説得していればその間に状況は流れていくだろう。 三勢力の混在する戦いは、混迷を続けていく。 ● 「命燃やしてこそのケンカだろうが……!」 「まだまだ終わらないぜ!」 水原と十文字を相手している銀次と陽子が、運命を削る程の傷を受ける。その甲斐もあって、水原にも相応に傷を負わせ、十文字の運命を削っている。 「これはきついね。休ませて貰うよ」 「確かにきつい……!」 立て続けに放たれる影崎のシャベルに耐え切れず、凜子を庇っていた烏が膝を突いて力尽きる。影崎を押さえていた悠里も運命を燃やす。その影崎は血塗れになりながらも退くことなく暴威を振るっていた。 「中々やりますね。風通しよくしてやろうか?」 「……全く。面倒な相手だ」 「そいつは嬉しいね。箱舟の参加は予定外なんで、観客席に戻ってくれるともっと嬉しいぜ」 七海兄の攻撃を受けて、七海と伊吹も運命を燃やしていた。七海兄はその恨み言を受けて言葉を返す。とはいえその口数はダメージに反比例して減っていた。 「願わくは、誰の命も……」 「慈悲の吐息よ」 リベリスタの傷はアリステアと凜子が癒し、直刃の傷は七海妹が癒す。逆凪のホーリーメイガスは様子見の方向で自分達の仲間しか癒さない。凜子は倒れている逆凪フィクサードを後ろに下げようとし……それを行えば回復が途切れて味方が押されてしまうことに気付く。優先すべきは仲間の命と戦線と割り切って、回復を続けた。 三陣営ともダメージが激しいが、最終的には癒し手の実力が天秤を左右した。癒しきれない傷を受けて、直刃が押され始める。 体力で劣る七海妹が崩れ落ちれば、七海の弓で空飛ぶシャベルが一気に駆逐される。銀次の刀で十文字が倒れれば直刃の火力が減衰し、突破力を失う。 「ケッ……ここまでか。まぁいい。一人やれたからなぁ……」 「今日は顔見世だ。次会うときは決着をつけてやる」 既に運命を削った銀次と七海が力尽きるが、趨勢はほぼ決した。 「悪いけど聖四郎にアザーバイドを召喚させるわけには行かないんだ」 悠里が影崎に迫る。逆凪も直刃もフィクサードだが、今は直刃を止めなくてはいけない。ここで影崎の持つアーティファクトを回収し、惨劇を止めるのだ。決意を込めて拳を握り、恐怖を克服して一歩踏み出す。 「僕が悲劇の境界線だ。これ以上、泣く人を生み出さない!」 おのれの信念と共に繰り出された拳。その一撃が、命を喰らう宝石持つ聖女の意識を刈り取った。 ● 「…………」 アリステアは助ける事の出来なかった逆凪フィクサードを前に、静かに祈りを捧げていた。俯きかけの表情からは、その感情は読み取れない。 「すこし散開しすぎたかな。いや、仕方なきことか」 頭を振って烏が身を起こす。リベリスタの怪我人の多さにぼそりと呟いた。プロスクリプティオの持ち主が不明である為、自然と直刃全員を満遍なく叩くような作戦になってしまった。 凜子は影崎のに首にかかっているプロスクリプティオを回収する。 「水原、そなたらには借りがある」 「逃がしたらまたやりあえるチャンスがあるだろ」 退路を断っていた伊吹と陽子が道を開ける様に直刃の退路を開放する。アークとしての目的は達した。これ以上の疲弊は意味がない。下手に戦いを続ければ、折角回収したプロスクリプティオを奪い返されかねない。これ幸いと倒れている仲間を抱えて離脱する直刃。 「ツンドラさんに菫ちゃん。二人共、直刃が壊滅したらうちに来ない? 新しい組織を立ち上げる予定でね。世界中を回るから、世界中の強敵と戦えるよ」 その背中に悠里が語りかける。戦闘狂の二人ならいい人材か、とスカウトをかけた。 「まー、その時生きてりゃ考えますぜぃ」 YESともNOとも取れる返答と共に、直刃フィクサードは姿を消した。 残されたのはリベリスタと逆凪フィクサード。その中には主にサーシャが命を奪った三十八名のフィクサードの死体も含まれている。 「何故奴等を逃がした!? ……いや、言うな。言えばきっとお前たちを許せなくなる」 生き残った逆凪フィクサードは直刃を逃がしたアークの所業に怒りを感じていた。逆凪からすれば直刃は仲間を殺した裏切り者で、その逃亡を認めた理由を聞けば激昂しかねない。 そしてそれを行うつもりはなかった。思惑こそあれど、アークがこちらを助けてくれたのは事実なのだから。 逆凪フィクサードは怒りを押さえ込んで背を向ける。今去るなら追わない。暗にそう告げていた。 「行きましょう。今は何を言っても聞いてはくれません」 凜子が撤退するように皆を促す。仲間を失う辛さはリベリスタも経験している。今は時間が必要だ。 リベリスタも時間に猶予があるわけではない。今は直刃を、そして聖四郎を止めなくては。 アーティファクトを通じて、三十八の命が力となって聖四郎の元に送られる。それは逆凪の戦力を削いだことと、アザーバイド召喚の力が手に入ったことを意味する。 だが、それ以上の力は流れてこない。アークに宝石と機会を奪われたからだ。このことが戦いにどう影響するか。それはまだわからない。 王達の代理戦争はここに幕を閉じる。舞台は、凪聖四郎の待つ街に―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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