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<蛇のアポリア>Desire Of Warmonger


 周囲からの奇異の視線を受けながら、『直刃』に雇われたフィクサード、ベレンジャーは思う。この国は平和だ、と。ここ数年、神秘の災害の渦中にありながらも隠蔽工作の甲斐あって、世界の真実を知る者は決して多くない。多くのものは、起きた事件をテレビの向こう側にある遠い国のものと考えているのだ。
 それを笑うつもりは無い。むしろ、異常なのは自分の方なのだ。革醒によって、自分達はこの世界のものではいられなくなってしまった存在なのだから。
 ベレンジャーは戦争の中で革醒してフィクサードとなった。そして、その後も戦争の中を潜り抜けてきたことは全身の傷が示す通り。数年前まではこの国に来ることなど想像もしなかった。
「世界征服、か」
 そんなベレンジャーがこの国に来たのは、今から始まる『戦争』のためだ。そして、もう1つは凪聖四郎という男に興味を覚えたからだ。
 まだ会って間もないが、彼は極めて貪欲だと感じた。貴公子のような甘いマスクの下には、何物をも食い尽くそうという野心が渦巻いている。強い欲望と制御する理性を持つ彼は、まさしくフィクサードの名を持つのにふさわしい。
 人を護るために戦うのがリベリスタ、己の欲望のために戦うのがフィクサードと人は言う。
 ならば畢竟、全ての人間はフィクサードたり得る。
 その中でも極めて強い欲望を持つのが聖四郎だった。だから、ベレンジャーは聖四郎の依頼(オファー)を受けることにした。人の世で生きることが出来なくなった自分には、フィクサードが作る世界の方がよほど居心地が良いと思ったからだ。
「おい、旦那。そろそろ始めようぜ」
 ベレンジャーに剣呑な雰囲気を漂わせた男が話しかけてくる。部下として与えられたメンバーだ。もっとも、互いに名前も知らない。戦場でそんなものが邪魔になる姿を何度も見てきたからだ。
「あぁ、分かった。始めよう」
 簡単に答えるとベレンジャーは首からかけていた宝石を掲げ、事前に聞かされたコマンドワードを口にする。
 すると、巨大な影が首を擡げる。
 先ほどまで平和だった街に巨大な怪物が姿を現したのだ。
 周囲から悲鳴が上がる。部下達も弾かれたように暴れ始める。たちまち、平和だった街は阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。
「そうだ、これが俺の世界だ」
 ベレンジャーは銃の安全装置を外すと、怪物と共に標的を殺そうと歩み始める。
 その口元には愉悦の笑みが浮かんでいた。


 わずかに冷え込みの和らいだ1月のある日リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。場にははっきりとした緊張が漂っている。そして、それらの顔を見渡すと、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。
「あんた達を厄介ごとを紹介するのは慣れていたつもりなんだけどな。こうも続くと、なんともな。あぁ、今日も結構な大仕事になる。凪聖四郎の名前は知っているか?」
 守生の言葉に、何人かのリベリスタが頷いた。
 凪聖四郎はここ数年の神秘界隈において、少なからぬ影響を見せるキーマンの1人である。
 現在、国内においては『裏野部』の離反を始めとした七派システムの形骸化は国内の神秘勢力バランスを崩し続けている。七派の舵取りを行うべき『逆凪』は内部抗争という『兄弟喧嘩』に悩まされていた。
 逆凪派首領、逆凪黒覇には二人の弟が居る。逆凪邪鬼と異母兄弟の凪聖四郎。
 分家筋に養子として出された聖四郎は玩具として『直刃』という逆凪派に属する派閥を与えられていた。
 その『直刃』が最近になって急速に力を付けたのだ。野良フィクサードの勧誘、海外の魔術結社との協力体制、アザーバイドの召喚儀式……。『最大手』逆凪の力を生かして戦力を増強し、己の夢の為に前進していく。
 私利私欲に塗れたフィクサードらしい動きに大きな変化が起こったのは恋人である六道紫杏を喪った事が切欠なのだろう。
「元々野心家だったのは間違いないだろうが、以前の戦いの中で吹っ切れた、って所なのか。ともあれ、いよいよそいつが動き出した訳だ」
 凪聖四郎の目的は世界征服。この日本のみならず、世界をも手に入れる事を目論む彼は逆凪を思わす蛇の様な男だ。
 世界征服の為にはこの国のフィクサード組織で最大級の規模を持つ『逆凪』を利用する事が近道となると彼は考えた。『逆凪』とアーク。そのどちらも己の手の内へと収める事こそが目的達成に必要不可欠となる。
 聖四郎が考案したのは『逆凪黒覇暗殺計画』。同時にアークの戦力の減少を狙った二面作戦を決行することとなった。
「ま、実際その狙い自体は的確だ。ただ、そのための手段ってのが問題だ」
 聖四郎にとって不必要な要素を排除する事は必要不可欠だ。
 戦力の増加を狙う為に行われる魔術儀式の代償は聖四郎個人ではとても払えない。アザーバイドを呼び出す為に彼がとった行動は『直刃』のフィクサード達からその代償を集めることだ。
 一般人の生命を代償とし、儀式を成功させる事が彼の狙い。より強力な力を持つ革醒者の生命も代償には十分な価値ある物だ。
 同時に行われる逆凪黒覇暗殺はアザーバイドを呼び出す為の十分な要素となる筈だ。
 逆凪黒覇と言う、生まれながらの王と比べ凪聖四郎は貪欲。秩序を持って『逆凪』を管理し続ける黒覇の手から聖四郎へと渡った時、更なる戦禍が訪れる事は避けられないだろう。
「どっちがマシかって話でもあるんだが……なんにせよ、この場をどうにかしなきゃいけないのは間違いない。正直、『直刃』に手段を選ぶつもりは無いみたいだからな」
 そう言って、守生は機器を操作するとスクリーンに地図が表示される。場所はどうやら名古屋市の繁華街の様だ。『直刃』は都市部を戦場に変えるつもりなのだ。
「この場にいる連中は、街中を儀式場にするつもりだ。そうすることで、より効率良くリソース……人の命を集められるからな。もちろん、俺らを引き付ける意味もあるんだろ」
 吐き捨てるような口調の守生。
 フィクサードの指揮官は『proscriptio』というアーティファクトの着用を義務付けられている。このアーティファクトは所有者の半径10m範囲で死亡者が出た場合、その力を吸収することが出来る。そして、聖四郎の所有する『Damnatio Memoriae』へとその力は発信され、アザーバイド召喚儀式の代償として使用されるのだ。
「フィクサードの指揮官はベレンジャーというクリミナルスタア。海外ではそこそこに名の知られた傭兵だ。『直刃』は戦力の蒐集に分別が無いってことだな」
 ベレンジャーはアメリカ軍出身のフィクサードだ。4~50年程前に戦争の最中で革醒を果たしたらしい。しかしその後、戦場の記憶が強過ぎて一般社会への復帰を行うことが出来なくなってしまったのだという。そして、不死とも言える戦闘力を以って神秘の傭兵となったのだ。
 心を戦いに囚われた戦争屋(ウォーモンガー)にとっては、この戦場が何処であるのかも、自身の命が儀式の代償になる可能性も些細な問題なのだろう。
「こいつも召喚されたアザーバイドを使役している。召喚者と同じでまた、派手な性質の奴だ……まったく」
 守生が画面を切り替えると、そこには肉食恐竜を思わせる巨大な怪物の姿が映し出された。奇怪なことにその下半身は、キャタピラに置き換わっている。また、全身からは戦車砲を思わせる砲塔が生えていた。恐らくはそうしたリンクチャンネルから呼び出されたのだろう。
 巨躯に見合った物理戦闘力を持っていることは想像に難くない。
 これらの敵は容赦なく一般人を狙い撃つことだろう。フィクサード達にとってリベリスタ達を撃退すれば目的は達成される。しかし、リベリスタ達がフィクサードをただ倒しても目的は達成されない。アークと何度も敵対してきた聖四郎なればこそ、といった所か。
 それでも、リベリスタ達に逃げ道は無い。
「説明はこんな所だ、詳しいことは資料にある」
 説明を終えた守生の顔は険しい。状況は決して有利とは言えないからだ。それでも、いつものようにリベリスタ達を送り出す。
「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:KSK  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年02月15日(日)23:39
皆さん、こんばんは。
天に両手を掲げる、KSK(けー・えす・けー)です。

●目的
 ・一般人の被害を防ぐ
 ・『直刃』戦力及びアザーバイドの撃退

●戦場
 場所は名古屋市内の繁華街です。時間帯は夕方で、多くの一般人が行き交っています。
 そのど真ん中でフィクサード達はアザーバイドを召喚しました。

●直刃
 ・ベレンジャー
 海外から雇われた傭兵でジーニアスのクリミナルスタア。
 迷彩服を着た傷だらけの巨漢。革醒の影響で年齢は30代で止まっています。
 一般的なフィクサードと比べて、実力はかなり勝ります。
 クリミナルスタアRANK3までのスキルを使い、B-SSSや絶対絞首を得意とします。
 また、ドラマ値が高いです。

 ・その他
 クロスイージスが4名、射撃型クリミナルスタア2名、ホーリーメイガスが2名います。
 直刃直属のものはおらず、他派残党の混成軍です。
 実力は並みのフィクサードより強いですが、アークのリベリスタと比べるとやや落ちるでしょう。
 RANK3までのスキルを使います。

●アザーバイド
・レギオー
  下半身をキャタピラに置き換えた肉食恐竜の姿をしたアザーバイド。1体います。
  巨大であるためにブロックには4人必要です。
  能力は下記。
  1.弾丸の嵐 物遠域 高ダメージ、1ターンおきにしか使えない
  2.噛み付き 物近域複 失血、崩壊
  3.攻撃態勢 自付 物攻+
  4.防御態勢 自付 物防+


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
フライダークホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
フライダークホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ハイジーニアスアークリベリオン
祭雅・疾風(BNE001656)
ハイジーニアスソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
ナイトバロンアークリベリオン
喜多川・旭(BNE004015)
メタルイヴデュランダル
メリッサ・グランツェ(BNE004834)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)


 突然のことだった。
 日常はいつだって唐突に破られる。
 つい先ほどまで平和な夕方だった街は、一瞬にして阿鼻叫喚の巷に変わった。突然銃声が鳴り響き、閃光が飛び交う。ほんの数年前までだったら、このような事態は様々な手段で防がれたことだろう。だが、今やかつての秩序は消えてしまったのである。
 そしていま、神秘の徒の手に在る銃口が人々の命に狙いを定める、まさにその時だった。
「人殺しよ! 逃げて!!」
 『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の単純にして簡潔な言葉が、人々の意識を現実的な対処に走らせる。少なくとも身の危険は確実なのだ。「人殺し」という分かりやすいイメージを得て、彼らに逃亡という選択肢を取る。
「危ない人が武器振り回してるから、逃げて! 地下街に逃げれば安全だから!
「みんな! 地下街や建物の陰に逃げてー! そこの人! 右に行けば地下街入れるから! 死ぬよ!!」
 あらん限りの声で叫ぶ『天船の娘』水守・せおり(BNE004984)。
 身体に宿した『人魚』という因子の力であろうか。彼女の声はこの混沌の中にあっても朗々と響き渡り、人々を逃げ道へと導く。結果は『人魚』の伝承とは真逆に当たる訳だが。
 幸いなことに、この騒ぎに対して野次馬がやってくることもない。
 いや、普通ならそのように都合の良いことが起きるはずもない。『ファントムアップリカート』須賀・義衛郎(BNE000465)の仕業だ。革醒者なら大抵のものが有する結界の能力だが、この場では些か強力に使わせてもらった。こうすれば、生半なものが入ってくることは無い。
「まだそう経ってないのに、随分と懐かしく感じるな」
 義衛郎が『声』を聞いてアークに来る以前、彼が住んでいたのはこの近辺だ。加えて言うなら、この辺りで買い物をしたことだってある。そんな思い出の場所で好き勝手やられたんじゃ、正直良い気はしない。
 総じて淡白な性質ではあるが、ある程度の情はあるのだ。そうして、静かな怒りを胸に視線を向ける先から武装に身を包んだ男達がやってくる。相手の狙いはアークのリベリスタ達だ。
 それだけではない。その後ろからは、巨大なアザーバイドの姿もある。
 姿を見せた敵の姿に眉根を寄せて、不機嫌そうな顔を作る『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)。普段からそうした表情を作る彼女ではあるが、今日は違う。
「不愉快極まりない敵ですね。その目的も、軍の構成も。人を駒として見ている様で、胸が焼けるようです」
 欧州リベリスタの名門に生まれ、自身に『必要悪』を任じて戦ってきた少女だ。それはすなわち、悪への強い厳しさを持つことを表している。だから許せない。『直刃』の全てが。
「直接お会いした事はないけれど、聖四郎さんってこんな無茶する人だったの? ……もともとそういう考えの人だったと言うだけなのかな」
 『静謐な祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が疑問に持つのも無理は無い。凪聖四郎がフィクサードであり、悪人であることは確かだ。しかし、このような暴挙に及ぶタイプとしては知られていなかった。もちろん、「恋人を喪った」「逆転勝利のために賭けに出た」、等と様々に理屈を付けることは可能だろう。だが今、そのようなことを論じている暇は無い。
「何れにせよ、一般の人を苦しめる人だった……と言うのが現実だよね」
「あぁ、一般人への被害を食い止めなければ行けないな。フィクサードは何時だってそうだ。身勝手な理屈で平和を乱す」
 手元にアクセス・ファンタズムを構えて応える『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)。その瞳は怒りに燃えている。悪党にとって、平和など価値は無い。あくまでも、自分の欲望の方が優先されるのだから。
 そして、疾風はいつだってそんな敵と戦ってきた。
 アリステアは戦場と化した街をキッと睨みつける。場にいるフィクサードの数はフォーチュナから聞いた数と同じだ。小細工を用いないのは大方、この機に乗じてアークへの恨みも纏めて叩きつけたいと思っているといったところか。
 もう1つの理由は、彼らの後ろに控える巨大なアザーバイドの存在だ。アレがあるなら、真正面からの殴り合いに持ち込んだ方が有効なのも道理である。
「お前達がアークだな。これより抹殺する。依頼主の望みのためにな」
「世界征服とか男の浪漫! って言えるのは中学生までだよ」
 アザーバイドを操るフィクサードに対して、その場にいた警官が冗談めかして言葉を返す。いや、警官に返送していた『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)だ。
 経緯はどうあれ、終もまた目の前のフィクサード同様に自身の命に価値を置いていない。だが、選んだ生き方は全く違うものだ。自身の生に価値を付けるため、必死に足掻いて生きている。そんな死にたがりピエロにとっては、フィクサードの生き方からも凪聖四郎の生き方からも光は感じられない。
「王様って言うのは国を治めて人を護る存在だよ」
「そうして、一般人に奉仕する奴隷に成り下がるか」
「違うよ」
 リベリスタ達を見下したように嘲笑するフィクサードを真っ向から否定するのは『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)だ。
「ここはあなただけの世界じゃない。みんなの、ひとりひとりの世界が幾重にも重なってるの」
 旭の言葉は字面だけなら、夢見がちな少女のそれに聞こえる。だが、その一言一句にはフィクサード達を黙らせる重みがこもっていた。
「それを一方的に侵そうとするなら……わたしは、あなたの世界を壊してでも止めるよ」
 そろそろ神秘を隠すための幻視は必要無い。
 旭の身体を覆うように薄い闇が姿を見せる。
 同様に隠していた翼を解放しながら、シエルは思う。
(戦争屋ですか……少し理解できるかも。癒す事にしか己が存在価値を見いだせなかった私だから)
 自分と同じように戦うことにしか価値を見出せないからこそ、あのフィクサードは『直刃』に魅かれてしまったのだろう。だが、自分は違う。今の自分は癒すだけの自分ではない。帰るべき家を持っているのだ。
「故に……負けませぬ」
 シエルの言葉に呼応するように、疾風とせおりの身を包むように『力』が形を取って行く。
 それは目指す正義の在り方であり、強さの形。
「平和を乱す輩に何かを語る道理は無いぞ。変身ッ!」
「自己紹介遅れました! アークリベリオン乙女の青くて守る方、水守せおりですっ!」
 そして、せおりはこれが挨拶だと言わんばかりに、意志の弾丸を解き放った。


 『直刃』の取った戦術は、神秘界隈の悪党と言えど「やり過ぎ」なものだ。その中で犠牲を0にしようというのは、土台無理な注文である。それでも、リベリスタ達は諦めずに人々を護る。死んだものを救うことは出来ずとも、生きている者を助けることは出来るのだから。
 旭の言葉は人々の信頼を得たし、義衛郎の力によって被害の拡大を防ぐことも出来ている。
 だが、そんなリベリスタ達の奮闘を嘲笑うかのように、アザーバイドが砲撃を開始する。
「やれやれ、恐竜に戦車か。昔、テレビでも似たようなのを見たが、厄介そうだ」
 疾風はアザーバイドの姿に苦笑を浮かべると、言葉とは裏腹に臆す事無くアザーバイドに肉薄していく。これを侵攻させたら全てが台無しになる。
 相手は巨大であり、並みの革醒者であってもその動きを止めることは出来ないサイズだ。しかし、今の疾風は「正義のヒーロー」そのものである。変幻自在の攻撃でアザーバイドを翻弄し、隙を突いて必殺の一撃を叩き込む。
 追随するように、メリッサが細剣からの烈風でアザーバイドもフィクサードも纏めて動きを捕える。
「既に体勢を整えていようと、私の剣には無関係ですね」
 ニコリともせずに、構え直すと素早く次の攻撃へと移って行く。
 一方で、アザーバイドと戦う仲間達に目をやり、終はフィクサード達が固まる中へと飛び込んでいった。
 並みの速さの概念で彼を縛ることは出来ない。
 氷の刃を手にしたまま、フィクサードの後背を突いたかと思えば、そこには氷像が立っている。しかも、その数瞬後に終の姿は掻き消えている。
「無関係の一般人さんを躊躇なく巻き込む王様なんて認めないよ!」
 当人の口調は気楽なものだが、フィクサード達にとってはたまったものではない。
 防御に偏ればいずれはじり貧になり、遊撃だけでは守れるものも守れない。リベリスタ達はそのきわどいバランスをすれすれで成り立たせる。
 そして、フィクサード達に痛打を与えたのは意外なことに、『癒し手』の一撃だった。
「馬鹿な、アイツは回復専門って聞いていたぞ!」
「人智を超えし尊き御方……その神聖なる裁きを此処に!」
 毒づくフィクサードを裁きの光が打つ。シエルによるものだ。癒し手として知られてはいるが、彼女の神聖術師としての技量は、魔術全般の素養でもある。つまり、破壊の術を使っても十分な力を発揮し得るということだ。
「盤上に出た以上、カードは効果的に……そうは思いませんか?」
「たしかに、ならばこちらもカードを切らせてもらおうか」
 珍しく艶然とした表情でシエルはフィクサードを挑発する。
 だが、これでやすやすと敗れるフィクサード達でもない。アークの練度が優れているのは、ここ数年の間に世界のあちこちに刻んだ事実。そして、フィクサード達はリベリスタ達を倒すために来ているのだ。

 轟

 束縛から解放されたアザーバイドの砲撃がリベリスタ達を襲う。戦争屋(ウォーモンガー)の心象風景が現実の世界に顕現する。たちまち街が火の海に包まれていく。
 それでも、リベリスタ達は何度でもこのような死線を潜り抜けてきたのだ。戦い抜くという意志と覚悟だけで。
「私はそれを防ぐだけ。許される事じゃないから」
 アリステアの小さな祈りが、『全ての救い』とも称される奇跡を呼び起こす。
 たしかに、アザーバイドの持つ破壊力は圧倒的なものだった。しかし、生と死の狭間を歩んできた少女を打ち砕くことまでは出来ない。これが盤石に力を蓄えた一撃なら、あるいは違った可能性はある。それをさせないのが、アークのみが持ち得る力だ。
「ハッ!」
 せおりが古びた太刀を振るうと、巨大なアザーバイドはフィクサードごと吹き飛ばされる。この攻撃により、アザーバイドは十全の力を封じられていた。もっとも、彼女がこのようにわざわざフィクサードを吹き飛ばしている理由はそれだけではない。
「そう簡単に、そっちの思惑には乗ってやらないよ」
「貴方の従ってるプリンス、貴方の命も利用するつもりみたいだよ。とりあえずこっちに都合が悪いから、言うこと聞いて生きて」
 義衛郎とせおりの言葉にハッとするフィクサード達。状況を鑑みれば、凪聖四郎がフィクサードの命までも勘定に入れている可能性は極めて高い。そこに気付かされ、士気を落とすフィクサード達。
 フィクサード達がアーティファクトの効果範囲に出たのを見るや、義衛郎は雷でフィクサード達を焼く。視界の端に逃げ出すフィクサードの姿が見えたが、それはあえて放置した。一般人を狙っているのでなければ、それは最早戦うにも値しない。元より、任務は過不足なくこなす主義だ。わざわざフィクサードを追撃するのは違うだろう。
 終はあえて峰打ちで相手を狙い、旭も気絶を狙って拳を放つ。
 そして最後に、義衛郎は愛刀より剣気を迸らせると、リーダー格を切り捨てた。
 回復役も倒れ、陣形も乱されたことでフィクサード達の戦力はほぼ瓦解した。これで残すはアザーバイドのみと士気を上げるリベリスタ達。それでもなお、アザーバイドは意気壮健だ。さすがに体勢を崩され続ける不利を悟ったようで、がむしゃらな攻撃を仕掛けてくる。リベリスタ達は集中攻撃を仕掛けようとする。
 その時だった。
「凪聖四郎が我らの命も勘定に入れている? それがどうした」
 リーダー格は立ち上がると、手から伸びる憎悪の鎖でせおりの首を縛り上げると、逆手の銃で仲間の命すら狙う。鬼気と虚無を孕んだ瞳に、並みの者は戦意を奪われることだろう。だが、せおりは違う。
「貴方の過去に何があったかは推測も付くけど関係ない! 歴戦の猛者と打ち合える機会、有難く頂戴するっ!」
 せおりの意志が鎖を砕く。それを見たフィクサードに浮かんだ隙を、旭は見逃さない。
「人の世界を壊す罪……いつかその報いがわたしにも訪れるのかもしれない。それでも、わたしはそうしたいの」
 旭だって一切の罪を犯さずに生きた訳ではない。どんな人間だって、生きるためには何かを奪わずにはいられないのだ。それをフィクサードと同じと言うなら、勝手に言えば良い。
「それが欲望だっていうなら、そうなのかもしれない。それでも、護りたいの!」
 旭の意志の答えるように、手甲が光を帯びる。運命に干渉する力、他者の運命を断ち切る高潔な宿命の一撃がフィクサードの胸を強かに打ち付ける。
 自身の敗北を悟ったフィクサードはせめてもの抵抗にと、周りに転がる他のフィクサードを狙い撃とうとする。しかし、その動きをメリッサは読み切っていた。
「悪党であろうが、人命を代償にはさせません」
 その刃は一瞬の不意を永遠に近い後悔へと変える。その一撃は構え、突くという極めて単調な一撃だ。しかし、メリッサの剣技、その全てである。
「ここに戦争屋の出番はありません。おとなしくしてもらいましょうか」
 初めて無念の表情を浮かべて動きを止めるフィクサードを一瞥すると、メリッサは再びアザーバイドに向き直る。まだ戦いは終わっていない。メリッサは己の望みを叶えるべく、仲間と共に破壊の暴獣に挑みかかるのだった。


 パキン

 旭の手の中で音を立てて、アーティファクトが砕け散る。所有していたのはリーダー格のみであり、それが破壊された以上、この場で凪聖四郎に利する事態が発生することは無い。
 リーダー格が倒れて後、アザーバイドは討伐された。
 周辺の混乱は続くだろうが、これ以上リベリスタ達が関わる必要も無い。終は捕縛したフィクサードを担ぎ上げ、その場を離れようとして場の惨状にため息を漏らした。
「本当に困った兄弟喧嘩だね」
 「たかが兄弟喧嘩」でこれ程の事態を引き起こすのがフィクサードだ。
 その欲望は世界を必要以上に蹂躙し、傷つけて行く。
 リベリスタ達の願いもまた、欲望であるというのなら、戦いは終わらないのかも知れない。それでも、リベリスタ達は希望を信じ、明日もまた戦いに身を投じるのだろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『<蛇のアポリア>Desire Of Warmonger』にご参加いただき、ありがとうございました。
それぞれの願いを持つ戦士達の戦い、如何だったでしょうか?

多少の被害は出ていますが、成功条件の範疇ということで。
フィクサードは1~2人位死ぬと思っていましたが……全員捕縛できました。
お見事。

それでは、今後もご縁がありましたら、よろしくお願いします。
お疲れ様でした!