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<蛇のアポリア>龍貫く拳


 某所、某日。
 とある道場に数人の男達が集まっている。
 一人はスーツを着て、風体は整えてある物の何処か軽薄な雰囲気を携えた青年。
 座する胴着を着た男達を前に姿勢を正し、真っ直ぐ視線を向けていた。

 スーツを着ている逆凪のフィクサード……いや、正しくはそうではない。
 此処に居る瀬戸太一は逆凪のプリンス、凪聖四郎が私兵として抱えている『直刃』のメンバーだ。
 日本の神秘界隈は荒れに荒れている。七派システムは既にその機能を失い、七派と数えられた組織は既に裏野部、剣林が落ちた。
 三尋木は海外へと拠点を移し、黄泉は不気味な程に静かだ。六道は我道を進み、恐山に至っては謀略で場をコントロールする事も難しかろう。
 そして、残る最後の一派、逆凪。
 逆凪黒覇を筆頭に七派の中でも最大勢力を誇っていたと言っても過言ではない組織にも、一つ問題が生じていた。
 分家筋に養子として出された覇王の異母兄弟である凪聖四郎が反旗を翻したのである。
 この数年間で偉大な兄以外の障害が立塞がった事は彼にとって、それは殻を破る為の一つの儀式であったのかも知れない。
 今、此処に来て凪聖四郎と『直刃』は七派の一として数えられても差し支えの無い程に成長を遂げたのだ。
「事情は分かった。ならば早速一つ聞かせて貰おう」
「何なりと」
 太一の目の前に座するのは、元剣林派フィクサードの一門だった人間達。
 アークとの決戦、彼らは参加をせずに蓬莱へと赴かんとする百虎達を見送った。
 その最大の理由は、今太一の目の前に立っている一人の男。
 佐和柳清、この男が病を患っていた事に起因する。
 見た目は30台後半だろうか。
 目付きは鋭く、まるで研ぎ澄まされた刀剣を連想させる……しかし、僅かながらに疲労の様な物が見受けられた。
 体躯は大きいとは言えないが所々に受けている裂傷、擦傷、刀傷といった傷の数がこれまで幾度と無く死線を潜り抜けて来た事をはっきりと証明している。その一方で血色は良いとは言えず寧ろ悪い。
 
 決戦の報が知らされる中、勿論柳清もまた百虎への義理を果たすべく馳せ参じようとした。
 しかし、彼はある理由からそれを行う事が出来なかったのだ。
 それをどれだけ悔やんだ事か、想像に難くない。
 ──この神秘界隈においても治癒の方法が確立されていない病を患ったのは不運としか言わざるを得まい。
 さりとて、生きていくだけの力は柳清には残されている。
 問題は、“全力”を出すだけの力が彼に何時まで残されるかと言う事であった。
「方舟は間違いなく来るか」
「来るだろうな、奴らの万華鏡は脅威だ。それこそ今俺達のこの会話すら見えてるかも知れない──そんな連中だぞ?」
 出来るなら真正面から戦う様な真似は俺も避けたいんだがね、と太一は肩を竦める。
 方舟の名前は既に龍が天に昇るかの様な勢いで神秘界隈へと広まりきっている。
 太一の感想も無理はないと思われた。
 しかし、目の前の男はその言葉に笑みを浮かべる。
(本来であればこの様な真似をせずとも、此方から赴けば方舟は此方の誘いに乗るのだろう。だが……)
 彼らは武闘派で知られる元剣林である。
 しかし柳清の門下には比較的若く、実力も未熟な人間が多い。
 今、自分が死んでしまえば導いてやる者も居なくなる。
 また、門下の人間も柳清を慕っていた。
 彼が参戦すると言えば、彼らもまたこの戦いに参戦する事は明白。
 ──そして、世渡りが決して上手いとは言えない事も共通していた。
「ならば、頼みがある。この戦い、勝利するにせよ、敗北するにせよ──生き長らえた者が居れば連れて行ってやってはくれまいか」
「情って奴か? いや、あんた達なりに解釈すれば義理って奴なのかね。それくらいはお安い御用だが……良いのか」
 後ろに控えていた門下の人間達も僅かに声を上げるが柳清の視線を受けて静まった。
「報酬は払って貰おう、次に……一般人に我々は手を出さん。それが条件だ」
 僅かに太一は考える仕草を見せるが、それは一瞬。
 剣林の戦闘力は七派の中でも随一だ、そして、『直刃』も彼ら以外の戦力が無い訳ではない。
 マイナス所か十分にプラスになる話なのだから。
 それに、万が一彼らが倒れる事になろうともその事すら自分達には有益と言えた。
「解った、その話乗ったぜ。──その力、我ら『直刃』の主の為に借り受けよう、“龍撃拳”佐和柳清」

 その言葉に頷いた柳清は静かにその場から立ち上がり、道場から見える風景に視線を向けた。
「……この道場から、春を眺めるのは最後になるやも知れんな」


“龍撃拳”佐和柳清。
 曰く──その拳は龍をも貫き、撃ち砕く。
 今、その男の拳は神秘界隈の龍として知られる方舟へと向けられる事となった。
  

 緊急の呼び出しを受けて、リベリスタ達はブリーフィングルームへと足を運んでいた。
 そこにはリベリスタ達の到着を待ち、報告書を携えた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が立っている。
「緊急事態、既に聞き及んでいる人も居ると思うけど凪聖四郎が動いた」
 逆凪の名代である黒覇には二人の弟が居るのは知っての通りだろう。
 逆凪邪鬼と異母兄弟の凪聖四郎とは既に何度かアークも交戦を経験済み。
 そして、凪聖四郎が黒覇に対して翻意がある事を仄めかされていた事を知らない人間も少なくない。
「フィクサードの勧誘、海外の魔術結社との協力体制……そして、アザーバイドの召喚儀式。もう『直刃』は以前までの『直刃』じゃない」
 最早その規模は七派の一として数えるに遜色が無いと言えるほどまでに成長してしまった。
 偏に、これは凪聖四郎という人物の才覚が七派の首領にも匹敵する程までに進化を遂げたという事他ならない。
「静岡以外の東海地方がフィクサードやアザーバイド、エリューションに襲われてしまう。たぶん、私達を誘き寄せる為でもあるのだと思う」
 続けてイヴは大きなモニターを操作して、そこに現れた小さな宝石を示した。
「この宝石は?」
「これはアーティファクト、この宝石を持っている対象から半径10m以内の人死にを力に変えて、送信する」
 その力を使って凪聖四郎はアザーバイド召喚儀式を行うのだと言う。
 一般人の死でも代償にはなるが、当然より強力な力を持つ革醒者の生命も代償には十分な価値あると言えよう。
「幾つか案件はあるけれど、皆には一般人の救出。それとフィクサードの撃退をお願いしたい」
 戦いの舞台は公園、現場には未だに一般人が多く残っている。
 足場は不安定ではないが、遊具など障害物となるであろう物が存在する為注意が必要だ。
 そこに逆凪のフィクサードとかつて剣林のフィクサードであった者達が一般人の虐殺を行おうとしている。
「宝石を持っているのは逆凪のフィクサードで、現場の指揮を任されている瀬戸太一。……けれど、この戦場で一番危険なのは彼じゃない」
 そう言いながら資料をリベリスタに続けて配り、説明を続けるイヴ。
「剣林の残党で、一人だけ実力者が居る。“撃龍拳”佐和柳清──理由があって、この間の決戦には参加していなかったみたい。どうやら病に侵されているらしいのだけど……」
 その実力は間違いなく本物だとイヴは言う。
「私達の目的は一般人の救出と、これ以上凪聖四郎に召還の儀式の為の力を送らない事。それを忘れないでね」
 その言葉に頷くリベリスタ。つまり、必ずしも全てのフィクサードを撃破する必要は無いと言う事だ。
 少なくとも、撤退に追いやる事が出来ればこれ以上力を送られる事は阻止出来るだろう。
「厳しい状況になると思う、けれどこれを見過ごせばより大きな被害が何時か必ず出る。私達はそれを止めなければならない」
 皆、気をつけてね。その言葉を聴いて、リベリスタ達はブリーフィングルームを後にした。凪聖四郎、その野望を阻止する為に。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ナガレ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年02月09日(月)22:55
 どうもナガレです。
 二本目が全体依頼と言う事で、緊張しておりますが張り切っていきましょう。
 
 『直刃』と元剣林派残党がお相手いたします。

◆任務達成条件
 瀬戸太一の撃退及び一般人の半数以上の救助。

◆場所
 一般人がまだ沢山残っている公園。
 足場などの不具合はありませんが、遊具などの障害物が存在する為注意が必要です。
 まだ暗くなっていない為、明かりなどの心配は必要ありません。

◆状況
 一般人とフィクサードが公園の北、東、西、南に散らばっています。
 リベリスタ達が公園に辿り着いた際、瀬戸太一と佐和柳清は公園の中央に存在します。

◆敵
・瀬戸 太一 フライエンジェ/プロアデプト
 20代前半に見えるスーツを着た男。軽薄そうな雰囲気を漂わせている。
 引き際と見れば直ぐに撤退するでしょう。

 鬼謀神算、遂行者、特殊機動所持。
 ランク3までのスキルを活用してきます。
 アーティファクト、proscriptio(プロスクリプティオ)を身体の何処かに所持しています。

・直刃フィクサード×8
 構成はデュランダル×2、ソードミラージュ×2、クロスイージス、マグメイガス、スターサジタリー、ホーリーメイガス

 それぞれ、ランク2までのスキルを活用してきます。
 剣林フィクサードより練度は落ちますが優先的に一般人を殺す役目を担っています。

・“龍撃拳”佐和 柳清 ジーニアス/覇界闘士
 30代後半程度に見える元剣林の実力者。病に侵されており全力で戦う時間には制限あり。
 
 剣魔弐天、アンラックセヴン 、闘神を所持。
 ランク3までのスキルを活用してきます。
 また、下記EXの使用を確認済み。

 EX:龍撃拳 物近範、高威力 [必殺][ロスト120]
 EXP:命の灯火 戦闘時間が長引けば長引くほど能力値にペナルティが付与されます。 

・元剣林フィクサード×4
 構成はデュランダル、ソードミラージュ、ナイトクリーク、ホーリーメイガス

 それぞれ、ランク3までのスキルを活用してきます。
 また、例え後衛職であろうとも一人で戦える程度の実力を持っています。
 一般人を襲う事はしません。

◆救助対象
・一般人×24

 大人が8名、子供が18名。
 それぞれ、北、東、西、南に6名ずつ存在します。
 詳しい配置については不明です。

◆アーティファクト
・proscriptio(プロスクリプティオ):小さな宝石を象ったアーティファクト。六道派の協力により作成された。
 半径10m以内の人死にを力に変えて、送信します。聖四郎の所有する『DamnatioMemoriae』へとその力は発信され、アザーバイド召喚儀式の代償として使用されます。

 以上、ご縁がありますれば宜しくお願いいたします。



参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
アウトサイドナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ギガントフレームクロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ジーニアス覇界闘士
★MVP
ミリー・ゴールド(BNE003737)
ナイトバロンナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
ギガントフレームマグメイガス
シエナ・ローリエ(BNE004839)


 瀬戸太一は公園内に仲間達を配置につかせ、この作戦の結末へと思いを馳せていた。
 これだけ派手に暴れれば方舟の万華鏡が感知するのは間違いないだろう、太一の様な作戦を考えた上で動くフィクサードには天敵と言っても差し支えはない。
「全く……嫌になるね。主の命令じゃなきゃ断ってたぜ、こんな事」
 そんな言葉を吐く太一の隣に、目を伏せ、両の腕を組みながら静かに自身が動くべき時を待つ男が一人。
 “龍撃拳”佐和 柳清、元剣林の実力者である。その愚痴でもあるかの様な言葉を聴いて柳清が口を開いた。
「──ならば、貴様が戦う理由とは一体何だ。我らと違い、只強者と戦うのは良しとはせんのだろう」
 質問が来たのが思いの外嬉しかったのか、軽薄そうな雰囲気を携えた男は笑みを浮かべてそれに返答する。
「現状の逆凪の立場ってのは、必要悪だろう。俺としちゃ、悪役ってのはもう少しヤンチャな方が好みなんだ」
 秩序よりも、自分自身の欲望を優先してこそフィクサードだと彼は言う。
「最も……今の時期に主が動くのは想定外だったんだけどな。抱える神輿が無くなるのを黙って見過ごす馬鹿は居ないだろ?」
 俺にもそれなりの義理を感じる心はあるのさ、と遠くを見る様に空へと視線を動かす。
 そろそろ作戦開始時刻だ、さあ、始めよう。

 方舟と凪聖四郎の決着を着ける為の第一段階を。


 リベリスタ達は、今回の相手の動きを受け。東西南北の4箇所にそれぞれ二人のチームを組む事で対応を行うという選択肢を取っていた。
「この場に居た自分達を恨むんだな、何殺しはしねえよ……ちょいと逃げられなくする為に足の腱を切るだけさ」
 直ぐに済む、と近づくフィクサードに対して恐怖で顔が引き攣りながらも、この子だけは、お願いします、と嘆願する母親と抱きしめられながら嗚咽を続けている子供。
「お願いです、誰か、誰か──助けて……!」
 その言葉を聴いて、一人配置されている元剣林は動かない。
 物思う所はあるのか、眉間には皺が寄り、握る拳は固まっている。
 そんな状況の中、よく通る声がその場へと投げ掛けられる。
「ごきげんうるわしゅう、兄弟喧嘩に一般人を巻き込むなや。フィクサード」
「その人達から離れろ、お前達の欲望にその人達を巻き込むのは俺達が許さない!」
 その場に辿り着いたのは『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004) と『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434) 。
 明らかに怒りが入り混じった事が感じる事が出来る声と、その風貌。
 一般人への配慮の為か、彼らは警備員の服装をしていたが直ぐに分かってしまった。
 フィクサード達は知っている、この自分達の目に前に現れたのは神秘界隈でも有数の実力者だ。
 この場に居る元剣林にしても、恐らく彼らには敵わないだろう。
「……! アンブレイカブル、それに不滅の剣……!」
 一般人から僅かに距離を取り、現れた二人へと警戒を行うフィクサード。
 そんなフィクサードを尻目に、母親と子供を抱き起こして落ち着く様に風斗は声を掛ける。
「この公園は危険です、もう大丈夫。直ぐに離れましょう! 自分が誘導します!」
 周囲にも確かに聞こえる様に風斗は声を張る。
「おい、剣林」
 その場に佇み状況を見守る元剣林を見据えて、一般人を抱えながら風斗は言う。
「後でまとめて相手をしてやる! 虐殺者の片棒担ぎとして死ぬのが望みなのか!」
 その言葉に剣林は返答を返さない。だが、少なくとも目の前の存在は武器を構える事はしなかった。
 それを見て、後ろへと振り返るとフィクサードへと牽制を送っていた夏栖斗が前を向きながら声を掛ける。
「風斗。遅れんなよ!」
「勿論だ、油断するんじゃないぞ! 夏栖斗!」
 一般人を避難誘導しようとする風斗の足を止めようと、直刃のフィクサードが動く。
 しかし、それは目の前の男の放つ圧倒的な威圧感に防がれた。
 不滅にして、永遠幻想。自分に折れる事は許されないのだと試練を課し続け、“正義の味方”を目指し続ける存在が此処に居る。
「僕らにも構ってよ、どうせ聖四郎に力を送るんだったら革醒者のを使うほうが効率的っしょ?」
「冗談キツイぜ、化け物め……!」

 今にも襲われようとしていた小さな子供の前へと躍り出て『桐鳳凰』ツァイン・ウォーレス(BNE001520) は子供に声を掛ける。
「今のうちに逃げろ! お母さん達は大丈夫! 小さい子は一緒に連れてってやれ!」
 そう声を掛けている内に、再度ツァインにフィクサードからの攻撃が行われる。
 しかし、堅牢な防御を誇る彼にとって。
 まだ練度の高い元剣林のフィクサードであれば兎も角、直刃のフィクサードからの攻撃はその剣と盾を使いこなす実力を以ってすれば無傷で押さえ込むすら可能であった。
「残念だったな……そんなうすっぺらい攻撃じゃ、俺には効かないぜ!」
「それと、一人だと思わない方が良いね」
 僅かに遅れてその場へと到着をした『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)もまた、今となっては使われる事も少ないフリントフロック式である銃──少女の残骸を神業とも言える速度で抜き放ち、どの様な原理なのか。
 周囲の木々、遊具を活用し銃弾を跳躍させてフィクサードへを撃ち貫く。
「っ……! くそ、何処から狙って来るのか検討もつかねえ……!」
 銃弾に抉じ開けられた穴から、血が流れ出しフィクサードは痛みに呻く。
「ツァイン、周囲の一般人は、まだ死亡の被害は無いよ」
 アーティファクトの特性を考えれば、近くに死亡者が居なくては効果が無い。
 或いは、身動きを取れなくしてから太一の下へ連れて行く算段だったのかも知れないが……。
「そいつは何よりだ。……こっち片したら相手するからよ、ちぃと待ってくれ!」
 そう声を掛けられた元剣林は、剣へと伸ばしていた手を止める。
「そうね……折角だから試してみたいものね。龍を撃つっていう拳が、わたしの大蛇を砕けるかどうかを」
 これまで沈黙を保っていた元剣林が口を開く。
「……我らが師が、貴様らに負ける事などあろう筈もない」
「ははっ、言うねえ。……そんじゃ、おっ始めようぜ! 直刃!」
 会話は此処までだ、と話を切り上げて直刃へとツァインと涼子は向き直る。
 桐鳳凰と、ならず。その名前を知るフィクサードはこの場をどう切り抜けるかを必死で模索していた。

「構成展開、型式、稚者の煽情――composition」
 出会い頭から放たれる『トライアル・ウィッチ』シエナ・ローリエ(BNE004839) の擬似構成魔術が直刃へと向けられる。
 因子算定に基づく知識から構成されたその術式はアッパーユアハートと同様の効果を持ち、その対象の精神を揺さぶる効果を持っていた。
 攻撃が彼女に集中するが、その攻撃ではシエナを倒すには一歩も二歩も足りはしない。
「はら、近くの人連れて逃げて! ハリィ!」
 その隙を突いて、一般人へと避難する様に声を掛けて。
 まだ動ける者に動けない者を預けて、背中を叩く『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737) 。
 この状況下では、付き添う余裕も生み出す事は中々難しい。
「大丈夫、悪い奴らは私達がブッ飛ばすのだわ!」
 この場に存在する子供も、足が竦んでいたがミリーの威風堂々とした姿勢と言葉に勇気付けられその場を離れていく。
「それとね、そこの剣林!」
 指を指して、そのままの勢いで言葉を放つ。
「ミリー達は箱舟、破界器を止めに来た。コイツらはアンタらのボスが死ぬ方がその辺の一般人より美味しいわけよ」
 分かる? と、ミリーは言葉のマシンガンで畳み掛ける。
「従うだけが義理なのかって聞いてんのよ! ミリーならそういうの超ごめんだけどね」
 矢次早に言われる言葉に元剣林のフィクサードは、全てを聞き終えた後に、苦笑した。
「……確かに、我々とて、あの方の枷になりたいのではない」
 自分自身の生き方が分からないシエナは、その様に思い悩む剣林を興味深そうに見ている。
「学びたいの。生きる意味を。命の使い方を。彼の凛とした覚悟に、触れたい……よ」
 会話の最中、横槍を入れようとする直刃へと、ミリーが焔腕を振りかざす。
 直刃へと炎を巻き上げた拳が直撃、彼らをなぎ払う。
 運命を消費させるには至らないが、それでも十分に効果はあった。
「それじゃ、早く終わらせちゃいましょ」
「そうだね……きっと、あの人も待ってる」
 その命の灯火を、少しずつ揺らしながら。

「ここは危険です。避難を!」
 風斗達と同じく警備員の服装を着込み、怪盗の効果に寄って大人の姿へと変装している『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189) の避難誘導はスムーズに行われていた。
 アクセスファンタズムでの連絡を行いながら、 涼子の千里眼で一般人の位置を特定する作戦は現状上手く働いている。
「おいで、嘲笑ってあげる」
 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963) が口の端を吊り上げて涼やかに笑う。
 君達の様な相手なら、数のハンデくらいがあって丁度良い。 
 そう言わんばかりの嘲笑の意味を込めた神秘の力が宿る挑発がフィクサード達の脳を揺さぶり、精神を掻き乱す。
「こいつらは僕が留めて置くから、そっちは任せたよ。うさぎくん」
「えぇ、心配はしていませんが……お気をつけて」
 目立った外傷は存在しないが、腰が抜けてしまった老人を背負いながら戦場から安全な場所へと送り届けるべくうさぎが動く。
 安全を確認する視界の端に、ロアンと直刃の戦いを見守る剣林が見える。
(全く、何をやっているんですか)
 今回、参戦している剣林に関して物思う事がある者は決して少なくは無い。うさぎもその内の一人だ。
 しかし、今はそれよりも優先すべき事がある。僅かに過ぎった思考を切り替えて、うさぎは公園外へと走り出す。
 それを見届け、自身へと撃ち出された神秘の弾丸を僅かに位置を変えただけで回避してみせたロアンは、まるで影を残すかの様な移動を見せて一気に相手へと近づく。
 銃口を相手に向けながらのその行動は相手にその銃を警戒させるに値するには十分だった──しかし。
「ぐあっ?!」
 繰り出されたのは、逆の手に仕込まれていた暗器のワイヤーだ。
 銃を警戒したフィクサードは反応出来ずに、その腕を縛り上げられる。その状態でロアンは視線を元剣林のフィクサードへも向けて口を開く。
「話をしようか、瀬戸の思う壺だと思うんだけどな。あの宝石の効果って知ってる? ──直刃の雑魚の皆さんもだけど」
 にこり、と人を殺す事もしなさそうな笑みを浮かべてロアンが今回のカラクリを話出そうとした矢先。

「っと、其処までにして貰おうか。ピジョンブラッド、これ以上そいつらを虐める様なら俺達も相手をして貰う事になるぜ?」
 瀬戸太一、そして佐和柳清。この場の直刃達の指揮官にしてアーティファクトproscriptioをもつ存在と元剣林達を束ねる存在が目の前へと現れていた。


「固まっていれば一網打尽、そう考えた俺が甘かったか」
 何処かしら、僅かでも綻びがある編成があればそこを突破口にする心算の太一であったが通信機から伝わって来る情報によると事は上手く運ばなかったらしい。
 ロアンを相手取る太一だったが、その旗色は余り良いとは言えない。直刃のフィクサードも確かにその場には存在していたが、鬼謀神算を持ってすらロアンの実力は自分達には余りある。
「指揮官といっても、この程度じゃ僕は捕まらないよ!」
 太一の決定的な攻撃を、僅かに掠めるだけでそれを回避する実力を見せるロアン。
「すいません、お待たせしました。……とうとう出たみたいですね」
 そして、一般人の避難を終えたうさぎもまた戦陣へと加わる。
 このままでは遠からず、他の位置へと分かれていたリベリスタ達も合流してしまう事だろう。
 何より、リベリスタ達は一般人だけならいざ知らず、フィクサードですら可能な限り不殺で終わらせようとしている。
 そこまで徹底されてしまえば、proscriptioで力を集める事も難しい。
 流石にその劣勢を見て、柳清も組んでいた腕を解いて戦闘へと参加する意思を見せようとしたその時、未だ立っていた直刃の一人の意識を死の爆弾で刈り取ったうさぎが口を開く。
「人の喧嘩への相乗り何ぞで死なんで下さい。つまらんですよ」
 何処か苛立ちの様な物を感じさせる言葉を受け取った柳清の動きが止まる。
「……何?」
 眉根を寄せ、その真意を問う様にうさぎの言葉の先を促す。
「自分に集った生徒を放り出して人任せとか、長として駄目でしょ」
 生きるべきだ、それが義務の筈だから。
 自分一人の命ではないと認識しているのであれば、なおさら。
「てか、だから蓬莱に行かんかったんだろうが! 今更ブレてんじゃねえ!」
 無表情な顔から発されたむしろ激情に近いと言ってもいい言葉に柳清は目を瞬く。
「……驚いたな、『夜翔け鳩』。方舟の万華鏡はそこまで見抜くのか」
 うさぎの言葉に、背後へと控えていた柳清の弟子が何かを言おうとするが、それを黙って柳清は手で制す。
「確かに、貴様の言う通りかも知れん。俺は……自分の命が尽きるのを恐れ、その責任を放棄しようとしたのだろう」
 だが、と柳清は言葉を繋げて行く。
「この命を以ってして、我が弟子に伝えられる事もある」
 言って、柳清は止めていた拳を再度構えようとしたその時──周辺の直刃を倒し、連絡を受け取っていたリベリスタ達も姿を現した。

「……悪い夢でも見てる気分だな」
 既に身体が幾分か傷ついている太一には目の前の光景はまるで悪夢の様に映った。
 それもその筈だろう、何せ直刃のフィクサードは既に倒されてしまっている。
 その上でなお、リベリスタ達の損害は軽微と言っても良いのだから。
「そんなに世界を自分達の物にしたいのかよ」
 馬鹿馬鹿しいにも程がある、と夏栖斗が口を開く。
「失わない為に、失わせない為に──瀬戸太一、お前を倒す!」
 白銀の刀身に輝く紅い光がその言葉と同時に輝きを増す。
 神すらも喰らう不滅の剣、その威力は想像に難くない。
「これでチェックメイトだね、太一くん」
 傷は負ってはいるが、まだまだ戦えるであろうロアンの言う通り、瀬戸太一は此処で倒される。
 何処で間違ったのか、と問われればそもそも最初からして間違っていたのだろう。
 彼は戦場に参戦せずに、そのまま逃げるべきだった。
 ロアンの構えた仕掛け暗器が太一を身動き出来ぬ様にと、突き刺さりその血肉を貪る。
 さらに彼を地面に叩き伏せるのは風斗の心が具現したこの世で彼しか扱う事が出来ないたった一つの特別。
 『失わせないこと』こそが戦う理由だと言う彼の矜持は、その場に残る最後の直刃を叩き折った。
 倒れた太一の懐から小さな宝石の様な物を探り当てた夏栖斗はそれを握り締める。
「これで、終わりだよ」
 宝石は小さな音を立てて砕け散り、任務の成功は相成った。


 太一が倒れた一方で、戦いを止めていた剣林も柳清の下へと集い、既に戦いは始まっていた。
「本当はすぐにアンタとやりあいたかったんだがよ…お互いままならねぇよなぁ!」
「ぶっそうな名前のついた強い拳士も、病には勝てないのね。けれど……これで漸く試せる」
 ツァインと同時に涼子が柳清へと攻撃を仕掛けていく、柳清はその攻撃の精密さに笑みを零す。
 黒いオーラを纏い、神話に登場する怪物を模したその攻撃を拳で迎撃し、拳で足りぬ物は足で迎撃する。
 最高の神秘を携えた十字の剣戟が腕へとへと炸裂するが、それがどうしたのだと前に踏み込む。
 開戦する前の、弟子の生き方を好きにさせてやれ。
 自分の背中を見て来た人間達を信じてやれ、という目の前の青年の言葉が耳に痛かった。
 なればこそ、今此処で自分の出せる全てを出さねばならぬ。
「ねぇ……教えて? 貴方の矜持を。生き様を」
 続け様に目の前に繰り出されるあらゆる神秘を貫く拳を、避けるのが惜しいとばかりに受けて見せた。
 短い間しか続かない最高の戦いを終わらせてしまうのが惜しいと動きで返す。
 先程、己に生きろと言ったリベリスタの見事としか言えぬ致命の一撃を受けて僅かにふらつく。
 自分の身体の一部が、何処か欠けた様な感覚がするがきっと気のせいだろう。
「アンタを殺しに此処に来た」
 耳の奥がざあざあと鳴っている、少女の言葉は唇の動きで察して笑い返した。
 只一人、お前を殺すと言ってのけた少女から発せられるのは、まさしく龍が如き戦意と殺意。
 呪術的な力で生み出された炎の龍は顎を大きく広げ、柳清を飲み込んだ。
 武人らしく、戦いで散れと言わんばかりの業炎は地面を焼き、周囲の温度を激しく上昇させる。
 
 ──その中で、炎が消え、煙が消えて尚その中に一人佇む男。
 皮膚は焼かれ、既にその身体は満身創痍。されど、拳を下ろさず。
「礼を言う──それ以上は望むべくもない」
 喉が焼かれなかった事が幸運だったと、感謝を述べる。
 ならば、自分に真正面から向き合って来た相手に、自身の最高の技で返すとしよう。

 生き様を教えろと言われるならば、彼にはこれしかない。
 全て、この拳だけで生きていた。
 
 内功ではなく、外功へ。自らが練り上げた気の力をたった一本の腕に集中し、龍すらも撃ち砕く拳を練り上げる。
 腕からは血が噴出し、一回りも二回りも巨大化している。それこそが、龍撃拳。
 その拳が今、彼の目の前に立つ恩人達へと振り下ろされた──

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 依頼、お疲れ様でした。
 太一、佐和は死亡、元剣林達は彼の遺体を預かり去って行きました。
 弟子達に己の死を以って教えた事は皆様のご想像にお任せします。
 MVPは明確に殺す覚悟を持って佐和に応えたあなたに。
 
 また、一部の方は名声がおまけされとります。
 
 今後も激しい戦いが続くと思いますが、どうかお気をつけ下さい。
 それでは、またご縁がありますれば。

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称号付与!
『無色の魔女』シエナ・ローリエ(BNE004839)