● 緑がかった青みを帯びた光に満たされた部屋に、魚影が泳いでいる。 水で満たされている訳でもないのに、ゆらゆらと。 泳いでいるのは影だけだ。 それも幼い子供程度の大きさをした、鋭い牙を持つ影。 映像ではない、確かな質量を持ちながらそれは影に過ぎなかった。 奥で、ちかちかとカラフルな光が瞬いている。 スコアを示す数字、ゲームの名前が描かれたプラスチックボードが点滅しながら瞬いていた。 後ろから伸びるコードは、何処にも繋がっていないというのに。 気付く人間は、ここにはいない。 死んだように静まり返った部屋の中には、もう動く可能性はほぼ皆無に等しい機械しかない。 それでも機械は、瞬いている。 不協和音で満たされた音楽が、もう来ない客を歓迎するかのように部屋に鳴り響いた。 ● 「……と、まあそんな訳で皆さんにお願いしたいのはこのE・ゴーレムとE・フォースの撃破ですね。人気はなし、ちょっと障害物が多いのが難点ですか」 確認するように資料を赤ペンで叩くフォーチュナ、『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)さんの言葉に一々頷きながら、私は蛍光ペンでマーカーを引いていた。 まるでテスト勉強をしているみたいだ、と思うけれど、それよりももっとドキドキする。 ちらりと顔を上げれば、私と同じように資料に目を落としている人、余裕だというように軽く頷くだけで紙を振って見せる人、或いはもう必要事項は終わったから早く行きたいとでも言うかのように扉に視線を走らせる人、様々だ。 早目に来た人とは軽く自己紹介をしたし、ギロチンさんが来てから名前も呼んでくれたから、大体は分かっているのだけれど……遊びに行く訳じゃないから、余計に緊張する。 どうしよう、困った時は話を聞いてもいいのかな、お喋りしてたら煩いって思われるかな。 そんな風に考える事自体が初めてでぐるぐるするけれど、頭を空っぽにするのは難しそうだ。 と――。 「梨紗さん、大丈夫ですか?」 「ふえっ!?」 気付けばギロチンさんが薄く笑いながら私の前に立っていた。 慌てて顔を上げれば、他の人はもう準備を整えて扉へ向かう所だ。 だ、大丈夫です、と強く頷いて、慌てて鞄を掴んだ。 少しだけ瞬いたけれど、すぐに彼は手を上げてひらひらと軽く振る。 「はい、じゃあ行ってらっしゃい。皆さんどうぞお気を付けて」 その声を背中に、私は初めての依頼へと踏み出した――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月10日(火)23:00 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「え、緊張してる? あはは、それは仕方ないですけど、あんまり気負わないのも大切ですよね。今日の面子は、えーと」 「楠神さんは、そうですそのメッシュの人。ややぶっきらぼうですけど温和な方ですし面倒見もいい。女性にも優しいとの評判ですね。ちょっと突っ込み気味なきらいはありましたけど、それでも難局を切り抜ける腕は十分に持ってる。ええ、間違いなくうちのエースの一人です」 「司馬さんはえーと、実物は公園とかで見かけた事ありますかね。そうそう、青い人。怖く見えますけど結構愉快で真面目な方です。後ご存知と思いますけど速いです。本気の速度を出した司馬さんに追い付く人を探すのって、アーク以外でも相当難儀するでしょうねえ」 ● 初めての依頼を迎えた今、私の心を占めてるのは、恐怖よりも何よりも、『私ものすごく足引っ張りそう……!』ということだ。 「逸見さん、甘いものは好き?」 「は、はい!」 「そう、じゃあ終わったら一緒に紅茶を飲みましょうね。お菓子も作っておいたから」 緊張をほぐすようにそう微笑んだ『白桜』鈴宮・慧架(BNE000666)さんは軽く背中を叩いてくれて、そんな立ち振る舞いもぴんと背筋が伸びていて綺麗なものだから私はちょっと見とれてしまった。 「なあなあ、梨紗ちゃんって言うんだな。俺のこと覚えてる?」 「はい。前にカフェにも来てくれましたよね」 「そそ。でも遂に、こっち側に来ちゃったんだなぁ。なんかびっくりだ」 声に、顔に、ほんの少し私には分からない何かを滲ませて『真夜中の太陽』霧島 俊介(BNE000082)さんがしみじみ息を吐いた。そんなに私は向いていないように見えただろうか……と、ちょっとネガティブな方面に考えそうになって、肩を叩かれて振り返る。 「久しぶりだね、俺の事も覚えてるかい?」 「お久しぶりですエルヴィン先生! 今日は宜しくお願いします」 「今は実習中じゃないから先生じゃなくて構わないよ。緊張してる?」 笑顔の優しい『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)先生が、前に私の学校に来て教えてくれた時みたいに声を掛けてくれたのだ。 迷ったけれど見栄を張っても仕方がない、頷けばエルヴィン先生も頷いた。 「緊張するなっても無理だろうからな。まずは戦場の空気に慣れることを第一に考えていこう」 「はい……!」 親しみやすいけれど、ぐっと引っ張ってくれるその感じは知ってる先生そのままで、一気に強張りが解ける。そうだ、俊介さんだって親指を立てて笑顔を向けてくれた、後ろを向いてる場合じゃない。 深呼吸をする私に、『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)さんが組んでいた腕を解いて面々を見回す。 「先輩の真似をしろ、とは言わない。まずは自分の持つ能力を確認して、何ができるのか、何をするのが有効かを考えてみてくれ」 「私の、出来ること……」 特徴的な大剣を佩いた風斗さんの白のコートには、アークへの貢献を示す勲章が控えめに飾られている。他の人もそうだけれど、戦いの中で積み重ねてきた年月が私とは違うから―― 一人で何でもやってみろ、とは言わないのだろう。 アークの仕事は『仲間と行うもの』だと最初に聞かされた。単独行動を禁止するものではないが、自分の行動が自らに、仲間にどう跳ね返るかだけは考えて行動して欲しい、と。 そういう事を言葉だけじゃなくて、実感で知っている人の言葉だ。きゅっと唇を閉じて頷いた私に、風斗さんも首肯して……。 「あ、だけどわからないことがあったら、そっちの先輩にどんどん聞くんだぞ!」 付け足された台詞に、こっそり聞いた『ああ見えて結構心配性ですからね』という言葉を思い出してちょっと笑い出しそうになってしまった。いけない。 エルヴィン先生と『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)さん、『NonStarter』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)さんは私を待ってくれている。 「……大事なことは、生き残ること。それだけだ」 壁に背をもたれ掛けた鷲祐さんは、鋭い目を細めてそう告げた。細身だけど引き締まった筋肉の付いたその体はアスリートの人みたいで、大人の雰囲気に少し圧倒される。 速度を誇るフィクサードでエリューション、アタランテと幾度も刃を合わせて引けを取らないと報告書で見た。……ちょっと別の話も聞いたけれど、こういう一種の大人の色気とかそんなっぽいのはそういう事から来るんだろうか。本人に聞く訳にもいかないけど。 やや呆けてしまった私に気付いたのか、メイさんがすっと近付いて来た。 「大丈夫だよ……ボクみたいなへっぽこでも、こんな風に生き残ってるんだし。ありきたりの台詞だけど、誰でもみんな最初は新人なんだから」 「へ、へっぽこなんて事ないです!」 私よりだいぶ小さいその姿は、思わずぎゅっとしたいくらいに儚くて可愛らしくて、こんな子が戦いに出るなんて――と心配しそうになってしまうけれど、私が十人いたとして彼女には敵わないと肌でも分かる。 謙遜に思えるそれもどうやら本気の様子だから、彼女が謙虚に力を計っているのに気を引き締めた。多数戦場に出ているメイさんでも驕れないような時がきっとたくさんあるのだ、先輩がいるからってそれに甘えてちゃいけない。 私の覚悟が決まるのを待っていてくれたのか、ぎゅっと拳を握ったタイミングで鷲祐さんが扉に手を掛けた。 「――では、行くとしようか」 「じゃあ、梨紗ちゃんまたあとでな。怖がってもいいし叫んでもいいけど、エルヴィンからは離れるなよ」 「はい!」 開いた扉の向こうは、青に沈んでいて、手を振った俊介さんの赤も、飲み込まれていく。 その奥に影が蠢いて、私は少し、息を詰めた。 ● 「慧架さんは市内でカフェ的な所を営んで……あ、行ったことありますか。華奢に見えますけどアークでも歴戦ですから、あれ間近で見るとカッコいいと思いますよ。落ち着いた方なので、もし前に出るなら動きは多分凄く参考になるんじゃないでしょうか」 「メイさんはご存知です? はい、そうですそうです、最近は異世界の方の案件によく向かってくれてますね。攻撃型のホーリーメイガス、その辺の下手な射手よりも良い目と腕を持ってる。頭もよく回る様子ですし、年よりも大人びた良い子だと思いますよ、ぼく」 ● ふわり、と風が過ぎった気がした。 それが床を蹴った鷲祐さんだと気付いたのは、ピラニアが一体なす術もなく落ちてから。青に沈んだ部屋の中で、更に際立つ美しい青白い雷光を纏った鷲祐さんは、ぱちりと稲妻が弾ける綺麗なナイフを手に振り返った。 「まず狙うのは本体だが――それまでは自分の向き不向きを試して理解してみるんだ。指示はしない、好きにして構わん」 「好きに……!?」 「せっかくフォローしてくれる仲間がこれだけいるんだ。ミスを恐れず思いっきりやってこうぜ」 エルヴィン先生はそう目を細めると、拳を打ち鳴らして前に出て先を見据える。僅かな空気の変化は、術者の人が行うと言っていた魔力の取り込みだろう。 攻撃をする事、守る事、倒れない事……私はどれを選ぶべきなのだろう。 ぐるぐるしている間に、メイさんは片手に本を抱き、もう片手を掲げる。 「少し眩しいよ」 顔の方向から私に向けられたのだろう台詞の意味を問う前に、真っ白に視界が埋められた。 驚いて目を閉じてしまった私が慌てて開けば、強烈な閃光だったのに視界には何の問題もなくて――ただ、光に切り裂かれたように影だった破片が落ちて消える。 私たちから見える範囲のピラニアは、大幅にその数を減じた。 凄い。 さっきとは別の意味で瞬いてしまった私の耳と視界に過ぎるのは、もう片方の班の声と姿。 「よっし、あっちの班より先に多くを壊すぞ、いいな?」 ぴん、と薄い金属を弾くような音と、俊介さんの声の直後に再び白く染まる青の部屋。 「高得点狙い、という訳か、承知したっ!」 溢れる光の奔流に戸惑う様子もなく、応えた風斗さんが振り上げた大剣とコートには先程までは目立たなかった赤いラインが走っていてルビーのような鮮烈な印象を受ける。 その一閃はゲーム機の隙間に隠れていたピラニアの影を空気の刃で切り裂いた。 「まあ、まずは数を減らすとしましょうか」 隣に並んだ慧架さんは綺麗に流れる黒髪を靡かせて――巨大な扇を両手に、まるで舞うかのようにくるりと回る。ひゅう、と空気を切る足が風斗さんと同じように真空の刃を作り出していたのに気付いたのは、髪が彼女の背中で一度跳ねた後。 はっ、と気配に視線を戻せば、鷲祐さんが飛び掛ってきたピラニアの影をかわす所だった。 いけない、余所見なんかしてる場合じゃない。 数は減っているけれど、ピラニアの影はまだ少し残っているし、何より本体が残っていたらどんどん増えると言われたじゃないか。 よく見れば、鷲祐さんの位置は皆より少し前に出た狙われやすい位置。 けれど私の視線に、鷲祐さんはふっと表情を緩めて首を振る。 「大丈夫だ」 そう、きっと、多分、大丈夫。けれどどうしよう、今の私でも、鷲祐さんの隣に並んで攻撃を受ける事は出来るし、全力で走れば本体に攻撃も出来た。 私の逡巡を見て取ったのか、エルヴィン先生が振り返る。 「あ」 エルヴィンから離れるなよ。 俊介さんの言葉が蘇り、思い直す。一人で敵の真っ只中に突っ込むなんて事、それこそ今の私じゃ足を引っ張るだけだ。倒れる事は恥じゃないけれど、倒れないに越した事はないのだとギロチンさんも言っていた。 エルヴィン先生の手が届くように、メイさんからの支援が届くように。 だから、私が狙うのは本体じゃない。 きっと前を向いて、鷲祐さんの横、隠れたピラニアの影に向けて駆け出した。 勢いを乗せた突進は、確かな衝撃と共にピラニアを弾き飛ばす。 私が一撃で倒せなくても、メイさんの視界に入ればきっとあの光で焼いてくれる。 振り返れば、メイさんが小さく頷いた。 「……カッコよく見せようなんて思わなくてもいいからね。妙な見栄とか張っちゃだめだよ」 「はい!」 生き残るのが大事だ、という鷲祐さんの言葉。 さりげなくカバーしてくれるように立った彼に、頬を少し緩めて隣に並んでくれたエルヴィン先生にも頷いて――私はまた、前を見た。 ● 「エルヴィンさん……エルヴィン先生って言った方が分かりやすいかな。多分知ってるままの感じだと思いますよ。回復手が倒れないっていうのは戦場では大事ですからね、その点彼は非常に頼もしいし信頼出来る。今回は危なくなったらまず彼に頼るのがいいかも知れませんね」 「俊介さんは、あ、はいそうそう、こっちは赤い人です。回復させるという気合と能力の高さはうちでも本当に指折りです。ちょっと抱え込み過ぎる感もありますが、彼も面倒見の良い方ですからね、戦場では遠慮なく頼りましょう。相当な傷でも一発で治してくれますから」 ● 「――後へ余裕を作るってのも、先達の仕事かッ!」 難なくピラニアの攻撃をかわしながら本体へと足を進めた鷲祐さんが何をしたのか、私にはやっぱり分からなかった。ただ、銀の光が煌いて、次の瞬間には本体は鋭い断面を晒しながらズタズタになっている。 神速斬断『竜鱗細工』。 他に使い手のいない技を身に付けている人はアークでも多くはない。その一人である鷲祐さんの一撃は、火力や魔力を追及する人と同様に極めた『速さ』。 反撃のように鳴り響いたでたらめな不協和音が鼓膜を潰すような痛みを与えてくるけれど、立ち止まりそうになった私に降り注ぐのはエルヴィン先生の回復だ。 「多少の怪我なら一瞬で治してやるさ!」 「俺もいるから安心しといてな」 向こう側、俊介さんの指先で跳ねる銀色に、さっきの金属の音は100円玉を弾いていた音だと気付く。 「ほら、最後までゲームとして使ってやるから、成仏しな?」 少し寂しそうに微笑んだ俊介さんが呼ぶ光が目を焼く事はないのはもう知っている。 私を見た風斗さんが、こちらへ刃を向けて――え。 瞬いた私の隣、いつの間にか迫っていたピラニアが弾け飛んだ。 「……ちょっと過保護じゃありません?」 「過保護ではない、味方への支援攻撃だ!」 首を傾げた慧架さんに胸を張りながら答えているけれど、視線はやや斜めに向いている。……鷲祐さんもそうだけど、風斗さんは戦闘中も取っ付き難いように見えて凄く気にしてくれていた。 さっき本体へと苛烈な一撃を加えた姿は恐ろしい程だったのに、随所に温かみが見える。 「先を考えると、こういうのは若干スパルタな位がちょうど良いと思うのですよね」 一方、呟く慧架さんは行動の一つ一つに余裕があるのに、叩き込む扇子や脚撃に淀みや躊躇いは一切ない。凛とした佇まいは、武術を嗜むストイックさの表れだろう。 「ある程度は苦労しないとね、本当に危ない時に……困らないように」 各班の集中攻撃でぼろぼろになった二台のピラニアアタックが瀕死の喘ぎのように吐き出したピラニアが泳ぎまわるのに、メイさんはゆるりと首を振って――天を仰いだかと思うと、合わせたかのように影が燃え出す。 神々しささえ覚えるその姿が引き起こした『裁き』の炎に本体の外装が溶け始めた。 美しくも壮絶な光景を目前にすれば、二人の言葉も何も間違っていないのが伝わってくる。 私は守られる為に戦場に出ると決めたのではないのだから、おんぶに抱っこで満足してちゃいけないんだ。 「さあ、好きに戦え。存分に力を使って、その身で覚えるんだ」 「はい――!」 鷲祐さんの声に後押しされて、私は今度こそ本体へと駆け出した。 大丈夫。一人じゃないと、教えて貰ったから。 ● 「まあ結論を言えば、皆新しい仲間に何かと世話を焼きたくて仕方ない面子ですから、存分に胸借りときましょう!」 ● 凄く長かった気もするし、あっという間だった気もする。 青の光が消えた時、息を荒げていたのは私だけだったけれど――それでも傷はほとんどを塞がれて、技を出すのにも不足しない支援を貰い、私はちゃんと、立っていた。 「お疲れさん、よく頑張ったな」 「は、はい……!」 ぽん、と叩いてくれたエルヴィン先生に頷けば、他の人の間にもどこかほっとした空気が広がって少し恥ずかしくなる。ただ、先生はそのまま少し身を屈めて私の目を真っ直ぐに見詰めた。 「こうやって、痛く辛い思いをしながら命がけで戦うのがリベリスタだ。自分には無理だと思ったなら、素直に諦めるのもひとつの手だよ」 「……」 先生は止めるように諭している訳ではない。ただ、事実として今回はメンバーにも敵にも恵まれたけれど、こんな凄い人たちでもどうしようもないくらいの戦場があるのは知っている。恐くなかった訳じゃない。痛くなかった訳じゃない。 「どうだい、やっていけると思うかい?」 それでも、私はエルヴィン先生の問いに頷いていた。 風斗さんがその答えに眉を寄せたから、それには少し縮こまったけど――。 「まあ、自分の身を護れるくらいの力は、持っておいて損は無いか……」 「革醒するのが良い事か悪い事かは分からんけど、梨紗ちゃんが依頼やらで死ぬのはごめんだからな」 後に続いた俊介さんの言葉と、何ともいえない表情に、この二人はそもそも『戦いに身を置き傷付く』人が少ない事を願っているのだと分かって息を呑んだ。 「私、あの、家族皆、アークに助けて貰ったんです」 だから私は、どうしてもアークのリベリスタになりたかった理由を口にする。お父さんはアークの仲間がいたから自分も家族も守れたんだ、と言っていたから。 「恩返しなんて訳じゃないんですけど、私も先輩達の『仲間』になって、少しでも助けたいんです」 今はまだ、足を引っ張るかも知れない。 でも、いつか、この凄い人たちと並んで、その負担を減らせるようになりたいのだ。 そう言えば、彼らは顔を見合わせる。 「……うん。ならば、俺から言う事はもう無いな」 「革醒に先輩も後輩も無いさ。同じ土俵、同じ仲間だ。――新しい仲間を心から歓迎すんよ」 お疲れ様、の労いの言葉に少し泣きそうになった私に、黙ってやり取りを見ていた鷲祐さんが腰に手を当て、顎で外を指し示した。 「よし、これからブートキャンプに向かうッ! いくぞすけしゅん、大声で歌いながら走るぞ、ついてこいッ!!」 大声で叫ばれたその言葉は、雰囲気を和らげる気遣いなのかも知れない。涙を引っ込めた私の横で、俊介さんが瞬いた。 「へっ? えっ俺指定なのっていうか何突然!?」 「逸見も走るか?」 「は、はい!」 「おい聞けよわしすけ、梨紗ちゃんも流されてうっかり頷かないで! 追い付かんから!」 クラウチングスタートの体勢を取った鷲祐さんに駆け寄ろうとした俊介さんだが、あっという間にその距離を引き離されたから私も慌ててその背を追う。 どこかのんびりとした慧架さんの声が後ろから聞こえた。 「お茶の準備をしておきますから、あんまり遅くならないようにしましょうね。メイさんも少し休んで行きます?」 「……うん、しばらく賑やかになるみたいだし、ね」 「近所迷惑にならないようにするんだぞ」 「もう既に少々なっている気もするんだが……まあ、いいか」 呆れたように漏れた溜息は、それでもとても温かいものだったから――多分、きっと、私はやっていけると思う。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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